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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1168027 |
審判番号 | 不服2005-20235 |
総通号数 | 97 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-01-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-10-20 |
確定日 | 2007-11-15 |
事件の表示 | 特願2002- 21817「磁気転写方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月15日出願公開、特開2003-228830〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成14年1月30日の出願であって、平成17年9月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年10月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成17年11月18日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成17年11月18日付け手続補正について [補正却下の決定の結論] 平成17年11月18日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前の、 (a) 「転写すべき情報に応じた凹凸パターンを有する磁気転写用マスター担体を密着して前記情報が転写される、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に塗布してなるフレキシブル磁気記録媒体であって、前記磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度をX、前記磁気記録媒体の表面のヌープ硬度をYkg/mm2とした場合に、1≦Y/X≦7であることを特徴とするフレキシブル磁気記録媒体。」を、 (b) 「転写すべき情報に応じた凹凸パターンを有する磁気転写用マスター担体を密着して前記情報を非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に塗布してなる塗布型磁気記録媒体に転写する磁気転写方法であって、前記磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度をX、前記磁気記録媒体の表面のヌープ硬度をYkg/mm2とした場合に、1≦Y/X≦7(但し、Xは4≦X≦9.5、Yは10≦Y≦50)であることを特徴とする磁気転写方法。」 と補正するものである。(なお、下線は、補正の前後で異なっている個所に当審で付与したものである。) 本件補正は、補正前の「フレキシブル磁気記録媒体」に関する発明を、「磁気転写方法」に関する発明に補正するものであるから、発明のカテゴリーを変更する補正であり、また「磁気記録媒体」について「フレキシブル」という限定を削除して「塗布型」と限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の変更に該当し、特許請求の範囲の減縮に当たらない。 よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の各号のいずれにも該当しないので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 2. なお、本件補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに仮に該当したとするとき、補正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「補正後の発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下検討する。 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-331341号公報(以下「引用例1」という。)には、「磁気転写方法」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。) (ア)「【請求項11】磁気記録媒体への記録情報を転写する方法において、基板上に転写用記録情報を磁化した複数の転写情報記録部が存在し、それぞれの転写情報記録部の間には、空間もしく非磁性部が存在しており、転写情報記録部の表面硬度が20GPa以上であるとともに、表面には厚さ3nm?30nmのダイヤモンド状炭素保護膜を有している磁気転写用マスター担体と、表面硬度が1GPa以上で可撓性を有したスレーブ媒体とを密着して磁気転写を行うことを特徴とする磁気転写方法。」 (イ)「【0006】そこで、こうした従来の問題点を解決する記録方法として、特開平10-40544号公報において、基体の表面に情報信号に対応する凹凸形状が形成され、凹凸形状の少なくとも凸部表面に強磁性薄膜が形成された磁気転写用マスター担体の表面を、強磁性薄膜あるいは強磁性粉塗布層が形成されたシート状もしくはディスク状磁気記録媒体の表面に接触、あるいはさらに交流バイアス磁界、あるいは直流磁界を印加して凸部表面を構成する強磁性材料を励磁することによって、凹凸形状に対応する磁化パターンを磁気記録媒体に記録する方法が提案されている。」(従来の技術の項) (ウ)「【0008】 【発明が解決しようとする課題】ところが、このような記録方法では、記録枚数が少ない場合には、高精度の記録が可能であるが、多くのスレーブ媒体のプリフォーマットを行うと、磁気転写用マスター担体の情報記録領域の角部が乱れたり、スレーブ媒体の記録が欠けたりすることが起こり、多数枚の記録は困難であるという問題点を有していた。本発明は、磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体とを密着させて外部磁界を印加してプリフォーマットパターンの転写によって作製したスレーブ媒体のサーボ動作が不正確となることを防止することを課題とするものである。」 (エ)「【0012】 【発明の実施の形態】本発明は、凹凸を形成した磁気転写用マスター担体の凸部に有する記録情報をスレーブ媒体へ転写する記録方法の問題点を解決するものである。本発明者等は、凹凸を形成した磁気転写用マスター担体の凸部に保持した磁気情報を転写する方法は、従来の平面上の高抗磁力の強磁性体の一部に磁化を形成して磁気転写用マスター担体を形成する方法に比べて、短時間に転写が可能である等の特徴を有した極めて優れた方法であるが、情報記録領域の角部が欠けたり、あるいは記録が欠けたりすることは避けられなかった。これはスレーブ媒体の表面の潤滑剤等の磁性層の構成部材や塵挨等が凸部に付着し、マスター記録媒体とスレーブ媒体との間に間隔が生じ、スペーシングロスによって記録が困難となることが原因であることを見いだした。また、スレーブ媒体の表面に傷が生じる問題の原因は、磁気転写用マスター担体の凸部の角部との接触によって生じている問題であることを見いだして本発明を想到したものである。 【0013】(略)ところが、このような方法によって磁気転写用マスター担体を用いて多数回の転写を行うと、図2に示すように磁気転写用マスター担体に以下に示すような問題点が生じる。 【0014】図2は、多数回の転写を行った後の磁気転写用マスター担体を説明する図である。磁気転写用マスター担体1を用いて、複数回の転写を行うと、凸部3の角部8が情報記録媒体との多数回の接触によって欠損が生じたり、凸部3の角部8に、情報記録媒体の構成成分のけずれや、凸部のけずれ、あるいは雰囲気中のちり等から付着固形物9が生じることとなる。その結果、凸部の角部の磁化が正確に転写されずに転写された磁化の角部が乱れたり、あるいは付着固形物によって凸部とスレーブ媒体との距離が大きくなってスレーブ媒体の記録が欠けたりすることが起こるものとみられる。 【0015】そして、このような問題は、磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体とを密着させる際に、両者の間で少しのずれが生じた際に、磁気転写用マスター担体の凸部の角部でスレーブ媒体の表面を削るために、スレーブ媒体の表面に形成されている潤滑剤や磁性層が削れとられたり、磁気転写用マスター担体の凸部の一部が欠ける等の現象によって生じるものである。(略)」 (オ)「【0025】本発明の磁気転写用マスター担体およびスレーブ媒体は、転写情報記録部10に損傷が生じることがないように、転写情報記録部には、ダンヤモンド状炭素保護膜の形成によって充分な硬度を有していることが好ましく、10GPa以上の硬度を有していることが好ましい。さらに好ましくは20GPaである。10GPaよりも小さい場合には、耐久性が小さくなるので好ましくない。(略) 【0026】さらに、炭素保護膜上には潤滑剤が存在することが好ましい。(略) 【0027】また、磁気転写用マスター担体の表面に、塵埃が付着して磁気転写用マスター担体および被転写磁気記録媒体の表面を破損したり、両者の間に空間が生じることを防止することによって記録情報の転写を正確に行うことが可能であることを見いだしたものである。強磁性層が凸部のみにある磁気転写用マスター担体を用いた場合には、乱れがない磁化パターンをスレーブ媒体上に転写することができる。しかし、多数回の転写を繰り返すと、転写パターンに欠けが生じる欠陥を有することがわかった。」 (カ)「【0039】また、凹凸を形成した磁気転写用マスター担体の凸部の磁気情報を転写する方法において、情報記録領域の角部が欠けたり、あるいは記録が欠けたりすることが避けられなかったのは、磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体のそれぞれの表面硬度、可撓性等に問題があり、これらを改良することによっても大幅な改善が可能である。 