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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する G01C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する G01C
管理番号 1167892
審判番号 訂正2007-390078  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2007-06-25 
確定日 2007-10-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3733399号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3733399号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.審判請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第3733399号発明(設定登録日:平成17年10月28日)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、以下の訂正事項(1)乃至(3)により、特許請求の範囲を下記のとおりに訂正することを求めるものである。(下線部訂正箇所)

訂正事項
(1)特許請求の範囲の訂正前の「請求項5」を削除する。
(2)訂正前の請求項5の削除に伴い、訂正前の「請求項6」を「請求項5」と訂正する。
(3)訂正後の請求項5における、訂正前の請求項5の引用を削除すべく、「請求項1乃至5」を「請求項1乃至4」と訂正する。

【請求項1】 検出対象に取り付けられ、該検出対象の傾斜に伴って傾斜するケーシングと、
このケーシングの側面に設けられ、該ケーシングと共に動くコイル部と、
前記ケーシングの内部において移動自在に収納され、該ケーシングの傾斜時において自重により該ケーシングに対して相対的に変位する磁気応答部材と
を具え、該検出対象の傾斜に応じて前記ケーシングの側面に対する前記磁気応答部材の位置が変位し、これに応じた出力信号を前記コイル部より得ることにより該検出対象の傾斜を検出する傾斜検出装置であって、
前記コイル部は、所定の交流信号によって励磁される第1及び第2のコイルグループを含み、各コイルグループは前記磁気応答部材の動きの方向に沿って異なる配置で設けられており、これにより、前記ケーシングの傾斜に応じた該ケーシングに対する前記磁気応答部材の相対的位置に応じて、前記第1のコイルグループは、サイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を生ずるよう配置され、また、前記第2のコイルグループは、コサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を生ずるよう配置されてなり、
更に、各コイルグループにおける各コイルは前記交流信号によって励磁される1次コイルのみからなり、該各1次コイルに対する前記磁気応答部材の位置に応じたインダクタンス変化に基づく振幅変化を示す出力交流電圧信号を該各1次コイルから取り出し、これに基づき前記第1及び第2のコイルグループから前記サイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号と前記コサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号がそれぞれ生成され、前記磁気応答部材の変位の方向に沿う一方向の傾斜に応じた振幅変化を示す出力交流電圧信号がそれぞれ第1及び第2のコイルグループから異なる振幅関数特性で得られることを特徴とする傾斜検出装置。
【請求項2】 前記ケーシングの内部は円形を成していて、その円周に沿って前記磁気応答部材が動くようにした請求項1に記載の傾斜検出装置。
【請求項3】 前記磁気応答部材は、円形状を成したものである請求項1又は2に記載の傾斜検出装置。
【請求項4】 前記磁気応答部材は、非固定形状の物体からなるものである請求項1又は2に記載の傾斜検出装置。
【請求項5】 1つの前記検出対象において、前記請求項1乃至4のいずれかに記載の傾斜検出装置を、少なくとも2個互いに異なる方向に配置し、少なくとも2方向についての傾斜を検出することを特徴とする傾斜検出装置。

2 当審の判断
上記訂正事項(1)の訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項(2)の訂正は、上記訂正事項(1)の訂正による請求項の削除に伴い、請求項の連続番号の整合をとるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
上記訂正事項(3)の訂正は、上記訂正事項(1)の訂正による請求項の削除に伴い、訂正後の請求項5において、訂正前の請求項5の引用を削除して、引用する他の請求項の番号の整合をとるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項(1)乃至(3)の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由を発見しない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項及び第3項乃至第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
傾斜検出装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】検出対象に取り付けられ、該検出対象の傾斜に伴って傾斜するケーシングと、
このケーシングの側面に設けられ、該ケーシングと共に動くコイル部と、
前記ケーシングの内部において移動自在に収納され、該ケーシングの傾斜時において自重により該ケーシングに対して相対的に変位する磁気応答部材と
を具え、該検出対象の傾斜に応じて前記ケーシングの側面に対する前記磁気応答部材の位置が変位し、これに応じた出力信号を前記コイル部より得ることにより該検出対象の傾斜を検出する傾斜検出装置であって、
前記コイル部は、所定の交流信号によって励磁される第1及び第2のコイルグループを含み、各コイルグループは前記磁気応答部材の動きの方向に沿って異なる配置で設けられており、これにより、前記ケーシングの傾斜に応じた該ケーシングに対する前記磁気応答部材の相対的位置に応じて、前記第1のコイルグループは、サイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を生ずるよう配置され、また、前記第2のコイルグループは、コサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を生ずるよう配置されてなり、
