• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1168380
審判番号 不服2005-3069  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-22 
確定日 2007-11-21 
事件の表示 平成 7年特許願第 84389号「無電極低圧ガス放電ランプ」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 1月12日出願公開、特開平 8- 7844〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成7年4月11日(パリ条約による優先権主張1994年4月18日、米国)の出願であって、平成16年11月15日付け(発送日平成16年11月25日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年2月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2 平成17年2月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年2月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の記載を、補正前の、
「【請求項1】無電極低圧ガス放電ランプに於いて、
(a)中に金属蒸気および不活性ガスの入っているガラス質エンベロープであって、電気的励起回路を受け入れるための外側室が形成されているガラス質エンベロープ、
(b)上記エンベロープの上記外側室に受け入れられる電気的励起回路であって、上記エンベロープの外側から内側に上記エンベロープを通過する電磁界により上記金属蒸気を励起して光を放出させる電気的励起回路、
(c)電力電力幹線から上記励起回路に電力を供給するための回路、
(d)上記電力電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するために上記ガラス質エンベロープの内側表面上に配置された透明な内側導電性被膜、および
e)上記ガラス質エンベロープの外側表面上に配置された外側導電性被膜であって、上記ガラス質エンベロープの壁を介して上記内側導電性被膜に容量結合されて、上記電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するための適当な電位に維持される外側導電性被膜を含み、
(f)上記外側導電性被膜が、上記ガラス質エンベロープの外側表面に接着された連続した無機ガラス層のマトリックス、および導電性の被膜を形成するのに充分な密度で上記マトリックス中に埋め込まれた導電性粒子で構成されていることを特徴とする無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項2】無電極低圧ガス放電ランプに於いて、
(a)中に金属蒸気および不活性ガスが入っている、ケイ酸ソーダ石灰ガラスで構成されたガラス質エンベロープであって、電気的励起回路を受け入れるための外側室が形成されているガラス質エンベロープ、
(b)上記エンベロープの上記外側室に受け入れられる電気的励起回路であって、上記エンベロープの外側から内側に上記エンベロープを通過する電磁界により上記金属蒸気を励起して光を放出させる電気的励起回路、
(c)電力電力幹線から上記励起回路に電力を供給するための回路、
(d)上記電力電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するために上記ガラス質エンベロープの内側表面上に配置された透明な内側導電性被膜、および
(e)上記ガラス質エンベロープの外側表面上に配置された外側導電性被膜であって、上記ガラス質エンベロープの壁を介して上記内側導電性被膜に容量結合されて、上記電力電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するための適当な電位に維持される外側導電性被膜を含み、
(f)上記外側導電性被膜が、上記ガラス質エンベロープの外側表面に接着された連続した無機ガラス被膜のマトリックス、および導電性の被膜を形成するのに充分な密度で上記マトリックス中に埋め込まれた導電性粒子で構成されていることを特徴とする無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項3】上記外側導電性被膜の上記ガラス層がホウケイ酸鉛ガラスで構成されている請求項1又は2に記載の無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項4】上記導電性粒子が、銀、銅、白金、パラジウム、モリブデンおよびニッケルで構成される群の中から選ばれたものである請求項1又は2に記載の無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項5】上記外側導電性被膜の上記ガラス層がホウケイ酸鉛ガラスで構成され、上記導電性粒子が、銀、銅、白金、パラジウム、モリブデンおよびニッケルで構成される群の中から選ばれたものである請求項2記載の無電極低圧ガス放電ランプ。」
