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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効200680238 | 審決 | 特許 |
無効200680197 | 審決 | 特許 |
無効200680029 | 審決 | 特許 |
無効200680009 | 審決 | 特許 |
無効200680110 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A41C |
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管理番号 | 1167891 |
審判番号 | 無効2006-80240 |
総通号数 | 97 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-01-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2006-11-16 |
確定日 | 2007-10-03 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3797892号発明「ブラジャー用カップ製品及びブラジャー製品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3797892号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.特許出願:平成13年6月20日 2.特許権設定の登録:平成18年4月28日 3.株式会社タケダレース(以下、「請求人」という。)による本件無効審判の請求:平成18年11月16日 4.特許権者:栄レース株式会社(以下、「被請求人」という。)に対する請求書の副本の送達:同年12月8日 5.被請求人による答弁書及び訂正請求書の提出:平成19年2月5日 6.請求人に対する上記5の答弁書副本、訂正請求書副本の送付:同年12月12日 7.口頭審理:平成19年5月25日 なお、口頭審理に先だって、請求人より、口頭審理陳述要領書(1)及び追加の証拠として参考資料1ないし5、及び口頭審理陳述要領書(2)ないし(4)が提出され、被請求人より口頭審理陳述要領書(1)、(2)がそれぞれ提出された。 8.口頭審理における被請求人の陳述に対し、請求人による弁駁書の提出;同年6月8日(6月11日受付」) 9.口頭審理における請求人の陳述及び上記8の弁駁書に対し、被請求人による答弁書(2)の提出:同年6月22日(6月25日受付) 10.請求人による弁駁書(2)の提出:同年7月11日(7月13日受付) 11.被請求人による答弁書(3)の提出:同年7月23日(7月25日受付) 第2 訂正請求による訂正の適否 1.訂正の内容 上記第1、5の訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲における請求項1の記載「・・・前記スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地であるとともに、前記装飾レース部の前記スカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部を備え、前記レース編地が、編み立て上がり状態で一体のレース編地を、型成形により、前記スカラー部を端縁部として立体成形したものであるブラジャー用カップ製品。」を、「・・・前記スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地で、当該レース編地が、編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備えるとともに、前記装飾レース部の前記スカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部を備え、前記レース編地が、編み立て上がり状態で一体のレース編地を、型成形により、前記スカラー部を端縁部として立体成形され、ヒートセットされたものであるブラジャー用カップ製品。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲における請求項3の記載「前記レース編地が、編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備える請求項1又は2記載のブラジャー用カップ製品。」を、「ヒートセットにより立体形状が固定された前記レース編地に、裏打ち部材が一体化されてなり、前記裏打ち部材の端部位置が前記レース編地の立体成形端部位置とされ、当該立体成形端部位置にスカラー部が位置される請求項1又は2記載のブラジャー用カップ製品。」に訂正する。 (3)訂正事項3 発明の詳細な説明における段落【0009】の記載「・・・前記スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地であるとともに、前記装飾レース部の前記スカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部を備え、前記レース編地が、編み立て上がり状態で一体のレース編地を、型成形により、前記スカラー部を端縁部として立体成形したものであることが好ましい。」を、「・・・前記スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地で、当該レース編地が、編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備えるとともに、前記装飾レース部の前記スカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部を備え、前記レース編地が、編み立て上がり状態で一体のレース編地を、型成形により、前記スカラー部を端縁部として立体成形され、ヒートセットされたものである。」に訂正する。 (4)訂正事項4 発明の詳細な説明における段落【0010】の記載「・・・さらに、製造上の手間も少なくなるため、廉価な製品を得ることができる。」を、「・・・さらに、製造上の手間も少なくなるため、廉価な製品を得ることができる。また、従来、ブラジャーのカップに使用するためのレース編物は、特に伸縮性を与えられることなく、所謂、リジッドな編物が利用されてきたが、本願のように、型成形により比較的複雑な立体形状を得る場合にあっては、編地の経、緯方向等に弾性を有する編地を使用することで、レース編地の切断等を伴うことなく立体型成形を行うことが可能となり、さらに、ヒートセットにより、立体形状の固定が完了する。その結果、弛み、破れ等の発生を避けて、カップの製造を行うことができる。」に訂正する。 (5)訂正事項5 発明の詳細な説明における段落【0012】の記載「さらに、請求項3に記載されているように、前記レース編地が、編経方向もしくは編緯方向の何れか一方、もしくはそれら両方向に伸縮性を備えたレース編物であることが好ましい。従来、ブラジャーのカップに使用するためのレース編物は、特に伸縮性を与えられることなく、所謂、リジッドな編物が利用されてきたが、本願のように、型成形により比較的複雑な立体形状を得る場合にあっては、編地の経、緯方向等に弾性を有する編地を使用することで、レース編地の切断等を伴うことなく立体型成形を行うことが可能となり、結果的に、弛み、破れ等の発生を避けて、カップの製造を行うことができる。」を、「さらに、請求項3に記載されているように、ヒートセットにより立体形状が固定された前記レース編地に、裏打ち部材が一体化されてなり、前記裏打ち部材の端部位置が前記レース編地の立体成形端部位置とされ、当該立体成形端部位置にスカラー部が位置されることが好ましい。このようにすることにより、スカラー部が裏打ち部材の端部に位置する状態で、裏打ち部材と立体レース素材とが一体化した立体レース製品を得ることができる。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否 訂正事項1は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1(以下、「原請求項1」等という。)に記載された発明を特定するのに必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「(前記)スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地」について、原請求項3に記載された「編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備える」という限定を付加したものである。 訂正事項2は、上記訂正事項1に対応して、訂正後の請求項1または2における「レース編地」について、「ヒートセットにより立体形状が固定された」ものであり、かつ、「裏打ち部材が一体化され」たものであって、「前記裏打ち部材の端部位置が前記レース編地の立体成形端部位置とされ、当該立体成形端部位置にスカラー部が位置される」という限定を付加して、新たな請求項3とするものである。 