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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1168721
審判番号 不服2005-736  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-13 
確定日 2007-11-29 
事件の表示 平成 8年特許願第106461号「長尺異形押出成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月21日出願公開、特開平 9-272146〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成8年4月4日に特許出願されたものであって、平成15年3月17日に手続補正書が提出され、平成16年8月26日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年10月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月10日付けで拒絶査定がされたところ、平成17年1月13日に審判請求がされるとともに、同日付けの手続補正書が提出され、更に、当審において、平成19年6月28日付けで審尋がされ、同年8月20日に回答書が提出されたものである。

II.平成17年1月13日付け手続補正書による手続補正に対する補正の却下の決定
[結論]
平成17年1月13日付け手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成17年1月13日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成16年10月6日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲についての以下の補正事項aを含むものである。
「【請求項1】 JIS K7210(温度220℃、荷重10kg)によるメルトフローレートが2g/10分?20g/10分であるABS系樹脂組成物50重量%?95重量%と、無機フィラー5重量%?50重量%からなることを特徴とする長尺異形押出成形体。
【請求項2】 無機フィラーが炭酸カルシウムである請求項1記載の長尺異形押出成形体。」を、
「【請求項1】 JIS K7210(温度220℃、荷重10kg)によるメルトフローレートが2g/10分?15g/10分であるABS系樹脂組成物100重量部に対して、炭酸カルシウム10?40重量部添加してなることを特徴とする長尺異形押出成形体。」に補正する。

2.補正の目的の適否の検討
補正後の請求項1においては、「…ABS系樹脂組成物100重量部に対して、炭酸カルシウム10?40重量部添加してなることを特徴とする長尺異形押出成形体」が、発明を特定するために必要と認める事項(以下、「発明特定事項」という。)となった。
しかしながら、補正前の請求項1には、「…ABS系樹脂組成物50重量%?95重量%と、無機フィラー5重量%?50重量%からなることを特徴とする長尺異形押出成形体」が記載されていた。すなわち、補正前の請求項1には、長尺異形押出成形体が、特定重量比率のABS系樹脂組成物と無機フィラーとからなるという組成が記載されていたものの、ABS系樹脂組成物に対して、無機フィラー、具体的には炭酸カルシウムを「添加」するという特定の製造方法については記載がないのみならず、更に、該特定重量比率のABS系樹脂組成物と無機フィラーとからなる組成を実現するために、いかなる工程や手段等を採用するのかという、製造方法に関する記載はない。
したがって、補正前の請求項1に発明特定事項としては記載されていない、製造方法に関する事項を、新たに発明特定事項として付加する補正事項aが、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものであるとする理由は見当たらない。
また、補正前の請求項1の「…ABS系樹脂組成物50重量%?95重量%と、無機フィラー5重量%?50重量%からなることを特徴とする長尺異形押出成形体」との記載は、先に述べたとおり、組成を特定する記載としてその意味内容は明りょうであり、何らかの誤記があるとも認められないから、補正事項aが、特許法第17条の2第4項第3又は第4号に掲げるいずれかの事項を目的とするものであるとする理由も見当たらない。更に、補正事項aが、同項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものではないことは明らかである。
してみれば、補正事項aは、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

3.新規事項の追加の有無の検討
