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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200515647 審決 特許
不服200513231 審決 特許
不服200414570 審決 特許
不服200516538 審決 特許
不服20051648 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1168580
審判番号 不服2005-1439  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-24 
確定日 2007-11-28 
事件の表示 特願2001-531907「イオノマー型発光ポリマー及びこれを用いた電界発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月26日国際公開、WO01/29115、平成15年 4月 2日国内公表、特表2003-512488〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年10月18日を国際出願日とする出願(優先権主張平成11年10月18日 韓国)であって、平成16年3月26日付けで拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年9月29日に意見書および手続補正書が提出されたが、同年10月20日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成17年1月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年2月23日付けで手続補正がなされ、それに対して平成17年5月23日付けで前置報告されたものである。

2.平成17年2月23日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年2月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)手続補正の内容
平成17年2月23日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、平成16年9月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明である「発光ポリマーを水不溶性にする0.1から15%(mol/mol)の比率で導入されたイオン部を含むイオノマー型発光ポリマー。」を、
「ポリスチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェン、アルコキシル基の側鎖と結合したポリ(パラフェニレン)、およびアルコキシル基の側鎖と結合したポリチオフェンからなる群から選択された一以上のブロックを含む発光ポリマーを水溶性にしない、0.1から15%(mol/mol)の比率で導入された有機、無機、および金属イオンからなる群から選択されるイオン部を含むイオノマー型発光ポリマー。」
と補正する事項を含むものである。

(2)本件手続補正の適否の判断
本件手続補正により、本件手続補正前の特許請求の範囲請求項1の
「発光ポリマー」が
「ポリスチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェン、アルコキシル基の側鎖と結合したポリ(パラフェニレン)、およびアルコキシル基の側鎖と結合したポリチオフェンからなる群から選択された一以上のブロックを含む発光ポリマー」に補正され(以下「補正事項1」という。)、
「発光ポリマーを水不溶性にする0.1から15%(mol/mol)の比率で導入」が、
「発光ポリマーを水溶性にしない、0.1から15%(mol/mol)の比率で導入」に(以下「補正事項2」という。)補正された。
請求人は平成17年1月24日付け審判請求書において、補正事項1については、補正前の請求項1に、補正前の請求項2および4に記載された特徴を導入して発光ポリマーの構成を減縮および明確化したものであり、補正事項2については、当初明細書段落【0006】の記載に基づいて、補正前の請求項1記載の「発光ポリマーを水不溶性にする」を「発光ポリマーを水溶性にしない」と改めたものである旨主張している。

(補正事項1について)
出願当初の明細書には、発光ポリマーの構造に関しては主鎖に側鎖が結合されたまたは結合されない構造を有するものであると記載されていたから、発光ポリマーは1本の主鎖を明確に把握できる構造を有するものであったと認められる。これに対して補正事項1の前記「・・ブロックを含む」という記載は1本の主鎖が存在することを明確に特定できるものではないから、出願当初の明細書に記載された事項の範囲を超える新たな構造を備えた発光ポリマーを明細書に追加するものと認められる。よって、この補正は特許法第17条の2第3項に規定される要件を満足するものではない。

(補正事項2について)
出願当初の明細書段落【0006】には、「イオンの濃度15%(mol/mol)は、イオノマーが水に溶解されない上限である。」との記載があるから、補正事項2は出願当初の明細書に記載された事項の範囲内でなされたものと認められる。
しかしながら、補正前の「発光ポリマーを水不溶性にする」との記載を「発光ポリマーを水溶性にしない」との記載に補正することは、前者を概念的により下位の発明を特定するための事項としたものではないから、特許請求の範囲の限定的減縮には該当しない。
よって、補正事項2は特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正(特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたもの)とは認められないし、また、請求項の削除を目的としたものとも、誤記の訂正を目的にしたものとも、明りょうでない記載の釈明を目的としたものとも認められない。

(3)むすび
本件手続補正は特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


3.本件審判請求について
(1)本願発明について
平成17年2月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年9月29日付け手続補正時の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「発光ポリマーを水不溶性にする0.1から15%(mol/mol)の比率で導入されたイオン部を含むイオノマー型発光ポリマー。」

(2)拒絶査定の理由について
原査定の拒絶の理由は、本願は、平成16年3月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由II及び理由IIIによって、拒絶すべきものである旨のものであり、平成16年3月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由II及び理由IIIは以下のとおりである。
理由II.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記1-4の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由III.この出願は、明細書の記載が下記の点で、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない。