を、補正後の、
「【請求項1】無電極低圧ガス放電ランプに於いて、
(a)中に金属蒸気および不活性ガスの入っているガラス質エンベロープであって、電気的励起回路を受け入れるための外側室が形成されているガラス質エンベロープ、
(b)上記エンベロープの上記外側室に受け入れられる電気的励起回路であって、上記エンベロープの外側から内側に上記エンベロープを通過する電磁界により上記金属蒸気を励起して光を放出させる電気的励起回路、
(c)電力電力幹線から上記励起回路に電力を供給するための回路、
(d)上記電力電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するために上記ガラス質エンベロープの内側表面上に配置された透明な内側導電性被膜、および
(e)上記ガラス質エンベロープの外側表面上に配置された1以上のスリットを有する外側導電性被膜であって、上記ガラス質エンベロープの壁を介して上記内側導電性被膜に容量結合されて、上記電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するための適当な電位に維持される外側導電性被膜を含み、
(f)上記外側導電性被膜が、上記ガラス質エンベロープの外側表面に接着された連続した無機ガラス層のマトリックス、および導電性の被膜を形成するのに充分な密度で上記マトリックス中に埋め込まれた導電性粒子で構成されていることを特徴とする無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項2】無電極低圧ガス放電ランプに於いて、
(a)中に金属蒸気および不活性ガスが入っている、ケイ酸ソーダ石灰ガラスで構成されたガラス質エンベロープであって、電気的励起回路を受け入れるための外側室が形成されているガラス質エンベロープ、
(b)上記エンベロープの上記外側室に受け入れられる電気的励起回路であって、上記エンベロープの外側から内側に上記エンベロープを通過する電磁界により上記金属蒸気を励起して光を放出させる電気的励起回路、
(c)電力電力幹線から上記励起回路に電力を供給するための回路、
(d)上記電力電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するために上記ガラス質エンベロープの内側表面上に配置された透明な内側導電性被膜、および
(e)上記ガラス質エンベロープの外側表面上に配置された1以上のスリットを有する外側導電性被膜であって、上記ガラス質エンベロープの壁を介して上記内側導電性被膜に容量結合されて、上記電力電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するための適当な電位に維持される外側導電性被膜を含み、
(f)上記外側導電性被膜が、上記ガラス質エンベロープの外側表面に接着された連続した無機ガラス被膜のマトリックス、および導電性の被膜を形成するのに充分な密度で上記マトリックス中に埋め込まれた導電性粒子で構成されていることを特徴とする無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項3】上記外側導電性被膜の上記ガラス層がホウケイ酸鉛ガラスで構成されている請求項1又は2に記載の無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項4】上記導電性粒子が、銀、銅、白金、パラジウム、モリブデンおよびニッケルで構成される群の中から選ばれたものである請求項1又は2に記載の無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項5】上記外側導電性被膜の上記ガラス層がホウケイ酸鉛ガラスで構成され、上記導電性粒子が、銀、銅、白金、パラジウム、モリブデンおよびニッケルで構成される群の中から選ばれたものである請求項2記載の無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項6】上記1以上のスリットは、上記外側導電性被膜を横断するフルスリットである請求項1乃至5のいずれかに記載の無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項7】上記1以上のスリットは、上記外側導電性被膜を横断していない部分スリットである請求項1乃至5のいずれかに記載の無電極低圧ガス放電ランプ。
【請求項8】上記1以上のスリットが、1乃至2mmの幅を有している請求項1乃至7のいずれかに記載の無電極低圧ガス放電ランプ。」(当審注:下線部は補正箇所を示すために付したものである。)
と補正する補正事項を含むものである。

(2)補正の目的の適否について
上記補正事項により、請求項の数が5から8に増加しているので、この点について検討する。
新請求項1は、旧請求項1に対応し、旧請求項1に「1以上のスリットを有する」の限定を付したものである。
新請求項2は、旧請求項2に対応し、旧請求項2に「1以上のスリットを有する」の限定を付したものである。
新請求項3ないし5は、旧請求項3ないし5に対応し、先行する請求項の引用形式で記載されており、文言上は、それぞれ、旧請求項3ないし5と同じである。
