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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C23C
管理番号 1167903
審判番号 無効2004-80002  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-31 
確定日 2007-11-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3451334号「金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液及び表面調整方法」の特許無効審判事件についてされた平成17年2月25日付け審決に対し、知財高等裁判所において審決取消の判決(平成17年(行ケ)第10406号平成18年2月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3451334号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続きの経緯の概要
本件特許第3451334号に係る出願は、平成9年3月7日に特許出願され、平成15年7月18日に請求項1?10に係る発明について特許権の設定の登録がなされた。
その後、平成16年3月31日に日本ペイント株式会社(以下「請求人」という。)より、その請求項1?10に係る特許について、本件特許無効の審判請求がなされ、平成17年2月25日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされたところ、知的財産高等裁判所に出訴され(平成17年(行ケ)第10406号)、平成18年2月28日に審決を取り消す旨の判決が言い渡された。
その後、平成18年3月17日付けで訂正請求申立書が提出され、平成18年5月24日付けで訂正請求書が提出され、平成18年7月14日付けで請求人より弁駁書が提出され、平成18年7月26日付けで被請求人に対して審尋がなされ、これに対して、平成18年8月11日付けで被請求人より回答書が提出されたものである。

II.訂正の適否
(II-1)訂正の内容
上記平成18年5月24日付け訂正請求書による訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項a(特許請求の範囲の訂正)
(a-1)特許請求の範囲の、
「【請求項1】粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子と、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物と、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種と、を含有し、pHを4?13に調整したことを特徴とする金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項2】前記粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子の濃度が0.001?30g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項3】前記2価もしくは3価の金属がZn、Fe、Mn、Ni、Co、Ca、およびAlの中から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1または請求項2に記載の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項4】前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩の濃度が0.5?20g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項5】前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩がオルソりん酸塩、メタりん酸塩、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、およびホウ酸塩の中から選ばれた少なくとも1種の塩を含む、請求項1または請求項4に記載の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項6】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下である、請求項1に記載の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項7】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の濃度が0.001?5g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項8】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子がSi、B、Ti、Zr、Al、Sb、Mg、Se、Zn、Sn、Fe、Mo、およびVの酸化物の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項9】金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ該金属表面を請求項1?8のいずれか1項に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整方法。
【請求項10】金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ該金属表面をノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物と、請求項1?8に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整方法。」
を、次のとおりに訂正する。
「【請求項1】粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものと、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物と、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子と、を含有し、pHを4?13に調整したことを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液であって、前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下である、金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。」

訂正事項b(特許請求の範囲以外の訂正)
(b-1)発明の名称の「リン酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液及び表面調整方法」を、「リン酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」と訂正する。

(II-2)判断
訂正の目的、訂正の範囲、実質上の拡張・変更の有無について
訂正事項(a-1)は、(イ)請求項2?10を削除し、そして、これと共に、(ロ)請求項1中の「少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子」について、金属を限定して「少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むもの」とし、(ハ)「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種」について、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の4成分を削除して「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」に限定し、(ニ)「金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」について、金属のりん酸塩皮膜を限定して「金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」とし、さらに、(ホ)上記「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」について、その平均粒径を限定して「前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下である」とした点を追加したものである。
そして、訂正後の請求項1に係る発明は、元の請求項6に係る発明を、上記(ロ)?(ニ)の点で減縮した発明に該当するといえる。
また、訂正事項(b-1)は、訂正事項(a-1)の訂正にともない、不明りょうとなる記載の釈明を目的とするものといえる。
そして、本訂正は、訂正前の願書に添付した明細書、特に、その請求項1、3、6、段落【0014】、【0069】、及び【0071】の記載から見て、当該明細書に記載した事項の範囲内においてする訂正といえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとはいえない。
したがって、本訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び同条第5項で準用する特許法第126条第3、4項の規定に適合するものであり、その他、本訂正を認めないとすべき理由は見当たらないので、本訂正を認める。

III.本件発明
上記「II.訂正の適否」欄に記載したとおり、平成18年5月24日付け訂正請求書による訂正は認められ、よって、本件特許の請求項1に係る発明は、当該訂正請求書により訂正された明細書(以下、「明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載した事項により特定されるとおりの、次のものである。(以下、「本件発明」という。)
「【請求項1】粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものと、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物と、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子と、を含有し、pHを4?13に調整したことを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液であって、前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下である、金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。」

IV.請求人が主張する無効理由
(IV-1)補正後の無効理由
請求人は、本件発明についての特許を無効とする、との審決を求め、審判請求書及び平成18年7月14日付け弁駁書によれば、その理由は、以下のとおりである。
(i)本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができた発明であるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(ii)本件発明は、別件無効審判(無効2005-80072号)で、既に無効が確定しており、被請求人が有効性を争う余地はない。
(iii)本件発明は、甲第5?12号証に記載されたモンモリロナイトあるいはベントナイトの粒径を、甲第1号証に記載された発明に適用することにより、当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(IV-2)無効理由の補正について
無効理由(ii)及び(iii)は、上記弁駁書で新たに追加された、新たな無効理由を主張するものであるところ、別途「補正許否の決定」のとおり、無効理由(iii)を追加する補正は不許可となり、また、無効理由(ii)は、審理すべき無効理由を構成しないものである。
よって、無効理由(i)について、以下検討する。

V.被請求人の主張
被請求人は、本件発明についての特許は、審判請求人が主張する無効理由によって無効とされるべきものではない旨主張している。

VI.証拠方法
(VI-1)請求人が提出した証拠方法
請求人が提出した証拠方法中、以下の証拠方法には次の記載がある。
(A1)甲第1号証(欧州特許出願公開第117599号明細書(1984年9月5日公開)以下、日本語訳)
(A1-1)「1.りん酸塩処理前に化成反応を活性化させる成分を含有する水性前処理浴により金属表面を前処理する方法において、モンモリロナイトを含む前処理浴を金属表面に接触させることを特徴とする金属表面の前処理方法。」(第8頁第2?7行:請求項1)
2.モンモリロナイトをベントナイトの形で含む前処理浴を金属表面に接触させることを特徴とする請求項1に記載の方法。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.りん酸亜鉛溶液によるりん酸塩処理に先立って、微細に分散させたりん酸チタン又は微細に分散させた第三級りん酸亜鉛を含む前処理浴を金属表面に接触させることを特徴とする請求項1?3に記載の方法。
5.りん酸マンガン溶液によるりん酸塩処理に先立って、微細に分散させたりん酸マンガンを含む前処理浴を金属表面に接触させることを特徴とする請求項1?3に記載の方法。
6.りん酸マンガン溶液によるりん酸塩処理に先立って、微細に分散させたりん酸マンガン鉄(II)を含む前処理浴を金属表面に接触させることを特徴とする請求項1?3に記載の方法。」(第8頁:請求項1、2、4?6)
(A1-2)「りん酸亜鉛溶液によるりん酸塩処理の化成反応を活性化させるためには、微細に分散されたりん酸チタン、第三級りん酸亜鉛(ホパイト)及び第三級りん酸亜鉛鉄(II)(ホスホフィライト)を含む前処理浴での前処理が適切であることが従来知られている。りん酸マンガン溶液中での層形成は、微細に分散されたりん酸マンガン、例えばりん酸マンガン鉄(II)(フローリット)を含む水性前処理浴で処理することにより促進され得る。(米国特許第2456947号明細書、ドイツ連邦共和国特許第1521889号明細書、ドイツ連邦共和国特許第1546070号明細書、米国特許第2310239号明細書、米国特許第3864139号明細書、ドイツ連邦共和国特許出願公開第2247888号明細書、ドイツ連邦共和国特許出願公開第2125963号明細書)」(第1頁第23行?第2頁第9行)
(A1-3)「従来の前処理浴を実際に使うと、時間の経過とともにその効果が低下し、新たに化成反応を活性化させる成分を添加するか、又は、新たに前処理浴を用意するかしなければならない。このような効果の低下は、前処理浴を活性化の目的に使用したか否かには無関係に生じる。
本発明の目的は、周知の、特に前述の欠点をなくし、余分の出費を必要とせず、しかもかなり長時間に亘って効果が持続する前処理浴を用いて金属表面を前処理する方法を提供することである。」(第2頁第21?32行)
(A1-4)「ベントナイト等のモンモリロナイトは前処理浴内でできるだけ微細に分散される必要がある。したがって、膨潤度の大きいナトリウム-ベントナイトの使用が好ましい。」(第3頁第11?14行)
(A1-5)「前処理浴の調製においては、通常、化成反応を活性化させる成分を浴中3mg/lから5g/lの濃度に分散させる。
分散系の安定性を向上させ、硬水が活性化作用に悪影響を及ぼすのを避けるために、アルカリ金属縮合りん酸塩、例えば、ピロりん酸塩やトリポリりん酸塩を含有させてもよい。
効果を高めるための他の既知化合物としては、特にゼラチン、ポリアクリル酸エステル及びその他の水溶性有機ポリマー等がある。 更に、例えば、pH値の調節及び安定化のためにアルカリ金属のオルトりん酸塩及びアルカリ金属の炭酸塩を添加してもよい。前処理浴のpH値は通常弱アルカリ性に調節し、殆どの場合、約7.1?10とする」(第3頁第19?31行)
(A1-6)「化成反応を活性化させる成分としてモンモリロナイトベントナイトを添加したアルカリ性の洗浄-及び脱脂-浴を前処理浴として使用することもできる。」(第4頁第4?7行)
(A1-7)「りん酸亜鉛処理をする場合にはりん酸チタン若しくは第三級りん酸亜鉛を含有する前処理浴を、又はりん酸マンガン処理をする場合にはりん酸マンガン若しくはりん酸マンガン鉄(II)を含有する予洗浴を使用することができる。」(第4頁第11?18行)
(A1-8)「実施例1」において、鋼板を強アルカリ浴に浸漬して脱脂し、水で洗浄し、次に鋼板表面を活性化するために、「本発明の方法」では、りん酸マンガン鉄(II)、Na4P2O7及びベントナイトを含有する水性前処理浴に浸漬して前処理を行った後、りん酸マンガン溶液に浸漬し、水洗、乾燥させたこと、及び、これにより得られたりん酸塩被膜の結晶粒度は、前処理浴調製直後は「極めて微細な結晶粒」であり、調整時から7日経過後は「微細結晶粒」であったこと。(第4頁第25行?第6頁第12行)

