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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1168123
審判番号 不服2004-15533  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-26 
確定日 2007-11-12 
事件の表示 特願2001- 65033「スロットマシン」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月 2日出願公開、特開2001-269437〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年3月9日に出願した特願平6-38014号の一部を、平成13年3月8日に分割出願したものであって、平成15年11月25日付で拒絶理由が通知され、平成16年1月26日付で手続補正がなされたが、平成16年6月16日付で拒絶査定がなされた。これに対し、平成16年7月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1乃至3に係る発明は、平成16年1月26日付の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定される「スロットマシン」にあると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「遊技者に対し賞メダルとして払い出されたメダル枚数をカウントする払出メダル枚数カウント手段と、
遊技者がゲームを行うために遊技メダルとして投入するメダル枚数をカウントする遊技メダル枚数カウント手段と、
払出メダル枚数カウント手段でカウントされた賞メダル枚数から、遊技メダル枚数カウント手段でカウントされたメダル枚数を減算することにより遊技者が獲得した賞メダル枚数を算出する獲得メダル枚数算出手段と、
獲得メダル枚数表示信号を出力する獲得メダル枚数表示スイッチと、
この獲得メダル枚数表示スイッチからの獲得メダル枚数表示信号を、遊技者による遊技メダルの投入が行われてから、当該遊技メダルの投入により行われるゲームの結果が確定するまでの間は無効とする表示タイミング制御手段と、
この表示タイミング制御手段からの獲得メダル枚数信号にもとづいて、前記獲得メダル枚数算出手段により算出された獲得メダル枚数を表示させる獲得メダル枚数表示制御手段とを備えたスロットマシンであって、
上記スロットマシンには、
遊技者の操作にもとづいてゲームの開始時点を特定するゲーム開始時点特定スイッチを備え、
上記獲得メダル枚数算出手段には、電源を投入してから現在までの通算で獲得した賞メダル枚数を算出する通算枚数算出手段と、
前記ゲーム開始時点特定スイッチの操作にもとづく信号の入力を条件に、当該ゲーム開始時点特定スイッチが操作された時点からの遊技者が獲得した賞メダル枚数を新たに算出する個人枚数算出手段と、
を備え、
獲得メダル枚数表示制御手段は、
前記獲得メダル枚数表示スイッチの操作にもとづいて、通算枚数算出手段によって算出された、電源を投入してから現在までの通算で獲得した賞メダル枚数又は個人枚数算出手段によって算出された、ゲーム開始時点特定スイッチが操作された時点からの遊技者が獲得した賞メダル枚数のいずれか一方の賞メダル枚数を選択表示させるようにしたことを特徴とするスロットマシン。」

3.引用例記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、この出願の日前に頒布された、国際公開第93/17766号パンフレット(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。