これらの訂正は、原請求項1及び3のいずれからみても、その発明特定事項に限定を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができる。 そして、訂正事項3及び4は、訂正事項1の訂正に伴い生じる発明の詳細な説明中の不合理な記載を整合させるものであり、また、訂正事項5は訂正事項2の訂正に伴い生じる発明の詳細な説明中の不合理な記載を整合させるものであるから、訂正事項3ないし5は、それぞれ明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 3.新規事項追加の有無、拡張、変更の存否 訂正事項1ないし5は、願書に添付した明細書の段落【0022】の「編成される面状レース素材1は、よく知られているように、編地を成すウェールに沿って弾性糸(図外)を挿入することで、編地経方向に、さらに弾性が付与されると共に、その緯糸(地組織を構成する緯糸)に弾性糸(図外)を採用することで、編地幅方向においても弾性を付与されている。従って、編地は所謂、ツーウェイとして構成されている。」、同段落【0025】の「本願にあっては、図3を例に採って示すと、この成形時に、スカラー部5を立体成形端部位置(図3にあっては立体成形端部位置がウレタンのカップCaの端部位置に合致するため、実線で示すCaの端部位置が、この立体成形端部位置となる)に配置して、その立体成形を行う。」、同段落【0030】の「このような立体成形装置24へのレース素材の固定の後、モールド成形型23を使用して、素材の立体成形を行うとともに、この形状固定を行う。本願にあっては、糸素材としてナイロン6.6を採用することから、ヒートセットにより、立体形状の固定が完了する。」、同段落【0032】の「一体化工程 上記のようにして得られた部分的に立体突出された複数の部位Mを有する素材5に、別途用意されるウレタン製のカップCaを、それぞれ、装着する。この装着操作にあっては、縫製を行うのが通常である。但し、接着等の操作をおこなっても良い。」、そして、同段落【0033】の「このような一体化工程にあって、レース素材のスカラー部3は、カップ製品Cの端縁部に位置させる。このようにすることにより、スカラー部3が裏打ち部材であるウレタン製のカップCaの端部に位置する状態で、裏打ち部材Caと立体レース素材5が一体化した立体レース製品(ブラジャー用カップ製品の一種)を得ることができる。」等の記載及び願書に添付した図面の記載等からみて、新規事項を追加するものではない。 また、訂正事項1ないし5による訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないことは、以上の検討から明白である。 4.むすび 以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項、同条第5項で準用する同法第126条第3項、第4項のいずれの規定にも適合するので、本件訂正を認める。 第3 本件特許発明 上記のように本件訂正は適法になされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1ないし6」という。)は、上記第1、5の訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、単に「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 乳房を覆うカップの端縁部位にスカラー部を、前記カップの表面に装飾レース部を備えたブラジャー用カップ製品であって、 前記スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地で、当該レース編地が、編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備えるとともに、前記装飾レース部の前記スカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部を備え、前記レース編地が、編み立て上がり状態で一体のレース編地を、型成形により、前記スカラー部を端縁部として立体成形され、ヒートセットされたものであるブラジャー用カップ製品。 【請求項2】 前記レース編地が、カップ膨出中心から、前記カップ膨出中心を巡るカップ周縁部に渡って、前記編み立て上がり状態で一体のレース編地を前記型成形したものである請求項1記載のブラジャー用カップ製品。 【請求項3】 ヒートセットにより立体形状が固定された前記レース編地に、裏打ち部材が一体化されてなり、前記裏打ち部材の端部位置が前記レース編地の立体成形端部位置とされ、当該立体成形端部位置にスカラー部が位置される請求項1又は2記載のブラジャー用カップ製品。 【請求項4】 前記スカラー補強レース部に、通常の装飾レース部より、太い糸が採用されている請求項1又は2記載のブラジャー用カップ製品。 【請求項5】 前記スカラー補強レース部の弾性収縮力が、通常の装飾レース部より強い請求項1又は2記載のブラジャー用カップ製品。 【請求項6】 請求項1?5のいずれか一項記載のブラジャー用カップ製品を使用してなるブラジャー製品。」 第4 請求人の主張 1.請求の趣旨 請求人、上記第1、3の審判請求書において、 「本件特許第3797892号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」 との審決を求め、概略、次のように主張している。 「本件特許発明1ないし6は、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明、及び参考資料1ないし5に示されるような周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1ないし6は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。」 2.証拠方法 請求人は上記主張を立証するため、次の証拠方法を提出している。 (1)甲第1号証:特開昭60-99054号公報 (2)甲第2号証:実願平5-58499号(実開平7-28921号)のCD-ROM (3)甲第3号証:特開昭60-2761号公報 (4)参考資料1:実公昭50-40648号公報 (5)参考資料2:実開昭62-44010号公報 (6)参考資料3:特開平11-12809号公報 (7)参考資料4:特公昭62-50562号公報 (8)参考資料5:実公昭46-12203号公報 なお、甲第1号証ないし甲第3号証は審判請求書において、参考資料1ないし5は平成19年3月30日付けの陳述要領書(1)において提出されたものである。 第5 被請求人の主張 被請求人は、上記第1、5の答弁書において、 「本件請求事件は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」 との審決を求め、各答弁書、口頭審理陳述要領書等を総合すると、概略、次のように主張している。 「本件特許発明1ないし6の目的は、明細書段落【0008】に記載されているように『スカラー部を備えたレースを有するものでありながら、美観及びシルエットにおいて優れ、コストアップを招来しないブラジャー用カップ製品及びブラジャー製品を得ること』、『スカラー部と装飾レース部とが一体に編成されたレース編地を使用して立体成形を行う場合に、いかにしてスカラー部を美しく保ちながら、立体成形を問題なく行う』ことにある。 本件特許発明1ないし6のブラジャー用カップ製品を要約して述べれば、『スカラー部と装飾レース部との間にスカラー補強レース部を備えた一体のレース編地であって、伸縮性を備えたレース編地を、立体成形するに際して、スカラー部を端縁部として立体成形し、その後、ヒートセットされたもの』といえる。 ここで、『スカラー部を端縁部として立体成形する』の意味合いは、明細書段落【0025】における『この成形時に、スカラー部5を立体成形端縁部位置(図3にあっては立体成形端部位置がウレタンのカップCaの端部位置に合致するため、実線で示すCaの端部位置が、この立体成形端部位置となる)に配置して、その立体成形を行う』との記載、並びに図1及び図3の記載に基づいて、『立体成形において、スカラー部を立体成形の端に位置させること』である。 これに対し、甲第1号証及び甲第3号証にあって、レース編地自体が伸縮性を実質的に有しておらず、『スカラー部を一体に編成したレース編地を立体成形して、良好なブラジャー用カップ製品を得る試みは実用化されていない』のである。 甲第2号証には、『スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地』が記載されており、このレース編地は『伸縮パワーの強い領域』と『伸縮パワーの弱い領域』とを備えている。 したがって、このレース編地は、『編地全体に伸縮性を備え、伸縮パワーの強い領域が、スカラー部と伸縮パワーの弱い領域との間』に備えられており、本件特許発明における『スカラー部、スカラー補強レース部、及び装飾レース部の配置関係』にほぼ相当するが、このレース編地は立体成形されることなく、レース編地は、編み立て上がりの平面状のまま適切な形状に裁断されて、ブラジャーのカップの一部を成すように、立体縫製されるものである。 