しかしながら、新請求項6ないし8は、対応する旧請求項が存在せず、『1以上のスリット』に関する新たな請求項を追加したものと解され、また、旧請求項に択一的に記載された構成要件を限定して新たな請求項として追加したものでないことも明らかである。
したがって、上記補正事項は、新しい請求項を追加するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする事項に該当せず、また、同第1号の請求項の削除、同第3号の誤記の訂正及び同第4号の明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とする事項にも該当しないことは明らかである。

(3)むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 本願発明
平成17年2月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成16年11月2日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願第1発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】無電極低圧ガス放電ランプに於いて、
(a)中に金属蒸気および不活性ガスの入っているガラス質エンベロープであって、電気的励起回路を受け入れるための外側室が形成されているガラス質エンベロープ、
(b)上記エンベロープの上記外側室に受け入れられる電気的励起回路であって、上記エンベロープの外側から内側に上記エンベロープを通過する電磁界により上記金属蒸気を励起して光を放出させる電気的励起回路、
(c)電力電力幹線から上記励起回路に電力を供給するための回路、
(d)上記電力電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するために上記ガラス質エンベロープの内側表面上に配置された透明な内側導電性被膜、および
(e)上記ガラス質エンベロープの外側表面上に配置された外側導電性被膜であって、上記ガラス質エンベロープの壁を介して上記内側導電性被膜に容量結合されて、上記電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するための適当な電位に維持される外側導電性被膜を含み、
(f)上記外側導電性被膜が、上記ガラス質エンベロープの外側表面に接着された連続した無機ガラス層のマトリックス、および導電性の被膜を形成するのに充分な密度で上記マトリックス中に埋め込まれた導電性粒子で構成されていることを特徴とする無電極低圧ガス放電ランプ。」
なお、請求項1には「e)」と記載されているが、明らかに「(e)」の誤記と認められるから、上記のとおり認定した。

4 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、この出願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-214348号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
1.真空気密封止状にシールされ且つ金属蒸気稀ガスを充填されたランプ容器と、ランプ動作中このランプ容器内に電界を発生する高周波給電ユニットに接続された巻線で取囲まれた磁性材料の芯とを有し、前記のランプ容器の内側には透明導電層が設けられた無電極低圧放電ランプにおいて、ランプ容器の壁の外側にの一部に、内側導電層とコンデンサを形成する外側導電層が設けられ、この外側導電層は、ランプの動作中電源の導入線の1つと接続されることを特徴とする無電極低圧放電ランプ。」(1頁左下欄3?15行)
イ 「本発明は、真空気密封止状にシールされ且つ金属蒸気と稀ガスを充填されたランプ容器と、ランプ動作中このランプ容器内に電界を発生する高周波給電ユニットに接続された巻線で取囲まれた磁性材料の芯とを有し、前記のランプ容器の内側には透明導電層が設けられた無電極低圧放電ランプに関するものである。
このようなランプは・・・より知られている。
この公知のランプでは、ランプ容器の内側の透明導電層はランプの動作中電源のリード線の1つと接続される。このようにして、ランプで発生する電界は略々ランプ容器内に閉じ込められ、ランプ外側のその強さは十分に小さいので、電源の高周波障害電流の発生は阻止される。前記の導電層は、障害電流に対する貫通部材によってランプ容器外側にある導電体と接続されている。・・・この別個の貫通部材の使用は好ましいものではない。」(1頁左下欄20行?2頁左上欄1行)
ウ 「本発明の目的は、ランプ容器の内壁上の導電層とランプ容器の外側に位置する導体(動作中電源に接続される)との間に電気結合が簡単に形成され、特別な電流貫通部材の使用を要しないランプを得ることにある。
本発明は、この目的のために、冒頭に記載した種類の無電極低圧放電ランプにおいて次のようにしたことを特徴とするものである、すなわち、ランプ容器の壁の外側の一部に、内側導電層とコンデンサを形成する外側導電層が設けられ、この外側導電層は、ランプの動作中電源の導入線の1つと接続される。」(2頁左上欄6?17行)