「技術分野
本発明は、表示画面上に遊技のための画像を表示して、遊技を行なう遊技装置に関し、特に、当該遊技装置の稼動状態を示す情報を表示する機能を備えた遊技装置に関する。
背景技術
遊技場に置かれる遊技装置には、コイン、メダル、チップ、ボール等の遊技媒体を投入してゲームを開始し、ゲーム実行中に、一定の条件を満たすと、賞として、予め定めた個数の遊技媒体が払いだされるものがある。この種の遊技装置としては、例えば、スロットマシン、パチンコゲーム機等がある。」(第1頁第3?13行)、
「しかし、係員の経験や勘では、個人差があって、遊技場の管理について、係員による個人的なバラツキが生ずるという問題がある。また、管理コンピュータを備えているにもかかわらず、それを利用しないで、調整を行なうことは、コンピュータを導入する意味がなくなり、不合理である。
この問題を解決するためには、各台にそれぞれの管理データを表示することが考えられる。管理データを表示する機能を有する遊技装置としては、特開平3-234274号公報に記載されているスロットマシンがある。この遊技装置では、正面に設けた専用の表示器に、得失数を表わすグラフが表示されるようになっている。
しかし、このスロットマシンにあっては、得失数グラフ表示用に専用の表示器を設ける必要があるので、それを設けない場合に比しコスト増加が大きいという問題がある。
一方、遊技客の中には、ゲームを行ないながら、その遊技装置についての、その装置における遊技媒体の得失傾向、すなわち、賞の出やすさの傾向を、自ら把握して、その装置が自分にとって有利であるか否かの判定を行なう者がいる。このような判断は、遊技を行なう上での、ある種の楽しみである。しかし、これは、初心者には、困難なことでもある。そこで、遊技者のために、上記した得失数データの表示が行なわれることが望まれる。」(第3頁第5行?第4頁第2行)、
「発明の開示
本発明の第1の目的は、専用の表示器を設けることなく、簡単な構成で、得失数の経時変化を示すデータの表示を行なうことができる遊技装置を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、外部から要求があると、得失数の経時変化を示すデータの表示を行なうことができるようにした遊技装置を提供することにある。」(第5頁第1?7行)、
「上記第1の目的を達成するため、本発明の第1の態様によれば、
遊技用表示画面を有する表示装置を有し、遊技媒体の投入後にゲームが開始され、一定の条件を満たすと、賞として遊技媒体を払い出す制御手段を有する遊技装置において、
遊技媒体の投入数を累積的に計数して出力する投入計数装置と、
遊技媒体の払出数を累積的に計数して出力する払出計数装置と、
前記投入計数装置と払出計数装置の出力の差を求めて、遊技媒体の得失数としてこれを出力する演算手段と、
前記演算手段から出力される得失数を所定時間毎にそのときの時間と対応させて逐次記憶する記憶手段とを備え、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶されている各時間に対する得失数の変化を表す情報を前記遊技用表示画面の一部に表示する処理部を有する
ことを特徴とする遊技装置が提供される。
上記第2の目的を達成するため、本発明の第2の態様によれば、前記第1の態様に加えて、前記得失数の変化を表す情報の表示の指令およびこの表示の消去の指令を外部から前記制御手段に入力するための表示選択手段をさらに有し、前記処理部は、表示の指示を受けると、前記記憶手段に記憶されている各時間に対する得失数の変化を表す情報を前記表示画面の一部に表示し、表示の消去の指示を受けると、前記得失数の変化を表す情報の表示を消去するものである遊技装置が提供される。」(第5頁第11行?第6頁第14行)、
「本発明の遊技装置によれば、遊技途中の、遊技媒体の投入数と払出数とは、投入計数手段と払出計数手段とにより累積的に計数される。演算手段は、これら計数値に基づいて得失数を演算する。そして、この演算結果は、所定時間毎にそのときの時間と対応されて記憶手段に記憶される。この記憶手段に記憶されている各時間に対する得失数のデータは、制御手段によりその変化を表わす情報として遊技用液晶画面の一部に表示される。表示態様としては、トレンドグラフが挙げられる。」(第7頁第5?13行)、
「発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
本発明の第1実施例の遊技装置1は、図1および2に示すように、表示画面2を有する液晶表示装置20が正面に設けられ、この画面2に、複数の回転ドラムのそれぞれに相当する遊技用図柄2aが表示される、液晶表示方式のスロットマシンである。このスロットマシンは、図示していない投入口にコイン(遊技媒体)が投入された後に、ゲームが開始され、一定の条件、例えば、図柄2aが特定の方向にそろうこと等の条件を満たすと、賞としてコインを払い出すものである。また、このスロットマシンの正面には、遊技用表示装置20の他に、遊技客検出器9,表示選択装置10およびスタートレバー11が設けられている。さらに、その正面下部には、払いだされるコインを受けるための受け皿1aが設けられる。
このスロットマシン1は、図3に示すように、その内部に、コインの投入数を累積的に計数して出力する投入計数装置3と、コインの払出数を累積的に計数して出力する払出計数装置4と、投入計数装置3と払出計数装置4の出力の差を演算することによりコインの得失数を求めて、これを出力する演算手段5と、演算手段5から出力されている得失数を所定時間毎にそのときの時間と対応させて逐次記憶する記憶手段6と、この記憶手段6に記憶されているデータを表示すべく遊技用液晶表示装置20の表示画面2を制御する制御手段7と、日時をカウントして出力する計時装置8と備える。
液晶表示装置20は、図示していないが、表示画面2を構成するための液晶パネルと、この液晶パネルを駆動するための駆動回路と、表示データを記憶するための表示メモリとを有する。
投入計数装置3としては、例えば、投入口に設けられコインの通過を検知して投入数を計数する周知の計数器が用いられる。払出計数装置4としては、例えば、図示していないコインの払出部に設けられコインの通過を検知して払出数を計数する周知の計数器が用いられる。また、演算手段6は、例えば、減算を行なう電子演算回路により構成することができる。」(第9頁第1行?第10頁第15行)、
「制御手段7は、投入計数装置3から入力される投入数が予め設定された所定数以上となると定量投入信号を出力する定量投入判断部15と、遊技客検出器の検出信号が所定時間以上出力されると遊技客信号を出力する遊技客判断部16と、これら定量投入判断部15,遊技客判断部16からの信号あるいは表示選択装置10からの指令を受けて遊技用液晶表示装置20の表示画面2の制御等をおこなう処理部17とを実現する。
この制御手段7は、例えば、中央処理ユニット(CPU)、リードオンリメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)等を有するコンピュータシステムにより構成することができる。前記演算手段5および記憶手段6と、この制御手段7との全体が、共通のコンピュータシステムにより構成されていてもよい。
ここで、処理部17は、ゲームの開始を判断すると、表示選択装置10から表示の指令が入力されていることを条件として、記憶手段6に記憶されている各時間に対する得失数のデータに基づいて得失数を表わす情報をグラフ等の図として描画する。この得失数を表わす情報は、遊技用表示画面2の片隅にサブウインドウ2bとして表示される。この得失数を表わす情報は、本実施例では、得失数の変動を経時的に示すトレンドグラフとして表示される。本実施例の場合、数値は示さず、変動傾向のみ示すようにする。また、トレンドの表示範囲は、本実施例の場合、その遊技者かぎりのデータとする。すなわち、前回のゲーム終了後に生じた得失数を示すデータを今回の表示範囲とする。
