• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D04H
管理番号 1168632
審判番号 不服2004-17947  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-31 
確定日 2007-11-26 
事件の表示 平成 7年特許願第218120号「ニードルパンチカーペット」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月18日出願公開、特開平 9- 49159〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年8月2日の出願であって、平成16年2月23日付けの拒絶理由通知に対して、同年4月13日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同月30日付けの拒絶理由通知に対して、同年6月24日に意見書及び手続補正書が提出された後、同年7月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年8月31日に拒絶査定に対する審判請求がなされると共に、同日付けで手続補正書が提出されたものである。
その後、当審において平成19年2月9日付けで審尋がなされたが、それに対して回答書の提出はなされていない。

2.平成16年8月31日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年8月31日付けの手続補正を却下する。
[理由]
平成16年8月31日付けの手続補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではあるが、補正後の請求項1に係る発明は、下記の理由により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、同条第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(1)本件補正
該補正は、特許請求の範囲を下記のように補正するものである。
「【請求項1】 上層は少なくとも2種の色調が異色で色調以外の特性は同質の高融点繊維の混繊ウェブとし、かつ前記高融点繊維の少なくとも1種が黒色繊維ないし白色繊維であり、下層は上層と同じ高融点繊維および低融点繊維の混繊ウェブとし、上下2層に重ねた混繊ウェブの下層側からディロア調ニードリングをおこなって上層の上面に高融点繊維を主体とした模様を柄出しし、同時に下層の低融点繊維の分布を上層に十分多くして、かつ低融点繊維を上層の表面に実質的に表出させないレベルで下層ウェブ繊維の上層ウェブへの混合移行をおこして、その後前記高融点繊維と低融点繊維の中間温度の熱処理をへて低融点繊維のみを溶融させ繊維間を結合し形成してなり、FMVSS302に規定の難燃性の基準を満たしていることを特徴とするニードルパンチカーペット。」

(2)独立して特許を受けることができない理由
補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、本件出願前に頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものである。
刊行物1:特開昭50-132725号公報
刊行物2:実願昭49-41946号(実開昭50-128486号)の
マイクロフィルム
刊行物3:特開平6-49759号公報