理由II
請求項1-6、11(拒絶査定時の請求項1-8):引用文献1-4

<引 用 文 献 等 一 覧>
1.M. David Curtis, Haitao Cheng, Jo Anna Johnson I. Nanos,"N-Methylated Poly(nonylbithiazol): A New n-Dopable, Conjugated Poly(ionomer)"
CHEMISTRY of MATERIALS, 1998.01, Vol.10, No.1, p.13-16
2.Mark A. Karasz, Gary E. Wnek,"Tunable electroluminescence from ionomers doped with cationic lumophores"
Electrochimica Acta, 1998.04.30, Vol.43, No.10-11, p.1623-1628
3.Seong hyun Kim, Kang-Hoon Choi, Hyang-Mok Lee, Do-Hoon Hwang, Lee-Mi Do, Hye Yong Chu, Taehyoung Zyung,"Impedance spectroscopy of single- and double-layer polymer light-emitting diode"
JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, 2000.01.15, Vol.87, No.2, p.882-888
4.特開平09-176310号公報

理由III
請求項1-11(拒絶査定時の請求項1-8),発明の詳細な説明欄。
請求項1の記載では、発光ポリマーの化学構造、イオン部の化学構造及びそれらの間の結合の構造が全く不明である。そして、発明の詳細な説明欄の記載を見ても、そのような任意の発光ポリマーに対して不特定の手法で構造不明のイオン部を導入することが、当業者にとって過度の試行錯誤を要することなく実行可能であるとは認められない。また、実施例1-4については原料の調製方法、ポリマーの調製条件、発光の有無を確認できないし、実施例5-7についてはポリマーの調製方法が不明であるから、当業者が発明を実施することができるような記載がなされているとは認められない。よって、本願の請求項1-11(拒絶査定時の請求項1-8)に係る発明は当業者が実施することのできない構成を包含しており、また、本願の発明の詳細な説明欄は当業者が発明を実施することができる程度に明確且つ十分に記載されていない。

(3)当審の判断
[理由IIIについて]
(a)特許法第36条第6項第2号について
本願発明において、発光ポリマーの化学構造、イオン部の化学構造及びそれらの間の結合の構造が全く規定されていないから、本願発明は明確に記載されていない。
これに対して請求人は審判請求書中で、本願発明はイオノマー型発光ポリマーに特定の比率でイオン部を導入することにより、イオノマー型発光ポリマーの水に対する安定性を改善し、かつその寿命を引き延ばすことを特徴とするものであり、イオン部が導入されるイオノマー型発光ポリマー自体に何らかの特別な構造的・化学的特徴を有するものではない旨主張している。
しかしながら、本願発明は末尾が「ポリマー」とあるように、化学物質発明であるから、発明に係る化学物質の外延が明確となる必要があるが、本願発明のポリマーの化学構造、イオン部の化学構造及びそれらの間の結合の構造が全く記載されていないのであるから、本願発明は外延が不明確であると言わざるをえない。

(b)特許法第36条第4項について
上記(a)で記載したように、本願発明の発光ポリマーは明確に記載されていないものであるから、本願の発明の詳細な説明の記載をみても、そのような不明確なものを製造することはできない。したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。そして、実施例において、実施例1-4については原料の調製方法、ポリマーの調製条件、発光の有無を確認できないし、実施例5-7についてはポリマーの調製方法が不明であるから、実施例に係るポリマーについてみても、当業者が発明を実施することができるような記載がなされているとは認められない。
これに対し請求人は審判請求書で、本願発明で用いられるイオノマー型発光ポリマーそのものは引用文献1-4等に記載されているとおり周知である旨主張している。
しかしながら、引用文献1-4には特定のポリマーおよび特定のイオン部についてのみ記載されているだけであるので、これをもってしても任意の発光ポリマーと任意のイオン部の組合せである本願発明のイオノマー型発光ポリマーの調整方法は周知であるとは言えないし、出願時の周知技術を参酌しても、発明の詳細な説明欄の記載に基づいて、任意の発光ポリマーに対して不特定の手法で構造不明のイオン部を導入することが、当業者にとって過度の試行錯誤を要することなく実行可能であるとは認められない。
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

したがって、この出願は明細書の記載が特許法第36条第4項又は第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