したがって、『伸縮性をそのまま利用しようとする技術(立体裁断、立体縫製を経て製品となった時点(状態)で、伸縮性を利用しようとする技術)』と、『基本的には形状固定を目的とする技術において、レース編地の全体の伸縮性を立体成形を良好に行うのに利用し、さらに、スカラー部の近傍に設けられたスカラー補強レース部を立体成形時に、スカラー部の形状を良好に残すのに利用する技術(レース編地を立体成形装置にかけてからモールド成形型を使用して立体に変形させ、ヒートセットするまでに利用する技術)』とは、その技術的な利用形態が異なるものであり、甲第2号証記載のものを甲第1号証または甲第3号証のものに適用する動機付けはなく、かつ、むしろ阻害要因が存在する。 一方、参考文献1?4に記載の技術は、スカラー部自体が無いか、あるいはあったとしても他の基布で裏打ちされて立体成形されたものであり、本件特許発明におけるスカラー補強レース部について、なんら記載するものではない。 また、本件特許発明3にあっては、裏打ち部材は、【0033】に記載されているようにウレタンカップとされており、レース編地一体化した場合、レース編地の有する伸縮性は「フィット性の向上・着崩れの防止」との関係では全く意味をなさなくなる。レース編地がいくら伸縮性を有していても、その伸縮性は裏打ち部材の存在によって身体側に影響しない。 したがって、ブラジャー端縁部に相応の伸縮性を与えるという構成は、レース編地と裏打ち部材とを一体化した場合、成形時のスカラー部の形状保持を目的としたものとなり、このような認識は甲第3号証及び甲第2号証には一切みられない。 さらに、参考資料5には、スカラー部基準の立体成形をレース編地及びカップの両方に対して行うとする開示はない。 以上より、本件特許1ないし6の各発明は、甲第1号証ないし甲第3号証、並びに参考資料1ないし参考資料5の各証拠に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件特許発明1ないし6は特許法第29条2項に規定する進歩性を欠如する発明ではなく、同法123条第1項第2号の規定に違反するものではない。」 第6 当審の判断 1.甲第3号証発明 甲第3号証には、図面とともに次のように記載されている。 (a)「従来、この種のブラジャーの膨出用表生地として使用されるレース地に対し型成形加工を行うには、製造しようとするブラジャーの膨出部に対応した形状の椀状凸部を下面に設けた上型と、上記凸部の嵌入する凹部を上面に設けた下型との間に上記レース地を配するとともに、上型および下型はその内部に配設した発熱体に通電して所定温度にしておき、この上型と下型でレース地を挟んで加熱しながらその個所を伸張させ、レース地に上型の凸部に相応した椀状の膨出部を熱成形しているものである。」(第2頁右上欄10行?同左下欄2行) (b)「まず素材生地(1)として次のように形成されたものを用いる。すなわち生地部(10)と生地部(10’)が交互に縦列するよう一体に経編編成されており、各生地部(10)、(10’)の相隣る縁部(11)、(11’)である編成部分(I)、(I’)では、各経糸(121)(122)(123)(124)(125)および各経糸(12’1)(12’2)(12’3)(12’4)(125’)が数コースごとに一斉に右隣りの網目列(W)(W’)へ順次移行し、つぎに同じ回数一斉に逆行する編成を繰り返すことによって千鳥状のアトラス編組織を形成するとともに、上記縁部(11)(11’)間の境界には別の経糸(13)が上記アトラス編組織に沿って編成されている。」(第3頁左下欄3?14行) (c)「精錬染色後、上記素材生地(1)に対し次のような型成形加工を施して椀状の膨出部(2)を形成する。すなわち成形型の上型(31)にはその下面に製造しようとするブラジャーの膨出部(10)に対応する椀状の凸部(32)を設けるとともに、上型(31)の内部には通電により発熱する発熱体(図示せず)を配設し、・・・中略・・・これによって素材生地(1)はその押下個所が徐々に伸びることになり、伸張部分には引張力が作用することになる。この場合素材生地(1)は凹部(37)の中央に位置する個所ほど伸張度合が大となるが、その個所である二つの生地部(10)、(10’)はアトラス編組織に形成されるとともに、その縁部(11)、(11’)間の境界の経糸(13)は上記アトラス編組織に沿って編成されているため、大きな引張力が作用してもアトラス編組織の部分で吸収されることになり、上記縁部(11)、(11’)の各経糸(121)?(125)、(12’1)?(12’5)は勿論のこと、境界の経糸(13)が型成形の途中で切断したりすることはない。上型(31)の凸部(32)で素材生地(1)を下型(36)の凹部(37)内に押し下げた後は(第4図)、所定時間上型(31)と下型(36)で素材生地(1)を挟圧しておき、その後上型(31)を上昇させ、素材生地(1)を下型(36)から取り外す。このようにして素材生地(1)に対し型成形加工を施すことにより、素材生地(1)は椀状に膨出した状態に熱固定されるので、素材生地には二つの生地部分(10)、(10’)にまたがって部分に椀状の膨出部(2)が形成されることになる(第5図)。 型成形加工後、素材生地(1)は両側の生地部(10)、(10’)を互いに離反させるように引張つて境界の経糸(13)を引きち切り、一方の生地部(10)を他方の生地部(10’)より分離する。これにより各生地部(10)、(10’)には椀状の膨出部(2)が二つ割りされた膨出部(2a)、(2a’)を有することになる(第6図)。 そこで、上記二つの生地部(10)、(10’)のうち、縁部(11)がアトラス編組織のためにスカラップ(S)を呈するとともに、該スカラップ(S)からはピコット形成糸(16)の折り返し部(イ)が遊離されたために現出したピコット(P)を有する一方の生地部(10)の膨出部分(2a)の周辺を切除してブラジャーの膨出生地(3)とする。」(第4頁左下欄13行?第5頁右上欄12行) (d)「また素材生地(1)に対する型成形加工に際しては、上記実施例の場合、二つの生地部(10)、(10’)の境界が下型(36)の凹部(37)のほぼ中央を横切るように配して型成形加工しているが(第2図)、下型(36)の凹部(37)のどの位置を横切るようにするかは適宜実施すればよく、それによって製造すべきブラジャーの膨出部(10)の種々の大きさ(ハーフカップとかフルカップとかの別)に適合する膨出部用生地(3)を製造することができる。」(第5頁左下欄17行?同右下欄7行) 上記記載を総合すれば、素材生地(10)、(10’)は、ブラジャーの膨出用表生地として使用されるレース編地であり、発熱体を備えた成形型により椀型に膨出成形され、熱固定、すなわちヒートセットされるものであって、椀型に膨出成形された膨出部は、乳房を覆うカップ製品を構成し、レース編地である素材生地(10)、(10’)が、カップ表面の装飾レース部を形成するものといえる。 そして、編み立て上がりで一体の両素材生地(10)、(10’)の縁部(11)、(11’)が、膨出部分の端縁部位にスカラップ(S)を形成し、この部分が大きな引張力を吸収するアトラス編組織に編成されたものと解することができる。 したがって、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されていると認められる。 「乳房を覆うカップの端縁部位にスカラップ(S)を、前記カップの表面に装飾レース部を備えたブラジャー用カップ製品であって、 前記スカラップ(S)と装飾レース部とが一体のレース編地であるとともに、前記スカラップ(S)は大きな引張力を吸収するアトラス編組織であり、前記レース編地が、編み立て上がり状態で一体のレース編地を、発熱体を備えた成形型により膨出形成され、ヒートセットされたものであるブラジャー用カップ製品。」 2.甲第2号証発明 甲第2号証の実用新案登録請求の範囲の欄、段落【0004】、【0005】、【0032】、【0042】、【0046】、【0070】には、その図面とともに次のように記載されている。 (a)「【請求項1】 少なくとも一部にレースが用いられている衣類において、前記レースのうち伸縮パワーを付与したい所定部位のレースを、伸縮パワーの強い領域と伸縮パワーがそれより弱い領域とを有する伸縮性レースで構成してなる衣類。 ・・・中略・・・ 【請求項9】 土台布および/またはバック布が伸縮パワーの強い領域と伸縮パワーがそれより弱い領域とを有する伸縮性レースで構成されたブラジャーであって、前記伸縮性レースの上側部分または下側部分のいずれかが伸縮パワーの強い領域であるか、あるいは、上側部分および下側部分の両方が伸縮パワーの強い領域でその中間部分が伸縮パワーがそれより弱い領域であるブラジャー。」 (b)「【0004】 【考案が解決しようとする課題】 しかしながら、従来のように、レースの所定部分にゴムテープなどを縫製により取り付けて、その部分の伸縮パワーを強くする構成とした場合には、ゴムテープを取り付けることにより、その部分に段差ができ、且つゴムテープ部分の伸縮パワーがかなり強いため、その部分が身体に食い込んで着用感が低下する、ゴムテープが取り付けられた部分がレースの上から透けて見えてせっかくのレースの美観が損なわれる、ゴムテープ部分の段差の凹凸がアウターウェアーを着用してもアウターウェアーに反映して美観が損なわれる、ゴムテープなどを縫製する工程が増えるためコストが上がるなどの問題がある。」 (c)「【0005】 本考案は、これらの問題点を解決し、フィット性に優れ、着崩れが無く、レースの本来の美観が保たれ、且つ着用感の優れた、少なくともその一部に伸縮性を有するレースが用いられている衣類を提供することを目的とする。」 (d)「【0032】 図1において、1は伸縮パワーの強い領域を示しており、2は伸縮パワーがそれより弱い領域である。4はレースのスカラー部分、5はその山部、6は谷部である。通常スパンデックス糸などの弾性繊維糸は、レースの編みの縦方向、図中の矢印Bで示した方向に挿入されているのが一般的である。そしてこのレースの場合には、例えば1の領域に挿入されている弾性繊維糸を太い弾性繊維糸とし、2の領域に挿入されている弾性繊維糸をそれより細い弾性繊維糸とすることにより2段階の伸縮パワーを有する伸縮性レースとすることができる。また、このようなレースは、弾性繊維糸の挿入本数を変化させることによっても同様に得ることができる。例えば、用いる弾性繊維糸の太さとして同じ太さの糸を用いた場合には、1の領域の弾性繊維糸の挿入本数を多くし、2の領域の弾性繊維糸の挿入本数をそれより少なくすることによっても2段階の伸縮パワーを有する伸縮性レースとすることができる。もちろん、弾性繊維糸の太さと挿入本数を適宜組み合わせて、伸縮パワーの異なった領域を有する本考案で用いる伸縮性レースとすることもできる事は容易に理解されるところである。」 (e)「【0042】 主として伸縮パワーの強い領域に挿入されている弾性繊維糸、すなわち比較的太い方の弾性繊維糸のデニールとしては560?140デニール程度の弾性繊維糸が好ましく、主として伸縮パワーがそれより弱い領域に挿入されている弾性繊維糸、すなわち比較的細い方の弾性繊維糸のデニールとしては210?50デニール程度の弾性繊維糸が好ましく用いられる。この場合においても、レースの伸縮パワーの強い領域に挿入されている弾性繊維糸のデニールが、伸縮パワーがそれより弱い領域に挿入されている弾性繊維糸のデニールよりも大きいデニールのものが選定されることになる。特に限定するものではないが、段階的に伸縮パワーの強い領域と弱い領域とを有する伸縮性レースを用いる場合には、伸縮パワーの強い領域に挿入されている弾性繊維糸のデニールは、弱い領域に挿入されている弾性繊維糸のデニールの2倍以上であることが好ましい。」 (f)「【0046】 また、主としてし伸縮パワーの強い領域の幅は、衣類の種類、使用部位、レースの組織の種類、着用者の好み、弾性繊維糸の挿入本数などによって種々変わり得るので一概に既定できないが、例えば、5mm以上であることが好ましく、レースのスカラー部分側に伸縮パワーの強い領域が存在する場合には、当該領域の幅は通常、レースのスカラー部分の谷部から内側方向に5mm以上の幅であることが好ましい。もちろんレースのスカラー部分自体も必要に応じて本考案の目的や用途に応じた伸縮パワーが付与された部分とすることができることは言うまでもない。尚、伸縮パワーの領域の幅は、スカラー部分があるレースの場合には、それに隣接する領域の幅については、本考案においては特に断らない限りは、スカラー部分の谷部からレース内側方向への幅を示している。」 (g)「【0070】 図13は本考案のブラジャーの一例の斜視図である。 図13においてブラジャーのカップ132の上辺部が伸縮性を有するレース130で構成され、前記伸縮性を有するレース130のうち点線131で示した方向に沿ったカップ132の上辺部側の部分がポリウレタン繊維からなる280デニールのスパンデックス糸使いの糸が挿入された伸縮パワーの強い幅10mmの領域を示しており、他のレース部分がポリウレタン繊維からなる140デニールのスパンデックス糸使いの糸が挿入された伸縮パワーの比較的ソフトな伸縮性レースで構成されている。従ってゴムテープをこの伸縮パワーの強い領域部分には使用していないので、段差がなく、段差による凹凸がアウターウェアーに反映して美観が損なわれる恐れがなく、しかも伸縮パワーが掛かる部分全体が面状になっていて、且つ伸縮パワーが比較的強い領域からそれより弱い領域に2段階になっているので伸縮パワーの強い領域が身体に食い込むことはなく従って良好な着用感を有し、かつ当該部分が身体の乳房のトップバストより上側の所定位置に安定した状態でフィットされ、この部分のまくれや、ずり下がりなどの発生を少なくでき、着崩れのないブラジャーを提供できる。また、この部分へのゴムテープなど取り付けが不要になるので、レース部分の美観が損なわれることがなく美しいブラジャーを提供できる。」 したがって、以上の記載を総合すれば、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されていると認められる。 「乳房を覆うカップ(132)の表面に伸縮性を有するレース(130)を有するブラジャー用カップ製品であって、当該レース(130)が、カップ(132)の上辺に伸縮パワーの強い端縁部を備えた、ブラジャー用カップ製品。」 3.本件特許発明1について (1)対比 本件特許発明1と甲第3号証発明とを対比すると、甲第3号証発明において、「スカラップ(S)」及び「発熱体を備えた成形型により膨出形成」されることは、その構造、機能、技術的意義などからみて、本件特許発明1の「スカラー部」及び「型成形により立体成形」されることにそれぞれ相当する。 してみると、本件特許発明1と甲第3号証発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 〈一致点〉 「乳房を覆うカップの端縁部位にスカラー部を、前記カップの表面に装飾レース部を備えたブラジャー用カップ製品であって、 前記スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地であるとともに、このレース編地が、編み立て上がり状態で一体のレース編地を、型成形により立体成形され、ヒートセットされたものであるブラジャー用カップ製品。」 〈相違点1〉 本件特許発明1においては、レース編地が、編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備えるとともに、装飾レース部のスカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部を備えるのに対して、甲第3号証発明においては、スカラップ(S)が、大きな引張力を吸収するアトラス編組織からなるものの、レース編地が伸縮性を備えるか否か不明であり、スカラップ(S)側の部位に、スカラー補強レース部を有していない点。 〈相違点2〉 レース編地を編み立て上がり状態で一体のレース編地を型成形するに当たり、本件特許発明1においては、スカラー部を端縁部として立体成形され、ヒートセットされたものであるのに対して、甲第3号証発明においては、スカラー部を端縁部として立体成形する点に関して明示されていない点。 (2)相違点についての検討及び判断 (2-1)相違点1について 本件特許発明1の相違点1に係る技術的意義について検討すると、本願明細書段落【0010】、【0021】には次のように記載されている。 「【0010】 このブラジャー用カップ製品にあっては、カップ表面に表れる装飾レース部とスカラー部とが一体のレース編地から構成されるため、装飾レース部とスカラー部との間に縫製部あるいはテープ等を備える必要が無くなり、美観的非常に優れたブラジャーを得ることができる。 さらに、装飾レース部のスカラー側部位に帯状のスカラー補強レース部を備えることで、この部位の保形性を良好に保つことができ、スカラー部が配設される、例えば、乳房を覆うブラジャーの上側端縁部を好ましい形状に保ち、乳房周りを美しく見せるというブラジャーに求められる要請を、満たすことができる。 さらに、製造上の手間も少なくなるため、廉価な製品を得ることができる。 また、従来、ブラジャーのカップに使用するためのレース編物は、特に伸縮性を与えられることなく、所謂、リジッドな編物が利用されてきたが、本願のように、型成形により比較的複雑な立体形状を得る場合にあっては、編地の経、緯方向等に弾性を有する編地を使用することで、レース編地の切断等を伴うことなく立体型成形を行うことが可能となり、さらに、ヒートセットにより、立体形状の固定が完了する。その結果、弛み、破れ等の発生を避けて、カップの製造を行うことができる。」 「【0021】 更に、装飾レース部2のスカラー部3に近い位置(装飾レース部の一部)が、スカラー補強レース部20として形成されている。 このスカラー補強レース部20にあっても、通常の装飾レース部20aより、その糸種として太いものが採用されており、この部位20に腰を与えることで、スカラー部3の形状安定性を確保できる。例えば、通常の装飾レース部20aには、ラッセルレースの場合、チェーンステッチを成す経糸として210デニールのポリウレタン糸を採用するのに対して、スカラー補強レース部20には、その倍の420デニールの糸を採用する。」 上記記載によれば、相違点1のうち、「(当該レース地が)編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備えること」は、レース編地の切断等を伴うことなく立体型成形を行うことを可能にするものであり、「(当該レース地が)前記装飾レース部の前記スカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部を備えること」は、レース地のスカラー側の部位に、例えば、通常のレース部より太い糸を採用して伸縮性を強化した帯状のスカラー補強レース部を設けることにより、立体成形後(すなわち、相応の伸縮変形をしてヒートセットされた後)、製品として完成したブラジャーの保形性を良好に保ち、スカラー部が配設される乳房を覆うブラジャーの上側端縁部を好ましい形状に保ち、乳房周りを美しく見せるというブラジャーに求められる要請を満たすことを可能にするものと解することができる。 