なお、サブウインドウ2bでの表示は、折線グラフ、棒グラフ等のグラフのほか、例えば、秤等の傾きを図形で示すようにしてもよい。これは、他の実施例についても同様である。
また、ここで、後述する第2の実施例のように、特別の識別信号を入力することを条件に、トレンドグラフの数値を表示する構成としてもよい。
また、処理部17は、ゲームの終了を判断すると、前記グラフの表示を消去するとともに、記憶手段6に、ゲームの終了時刻を登録する。これにより、次のゲームについての得失数のトレンドグラフの表示範囲の始点が決められる。投入計数装置3における投入数データおよび払出計数装置4における払出数データと、記憶手段6における得失数のデータとは、記録が継続される。そして、この処理部17は、遊技客判断部16からの遊技客信号と定量投入判断部15からの定量投入信号との両者が入力されたときに、ゲームが開始されたと判断し、前記遊技客信号が入力されなくなると、ゲームが終了したと判断する。
遊技客検出器9は、例えば、超音波、マイクロ波等を遊技客が座る位置に向けて発射して、その反射波を検出することにより、遊技客を検出するものである。
また、表示選択装置10は、キースイッチで構成され、得失数のデータを表すウインドウを表示するか否かの選択を指示するためのものである。この表示選択装置10は、上記した識別信号の入力に使用することもできる。その場合には、識別信号は、スイッチのオンオフを特別のパターンに対応させて、構成するようにすればよい。
なお、前述のようにゲームの開始が判断されない限り、制御手段7は、遊技用表示画面2に、上記ウインドウを表示しない。しかし、この制御手段7は、ゲームが開始されて、一旦、ウインドウが表示されても、表示選択装置10を操作することで、このウインドウを消去できるようになっている。
次に、本実施例の動作について説明する。
コインが投入されて、スタートレバー10が操作されると、遊技用図柄2aが疑似的に回転してゲームが開始する。すなわち、液晶表示装置20の表示画面2上に表示される3個のドラムの図柄2aが、それぞれ回転しているように順次書き替えられて表示される。そして、処理部17は、一定時間経過すると、各ドラムの回転を停止させる。すなわち、図柄の書き替えを停止する。そして、処理部17は、停止したときの三つの遊技用図柄2aの組合せを判定し、その組み合わせが、予め定めたパターンに合致している場合、賞として、図示していない払出口からコインの払い出を行なう。
この際、コインの投入数、払出数が、各計数装置3,4により逐次計数される。これらデータは、演算手段5に送られる。演算手段5は、これらのデータより得失数を逐次求める。この得失数は、記憶手段6に、日時と対応付けられて記憶される。
また、遊技装置1の正面に遊技客が座ると、遊技客検出器9がこれを検出し、遊技客判断部16から遊技客信号が出力される。
そして、表示選択装置10の操作状態が表示を指令する設定になっていれば、コインの投入数が所定量に達し、定量投入判断部15から定量投入信号が出力されたときに、処理部17は、記憶手段4に記憶された前回ゲーム終了時刻以後に発生した得失数のデータを読出し、図2に示す如く、これをトレンドグラフ(スランプグラフ)として描画し、遊技用表示画面2の片隅にサブウインドウ2bとして表示する。
このため、遊技客は、自己の遊技における遊技媒体得失のトレンドを一目瞭然に知ることができる。従って、これを知る目的のために、投入数、払出数等を自分でカウントする必要がない。そして、例えば、他の遊技客等に、自己の遊技における遊技媒体得失経過を見られたくないとき等には、表示選択装置10を操作して、いつでもこの表示を中断(消去)することができる。
そして、遊技が終了した遊技客が当該スロットマシン1の正面から離れると、遊技客検出器9は、これを検出する。そして、遊技客検出器9から遊技客信号が出力されなくなるので、処理部17がこれを検知して、前記表示の消去およびゲーム終了時刻を記憶手段6に登録する。
ここで、スロットマシンについての稼働状況を調べるには、係員が上記表示選択装置10から特定の識別信号に対応するスイッチ操作を行なうと、制御手段7は、これを受けて、そのスロットマシンの現時点までの累積得失数の変化状態を示すデータをトレンドグラフにして示す。
このため、次に、このスロットマシン1で遊技を行なう遊技者には、以前に行なわれた遊技のデータは表示されず、常に、その一連の遊技におけるデータのみが表示されることになる。一方、係員は、特定の識別信号を入力することにより、それまでのデータを見ることが可能となる。」(第11頁第7行?第15頁第20行)、
「そして、このスロットマシン1は、図5に示すように、その内部に、管理データ(後述する管理基礎データと管理加工データとからなるもの)を検知して、出力する管理データ出力部30と、この出力部30が出力する管理データを記憶する記憶手段6と、この記憶手段6に記憶されている管理データを表示すべく遊技用液晶画面2を制御する制御手段7と、日時をカウントして出力する計時装置8と備える。
管理データ出力部30は、コインの投入数を累積的に計数する投入計数装置3と、コインの払出数を計数する払出計数装置4と、ゲーム回数を計数して出力するゲーム回数計数装置13と、投入計数装置3と払出計数装置4とから出力される投入数と払出数との差からコインの得失数を演算する演算手段5とから構成されている。すなわち、この実施例では、前記投入数、払出数およびゲーム回数が管理基礎データであり、得失数が管理加工データである。」(第17頁第7?22行)、
「また、画面切替部19が切り替える表示方式には、フル画面表示とサブウインド表示とがある。フル画面表示とは、遊技用図柄2aを消去して得失数データ等の管理データを遊技用液晶画面2全体に表示する方式である。サブウインド表示とは、遊技用図柄2aは表示したままで、遊技用液晶画面2の一部、たとえば、片隅にサブウインド2bを表示し、これに管理データを表示する方式である。この切替も、例えば、画面切替装置22が操作される度に、画面切替部19と、処理部17との連係処理により順次表示方式が切り換わるようになっている。
また、識別信号入力装置23から予め設定された識別信号が入力されない状態では、制御手段7は、遊技用液晶画面2には、予め定めた範囲の管理データ、すなわち、上記第1実施例において説明したものと同様に、そのゲームにおける得失数の変動を表わすトレンドグラフのみを示すように動作する。しかし、制御手段7は、識別信号が入力された場合は、そのゲームに限定されないで、管理データの集計およびその結果の表示を行なう。この識別信号が入力された場合でも、制御手段7は、表示選択装置10を操作されると、この表示を消去するようになっている。」(第19頁第11行?第20頁第7行)、
「ここで、得失数の変化を示すデータについては、そのゲームの開始時点以降のものについて、上記第1実施例と同様に、処理部17により、トレンドグラフが作成されて、表示処理される。これについては、特に操作を行なうことなく、表示が行なわれる。」(第21頁第13?17行)、
「また、ホール管理コンピュータ80は、各スロットマシンごとに、図7に示すデータに基づいて、得失数の表示用トレンドグラフを作成して、それぞれ対応するスロットマシンに送って、サブウインドウ2bに表示させる。図8および図9に、その一例を示す。図8は、得失数の最大値および最小値が小さい場合の例であり、図9は、得失数の最大値および最小値が大きい場合の例である。これらは、限られた大きさのサブウインドウ2bに表示するため、レンジを変更したものである。これらの例では、そのスロットマシンの、その日の始業時点からのデータが示されている。」(第29頁第2?11行)。

