ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B32B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B |
---|---|
管理番号 | 1168144 |
審判番号 | 不服2004-24479 |
総通号数 | 97 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-01-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-11-30 |
確定日 | 2007-11-16 |
事件の表示 | 平成7年特許願第258110号「包装用材料およびそれを使用した押し出しチュ-ブ」拒絶査定不服審判事件〔平成9年3月25日出願公開、特開平9-76402〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成7年9月11日の出願であって、平成16年7月5日付けで手続補正がされ同年10月26日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年12月21日付けで手続補正がされ、審尋に対し平成19年6月13日に回答書が提出されたものである。 2.平成16年12月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成16年12月21日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容 平成16年12月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、同年7月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の 「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム/接着剤層/二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム・酸化アルミニウムの蒸着膜/接着剤層/酸化アルミニウムの蒸着膜・二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/接着剤層/直鎖状低密度ポリエチレンフィルムの順で積層した層構成からなる包装用材料から胴部を形成してなることを特徴とする押し出しチューブ。」 を 「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム/接着剤層/二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム・酸化アルミニウムの蒸着膜/接着剤層/酸化アルミニウムの蒸着膜・二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/接着剤層/直鎖状低密度ポリエチレンフィルムの順で積層した層構成からなる包装用材料からなり、更に、包装用材料を丸めてその重合端部をヒートシールしてチューブ用容器本体である胴部を形成し、更に、その胴部の一方の上方に、高密度ポリエチレンをを射出成形して肩部と口部とを成形し、更に、上記の口部にキャップを取り付けることを特徴とする押し出しチューブ。」(下線部は補正箇所である。以下、この発明を「本願補正発明」という。) と補正するものである。 (2)補正の適否 (ア) 本件補正における「更に、その胴部の一方の上方に、高密度ポリエチレンをを射出成形して肩部と口部とを成形し、更に、上記の口部にキャップを取り付けること」を加入する補正は、補正前発明の発明を特定するために必要な事項として肩部も口部もないのであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」ということはできない。するとこの補正は、同項同号に掲げる事項を目的とするものであるとはいえず、さらに、同項第1,3,4号に規定する請求項の削除、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とするものといえないことも明らかである。 したがって、この補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1乃至第4号に規定する要件に適合しないものである。 しかも、仮に、この補正を含め本件補正が、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものとしても、本願補正発明は、以下(イ)?(オ)のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に該当するものである。 したがって、いずれにしても本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 (イ) 刊行物及び刊行物の記載事項 原査定の理由に引用された、その出願前頒布された刊行物であることが明らかな、特開昭63-265626号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開平4-201334号公報(以下、「刊行物2」という。)及び実願昭61-158810号(実開昭63-64638号公報)のマイクロフィルム(以下、「刊行物3」という。)、並びに前置報告書において周知技術として引用された特開昭62-64740号公報(以下、「周知例1」という。)には、それぞれ次の事項等の記載がある。 (a) 刊行物1の記載事項 刊行物1には、次の事項及び第1、2図の記載がある。 (a1)「プラスチックフィルムから成る基体の少なくとも片面に、In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物層がスパッタリングにより形成された透明ガスバリア性フィルムが、2枚以上接着剤を介して積層されてなることを特徴とする透明ガスバリア性積層フィルム。」(特許請求の範囲第(1)項) (a2)「透明ガスバリア性フィルムの金属酸化物層が、互いにむき合うように接着積層されてなることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載の透明ガスバリア性積層フィルム。」(特許請求の範囲第(2)項) (a3)「透明ガスバリア性積層フィルムが、少なくともその片面に、ヒートシール可能な熱可塑性接着層を有することを特徴とする特許請求の範囲第(1)項?第(3)項のいずれかである透明ガスバリア性積層フィルム。」(特許請求の範囲第(4)項) (a4)「本発明者らは、透明で可とう性があり、かつ、ガスバリア性と耐摩耗性に優れ、高温でも特性の低下しないフィルムについて鋭意検討した結果、本発明に到達した。」(第2頁左上欄末行?同頁右上欄第3行) (a5)「本発明でいうプラスチックフィルムからなる基体とは、次の代表的有機重合体を溶融または、溶解押出しし、必要に応じて長手方向および/または幅方向に延伸したものである。代表的有機重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル、・・・などがあげられる。」(第2頁左下欄第16行?同頁右下欄第11行) (a6)「このようにして金属酸化物層をスパッタした透明ガスバリア性フィルムは、透明性やガスバリア性は優れているが、金属酸化物層が極めて薄いこともあって、摩擦、摩耗や折曲げによってキズやピンホールが発生すると、著しくガスバリア性が低下する。この問題を解決するため、本発明では、次いで、金属酸化物層をスパッタした透明ガスバリア性フィルムどうしが2枚以上接着剤を介して積層された透明ガスバリア性積層フィルムとする。透明ガスバリア性フィルムが、2枚以上接着積層されることにより、キズやピンホールの発生を著しく低減できるばかりでなく、キズやピンホールがあり、ガスバリア性が低いフィルムどうしであっても、2枚以上接着積層されることにより、著しくガスバリア性が優れたものを得ることができる。」(第3頁右下欄末行?第4頁左上欄第15行) (a7)「本発明でいうヒートシール可能な熱可塑性接着層とは、加熱および加圧により接着が可能なプラスチック層を表し、その代表的な例としては、次のようなものがある。 ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体などのポリオレフィン、・・・などがあげられるが、必ずしもこれらに限定されない。このうち、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アイオノマー、エチレン酢ビ共重合体が望ましい。」(第4頁右下欄第5?19行) (a8)「スパッタにより形成される金属酸化物層の上に熱可塑性接着層を積層する方法としては、熱可塑性接着層の成分を有機溶剤に溶解してコーティングする方法や、熱可塑性接着層の成分を溶融し、押出しラミネートする方法、あるいは、あらかじめ熱可塑性接着層のシートを作製し、これをドライラミネートなどにより接着積層する方法などの公知の方法が採用できる。」(第5頁左上欄第5?12行) (a9)「[用途] 本発明で得られる透明ガスバリア性積層フィルムは、その優れた透明性とガスバリア性を利用して、食品、医薬品、電子部品、機械部品などの包装材料として広く用いることができる。」(第5頁左上欄第17行?同頁右上欄第1行) (a10)「実施例6?10 二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)を基体として、この上に反応性直流マグネトロンスパッタ法により、酸化錫の膜を形成した。・・・もう一枚のスパッタフィルムの金属酸化物層が形成された面と接着して、透明ガスバリア性積層フィルムを作製した。 続いて、この透明ガスバリア性積層フィルムの片面に、ウレタン系接着剤(・・・)を乾燥後の厚みが約2μmとなるよう塗布して、ドライラミネート法により未延伸エチレンプロピレン共重合体フィルム(厚さ50μm)を接着した。」(第6頁右上欄第11行?同頁左下欄第17行) (b) 刊行物2の記載事項 刊行物2には、次の事項及び図面の記載がある。 (b1)「層間にプライマー層が設けられた2層以上の金属薄膜層を少なくとも一方の面に有する2軸延伸樹脂フィルム層からなる中間支持層と、該中間支持層の外側に位置し熱可塑性樹脂層からなる最外層と、前記中間支持層の内側に位置し熱可塑性樹脂層からなる最内層と、該最内層と前記中間支持層との間に位置するバリアー層とを有することを特徴とする積層材。」(特許請求の範囲請求項1.) (b2)「最外層を構成する熱可塑性樹脂と最内層を構成する熱可塑性樹脂とが同質の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の積層材。」(特許請求の範囲請求項5.) (b3)「本発明は、積層材に係り、特に流動性乃至半流動性物質を収容するチューブ容器に用いられる積層材に関する。」(第1頁右下欄第9?11行) (b4)「〔従来の技術〕 練ハミガキ、化粧品、練食品等の流動性乃至半流動性物質を収容するチューブ容器は、適度の腰の強さ、耐水性、ガスバリアー性等の物性を有する積層材で成形されている筒状の胴部と、肩部と首部とを有し胴部の上部開口端に係合されている閉塞部材と、この閉塞部材の首部に着脱可能に装着されているキャップとを備えている。」