これに対し、上記1で摘記した甲第3号証の記載(c)には、レース編地である素材生地(1)を椀型に型成形する際、凹部(37)の中央に位置する個所ほど伸張度合が大となると記載されているが、椀型に型成形する以上、凹部(37)の中央から離れたいずれの個所であっても、程度の差こそあれ、押下個所が伸張することは明白であり、甲第3号証発明においては、伸張度合いが大きい凹部(37)の中央個所では、アトラス編組織により発生する大きな引張力を吸収し、それ以外の個所では、素材生地(1)自体が引張力を吸収することにより、素材生地(1)を形成する各糸の切断を伴うことなく、椀型への立体型成形を可能にするものと解するのが相当である。 ところで、ブラジャーカップの型成形に当たり、生地素材が伸張し得るように、伸縮性を有する生地素材を使用することは、請求人が提出した参考資料1(実公昭50-40468号公報:特に第1欄35行?第2欄24行参照)、同参考資料3(特開平11-12809号公報:特に段落【0014】、【0015】参照)、同参考資料4(特公昭62-50562号公報:第3欄24行に、レース地の素材として例示されたポリウレタン繊維参照)にみられるように、本願出願前より周知の技術である。 一方、甲第2号証発明は、乳房を覆うカップの表面を伸縮性を有するレース地とし、このレース地がカップの上辺に伸縮パワーの強い端縁部を具備することにより、製品として完成したブラジャー端縁部を補強し、その保型性を維持するものといえ、このように端縁部の保型性を良好に維持することは、甲第2号証発明に限らず、甲第3号証発明を含め、ブラジャー全般に共通の課題といえる。 そうすると、上述した周知の技術及びブラジャー全般に求められる共通の課題を踏まえれば、甲第3号証発明に甲第2号証発明を適用し、「スカラップ(S)と装飾レース部とが一体のレース編地」を伸縮性を有するものとするとともに、カップの端縁部位、すなわちスカラップ(S)側に伸縮パワーを強化した補強部を設けることにより、本件特許発明1の相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。 なお、被請求人は、各答弁書、口頭審理陳述要領書等において、本件特許発明1は、フルカップ等、立体成形に当たり、比較的大きな変形を伴うブラジャーを前提としており、帯状のスカラー補強レース部も含め、レース編地が、編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備えるのは、こうした比較的大きな変形を吸収するためのものであり、甲第3号証発明のように立体成形後のフィット性の向上、着崩れの防止を意図したものではないから、甲第2号証発明に甲第3号証発明を適用する動機付けがない旨主張する。 しかしながら、本件特許発明1が、帯状のスカラー補強レース部も含め、レース編地が伸縮性を備えることにより、はじめて立体成形が可能となるような変形がなされるブラジャーを前提とするものであるとか、あるいは、レース編地の伸縮性が失われる程度の大きな変形がなされるブラジャーを前提とするものであることは、請求項1はもとより、本願明細書のいずれにも記載されておらず、被請求人の上記主張は、特許請求の範囲、明細書の記載に基づかないものであり、採用することができない。 (2-1)相違点2について 甲第3号証発明は、前述のとおり、伸張度合いが大きい凹部(37)の中央個所では、アトラス編組織により発生する大きな引張力を吸収し、それ以外の個所では、素材生地(1)自体が引張力を吸収することにより、素材生地(1)を形成する各糸の切断を伴うことなく、椀型への立体型成形を可能にするものである。 そして、上記1.に摘記した甲第3号証の記載(d)を併せみれば、ブラジャーの形態、素材生地の構造、特性等に応じて、型成形加工に際し、端縁部にスカラップ(S)を有するレース編地を、下型(36)の凹部(37)のどこに配置すれば、素材生地(1)を形成する各糸の切断を伴うことなく型成形が可能になるかという選択について、強い示唆があるものといえる。 したがって、甲第3号証発明において、熱成形に当たり、スカラップ(S)を下型(36)の凹部(37)に対する位置を適宜選択し、発熱体を備えた成形型により膨出形成することにより、本件特許発明1の相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 たしかに、被請求人が主張するように、本願発明1においては、相違点1により、装飾レース部のスカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部が設けられていることから、スカラー部を端縁部として立体成形されることにより、帯状のスカラー補強レース部の存在下で、スカラー部を端縁部として立体成形されることになる。 しかしながら、上記「(2-1)相違点1について」で述べたように、帯状のスカラー補強レース部は、伸縮性を強化したものであって、立体成形時に相応の伸縮変形し、ヒートセットされた後に、ブラジャー製品としてスカラー部の保型性を良好に保つものと解するのが相当であり、本願明細書を参酌しても、これを越えて、立体成形時になんらかの作用を奏する技術的根拠は見当たらない。 そうすると、前述のとおり、素材生地を形成する各糸の切断を観点から、当該スカラー補強レース部の伸縮性等を勘案して、スカラー補強レース部の存在下でスカラー部を端縁部として立体成形することは、当業者が容易になし得ることというべきである。 したがって、甲第3号証発明において、熱成形に当たり、スカラップ(S)を端縁部として、発熱体を備えた成形型により膨出形成することにより、本件特許発明1の相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2-3)まとめ 本願特許発明1を全体構成でみても、甲第3号証発明、甲第2号証発明及び上述した周知の技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。 したがって、本願特許発明1は、甲第3号証発明、甲第2号証発明及び上述した周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.本件特許発明2について (1)対比 本件特許発明2と甲第3号証発明とを対比すると、既に検討済みの相違点1、2に加え、次の点で一応相違する。 〈相違点3〉 レース編地に関し、本特許特許発明2においては、「カップ膨出中心から、前記カップ膨出中心を巡るカップ周縁部に渡って、前記編み立て上がり状態で一体のレース編地を前記型成形したものである」のに対して、甲第3号証発明においては、スカラップ(S)と装飾レース部とが一体のレース編地が、カップ膨出中心を巡るカップ周縁部にわたって、型成形するものであるか否か明確ではない点。 (2)相違点3についての検討及び判断 上記「3.本件特許発明1について」で述べたように、甲第3号証には、ブラジャーの形態等に応じて、編み立て上がり状態でスカラップ(S)と装飾レース部とが一体のレース編地を、下型(36)の凹部(37)の適当な箇所に配置してブラジャー用カップ製品を型成形することが示唆されているのであるから、本件特許発明3の相違点3に係る構成とすることは、ブラジャーの形態等に応じて当業者が適宜採用し得る程度の事項にすぎない。 したがって、本件特許発明2は、甲第3号証発明、甲第2号証発明及び上述した周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.本件特許発明3について (1)対比 本件特許発明3と甲第3号証発明とを対比すると、既に検討済みの相違点1ないし3に加え、次の点で一応相違する。 〈相違点4〉 ヒートセットにより立体形状が固定されたレース編地に関し、本件特許発明3においては、裏打ち部材が一体化されてなり、裏打ち部材の端部位置がレース編地の立体成形端部位置とされ、当該立体成型端部位置にスカラー部が位置されるのに対して、甲第3号証発明においては、裏打ち部材を有しているか否か自体明確ではない点。 (2)相違点4についての検討及び判断 一般に、カップ表面に装飾レース部を備えたブラジャーにおいて、装飾レース部を単独のブラジャーカップとすることも、カップ部に対応させてウレタンカップ等の裏打ち部材を一体化してブラジャーカップとすることも、ブラジャーの製品形態として広く知られているものと解されるところ、ウレタン製カップ等をカップ部の裏打ち部材とすることは、本件明細書段落【0002】?【0006】の【従来の技術】の欄、さらに請求人が提出した参考資料5(生地1及びパットに関する構成を参照のこと。)を参酌すれば、本願出願前より周知の技術ということができる。 してみると、本件特許発明3の相違点4に係る構成は、上述のように、ウレタンカップ等の裏打ち部材をカップ部に一体化したブラジャーカップを前提とした場合、当業者が当然に採用し得る程度の事項にすぎず、当業者が容易に想到し得ることである。 