更に、各コイルグループにおける各コイルは前記交流信号によって励磁される1次コイルのみからなり、該各1次コイルに対する前記磁気応答部材の位置に応じたインダクタンス変化に基づく振幅変化を示す出力交流電圧信号を該各1次コイルから取り出し、これに基づき前記第1及び第2のコイルグループから前記サイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号と前記コサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号がそれぞれ生成され、前記磁気応答部材の変位の方向に沿う一方向の傾斜に応じた振幅変化を示す出力交流電圧信号がそれぞれ第1及び第2のコイルグループから異なる振幅関数特性で得られることを特徴とする傾斜検出装置。
【請求項2】前記ケーシングの内部は円形を成していて、その円周に沿って前記磁気応答部材が動くようにした請求項1に記載の傾斜検出装置。
【請求項3】前記磁気応答部材は、円形状を成したものである請求項1又は2に記載の傾斜検出装置。
【請求項4】前記磁気応答部材は、非固定形状の物体からなるものである請求項1又は2に記載の傾斜検出装置。
【請求項5】1つの前記検出対象において、前記請求項1乃至4のいずれかに記載の傾斜検出装置を、少なくとも2個互いに異なる方向に配置し、少なくとも2方向についての傾斜を検出することを特徴とする傾斜検出装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、傾斜検出装置に関し、建設機械、自動車、工作機械、その他あらゆる分野で応用可能なものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の傾斜検出装置にはポテンショメータを用いたものがある。しかし、ポテンショメータにおいて摺動接触子があるために耐久性の点で難があった。
また、従来知られた誘導型位置検出装置には、直線位置検出装置としては差動トランスがあり、回転位置検出装置としてはレゾルバがある。差動トランスは、1つの1次巻線を1相で励磁し、差動接続された2つの2次巻線の各配置位置において検出対象位置に連動する鉄心コアの直線位置に応じて差動的に変化するリラクタンスを生ぜしめ、その結果として得られる1相の誘導出力交流信号の電圧振幅レベルが鉄心コアの直線位置を示すようにしたものである。レゾルバは、複数の1次巻線を1相で励磁し、サイン相取り出し用の2次巻線からサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を取り出し、コサイン相取り出し用の2次巻線からコサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を取り出すようにしたものである。この2相のレゾルバ出力は公知のR/Dコンバータといわれる変換回路を用いて処理し、検出した回転位置に対応する位相値をディジタル的に測定することができる。
また、サイン相とコサイン相のような複数相の交流信号によって複数の1次巻線を夫々励磁し、検出対象直線位置又は回転位置に応じて該交流信号を電気的に位相シフトした出力交流信号を出力し、この出力交流信号の電気的位相シフト量を測定することにより、検出対象直線位置又は回転位置をディジタル的に測定する技術も知られている(例えば、特開昭49-107758号、特開昭53-106065号、特開昭55-13891号、実公平1-25286号など)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、傾斜検出装置として従来知られたポテンショメータは、前述の通り、摺動接触子があるために耐久性の点で難があった。また、劣悪な環境で使用するには適していないものであった。
また、従来知られた誘導型位置検出装置は、回転位置または直線位置を検出するものであり、傾斜を検出することのできるような構造を持っていなかった。一般に、誘導型位置検出装置は、構造的に非接触であり、また、コイルと磁性体(鉄片等)の簡単な構成により、簡便かつ安価に製造することができ、かつ劣悪な環境下での使用にも耐えうるので、これを傾斜検出装置に適用できれば、広い応用・用途が見込まれる。
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、従来なかった新規な誘導型の傾斜検出装置を提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る傾斜検出装置は、検出対象に取り付けられ、該検出対象の傾斜に伴って傾斜するケーシングと、このケーシングの側面に設けられ、該ケーシングと共に動くコイル部と、前記ケーシングの内部において移動自在に収納され、該ケーシングの傾斜時において自重により該ケーシングに対して相対的に変位する磁気応答部材とを具え、該検出対象の傾斜に応じて前記ケーシングの側面に対する前記磁気応答部材の位置が変位し、これに応じた出力信号を前記コイル部より得ることにより該検出対象の傾斜を検出する傾斜検出装置であって、前記コイル部は、所定の交流信号によって励磁される第1及び第2のコイルグループを含み、各コイルグループは前記磁気応答部材の動きの方向に沿って異なる配置で設けられており、これにより、前記ケーシングの傾斜に応じた該ケーシングに対する前記磁気応答部材の相対的位置に応じて、前記第1のコイルグループは、サイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を生ずるよう配置され、また、前記第2のコイルグループは、コサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を生ずるよう配置されてなり、更に、各コイルグループにおける各コイルは前記交流信号によって励磁される1次コイルのみからなり、該各1次コイルに対する前記磁気応答部材の位置に応じたインダクタンス変化に基づく振幅変化を示す出力交流電圧信号を該各1次コイルから取り出し、これに基づき前記第1及び第2のコイルグループから前記サイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号と前記コサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号がそれぞれ生成され、前記磁気応答部材の変位の方向に沿う一方向の傾斜に応じた振幅変化を示す出力交流電圧信号がそれぞれ第1及び第2のコイルグループから異なる振幅関数特性で得られることを特徴とするものである。
本発明によれば、ケーシングの側面にコイル部が設けられており、該ケーシングの内部において移動自在に収納された磁気応答部材が、該ケーシングの傾斜時において自重により該ケーシングに対して相対的に変位する。これによって、該ケーシングの側面に対する磁気応答部材の位置、つまりコイル部に対する磁気応答部材の相対的位置、が変位し、これに応じた出力信号をコイル部より得ることができる。検出対象の傾斜に伴ってケーシングが傾斜するので、コイル部の出力信号は、該検出対象の傾斜量を示している。ここで、コイル部は、所定の交流信号によって励磁される第1及び第2のコイルグループを含み、各コイルグループは前記磁気応答部材の動きの方向に沿って異なる配置で設けられており、これにより、前記第1のコイルグループは、前記ケーシングの傾斜に応じた該ケーシングに対する前記磁気応答部材の相対的位置に応じて、サイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を生ずるよう配置され、また、前記第2のコイルグループは、コサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号を生ずるよう配置されてなるので、サイン相とコサイン相の2相の出力交流信号を出力するレゾルバ型位置検出原理にしたがう傾斜検出装置を提供することができる。そして、更に、各コイルグループにおける各コイルは前記交流信号によって励磁される1次コイルのみからなり、該各1次コイルに対する前記磁気応答部材の位置に応じたインダクタンス変化に基づく振幅変化を示す出力交流電圧信号を該各1次コイルから取り出し、これに基づき前記第1及び第2のコイルグループから前記サイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号と前記コサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号がそれぞれ生成されるようにしたのであるから、コイル構成の簡略化によって検出装置を小型化することができる。