補正事項aにより、発明特定事項となった、「メルトフローレートが2g/10分?15g/10分であるABS系樹脂組成物100重量部に対して、炭酸カルシウム10?40重量部添加してなることを特徴とする長尺異形押出成形体。」については、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載があったとする理由は見当たらない。以下詳述する。
まず、「メルトフローレートが2g/10分?15g/10分であるABS系樹脂組成物100重量部」に対して、「炭酸カルシウム10?40重量部」を添加するという記載は、当初明細書等に存在しない。
この点について、請求人は、平成17年1月13日付けの審判請求書において、補正事項aが、明細書の段落0032?0037の記載に基づくものである旨を述べているので、検討する。
当初明細書等の段落0032?0037に記載された実施例においては、メルトフローレート(以下、「MFR」という。)が2(g/10分。以下、単位の記載は省略する。)である、アクリロニトリル25重量部、スチレン55重量部及びブタジエン20重量部からなるABS樹脂(以下、「II.」において、単に、「ABS樹脂」という。)100重量部に対して、炭酸カルシウム10重量部を添加する実施例1、MFRが15であるABS樹脂100重量部に対して、炭酸カルシウム30重量部を添加する実施例2、及び、MFRが15であるABS樹脂100重量部に対して、炭酸カルシウム40重量部を添加する実施例3が、それぞれ記載されているだけである。他方、本願明細書の段落0012に「本発明に用いるABS系樹脂組成物とは、ブタジエンを主成分とするゴムに芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物を含む単量体をグラフト重合して得られたABS樹脂、或いは、該ABS樹脂に別途製造したAS樹脂を混合してなる組成物を差す。」と記載されていることを踏まえると、段落0032?0037に記載された実施例としては、少なくとも、「ABS系樹脂組成物」が「ABS樹脂に別途製造したAS樹脂を混合してなる組成物」である場合について、「メルトフローレートが2g/10分?15g/10分であるABS系樹脂組成物100重量部に対して、炭酸カルシウム10?40重量部添加してなる」長尺異形押出成形体の記載があったということはできない。
したがって、補正事項aは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

4.まとめ
以上のとおりであるから、補正事項aを含む本件補正は、特許法第17条の2第3及び第4項の規定に違反するものであるから、第159条第1項において読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

III.原査定の妥当性についての当審の判断
1.本願発明
II.で検討したとおり、平成17年1月13日付け手続補正書による手続補正は、補正却下の決定がされたので、本願の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、それぞれ、平成16年10月6日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載されるとおりの以下の事項を、発明特定事項とするものである。
「請求項1】 JIS K7210(温度220℃、荷重10kg)によるメルトフローレートが2g/10分?20g/10分であるABS系樹脂組成物50重量%?95重量%と、無機フィラー5重量%?50重量%からなることを特徴とする長尺異形押出成形体。
【請求項2】 無機フィラーが炭酸カルシウムである請求項1記載の長尺異形押出成形体。」

2.原査定の理由の概要
本願発明1、2は、以下の刊行物1、2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、これについては特許を受けることができない、というにある。
刊行物1: 特開平6-16897号公報
刊行物2: 特開平7-11049号公報

3.刊行物の記載事項
(1)刊行物1には、以下の記載がある。
ア: 「【請求項1】 スチレン系グラフトコポリマー(A)15?100重量%及びスチレン系ポリマー(B)85?0重量%よりなる総スチレン系樹脂100重量部と、2,2’-オキサミドビス-〔エチル-3-(3,5-ジターシャリブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕0.01?3.0重量部とからなることを特徴とする押出成形用スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】 