(第1頁右下欄第12行?末行) (b5)「最外層である熱可塑性樹脂層8は、積層材1を筒状にして押出しチューブの胴部を形成する際に、最内層である熱可塑性樹脂層17と熱融着されるものであり、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、中密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール等の熱可塑性樹脂からなる。」(第3頁右上欄第7?14行) (b6)「また、熱可塑性樹脂フィルム層28と熱可塑性樹脂フィルム層33は、上述の熱可塑性樹脂層8,17に用いることのできる熱可塑性樹脂からなっている。そして、熱可塑性樹脂フィルム層28と熱可塑性樹脂フィルム層33は同質の熱可塑性樹脂で構成されることが好ましい。」(第4頁右下欄第3?8行) (c) 刊行物3の記載事項 刊行物3には、次の事項の記載がある。 (c1)「キャップとチューブ体からなる透明チューブ容器において、該チューブ体を構成する第1透明樹脂フィルム層と第2透明樹脂フィルム層との間に厚さ100A゜から1500A゜の無機酸化物の蒸着層を形成したことを特徴とする透明性とガスバリヤー性を有するチューブ容器。」(実用新案登録請求の範囲) (c2)「本考案は、化粧品、医薬品、食品、ハミガキなどに用いられるチューブ容器に関するものであって、チューブ容器内の内容物の確認ができるとともに内容物、特に、薬剤、香料などの揮発成分の揮散を防止できるチューブ容器に関するものである。」(第1頁第14行?第2頁第1行) (c3)「ここで、蒸着層6に使用される無機酸化物としては、酸化インジューム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化チタンなどを挙げることができる。」(第3頁末行?第4頁第3行) (c4)「実施例1 第2透明樹脂フィルム層4として16μmの厚さのポリエステルを用い、これに1000A゜の厚さで酸化アルミニウム61を蒸着した後、300μmの厚さを有する軟質ポリエチレンを第1透明樹脂フィルム層5として積層して、透明複合シートを作成した。次いで、これを筒体とし頭部9を形成し、本考案のチューブ容器を得た。」(第6頁第15行?第7頁第3行) (d) 周知例1の記載事項 周知例1には、次の事項及び図面の記載がある。 (d1)「以下本発明の液状シリコーンゴムが充填されているチューブ状容器の具体的な構成を図面実施例に基づいて説明する。 実施例1 第1図において符号1で表示される接着積層シートは、表面に印刷模様2が形成されている厚さ100μの乳白色低密度ポリエチレンフィルム(充填剤:二酸化チタン)からなる第1層3と、厚さ12μの二軸延伸ポリエステルフィルムからなる第2層4と、厚さ15μのアルミニウム箔からなる第3層5と、厚さ100μの中密度ポリエチレンフィルムからなる第4層6とが、それぞれ脂肪族イソシアネートで硬化させるポリエステル・ポリウレタン系接着剤による接着剤層7,8,9で接着されているものであり、チューブ状容器の容器胴部となる筒体10を構成する包材である。 前記構成の接着積層シートを略矩形状に切断し、一対の端辺同士を重畳し、該重畳部を高周波溶着して第2図に符号10で表示される筒体を得た。 次いで、前記得られた筒体10を射出成形用金型内にインサートし、二酸化チタン含有高密度ポリエチレン樹脂を射出成形用原料とする射出成形を行ない、第2図に符号20で表示される合成樹脂製の頭部を得ると共に、射出成形体たる合成樹脂製の頭部20と前記筒体10との溶着接合体を得た。尚、・・・合成樹脂製の頭部20は、・・・注出口22と載頭円錐状の肩部23とスカート部24で構成される一体成形体であり、・・・。 しかる後に、前記抽出口22を閉塞するキャップ30を該抽出口22の外周面に形成されている螺条21を利用して螺着し・・・チューブ状容器[A]を得た。」(第4頁左上欄第7行?同頁左下欄第16行) (ウ) 刊行物1に記載された発明 刊行物1は「プラスチックフィルムから成る基体の少なくとも片面に、In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物層がスパッタリングにより形成された透明ガスバリア性フィルムが、2枚以上接着剤を介して積層されてなることを特徴とする透明ガスバリア性積層フィルム」(摘示(a1))に関して記載するものである。 刊行物1の摘示(a2)の「透明ガスバリア性フィルムの金属酸化物層が、互いにむき合うように接着積層されてなる」及び第1図の記載、さらに、摘示(a3)の「少なくともその片面に、ヒートシール可能な熱可塑性接着層を有する」及び第2図の記載によれば、その積層フィルムには、「透明ガスバリア性フィルムの金属酸化物層が、互いにむき合うように接着積層」されてなり、「少なくともその片面にヒートシール可能な熱可塑性接着層を有する」もの、すなわち、「プラスチックフィルムから成る基体の片面に、In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物層がスパッタリングにより形成された透明ガスバリア性フィルムが、2枚、金属酸化物層が互いにむき合うように接着剤を介して接着積層されてなる透明ガスバリア性積層フィルムであって、少なくともその片面にヒートシール可能な熱可塑性接着層を有する積層フィルム」が記載されていることが認められる。 