【0005】
一実施形態として、ケーシングの内部は円形を成していて、そこに沿って磁気応答部材が動くようにする。これにより、検出対象の傾きに応じた磁気応答部材の滑らかな動きを得るようにすることができる。
また、更に、サイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号とコサイン相の振幅関数特性を示す出力交流信号とに基づき、該サイン相の振幅関数及びコサイン相の振幅関数の位相値を検出し、前記磁気応答部材の相対的位置に応じた位相値検出データを得る位相検出回路を更に備えるようにすれば、周辺環境の温度変化等の影響を受けにくい、精度のよい装置を提供することができる。
【0006】
一実施形態によれば、磁気応答部材は、円形状を成したものとするとよい。そうすれば、検出対象の傾斜に応じてケーシング内を滑らかに転動するようになり、検出精度の向上に役立つ。この場合、磁気応答部材の円形状は真円に限らず、半円のような部分円形状であってもよい。
また、磁気応答部材は固形のものに限らず、非固定形状の物体からなるものであってもよい。例えば、磁性流体や磁性粉体などを使用することができる。
以上のような傾斜検出装置は一方向のみについての傾斜を検出する。例えば、建設機械の作業アームの傾斜検出のように、目的の傾斜方向が所定の一方向に決まっている場合は、この傾斜検出装置を1つ設ければよい。しかし、車体の前後の傾斜と左右横方向の傾斜を検出する場合のように、少なくとも2方向についての傾斜を検出したい場合は、この傾斜検出装置を少なくとも2個互いに異なる所定の方向に配置するようにすればよい。
本発明によれば、更に様々な実施の形態をとることができ、その詳細は、例示的に以下において示される。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態をいくつかの代表例について説明する。図示された各例は、相互に組み合わせることも可能であり、それらの組合せも本発明の実施に含まれる。
図1は本発明に係る傾斜検出装置10の基本的構成例を示す図であり、(a)は正面略図、(b)は側面一部断面略図である。
図1(a)において、ケーシング1は、その内部に円形の収納スペース1aを有し、該スペース1a内に磁気応答部材3が移動自在に収納されている。磁気応答部材3は、例えば図1(c)に斜視図で示すように、円板形状をした例えば鉄のような磁性体からなるものである。ケーシング1の側面には、1又は複数のコイル21?24を含むコイル部2が所定の配置で設けられている。
レゾルバ原理でコイル部2を構成する場合、ケーシング1の円形スペース1aの中心を中心とする適宜の円周に沿って4つの極(s,c,/s,/c)を等角度間隔(つまり90度間隔)で形成するように4つの2次コイル21?24を配置し、これに対応して1次コイル11?14を夫々設ける。なお、各コイルの巻軸方向(磁束の方向)は、図1(a)において紙面に垂直な方向であり、(b)においては紙面に平行な方向である。
【0008】
レゾルバ原理を採用する場合、コイル部2の各極(s,c,/s,/c)に対応する2次コイル21?24に生じる誘導出力交流信号の振幅関数が、サイン関数(図でsを付記する)、コサイン関数(図でcを付記する)、マイナス・サイン関数(図で/s(sバー)を付記する)、マイナス・コサイン関数(図で/c(cバー)を付記する)、にそれぞれ相当するものとなるように、各2次コイル21?24の配置及び磁気応答部材3(すなわち円板)のサイズを、設定する。種々の条件によって、各コイルの配置は微妙に変わり得るし、磁気応答部材3のサイズも変わりうるので、希望の関数特性が得られるように各コイル配置を適宜調整したり、あるいは2次出力レベルを電気的増幅によって調整することにより、希望の振幅関数特性が最終的に得られるようにすることができる。従って、各2次コイル21?24の配置と磁気応答部材3のサイズは重要ではあるが、絶対的精度を要求されるわけではなく、設計上適宜に設定若しくは変更できる。
なお、明細書中では、表記の都合上、反転を示すバー記号は「/(スラッシュ)」で記載するが、これは、図中のバー記号に対応している。
【0009】
磁気応答部材3は、コイル部2の各種(s,c,/s,/c)に対応する2次コイル21?24に対する近接位置関係に応じて、該2次コイルと対応する1次コイルとの間の磁気結合(すなわち電磁誘導結合)を変化させるものであり、その近接位置関係に応じた出力信号がコイル部2から出力されるようにするものである。円板からなる磁気応答部材3の直径は、各極コイルの配置間隔と同様に、レゾルバタイプの位置検出原理に従って適切に設計される。図1(a)の例は一例にすぎず、直径寸法の適量の減少又は増加が設計上可能である。
【0010】
上記構成からなる傾斜検出装置10が、検出対象20における所定の位置に固定される。すなわち、ケーシング1の円形スペース1aの径方向が、検出しようとする傾斜の向きに沿うように、該傾斜検出装置10を検出対象20に取付ける。例えば、図1(a)のように、検出対象20の傾斜角θが0のとき、コサイン極cが真下に位置するように取付ける。図2に示すように、検出対象20が適宜の角度θで傾斜すると、ケーシング1がそれに伴って傾斜し、その内部の磁気応答部材3は自重によってケーシング1に対して相対的に変位し、その結果、コイル部2の各種に対する磁気応答部材3の相対的位置が変化し、これに応じてコイル部2の出力信号が該傾斜角θに対応する値を示すものとなる。
【0011】
すなわち、傾斜角θに応じて、磁気応答部材3の各2次コイル21?24に対する対応位置が変化することにより、各種の1次コイル11?14と2次コイル21?24間の磁気結合が該傾斜角θに応じて変化され、これにより、該傾斜角θに応じて振幅変調された誘導出力交流信号が、各2次コイル21?24の配置のずれに応じて異なる振幅関数特性で、各2次コイル21?24に誘起される。レゾルバ原理に従う検出を行なう場合、各1次コイル11?14は同相の交流信号で励磁する。各2次コイル21?24に誘起される各誘導出力交流信号は、1次コイル11?14が1相の交流信号によって共通に励磁されるが故に、その電気的位相が同相であり、その振幅関数が磁気応答部材3の各2次コイル21?24に対する接近または遠ざかりに従ってそれぞれ変化する。
【0012】