なお、被請求人は、裏打ち部材が一体化されることにより、ブラジャー着用時のレース編地の伸縮性を期待することができないから、甲第3号証発明に、着用時の伸縮性を与える甲第2号証発明を適用する動機付けがない旨主張する。 しかしながら、前述のとおり、本件特許発明1が帯状のスカラー補強レース部も含め、レース編地の伸縮性が失われる程度の大きな変形がなされるブラジャーを前提とするものであることは、本願明細書のいずれにも記載されておらず、また、ウレタンカップ等の裏打ち部材も装着性等の観点から相応の伸縮性を有するものと解されるところ、立体成形後のレース編地の伸縮性とウレタンカップ等の裏打ち部材の伸縮性との関連について、なんら解析されているわけではないから、被請求人の上記主張は、特許請求の範囲、明細書の記載に基づかないものであり、採用することができない。 したがって、本件特許発明3は、当業者が甲第3号証発明、甲第2号証発明及び上述した周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.本件特許発明4について (1)対比 本件特許発明4と甲第3号証発明とを対比すると、既に検討済みの相違点1ないし3に加え、次の点で一応相違する。 〈相違点5〉 本件特許発明4においては、スカラー補強レース部に、「通常の装飾レース部より、太い糸が採用されている」のに対して、甲第3号証発明は、スカラー補強レース部自体具備していない点。 (2)相違点5についての検討及び判断 甲第2号証には、カップ(132)の上辺に伸縮パワーの強い端縁部(131)に他の部分より太い糸を使用することが示されているから、上記「相違点1について」で述べたように、甲第3号証発明に甲第2号証発明を適用するに当たり、伸縮派パワーの強い端縁部に太い糸を使用することにより、本件特許発明4の相違点5に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 したがって、本件特許発明4は、当業者が甲第3号証発明、甲第2号証発明及び上述した周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7.本件特許発明5について 本件特許発明5は、本件特許発明1又は2の発明特定事項を引用し、さらに「前記スカラー補強レース部の弾性収縮力が、通常の装飾レース部より強い」ものであることを付加したものであるが、甲第2号証発明の「伸縮パワーの強い端縁部(131)」は、その弾性収縮力が通常の装飾レース部より強いことは明白であるから、本件特許発明5において付加された発明特定事項は、甲第3号証発明に甲第2号証発明を適用することにより、必然的に生じる構成である。 したがって、本件特許発明5は、当業者が甲第3号証発明、甲第2号証発明及び上述した周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 8.本特許発明6について 本件特許発明6は、本件特許発明1ないし5のブラジャーカップ製品を使用したブラジャー製品に係るものであるが、甲第3号証のブラジャー用カップ製品も、ブラジャー製品への使用を前提としていることは明白であるから、既に検討した相違点1ないし5のほかに相違点はない。 したがって、本件特許発明6は、甲第3号証発明、甲第2号証発明及び上述した周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 9.むすび 以上のとおり、本件特許発明1ないし6は、いずれも本件出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1ないし6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。 また、審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条により被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ブラジャー用カップ製品及びブラジャー製品 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】乳房を覆うカップの端縁部位にスカラー部を、前記カップの表面に装飾レース部を備えたブラジャー用カップ製品であって、 前記スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地で、当該レース編地が、編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備えるとともに、前記装飾レース部の前記スカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部を備え、前記レース編地が、編み立て上がり状態で一体のレース編地を、型成形により、前記スカラー部を端縁部として立体成形され、ヒートセットされたものであるブラジャー用カップ製品。 【請求項2】前記レース編地が、カップ膨出中心から、前記カップ膨出中心を巡るカップ周縁部に渡って、前記編み立て上がり状態で一体のレース編地を前記型成形したものである請求項1記載のブラジャー用カップ製品。 【請求項3】ヒートセットにより立体形状が固定された前記レース編地に、裏打ち部材が一体化されてなり、前記裏打ち部材の端部位置が前記レース編地の立体成形端部位置とされ、当該立体成形端部位置にスカラー部が位置される請求項1又は2記載のブラジャー用カップ製品。 【請求項4】前記スカラー補強レース部に、通常の装飾レース部より、太い糸が採用されている請求項1又は2記載のブラジャー用カップ製品。 【請求項5】前記スカラー補強レース部の弾性収縮力が、通常の装飾レース部より強い請求項1又は2記載のブラジャー用カップ製品。 【請求項6】請求項1?5のいずれか一項記載のブラジャー用カップ製品を使用してなるブラジャー製品。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、乳房を覆うカップの端縁部位にスカラー部を、前記カップの表面に装飾レース部を備えたブラジャー用カップ製品及びそのようなカップを使用したブラジャー製品に関する。 【0002】 【従来の技術】 ブラジャー用カップ製品Cとしては、図7に示すように、表面にレース61を配したものがあり、最近、カップ製品Cの上縁部にスカラー(スカラップ)Sと呼ばれる、波状の装飾部を連続して配したものが好まれている。 このような製品の製造工程の一例を示すと、例えば、図6に分解して示すように、立体成形されたウレタン製のカップCaの表面側及び裏面側に所定の布地62、63を配すると共に、スカラー用のレースSaを、カップCaの上縁部に配している。 【0003】 このような製品Cの製造にあたっては、上記立体成形されたウレタン製のカップCaを用意すると共に、面状に編み立てられる広幅レースを、製品に要求される立体成形形状に合わせて、立体成形(具体的にはモールド成形)し、図8に示す(立体成形部位をMで、破線で裁断位置を示した)ように、これを所定形状に裁断して、表地用のレースである布地62を得ている。同様に、裏地用の布地63が、立体状態で得られる。 【0004】 従来、スカラーSを備えるために、図6に示すように、このスカラー形成用のレースSaが別途用意される。 上記した手法で、ブラジャーを得るには、主要素材として、前記ウレタン製カップCa、モールド成形されたレース62、裏地材63およびスカラー用のレースSaが用意され、これらが、一体に縫製されて、その所定縁部にスカラーSを備えたカップ製品Cを得ることとなる(図7)。 上記のモールド成形されたレース62を製造するにあたっては、そのレースとして、比較的広幅の広幅レースを製造し、例えば、図8に示すレースの所定位置Mをモールド成形(立体成形)するものとしていた。 【0005】 一方、ブラジャー製品は、乳房を覆うための一対のカップと、これらのカップを中央部で接続する中央接続部位と、肩紐、背面バンド等を備えて構成されている。 従って、ブラジャーを得ようとすると、少なくとも左右一対のカップを準備する必要がある。 最近、ブラジャー装着時の乳房部のシルエットを美しく見せる(乳房間の谷間を深く見せる)等の理由から、装着時に乳房を中央側に寄せるブラジャー構造が採用されている。 【0006】 従来、このような中寄せ用に使用するカップを製造する場合、そのモールド成形型としては先端球形のモールド成形型を使用して、一対の半球形成形体(図9(ロ)に示す形状)を得た後、裁断を半球の中心を外して行い(図9(ロ)に破線で示す)、最大膨出部を中央側に寄せて縫製を行って(図9(ホ)に示す)、一対の乳房に当たるブラジャーの主要部材を製造するものとしていた。 一方、概略、半球形に形成されるカップ素材を適当に立体裁断および立体縫製して、希望形状のブラジャー用のカップを得る場合もある。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 上記従来技術には、美観に関して二つの問題があった。 1 装飾レースとスカラー部との繋ぎ部の問題 上記の図7に示すようなカップ製品Cを製造しようとすると、ウレタン製のカップCa、表地用のレース62、裏地材63、および、スカラー用のレースSaを用意し、これらを一体に縫製する必要があり、図7に示すように縫製部Tが多々あることにより、美観の点で問題があると共に、この縫製部Tにはテープtを位置させて縫製するため、この部分がごつごつする。 