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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200710119 審決 特許
不服200627219 審決 特許
無効2008800115 審決 特許
不服20056282 審決 特許
不服200422929 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1167305
審判番号 不服2004-17222  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-19 
確定日 2007-11-08 
事件の表示 平成 6年特許願第233422号「腎疾患用低リン含量の大豆蛋白質酵素分解物」拒絶査定不服審判事件〔平成8年4月9日出願公開、特開平8-92123〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は,平成6年9月28日の出願であって,その請求項1に係る発明は,平成16年9月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。)

「大豆蛋白質酵素分解物中の蛋白質1g当りの構成必須アミノ酸が,L-スレオニン:30?46mg,L-チロシン:28?42mg,L-フェニルアラニン:42?62mg,L-シスチン:10?16mg,L-メチオニン:10?14mg,L-バリン:37?55mg,L-イソロイシン:37?55mg,L-ロイシン:62?94mg,L-リジン:50?74mg,L-トリプトファン:11?17mg,L-ヒスチジン:19?29mgの範囲にあり,且つ,総リン含量が0.05%以下で,且つフィチン酸態リン含量が0.004%以下である腎疾患用大豆蛋白質酵素分解物。」

2.引用刊行物の記載事項

これに対して,原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願の日前に頒布されたことが明らかな刊行物(以下,それぞれを「引用文献1」?「引用文献3」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。

引用文献1;特開平4-190797号公報
(1-1)
「実施例1
分離大豆蛋白(不二製油(株)製,フジプロ-R)1kgをpH7の10%水溶液とし,エンドプロテアーゼ(大和化成(株)製,プロチンAC-10)20gを作用させ50℃で5時間加水分解(15%TCA可溶率80%)した後,80℃で30分間加熱して酵素失活させ,クエン酸90g及び酒石酸60gを加えpH4.0に調整し,5000rpmで30分遠心分離して沈殿を除去した。この溶液をA液とする。」(4頁右上欄9行-末行)

「実施例6
実施例1と同様にして得られたA液11kgをアクリル系弱塩基性陰イオン交換樹脂(住友化学工業(株)製,KA-890)420cm3を詰めたカラム(21×1400mm)にLV=9.4m/hr,SV=7.8/hr,20℃の条件で通液し,沈殿生成成分を吸着させ,得られた溶出液をG液とする。G液を凍結乾燥してペプチド混合物820gを得た(ペプチドG)。」(5頁右上欄下から6行-左下欄3行)

「ペプチドA及びペプチドGのミネラル組成を第4表に示す。・・・
ペプチドA ペプチドG
リン 506mg/100g 52.4 mg/100g・・・」
(5頁左下欄5行-右下欄第4表)

(1-2)
「植物性タンパク質をエンドプロテアーゼを用いて酵素分解して得た加水分解物を,酸性水系下で遠心分離して沈殿を除去し,次いで,陰イオン交換樹脂で処理することを特徴とするペプチド混合物の製造法。」
(特許請求の範囲第1項)

(1-3)
「植物性タンパク質としては,特に限定はなく,例えば,大豆タンパク,・・・などを用いることができる。」
(2頁左上欄16行-18行)

(1-4)
「遠心分離によって沈殿を除去した後,陰イオン交換樹脂によって処理を行う。この処理によって,フィチン酸,・・・などを除去でき,保存時の沈殿生成を完全に抑制することができる。・・・ただし,強塩基性樹脂では収率が低下することから,弱塩基性イオン交換樹脂が好ましい。・・・本発明で使用可能な陰イオン交換樹脂としては,具体的には,スミカイオンKA-890・・・などを挙げることができる。」
(2頁左下欄末行-3頁左上欄3行)

(1-5)
「陰イオン交換樹脂による処理方法としては,バッチ式の処理,連続カラムによる処理のいずれでも良い。処理液は,pH6程度以下とすることが好ましく,より好ましくは,pH3?5程度とする。・・・バッチ式で処理する場合には,特に限定的ではないが,例えば,使用する樹脂量を基質乾燥物重量の0.3?3倍重量程度とし,10分?2時間程度攪拌した後,樹脂を濾過除去すればよい。連続カラムにより処理する場合には,例えば,線速度(LV)=1?30m/時間程度,空塔速度(SV)=1?10/時間程度として処理すれば良く,樹脂の保持容量により異なるが,通常,使用する樹脂量に対して,乾燥物重量として0.5?5倍重量程度の基質の処理ができる。」(3頁左上欄4行-右上欄4行)

(1-6)
「上記した方法によって得られたペプチド混合物は,風味が良好で,長期間保存しても沈殿の生成がなく,褐変も少ない消化態タンパク質であり,これを含有する飲料は,激しい運動をする人の吸収の良いタンパク補給用飲料,仕事で疲労した時の回復用の栄養飲料,スリムな体をつくる美容飲料,消化能力の劣えた人のタンパク栄養補給用飲料,アレルギー患者用の栄養補給飲料などの各種の用途に使用し得るものである。」
(3頁右下欄12行-4頁左上欄2行)