図3は、コイル部2の1次及び2次コイルの回路図であり、1次コイル11?14には共通の励磁交流信号(説明の便宜上、sinωtで示す)が印加される。この1次コイルの励磁に応じて、傾斜角θに対応して変化する各極に対する磁気応答部材3の相対的位置に応じた振幅値を持つ交流信号が各2次コイル21?24に誘導される。夫々の誘導電圧レベルは該傾斜角θに対応して2相の関数特性sinθ,cosθ及びその逆相の関数特性-sinθ,-cosθを示す。すなわち、各2次コイル21?24の誘導出力信号は、該傾斜角θに対応して2相の関数特性sinθ,cosθ及びその逆相の関数特性-sinθ,-cosθで振幅変調された状態で夫々出力される。説明の便宜上、コイルの巻数等、その他の条件に従う係数は省略し、2次コイル21をサイン相として、その出力信号を「sinθ・sinωt」で示し、2次コイル22をコサイン相として、その出力信号を「cosθ・sinωt」で示す。また、2次コイル23をマイナス・サイン相として、その出力信号を「-sinθ・sinωt」で示し、2次コイル24をマイナス・コサイン相として、その出力信号を「-cosθ・sinωt」で示す。サイン相とマイナス・サイン相の誘導出力を差動的に合成することによりサイン関数の振幅関数を持つ第1の出力交流信号A(=2sinθ・sinωt)が得られる。また、コサイン相とマイナス・コサイン相の誘導出力を差動的に合成することによりコサイン関数の振幅関数を持つ第2の出力交流信号B(=2cosθ・sinωt)が得られる。なお、表現の簡略化のために、係数「2」を省略して、以下では、第1の出力交流信号Aを「sinθ・sinωt」で表わし、第2の出力交流信号Bを「cosθ・sinωt」で表わす。
【0013】
こうして、傾斜角θに対応する第1の関数値sinθを振幅値として持つ第1の出力交流信号A=sinθ・sinωtと、同じ傾斜角θに対応する第2の関数値cosθを振幅値として持つ第2の出力交流信号B=cosθ・sinωtとが出力される。このようなコイル構成によれば、回転型位置検出装置として従来知られたレゾルバにおいて得られるのと同様の、同相交流であって2相の振幅関数を持つ2つの出力交流信号A,B(サイン出力とコサイン出力)をコイル部2から得ることができることが理解できる。
このコイル部2から出力される2相の出力交流信号(A=sinθ・sinωtとB=cosθ・sinωt)は、従来知られたレゾルバの出力と同様の使い方をすることができる。例えば、図3に示すように、コイル部2の出力交流信号A,Bを適切なディジタル位相検出回路40に入力し、前記サイン関数sinθとコサイン関数cosθの位相値θをディジタル位相検出方式によって検出し、傾斜角θのディジタルデータDθを得るようにすることができる。ディジタル位相検出回路40で採用するディジタル位相検出方式としては、公知のR-D(レゾルバ-ディジタル)コンバータを適用してもよいし、本発明者らによって開発済の新方式を採用してもよい。
【0014】
磁気応答部材3の形状は真円に限らず、半円又はその他の部分円形状であってもよい。また、磁気応答部材3は固形のものに限らず、例えば磁性流体や磁性粉体のような非固定形状の物体からなるものであってもよい。
図4は磁気応答部材3のいくつかの変更例を示すもので、(a)は部分円形状の固形の磁気応答部材3aを示す。(b)は適量の磁性流体3bを磁気応答部材3として使用する例を示す。(c)は適量の磁性粉体3cを磁気応答部材3として使用する例を示す。なお、磁性粉体3cは、微粉体に限らず、砂鉄のような粒体であってもよい。また、特に図示しないが、利用目的によっては、図1のような固形の磁気応答部材3を使用する場合にケーシング1のスペース1a内に非磁性の粘性流体を封入し、傾斜に応じた磁気応答部材3の動きに対して適量のダンプ作用を及ぼすようにしてもよい。
【0015】
なお、コイル部2における1次コイルの配置は、該1次コイルによって励起した磁界を対応する各2次コイルに及ぼすことができるような配置であれば適宜の配置であってよい。上記のように個々の2次コイル21?24に対応して同じ位置に重複して個別の1次コイル11?14をそれぞれ設ける例に限らず、図5に示すように、ケーシング1内の円形スペース1aの最外周に沿ってすべての2次コイル21?24を包囲するように1個の1次コイル15を設けてもよい。あるいは、いくつかのグループに分けて複数の2次コイルを包囲するように複数の1次コイルを設けてもよい。
【0016】
ケーシング1内の、磁気応答部材3を収納するためのスペースの形状も、上記実施例のような円形スペース1aに限らず、傾斜検出の目的を果たし得るものであれば、どのような形状であってもよい。例えば、ケーシング1内スペースの縁部が凹曲線を成していて、そこに沿って磁気応答部材3が動くようになっていればよい。
図6は、ケーシング1内の、磁気応答部材3を収納するためのスペース1bを、ドーナツ形状にした例を示し、(a)は正面略図、(b)は側面略図である。このような場合、磁気応答部材3の形態は、図4に示したような部分円形状あるいは流体又は粉体がよい。この場合も、1次コイルの配置は図5のような変形やその他の変形が可能である。
また、上記各実施例において、コイル部2における2次コイルの数及び配置も様々な変形や設計変更が可能である。
【0017】
以上のような傾斜検出装置10は一方向のみについての傾斜を検出するものである。すなわち、ケーシング1のスペース1a,1b内での磁気応答部材3の動きの方向に沿う一方向の傾斜を検出することができる。例えば、建設機械の作業アームの傾斜検出のように、目的の傾斜方向が所定の一方向に決まっている場合は、この傾斜検出装置10を1つ設ければよい。
しかし、車体の前後の傾斜と左右横方向の傾斜を検出するような場合のように、少なくとも2方向についての傾斜を検出したい場合は、この傾斜検出装置10を少なくとも2個互いに異なる所定の方向に配置するようにすればよい。例えば、図7は、その一例を略示するものであり、互いに90度の角度で交差するように2つの傾斜検出装置10X,10Yを検出対象20に配置する。各傾斜検出装置10X,10Yは、上述した傾斜検出装置10と同一構成である。これによって、検出対象20のX軸方向の傾斜(傾斜成分)を傾斜検出装置10Xで検出することができ、検出対象20のY軸方向の傾斜(傾斜成分)を傾斜検出装置10Yで検出することができる。
【0018】
図8は、ディジタル位相検出回路40として、公知のR-D(レゾルバ-ディジタル)コンバータを適用した例を示す。コイル部2の2次コイル21?24から出力されるレゾルバタイプの2相の出力交流信号A=sinθ・sinωtとB=cosθ・sinωtが、それぞれアナログ乗算器30,31に入力される。順次位相発生回路32では位相角φのディジタルデータを発生し、サイン・コサイン発生回路33から該位相角φに対応するサイン値sinφとコサイン値cosφのアナログ信号を発生する。乗算器30では、サイン相の出力交流信号A=sinθ・sinωtに対してサイン・コサイン発生回路33からのコサイン値cosφを乗算し、「cosφ・sinθ・sinωt」を得る。もう一方の乗算器31では、コサイン相の出力交流信号B=cosθ・sinωtに対してサイン・コサイン発生回路33からのサイン値sinφを乗算し、「sinφ・cosθ・sinωt」を得る。引算器34で、両乗算器30,31の出力信号の差を求め、この引算器34の出力によって順次位相発生回路32の位相発生動作を次のように制御する。すなわち、順次位相発生回路32の発生位相角φを最初は0にリセットし、以後順次増加していき、引算器34の出力が0になったとき増加を停止する。引算器34の出力が0になるのは、「cosφ・sinθ・sinωt」=「sinφ・cosθ・sinωt」が成立したときであり、すなわち、φ=θが成立し、順次位相発生回路32から位相角φのディジタルデータが出力交流信号A,Bの振幅関数の位相角θのディジタル値に一致している。従って、任意のタイミングで周期的にリセットトリガを与えて順次位相発生回路32の発生位相角φを0にリセットして、該位相角φのインクリメントを開始し、引算器34の出力が0になったとき、該インクリメントを停止し、位相角θのディジタルデータを得る。