ところで、引用例に記載されている「表示選択装置10」は、コインの得失数のデータを表示するか否かを選択した結果を、処理部17に指示するものであるから、同「表示選択装置10」がコインの得失数表示信号を処理部17へ出力するものであることは明らかで、また、特定の識別信号が入力されたときに表示される、「そのスロットマシンの現時点までの累積得失数の変化状態を示すデータ」(第15頁第14,15行)には、図8、図9に示されるような、そのスロットマシンの始業時点からのデータが含まれることも明らかである。
さらに、「定量投入判断部15」及び「遊技客判断部16」は、ゲームの開始や終了を判断するための部材なのであるから、「定量投入判断部15」及び「遊技客判断部16」は、ゲームの開始や終了を判断するための「遊技中信号」を出力する「遊技中判断部」と言い換えることができる。
そして、上記記載事項、及び、明らかな事項等を総合すると、引用例には、以下の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

「コインの払出数を累積的に計数して出力する払出計数装置4と、
コインの投入数を累積的に計数して出力する投入計数装置3と、
前記投入計数装置3と払出計数装置4の出力の差を求め、コインの得失数としてこれを出力する演算手段5と、
コインの得失数表示信号や、特定の識別信号を出力する表示選択装置10と、
前記表示選択装置10から入力されるコインの得失数表示信号に基づいて前記コインの得失数を表示させる処理部17とを備えたスロットマシン1であって、
上記スロットマシン1は、
ゲームの開始や終了を判断するための遊技中信号を出力する遊技中判断部と、
前記演算手段5から出力されるコインの得失数を所定時間毎にそのときの時間と対応させて逐次記憶する記憶手段6とを備え、
前記処理部17は、前記遊技中信号、及び、コインの得失数表示信号が入力されたときに、前回ゲーム終了時刻以後に発生したコインの得失数を前記記憶手段6から読み出して表示し、前記特定の識別信号が入力されたときに、始業時点からのコインの得失数を前記記憶手段6から読み出して表示するようにしたスロットマシン1。」