【0040】図7は、従来の磁気転写用マスター担体からスレーブ媒体への転写方法を説明する図である。磁気転写用マスター担体1には、強磁性薄膜2が形成されており、強磁性薄膜の表面にはプリフォーマットに合わせて形成した凸部3が形成されている。磁気転写用マスター担体の凸部3をスレーブ媒体5の表面に接触して励磁磁界6を与えると、スレーブ媒体5には、マスター担体の凸部3に応じた記録磁界7が形成されてスレーブ媒体のプリフォーマットが行われる。ところが、このような方法によって磁気転写用マスター担体を用いて多数回の転写を行うと、転写した磁気記録情報にエッジの乱れや、記録が欠けたりすることが生じ、多数枚の転写は困難であった。 【0041】この大きな原因は、磁気転写用マスター担体の表面硬度が不充分であることである。十分な硬度を有しない磁気転写用マスター担体は、転写回数を重ねるにつれ、磁気転写用マスター担体の転写パターンの一部、とくにエッジの部分が欠けることで、転写パターンの形状が欠けたり、乱れが生じる。また欠けた部分から生じた微細な粉が磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体との間に入り、両者の間に空間が生じることで、欠けていない磁気転写用マスター担体からの磁界も広がり、転写像が不鮮明になる。」 (キ)「【0043】図8は、本発明の磁気転写用マスター担体とそれを用いたスレーブ媒体への記録情報の転写方法を説明する図であり、磁気転写用マスター担体の面に垂直な記録トラック方向の断面を示す図である。磁気転写用マスター担体1には、非磁性基体、プリフォーマットに応じた凸状の転写情報記録部10が形成されている。転写情報記録部10上にはダイヤモンド状炭素保護膜12が形成されており、さらにダイヤモンド状炭素保護膜上には潤滑剤層15が形成されている。本発明の磁気転写用マスター担体をスレーブ媒体5と密着、あるいは直流磁界等の励磁磁界6を印加して転写情報記録部10を励磁することによってスレーブ媒体の精密なプリフォーマットが行われる。 【0044】(略)また、磁気転写用マスター担体と接触するスレーブ媒体は、表面硬度が1GPa以上であることが好ましく、2GPa以上であることがより好ましく、磁気転写用マスター担体と同様にダイヤモンド状炭素保護膜を形成したものが好ましい。スレーブ媒体は、磁気転写用マスター担体の密着によって傷が生じないように表面の硬度が高いものであるとともに、磁気転写用マスター担体と密着した際に十分に密着するように可撓性を有していることが好ましい。 【0045】本発明において使用可能なスレーブ媒体は、基材として合成樹脂フィルムを用いることが好ましく、(略) 【0046】スレーブ媒体に形成する磁性層は、強磁性金属薄膜から構成されたものの場合には高記録密度を有する磁気記録媒体が得られるので好ましいが、強磁性金属粉末を、結合剤中に分散した組成物を塗布することによって形成した磁性層を有するものであっても良い。その場合には、磁性層の形成に使用する組成物中に混合する研磨剤の種類、あるいは量を調整することによって所定の硬度のものを得ることができる。また、スレーブ媒体が強磁性金属薄膜を形成したものである場合には、磁性層表面に、ダンヤモンド状炭素保護膜を形成し、さらに潤滑剤層を形成することが好ましい。」 (ク)「【0047】次に、本発明の表面硬度について説明する。本発明の表面硬度は、微小硬度で表現したものである。通常のビッカース、ヌープ硬度測定のように大きな荷重で磁気転写用マスター担体に圧力を印加して行う測定方法では、好ましい硬度範囲を見いだすことはできなかった。硬度の測定は2枚の電極板の中間に圧子が設置されたピックアップ電極が置かれた、電極の動きに伴う静電容量の変化を用いて、力と変位を高感度に検出する方法で測定できる。測定はダイヤモンド先端稜角90度、先端曲率半径35?50nmの三角錐型を用いて押し込み加重5μNで押し込み速度2?4nm/秒で押し込み、最大5μNまでの圧力を印加し、その後圧力を徐々に戻す。このときの最大荷重5μNを圧子接触部の投影面積で除算した値を硬度とする。投影面積は押し込み試験によって得られ深さ-加重曲線のうち除荷曲線の1/3を直線近似して深さ軸と交差する点を圧子接触部の接触深さとし、圧子の形状より該接触深さの関数として求められる。 【0048】通常のビッカース、ヌープ硬度測定のように大きな荷重を印加して媒体内部(100nm以上)まで測定した硬度では転写に適切なマスタ担体、転写方法を見出すことが出来なかった。具体的には、TRIBOSCOPE(HYSITRON社)等を用いて測定が可能である。」 (ケ)「【0070】実施例3-1 (磁気転写用マスター担体の作製)ガラス基板に下地層としてCrTiを60nmの厚さでスパッタリングによって形成した後に、抗磁力(Hc)8.0kA/m(100Oe)のFe:Co=80:20の組成の磁性膜をスパッタリングで200nmの厚さに設けた。