【0008】 2 装着時のシルエット形成上の問題 一方、上記した装着時のシルエットに関して述べると、半球形に成形されるカップを使用して、その最大膨出部(半球の頂点)を中央側に寄せてブラジャーを製造する場合(図9(ホ)参照)は、裁断・縫製加工に精度を要すると共に、均一で所望のシルエットのものが得にくく、改良の余地があった。 一方、立体裁断・立体縫製を行うものにあっては、手間が掛かり、コストアップにつながる。 本願発明の目的は、スカラー部を備えたレースを有するものでありながら、美観及びシルエットにおいて優れ、コストアップを招来しないブラジャー用カップ製品及びブラジャー製品を得ることにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】 この目的を達成するための本発明による、乳房を覆うカップの端縁部位にスカラー部を、前記カップの表面に装飾レース部を備えたブラジャー用カップ製品の特徴構成は、請求項1に記載されている様に、 前記スカラー部と装飾レース部とが一体のレース編地で、当該レース編地が、編地編経方向もしくは編地緯方向の何れか一方もしくはその両方向に伸縮性を備えるとともに、前記装飾レース部の前記スカラー側の部位に帯状のスカラー補強レース部を備え、前記レース編地が、編み立て上がり状態で一体のレース編地を、型成形により、前記スカラー部を端縁部として立体成形され、ヒートセットされたものである。 【0010】 このブラジャー用カップ製品にあっては、カップ表面に表れる装飾レース部とスカラー部とが一体のレース編地から構成されるため、装飾レース部とスカラー部との間に縫製部あるいはテープ等を備える必要が無くなり、美観的非常に優れたブラジャーを得ることができる。 さらに、装飾レース部のスカラー側部位に帯状のスカラー補強レース部を備えることで、この部位の保形性を良好に保つことができ、スカラー部が配設される、例えば、乳房を覆うブラジャーの上側端縁部を好ましい形状に保ち、乳房周りを美しく見せるというブラジャーに求められる要請を、満たすことができる。 さらに、製造上の手間も少なくなるため、廉価な製品を得ることができる。 また、従来、ブラジャーのカップに使用するためのレース編物は、特に伸縮性を与えられることなく、所謂、リジッドな編物が利用されてきたが、本願のように、型成形により比較的複雑な立体形状を得る場合にあっては、編地の経、緯方向等に弾性を有する編地を使用することで、レース編地の切断等を伴うことなく立体型成形を行うことが可能となり、さらに、ヒートセットにより、立体形状の固定が完了する。その結果、弛み、破れ等の発生を避けて、カップの製造を行うことができる。 【0011】 このような構成を採用する場合に、請求項2に記載されているように、前記レース編地が、カップ膨出中心から、前記カップ膨出中心を巡るカップ周縁部に渡って、前記編み立て上がりの単一のレース編地を前記型成形したものであることが好ましい。 ブラジャー用のカップ製品において、装飾性を要求される部位は、上記したスカラー部と装飾レースとが繋がるカップの周縁部であるとともに、カップの中心及びその周縁部も美観上、重要である。特にカップに膨出中心上には、通常装飾レースが来るが、この部位で、装飾パターンが連続していることが好ましい。 例えば、カップ周縁部からカップ膨出中心に向けて立体化のための切断もしくは縫製部等がある場合は、レース装飾柄上の不連続が発生し、美観的に劣ることとなる。 しかしながら、上記したように、カップ膨出中心から、前記カップ膨出中心を巡るカップ周縁部に渡ってレース編地が一体であると、装飾的に連続し、さらに、自然な立体形状を有するカップとすることが可能となり、結果的に、美観の上で製品価値の非常に高いブラジャー用カップ製品を得ることができる。 【0012】 さらに、請求項3に記載されているように、ヒートセットにより立体形状が固定された前記レース編地に、裏打ち部材が一体化されてなり、前記裏打ち部材の端部位置が前記レース編地の立体成形端部位置とされ、当該立体成形端部位置にスカラー部が位置されることが好ましい。 このようにすることにより、スカラー部が裏打ち部材の端部に位置する状態で、裏打ち部材と立体レース素材とが一体化した立体レース製品を得ることができる。 【0013】 さて、前記スカラー補強レース部を構成する場合、請求項4に記載されているように、その部位に、通常の装飾レース部より太い糸を採用して、この部位を構成することが可能であるとともに、請求項5に記載されているように、前記スカラー補強レース部の弾性収縮力が、通常の装飾レース部より強い構成とすることもできる。 さて、シルエットを美しくするという目的に対しては、乳房間の谷間となるブラジャー中央部位に近いカップ中央側部位の膨出曲率が大きく、前記中央側部位からブラジャー中央部位に対して離間するカップ離間側部位の膨出曲率が小さいものとされていることが、好ましい。 カップ中央側部位とそれから離間するカップ離間側部位とで膨出曲率が異ならせてあり、前者のほうが後者より大きくされているものである。従って、このカップにあっては、中央側の膨出容積が大きいために、結果的に、乳房が中央側へ寄ることとなり、所定の効果を得ることができる。 【0014】 更に、乳房間の谷間となるブラジャー中央部位に近いカップ中央側部位に、最大膨出部を備えることが好ましい。 また、カップの最大膨出部位の位置がカップ中央側部位とされるものである。従って、このカップにあっては、乳首の位置あるいは乳房の全体を中央側に寄せることができるため、結果的に、乳房が中央側へ寄ることとなり、所定の効果を得ることができる。 【0015】 この場合、乳房間の谷間となるブラジャー中央部位に近いカップ中央側部位の膨出曲率が大きく、前記カップ中央側部位から離間するカップ離間側部位の膨出曲率が小さく形成され、乳房間の谷間となるブラジャー中央部位に近いカップ中央側部位に、最大膨出部を備えた変形カップとされていることも好ましい態様である。 【0016】 【発明の実施の形態】 本願の実施の形態を以下説明する。 本願はブラジャー用のカップ製品およびこのカップ製品を使用して製造されるブラジャーに関するものであり、製品を製造する場合に使用する、モールド成形する場合のモールド成形型の形状にも、その特徴がある。 【0017】 先ず、製造される面状レース素材1の組織構成から説明する。 図1に示すように、面状レース素材1は、装飾レース部2の側部(編地の編み立て方向Wに対して、これに直交する編地幅方向の側部)にスカラー部3を、装飾レース部2に対するスカラー部3を挟んだ反対側に捨て組織部4を備えて構成される。 この面状レース素材1の地組織に使用されるネット組織は、通常の4コースネットを採用することなく、経、緯方向のバランスのよいダイヤネットを採用した。 ここで、装飾レース部2は、所定のパターンで柄出しを行ったレース部位であり、例えばラッセルレースでは、基本組織であるネット上に柄糸2aを所定のパターンで編込んで柄出しを行ったレース部位である。 【0018】 一方、スカラー部3はスカラップとも呼ばれるが、レースの編み立て方向において、波状を成して形成される部位であり、例えばラッセルレースの場合は、基本組織であるネット上に、柄糸の一種と同一視されるスカラー糸3aを所定ループを形成させながら柄出しを行ったもので、ループRが図1に示すように編み立て方向で波状を描きながら連続して編み立てられる部位で、複数の波型が、編み立て方向Wで繰り返して形成される。 【0019】 前記捨て組織部4は、基本的には、柄糸を備え無い単純なネット組織を有する部位であり、この組織部は編地の切断が容易である。 但し、この捨て組織部が柄糸を有するもの、生地調の組織を成しているものであってもいっこうに問題はない。 【0020】 また、図1に示すように、捨て組織部4の端部(スカラー部3に対する反対側)は、素材固定部40として構成されており、スカラー部に接続して設けられる通常の捨て組織部41に対して、この部位40では、糸種の太いものが採用されると共に、組織密度が上がる構成とされている。 【0021】 更に、装飾レース部2のスカラー部3に近い位置(装飾レース部の一部)が、スカラー補強レース部20として形成されている。 このスカラー補強レース部20にあっても、通常の装飾レース部20aより、その糸種として太いものが採用されており、この部位20に腰を与えることで、スカラー部3の形状安定性を確保できる。例えば、通常の装飾レース部20aには、ラッセルレースの場合、チェーンステッチを成す経糸として210デニールのポリウレタン糸を採用するのに対して、スカラー補強レース部20には、その倍の420デニールの糸を採用する。 【0022】 編成される面状レース素材1は、よく知られているように、編地を成すウェールに沿って弾性糸(図外)を挿入することで、編地経方向に、さらに弾性が付与されると共に、その緯糸(地組織を構成する緯糸)に弾性糸(図外)を採用することで、編地幅方向においても弾性を付与されている。従って、編地は所謂、ツーウェイとして構成されている。 【0023】 以上が、本願の立体レース素材5を製造する場合に、準備段階として、立体成形前の面状レース素材1を得る場合に関する説明である。このようにして、素材編成工程を終える。 【0024】 以下、立体成形、捨てネットの除去処理、さらに、別途成形されるウレタン製のカップCaとの一体化に関して説明する。 