(A2)甲第2号証(米国特許第3395052号明細書(1968年7月30日発行)以下、日本語訳)
(A2-1)「1 前処理後に鋼板又はメッキ鋼板表面をりん酸処理する方法であって、前処理は前記鋼板をりん酸亜鉛、りん酸カルシウム、りん酸マグネシウム、りん酸鉄(II)、りん酸鉄(III)及びりん酸アルミニウムからなる群から選択される不溶性りん酸塩の水性懸濁液で処理する工程からなり、前記水性懸濁液は、1g/l以上のりん酸塩を含有し、液のpHは3?10に調整されたものである方法。」(第4欄:請求項1)

(A6)甲第6号証(「粘土ハンドブック」(株)技報堂(昭和42年1月15日)第48?48頁)
「表2・6 粘土鉱物の分類と結晶形態」中、以下の記載がある。
(A6-1)「モンモリロナイト」の分散状体における単位粒子の大きさについて、「水に十分よく分散させたときの大きさ:0.02?0.2μ」

(A7)甲第7号証(「粘土ハンドブック 第二版」技報堂出版(株)(1994年10月30日)第1094?1095頁)
「表5.7 地盤中の主な粘土鉱物の一般性状」中、以下の記載がある。
(A7-1)「ナトリウムモンモリロナイト」の単位粒子の大きさが「0.02?0.2μ」であり、「モンモリロナイト」の単位粒子の大きさが、「同上」すなわち、0.02?0.2μであること。

(A8)甲第8号証(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」(株)朝倉書店(1991年9月1日)第420?423頁)
(A8-1)水中の微粒子について記載した「図3 微粒子およびそれと関連する物質・現象の諸特性」中、「ベントナイト」の大きさは、約5nm?0.2μmであることが読み取れる。

(A9)甲第9号証(「セメント・コンクリート No.391,Sept.1979」)第11?17頁
「表1 地盤中のおもな粘土鉱物の一般性状」(第12頁)中、以下の記載がある。
(A9-1)「ナトリウム・モンモリロナイト」の単位粒子の大きさが「0.02?0.2μ」であり、「モンモリロナイト」の単位粒子の大きさが、同じく「0.02?0.2μ」であること。

(B1)参考資料1(安藤淳平ほか「無機工業化学(第4版)」(1995年2月15日)第294?297頁)
(B1-1)「33・2 粘土
A.概説 岩石の風化によって生じたアルミノケイ酸塩を主体とする微細な鉱物の集合体で、コロイド的性質を持ち、湿らせれば可塑性とイオン交換性を示し、乾けば固まり、高温で焼けば硬化する。粘土(clay)を構成する主要鉱物としては・・・モンモリロナイト・・・などがあり、いずれも平面網状のケイ酸基から成っている。」(第295頁第5?10行)
(B1-2)「D.酸性白土とベントナイト これらはモンモリロナイト Al2O3・4SiO2・6H2Oを主成分とする粘土である。モンモリロナイトのH2OやAl2O3の一部は、アルカリやアルカリ土類酸化物で置換されている。ベントナイトはNa-Caモンモリロナイトできわめて微細な粒子から成り、塩基交換性が著しく、水による膨潤性がきわめて大きい。酸性白土はMg-モンモリロナイトで、膨潤性はないが、吸着性が大きい」(第297頁第5?9行)

(B7)参考資料7(「化学大事典3 縮刷版」共立出版株式会社(1963年9月15日第1刷)第936頁「酸化物」の欄。)
(B7-1)「酸素と他の元素との化合物。狭義では酸素を負2価の状態で含む化合物のみをいう。」

(VI-2)被請求人が提出した証拠方法
被請求人が提出した証拠方法中、以下の証拠方法には次の記載がある。
(C2)乙第2号証(特開平10-140371号公報)
(C2-1)「【請求項1】成形-組立-アルカリ脱脂-燐酸塩処理と続く工程で処理するアルミニウム板であって、燐酸塩処理工程の前段階で、5≦pH≦10の水に難溶性を示す金属の無機化合物の粒径0.0010?5μmの粒子が、任意の100μm2で測定して被覆面積率20?80%付着していることを特徴とする燐酸塩処理用アルミニウム板
【請求項2】成形-組立-アルカリ脱脂-燐酸塩処理と続く工程の、アルカリ脱脂工程と燐酸塩処理工程の間に、アルミニウム材表面に5≦pH≦10の水に難溶性を示す、金属の無機化合物を0.01?50wt.%含有する懸濁液を付着させ、その後、擦りつけることによって該無機化合物粒子を付着させることを特徴とするアルミニウム板の燐酸塩処理方法。」(請求項1、2)
(C2-2)「表4」(段落【0029】)には、粒子径、燐酸亜鉛皮膜結晶サイズの具体値が記載されている。

(C6)乙第6号証(「鉄と鋼」第68年(1982)第7号、第12?23頁)
(C6-1)「当時の浸漬法では、処理時間が10min程度であったため量産にマッチしないものであった。その後量産に対応する処理法として・・スプレー方式がとられ始め、薬剤的な改良もあって処理時間も、90s?120s程度と短縮されている。」(第15頁左欄)

(C8)乙第8号証(「粘土科学 第36巻 第1号 1-8(1996)」第1?8頁)
(C8-1)「Na-モンモリロナイト・水系のレオロジー的研究の多くは、降伏値のデータに基づき、粘土・水系の微細構造と流動特性の関係を明らかにする事に主眼を置いている。しかしながら、Na-モンモリロナイトの流動性特性をめぐるこれらの実験結果は、必ずしも一致した結果を示していない。」(第2頁左欄第2?7行)
(C8-2)「純度の高いモンモリロナイト(クニピア-F)を試料として用いた。X線回折の結果、ほぼ純粋なモンモリロナイトであった。この試料に蒸留水とNaOH溶液を添加し、pHを10に調整して試料を分散させた。・・この分散試料から、遠心沈降法を用いてストークス径で0.4μm以下の粒子を採取した。さらに、この試料に次の操作を数度くり返し、完全なNa型粘土を作った。」(第2頁右欄第10?18行)