なお、順次位相発生回路32をアップダウンカウンタ及びVCOを含んで構成し、引算器34の出力によってVCOを駆動してアップダウンカウンタのアップ/ダウンカウント動作を制御するようにすることが知られており、その場合は、周期的なリセットトリガは不要である。
【0019】
温度変化等によってコイル部2の1次及び2次コイルのインピーダンスが変化することにより2次出力交流信号における電気的交流位相ωtに誤差が生じるが、上記のような位相検出回路においては、sinωtの位相誤差は自動的に相殺されるので、好都合である。これに対して、従来知られた2相交流信号(例えばsinωtとcosωt)で励磁することにより1相の出力交流信号に電気的位相シフトが生じるようにした方式では、そのような温度変化等に基づく出力位相誤差を除去することができない。
ところで、上記のような従来のR-Dコンバータからなる位相検出回路は、追従比較方式であるため、φを追従カウントするときのクロック遅れが生じ、応答性が悪い、という問題がある。
そこで、本発明者等は、以下に述べるような新規な位相検出回路を開発したので、これを使用すると好都合である。
【0020】
図9は、本発明に係る傾斜検出装置に適用される新規なディジタル位相検出回路40の一実施形態を示している。
図9において、検出回路部41では、カウンタ42で所定の高速クロックパルスCKをカウントし、そのカウント値に基づき励磁信号発生回路43から励磁用の交流信号(例えばsinωt)を発生し、コイル部2の1次コイル11?14与える。カウンタ42のモジュロ数は、励磁用の交流信号の1周期に対応しており、説明の便宜上、そのカウント値の0は、基準のサイン信号sinωtの0位相に対応しているものとする。コイル部2の2次コイル21?24から出力される2相の出力交流信号A=sinθ・sinωtとB=cosθ・sinωtは、検出回路部41に入力される。
【0021】
検出回路部41において、第1の交流出力信号A=sinθ・sinωtが位相シフト回路44に入力され、その電気的位相が所定量位相シフトされ、例えば90度進められて、位相シフトされた交流信号A’=sinθ・cosωtが得られる。また、検出回路部41においては加算回路45と減算回路46とが設けられており、加算回路45では、位相シフト回路44から出力される上記位相シフトされた交流信号A’=sinθ・cosωtとコイル部10の2次コイル21?24から出力され第2の交流出力信号B=cosθ・sinωtとが加算され、その加算出力として、B+A’=cosθ・sinωt+sinθ・cosωt=sin(ωt+θ)なる略式で表わせる第1の電気的交流信号Y1が得られる。減算回路46では、上記位相シフトされた交流信号A’=sinθ・cosωtと上記第2の交流出力信号B=cosθ・sinωtとが減算され、その減算出力として、B-A’=cosθ・sinωt-sinθ・cosωt=sin(ωt-θ)なる略式で表わせる第2の電気的交流信号Y2が得られる。このようにして、検出対象傾斜角θに対応して正方向にシフトされた電気的位相角(+θ)を持つ第1の電気的交流信号Y1=sin(ωt+θ)と、同じ前記検出対象位置(x)に対応して負方向にシフトされた電気的位相角(-θ)を持つ第2の電気的交流信号Y2=sin(ωt-θ)とが、電気的処理によって夫々得られる。
【0022】
加算回路45及び減算回路46の出力信号Y1,Y2は、夫々ゼロクロス検出回路47,48に入力され、それぞれのゼロクロスが検出される。ゼロクロスの検出の仕方としては、例えば、各信号Y1,Y2の振幅値が負から正に変化するゼロクロスつまり0位相を検出する。各回路47,48で検出したゼロクロス検出パルスつまり0位相検出パルスは、ラッチパルスLP1,LP2として、ラッチ回路49,50に入力される。ラッチ回路49,50では、カウンタ42のカウント値を夫々のラッチパルスLP1,LP2のタイミングでラッチする。前述のように、カウンタ42のモジュロ数は励磁用の交流信号の1周期に対応しており、そのカウント値の0は基準のサイン信号sinωtの0位相に対応しているものとしたので、各ラッチ回路49,50にラッチしたデータD1,D2は、それぞれ、基準のサイン信号sinωtに対する各出力信号Y1,Y2の位相ずれに対応している。各ラッチ回路49,50の出力は誤差計算回路51に入力されて、「(D1+D2)/2」の計算が行なわれる。なお、この計算は、実際は、「D1+D2」のバイナリデータの加算結果を1ビット下位にシフトすることで行われるようになっていてよい。
【0023】
ここで、コイル部2と検出回路部41間の配線ケーブル長の長短による影響や、コイル部2の各1次及び2次コイルにおいて温度変化等によるインピーダンス変化が生じていることを考慮して、その出力信号の位相変動誤差を「±d」で示すと、検出回路部41における上記各信号は次のように表わされる。
A=sinθ・sin(ωt±d)
A’=sinθ・cos(ωt±d)
B=cosθ・sin(ωt±d)
Y1=sin(ωt±d+θ)
Y2=sin(ωt±d-θ)
D1=±d+θ
D2=±d-θ
【0024】
すなわち、各位相ずれ測定データD1,D2は、基準のサイン信号sinωtを基準位相に使用して位相ずれカウントを行なうので、上記のように位相変動誤差「±d」を含む値が得られてしまう。そこで、誤差計算回路51において、「(D1+D2)/2」の計算を行なうことにより、
(D1+D2)/2={(±d+θ)+(±d-θ)}/2
=±2d/2=±d
により、位相変動誤差「±d」を算出することができる。
【0025】
誤差計算回路51で求められた位相変動誤差「±d」のデータは、減算回路52に与えられ、一方の位相ずれ測定データD1から減算される。すなわち、減算回路52では、「D1-(±d)」の減算が行なわれるので、
D1-(±d)=±d+θ-(±d)=θ
となり、位相変動誤差「±d」を除去した正しい検出位相差θを示すディジタルデータが得られる。このように、本発明によれば、位相変動誤差「±d」が相殺されて、検出対象傾斜角θに対応する正しい位相差θのみが抽出されることが理解できる。
【0026】
この点を図10を用いて更に説明する。図10においては、位相測定の基準となるサイン信号sinωtと前記第1及び第2の交流信号Y1,Y2の0位相付近の波形を示しており、同図(a)は位相変動誤差がプラス(+d)の場合、(b)はマイナスの場合(-d)を示す。同図(a)の場合、基準のサイン信号sinωtの0位相に対して第1の信号Y1の0位相は「θ+d」だけ進んでおり、これに対応する位相差検出データD1は「θ+d」に相当する位相差を示す。また、基準のサイン信号sinωtの0位相に対して第2の信号Y2の0位相は「-θ+d」だけ遅れており、これに対応する位相差検出データD2は「-θ+d」に相当する位相差を示す。この場合、誤差計算回路51では、