エ 「以下本発明を図面の実施例で更に詳しく説明する。
ランプは、或る量の水銀と希ガス(圧力70Paのアルゴンまたはクリプトンのような)を充填されたガラスのランプ容器1を有する。このランプ容器1は気密封止状にシールされ、磁性材料(フェライトのような)の棒状芯4が中に入るように形成された管状突起3を有するガラスシーリング部材2を含む。前記の芯4はランプの縦軸に沿って延在する。巻線5が前記の芯の周りに配設されている。この巻線は若干のターンの銅線より成る。前記の巻線は(一部が見える導線6および7を経て)高周波給電ユニットに接続される。この高周波給電ユニットは、一方においてはランプ容器1とまた他方においては僅かに円錐状の端部で口金10と連結された合成樹脂製の円筒壁部分9内に位置する。
ランプ容器1の内側には弗素添加酸化錫(R/□約20Ω)より成る透明導電層11が設けられ、この層は、突起3の大部分を除いて容器の内面全体に亘って延在する。前記の層上にはけい光層(図示せず)が施され、このけい光層により、ランプ容器内に発生された紫外線が可視光に変換される。ガラスシーリング部材2のランプ口金に面する側には外側導電層12が設けられている。銀の懸濁液より設けられたこの層は、導体13を経て金属ハウジング8と口金10に接続される。前記の導体13は金属線で、外側導電層12にはんだ付けされる。この層12はガラスシーリング部材2の下側の大部分に亘って延在する。前記の層11と12はコンデンサの極板を形成し、ガラスシーリング部材2のガラス壁は誘電体を形成する。したがって、ランプ容器の内側の透明導電層とランプ容器10(当審注:「口金10」の誤記)に接続された導体13との間に電気的貫通部が得られる。このランプの動作中、内側の透明導電層11はしたがって電源のリード線の1つと電気的に結合される。この場合電源における高周波障害は通常の基準以下の値に低減される。外側導電層がなければランプ容器内の放電と金属ハウジング8間に存し且つ障害電波を生じることもある寄生容量もこの場合事実上短絡される。」(2頁左下欄16行?3頁左上欄16行)

そうすると、上記エの記載「ランプは、或る量の水銀と希ガス(圧力70Paのアルゴンまたはクリプトンのような)を充填されたガラスのランプ容器1を有する。」から、ランプ容器1がガラス製であること、及び、ランプ容器1には水銀蒸気と希ガスが入っていることは明らかである。さらに、上記エの記載「巻線5が前記の芯の周りに配設されている。・・・前記の巻線は(一部が見える導線6および7を経て)高周波給電ユニットに接続される。」及び「ランプ容器1の内側には・・・より成る透明導電層11が設けられ、この層は、突起3の大部分を除いて容器の内面全体に亘って延在する。前記の層上にはけい光層(図示せず)が施され、このけい光層により、ランプ容器内に発生された紫外線が可視光に変換される。」から、磁性材料の棒状芯4の周りに設けられた巻線5は、ランプ容器1の外側から内側にランプ容器1を通過する電界により水銀蒸気を励起して光を放出させるものであることが読み取れる。
したがって、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
【引用発明】
「無電極低圧放電ランプに於いて、
(a)中に水銀蒸気および稀ガスの入っているガラス製ランプ容器1であって、磁性材料の棒状芯4の周りに設けられた巻線5を受け入れるための管状突起3を有するガラスシーリング部材2が形成されているガラス製ランプ容器1、
(b)上記ガラス製ランプ容器1の上記管状突起3に受け入れられる磁性材料の棒状芯4の周りに設けられた巻線5であって、上記ランプ容器1の外側から内側に上記ガラス製ランプ容器1を通過する電界により上記水銀蒸気を励起して光を放出させる、磁性材料の棒状芯4の周りに設けられた巻線5、
(c)電源の導入線から上記磁性材料の棒状芯4の周りに設けられた巻線5に電力を供給するための高周波給電ユニット、
(d)上記電源の導入線に対する高周波障害を抑圧するために上記ガラス製ランプ容器1の内側であって環状突起3の大部分を除いたガラスのランプ容器1の内面に配置された透明導電層11、および
(e)ガラスシーリング部材2の口金10に面する側の表面上に配置された外側導電層12であって、上記ガラスシーリング部材2の壁を介して上記透明導電層11とコンデンサの極板を形成し、上記電源の導入線に対する高周波障害を抑圧するために導体13を経て口金10に接続される外側導電層12を含み、
(f)上記外側導電層12が、ガラスシーリング部材2の外側表面に銀の懸濁液より設けられ構成されている無電極低圧放電ランプ。」

(2)同じく引用されたこの出願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭64-28247号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア 「産業上の利用分野
本発明は、導電膜形成用組成物に関する。
従来の技術及びその問題点