スチレン系グラフトコポリマー(A)に含まれるグラフトされるスチレン系のポリマー及びスチレン系ポリマー(B)を構成する単量体組成が、いずれもスチレン50?90重量%、アクリロニトリル及び/又はメチルメタクリレートよりなる硬質アクリルモノマー50?10重量%、その他のビニルモノマー0?30重量%である請求項1記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】 スチレン系グラフトコポリマー(A)が、ゴム粒子の形成を塊状又は溶液重合法によって行ったゴム状ポリマーを5?30重量%含み且つ平均ゴム粒径が0.5?5.0μmであるスチレン系グラフトコポリマー(G1)と、乳化重合法によって製せられ、ゴム状ポリマーを35?85重量%含み且つ平均ゴム粒径が0.05?0.4μmであるスチレン系グラフトコポリマー(G2)とを、両者のゴム状ポリマーの合計に対して(G1)中のゴム状ポリマーが3?80重量%である如き比率で含み、且つ総スチレン系樹脂中のゴム状ポリマーの合計量が4?30重量%である請求項1又は2記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】 スチレン系グラフトコポリマー(G1)に含まれるグラフトされるスチレン系のポリマー及びスチレン系ポリマー(B)の少なくとも一方の組成がスチレン50?90重量%、アクリロニトリル及び/又はメチルメタクリレートよりなる硬質アクリルモノマー50?10重量%、その他のビニルモノマー0?30重量%であり、且つ硬質アクリルモノマーに占めるメチルメタクリレートの割合が10?80重量%である請求項3記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】 スチレン系グラフトコポリマー(A)15?100 重量%及びスチレン系ポリマー(B)85?0重量%よりなる総スチレン系樹脂100重量部と、2,2’-オキサミドビス-〔エチル-3-(3,5-ジターシャリブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕0.01?3.0重量部とからなるスチレン系樹脂組成物を押出機を通し押出成形することを特徴とする押出成形品の製造方法。」(特許請求の範囲)
イ: 「【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、グラフトゴム粒子を含んだスチレン系樹脂、例えばABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)、MBS樹脂(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂)、AMBS樹脂(アクリロニトリル-メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル-EPDM-スチレン樹脂)などが主として射出成形用に用いられ、一部は押出成形用と、更には押出成形のあと熱成形用に使用されている。」(段落0002)
ウ: 「【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、スチレン系グラフトコポリマー(A)15?100重量%及びスチレン系ポリマー(B)85?0重量%よりなる総スチレン系樹脂100重量部と、2,2’-オキサミドビス-〔エチル-3-(3,5-ジターシャリブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(以下PCCと略称)0.01?3.0重量部とからなることを特徴とする押出成形用スチレン系樹脂組成物を提供するものである。」(段落0005)
エ: 「本発明に用いられるスチレン系グラフトコポリマー(A)とは、ゴム状ポリマーの存在下でスチレンを含むビニルモノマーを重合させることによって製せられるスチレン系のポリマーがグラフトしたゴム状粒子を含むポリマーを意味する。ここで、ゴム状ポリマーとしてはジエンモノマーを単量体成分として重合したガラス転移温度が-20℃以下のポリマーが用いられる。ジエンモノマーとしてはブタジエン、イソプレン、エチリデンノルボーネンなどがあり、代表的なゴム状ポリマーとしてはポリブタジエン、ブタジエン-スチレンコポリマー、ブタジエン-アクリロニトリルコポリマー、ブタジエン-ブチルアクリレートコポリマー、ブタジエン-アクリロニトリル-ジビニルベンゼンコポリマーなどの如きブタジエン系ポリマーや、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボーネンコポリマーなどがあり、特にブタジエン系ポリマーが好ましい。」(段落0006)
オ: 「ゴム状ポリマーにグラフトされるポリマーの組成、すなわち、スチレン系グラフトコポリマー(A)に含まれるグラフトに用いたスチレン系ポリマーを構成する単量体組成は、スチレン40重量%以上、好ましくは50?90重量%、アクリロニトリル及び/又はメチルメタクリレートよりなる硬質アクリルモノマー60重量%未満、好ましくは50?10重量%、その他のビニルモノマー0?30重量%が好ましい。…なお、本発明におけるビニルモノマーとはスチレンとラジカル共重合できるエチレン状不飽和の化合物を意味する。