[理由IIについて]
ア.引用文献1
引用文献1には以下のとおりのものが記載されている。
摘示記載a:「ここでは、PNBT(ノニルビチアゾールポリマー)の環上窒素原子をメチル化し、新しい共役イオノマー型ポリマー2とすることにより、PNBTの電気的、光学的、機械的性質が調整できることを報告する。(図省略)PNBTはメチルトリフレート(MeOTf(註:ここでTfとはCF3SO3-を示す))と乾燥クロロホルム中で反応させた。・・・反応の進行状況はTLCを長波長UV検出機でモニターすることにより行った。出発原料のPNBTは黄緑色の蛍光を示すが、N-メチル化が進行するに従って蛍光がオレンジ色になる。・・・高度にメチル化されたポリマーはトルエンのような非極性溶媒には溶解しないが、クロロホルムのようなより極性の溶媒には簡単に溶解する。」(13頁左欄文頭から9行?右欄11行)

摘示記載b:「PNBTの物理的性質は部分的なメチル化により高められる。2.77%フッ素化されたポリマー(これは11%メチル化されたポリマーに相当する)は顕著に結晶性が低減される。・・・ 結晶性の低減とMPNBT(メチル化PNBT)の弾性の増加は優れた薄膜(亀裂やピンホールが少ない)の製造を可能にする。」(14頁左欄文頭から4?16行)

すなわち、摘示記載aとbをまとめると、引用文献1には「メチルトリフレートにより11%メチル化されたPNBTである、蛍光性を有する共役イオノマー型ポリマー。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

イ.対比・判断
本願発明と引用発明を比較すると、前者の「イオン部を含むイオノマー型発光ポリマー」は後者の「蛍光性を有する共役イオノマー型ポリマー」に相当するから、両者は「イオン部を含むイオノマー型発光ポリマー」である点で一致し、前者は「0.1から15%(mol/mol)の比率で導入されたイオン部を含む」と規定されているのに対し、後者ではイオン部を導入するメチル化について「11%メチル化された」と規定されているものの、それがmol/molの比率であるか否かについて明記されていない点(相違点1)、および前者では導入されたイオン部の比率を「発光ポリマーを水不溶性にする」比率である旨規定しているのに対し、後者では特にそのような規定はない点(相違点2)で相違している。

(相違点1)について
引用発明ではメチル化の比率がmol/molであることについて明記されていないが、当該技術分野において反応比率を示すのにmol/molで表すことは一般的であることからすると、引用発明もmol/molの比率で規定していると解されるから、この点に相違点は見当たらない。

(相違点2)について
「発光ポリマーを水不溶性にする」の記載は、請求人が審判請求書で主張するように、「イオンの濃度15%(mol/mol)は、イオノマーが水に溶解されない上限である。」(当初明細書段落【0006】)の記載に基づくものと解釈して審理する。すると、相違点2は本願発明ではイオン部の導入比率について「発光ポリマーが水に溶解されない、0.1から15%(mol/mol)の比率で導入」することについて規定されているが、引用発明ではそのような規定はされていないということである。
ところで、引用発明には11%(mol/mol)メチル化されたイオノマー型発光ポリマーが記載されているということは、当該発光ポリマーに11%(mol/mol)の比率でイオン部が導入されていることになるし、11%前後の比率でイオン部を導入してみることは当業者が容易になし得る事項であり、そうすると本願発明の発光ポリマーと物が同じになるので、水への溶解性についても同様の性質を有するものと認められる。

請求人は審判請求書中で、引用文献1に記載されている高度にメチル化されたポリマーは、水溶性のイオノマー型発光ポリマーであることが明示されているから、本願発明の従来技術に相当する旨主張しているが、引用文献1には高度にメチル化が極性溶媒へ溶解することが記載されているのみであって(摘示記載a)、11%(mol/mol)メチル化されている場合も極性溶媒に溶解することについては何ら記載されていないので、この記載をもって引用発明のイオノマー型発光ポリマーが水溶性であるとすることはできない。
したがって、本願発明は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、また、本件出願は特許法第36条第4項又は第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-02 
結審通知日 2007-07-03 
審決日 2007-07-17 
出願番号 特願2001-531907(P2001-531907)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (C08F)
P 1 8・ 572- Z (C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 536- Z (C08F)
P 1 8・ 537- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 渡辺 陽子
高原 慎太郎
発明の名称 イオノマー型発光ポリマー及びこれを用いた電界発光素子  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  

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