そして、その「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」を積層する方法には、摘示(a8)に「あらかじめ熱可塑性接着層のシートを作製し、これをドライラミネートなどにより接着積層する方法などの公知の方法が採用できる」とされ、実施例6?10に「この透明ガスバリアフィルムの片面に、ウレタン系接着剤(・・・)を・・・塗布して、ドライラミネート法により未延伸エチレンプロピレン共重合体フィルム(厚さ50μm)を接着した」(摘示(a10))とされていることから、接着剤層を介して積層する方法があることが認められる。 また、その「プラスチックフィルムから成る基体」の材料について、「次の代表的有機重合体を溶融または、溶解押出しし、必要に応じて長手方向および/または幅方向に延伸したものである。代表的有機重合体としては、・・・ポリエチレンテレフタレート・・・などがあげられる」(摘示(a5))と記載され、実施例6?10に「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)を基体として、この上に反応性直流マグネトロンスパッタ法により、酸化錫の膜を形成した」(摘示(a10))と、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた具体例が記載されていることからすれば、その「プラスチックフィルムから成る基体」を二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとした積層フィルムが記載されているということができる。 そして、「その優れた透明性とガスバリア性を利用して、食品、医薬品、電子部品、機械部品などの包装材料として広く用いることができる」(摘示(a9))とあるように、この積層フィルムの用途は「包装材料」ということができる。 以上によれば、刊行物1には、本願補正発明の表現ぶりにならって記載すると、 「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム・In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物層であってスパッタリングにより形成された膜/接着剤層/In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物層であってスパッタリングにより形成された膜・二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの順で積層した層構成からなる積層フィルムの少なくとも片面に接着剤層を介してヒートシール可能な熱可塑性接着層を有する包装材料」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (エ) 対比 本願補正発明の「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム」は、「ヒートシール性を有する樹脂フィルム」として用いられているものと認められる(本願明細書段落【0011】)から、引用発明の「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」も本願補正発明の「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム」もいずれも「ヒートシール性を有する樹脂のフィルム」ということができる。また、本願補正発明の「蒸着膜」は、真空蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着法等で得られた膜をいう(本願明細書段落【0008】)から、引用発明の「スパッタリングにより形成された膜」は本願補正発明の「蒸着膜」に相当する。すると、引用発明の「In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物層であってスパッタリングにより形成された膜」も本願補正発明の「酸化アルミニウムの蒸着膜」もいずれも「金属酸化物の蒸着膜」ということができる。 すると、本願補正発明と引用発明とは、 「ヒートシール性を有する樹脂のフィルム/接着剤層/二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム・金属酸化物の蒸着膜/接着剤層/金属酸化物の蒸着膜・二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの順で積層した層構成からなる包装用材料」 の点で一致し、以下の点で相違するといえる。 (a)本願補正発明は、両面にヒートシール性を有する樹脂のフィルムである「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム」を有する包装用材料から胴部を形成した「押し出しチューブ」であるのに対し、引用発明は、少なくとも片面に接着剤層を介してヒートシール性を有する樹脂のフィルムである「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」を有する包装用材料であり、その材料から胴部を形成した「押し出しチューブ」とするかは明らかではない点 (b)金属酸化物が、本願補正発明においては、酸化アルミニウムであるのに対し、引用発明においては、In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物である点 (c)本願補正発明においては、「包装用材料を丸めてその重合端部をヒートシールしてチューブ用容器本体である胴部を形成し、更に、その胴部の一方の上方に、高密度ポリエチレンを射出成形して肩部と口部とを成形し、更に、上記の口部にキャップを取り付けた」押し出しチューブであるのに対し、引用発明においては、そのような押し出しチューブとするかは明らかではない点 (以下、それぞれ「相違点(a)」、「相違点(b)」・・・という。) (オ) 判断 a. 