(C10)乙第10号証(平成18年6月23日付け「ベンゲル製品の粒度分布について」株式会社ホージュン応用粘土科学研究所所長 鬼形正伸作成)
(C10-1)湿式粒度分布測定(方式:光透過式遠心沈降法、溶媒:イオン交換水)による測定の結果、「ベンゲル」の「平均粒径50%」が1.62μm、「ベンゲルSH」の「平均粒径50%」が3.20μmであることが記載されている。

(C11)乙第11号証(特開2005-264326号公報)
本件出願後に頒布された刊行物であり、以下の記載がある。
(C11-1)「リン酸亜鉛粒子を含有するpH3?12の表面調整剤」(【請求項1】)について、更に「層状粘土鉱物を含有するものである」こと(【請求項5】)が記載されている。
(C11-2)「上記層状粘土鉱物としては特に限定されず、例えば、モンモリロナイト・・等の層状ポリケイ酸塩等を挙げることができる。」(段落【0087】)
(C11-3)「上記層状粘土鉱物は、平均粒径(=最大寸法の平均値)が5μm以下が好ましく、より好ましくは、1μm以下である。」(段落【0089】)」
(C11-4)「上記ベントナイト(モンモリロナイト)を上記式(V)で表されるアルキルトリアルコキシシランで表面処理したものの市販品としては、例えば、ベンゲル-SH(ホージュン社製)等を挙げることができる。
上記ベンゲル-SHは、従来のモンモリロナイトが水中で形成するカードハウス構造と異なり、図1に示すようなパッチワーク構造を形成するものである。」(段落【0106】?【0107】)

VII.対比・判断
(VII-1)無効理由(i)について
甲第1号証には、りん酸塩処理に先立って化成反応を活性化させる成分を含有する水性前処理浴により金属表面を前処理する方法において、モンモリロナイトを含む前処理浴を金属表面に接触させる金属表面の前処理方法に係る発明が記載されており(摘記A1-1:第1項)、併せて、りん酸亜鉛溶液によるりん酸塩処理に先立って、微細に分散させた第三級りん酸亜鉛を含む前処理浴を金属表面に接触させることが記載されている(摘記A1-1:第4項)。
そして、当該前処理浴に含まれる「微細に分散させた第三級りん酸亜鉛」は、本件発明における、「少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属りん酸塩粒子であって亜鉛を含むもの」に該当し、そして、甲第1号証の前処理浴は、本件発明でいう表面調整用前処理液に相当する。してみれば、甲第1号証には、本件発明における、「少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものを含有する、金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」が記載されているといえる。
同甲第1号証には、前処理浴のpH値について、通常弱アルカリ性に調節し、殆どの場合約7.1?10とすることが記載され(摘記A1-5)、このpH値は本件発明のpH値(4?13)と重複している。
同甲第1号証には、アルカリ金属リン酸塩を含有させること(摘記A1-5)、及び、アルカリ金属のオルトリン酸塩及びアルカリ金属の炭酸塩を添加すること(摘記A1-5)が記載されており、これらのアルカリ金属リン酸塩、並びにアルカリ金属のオルトリン酸塩及びアルカリ金属の炭酸塩は、本件発明の「アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物」におけるアルカリ金属塩に該当する。
一方、甲第1号証には、金属のりん酸塩粒子の粒径を「5μm以下」とする点、前処理液が「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」を含有する点、及び、上記「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」について、「平均粒径が0.5μm以下」とする点を明示する記載は見当たらない。

これを本件発明の特定事項と対応させると、本件発明は、
「少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものと、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物と、を含有し、pHを4?13に調整したことを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」とした点で、甲第1号証に記載されたものと重複、一致し、そして、以下の点で相違している。
(イ)本件発明では、りん酸塩粒子(すなわち、「少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むもの」の粒子)の粒径を「5μm以下」と特定しているのに対して、甲第1号証には、当該粒径に特定する記載が見当たらない点、
(ロ)本件発明では、前処理液が「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」を含有するのに対して、甲第1号証には、当該成分を含有することの記載が見当たらない点、及び、
(ハ)本件発明では、「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」について、その平均粒径を「0.5μm以下」としているのに対して、甲第1号証には、当該平均粒径の記載が見当たらない点。

そこで、これら相違点について、以下検討する。
相違点(イ)について
まず、上記粒径に関する本件出願当時の技術水準について検討する。
(a)甲第1号証中で従来技術として引用されたドイツ連邦共和国特許第1521889号明細書(摘記A1-2)には、次の記載がある。
(a-1)「1.鉄と鋼のりん酸塩化成処理法において、処理材の表面を難溶性2価りん酸塩の水性懸濁液と接触させる方法であって、表面をアルカリ処理及び/又は酸処理した後に、りん酸マンガン処理液によるりん酸塩化成処理の前処理として、少なくとも一部がヒューリオライトからなる難溶性オルトりん酸マンガン(II)の微細に分散した水性洗浄液を用いることを特徴とする方法。」(特許請求の範囲の請求項1、第1欄第1段落)
(a-2)「6.難溶性りん酸塩として少なくとも一部は5μm以下の粒径の難溶性りん酸塩を使用することを特徴とする特許請求の範囲1ないし5のりん酸塩化成処理法。」(特許請求の範囲の請求項6、第1欄第6段落)
(a-3)「オルトりん酸マンガン(II)の活性作用は、更にその粒径に依存し、かつその粉砕度が増すにつれ活性作用も高まる。例えば、約50%が粒径3.5μ以下であり、かつその粒径範囲の約90%が30μ以下であるオルトりん酸マンガン(II)を用いた場合に極めて好ましい結果が得られた。」(第3欄第2段落)
(b)本件出願前公開された英国特許第1137449号明細書(1968年12月18日公開)には、次の記載がある。
(b-1)「1.鉄またはスチールの表面上におけるりん酸マンガン皮膜の形成方法であって、前記表面は、前記表面を充分に湿らせる程度の時間、微細化不溶性オルトりん酸マンガン(II)の水溶性懸濁液により処理され、前記処理された表面は、従来の酸性りん酸マンガンコーティング水溶液によりリン酸塩処理される、りん酸マンガン皮膜の形成方法。」(特許請求の範囲の請求項1、第4頁左欄第1段落)
(b-2)「4.オルトりん酸マンガンの粒子サイズは、前記オルトりん酸マンガンの50質量%が3.5μm未満であり、かつ90質量%が30μm未満である、請求項1?3に記載のりん酸マンガン皮膜の形成方法。」(特許請求の範囲の請求項4、同第4段落)
(b-3)「オルトりん酸マンガン(II)の粒子サイズは、できるだけ小さいものであるべきである。オルトりん酸マンガンの50%が3.5μm未満の粒子サイズを有し、かつ90%が30μm未満である場合に、非常に良好な結果が得られる。」(第2頁左欄第1段落)
(c)本件出願前公開された特開昭50-153736号公報(昭和50年12月11日公開)には、次の記載がある。
(c-1)「1)鋼板又は亜鉛メッキ鋼板にリン酸塩処理を行なうに際して、リン酸塩処理液を空気でアトマイジングして噴霧し鋼板又は亜鉛メッキ鋼板を処理することを特徴とするリン酸塩皮膜形成法。
2)特許請求の範囲1)に記載のリン酸塩処理の前工程として不溶性リン酸塩の水性コロイド液を薄く表面に塗布した後該リン酸塩処理を行うことを特徴とするリン酸塩皮膜形成法。」(特許請求の範囲の請求項1及び2、第1頁左下欄)
(c-2)「前処理に使用される不溶性リン酸塩の水性コロイドとしては、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム等各種の不溶性リン酸塩が適当な分散剤を添加して水溶液中でコロイド化されたもので、取扱は容易で、安定性が非常によいものである。りん酸亜鉛皮膜を形成させる目的の場合には、りん酸亜鉛(Zn3(PO4)2・4H2O)が最も効果が大である。」(第2頁右上欄第2段落)
なお、コロイド粒子は、直径が0.001ないし0.5μm程度の粒子である。(「岩波理化学事典 第4版」岩波書店(昭和62年10月12日)「コロイド」の欄参照。)
(d)本件出願前公開されたドイツ連邦共和国特許出願公開第2732385号明細書(1978年6月29日公開)には、次の記載がある。
(d-1)「100℃未満の温度において、りん酸マグネシウムを主成分とする5?10のpH値を有する水性懸濁液を用いた処理がなされ、その際前記懸濁液は流動され、りん酸マグネシウム濃度は0.1?10g/lの範囲であり、使用されるりん酸塩の粒子径は約50μmより下であって、その際少なくとも粒子の50%が約4μmよりも小さいことが示されることを特徴とする、鉄及び鋼の、りん酸マンガンを用いたりん酸化成処理前の活性化用の前処理方法。」(特許請求の範囲の請求項1、第2頁第1段落)
(d-2)「前記懸濁液に含まれるりん酸マグネシウムの粒子径は約50μmよりも小さく、その際少なくとも粒子の50%が約4μmよりも小さい粒子の大きさを有している。前記粒子径が上記値を超えると、次の処理工程で得られる皮膜の品質が劣化し、粒子の90%が5μmよりも大きい粒子の大きさを有する場合における上記品質はもはや受け入れられるものではない。」(第8頁最終段落)
上記文献(a)?(d)の記載事実について検討すると、上記文献(a)、(b)のりん酸マンガン、上記文献(c)のりん酸亜鉛及びりん酸カルシウム、上記文献(d)のりん酸マグネシウムが、いずれも2価の金属のりん酸塩であることは明らかである。そして、上記文献(a)?(d)の記載により認定できる事項によれば、本件出願当時、りん酸塩皮膜処理の前段階として、「2価もしくは3価の金属のりん酸塩」の粒子を含む処理液を利用する方法があること、その場合、前処理液中のりん酸塩の粒子の粒径が一定程度小さいものであることが望ましいことは周知技術であり、また、上記りん酸塩皮膜化成処理によってりん酸亜鉛皮膜を形成すること、及び、当該2価もしくは3価の金属のりん酸塩として亜鉛を含むものは周知技術であったと認められ、そして、その際に、少なくとも一部の粒子の粒径が3.5ないし5μm以下である場合に、良好な結果が得られることも周知技術であったと認めるのが相当である。
以上認定の周知技術を総合すると、本件出願当時、「2価もしくは3価の金属のりん酸塩であって亜鉛を含むもの」の粒径を「5μm以下」とし得ることは技術常識であったものと認められる。したがって、この技術水準を前提とすれば、甲第1号証に接する当業者は、格別の思考を要するまでもなく容易に、りん酸塩皮膜化成処理の前処理液に含まれる「2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むもの」に該当するりん酸亜鉛の粒子について、「微細に分散させた」との記載から、当該りん酸亜鉛の粒子の粒径を5μm以下のものを含むと理解し得るのであるから、甲第1号証には、当該りん酸亜鉛の粒子が「5μm以下」のものを包含した技術内容が記載されているというべきである。また、本件明細書の記載をみても、「5μm以下」と特定したことにより、当業者が予期し得ない格別の効果を奏したと認めることはできない。
以上のとおりであるから、本件出願当時の技術水準を参酌すれば、上記粒径に係る相違点(イ)は、実質的な相違点を構成しないものであり、また、甲第1号証の記載及び周知事項に基いて当業者が容易に想到できたことである。