次いで、フォトレジストを塗布し、プリフォーマット用のフォトマスクを用いて露光、現像してレジストパターンを形成した。次いで、50重量%の塩化第二鉄溶液を用いて磁性層をエッチングした後に、フォトレジストを除去して、メタンとアルゴンが体積比で1:1の混合気体を通気して、0.267Pa(2×10-3Toor)の真空度で高周波プラズマを発生させて基板に200Vの負の電圧を印加して炭素保護膜を10nmの厚さで形成した。 【0071】得られた磁気転写用マスター担体をTRIBOSCOPE(HYSITRON社)を用いて、ダイヤモンド先端稜角90度、先端曲率半径40nmの三角錐型を用いて押し込み加重5μNで押し込み速度3nm/秒で押し込み、最大5μNまでの圧力を印加し、その後圧力を徐々に戻す。このときの最大荷重5μNを圧子接触部の投影面積で除算して硬度を求めたところ、30GPaであった。 【0072】(スレーブ媒体の作製)厚さ75μmのポリイミド基板上にCrTiを60nmの厚さでスパッタリングによって形成し、さらに、抗磁力(Hc)159kA/m(2000Oe)のCoPtCrTa膜をスパッタリングで30nmの厚さに形成して、磁性層を形成した。次いで、スパッタリングによってダイヤモンド状炭素保護膜を形成し、得られたスレーブ媒体を磁気転写用マスター担体と同様の測定条件で表面硬度を測定したところ、20GPaであった。次いで、477kA/m(6000Oe)で直流磁化した。 【0073】(転写試験方法)スレーブ媒体と磁気転写用マスター担体とを密着して151kA/m(1900Oe)の外部磁化をスレーブ媒体の磁化とは逆方向の方向に印加した。磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体との密着は、ゴム板を挟んでアルミニウム板上から加圧した。マスター担体を変えて10000回の転写後スレーブ媒体に転写された磁化パターンの状況を磁気力顕微鏡(MFM)で観察し、光学顕微鏡で磁気転写用マスター担体の表面の破損状況を観察した。スレーブ媒体の表面に良好な転写パターンが観察され、またマスター担体の表面の破損状況を観察したところ、ほとんど欠けは見られなかった。 【0074】比較例3-1 炭素保護膜を形成しなかった点を除き、実施例3-1と同様にして、磁気転写用マスター担体およびスレーブ媒体を作製し、実施例3-1と同様にして転写試験を行い、表面の状態を観察したところ、磁気転写用マスター担体には欠けがみられ、また転写パターンにも欠けがみられた。」 (コ)「【発明の効果】以上のように、本発明の磁気転写用マスター担体を用いることにより、ハードディスク、大容量リムーバブルディスク媒体、大容量フレキシブル媒体等のディスク状媒体に、短時間に生産性良く、トラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等のプリフォーマット記録を高精度で多数回安定して行うことができ、また、磁気転写用マスター担体から、スレーブ媒体への磁気転写において、スレーブ媒体のHcsに対して特定の強度の転写用磁界を与えることによってパターンの位置や形状によらずに高品位の転写パターンを有するスレーブ媒体を得ることができる。」 (2)対比 補正後の発明と引用例1に記載された発明とを対比する。 上記(1)で摘示した記載事項、特に(キ)(下線部参照)によれば、引用例1には、 「磁気転写用マスター担体には、非磁性基体、プリフォーマットに応じた凸状の転写情報記録部が形成され、磁気転写用マスター担体をスレーブ媒体と密着、あるいは直流磁界等の励磁磁界を印加して転写情報記録部を励磁することによってスレーブ媒体の精密なプリフォーマットが行われる、磁気転写方法であって、 スレーブ媒体は、強磁性金属粉末を、結合剤中に分散した組成物を塗布することによって形成した磁性層を有し、所定の硬度のものである、方法。」 の発明が記載されている。 引用例1に記載された発明の「プリフォーマット」「凸状の転写情報記録部」「スレーブ媒体」は、それぞれ補正後の発明の「転写すべき情報」「凹凸パターン」「磁気記録媒体」に相当している。 引用例1に記載された発明の「スレーブ媒体」は、「強磁性金属粉末を、結合剤中に分散した組成物を塗布することによって形成した磁性層を有」するから、補正後の発明の「非磁性支持体上に」「磁性層」を「塗布してなる塗布型磁気記録媒体」に相当する構成を備えている。 よって、補正後の発明と引用例1に記載された発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 「転写すべき情報に応じた凹凸パターンを有する磁気転写用マスター担体を密着して前記情報を非磁性支持体上に磁性層を塗布してなる塗布型磁気記録媒体に転写する磁気転写方法。」 (相違点1) 補正後の発明は、「塗布型磁気記録媒体」について、「非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に塗布してなる塗布型磁気記録媒体」と特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、そのように特定していない点。 (相違点2) 補正後の発明は、「磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度をX、磁気記録媒体の表面のヌープ硬度をYkg/mm2とした場合に、1≦Y/X≦7(但し、Xは4≦X≦9.5、Yは10≦Y≦50)である」と特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、そのように特定していない点。 (3)判断 (相違点1について) 塗布型磁気記録媒体において、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順で塗布してなるものは、周知の事項であって、引用例1に非磁性層を塗布により形成する記載がなくとも、磁性層の下地層を塗布により設けることは当業者が普通になし得ることにすぎない。 (相違点2について) 引用例1には、「多くのスレーブ媒体のプリフォーマットを行うと、磁気転写用マスター担体の情報記録領域の角部が乱れたり、スレーブ媒体の記録が欠けたりすることが起こり、多数枚の記録は困難である」(上記(ウ)段落8)という問題点が示され、「磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体とを密着させて外部磁界を印加してプリフォーマットパターンの転写によって作製したスレーブ媒体のサーボ動作が不正確となることを防止すること」(上記(ウ)段落8)が技術課題として記載されている。 その原因について、「スレーブ媒体の表面の潤滑剤等の磁性層の構成部材や塵挨等が凸部に付着し、マスター記録媒体とスレーブ媒体との間に間隔が生じ、スペーシングロスによって記録が困難となること」(上記(エ)段落12)、「スレーブ媒体の表面に傷が生じる問題の原因は、磁気転写用マスター担体の凸部の角部との接触によって生じている」(上記(エ)段落12)、「磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体とを密着させる際に、両者の間で少しのずれが生じた際に、磁気転写用マスター担体の凸部の角部でスレーブ媒体の表面を削るために、スレーブ媒体の表面に形成されている潤滑剤や磁性層が削れとられたり、磁気転写用マスター担体の凸部の一部が欠ける等の現象によって生じるものである」(上記(エ)段落15)、「磁気転写用マスター担体を用いて多数回の転写を行うと、転写した磁気記録情報にエッジの乱れや、記録が欠けたりすることが生じ、多数枚の転写は困難であった。」(上記(カ)段落40)と記載されている。 そして、その解決手段について、「磁気転写用マスター担体およびスレーブ媒体は、転写情報記録部10に損傷が生じることがないように、転写情報記録部には、ダンヤモンド状炭素保護膜の形成によって充分な硬度を有していることが好ましく、10GPa以上の硬度を有していることが好ましい。さらに好ましくは20GPaである。10GPaよりも小さい場合には、耐久性が小さくなるので好ましくない。」(上記(オ)段落25)、「情報記録領域の角部が欠けたり、あるいは記録が欠けたりすることが避けられなかったのは、磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体のそれぞれの表面硬度、可撓性等に問題があり、これらを改良することによっても大幅な改善が可能である」(上記(カ)段落39)、「磁気転写用マスター担体の表面硬度が不充分であることである。十分な硬度を有しない磁気転写用マスター担体は、転写回数を重ねるにつれ、磁気転写用マスター担体の転写パターンの一部、とくにエッジの部分が欠けることで、転写パターンの形状が欠けたり、乱れが生じる。」(上記(カ)段落41)、「磁気転写用マスター担体と接触するスレーブ媒体は、表面硬度が1GPa以上であることが好ましく、2GPa以上であることがより好ましく、磁気転写用マスター担体と同様にダイヤモンド状炭素保護膜を形成したものが好ましい。スレーブ媒体は、磁気転写用マスター担体の密着によって傷が生じないように表面の硬度が高いものであるとともに、磁気転写用マスター担体と密着した際に十分に密着するように可撓性を有していることが好ましい。」(上記(キ)段落44)、「スレーブ媒体に形成する磁性層は、(略)強磁性金属粉末を、結合剤中に分散した組成物を塗布することによって形成した磁性層を有するものであっても良い。その場合には、磁性層の形成に使用する組成物中に混合する研磨剤の種類、あるいは量を調整することによって所定の硬度のものを得ることができる」(上記(キ)段落46)と記載されている。また、実施例3において、磁気転写用マスター担体の表面の破損状況と、磁気記録媒体表面の転写パターンを観察することにより、磁気転写用マスター担体と磁気記録媒体の好ましい硬度を選定している(上記(ケ))。 