立体成形工程 上記のようにして得られた面状レース素材1を、この立体成形工程において、立体形成(具体的にはモールド成形)する。このような立体成形は、図2に示すように、素材固定部21とこの素材固定部21に固定された布22をモールド処理するためのモールド成形型23を備えた立体成形装置24によって行われる。 【0025】 本願にあっては、図3を例に採って示すと、この成形時に、スカラー部5を立体成形端部位置(図3にあっては立体成形端部位置がウレタンのカップCaの端部位置に合致するため、実線で示すCaの端部位置が、この立体成形端部位置となる)に配置して、その立体成形を行う。 【0026】 この立体成形にあたって、面状レース素材1を立体成形装置24に固着する場合に、その捨て組織部4に備えられた素材固定部40を使用する。即ち、図1に、実線、破線の丸線で示すように、固定時に、この素材固定部40を利用すると共に、スカラー部3を横断して編地の周縁部を固定用に使用すると共に、スカラー部3とは反対側の装飾レース部位4の周縁箇所(図1における破線で囲まれた部位)を固定用に使用する。 【0027】 さらに、図9(イ)、(ハ)に示すように、前記モールド成形用のモールド成形型23は、ブラジャーとして製造された場合に、乳房間の谷間となるブラジャー中央部位に近いカップ中央側部位23aの膨出曲率を大きく、中央側部位23aから離間するカップ離間側部位23bの膨出曲率を小さく成形可能で、乳房間の谷間となるブラジャー中央部位に近い中央側部位23aに、最大膨出部23c(カップ膨出中心とみなせる)を成形可能な様に、ブラジャー中央部位に近いカップ中央側部位23aの膨出曲率を大きく、カップ中央側部位23aから離間するカップ離間側部位23bの膨出曲率を小さく構成されていると共に、乳房間の谷間となるブラジャー中央部位に近い中央側部位23aに、最大膨出部23cを備えている。 【0028】 また、図9(ハ)の矢視で示す断面である断面図9(ニ)(図面上 上側がカップの上側)に示すように、ブラジャー中央部位に対して近接・離間する方向であるカップ横断方向に対して、直交するカップ上下方向にあって、カップ下側部位23dの膨出曲率を小さく、カップ上側部位23eの膨出曲率を大きく成形可能な様に、カップ上下方向においても、その膨出曲率が変えられている。 【0029】 従って、面状レース素材を所定形状の変形カップとして成形することができる。 【0030】 このような立体成形装置24へのレース素材の固定の後、モールド成形型23を使用して、素材の立体成形を行うとともに、この形状固定を行う。 本願にあっては、糸素材としてナイロン6.6を採用することから、ヒートセットにより、立体形状の固定が完了する。 【0031】 立体成形を完了した状態にあっても、立体レース素材5は、図3に示すように、部分的に立体突出された複数の部位Mを有する帯状となる。但し、図3には、ウレタン製のカップCaを一体化させた状態を示している。 【0032】 一体化工程 上記のようにして得られた部分的に立体突出された複数の部位Mを有する素材5に、別途用意されるウレタン製のカップCaを、それぞれ、装着する。 この装着操作にあっては、縫製を行うのが通常である。但し、接着等の操作をおこなっても良い。 【0033】 このような一体化工程にあって、レース素材のスカラー部3は、カップ製品Cの端縁部に位置させる。このようにすることにより、スカラー部3が裏打ち部材であるウレタン製のカップCaの端部に位置する状態で、裏打ち部材Caと立体レース素材5が一体化した立体レース製品(ブラジャー用カップ製品の一種)を得ることができる。 【0034】 除去工程 次に、上記のようにして得られる帯状の素材を対象として、捨てネット部4をスカラー部3に沿って除去する。更に、個々のカップを独立して得る場合は、カップの周縁部を例えば切断除去する。このような切断線を図3に破線で示した。 【0035】 このようにして端部にスカラー部3を備え、装飾レース部2が立体形状を有するカップ(ただし、この場合は単独のカップとされており、立体レース素材とウレタン製カップCaが一体化したもので本願に言うブラジャー用カップ製品)を得ることができる。 図4に、本願手法により得られるカップ製品Cの外観を示した。これは図7に示すものに対応するものであるが、レース素材からなる表地にスカラーSが一体に備えられているため、カップの上縁部にテープを備える必要が無く、すっきりしていることに特徴がある。 【0036】 仕上げ工程 上記のようにして得られた個々のカップ製品を適切に組み合わせてブラジャーを得る。この工程は縫製による。このようにしてブラジャー製品を得る。 【0037】 〔別実施の形態例〕 (イ)上記の実施の形態にあっては、帯状の立体レース素材(一部、突出成形されたもの)に、ウレタン製のカップCaを一体化させた後、切断・除去を行ったが、帯状の立体レース素材を、個々に所定の形状に切断した後、個々のカップCaに対する一体化を実行しても良い。この場合、個々の立体レース素材にカップCaを装着したものを、本願にいうブラジャー用カップ製品と呼ぶのみならず、個々の立体レース素材も、本願にいうブラジャー用カップ製品に該当することとなる。 (ロ)上記の実施の形態にあっては、裏打ち部材として所定形状に加工されたポリウレタン性のカップCaを利用したが、立体形状とされる不織布からなる裏打ち部材を利用しても良い。 【0038】 (ハ)上記の実施の形態にあっては、面状レース素材を立体成形する場合に、変形カップの製造用に、中央側と離間側とで膨出曲率が異なり、最大膨出部が中央側に寄っているカップ製造用に素材をレース素材から製造する場合を示したが、このような変形した立体形状の成形対象は、レース素材の他、ポリウレタン製のカップ、不織布、裏地にも適応できる。 【0039】 (ニ)上記の実施の形態にあっては、立体レース素材の製造機械に関する記載は特にしなかったが、本願は、任意のレース編み機により製造されるレースを採用可能である。代表的なものを挙げれば、ラッセル機によるもの(ラッセルレースと呼ばれる、落下板方式によるもの、ジャガード方式によるものを含む)、リバー機によるもの(リバーレースと呼ばれる)、さらには、エンブロイダリーレースと呼ばれるものを挙げることができる。 【0040】 (ホ)上記の実施の形態にあっては、ブラジャー用のものを示したが、ブラジャーにスリップが一体化されたもの(所謂、ブラスリップ)、ブラジャーとキャミソールが一体化したもの(所謂、ブラキャミソール)等にも適応できる。 本願にあっては、これらを総称して、ブラジャー製品と呼ぶ。 【0041】 (ヘ)上記の図4に示す実施の形態にあっては、乳房を覆うカップ全体が単一のレース編地からなるものを示した。この例が最も、本願の目的を良好に達成するものではあるが、図5(イ)に示すように、カップの下部域に上側の装飾レース部とは異なった意匠を施すために、他の装飾レースを縫製等の手段により連結したものであっても、上部側のカップ膨出中心を含み、その中心を巡る本体カップに関しては本願の目的を達成するものとできる。 同様に、図5(ロ)に示すように、上記、本体カップに対して、ブラジャーの左右部位に他の装飾レースを配したものでも、本体カップに関しては同様の効果を得ることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 編上がり状態のレース素材の組織構成の概略説明図 【図2】 立体成形装置の説明図 【図3】 ポリウレタンのカップを一体化した立体レース素材の説明図 【図4】 立体レース製品の構成を示す図 【図5】 本願の別実施の形態を示す図 【図6】 従来手法における主要部材構成を示す分解図 【図7】 従来のカップ製品の構成図 【図8】 従来の立体成形位置を示す説明図 【図9】 本願と従来のカップの立体形状の比較を示す説明図 【符号の説明】 1 レース素材 2 装飾レース部 2a 柄糸 3 スカラー部 3a スカラー糸 4 捨てネット部 5 立体レース素材 20 スカラー補強レース部 24 立体成形装置 61 レース素材 62 表地 63 裏地 C カップ製品 Ca ウレタン製のカップ S スカラー Sa スカラー用レース M 立体成形部 T 縫製部 t テープ |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2007-08-03 |
結審通知日 | 2007-08-07 |
審決日 | 2007-08-22 |
出願番号 | 特願2001-186125(P2001-186125) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(A41C)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 島田 信一 |
特許庁審判長 |
石原 正博 |
特許庁審判官 |
関 信之 寺本 光生 |
登録日 | 2006-04-28 |
登録番号 | 特許第3797892号(P3797892) |
発明の名称 | ブラジャー用カップ製品及びブラジャー製品 |
代理人 | 沖中 仁 |
代理人 | 北村 修一郎 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 東 邦彦 |
代理人 | 北村 修一郎 |
代理人 | 蔦田 璋子 |
代理人 | 東 邦彦 |
代理人 | 沖中 仁 |