相違点(ロ)について
(ロ-1)モンモリロナイトないしベントナイトが「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」に相当することは、被請求人も認めるところである。(平成17年(行ケ)第10406号判決第20頁「3 取消事由3(相違点2の認定の誤り)について」参照。)
(ロ-2)ところで、酸化物とは、「最も広義には酸素と他元素の化合物を意味するが、一般には酸素を酸化数-2の状態で含むものをいう。」(「岩波 理化学辞典」(株)岩波書店「酸化物」の欄)とされる。
モンモリロナイトは、Al2O3・4SiO2・6H2Oなどと表されることもあり、また、ベントナイトは、Na-Caモンモリロナイトであり、モンモリロナイトの下位概念である(摘記B1-2)。また、特公平6-102777号公報中には、金属の複酸化物としてベントナイトが含まれることを前提とした記載があり、特開昭64-16894号公報中には、酸化物系層状物質、層状酸化物鉱物としてベントナイトが挙げられていることが認められる。そうすると、甲第1号証に接する当業者は、酸化物を広義にとらえ、モンモリロナイトないしベントナイトを酸化物として認識するものと認められる。
また、モンモリロナイトは、「厚さ1nmで大きさが数百?数千nmの薄い板状粒子で、厚さの部分(端面)はpHに依存する電荷を有し、その等電点のpHはおよそ8程度である。端面はpH<8で正電荷、pH>8で負電荷を有する。また、面の部分はpHに左右されない負の電荷を有している。したがって、安定した分散状体を得るためには、粒子全体が全て負電荷になるようにしなければならない。」(平成10年発行「日本レオロジー学会誌 Vol.26 No.2」第100頁)とされるところ、甲第1号証中には、「前処理浴のpH値は通常弱アルカリ性に調節し、殆どの場合、約7.1?10とする。」(摘記A1-5)との記載があるから、pHが8以上のものを含むことは明らかであり、甲第1号証には、アニオン性に帯電しているモンモリロナイトの記載があるということができる。また、甲第1号証には、「ベントナイト等のモンモリロナイトは前処理浴内でできるだけ微細に分散される必要がある」(摘記A1-4)と記載されているのであるから、甲第1号証には、「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」が記載されているということができる。
以上のとおりであるから、本件出願当時の周知事項を参酌すれば、上記相違点(ロ)は、実質的な相違点を構成しないものである。

相違点(ハ)について
まず、「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」の粒径に関する本件出願当時の技術水準について検討する。
上記「相違点(ロ)について」欄に記載したとおり、本件発明の「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」は、モンモリロナイトないしベントナイトを包含するものである。
一方、(a):甲第6号証には、モンモリロナイトの分散状体における単位粒子の大きさについて、水に十分よく分散させたときの大きさが「0.02?0.2μ」であることが記載され(摘記A6-1)、(b):甲第7号証には、ナトリウムモンモリロナイト、及びモンモリロナイトの単位粒子の大きさが「0.02?0.2μ」であることが記載され(摘記7-1)、(c):甲第8号証には、水中の微粒子について記載した「図3 微粒子およびそれと関連する物質・現象の諸特性」から、ベントナイトの水中での大きさが、約5nm?0.2μm(すなわち、0.005?0.2μm)であることが読み取れ(摘記A8-1)、また、(d):甲第9号証には、ナトリウムモンモリロナイト、及びモンモリロナイトの単位粒子の大きさが「0.02?0.2μ」であること(摘記A9-1)が記載されている。
以上、(a)?(d)の記載によれば、水中に分散したモンモリロナイトないしベントナイトの粒子の大きさが0.2μm以下であることは本件出願前周知の事項といえる。そして、これは本件発明の「0.5μm以下」に包含されている。また、本件発明では粒子の大きさを「平均粒径」で特定しているところ、本件明細書の記載をみても、本件発明の「平均粒径」と、上記各甲号証における「単位粒子の大きさ」(甲第6、7、9号証)、ないし微粒子の「大きさ」(甲第8号証)との間に実質的な相違があるとはすることはできず、また、本件発明で「平均粒径」とした点により、格別の効果を奏したと認めることもできない。
以上のとおりであるから、本件出願当時の技術水準を参酌すれば、甲第1号証には、「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」について、その平均粒径を「0.5μm以下」とする点が実質的に開示されていたものといえ、また、甲第1号証の記載及び周知事項に基いて当業者が容易に想到できたことである。
したがって、上記粒径に係る相違点(ハ)は、甲第1号証に記載されたものとの実質的な相違点を構成しないものであり、また、当業者が容易に想到できたことである。

以上のとおりであるから、本件出願当時の周知事項を参酌すれば、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であり、したがって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