4.本願発明との対比・検討
本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明における「払出計数装置4」、「投入計数装置3」、「演算手段5」、「コインの得失数表示信号」、「コインの得失数」、「スロットマシン1」は、それぞれ本願発明における「払出メダル枚数カウント手段」、「遊技メダル枚数カウント手段」、「獲得メダル枚数算出手段」、「獲得メダル枚数表示信号」、「賞メダル枚数」及び「獲得メダル枚数」、「スロットマシン」に相当し、
引用例記載の発明における「表示選択装置10」は、本願発明における「獲得メダル枚数表示スイッチ」と同様の機能も備えているのであるから、引用例記載の発明における「表示選択装置10」と、本願発明における「獲得メダル枚数表示スイッチ」とは、獲得メダル枚数表示信号を出力する獲得メダル枚数表示信号出力スイッチで一致し、
引用例記載の発明における「遊技中判断部」は、ゲームの開始や終了を判断するための部材であることから、引用例記載の発明における「遊技中判断部」と、本願発明における「ゲーム開始時点特定スイッチ」とは、ゲームの開始時点を特定するゲーム開始時点特定手段で共通し、
引用例記載の発明における「処理部17」と、本願発明における「獲得メダル枚数表示制御手段」とは、獲得メダル枚数表示信号出力スイッチの操作に基づいて、遊技中の遊技者が獲得した賞メダル枚数を表示する獲得メダル枚数表示制御部材で共通する。
そうすると、両者は、