近年、ガラス、セラミックス等の非導電性の耐熱性材料上に導電膜を形成することによって、これらの材料に電極や回路を形成したり、或いは、電磁波シールド用材料として用いる等新しい用途が広がっている。・・・従来、非導電性の耐熱材料に導電膜を形成する材料としては、金、銀、銀-パラジウム等の貴金属粉末とガラス粉末とを混合した組成物や銅、ニッケル等の卑金属粉末とガラス粉末とを混合した組成物等が知られている。」(1頁左下欄13行?右下欄9行)
イ 「問題点を解決するための手段
本発明者は、上記した如き現状に鑑みて、従来の導電膜形成用組成物の欠点を解消し、より優れた特性を有する導電膜形成用組成物を得るべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、金属成分としてニッケル粉末とその他の特定の金属粉末とを組合せて使用し、この金属成分をガラス粉末と混合して、被処理物上に塗布し、次いでこれを400?1000℃程度の温度で熱処理することによって、電気的特性に優れた皮膜であって、密着性、耐酸化性、ハンダ付性等に優れ、しかもマイグレーションの生じることのない極めて優れた導電性皮膜が形成されることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。」(2頁左上欄1?14行)
ウ 「即ち、本発明は、
i)ニッケル粉末 100重量部、
ii)銀、スズ、亜鉛、アルミニウム、銅及びハンダの少くとも一種の粉末 5?500重量部、及び
iii)ガラス粉末 1?200重量部
を含有することを特徴とする導電膜形成用組成物に係わる。」(2頁左上欄15行?右上欄4行)
エ 「本発明で用いるニッケル、銀、スズ、亜鉛、アルミニウム、銅及びハンダの金属粉末は、粒径0.05?100μm程度のものが好ましい。」(2頁左下欄12?14行)
オ 「本発明組成物では、ガラス粉末は、素材と金属粉末を接合するために必要である。ガラス粉末としては、軟化点350?900℃程度であって、粒径0.1?50μm程度のものが好ましく、・・・ガラス粉末の具体例としては、例えば、ホウケイ酸鉛系ガラス、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、ホウケイ酸ビスマス系ガラス等を例示できる。」(2頁右下欄15行?3頁左上欄4行)
カ 「本発明組成物を用いて耐熱素材上に導電膜を形成させるには、本発明組成物を素材上に適当な方法で塗布した後、加熱して該組成物を素材上に焼付ければ良い。
塗布方法は、特に限定されず、公知の方法に従えばよく、例えば、以下の様な方法を例示できる。
(1)本発明組成物をアルコール、アセトンなどの溶剤に分散させて、スプレー塗装する。
(2)本発明組成物を有機ビヒクルに分散させた後、該分散液中に被処理物を浸漬するか、或いは、該分散液をハケ塗り、スクリーン印刷、スプレー塗装、ディスペンサー式塗装等によって被処理物上に塗布する。有機ビヒクルとしては、公知のものをいずれも使用でき、例えば、・・・等の有機高分子化合物を・・・等の有機溶剤に溶解したものを使用できる。
塗布量は、ニッケル粉末、その他の金属粉末及びガラス粉末の合計量が・・・程度となる様にすればよい。
本発明組成物を塗布した後、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で、400?1000℃程度で、3?120分間程度加熱することによって、導電膜が形成される。」(3頁右上欄8行?左下欄14行)

上記オでガラス粉末の具体例として例示されたホウケイ酸鉛系ガラス、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、ホウケイ酸ビスマス系ガラスはいずれも無機ガラスであるから、したがって、引用例2には次の発明(以下、「引用例2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
【引用例2記載の発明】
「ニッケル粉末と、銀、スズ、亜鉛、アルミニウム、銅及びハンダの少くとも一種の粉末とからなる、粒径0.05?100μm程度の金属粉末、及び、無機ガラス粉末を混合してガラス上に塗布し、これを400?1000℃程度の温度で熱処理することによって形成された導電膜」

5 対比
本願第1発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「無電極低圧放電ランプ」、「水銀蒸気」、「稀ガス」、「ガラス製ランプ容器1」、「磁性材料の棒状芯4の周りに設けられた巻線5」、「管状突起3」、「電源の導入線」、「高周波給電ユニット」は、それぞれ、本願第1発明の「無電極低圧ガス放電ランプ」、「金属蒸気」、「不活性ガス」、「ガラス質エンベロープ」、「電気的励起回路」、「外側室」、「電力電力幹線」、「励起回路に電力を供給するための回路」に相当する。
(2)引用発明の「電界」、「高周波障害」は、それぞれ、本願第1発明の「電磁界」、「電磁干渉」に相当する。
(3)引用発明の「透明導電層11」、「外側導電層12」、「コンデンサの極板を形成し」は、それぞれ、本願第1発明の「内側導電性被膜」、「外側導電性被膜」、「容量結合され」に相当する。
(4)引用発明の「導体13を経て口金10に接続される」は、本願第1発明の「適当な電位に維持される」に相当する。