(イ)刊行物に記載された事項
刊行物1
(1-1)基材繊維中に低融点繊維を含む繊維層(A)と該繊維層(A)とは色の異なる基材繊維のみからなる繊維層(B)とを積層し、この積層体を有刺針にてニードルパンチングして上記両繊維層を一体化せしめ、次で繊維層(A)側から頭割針にてニードルパンチングして繊維層(B)表面に模様を顕出せしめ、しかる後低融点繊維のみが溶融する温度で熱処理することを特徴とする模様付ニードルカーペットの製造方法。」(特許請求の範囲)
(1-2)「本発明における基材繊維とは、ニードルカーペットを構成する主体繊維を意味し、天然繊維、合成繊維、再生繊維等その種類を問わない。ただし、基材繊維は、少なくとも繊維層(A)に混合される低融点繊維の溶融温度では熱的安定性を有するものでなければならず、従ってこの点から基材繊維の種類が限定される。又繊維層(A)と繊維層(B)とを構成している基材繊維の夫々は、同一種類の繊維であっても、互に異なる種類の繊維であってもよい。」(2頁左上欄10?18行)
(1-3)「ここに得られるニードルフェルトは、繊維層(A)を構成している基材繊維及び低融点繊維の一部が繊維層(B)に移行してその基材繊維と交絡し、又はこれに加えて繊維層(B)を構成している基材繊維の一部も繊維層(A)の基材繊維と交絡した、混色されたものとなる。本発明は、上記ニードルフェルトを更に頭割針にて繊維層(A)側からニードルパンチングして繊維層(B)表面に模様を顕出せしめ、しかる後低融点繊維のみが溶融する温度で熱処理するものである。上記ニードルパンチングに使用する頭割針は有刺針とは異なって、針の頭頂にある頭割部においてのみ繊維層(A)を構成する繊維を把持して移行せしめるものであるから、繊維層(B)表面にはその基材繊維とは色の異なる突出した多数の集合ループによる模様が顕出されることになり、」(2頁右上欄17行?左下欄12行)
(1-4)「かかる熱処理によって繊維層(A)及び繊維層(B)に混在する低融繊維は溶融し、基材繊維相互を接着固定するが、その度合は低融点繊維の混在量の多い繊維層(A)において大きく、低融点繊維がニードルパンチングによる移行によってのみ混在する繊維層(B)においては比較的小さい。従って、模様の顕出されている繊維層(B)は繊維層(A)に比較して柔軟性が高い。しかし、模様を形成している夫々のループは繊維層(A)を構成する基材繊維及び低融点繊維によるものであるから、該低融点繊維のみが溶融する温度での熱処理にに付されると低融点繊維は先づ収縮しループの表面から埋没して溶融し、ループの付根即ち繊維層(B)表面で該部を接着固定することになるから、上記ループは実質的に基材繊維により構成されていると同様となり且つそれが強固に保持された状態にあり、このため該ループは熱処理後においても熱処理前と同様の柔軟性及び嵩高性を保持し、しかも毛羽抜けしがたく且つ耐ピリング性に富んだものとなる。」(2頁左下欄16行?右下欄16行)
(1-5)「なお、本発明においては、模様顕出すべきニードルパンチングに頭割針を使用することを必須の要件とするものであるが、これに換えて有刺針を使用した場合には、顕出された模様部分が平面的となってその優雅性が充分でないばかりではなく模様を形成している繊維はループ状ではなく単に繊維層(B)表面から突出した状態にあるにすぎないから、熱処理による低融点繊維の収縮、溶融によって、模様形成繊維は粗に林立した状態になる。」(2頁右下欄下から3行?3頁左上欄6行)
(1-6)本発明の好ましい一実施態様を示すならば、繊維層(A)を構成する基材繊維として赤色原着のポリプロピレン繊維(15d×64m/m)、低融点繊維として融点123℃のエチレン-プロピレン共重合体繊維(6d×64m/m)を用い、後者を30重量%の割合に混在させて目付400g/m2の繊維層(A)とする。又繊維層(B)としては、黒色原着のポリプロピレン繊維(15d×64m/m)を基材繊維とした目付400g/m2のものを使用する。これら両繊維層には、・・・・・・有刺針にてニードルパンチングを施こし、更に頭割針にて繊維層(A)側からニードルパンチングを施こして所望の模様を顕出せしめて後、138℃に設定された熱風乾燥機中で熱処理する。かかる方法によって、表面柔軟性及び耐ピリング性に富み、且つ毛羽抜けしがたい優雅な模様付ニードルカーペットが得られる。」(3頁左欄10行?同頁右欄8行)

刊行物2
(2-1)「高融点短繊維と、低融点短繊維とが混合されたウエブと、高融点短繊維あるいは高融点短繊維と天然繊維とが混合されたウエブとが積層され、この積層ウエブの一面あるいは両面よりニードル加工によって交絡部が形成され、かつ少なくともこの交絡部を形成している低融点繊維の1部もしくは全部が溶融して接着部を形成していることを特徴とする積層不織布」(実用新案登録請求の範囲)
(2-2)「第1図は2枚のウエブを積層した状態を示す側断面図で、第1ウエブ1と第2ウエブ2が積層され、基体ウエブ3が形成される。次に第2ウエブ2の方よりニードル加工を施して交絡部4を形成し、次いでこの基体ウエブ3を加熱して第3図のように交絡部4を形成する低融点短繊維の1部もしくは全部を溶融して接着部5を形成して両ウエブを一体化して不織布6を製造する。なお前記工程において第2ウエブ中の低融点短繊維も勿論溶融する。」(明細書3頁下から3行?4頁7行)とあり、第3図には、低融点繊維による交絡部4が紙の表面には殆ど存在しない図が示されている。
(2-3)「第3図のように構成した不織布は、表面が柔軟で、底面は低融点短繊維の溶融によって固くなり、」(6頁13?15行)
(2-4)「第2ウエブの厚み、低融点繊維の混入量、ニードル加工のパンチ数および加熱条件等によって接着強度、嵩高性、寸法安定性、耐圧力、弾性等の諸特性に変化が与えられるので、敷物・・・・・・・・広範囲な要求に応ずるものを製造することができる。」(7頁8?16行)

刊行物3
(3-1)「所定の色・風合いを有する表層ウエブと、レギュラー繊維中に低融点繊維を略均一に混入した裏層ウエブとを積層してニードルパンチングし、レギュラー繊維の融点より低く、かつ、低融点繊維が熔ける温度で熱処理して低融点繊維をバインダーとして全体を一体化して密度を・・・としたことを特徴とする不織布」(特許請求の範囲)
(3-2)「表層ウエブと裏層ウエブとの繊維相互を溶融した低融点繊維によって絡み合った状態で固定させて所定の色・風合いを有する不織布を製造することができるため、」(段落[0012])