相違点(a)について 引用発明の包装材料に係る積層フィルムは、刊行物1の摘示(a4)にあるように「透明で可とう性があり、かつ、ガスバリア性と耐摩耗性に優れ、高温でも特性の低下しないフィルム」であり、「このようにして金属酸化物層をスパッタした透明ガスバリア性フィルムは、透明性やガスバリア性は優れているが、金属酸化物層が極めて薄いこともあって、摩擦、摩耗や折曲げによってキズやピンホールが発生すると、著しくガスバリア性が低下する。この問題を解決するため、本発明では、次いで、金属酸化物層をスパッタした透明ガスバリア性フィルムどうしが2枚以上接着剤を介して積層された透明ガスバリア性積層フィルム」(摘示(a6))としたものであるから、摩擦、摩耗や折曲げによってもガスバリアー性が低下しない積層フィルムであると認められ、「その優れた透明性とガスバリア性を利用して、食品・・・などの包装材料として広く用いることができる」(摘示(a9))と、透明性とガスバリア性を要求される包装材料として広く用いられるものである。 ところで、刊行物2の摘示(b1、3、4)や刊行物3の摘示(c1、2)に示されているように、ガスバリアー性を有する積層フィルムを食品などに用いられるチューブ容器(押し出しチューブ)の胴部を形成する包装材料として用いることは本出願前周知であるところ、その押し出しチューブの胴部を形成する包装材料には、ガスバリアー性を有することの他に、チューブ用容器の使用態様からみて、摩擦、摩耗や折曲げによってそのガスバリアー性が低下しないものであることも要求されることは明らかである。 すると、摩擦、摩耗や折曲げによってもガスバリアー性が低下しない積層フィルムである引用発明の包装材料を、そのような特性が要求されると認められる押し出しチューブの胴部を形成する材料とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、上記刊行物2に係る積層フィルムは、「層間にプライマー層が設けられた2層以上の金属薄膜層を少なくとも一方の面に有する2軸延伸樹脂フィルム層からなる中間支持層と、該中間支持層の外側に位置し熱可塑性樹脂層からなる最外層と、前記中間支持層の内側に位置し熱可塑性樹脂層からなる最内層と、該最内層と前記中間支持層との間に位置するバリアー層とを有することを特徴とする積層材」(摘示(b1))であるところ、それによるチューブ容器の胴部の形成は、「最外層である熱可塑性樹脂層8は、積層材1を筒状にして押出しチューブの胴部を形成する際に、最内層である熱可塑性樹脂層17と熱融着される」(摘示(b5))とあるとおり、積層フィルムの最外層と最内層に設けたヒートシール性の熱可塑性樹脂層の熱融着によることが認められる。また、「熱可塑性樹脂フィルム層28(審決注・積層材の最外層。第4図参照)と熱可塑性樹脂フィルム層33(審決注・積層材の最内層。第4図参照)は同質の熱可塑性樹脂で構成されることが好ましい」(摘示(b6))と、最外層及び最内層は同質の熱可塑性樹脂とすることが好ましいことが認められる。 すると、引用発明の包装材料を押し出しチューブの胴部を形成する材料とするに際して、その積層フィルムの「少なくとも片面」に設けるとされる「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」を両面に設けること、それらを同質の熱可塑性樹脂とすることは、当業者が容易になし得る設計事項である。 また、「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」の材料について、刊行物1に、「ポリエチレン・・・などのポリオレフィン・・・などがあげられる・・・。このうち、ポリオレフィン・・・が望ましい」(摘示(a7))ことが記載され、上記刊行物2に、積層フィルムのヒートシール可能な熱可塑性樹脂層である最外層を構成する材料について「熱可塑性樹脂層8は、・・・低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、中密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール等」(摘示(b5))と挙例されているとおり、積層フィルムのヒートシール可能なポリエチレンとして、直鎖(状)低密度ポリエチレンは慣用されているものと認められる(さらに必要ならば、特開平5-220900号(以下「周知例2」という。)段落【0011】、実施例1等参照。)から、引用発明の「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」の熱可塑性樹脂材料を、慣用の「直鎖(状)低密度ポリエチレン」とすることも、当業者が適宜になし得る材料の選択といえる。 そうすると、引用発明において、包装材料を、その両面を直鎖状低密度ポリエチレンフィルムとし、それから胴部を形成した押し出しチューブとすることは、当業者が容易になし得たことといえる。 そして、本願補正発明がこの点によって格別の効果を奏すると認めることもできない。 b. 相違点(b)について 引用発明の積層フィルムにおける、「In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物層であってスパッタリングにより形成された膜」は、ガスバリアー性を有する蒸着膜であると認められる。その蒸着膜の材料である金属酸化物は、上記のとおり、「In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物」とされている。 