(D1+D2)/2={(+d+θ)+(+d-θ)}/2
=+2d/2=+d
により、位相変動誤差「+d」を算出する。そして、減算回路52により、
D1-(+d)=+d+θ-(+d)=θ
が計算され、正しい位相差θが抽出される。
【0027】
図10(b)の場合、基準のサイン信号sinωtの0位相に対して第1の信号Y1の0位相は「θ-d」だけ進んでおり、これに対応する位相差検出データD1は「θ-d」に相当する位相差を示す。また、基準のサイン信号sinωtの0位相に対して第2の信号Y2の0位相は「-θ-d」だけ遅れており、これに対応する位相差検出データD2は「-θ-d」に相当する位相差を示す。この場合、誤差計算回路51では、
(D1+D2)/2={(-d+θ)+(-d-θ)}/2
=-2d/2=-d
により、位相変動誤差「-d」を算出する。そして、減算回路52により、
D1-(-d)=-d+θ-(-d)=θ
が計算され、正しい位相差θが抽出される。
なお、減算回路52では。「D2-(±d)」の減算を行なうようにしてもよく、原理的には上記と同様に正しい位相差θを反映するデータ(-θ)が得られることが理解できるであろう。
【0028】
また、図10からも理解できるように、第1の信号Y1と第2の信号Y2との間の電気的位相差は2θであり、常に、両者における位相変動誤差「±d」を相殺した正確な位相差θの2倍値を示していることになる。従って、図9におけるラッチ回路49,50及び誤差計算回路51及び減算回路52等を含む回路部分の構成を、信号Y1,Y2の電気的位相差2θをダイレクトに求めるための構成に適宜変更するようにしてもよい。例えば、ゼロクロス検出回路47から出力される第1の信号Y1の0位相に対応するパルスLP1の発生時点から、ゼロクロス検出回路48から出力される第2の信号Y2の0位相に対応するパルスLP2の発生時点までの間を適宜の手段でゲートし、このゲート期間をカウントすることにより、位相変動誤差「±d」を相殺した、電気的位相差(2θ)に対応するディジタルデータを得ることができ、これを1ビット下位にシフトすれば、θに対応するデータが得られる。
【0029】
ところで、上記実施例では、+θをラッチするためのラッチ回路49と、-θをラッチするためのラッチ回路50とでは、同じカウンタ42の出力をラッチするようにしており、ラッチしたデータの正負符号については特に言及していない。しかし、データの正負符号については、本発明の趣旨に沿うように、適宜の設計的処理を施せばよい。例えば、カウンタ42のモジュロ数が4096(10進数表示)であるとすると、そのディジタルカウント0?4095を0度?360度の位相角度に対応させて適宜に演算処理を行なうようにすればよい。最も単純な設計例は、カウンタ42のカウント出力の最上位ビットを符号ビットとし、ディジタルカウント0?2047を+0度?+180度に対応させ、ディジタルカウント2048?4095を-180度?-0度に対応させて、演算処理を行なうようにしてもよい。あるいは、別の例として、ラッチ回路50の入力データ又は出力データを2の補数に変換することにより、ディジタルカウント4095?0を-360度?-0度の負の角度データ表現に対応させるようにしてもよい。
【0030】
ところで、傾斜角θが静止状態のときは特に問題ないのであるが、検出対象傾斜角θが時間的に変化するときは、それに対応する位相角θも時間的に変動することになる。その場合、加算回路45及び減算回路46の各出力信号Y1,Y2の位相ずれ量θが一定値ではなく、移動速度に対応して時間的に変化する動特性を示すものとなり、これをθ(t)で示すと、各出力信号Y1,Y2は、
Y1=sin{ωt±d+θ(t)}
Y2=sin{ωt±d-θ(t)}
となる。すなわち、基準信号sinωtの周波数に対して、進相の出力信号Y1は+θ(t)に応じて周波数が高くなる方向に周波数遷移し、遅相の出力信号Y2は-θ(t)に応じて周波数が低くなる方向に周波数遷移する。このような動特性の下においては、基準信号sinωtの1周期毎に各信号Y1,Y2の周期が互いに逆方向に次々に遷移していくので、各ラッチ回路49,50における各ラッチデータD1,D2の計測時間基準が異なってくることになり、両データD1,D2を単純に回路51,52で演算するだけでは、正確な位相変動誤差「±d」を得ることができない。
【0031】
このような問題を回避するための最も簡単な方法は、図9の構成において、傾斜角θが時間的に動いているときの出力を無視し、静止状態のときの出力のみを用いて、静止状態が得られた時の傾斜角θを測定するように装置の機能を限定することである。すなわち、そのような限定された目的のために本発明を実施するようにしてもよいものである。
しかし、検出対象傾斜角θが時間的に変化している最中であっても時々刻々の該検出対象傾斜角θに対応する位相差θを正確に検出できるようにすることが望ましい。そこで、上記のような問題点を解決するために、検出対象傾斜角θが時間的に変化している最中であっても時々刻々の該検出対象傾斜角θに対応する位相差θを検出できるようにした改善策について図11を参照して説明する。
【0032】
図11は、図9の検出回路部41における誤差計算回路51と減算回路52の部分の変更例を抽出して示しており、他の図示していない部分の構成は図9と同様であってよい。検出対象傾斜角θが時間的に変化している場合における該傾斜角θに対応する位相差θを、+θ(t)および-θ(t)で表わすと、各出力信号Y1,Y2は前記のように表わせる。そして、夫々に対応してラッチ回路49,50で得られる位相ずれ測定値データD1,D2は、
D1=±d+θ(t)
D2=±d-θ(t)
となる。
この場合、±d+θ(t)は、θの時間的変化に応じて、プラス方向に0度から360度の範囲で繰り返し時間的に変化してゆく。また、±d-θ(t)は、θの時間的変化に応じて、マイナス方向に360度から0度の範囲で繰り返し時間的に変化してゆく。従って、±d+θ(t)≠±d-θ(t)のときもあるが、両者の変化が交差するときもあり、そのときは±d+θ(t)=±d-θ(t)が成立する。このように、±d+θ(t)=±d-θ(t)が成立するときは、各出力信号Y1,Y2の電気的位相が一致しており、かつ、夫々のゼロクロス検出タイミングに対応するラッチパルスLP1,LP2の発生タイミングが一致していることになる。
【0033】
図11において、一致検出回路53は、各出力信号Y1,Y2ののゼロクロス検出タイミングに対応するラッチパルスLP1,LP2の発生タイミングが、一致したことを検出し、この検出に応答して一致検出パルスEQPを発生する。一方、時変動判定回路54では、適宜の手段により(例えば一方の位相差測定データD1の値の時間的変化の有無を検出する等の手段により)、検出対象傾斜角θが時間的に変化するモードであることを判定し、この判定に応じて時変動モード信号TMを出力する。
誤差計算回路51と減算回路52との間にセレクタ55が設けられており、上記時変動モード信号TMが発生されていないとき、つまりTM=“0”すなわち検出対象傾斜角θが時間的に変化していないとき、セレクタ入力Bに加わる誤差計算回路51の出力を選択して減算回路52に入力する。このようにセレクタ55の入力Bが選択されているときの図11の回路は、図9の回路と等価的に動作する。すなわち、検出対象傾斜角θが静止しているときは、誤差計算回路51の出力データがセレクタ55の入力Bを介して減算回路52に直接的に与えられ、図9の回路と同様に動作する。