(ロ)刊行物に記載された発明
刊行物1には、「繊維層(A)及び(B)からなる二層の積層体を有刺針にてニードルパンチングして上記両繊維層を一体化せしめ、次で繊維層(A)側から頭割針にてニードルパンチングして繊維層(B)表面に模様を顕出せしめ、しかる後低融点繊維のみが溶融する温度で熱処理することを特徴とする模様付ニードルカーペット」[摘記(1-1)]が記載されている。
そして、摘記(1-1)、(1-2)にみるように、刊行物1における繊維層(A)は高融点繊維と低融点繊維の混織ウエブであり、ニードルフェルトを更に頭割針にて繊維層(A)側からニードルパンチングして繊維層(B)表面に模様を顕出せしめるものであるから[摘記(1-3)]、下層であり、繊維層(B)は繊維層(A)における同じ高融点繊維のみからなるウエブであり、表面側に存在するものであるから、上層である。そして、繊維層(A)、即ち、下層側よりニードルパンチングを施し、摘記(1-3)にみるように、繊維(B)表面、即ち、上層の表面に模様を顕出させると共に、繊維層(A)を構成している基材繊維及び低融点繊維の一部を繊維層(B)に移行させ、その後、低融点繊維のみが溶融する温度で熱処理をして繊維間を結合している。
そうしてみると、刊行物1には、
「上層は高融点繊維ウェブとし、下層は上層と同じ高融点繊維および低融点繊維の混繊ウェブとし、上下2層に重ねた混繊ウェブの下層側からニードリングをおこなって上層の上面に模様を柄出しし、同時に下層ウェブ繊維の上層ウェブへの混合移行をおこして、その後前記高融点繊維と低融点繊維の中間温度の熱処理をへて低融点繊維のみを溶融させ繊維間を結合し形成してなるニードルパンチカーペット」
の発明(以下、「引用発明」という。」)が記載されている。

(ハ)本件補正発明と引用発明との対比
そこで、本件補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、引用発明で特定される事項において一致し、下記の点で相違している。(なお、二層の積層体をニードルパンチして両繊維層を一体化せしめる第一次のニードリングは、本件補正発明の構成要素にはなっていないが、両者とも行われていて同じである。)
[相違点]
1.高融点繊維のウエブからなる上層が、本件補正発明では、「少なくとも2種の色調が異色で色調以外の特性は同質の高融点繊維の混繊ウェブとし、かつ前記高融点繊維の少なくとも1種が黒色繊維ないし白色繊維である」のに対して、引用発明では、単に高融点繊維のウエブとしているだけである点
2.模様の柄出しを、本件補正発明では、ディロア調ニードリングによるものであり、かつ、該模様が高融点繊維を主体とした模様であると特定しているのに対して、引用発明では、ニードルパンチングに頭割針を用いて行っている点[摘記(1-3)]
3.ニードルパンチングによる下層ウェブ繊維の上層ウェブへの混合移行は、本件補正発明では、下層の低融点繊維の分布を上層に十分多くして、かつ低融点繊維を上層の表面に実質的に表出させないレベルで行っているのに対して、引用発明では、低融点繊維が低融点繊維の混在量が多い下層[繊維層(A)]において大きく、上層[繊維層(B)]においては比較的小さくなるように行われている点[摘記(1-4)]
4.カーペットの難燃性について、本件補正発明では、FMVSS302に規定した難燃性の基準を満たしているのに対して、引用発明では特に表示がない点