ところで、上記刊行物3は、「キャップとチューブ体からなる透明チューブ容器において、該チューブ体を構成する第1透明樹脂フィルム層と第2透明樹脂フィルム層との間に厚さ100A゜から1500A゜の無機酸化物の蒸着層を形成したことを特徴とする透明性とガスバリヤー性を有するチューブ容器」(摘示(c1))に関するものであり、そのガスバリヤー性は主に無機酸化物の蒸着層によると認められるところ、その蒸着層に使用される無機酸化物として、「酸化インジューム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化チタンなど」(摘示(c3))として列挙されるものが用いられること、実施例(摘示(c4))に酸化アルミニウムを用いた具体例が記載されていることからすると、ガスバリヤー性を有する積層フィルムのガスバリヤー性蒸着層に使用される無機酸化物として、酸化アルミニウムは、In,Sn,Znの金属酸化物と同等で好適な金属酸化物膜ということができる。 すると、引用発明において、「In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物層であってスパッタリングにより形成された膜」の金属酸化物を同等で好適な金属酸化物として知られた酸化アルミニウムとすることは、当業者が容易になし得る材料の置換であるといえる。 そして、本願補正発明がこの点によって格別の効果を奏すると認めることもできない。 c. 相違点(c)について 上記刊行物2には、従来の押し出しチューブが、「ガスバリアー性等の物性を有する積層材で成形されている筒状の胴部と、肩部と首部とを有し胴部の上部開口端に係合されている閉塞部材と、この閉塞部材の首部に着脱可能に装着されているキャップとを備えている」(摘示(b4))こと、「最外層である熱可塑性樹脂層8は、積層材1を筒状にして押出しチューブの胴部を形成する際に、最内層である熱可塑性樹脂層17と熱融着される」(摘示(b5))ことが記載されている。その「首部」は、本願補正発明にいう口部に相当すると認められるから、積層フィルムを筒状にして(丸めて)その重合端部をヒートシールしてチューブ用容器本体である胴部を形成し、さらにその胴部の一方の上方に、肩部と口部を設け、上記の口部にキャップを取り付けたものは、押し出しチューブとして、ごく普通のものである(さらに必要ならば、例えば上記周知例2(段落【0018】、【0027】、【0028】、【0029】)等参照)と認められる。 さらに、押し出しチューブにおいて、両面にヒートシール層を有する積層フィルムの重合端部をヒートシールしてチューブ用容器本体である胴部を形成し、その胴部の一方の上方に、高密度ポリエチレンを射出成形して肩部と口部を形成したものも、前置報告書において、周知技術として示した周知例1(摘示(d1))のみならず、例えば、上記周知例2に記載されているように、本出願前周知であるといえる。 すると、引用発明の包装材料を押し出しチューブの胴部を形成する材料とするに際し、押し出しチューブを上記方法及び材料のものとすることは当業者にとって何ら困難なことではない。 そして、本願補正発明がこの点によって格別の効果を奏すると認めることもできない。 d. 請求人の主張 請求人は、本願補正発明の効果について、平成19年6月13日の回答書2.(4)(ロ)において概略次のように主張する。すなわち、 刊行物1に記載の発明においては、積層フィルムの片面に「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」を有するものであり、これに対し、本願補正発明は、積層フィルム両面に「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム」が積層されているものであるから、「高密度ポリエチレン」を射出成形して肩部と口部とを成形する場合に、成形時に、その「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム」と「高密度ポリエチレン」との両者が、相互に相溶性を有し、胴部と肩部とが、その表裏両面において、極めて良好に溶着して強固に密接着するという利点を有するものである。しかし、刊行物1に記載の発明においては、胴部と肩部とが、その内面の片面においてしか溶着しないものであるので、密接着性が劣る。 しかしながら、そもそも引用発明は少なくとも片面に「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」を有するもの、すなわち、両面に「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」を有するもの、も包含するものであるから、引用発明のその層が片面のみであることを前提とする請求人の主張は、前提を誤るものである。 さらに、請求人の本願補正発明が奏すると主張する『「高密度ポリエチレン」を射出成形して肩部と口部とを成形する場合に、成形時に、その「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム」と「高密度ポリエチレン」との両者が、相互に相溶性を有し、胴部と肩部とが、その表裏両面において、極めて良好に溶着して強固に密接着する』という効果は、引用発明に上記各相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を適用したものの奏すると予想される効果の範囲内であることは、以下のとおりである。 すなわち、ヒートシール(熱溶着、熱融着)技術において、ヒートシールすべき樹脂として同一あるいは同一系統の樹脂を用いると、ヒートシール部の接着強度が高くなることは技術常識(必要ならば、例えば特開平5-16949号公報段落【0010】等参照)である。 