即ち、磁気転写用マスター担体と磁気記録媒体の硬度について、磁気転写用マスター担体は、凸部の一部が欠けることがないよう、ダイヤモンド状炭素保護膜等の形成により充分な硬度を有するようにすることが望ましく、磁気記録媒体は、磁気転写用マスター担体の密着や接触によって傷が生じないように表面の硬度が高いものが望ましい旨が、記載されている。 従来から、硬度は、二つのものを接触させたときに傷のつき具合を相対的な値(モース硬度)、あるいは絶対的な値(ヌープ硬度)により表されるものであり、他方の接触によって傷が生じないとは、接触する両者の硬度が、相対的に適切な範囲にあることが望まれていることに他ならないことである。 引用例1に記載された発明において、磁気転写のための接触を繰り返す際に、磁気転写用マスター担体と磁気記録媒体ともに傷が生じないような硬度のものが望まれているのであり、また、磁気転写を多数回繰り返して磁気転写記録の状態を観察して判断することにより最適な硬度を選定することが引用例1に示されているのであるから、磁気転写用マスター担体の硬度を例えばモース硬度と、磁気記録媒体の硬度を例えばヌープ硬度で表現し、相対的な関係を表現する比の範囲を選定することは、当業者が容易になし得ることである。 1≦Y/X≦7の数値について以下詳細に検討する。 補正後の発明において1≦Y/X≦7と特定する根拠について、本願明細書には、「Y/Xが1未満である場合およびY/Xが8よりも大きい場合には、磁気転写用マスター担体と良好な密着状態で磁気転写を行うことができず、信号品位を向上させることが困難となり、また、Y/Xが8よりも大きい場合には、繰り返し磁気転写によりマスター担体に傷などが発生し、充分な転写枚数を処理することができない。」(段落15)と記載されている。ところで、引用例1では、磁気記録媒体の表面の硬度は磁気転写用マスター担体の密着により傷がつかない程度の硬度を要求されていることから、[磁気記録媒体の表面の硬度]/[磁気転写用マスター担体の表面の硬度](「Y/X」に対応)の比において当該要求を満足するような下限が適宜選定されるべきものであることは明らかである。また、引用例1には、磁気転写マスター担体側の硬度が不十分であると凸部の角部が欠けたり、欠けた部分から生じた粉が両者の間に入り密着性を悪くする(上記(カ)段落41等)ことが示されているから、[磁気記録媒体の表面の硬度]/[磁気転写用マスター担体の表面の硬度](「Y/X」に対応)の比において上限が適宜選定されるべきものであることが明らかである。してみると、補正後の発明における1≦Y/X≦7の技術的意義は、引用例1とその技術的意義が共通しており、当業者が適宜選定しうる程度の数値にすぎない。 磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度Xを4≦X≦9.5とする点について以下検討する。 引用例1には、磁気転写用マスター担体として、充分な硬度を有するように、ダイヤモンド状炭素保護膜の形成によって10GP以上の硬度を有する例が示され、当該ダイヤモンド状炭素保護膜は、補正後の発明のX=9.5(ダイヤモンド状炭素保護膜を使用)の場合に相当するものであるといえ、また補正後の発明の磁気転写用マスター担体は公知のものであると記載されている(本願明細書段落48)ことからも、引用例1に記載された発明の磁気転写マスター担体は、補正後の発明の4≦X≦9.5の硬度を実質的に有するものであり何ら相違しない。 磁気記録媒体の表面のヌープ硬度Yを10≦Y≦50とする点について以下検討する。 ヌープ硬度Yを10≦Y≦50とする磁気記録媒体は公知の製造方法により形成されるものであると記載されている(本願明細書段落46等)。ところで、引用例1には、塗布型磁気記録媒体の場合の表面の硬度については具体的な値が示されていないが、磁性層の形成に使用する組成物中に混合する研磨剤の種類あるいは量を調整することによって所定の硬度のものを得ることができる旨(上記(キ)段落46)が示されているから、塗布型磁気記録媒体の表面の硬度を、磁気転写マスター担体の表面の硬度に対して相対的に傷が生じないような値に選定することは当然のことであり、10≦Y≦50は当業者が適宜採用しうる程度の数値にすぎない。 そして、上記相違点1乃至2を総合的に検討しても、補正後の発明の効果は、引用例1に記載された発明から当業者であれば予測される範囲内であるので、上記相違点は、当業者が容易に想到し得たものである。 (4)むすび 以上のとおり、補正後の発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 平成17年11月18日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】転写すべき情報に応じた凹凸パターンを有する磁気転写用マスター担体を密着して前記情報が転写される、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に塗布してなるフレキシブル磁気記録媒体であって、前記磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度をX、前記磁気記録媒体の表面のヌープ硬度をYkg/mm2とした場合に、1≦Y/X≦7であることを特徴とするフレキシブル磁気記録媒体。」 