「遊技者に対し賞メダルとして払い出されたメダル枚数をカウントする払出メダル枚数カウント手段と、
遊技者がゲームを行うために遊技メダルとして投入するメダル枚数をカウントする遊技メダル枚数カウント手段と、
払出メダル枚数カウント手段でカウントされた賞メダル枚数から、遊技メダル枚数カウント手段でカウントされたメダル枚数を減算することにより遊技者が獲得した賞メダル枚数を算出する獲得メダル枚数算出手段と、
獲得メダル枚数表示信号を出力する獲得メダル枚数表示信号出力スイッチと、
前記獲得メダル枚数算出手段により算出された獲得メダル枚数を表示させる獲得メダル枚数表示制御部材とを備えたスロットマシンであって、
上記スロットマシンは、
ゲームの開始時点を特定するゲーム開始時点特定手段を備え、
獲得メダル枚数表示制御部材は、
前記獲得メダル枚数表示信号出力スイッチの操作にもとづいて、遊技中の遊技者が獲得した賞メダル枚数を表示させるようにしたスロットマシン。」

で一致し、本願発明と引用例記載の発明とは、次の点で相違する。

(相違点)
i)本願発明では、獲得メダル枚数表示信号出力スイッチからの獲得メダル枚数表示信号を、遊技者による遊技メダルの投入が行われてから、当該遊技メダルの投入により行われるゲームの結果が確定するまでの間は無効とする表示タイミング制御手段を備え、獲得メダル枚数表示制御部材が、前記表示タイミング制御手段からの獲得メダル枚数信号にもとづいて、前記獲得メダル枚数算出手段により算出された獲得メダル枚数を表示させるのに対し、引用例記載の発明では、獲得メダル枚数表示制御部材が、表示選択装置10から入力されるコインの得失数表示信号に基づいて、演算手段5が出力したコインの得失数を表示するものであって、本願発明のような「タイミング制御手段」を備えているかどうか不明な点、

ii)「ゲーム開始時点特定手段」が、本願発明では遊技者が操作する「スイッチ」で構成されているのに対し、引用例記載の発明では、本願発明のような「スイッチ」ではない点、

iii)本願発明では、電源を投入してから現在までの通算で獲得した賞メダル枚数を算出する通算枚数算出手段と、ゲーム開始時点を特定する信号の入力を条件に、ゲーム開始が特定された時点からの遊技者が獲得した賞メダル枚数を新たに算出する個人枚数算出手段とを備え、獲得メダル枚数表示制御部材が表示する賞メダル枚数が、通算枚数算出手段によって算出された、電源を投入してから現在までの通算で獲得した賞メダル枚数又は個人枚数算出手段によって算出された、ゲーム開始が特定された時点からの遊技者が獲得した賞メダル枚数から選択したいずれか一方であるのに対し、引用例記載の発明では、演算手段5から出力されるコインの得失数を所定時間毎にそのときの時間と対応させて逐次記憶する記憶手段6を備え、獲得メダル枚数表示制御部材が前記記憶手段6から読み出して表示するコインの得失数が、遊技中信号、及び、コインの得失数表示信号が入力されたときには、前回ゲーム終了時刻以後に発生したコインの得失数であり、特定の識別信号が入力されたときには、始業時点からのコインの得失数である点。

上記相違点について検討する。
・相違点i)について
引用例に記載されているコインの得失数データの表示方式には、フル画面表示方式とサブウインド表示方式とがあり、フル画面表示方式は、遊技用図柄2aを消去して得失数データを遊技用液晶画面2全体に表示する方式(第19頁第11?14行参照)である。そして、前記フル画面表示方式を選択した場合、遊技者の遊技中にコインの得失数データを表示すると、遊技用図柄2aが表示されなくなり、遊技に悪影響が出ることは明白である。
また、遊技機の分野において、情報選択スイッチを押すと、遊技状態に応じて遊技に関する各種情報を表示するか否かを決定し、各種情報を表示しない場合には、前記情報選択スイッチからの信号は採用しないようにして、前記各種情報の表示が遊技の妨げとならないようにすることは、例えば、特開平6-47146号公報の段落【0118】、【0170】、特開平5-329257号公報の段落【0124】、【0144】、【0173】、【図53】、特開平5-337243号公報の段落【0108】、【0109】、【0121】、【0138】、【図53】等に記載されているように、本願出願前周知の技術事項である。
一方、遊技者が遊技に集中するのは、遊技者が遊技機にコインを投入してから遊技結果が判明するまでの間であることは、明らかな事項である。
そうすると、上記事項を踏まえれば、引用例記載の発明においても、コインの得失数の表示が遊技の妨げとならないようにするために、遊技客がスロットマシン1にコインを投入してから遊技結果が判明するまでの間については、コインの得失数表示信号を採用しないように構成することは、容易に想到し得たものと認められる。