引用文献2;特開昭63-148953号公報
(2-1)
「腎臓病の食事療法において蛋白質,ミネラル等の摂取量を病状に応じて制御することが従来より重視されているが,近年さらに腎不全患者の多くに骨異栄養症や高脂血症等の合併症が出現することが明らかになり,これら合併症をも予防,改善しうるような腎臓病食の開発が望まれている。大豆は良質の植物性蛋白質,・・・に富んでいるので抗高脂血症作用を有することが知られている。従って大豆を原料にした豆乳は腎臓病等の病人食に適していると考えられる。しかし,他方大豆は・・・リンを多く含む・・・ので,その意味では腎疾患患者に必ずしも適していない。・・・またリンの摂取量が多いと血中リン濃度が上昇し,骨異栄養症などのカルシウム代謝の異常を起こす可能性がある。・・・大豆中のリン・・・含有量を選択的に低減化した大豆を原料として使用することにより,豆乳をさらに望ましい腎臓病食とすることができる。」(1頁左下欄下から2行-2頁左上欄5行)

(2?2)
「大豆中のリンの約75%はフィチン酸として存在する」
(2頁右下欄3行-4行)

引用文献3;特開平6-70692号公報
(3-1)
「腎臓病患者に対する加工食品として,リン・・・含量を低減させ,かつ蛋白質・・・を豊富に含むものが望まれている。・・・さらに腎臓疾患を有する患者の重要な蛋白質源として,フィチン酸,リン・・・等の灰分を低減化した大豆たん白が期待できることに着目し,・・・かつ低灰分の大豆たん白を配合してなる食品について鋭意検討した。」
(段落【0008】?【0009】)

(3?2)
「大豆中には約0.8?1.0%のリンが含まれており,そのうちおよそ75%がフィチン態リンとして存在しているといわれる。フィチン酸すなわちミオ-イノシトールヘキサリン酸エステルは,細胞外支持物質中に,カルシウム,マグネシウム,鉄,亜鉛のような栄養上重要なミネラル成分とキレート結合して難溶性の化合物を形成するので,生体中でこの種の微量金属の吸収を阻害する。」(段落【0004】)

(3-3)
「大豆たん白中の灰分の低減化もしくは除去方法には,(1) 限外濾過(UF)あるいは逆浸透圧(RO)法,(2) イオン交換樹脂法,(3) 電気透析法,(4) 化学的方法がある。」(段落【0006】)

3.対 比

引用文献1には,「分離大豆蛋白をエンドプロテアーゼを用いて酵素分解して得た加水分解物を,アクリル系弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理して得られるペプチド混合物」(摘記事項(1-1),(1-2))が記載され,陰イオン交換樹脂の処理によって「フィチン酸などを除去でき」(摘記事項(1-4)),リン含量も「506mg/100g」(0.506%)から「52.4 mg/100g」(0.0524%)に低減できること(摘記事項(1-1)),及び当該ペプチド混合物が「消化態タンパク質であり,栄養補給飲料などの各種の用途に使用し得ること」(摘記事項(1-6))が示されている。
以上の記載事項によると,引用文献1には,「大豆蛋白を酵素分解して得た加水分解物を,アクリル系弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理して得られるリン含量0.0524%で,且つフィチン酸が除去された栄養補給用ペプチド混合物」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明(前者)とこの引用発明(後者)を対比すると,両者はともに「大豆蛋白質酵素分解物。」である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
前者が,大豆蛋白質酵素分解物の用途を「腎疾患用」と規定するのに対して,後者が「栄養補給用」と述べるに止まり「腎疾患用」であることを規定していない点

(相違点2)
前者が,「蛋白質1g当りの構成必須アミノ酸」を「L-スレオニン:30?46mg,L-チロシン:28?42mg,L-フェニルアラニン:42?62mg,L-シスチン:10?16mg,L-メチオニン:10?14mg,L-バリン:37?55mg,L-イソロイシン:37?55mg,L-ロイシン:62?94mg,L-リジン:50?74mg,L-トリプトファン:11?17mg,L-ヒスチジン:19?29mgの範囲」と規定するのに対して,後者では,必須アミノ酸の組成及び含有量が特定されていない点

(相違点3)
前者が,総リン含量を「0.05%以下」,フィチン酸態リン含量を「0.004%以下」としているのに対して,後者では,総リン含量が「0.0524%」とされ,フィチン酸態リン含量については「フィチン酸が除去された」と記載されるものの含量については記載がない点