積層フィルムの両面に、ヒートシール可能な熱可塑性接着層として、同一の樹脂である直鎖状低密度ポリエチレンを用い、肩及び口部として、直鎖状低密度ポリエチレンと同一系統の樹脂であると認められる高密度ポリエチレンを用いれば、胴部の重畳部はもとより、胴部と肩及び口部の熱融着時にヒートシール部の接着強度が高くなるという効果は、前記技術常識から当業者が予期し得るものである。 また、積層フィルムの両面に同一のヒートシール可能な熱可塑性接着層を有することにより、その両面層の熱挙動が同等となることから、胴部と肩部とが積層フィルムの両面において、極めて良好に溶着して強固に密接着することも、当業者が予期し得る程度のことである。 したがって、請求人の本願補正発明が奏すると主張する『「高密度ポリエチレン」を射出成形して肩部と口部とを成形する場合、成形時に、「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム」と「高密度ポリエチレン」との両者が、相互に相溶性を有し、胴部と肩部とが、その両面において、極めて良好に溶着して強固に接着する』という効果は、引用発明に上記各相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を適用したものの奏すると予想される効果の範囲内であって、格別なものではない。 e. 小括 したがって、本願補正発明は、刊行物1?3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項1乃至第4号に規定する要件に適合しないので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであり、仮に、上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に該当するものとしても、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 平成16年12月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成16年7月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム/接着剤層/二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム・酸化アルミニウムの蒸着膜/接着剤層/酸化アルミニウムの蒸着膜・二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/接着剤層/直鎖状低密度ポリエチレンフィルムの順で積層した層構成からなる包装用材料から胴部を形成してなることを特徴とする押し出しチューブ。」(以下、「本願発明」という。) (1)原査定の拒絶の理由、刊行物及びその記載事項 原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明はその出願前頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 その刊行物は、前記2.(2)(イ)に記載した刊行物1?3であり、それらに記載した事項も、前記2.(2)(イ)に記載したとおりである。 そして、刊行物1に記載された発明(引用発明)は、前記2.(2)(ウ)に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、それらの一致点は、本願補正発明と引用発明との一致点(前記2.(2)(エ))と同じであり、相違点は、以下の点であるといえる。 (a’)本願発明は、両面にヒートシール性を有する樹脂のフィルムである「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム」を有する包装用材料から胴部を形成した「押し出しチューブ」であるのに対し、引用発明は、少なくとも片面に接着剤層を介してヒートシール性を有する樹脂のフィルムである「ヒートシール可能な熱可塑性接着層」を有する包装用材料であり、その材料から胴部を形成した「押し出しチューブ」とするかは明らかではない点 (b’)金属酸化物が、本願発明においては、酸化アルミニウムであるのに対し、引用発明においては、In,Sn,Zn,ZrおよびTiから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属の金属酸化物である点 これらの相違点は、本願補正発明と引用発明との相違点(a)及び(b)とそれぞれ同じである。 そして、これらの相違点についての判断は、前記2.(2)(オ)に記載したものと同じである。 (3)まとめ したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4. むすび 以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本出願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-08-28 |
結審通知日 | 2007-09-04 |
審決日 | 2007-10-01 |
出願番号 | 特願平7-258110 |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B) P 1 8・ 575- Z (B32B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 深草 祐一、芦原 ゆりか |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
井上 彌一 鴨野 研一 |
発明の名称 | 包装用材料およびそれを使用した押し出しチュ-ブ |
代理人 | 金山 聡 |