(VII-2)無効理由(ii)について
上記したとおり、無効理由(ii)は審理すべき無効理由を構成しないものであるが、請求人が主張する点につき、念のため、次のとおり判断する。
無効2005-80072号(平成18年(行ケ)147号)は知的財産高等裁判所で審理継続中であるところ、本無効審判における平成18年5月24日付け訂正請求書の「[4]訂正請求の根拠」の表によれば、元の請求項1を、新たな請求項1に訂正したとされている。しかし、当該訂正請求書の「[3]訂正事項」には、無効2005-80072号についてなされた「特許第3451334号の請求項5(即ち、特許権設定登録時の請求項6)に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決に対応する訂正である旨が説明され、また、発明の特定事項をみれば、上記「II.訂正の適否」の(II-2)欄に記載したとおり、訂正後の請求項1に係る発明は、特許権設定登録時の請求項6に係る発明を、上記(ロ)?(ニ)の点で減縮した発明であるといえる。
よって、無効理由(ii)における請求人の主張は採用することができない。

VIII.むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、したがって、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
りん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものと、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物と、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子と、を含有し、pHを4?13に調整したことを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液であって、前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下である、金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄鋼、亜鉛めっき鋼板、及びアルミニウム等の金属材料の表面に施されるりん酸塩皮膜化成処理において、その化成処理前に化成反応の促進および短時間化ならびにりん酸塩皮膜結晶の微細化を図るために用いられる表面調整用前処理液及び表面調整方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】昨今、自動車のりん酸塩処理においては塗装後の耐食性向上のため、また、塑性加工用のりん酸塩処理においてはプレス時の摩擦低減またはプレス型寿命延長のために金属表面に微細で緻密なりん酸塩皮膜結晶を形成することが求められている。そこで、微細で緻密なりん酸塩皮膜結晶を得るために金属表面を活性化し、りん酸塩皮膜結晶析出のための核をつくる目的で、りん酸塩皮膜化成処理工程の前に表面調整工程が採用されている。以下に微細で緻密なりん酸塩皮膜結晶を得るために行われている一般的なりん酸塩皮膜化成工程を例示する。(1)脱脂(2)水洗(多段)(3)表面調整(4)りん酸塩皮膜化成処理(5)水洗(多段)(6)純水洗
【0003】表面調整工程は、りん酸塩皮膜結晶を微細で緻密なものにするために用いられる。その組成物に関しては、例えば米国特許第2874081号、第2322349号、及び第2310239号などにより公知となっており、表面調整剤に含まれる主たる構成成分としてチタン、ピロリン酸イオン、オルソリン酸イオン及びナトリウムイオン等が開示されている。上記表面調整組成物は「ジャーンステッド塩」と称され、その水溶液にはチタンイオンとチタンコロイドが含まれる。脱脂、水洗を行った金属を前記表面調整組成物の水溶液に浸漬もしくは、金属に表面調整用前処理液を噴霧することによってチタンコロイドが金属表面に吸着する。吸着したチタンコロイドが次工程のりん酸塩皮膜化成処理工程においてりん酸塩皮膜結晶析出の核となり、化成反応の促進およびりん酸塩皮膜結晶の微細化、緻密化が可能となる。現在工業的に利用されている表面調整組成物は全てジャーンステッド塩を利用したものである。しかしながら、ジャーンステッド塩から得られるチタンコロイドを表面調整工程に用いた場合、種々の問題点があった。
【0004】第1の問題点としては、表面調整用前処理液の経時劣化が挙げられる。従来の表面調整組成物を用いる場合、その組成物を水溶液とした直後はりん酸塩皮膜結晶の微細化及び緻密化に関して著しい効果を発揮する。しかし、水溶液とした後に数日間が経過すると、チタンコロイドが凝集することによって経過日数の間の表面調整用前処理液の使用の有無に関わらずその効果が失われ、得られるりん酸塩皮膜結晶は粗大化する。そこで、特開昭63-76883号公報には、表面調整用前処理液中のチタンコロイドの平均粒径を測定し平均粒径がある一定値未満になるように表面調整用前処理液を連続的に廃棄し、更に廃棄された分の表面調整組成物を補給することによって表面調整効果を維持管理する方法が提案されている。しかし、この方法は表面調整用前処理液の効果に対する要因を定量的に管理することを可能としたが、効果を維持するためには表面調整用前処理液を廃棄する必要があった。また、この方法で表面調整用前処理液の効果を水溶液とした初期と同等に維持するためには多量の表面調整用前処理液の廃棄を必要とする。従って、実際には使用される工場の排水処理能力の問題もあり、連続的な表面調整用前処理液の廃棄と全量更新を併用してその効果を維持している。
【0005】第2の問題点としては、表面調整用前処理液を建浴する際に使用される水質によって、その効果及び寿命が大きく左右されることが挙げられる。通常表面調整用前処理液を建浴する際には工業用水が使用される。しかし、周知の通り工業用水にはカルシウム、マグネシウム等の全硬度の元になるカチオン成分が含まれており、その含有量は使用される工業用水の水源によってまちまちである。ここで、従来の表面調整用前処理液の主成分であるチタンコロイドは、水溶液中でアニオン性の電荷を持つことにより、その電気的反発力によって沈降せずに分散していることが知られている。
【0006】従って、工業用水中にカチオン成分であるカルシウムやマグネシウムが多量に存在するとチタンコロイドはカチオン成分によって電気的に中和され、反発力を失い凝集沈殿を引き起こすことによってその効果を失う。そこで、カチオン成分を封鎖しチタンコロイドの安定性を維持する目的でピロリン酸塩等の縮合りん酸塩を表面調整用前処理液に添加する方法が提案されている。しかし、縮合りん酸塩を表面調整用前処理液に多量に添加すると縮合りん酸が鋼板表面と反応し不活性皮膜を形成するために、その後のりん酸塩皮膜化成処理工程において化成不良が発生する弊害を有する。また、極端にマグネシウムやカルシウム含有量が多い地域では純水を用いて表面調整用前処理液の建浴及び給水を行う必要があり経済面でも極めて不利である。
【0007】第3の問題点として、使用条件における温度、pHの制約が挙げられる。具体的には、温度35℃以上、pH8.0?9.5以外の範囲ではチタンコロイドが凝集し表面調整効果を発揮することが出来なくなる。従って、従来の表面調整組成物を使用する際には定められた温度、pH範囲で使用する必要があり、かつ、脱脂剤等に表面調整組成物を添加して金属表面の清浄化と活性化の効果を長時間に渡って一液で発揮させることは不可能であった。