ここで、ゴム液グラフト重合法によって製されるスチレン系グラフトコポリマーにはスチレン系のポリマーがグラフトされ且つ一部が包含されたゴム状粒子と遊離のスチレン系のポリマーが含まれる。ここでゴム状粒子の平均粒径は押出成形品の衝撃強度を上げる上から0.5?5.0μmが好ましく、又、ゴム状粒子に結合するスチレン系のポリマー及びゴム状粒子内に包含されるスチレン系のポリマーの量、すなわちグラフト率(通称)は、ゴム状ポリマーを基準として通常50?300重量%、特に80?200重量%が好ましい。又、遊離のスチレン系のポリマーの平均分子量は8万?40万が好ましく、10万?35万が特に好ましい。なお、ゴム状粒子の大きさの選定は、押出成形品の光沢が高光沢を望む場合は0.5?1.3μm、又、低光沢を望む場合は1.3?5.0μmというように望む光沢の程度によって適宜選択すればよい。」(段落0009、0010)
カ: 「ゴム状ポリマーにグラフトされるポリマーの組成、すなわちスチレン系グラフトコポリマーに含まれるグラフトに用いたスチレン系のポリマーを構成する単量体の組成はスチレン40重量%以上、好ましくは50?90重量%、アクリロニトリル及び/又はメチルメタクリレートよりなる硬質アクリルモノマー60重量%未満、好ましくは50?10重量%、その他のビニルモノマー0?30重量%が好ましい。…
ここで、乳化グラフト重合法によるスチレン系グラフトコポリマーにはスチレン系のポリマーがグラフトされ、且つ一部が包含されたゴム状粒子と遊離のスチレン系のポリマーが含まれる。ここでゴム状粒子の平均粒径は押出成形品の外観と衝撃強度を上げる上から0.05?0.4μmが特に好ましく、又、ゴム状ポリマーに結合するスチレン系のポリマー及びゴム状粒子内に包含されるスチレン系のポリマー量すなわちグラフト率はゴム状ポリマーを基準として通常20?100重量%、なかでも25?70重量%が特に好ましい。又、遊離のスチレン系のポリマーの平均分子量は4万?30万が好ましく、なかでも5万?25万が特に好ましい。」(段落0012、0013)
キ: 「本発明に用いられるスチレン系ポリマー(B)はスチレン含有率が50重量%以上の熱可塑性スチレン系ポリマーである。その例としては、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリルコポリマー、スチレン-メチルメタクリレートコポリマー、スチレン-アクリロニトリル-メチルメタクリレートコポリマー、スチレン-フェニルマレイミドコポリマー、スチレン-アクリロニトリル-フェニルマレイミドコポリマー、スチレン-アクリロニトリル-ジビニルベンゼンコポリマー、スチレン-無水マレイン酸コポリマー、スチレン-無水マレイン酸コポリマーをアニリンと反応させイミド化したコポリマーなどがあり、なかでも単量体組成がスチレン50?90重量%、アクリロニトリル及び/又はメチルメタクリレートよりなる硬質アクリルモノマー50?10重量%、その他のビニルモノマー0?30重量%のものが好ましい。…
このスチレン系ポリマー(B)の平均分子量は6万?40万が好ましく8万?30万が特に好ましい。又、総スチレン系樹脂中に含まれるゴム状ポリマーの含有率は4?30重量%が好ましく、10?25重量%が特に好ましい。」(段落0016、0017)
ク: 「本発明のスチレン系樹脂組成物は押出成形用全般の用途に使用されるもので、シート、フィルム、パイプ、異形押出品などに用いられ、特にシート、フィルム用に好適である。又、このシート、フィルムは更に熱成形、例えば真空成形、加圧成形に使用される。」(段落0020)
ケ: 「本発明のスチレン系樹脂組成物に対してはその他の物質を必要に応じて添加使用することができる。このような物質の例としては、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、帯電防止剤、フィラー、強化剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、カップリング剤やその他の添加剤がある。」(段落0021)
コ: 「酸化防止剤としては通常フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、キレート剤の如き物質が適宜用いられる。フェノール系酸化防止剤としては…
チオエーテル系酸化防止剤としては…
リン系酸化防止剤としては…
又、キレート剤としては…などが代表的である。酸化防止剤の添加量は総スチレン系樹脂に対して通常、合計0.03?1.6重量%である。
滑剤としては、…などが代表的である。滑剤の添加量は総スチレン系樹脂に対して、通常、合計0.03?5.0重量%である。」(段落0022?0026)