【0034】
一方、上記時変動モード信号TMが発生されているとき、つまりTM=“1”すなわち検出対象傾斜角θが時間的に変化しているときは、セレクタ55の入力Aに加わるラッチ回路56の出力を選択して減算回路52に入力する。上記時変動モード信号TMが“1”で、かつ前記一致検出パルスEQPが発生されたとき、アンドゲート57の条件が成立して、該一致検出パルスEQPに応答するパルスがアンドゲート57から出力され、ラッチ回路56に対してラッチ命令を与える。ラッチ回路56は、このラッチ命令に応じてカウンタ42の出力カウントデータをラッチする。ここで、一致検出パルスEQPが生じるときは、カウンタ42の出力をラッチ回路49,50に同時にラッチすることになるので、D1=D2であり、ラッチ回路56にラッチするデータは、D1又はD2(ただしD1=D2)に相当している。
【0035】
また、一致検出パルスEQPは、各出力信号Y1,Y2のゼロクロス検出タイミングが一致したとき、すなわち「±d+θ(t)=±d-θ(t)」が成立したとき、発生されるので、これに応答してラッチ回路56にラッチされるデータは、D1又はD2(ただしD1=D2)に相当しているが故に、
(D1+D2)/2
と等価である。このことは、
(D1+D2)/2=[{±d+θ(t)}+{±d-θ(t)}]/2
=2(±d)/2=±d
であることを意味し、ラッチ回路56にラッチされたデータは、位相変動誤差「±d」を正確に示しているものであることを意味する。
【0036】
こうして、検出対象傾斜角θが時間的に変動しているときは、位相変動誤差「±d」を正確に示すデータが一致検出パルスEQPに応じてラッチ回路56にラッチされ、このラッチ回路56の出力データがセレクタ55の入力Aを介して減算回路52に与えられる。従って、減算回路52では、位相変動誤差「±d」を除去した検出対象傾斜角θのみに正確に応答するデータθ(時間的に変動する場合はθ(t))を得ることができる。
なお、図11において、アンドゲート57を省略して、一致検出パルスEQPを直接的にラッチ回路56のラッチ制御入力に与えるようにしてもよい。
また、ラッチ回路56には、カウンタ42の出力カウントデータに限らず、図11で破線で示すように誤差計算回路51の出力データ「±d」をラッチするようにしてもよい。その場合は、一致検出パルスEQPの発生タイミングに対して、それに対応する誤差計算回路51の出力データの出力タイミングが、ラッチ回路49,50及び誤差計算回路51の回路動作遅れの故に、幾分遅れるので、適宜の時間遅れ調整を行なった上で、誤差計算回路51の出力をラッチ回路56にラッチするようにするとよい。
また、動特性のみを考慮して検出回路部41を構成する場合は、図11の回路51及びセレクタ55と図1の一方のラッチ回路49又は50を省略してもよいことが、理解できるであろう。
【0037】
図12は、位相変動誤差「±d」を相殺することができる位相差検出演算法についての別の実施例を示す。
コイル部2の2次コイル21?24から出力されるレゾルバタイプの前記第1及び第2の交流出力信号A,Bは、検出回路部60に入力され、図9の例と同様に、第1の交流出力信号A=sinθ・sinωtが位相シフト回路44に入力され、その電気的位相が所定量位相シフトされて、位相シフトされた交流信号A’=sinθ・cosωtが得られる。また、減算回路46では、上記位相シフトされた交流信号A’=sinθ・cosωtと上記第2の交流出力信号B=cosθ・sinωtとが減算され、その減算出力として、B-A’=cosθ・sinωt-sinθ・cosωt=sin(ωt-θ)なる略式で表わせる電気的交流信号Y2が得られる。減算回路46の出力信号Y2はゼロクロス検出回路48に入力され、ゼロクロス検出に応じてラッチパルスLP2が出力され、ラッチ回路50に入力される。
【0038】
図12の実施例が図9の実施例と異なる点は、検出対象傾斜に対応する電気的位相ずれを含む交流信号Y2=sin(ωt-θ)から、その位相ずれ量θを測定する際の基準位相が相違している点である。図9の例では、位相ずれ量θを測定する際の基準位相は、基準のサイン信号sinωtの0位相であり、これは、傾斜検出装置10のコイル部2に入力されるものではないので、温度変化等によるコイルインピーダンス変化やその他の各種要因に基づく位相変動誤差「±d」を含んでいないものである。そのために、図9の例では、2つの交流信号Y1=sin(ωt+θ)及びY2=sin(ωt-θ)を形成し、その電気的位相差を求めることにより、位相変動誤差「±d」を相殺するようにしている。これに対して、図12の実施例では、コイル部2から出力される第1及び第2の交流出力信号A,Bを基にして、位相ずれ量θを測定する際の基準位相を形成し、該基準位相そのものが上記位相変動誤差「±d」を含むようにすることにより、上記位相変動誤差「±d」を排除するようにしている。
【0039】
すなわち、検出回路部60において、コイル部2から出力された前記第1及び第2の交流出力信号A,Bがゼロクロス検出回路61,62に夫々入力され、それぞれのゼロクロスが検出される。なお、ゼロクロス検出回路61,62は、入力信号A,Bの振幅値が負から正に変化するゼロクロス(いわば0位相)と正から負に変化するゼロクロス(いわば180度位相)のどちらにでも応答してゼロクロス検出パルスを出力するものとする。これは信号A,Bの振幅の正負極性を決定するsinθとcosθがθの値に応じて任意に正又は負となるため、両者の合成に基づき360度毎のゼロクロスを検出するためには、まず180度毎のゼロクロスを検出する必要があるためである。両ゼロクロス検出回路61,62から出力されるゼロクロス検出パルスがオア回路63でオア合成され、該オア回路63の出力が適宜の1/2分周パルス回路64(例えばT-フリップフロップのような1/2分周回路とパルス出力用アンドゲートを含む)に入力されて、1つおきに該ゼロクロス検出パルスが取り出され、360度毎のゼロクロスすなわち0位相のみに対応するゼロクロス検出パルスが基準位相信号パルスRPとして出力される。この基準位相信号パルスRPは、カウンタ65のリセット入力に与えられる。カウンタ65は所定のクロックパルスCKを絶えずカウントするものであるが、そのカウント値が、前記基準位相信号パルスRPに応じて繰返し0にリセットされる。このカウンタ65の出力がラッチ回路50に入力され、前記ラッチパルスLP2の発生タイミングで、該カウント値が該ラッチ回路50にラッチされる。ラッチ回路50にラッチしたデータDが、検出対象傾斜角θに対応した位相差θの測定データとして出力される。
【0040】
コイル部2から出力される第1及び第2の交流出力信号A,Bは、それぞれ、A=sinθ・sinωt、B=cosθ・sinωt、であり、電気的位相は同相である。従って、同じタイミングでゼロクロスが検出されるはずであるが、振幅係数がサイン関数sinθ及びコサイン関数cosθで変動するので、どちらかの振幅レベルが0か又は0に近くなる場合があり、そのような場合は、一方については、事実上、ゼロクロスを検出することができない。そこで、この実施例では、2つの交流出力信号A=sinθ・sinωt、B=cosθ・sinωtのそれぞれについてゼロクロス検出処理を行ない、両者のゼロクロス検出出力をオア合成することにより、どちらか一方が振幅レベル小によってゼロクロス検出不能であっても、他方の振幅レベル大の方のゼロクロス検出出力信号を利用できるようにしたことを特徴としている。