【0008】第4の問題点として、表面調整用前処理液の効果によって得られるりん酸塩皮膜結晶の微細化の限界値が挙げられる。表面調整効果はチタンコロイドが金属表面に吸着してりん酸塩皮膜結晶析出の際の核を形成することにより得られる。従って、表面調整工程で金属表面に吸着したチタンコロイドの数が多ければ多いほど微細で緻密なりん酸塩皮膜結晶が得られる。その為には、表面調整用前処理液中のチタンコロイドの数を増やす、すなわちチタンコロイドの濃度を高めることが容易に考えられる。しかし、濃度を増すと表面調整用前処理液中でのチタンコロイド同士の衝突頻度が増し、衝突することによってチタンコロイドの凝集沈殿が発生する。現在使用されているチタンコロイドの濃度の上限は表面調整用前処理液中のチタンとして100ppm以下であり、それ以上にチタンコロイド濃度を増やすことによってりん酸塩皮膜結晶を微細化することは従来技術では不可能であった。
【0009】そこで、特開昭56-156778号公報および特開昭57-23066号公報では、ジャーンステッド塩以外の表面調整剤として鋼帯表面に2価または3価の金属の不溶性りん酸塩を含む縣濁液を加圧下に吹き付ける表面調整方法が開示されている。しかし、この表面調整方法は被処理物に縣濁液を加圧下に吹き付けて初めてその効果が発揮されるため通常の浸漬および噴霧処理によって施されるりん酸塩皮膜化成処理の表面調整には使用できなかった。
【0010】また、特公昭40-1095号公報では亜鉛めっき鋼板を高濃度の2価または3価金属の不溶性りん酸塩縣濁液に浸漬する表面調整方法が開示されている。しかし、この方法で示される実施例は亜鉛めっき鋼板に限られており、かつ表面調整効果を得るためには最低30g/L以上の高濃度の不溶性りん酸塩縣濁液を用いる必要があった。
【0011】従って、ジャーンステッド塩の問題点は種々提示されているにも関わらず、現在までのところ、それに代わりうる新しい技術は未だ提示されていないのである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は従来技術の抱える前記課題を解決し、りん酸塩皮膜化成処理において、化成反応の促進および短時間化、ならびに得られるりん酸塩皮膜結晶の微細化を図るために用いられる、経時安定性に優れた新規な表面調整用前処理液および表面調整方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者等は前記課題を解決するための手段について鋭意検討し、従来方法における問題点を解決し、かつ、りん酸塩皮膜結晶の品質をさらに向上させることが可能である新規な表面調整用前処理液および表面調整方法を完成するに至った。すなわち、本発明の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液は、粒径が5μm以下の粒子を含む2価もしくは3価の金属の少なくとも1種を含有するりん酸塩の1種以上と、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物を含有し、且つ、pHを4?13に調整したことを特徴とするものである。
【0014】前記5μm以下の粒子の濃度が0.001?30g/Lであり、前記2価もしくは3価の金属がZn、Fe、Mn、Ni、Co、Ca、およびAlの中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩がオルソりん酸塩、メタりん酸塩、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、およびホウ酸塩の中から選ばれた少なくとも1種の塩であり、且つ、その濃度が0.5?20g/Lであることが好ましい。更に、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下であり、且つ、その濃度が0.001?5g/Lであることが好ましい。また、前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子がSi、B、Ti、Zr、Al、Sb、Mg、Se、Zn、Sn、Fe、Mo、およびV酸化物の中から選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
【0015】本発明の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整方法は、該金属表面を前記表面調整用前処理液と接触させることを特徴とするものである。
【0016】更に、本発明品である表面調整用前処理液は高pH域での安定性および高温下での安定性が従来品と比較して非常に優れているため、ノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物と、ビルダーを添加することによって金属表面の清浄化と活性化を兼ねた脱脂兼表面処理方法にも使用することができるものである。
【0017】
【作用】本発明における各々の成分の作用を詳細に説明する。
【0018】2価もしくは3価の金属の少なくとも1種を含有するりん酸塩の1種以上(以下、単に「2価もしくは3価の金属のりん酸塩」と称する)は本発明における必須成分である。本発明の目的は前記の通り、りん酸塩処理前に金属表面を活性化し、りん酸塩皮膜結晶析出のための核をつくるために用いられる表面調整用前処理液を提供することにある。本発明者等は、ある特定の濃度、粒径の2価もしくは3価の金属のりん酸塩はある特定の添加物を含む水溶液中で被処理物表面に吸着し後のりん酸塩皮膜結晶析出の際の核となり更にりん酸塩化成処理反応速度を高めることを発明したのである。
【0019】また、2価もしくは3価の金属のりん酸塩は、りん酸塩化成処理浴およびりん酸塩化成処理皮膜と類似した成分であるために、りん酸塩化成処理浴へ持ち込まれても化成処理浴に悪影響を与えず、また、りん酸塩皮膜中に核となって取り込まれてもりん酸塩化成皮膜の性能に悪影響を与えない利点も有している。本発明で用いられる2価もしくは3価の金属のりん酸塩としては下記に示す様な例が挙げられる。
2価もしくは3価の金属のりん酸塩
Zn3(PO4)2,Zn2Fe(PO4)2,Zn2Ni(PO4)2,Ni3(PO4)2,Zn2Mn(PO4)2,Mn3(PO4)2,Mn2Fe(PO4)2,Ca3(PO4)2,Zn2Ca(PO4)2,FePO4,AlPO4,CoPO4,Co3(PO4)2
【0020】また、金属表面に形成されるりん酸塩皮膜結晶の粒径は反応初期に析出した単位面積あたりの結晶数が多いほど微細になることが知られている。これは、りん酸塩皮膜の結晶の成長は隣り合う結晶同士が接触し金属表面を覆い尽くした時点で完結することから、反応初期に析出した結晶数が多ければ隣り合う結晶間の距離が小さくなり短時間で微細な結晶が金属表面を覆いつくすからである。従って、短時間で微細なりん酸塩結晶を析出させるためには、りん酸塩化成処理前に結晶の核を多く付与することが効果的であり、その為には核となる物質の粒径が小さい方が有利であることは言うまでもない。また、不溶性物質を水溶液中で安定に分散させるためにも本発明で用いられる2価もしくは3価の金属のりん酸塩の粒径は5μm以下であることが望ましい。ただし、仮に5μm以上の粒径の2価もしくは3価の金属のりん酸塩が本発明における表面調整用前処理液中に存在しても、本発明の効果に対しては何ら影響を与えることは無く、表面調整調整用水溶液中の5μm以下の微粒子の濃度が、ある濃度に達して初めてその効果が発揮されるのである。
【0021】また、本発明においては2価もしくは3価の金属のりん酸塩の粒径をコントロールすることによって、得られるりん酸塩皮膜結晶の粒径をコントールすることが可能である。微細に粉砕された2価もしくは3価の金属のりん酸塩を用いることによって前記した理由により極微細なりん酸塩結晶を析出させることが可能となるのである。
【0022】りん酸塩化成処理反応の反応速度は単位時間あたりに被処理物表面へ到達することができる活性りん酸塩イオン量で決定されFickの法則によって説明されている。
【0023】
【数1】