サ: 「フィラーとしては炭酸カルシウム、シリカ、マイカなどが代表的である。強化剤としてはガラス繊維、カーボン繊維、各種ウィスカー類が代表的である。着色剤としては酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルーが代表的である。」(段落0029)
シ: 「製造例1 ゴム液グラフト重合法によるグラフトポリマーの製造
スチレン67%、アクリロニトリル22%、ポリブタジエン(旭化成社製、商品名アサプレン700A)11%よりなる原料混合液を24kg/hrの速度で用い、エチレンビスステアロアミド8.0g/hr及びベンゾイルパーオキサイド並びにターシャリドデシルメルカプタンと後記回収液とを合わせてフィード液としてシリースに連結した4基の攪拌器付釜型重合槽(1基の容積45リットル)に供給した。反応温度は第1重合槽97℃、第2重合槽100℃、第3重合槽106℃、第4重合槽110℃に保持した。尚、反応液中のトルエンの割合を16%に保った。第4重合槽を出た反応液は脱揮発装置を通して揮発分を除去し、グラフトコポリマーをペレットとして得る一方、除去された揮発分を冷却器で凝縮し、回収液として連続的に前記の如く原料混合液と混合、再使用した。この方法でベンゾイルパーオキサイド量により、反応速度を、又、ターシャリドデシルメルカプタン量によりメルトフローインデックスを調整することによりグラフトコポリマー(スチレン67%、アクリロニトリル22%、ポリブタジエンゴム11%の組成を有しメルトフローインデックス0.9、平均ゴム粒径1.1μm、以下G-1とする)を約24kg/hrの速度で製した。尚、メルトフローインデックスはASTM D-1238コンディションGによって測定した(単位g/10min)。」(段落0035)
ス: 「製造例4 スチレン系ポリマーの製造
スチレン73%、アクリロニトリル27%の原料混合液を12kg/hrの速度で用い、…ベンゾイルパーオキサイド量により反応速度を、又、ターシャリドデシルメルカプタン量を調整することにより、メルトフローインデックスが1.0のスチレン-アクリロニトリルコポリマー(スチレン73%、アクリロニトリル27%、以下S-1とする)を約12kg/hrの速度で製した。
製造例5 スチレン系ポリマーの製造
原料混合液の組成をスチレン60%、アクリロニトリル22%、メチルメタクリレート18%とすること以外は製造例4と同様な方法によりメルトフローインデックスが1.0のスチレン-アクリロニトリル-メチルメタクリレートコポリマー(スチレン60%、アクリロニトリル22%、メチルメタクリレート18%、以下S-2とする)を約12kg/hrの速度で製した。」(段落0038?0039)

(2)刊行物2には、以下の記載がある。
セ: 「横の長さが0.5?5μで、アスペクト比が5?50である柱状又は針状の炭酸カルシウムを、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.5?50重量部添加してなる熱可塑性樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
ソ: 「本発明を適用することができる熱可塑性樹脂は、特に限定されることがない。例えば、高、中、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン樹脂等の結晶性熱可塑性樹脂に適用すれば、良好な耐衝撃強度を取得することができる。
本発明はまた、無定形の熱可塑性樹脂に適用することにより、さらに良好な耐衝撃強度を取得することができるので、無定形の熱可塑性樹脂に適用することが好ましい。
本発明を適用することができる無定形の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等を挙げることができる。また、これらの樹脂の2種以上を混合して適用してもよい。」(段落0014?0016)
タ: 「本発明においては、本発明に係る炭酸カルシウムを、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.5?50重量部の範囲内で添加する必要があるが、更に好ましくは0.5?30重量部である。炭酸カルシウムの添加量が0.5重量部以下であると、少なすぎて効果を発現することがない。また、炭酸カルシウムの添加量が50重量部以上では耐衝撃強度が低下することとなる。」(段落0023)
チ: 「本発明に適用する炭酸カルシウムは、必要に応じて、シランカップリング剤、有機チタネート、脂肪酸等で表面処理をして使用することができる。本発明においては、熱可塑性樹脂組成物の成形方法は特に限定されるものではなく、従来公知の任意の成形方法を採用することができる。例えば、押出成形法射出成形法、カレンダー成形法等を挙げることができる。」(段落0024)

4.刊行物1に記載された発明、及び、本願発明1との対比