(ニ)相違点についての判断
(1)相違点1について
一種の糸を異色に染めて混織し、美的効果を演出することは、当業界において極めて当たり前のことであって、最終製品の配色を考えて特定の色糸を組み合わせて選定することは当業者が適宜になし得ることであるから、その一つを白か黒にすることも格別のことではなく、その効果も予測できるものである。
したがって、相違点1は、当業者が必要に応じ適宜になし得る程度のことである。
(2)相違点2について
ニードルパンチング加工によりディロア調の意匠を顕出することは、本願出願前に周知の技術であるから(特開平5-115347号公報、第10欄第4行?第5行の「展装用カ-ペットでは、基布を使用しないことにより、柄出し加工用のニ-ドルの使用が可能となり、コ-ド調やディロア調などの表面の意匠性に優れた高度なニ-ドルパンチ加工が可能となった。」との記載を参照)、引用発明においてニードリングによる模様の顕出方法として周知のディロア調のものを採用することは、当業者が得ようとする製品の特性を考慮して適宜選択できることであり、その効果も予測できる範囲のものである。
また、該模様が高融点繊維を主体としたものである点は、本件補正発明も引用発明も共に下層側からニードルパンチング加工により模様を顕出しているので、模様を構成する繊維材料は下層を構成する繊維材料の配合割合にほぼ依存するものであり、本願明細書の【実施例】の段落には、「下層の高融点繊維と低融点繊維の混合比率は、低融点繊維の比率を5?30重量%にすることが好ましい。」と記載され、これは刊行物1に記載された配合量30重量%[摘記(1-6)]と変わりがなく、刊行物1における模様も高融点繊維を主体とした模様であるということができ、両者に実質的な差は認められない。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
(3)相違点3について
本件補正発明における「下層の低融点繊維の分布を上層に十分多くして」の意味するところは、熱処理により低融点繊維を溶融させ繊維間を結合する際に、結合が十分行われる程度に上層にも低融点繊維が分布していることを指すものと解される。そして、引用発明においても、下層[繊維層(A)]にのみ存在する低融点繊維を上層[繊維層(B)]に移行させ熱処理によって基材繊維と交絡させ、両層に混在する低融点繊維を溶解し、基材繊維相互を接着固定している[摘記(1-3)、(1-4)]のであるから、下層ウェブ繊維の上層ウェブへの混合移行は、「低融点繊維が低融点繊維の混在量が多い繊維層(A)において大きく、繊維層(B)においては比較的小さくなるように行われている」と記載されてはいるものの、結合が十分行われる程度に、上層[繊維層(B)]にも低融点繊維が分布しているのは当然のことで、実質的には「下層の低融点繊維の分布を上層に十分多くして」と同じことを意味しているものと認められる。
また、低融点繊維を上層の表面に実質的に表出させないレベルで行う点については、刊行物2の図3にも見られるし[摘記(2-2)、(2-3)]、さらに、刊行物3には「所定の色・風合いを有する表層ウエブと、レギュラー繊維中に低融点繊維を略均一に混入した裏層ウエブとを積層してニードルパンチングし、レギュラー繊維の融点より低く、かつ低融点繊維が熔ける温度で熱処理して低融点繊維をバインダーとして全体を一体化した不織布」[摘記(3-1)]が知られており、所定の色・風合いを有する表層ウエブを用い、所定の色・風合いを有する不織布が製造されている[摘記(3-2)]ところからみて、表面の感触をそこなう溶融結合点が表面にでないようにニードリングをしたものと認められ、この点もすでに知られた技術である。そして、摘記(2-4)にみられるように、上層の厚み、低融点繊維の混入量、ニードル加工のパンチ数および加熱条件などによって最終製品の諸特性に変化が与えられることは周知のことであるから、引用発明において、得られるカーペットの表面の感触がそこなわれないように、ニードルパンチングによる下層ウェブ繊維の上層ウェブへの混合移行を低融点繊維を上層の表面に実質的に表出させないレベルで行うことは当業者にとって何ら困難なことではない。
したがって、相違点3は、当業者が得ようとする製品の特性を考慮して、適宜に行い得ることである。
(4)相違点4について
本願明細書の【発明の効果】の段落には、「このニードルパンチカーペットの目付量がおおむね300g/m2以上あれば、特別の難燃剤を添加しなくてもFMVSS302に規定の難燃性の基準を満たすことができる。」と説明されているだけで、他に難燃性についての記載はないので、本件補正発明においては、カーペットの目付量が難燃性を左右するものと認められる。一方、引用発明は、摘記(1-6)に見るように繊維材料においても本件補正発明と差はなく、かつ、上層、下層ともに目付400g/m2のものが用いらているから、下層の30重量%の低融点繊維が溶融しても得られるカーペットの目付量が300g/m2以上になるものと認められるので、引用発明の一実施態様として示されているカーペットもFMVSS302に規定の難燃性の基準を満たすものと認められ、この点に実質的な差はない。
したがって、相違点4は実質的な相違点ではない。