【0024】ここで、dnが大きいほどりん酸塩化成処理反応の反応速度は大きい。従って、りん酸塩化成処理の反応速度を大きくする為には(1)式の右辺の分母を小さくするか、もしくは分子を大きくする必要がある。しかし、分母は密着層の厚さであり密着層の厚さを小さくするためにはりん酸塩化成処理工程における攪拌を強くする等の物理的効果に頼らざるを得ない。また拡散係数はりん酸塩化成処理浴の浴組成で決定されるため大きく変わることはない。従って、分子を大きくする、すなわち反応速度を大きくするためにはりん酸塩化成処理浴中の活性りん酸塩イオン量を多くする以外に手段が無いわけである。
【0025】本発明者等は前記したFickの法則における反応初期の状態に着目して検討を行った。反応開始、すなわち金属がりん酸塩処理液と接触した段階でのCBは0であり、りん酸塩皮膜結晶が析出し得る濃度にCB達した時に初めてりん酸塩皮膜結晶の析出がおこる。従ってdnが大きい程CBが前記濃度に達するまでの時間が小さく、(1)式からCAが大きいほど初期反応は起こりやすいと考えられる。しかし、CAすなわち、りん酸塩化成処理浴中のりん酸塩イオン濃度をいたずらに高めると、加水分解による余剰スラッジの析出および得られるりん酸塩化成処理皮膜の粗大化を招くために得策ではない。そこで表面調整処理によってりん酸塩化成処理反応初期のCBを高めることと同じ効果が得られる手法を発明したのである。すなわち表面調整用前処理液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩は結晶析出の際の核となるだけではなく、りん酸塩化成処理液のpHが低いために、その一部が溶解し反応初期における金属表面のCBを高める働きを有するのである。従って、目標とするりん酸塩化成皮膜の成分と表面調整剤水溶液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の成分が近いほどその効果は大きくなるのである。
【0026】初期のりん酸塩化成処理反応におけるCBを高めるためには2価もしくは3価の金属のりん酸塩濃度としては0.001?30g/Lが好ましい。なぜならば、2価もしくは3価の金属のりん酸塩濃度が0.001g/Lよりも小さいと金属表面に吸着する2価もしくは3価の金属のりん酸塩量が少ないためにりん酸塩化成処理反応を促進し得る濃度までCBが高められず、また結晶の核となる2価もしくは3価の金属のりん酸塩の数も少ないために反応は促進されない。2価もしくは3価の金属のりん酸塩濃度が30g/Lよりも大きくても、それ以上はりん酸塩化成処理反応を更に促進する効果は得られないために経済的に不利なだけである。
【0027】次に本発明の必須成分としてアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物(以下、単に「アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩」と称する)が挙げられる。従来技術にも示した通り過去においても2価もしくは3価の金属の不溶性のりん酸塩を加圧下に吹き付けて表面調整を行う方法が試みられている。しかし、過去の方法ではあくまでも加圧下に2価もしくは3価の金属の不溶性のりん酸塩を吹き付ける必要があった。加圧下に吹き付ける理由は、表面調整効果を発揮させるためには不溶性のりん酸塩を金属表面にぶつけて反応させる、またはショットピーニングの様に金属表面にキズをつける必要があったためである。また、浸漬処理によって表面調整効果を得るためには、従来方法では2価または3価の金属の不溶性のりん酸塩の濃度を極端に高める必要があった。
【0028】本発明者らは、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩が存在すると2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が低濃度で、且つ金属表面に物理的な力を加えない浸漬処理においても表面調整効果が発揮されることを発明したのである。従って、本発明においては表面調整用前処理液に被処理物を接触させるだけで良く、従来技術とは全く反応機構を異にするものである。そのための必須成分としてアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩が必要なのである。
【0029】アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩としてはオルソりん酸塩、メタりん酸塩、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、およびホウ酸塩の群から選ばれる少なくとも1種の塩の形であれば特に限定されるものではない。また、前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩を2種以上組み合わせて使用しても何ら問題はない。
【0030】アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩の濃度は0.5?20g/Lであることが望ましい。濃度が0.5g/L未満では被処理物を表面調整用前処理液に接触させただけでは表面調整効果が発揮されず、20g/L以上ではそれ以上の効果は期待できず経済的に不利なだけである。
【0031】本発明における表面調整用前処理液はpH4?13の範囲に調整する必要がある。pH4未満では表面調整用前処理液中で金属が腐食することによって酸化膜等が発生し、りん酸塩化成処理不良を起こす恐れがある。またpHが13を越える場合、りん酸塩化成処理水溶液は酸性であるために表面調整用前処理液がりん酸塩化成処理工程に持ち込まれた際にりん酸塩化成処理浴を中和し、浴のバランスをくずす恐れがあるからである。
【0032】本発明においてはアニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子を添加することが好ましい。以下に酸化物微粒子の作用を説明する。
【0033】第1に酸化物微粒子は金属表面に吸着しりん酸塩結晶析出における核、すなわちマイクロカソードとなってりん酸塩化成処理反応の起点となる。
【0034】第2には表面調整用前処理液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の分散安定性の向上が挙げられる。酸化物微粒子が表面調整用前処理液中に分散させた2価もしくは3価の金属のりん酸塩に吸着もしくは2価もしくは3価の金属のりん酸塩同士の衝突を防ぐことによって2価もしくは3価の金属のりん酸塩の凝集沈殿を防止し安定性を向上させるのである。そのためには酸化物微粒子の粒径が2価もしくは3価の金属のりん酸塩の粒径よりも小さい必要がある。
【0035】具体的には0.5μm以下であることが好ましい。本発明で使用される酸化物微粒子としては粒径とアニオン性であることを満たしていれば、酸化物微粒子の金属には制限されない。また、カチオン性の酸化物微粒子に表面処理を施すことによって、その表面電荷をアニオン性に変えたものでも差し支えない。本発明で用いられる酸化物微粒子の一例を示すと以下の通りである。酸化物微粒子
SiO2,B2O3,TiO2,ZrO2,Al2O3,Sb2O5,MgO,SeO2,ZnO,SnO2,Fe2O3MoO3,Mo2O5,V2O5
尚、本発明における表面調整用前処理液の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の分散安定性を高める効果は、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤などを用いても同様に得られる。
【0036】酸化物微粒子の濃度は0.001?5g/Lであることが望ましい。酸化物微粒子の濃度が0.001g/L未満では本発明における酸化物微粒子の用途である表面調整用前処理液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の分散安定性を高めることができない。また5g/L以上添加してもそれ以上に2価もしくは3価の金属のりん酸塩の分散安定性を高める効果は大きくならないために濃度の上限は5g/Lで十分である。
【0037】本発明における表面調整用前処理液は従来法と異なりあらゆる使用環境でその効果を継続することが可能である。すなわち、従来法と比較して下記に示す様な利点を有している。
(1)経時安定性が高い。
(2)Ca、Mg等の硬度成分が混入しても効果が衰えない。
(3)高温度での使用が可能である。
(4)様々なアルカリ金属塩を添加することができる。
(5)幅広いpH域での安定性が高い。
(6)得られるりん酸塩結晶の粒径をコントロールすることができる。
【0038】従って、従来法では継続して安定した品質を維持することができなかった脱脂兼表面調整剤としても使用する事が可能である。その際、脱脂兼表面調整工程における洗浄力を高めるために公知の無機アルカリビルダー、有機ビルダー、及び界面活性剤等を添加しても構わない。また、脱脂兼表面調整に関わらず表面調整用前処理液に持ち込まれたカチオン成分等による影響を打ち消すために公知のキレート剤、縮合りん酸塩等を添加しても構わない。
【0039】また、本発明の表面調整方法は表面調整用前処理液と金属表面を接触させるだけで良く、接触時間、表面調整用前処理液の温度等に制限はない。更に本発明の表面調整方法は、鉄鋼、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムまたはアルミニウム合金等のりん酸塩処理が施される、あらゆる金属素材に適用可能である。
【0040】
【実施例】次に本発明の表面調整用前処理液を適用した際の効果を実施例と比較例を用いて詳細に説明する。ただし、りん酸塩処理の一例として、自動車用のりん酸亜鉛処理を示したものであり、本発明における表面調整用前処理液の用途を限定するものでは無い。
【0041】(供試板)実施例と比較例に用いた供試板の略号と内訳を以下に示す。SPC(冷延鋼板:JIS-G-3141)EG(両面電気亜鉛めっき鋼板:めっき目付量20g/m2)GA(両面合金化溶融亜鉛めっき鋼板:めっき目付量45g/m2)Zn-Ni(両面電気亜鉛ニッケルめっき鋼板:めっき目付量20g/m2)Al(アルミニウム板:JIS-5052)
【0042】(アルカリ脱脂液)実施例、比較例ともにファインクリーナーL4460(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を2%に水道水で希釈して使用した。
【0043】(表面調整剤)表1に実施例で使用した表面調整用前処理液の組成を、表2に比較例で使用した表面調整用前処理液の組成を示す。なお、経時試験は表面調整用前処理液を調整後、1週間室温で放置した後に実施した。
【0044】実施例1
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0045】実施例2
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0046】実施例3
Zn3(PO4)2・4H2O試薬を乳鉢で1分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、4.2μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0047】実施例4
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで1時間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.09μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0048】実施例550℃に加温した0.5mol/Lの硫酸鉄(II)溶液1Lに、1mol/Lの硫酸亜鉛溶液100mLおよび1mol/Lのりん酸1水素ナトリウム溶液100mLを交互に加え沈殿を生成させた。沈殿を含む水溶液を90℃で1時間加温して沈殿粒子を熟成させた後、傾斜洗浄を10回繰り返し実施した。濾過して得られた沈殿物を乾燥しX線回折で分析した結果、沈殿物は一部第3りん酸鉄を含むフォスフォフィライト[Zn2Fe(PO4)2・4H2O]であった。前記フォスフォフィライトをジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.29μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0049】実施例6