・相違点ii)について
遊技機の分野において、遊技者の操作に基づいてスイッチを切り換えることにより、遊技機がゲームの開始と判断することは、例えば、特開平5-329269号公報の段落【0015】、【0016】、特開平6-23125号公報の段落【0013】、特開昭63-122488号公報の第2頁右下欄第1?4行等に記載されているように、本願出願前周知の技術事項である。
そうすると、引用例記載の発明における、ゲームの開始や終了の判断をするための「遊技中判断部」を、遊技者の操作に基づいて切り換えられるスイッチに代えて構成することは、当業者が装置の自動化と同自動化に要する費用のバランス等を考慮することにより、適宜なし得る設計的事項にすぎない。

・相違点iii)について
引用例記載の発明では、各遊技装置についてのコインの得失数があからさまになり過ぎると、前記得失数から有利な遊技装置と不利な遊技装置とが見分けられてしまい、その結果有利な遊技装置に遊技客が集中して他の遊技装置の売上が減少するのを防ぐために、遊技客は自己の遊技におけるコインの得失数データのみしか見ることができないようにしたのであるが、一方で、遊技者による遊技機選択の判断材料とするために、各遊技機における営業開始時からの遊技に関するデータを、遊技者が見ることができるようにすることは、例えば、特開平4-24039号公報、実願昭61-106360号(実開昭63-13193号)のマイクロフィルム等に記載されているように、本願出願前周知の技術事項にすぎない。
また、引用例記載の発明では、自己の遊技におけるコインの得失数を、「前回ゲーム終了時刻以後に発生したコインの得失数」としているが、前回ゲーム終了から今回のゲーム開始までのデータを表示することに格別の作用効果は認められないこと、引用例には、ゲーム開始時点以降のコインの得失数データを表示することが記載されている(第21頁第13?17行)こと等から、前記「前回ゲーム終了時刻以後に発生したコインの得失数」を「ゲーム開始時点以降に発生したコインの得失数」に代えることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
さらに、コインの得失数を、引用例記載の発明のように記憶手段6から必要な範囲のデータを読み出して表示する構成とするか、本願発明のように専用の算出手段で算出する構成とするかについても、当業者が装置の作り易さ等を考慮することにより適宜なし得る設計的事項である。
そうすると、上記検討事項を参酌すれば、引用例記載の発明における「前回ゲーム終了時刻以後に発生したコインの得失数」や「始業時点からのコインの得失数」を、遊技客が適宜選択して表示できるよう構成することは、当業者が、有利な遊技装置の見分け易さと遊技ホール全体の売上とのバランスや表示されるデータの多様性等を考慮することにより容易に想到し得るものと認められ、さらに、前記「前回ゲーム終了時刻以後に発生したコインの得失数」を「ゲーム開始時点以降に発生したコインの得失数」に代えること、及び、コインの得失数を、本願発明のような専用の算出手段で算出するように構成することは、それぞれ当業者が適宜なし得る設計的事項である。

そして、本願発明によって奏する効果も、引用例記載の発明、及び、周知事項等から普通に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明、及び、周知事項等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明、及び、周知事項等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2007-08-31 
結審通知日 2007-09-06 
審決日 2007-09-27 
出願番号 特願2001-65033(P2001-65033)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 恒明  
特許庁審判長 小原 博生
特許庁審判官 小田倉 直人
川島 陵司
発明の名称 スロットマシン  
代理人 竹山 宏明  
代理人 米山 淑幸  

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