1.引用例 原審の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、上記「第2の2(1)」に記載されたとおりである。 2.対比判断 (1)対比 本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。 上記「第2の2(1)」で摘示した記載事項、特に上記(キ)(下線部参照)によれば、引用例1には、 「磁気転写用マスター担体には、非磁性基体、プリフォーマットに応じた凸状の転写情報記録部が形成され、磁気転写用マスター担体をスレーブ媒体と密着、あるいは直流磁界等の励磁磁界を印加して転写情報記録部を励磁することによってスレーブ媒体の精密なプリフォーマットが行われる、スレーブ媒体であって、 スレーブ媒体は、可撓性を有し、 スレーブ媒体は、強磁性金属粉末を、結合剤中に分散した組成物を塗布することによって形成した磁性層を有し、所定の硬度のものである、スレーブ媒体。」 の発明が記載されている。 引用例1に記載された発明の「プリフォーマット」「凸状の転写情報記録部」「スレーブ媒体」は、それぞれ本願発明の「転写すべき情報」「凹凸パターン」「磁気記録媒体」に相当している。 引用例1に記載された発明の「スレーブ媒体」は、「可撓性を有し」、「強磁性金属粉末を、結合剤中に分散した組成物を塗布することによって形成した磁性層を有」するから、本願発明の「非磁性支持体上に」「磁性層」を「塗布してなるフレキシブル磁気記録媒体」に相当する構成を備えている。 よって、本願発明と引用例1に記載された発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 「転写すべき情報に応じた凹凸パターンを有する磁気転写用マスター担体を密着して前記情報が転写される、非磁性支持体上に磁性層を塗布してなるフレキシブル磁気記録媒体。」 (相違点1’) 「フレキシブル磁気記録媒体」について、本願発明は、「非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に塗布してなるフレキシブル磁気記録媒体」と特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、そのように特定していない点。 (相違点2’) 本願発明は、「磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度をX、磁気記録媒体の表面のヌープ硬度をYkg/mm2とした場合に、1≦Y/X≦7である」と特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、そのように特定していない点。 (2)判断 (相違点1’について) フレキシブル磁気記録媒体において、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順で塗布してなるものは、周知の事項であって、引用例1に非磁性層を塗布により形成する記載がなくとも、磁性層の下地層を塗布により設けることは当業者が普通になし得ることにすぎない。 (相違点2’について) 上記「第2の2(3)(相違点2について)」で検討したとおり、引用例1に記載された発明において、「磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度をX、磁気記録媒体の表面のヌープ硬度をYkg/mm2とした場合に、1≦Y/X≦7である」磁気記録媒体を採用することは、当業者が容易になし得ることである。 そして、上記相違点1’乃至2’を総合的に検討しても、本願発明の効果は、引用例1に記載された発明から当業者であれば予測される範囲内であるので、上記相違点は、当業者が容易に想到し得たものである。 3.むすび 以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-09-13 |
結審通知日 | 2007-09-18 |
審決日 | 2007-10-01 |
出願番号 | 特願2002-21817(P2002-21817) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G11B)
P 1 8・ 57- Z (G11B) P 1 8・ 121- Z (G11B) P 1 8・ 572- Z (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 馬場 慎 |
特許庁審判長 |
小林 秀美 |
特許庁審判官 |
横尾 俊一 中野 浩昌 |
発明の名称 | 磁気転写方法 |
代理人 | 柳田 征史 |
代理人 | 佐久間 剛 |