(5)『接着』とは「くっつくこと。また、くっつけること。」(広辞苑第5版)を意味するから、引用発明における、ガラスシーリング部材2の外側表面に銀の懸濁液より設けられた外側導電層12も、ガラスシーリング部材2の外側表面にくっつけられたものであること、すなわち、接着されたものであることが明らかである。そうすると、引用発明の「外側導電層12が、ガラスシーリング部材2の外側表面に銀の懸濁液より設けられ構成されている」と、本願第1発明の「外側導電性被膜が、上記ガラス質エンベロープの外側表面に接着された連続した無機ガラス層のマトリックス、および導電性の被膜を形成するのに充分な密度で上記マトリックス中に埋め込まれた導電性粒子で構成されている」とは、共に、「外側導電性被膜が、上記ガラス質エンベロープの外側表面に接着されたもので構成されている」点で共通する。
以上(1)?(5)の考察から、両者は、次の一致点及び相違点を有している。
【一致点】
「無電極低圧ガス放電ランプに於いて、
(a)中に金属蒸気および不活性ガスの入っているガラス質エンベロープであって、電気的励起回路を受け入れるための外側室が形成されているガラス質エンベロープ、
(b)上記エンベロープの上記外側室に受け入れられる電気的励起回路であって、上記エンベロープの外側から内側に上記エンベロープを通過する電磁界により上記金属蒸気を励起して光を放出させる電気的励起回路、
(c)電力電力幹線から上記励起回路に電力を供給するための回路、
(d)上記電力電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するために上記ガラス質エンベロープの内側表面上に配置された透明な内側導電性被膜、および
(e)上記ガラス質エンベロープの外側表面上に配置された外側導電性被膜であって、上記ガラス質エンベロープの壁を介して上記内側導電性被膜に容量結合されて、上記電力幹線に対する電磁干渉を抑圧するための適当な電位に維持される外側導電性被膜を含み、
(f)上記外側導電性被膜が、上記ガラス質エンベロープの外側表面に接着されたもので構成されている無電極低圧ガス放電ランプ。」
【相違点】
外側導電性被膜が、ガラス質エンベロープの外側表面に接着されたもので構成されていることについて、本願第1発明では、「連続した無機ガラス層のマトリックス、および導電性の被膜を形成するのに充分な密度で上記マトリックス中に埋め込まれた導電性粒子で」構成されているのに対し、引用発明では、「銀の懸濁液より設けられ」構成されている点。

6 判断
上記相違点について検討する。
引用例2には、引用例2記載の発明として、「ニッケル粉末と、銀、スズ、亜鉛、アルミニウム、銅及びハンダの少くとも一種の粉末とからなる、粒径0.05?100μm程度の金属粉末、及び、無機ガラス粉末を混合してガラス上に塗布し、これを400?1000℃程度の温度で熱処理することによって形成された導電膜。」が記載されており、この点は公知のものである。しかも、引用例2記載の発明の導電膜は、粒径0.05?100μm程度の金属粉末、及び、無機ガラス粉末を混合してガラス上に塗布し、これを400?1000℃程度の温度で熱処理することによって形成されたものであるから、当該熱処理によって形成された導電膜は、無機ガラス層のマトリックス、及び、導電膜を形成するのに十分な密度でマトリックス中に埋め込まれた金属粒子(すなわち、導電性粒子)で構成されていると解される。そうすると、引用例2記載の発明の導電膜は、上記相違点に係る本願第1発明の構成を全て具備している。
そして、引用発明の銀の懸濁液より設けられ構成された外側導電層12と引用例2記載の発明の導電膜とは、共に、ガラス上に設けられた導電層である点で同一技術分野に属するというべきであるから、したがって、引用発明の銀の懸濁液より設けられ構成された外側導電層12に代えて引用例2記載の発明の導電膜を採用して本願第1発明のように構成することは当業者であれば容易になし得たものである。
そして、本願第1発明の奏する作用効果についても、引用例1及び2に記載された事項に基づいて当業者が予測可能な範囲内のものにすぎない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願第1発明は、引用発明及び刊行物2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願第1発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2?5に係る発明について判断するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-22 
結審通知日 2007-06-26 
審決日 2007-07-10 
出願番号 特願平7-84389
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村田 尚英  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 山川 雅也
上原 徹
発明の名称 無電極低圧ガス放電ランプ  
代理人 伊藤 信和  
代理人 松本 研一  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