【0041】
図12の例の場合、コイル部2のコイルインピーダンス変化等による位相変動誤差が、例えば「-d」であるとすると、減算回路46から出力される交流信号Y2は、図13の(a)に示すように、Y2=sin(ωt-d-θ)となる。この場合、コイル部2の出力信号A,Bは、角度θに応じた振幅値sinθ及びcosθを夫々持ち、図13の(b)に例示するように、A=sinθ・sin(ωt-d)、B=cosθ・sin(ωt-d)、というように位相変動誤差分を含んでいる。従って、このゼロクロス検出に基づいて図13の(c)のようなタイミングで得られる基準位相信号パルスRPは、本来の基準のサイン信号sinωtの0位相から位相変動誤差-dだけずれたものである。従って、この基準位相信号パルスRPを基準として、減算回路46の出力交流信号Y2=sin(ωt-d-θ)の位相ずれ量を測定すれば、位相変動誤差-dを除去した正確な値θが得られることになる。
【0042】
なお、コイル部2の配線長等の装置条件が定まると、そのインピーダンス変化は主に温度に依存することになる。そうすると、上記位相変動誤差±dは、この傾斜検出装置が配備された周辺環境の温度を示すデータに相当する。従って、図9の実施例のような位相変動誤差±dを演算する回路51を有するものにおいては、そこで求めた位相変動誤差±dのデータを温度検出データとして適宜出力することができる。従って、そのような本発明の構成によれば、1つの傾斜検出装置によって検出対象の傾斜を検出することができるのみならず、該傾斜検出装置の周辺環境の温度を示すデータをも得ることができる、という優れた効果を有するものである。勿論、温度変化等によるセンサ側のインピーダンス変化や配線ケーブル長の長短の影響を受けることなく、検出対象の傾斜に応答した高精度の検出が可能となる、という優れた効果をも奏するものである。また、図9や図12の例は、交流信号における位相差を測定する方式であるため、図8のような検出法に比べて、高速応答性にも優れた検出を行なうことができる、という優れた効果を奏する。
【0043】
なお、上記各実施例において、コイル部2と磁気応答部材3による検出原理を、公知の位相シフトタイプ位置検出原理によって構成してもよい。例えば、図3に示されたコイル部2において、1次コイルと2次コイルの関係を逆にして、サイン相のコイル21とマイナス・サイン相のコイル23を互いに逆相のサイン信号sinωt,-sinωtによって励磁し、コサイン相のコイル22とマイナス・コサイン相のコイル24を互いに逆相のコサイン信号cosωt,-cosωtによって励磁し、コイル11?14から検出対象傾斜θに応じた電気的位相シフトθを含む出力信号sin(ωt-θ)を得るようにしてもよい。
あるいは、コイル部2と磁気応答部材3による検出原理を、公知の差動トランス型の位置検出原理に基づいてアナログ検出出力を得るように構成してもよい。
【0044】
あるいは、上記各実施例において、コイル部2の構成として、1次コイルと2次コイルの対を含むように構成せずに、1つのコイルのみによって構成し、該1つのコイルを所定の交流信号によって定電圧駆動し、該コイルへの磁性体(磁気応答部材3)の侵入量に応じて生じるインダクタンス変化に基づく電流変化を計測することにより、傾斜θの検出データを得るようにしてもよい。その場合、該電流変化に応答する出力信号の振幅変化を測定する方法、あるいは該電流変化に応答するコイル各端部での出力信号間の位相変化を測定する方法などによって所要の測定を行うことができる。
【0045】
なお、磁気応答部材3の形状は、上記実施例のような円板や部分円形状に限らず、球体あるいはその他任意の形状であってよい。また、材質も、鉄等の磁性体に限らず、銅のような良導電体であってもよい。良導電体を磁気応答部材として使用した場合は渦電流損によって磁気抵抗変化が得られ、1次及び2次コイル間の結合係数が変化されることは既に知られている。また、磁性体と良導電体の組合せによって、相補的に磁気結合係数の変化率を高めて検出感度を向上させることも知られているので、これを採用してもよい。
その他、コイル部2と磁気応答部材3による検出手段の構成は任意の変形が可能である。
そのほか、上記実施例で示した新規かつ有意義な構成の一部を選択的に採用して傾斜検出装置を構成してもよい。
【0046】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によれば、ケーシングの側面にコイル部が設けられており、該ケーシングの内部において移動自在に収納された磁気応答部材が、該ケーシングの傾斜時において自重により該ケーシングに対して相対的に変位し、これによって、該ケーシングの側面に対する磁気応答部材の位置、つまりコイル部に対する磁気応答部材の相対的位置、が変位し、これに応じた出力信号をコイル部より得ることにより、検出対象の傾斜を検出することができるものである。従って、非接触で傾斜検出を行なうことができ、耐久性や耐環境性にも優れており、従来にない有用な傾斜検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る傾斜検出装置の一実施例を示す図。
【図2】図1の検出動作を説明する図。
【図3】図1におけるコイル部の構成例を示す回路図。
【図4】図1における磁気応答部材の変更例を示す図。
【図5】図1における1次コイルの配置の変更例を示す図。
【図6】図1におけるケーシング内スペースの変更例を示す図。
【図7】図1に示した傾斜検出装置を直交関係で2つ組合せて2軸方向の傾斜を検出する例を示す略図。
【図8】本発明に係る傾斜検出装置に適用可能な位相検出タイプの測定回路の一例を示すブロック図。
【図9】本発明に係る傾斜検出装置に適用可能な位相検出タイプの測定回路の別の例を示すブロック図。
【図10】図9の動作説明図。
【図11】図9の回路に付加される変更例を示すブロック図。
【図12】本発明に係る傾斜検出装置に適用可能な位相検出タイプの測定回路の更に別の例を示すブロック図。
【図13】図12の動作説明図。
【符号の説明】
10,10X,10Y 傾斜検出装置
20 検出対象
1 ケーシング
2 コイル部
11?14,15 1次コイル
21?24 2次コイル
3 磁気応答部材
40 ディジタル位相検出回路
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2007-10-10 
出願番号 特願平9-368344
審決分類 P 1 41・ 851- Y (G01C)
P 1 41・ 853- Y (G01C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲うし▼田 真悟秋田 将行  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 中村 直行
上原 徹
登録日 2005-10-28 
登録番号 特許第3733399号(P3733399)
発明の名称 傾斜検出装置  
代理人 飯塚 義仁  
代理人 飯塚 義仁  

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