(ホ)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果は、低融点繊維を上層の表面に実質的に表出していないので、低融点繊維の溶融結合点によってカーペット表面の感触がそこなわれることがなく、また、少なくとも2種の異色で、かつ1種が白色か黒色である高融点繊維によってカーペットを構成すると、その外観に可及的な立体感が加わり、特に、低融点繊維が溶融した後のカーペットの表面のまだら模様がほとんど見えなくなり、意匠性に優れた外観がえられ、かつ、難燃剤を添加する必要がなくなる、というものである。
しかし、表面の感触をそこなう溶融結合点が表面にでないようにして所定の色・風合いを維持することは刊行物3により知られており、しかも、刊行物1のカーペットにおいても、上層、下層を構成するそれぞれの繊維が異色であって模様が異色となりカーペット表面は少なくとも2色で構成され(実施例では1色は黒色である)、かつ、デュアロ調の特徴である立毛の一種であるといえるループ状の模様を形成することにより立体的となり、低融点繊維が溶融した後模様形成繊維が粗に林立した状態にならないという本件補正発明の効果と同様の効果を有するものであるから[摘記(1-5)、(1-6)]、異色の糸の配合の仕方に違いがあるものの、本件補正発明の効果は当業者が予測できる範囲のもので格別のものとは認められない。しかも、難燃性においても差がない。

(ヘ)請求人の主張
当審において平成19年2月9日付けでなされた審尋に対して、請求人は何ら回答をしていない。
平成16年4月13日付け意見書、同年6月24日付け意見書及び審判請求書では、少ない素材種類で高い意匠性と、特に、高融点繊維の1種を黒色繊維ないし白色繊維にして異色効果が高められ、しかも、低融点繊維が溶融した後のカーペットの表面のまだら模様がほとんど見えない優れた外観が得られ、カーペット全体として繊維の絡合が十分で耐摩耗性にすぐれる構造であり、かつ、規定の難燃性を同時に満たすカーペットを得ることができたもので、刊行物1のものは(B)層が単色の繊維のみで構成されているので本発明と同じ模様(意匠)を構成することはできない旨、主張している。
少ない素材種類で高い意匠性と、特に、高融点繊維の1種を黒色繊維ないし白色繊維にして異色効果が高められ、しかも、低融点繊維が溶融した後のカーペットの表面のまだら模様がほとんど見えない優れた外観が得られる点については、引用発明が有している効果であるか、又は前記相違点1で述べたとおりであり、カーペット全体として繊維の絡合が十分で耐摩耗性にすぐれる構造である点および難燃性である点については、引用発明も相違点3、4で述べているように同様の耐摩耗性、難燃性を有しているものである。
たしかに、引用発明は、(B)層が単色の繊維のみで構成されているので本件補正発明と同じ模様(意匠)を構成することはできないが、相違点1、2で述べているように本件補正発明の模様を顕出することは当業者にとって困難なことではなく、その効果も予測できる範囲のものである。

(ト)まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、本件出願前に頒布された刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年8月31日付けの手続補正が上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成16年4月13日付け及び平成16年6月24日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本件発明」という。)は、下記のとおりである。
「上層は色調が異色で、色調以外の特性は同質の少なくとも2種の高融点繊維の混繊ウェブとし、下層は上層と同じ高融点繊維および低融点繊維の混繊ウェブとし、上下2層に重ねた混繊ウェブの下層側からディロア調ニードリングをおこなって上層の上面に高融点繊維を主体とした模様を柄出しし、同時に下層の低融点繊維の分布を上層に十分多くして、かつ低融点繊維を上層の表面に実質的に表出させないレベルで下層ウェブ繊維の上層ウェブへの混合移行をおこして、その後前記高融点繊維と低融点繊維の中間温度の熱処理をへて低融点繊維のみを溶融させ繊維間を結合し形成してなり、FMVSS302に規定の難燃性の基準を満たしていることを特徴とするニードルパンチカーペット。」

(2)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物1である特開昭50-132725号公報、刊行物2である実願昭49-41946号(実開昭50-128486号)のマイクロフィルム、刊行物3である特開平6-49759号公報の各記載事項は上記の2.(2)の(イ)に記載されたとおりである。

(3)対比・判断
本件発明は、前記の本件補正発明とは実質的には、上層の混繊ウェブについて、「高融点繊維の少なくとも1種が黒色繊維ないし白色繊維である」という限定がないだけであるから、上記の2.(2)の(ロ)?(ト)において示した理由と同様の理由により刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)結論
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-26 
結審通知日 2007-09-27 
審決日 2007-10-15 
出願番号 特願平7-218120
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 岩瀬 眞紀子
安藤 達也
発明の名称 ニードルパンチカーペット  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