4.判 断

上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
引用文献2には,「大豆は良質の植物性蛋白質、・・・に富んでいるので・・・大豆を原料にした豆乳が腎臓病等の病人食に適していると考えられる」(摘記事項(2-1))こと及び「大豆中のリン・・・含有量を選択的に低減化した大豆を原料として使用することにより,豆乳をさらに望ましい腎臓病食とすることができる」(摘記事項(2-1))ことが記載され,引用文献3にも,「腎臓疾患を有する患者の重要な蛋白質源として,フィチン酸,リン・・・等の灰分を低減化した大豆たん白が期待できる」(摘記事項(3-1))との記載がある(拒絶の理由に引用された特開昭64-30558号公報の特許請求の範囲の1及び3頁右上欄2行-8行並びに本願明細書で引用された特開昭63-267251号公報の2頁左上欄9行-11行にも同趣旨の記載がある。)
このように,本願の出願日前に,良質の植物性蛋白質を持ちリンが低減化された大豆を原料とする食品は,腎臓疾患を有する患者の重要な蛋白質源であると当業者に理解されていたことが認められる。
一方,引用発明の「ペプチド混合物」は,リン含量の約75%を占めるフィチン酸(摘記事項(2-2),(3-2))が除去され,0.0524%という低いリン含量をもつものであり,消化性に優れ各種の栄養補給に供することのできる大豆由来の食品原料である(摘記事項(1-1),(1-2),(1-4),(1-6))。
そうすると,引用発明の「ペプチド混合物」(フィチン酸が除去され,且つリン含量が低減化されている)を,腎疾患用の食品の原料として利用することは,当業者が容易に想到することである。
そして,腎疾患用としたことによる効果も,当業者の予測を超えるものとすることはできない。

(2)相違点2について
本願明細書の実施例1に記載されるとおり,「蛋白質1g当りの構成必須アミノ酸が,L-スレオニン:30?46mg,L-チロシン:28?42mg,L-フェニルアラニン:42?62mg,L-シスチン:10?16mg,L-メチオニン:10?14mg,L-バリン:37?55mg,L-イソロイシン:37?55mg,L-ロイシン:62?94mg,L-リジン:50?74mg,L-トリプトファン:11?17mg,L-ヒスチジン:19?29mgの範囲」をもつ大豆蛋白質酵素分解物は,市販の分離大豆蛋白質(出願人会社製「ニューフジプロ-R」)に蛋白質分解酵素を作用させることで得られるものである(ニューフジプロ-Rが市販品であること及びそれを蛋白質分解酵素で加水分解したものが上記アミノ酸組成及び含有量をもつことは,例えば,特開平3-272694号公報の10頁右上欄実施例1及び11頁右上欄第2表からも明らかである。)。
これに対して,引用文献1においては,「植物性タンパク質としては,特に限定はなく,例えば,大豆タンパク・・・などを用いることができる。」(摘記事項(1-3))と記載され,「市販の分離大豆蛋白質(不二製油(株)製,フジプロ-R)」に限らず,広く植物性タンパク質が利用できるとされているから,本願の出願日前に市販され,「フジブロ-R」と同様の分離大豆蛋白質であることが明らかな「ニューフジプロ-R」を,引用発明の「ペプチド混合物」の原料として採用し,構成アミノ酸組成及びその含量でもって「ペプチド混合物」を特定することは,当業者が格別の困難性を要することなく行い得ることである。
そして,「ニューフジプロ-R」という原料の選択並びに構成アミノ酸の組成及び含量を特定したことにより,格別の効果を奏するとも評価できない。

(3)相違点3について
引用文献2,3には,「リンの摂取量が多いと血中リン濃度が上昇し,骨異栄養症などのカルシウム代謝の異常を起こす可能性がある。」(摘記事項(2-1))こと,「フィチン酸すなわちミオ-イノシトールヘキサリン酸エステルは,細胞外支持物質中に,カルシウム,マグネシウム,鉄,亜鉛のような栄養上重要なミネラル成分とキレート結合して難溶性の化合物を形成するので,生体中でこの種の微量金属の吸収を阻害する。」(摘記事項(3-2))ことが記載され,大豆を原料とする食品を腎疾患用として用いるに際して,「総リン含量」のみならず「フィチン酸態リン含量」を低減させる必要があることが開示されている。
一方、引用文献1では,「陰イオン交換樹脂による処理方法としては,バッチ式の処理,連続カラムによる処理のいずれでも良い。」とされ,「pH」,「樹脂量」,「線速度(LV)」,「空塔速度(SV)」を調整して,所定の「ペプチド混合物」を製造できることが記載されている(いずれも,摘記事項(1-5))。
そうしてみると,引用発明におけるリン及びフィチン酸の除去の程度に関して,陰イオン交換樹脂による精製条件を最適化するとともに,必要に応じてイオン交換樹脂法以外の公知の精製手法(摘記事項(3-3))を併用して,「総リン含量」,「フィチン酸態リン含量」を可能な限り低減させ,カルシウム代謝の異常や微量金属の吸収阻害が生じない程度の「総リン含量」,「フィチン酸態リン含量」,例えば「0.05%以下」,「0.004%以下」に至ることは当業者が容易になし得ることである。
また,本願明細書の記載をみても,「0.05%以下」,「0.004%以下」に臨界的意義があるとは認められない。

5.むすび

したがって,本願発明は,引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-13 
結審通知日 2007-08-21 
審決日 2007-09-25 
出願番号 特願平6-233422
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 福井 悟
穴吹 智子
発明の名称 腎疾患用低リン含量の大豆蛋白質酵素分解物  

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