50℃に加温した0.1mol/Lの硝酸マンガン溶液1Lに1mol/Lの硝酸亜鉛溶液200mLを加え、更に1mol/Lのりん酸1水素ナトリウム溶液200mLを加えて沈殿を生成させた。沈殿を含む水溶液を90℃で1時間加温して沈殿粒子を熟成させた後、傾斜洗浄を10回繰り返し実施した。濾過して得られた沈殿物の一部を塩酸で溶解し成分を原子吸光分析装置を用いて分析した結果、沈殿物は[ZnXMnY(PO4)2]であった。前記[ZnXMnY(PO4)2]をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.32μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0050】実施例7
50℃に加温した0.1mol/Lの硝酸カルシウム溶液1Lに1mol/Lの硝酸亜鉛溶液200mLを加え、更に1mol/Lのりん酸1水素ナトリウム溶液200mLを加えて沈殿を生成させた。沈殿を含む水溶液を90℃で1時間加温して沈殿粒子を熟成させた後、傾斜洗浄を10回繰り返し実施した。濾過して得られた沈殿物を乾燥しX線回折で分析した結果、沈殿物はショルタイト[Zn2Ca(PO4)2・4H2O]であった。前記ショルタイトをジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.30μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0051】実施例8
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が0.02g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてZrO2ゾル(NZS-30B:日産化学工業(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0052】実施例9
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が30g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSb2O5ゾル(A-1530:日産化学工業(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0053】実施例10
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩としてメタ珪酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0054】実施例11
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩としてセスキ炭酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0055】実施例12
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0056】実施例13
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0057】実施例14
実施例2と同じ処理液を用い、処理温度40℃で表面調整用前処理を行った。
【0058】実施例15
実施例14の処理液に界面活性剤(ホ°リオキシエチレンノニルフェノールエーテル:EO11モル)を2g/L添加し、処理温度40℃で脱脂を行わない塗油されたままのテストピースに対して脱脂兼表面調整処理を行った。
【0059】実施例16
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。縣濁液の粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)とコールターカウンター(コールター社)で測定した結果、0.31μmと6.5μmに粒度分布のピークがあり、6.5μmの粒子を20%含んでいた。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0060】比較例1
従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN(登録商標:日本パーカライジング(株)製)水溶液の標準条件で表面調整用前処理を行った。
【0061】比較例2
従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN水溶液に、表2に示す通り酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)を加えて表面調整用前処理を行った。
【0062】比較例3
従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN水溶液のpHを表2に示す値に調整して表面調整用前処理を行った。
【0063】比較例4
従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN水溶液のpHを表2に示す値に調整して表面調整用前処理を行った。
【0064】比較例5
従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN水溶液の処理温度を40℃として表面調整用前処理を行った。
【0065】比較例6
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0066】比較例7
Zn3(PO4)2・4H2O試薬を2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し濾紙に残った粒子を再度水に分散し縣濁液とした。縣濁液の平均粒径をコールターカウンター(コールター社)で測定した結果、6.5μmであった。次に縣濁液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0067】比較例8
Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0068】(りん酸亜鉛処理液)実施例、比較例ともにパルボンドL3020(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を4.8%に水道水で希釈し、成分濃度、全酸度、遊離酸度、促進剤濃度を現在、自動用りん酸亜鉛処理として一般に用いられている濃度に調整して使用した。以下に処理工程を示す。
【0069】(処理工程)(1)アルカリ脱脂42℃、120秒スプレー(2)水洗 室温、30秒スプレー(3)表面調整 室温、20秒浸漬(4)りん酸亜鉛処理42℃、120秒浸漬(5)水洗 室温、30秒スプレー(6)脱イオン水洗 室温、30秒スプレー
【0070】(塗装および評価工程)実施例、比較例ともにカチオン電着塗料(エレクロン2000:関西ペイント社製)を膜厚20μmとなる様に塗装し、180℃で25分間焼き付けた後に一部を塩水噴霧試験と耐塩温水試験に供した。残りの電着塗装板を中塗り塗料(自動車用中塗り塗料:関西ペイント社製)を中塗り塗装の膜厚が40μmとなる様に塗装し140℃で30分間焼き付けを行った。更に中塗り塗装が完了した供試板に上塗り塗料(自動車用上塗り塗料:関西ペイント社製)を上塗り塗装の膜厚が40μmとなる様に塗装し140℃で30分間焼き付けた。得られた総合膜厚100μmの3コート板を1次密着性評価試験、2次密着性評価試験に供した。
【0071】(りん酸亜鉛皮膜の評価方法)(1)外観目視観察により、りん酸亜鉛皮膜のスケ、ムラの有無を確認した。評価は以下の通りとした。◎均一良好な外観 ○一部ムラあり △ムラ、スケあり ×スケ多し ××化成皮膜なし
【0072】(2)皮膜重量(C.W.)化成処理後の処理板の重量を測定し(W1[g]とする)、次いで化成処理板に下記に示す剥離液、剥離条件にて皮膜剥離処理を施し、その重量を測定し(W2[g]とする)、式(I)を用いて算出した。・冷延鋼板の場合剥離液:5%クロム酸水溶液剥離条件:75℃、15分、浸漬剥離・亜鉛めっき板の場合剥離液:重クロム酸アンモニウム2重量%+28%アンモニア水49重量%+純水49重量%剥離条件:常温、15分、浸漬剥離 皮膜重量[g/m2]=(W1-W2)/0.021式(I)
【0073】(3)皮膜結晶サイズ(C.S.)析出した皮膜結晶は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1500倍に拡大した像を観察し、結晶粒径を調査した。
【0074】(4)P比実施例、比較例ともにSPC鋼板についてのみ、X線回折装置を用いてりん酸亜鉛化成皮膜中のフォスフォフィライト結晶のX線強度(P)とホパイト結晶のX線強度(H)を測定した。得られたX線強度から式(II)を用いてP比を算出した。P比=P/(P+H)式(II)
【0075】(塗膜の評価方法)実施例、比較例ともに下記に示す評価方法に従って塗膜の評価を実施した。
【0076】(1)塩水噴霧試験(JIS-Z-2371)クロスカットを入れた電着塗装板に5%塩水を960時間噴霧した。噴霧終了後にクロスカットからの片側最大錆幅を測定し評価した。
【0077】(2)耐塩温水試験クロスカットを入れた電着塗装板を5%塩水中に240時間浸漬した。浸漬終了後にクロスカットからの片側最大錆幅を測定し評価した。
【0078】(3)1次密着性評価試験3コート板に鋭利なカッターで2mm間隔の碁盤目を100個形成し、碁盤目上に粘着テープを粘着した後に剥離して、剥離した碁盤目塗膜の数を評価した。
【0079】(4)2次密着性評価試験3コート板を40℃の脱イオン水に240時間浸漬し浸漬終了後に1次密着性評価試験と同様の手順に従い碁盤目剥離試験を実施し、剥離した碁盤目塗膜の数を評価した。
【0080】表3に実施例における表面調整用前処理液を用いたりん酸亜鉛処理において得られた化成処理皮膜の皮膜特性を示す。
【0081】表4に比較例における表面調整用前処理液を用いたりん酸亜鉛処理において得られた化成処理皮膜の皮膜特性を示す。
【0082】表5に実施例における表面調整用前処理液を用いたりん酸亜鉛処理において得られた化成処理皮膜の塗装後の性能評価結果を示す。
【0083】表6に比較例における表面調整用前処理液を用いたりん酸亜鉛処理において得られた化成処理皮膜の塗装後の性能評価結果を示す。
【0084】表3および表4より本発明品である表面調整用前処理液は従来品の欠点であった経時安定性が著しく向上していることが確認される。また、実施例1および実施例2から経時安定性に対する酸化物微粒子の効果が明らかとなっている。更に酸化物微粒子およびアルカリ金属の種類、処理温度を変えてもその効果は変わらず従来品と同等以上に緻密で微細な結晶を得ることができ、使用する2価もしくは3価の金属のりん酸塩の平均粒径を制御することによって得られるりん酸塩皮膜結晶のサイズを制御することも可能となった。
【0085】表5および表6から本発明品である表面調整用前処理液は従来品と同等以上の塗装性能を与えるものであることが解る。
【0086】
【発明の効果】前述した通り本発明品は従来品の欠点であった経時安定性を格段に向上し、従来品では不可能であったりん酸塩皮膜結晶サイズの自由な制御も可能とした。従って、本発明品は従来品と比較して経済的に有利であり、かつ従来品と同等以上の性能を与えることを可能としたのである。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
【表5】

【0092】
【表6】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-02-08 
結審通知日 2005-02-14 
審決日 2006-09-06 
出願番号 特願平9-52181
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 池 田 正 人
特許庁審判官 日比野 隆 治
市 川 裕 司
岡 和 久
城 所 宏
登録日 2003-07-18 
登録番号 特許第3451334号(P3451334)
発明の名称 りん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液  
代理人 小野寺 良文  
代理人 飯塚 卓也  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 末吉 亙  
代理人 前 直美  

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