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘示アの請求項5、及びウから、「スチレン系グラフトコポリマー(A)15?100重量%及びスチレン系ポリマー(B)85?0重量%よりなる総スチレン系樹脂100重量部と、PPC0.01?3.0重量部とからなるスチレン系樹脂組成物を押出機を通し押出成形する押出成形品の製造方法」の発明(以下、「刊行物製法発明」という。)が記載されている。
摘示エの「発明に用いられるスチレン系グラフトコポリマー(A)とは、ゴム状ポリマーの存在下でスチレンを含むビニルモノマーを重合させることによって製せられるスチレン系のポリマーがグラフトしたゴム状粒子を含むポリマーを意味する」、摘示オの「スチレン系グラフトコポリマー(A)に含まれるグラフトに用いたスチレン系ポリマーを構成する単量体組成は、スチレン40重量%以上、好ましくは50?90重量%、アクリロニトリル及び/又はメチルメタクリレートよりなる硬質アクリルモノマー60重量%未満、好ましくは50?10重量%、その他のビニルモノマー0?30重量%が好ましい」、摘示カの「スチレン系グラフトコポリマーに含まれるグラフトに用いたスチレン系のポリマーを構成する単量体の組成はスチレン40重量%以上、好ましくは50?90重量%、アクリロニトリル及び/又はメチルメタクリレートよりなる硬質アクリルモノマー60重量%未満、好ましくは50?10重量%、その他のビニルモノマー0?30重量%が好ましい。」との記載、及び摘示イの「従来、グラフトゴム粒子を含んだスチレン系樹脂、例えば ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)…などが主として射出成形用に用いられ、一部は押出成形用と、更には押出成形のあと熱成形用に使用されている。」との記載に照らすと、刊行物製法発明における「スチレン系グラフトコポリマー(A)」は、技術常識上、ABS樹脂に該当するものを含むと認められる。
次いで、摘示キの「スチレン系ポリマー(B)はスチレン含有率が50重量%以上の熱可塑性スチレン系ポリマーである。その例としては、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリルコポリマー、スチレン-メチルメタクリレートコポリマー、スチレン-アクリロニトリル-メチルメタクリレートコポリマー、スチレン-フェニルマレイミドコポリマー、スチレン-アクリロニトリル-フェニルマレイミドコポリマー、スチレン-アクリロニトリル-ジビニルベンゼンコポリマー、スチレン-無水マレイン酸コポリマー、スチレン-無水マレイン酸コポリマーをアニリンと反応させイミド化したコポリマーなどがあり、なかでも単量体組成がスチレン50?90重量%、アクリロニトリル及び/又はメチルメタクリレートよりなる硬質アクリルモノマー50?10重量%、その他のビニルモノマー0?30重量%のものが好ましい。」との記載から、刊行物製法発明における「スチレン系ポリマー(B)」は、技術常識上、AS樹脂に該当するものを含むと認められる。
また、摘示クの「本発明のスチレン系樹脂組成物は押出成形用全般の用途に使用されるもので、シート、フィルム、パイプ、異形押出品などに用いられ」との記載から、刊行物製法発明における「押出成形品」は、「異形押出成形品」を包含するものであり、かつ、押出成形により製造される成形品は、摘示クに例示されたシート、フィルム、パイプ及び異形押出品のいずれであっても、押出断面の寸法に比して、押出方向の大きさが、相対的に顕著に大きいものが通常であるから、「長尺」の成形品といえることは当業者に明らかな技術的事項である。
更に、摘示ケの「本発明のスチレン系樹脂組成物に対してはその他の物質を必要に応じて添加使用することができる。このような物質の例としては、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、帯電防止剤、フィラー、強化剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、カップリング剤やその他の添加剤がある。」との記載、摘示サの「フィラーとしては炭酸カルシウム、シリカ、マイカなどが代表的である。」との記載から、刊行物製法発明における「スチレン系樹脂組成物」は、「無機フィラー」等の添加剤を含むものと認められる。
以上を総合すると、刊行物1には、「ABS樹脂15?100重量%及びAS樹脂85?0重量%よりなる総スチレン系樹脂100重量部と、PPC0.01?3.0重量部と、無機フィラー等の添加剤を含むスチレン系樹脂組成物を押出機を通し押出成形する長尺の異形押出成形品の製造方法」の発明が記載されているものと認められる。
そして、刊行物1には、特定の組成のスチレン系樹脂組成物を押出機を通し押出成形する押出成形品の製造方法に係る発明が記載されていることから、該特定の組成のスチレン系樹脂組成物からなる押出成形品に係る発明も記載されていると認められる。
してみると、刊行物1には、「ABS樹脂15?100重量%及びAS樹脂85?0重量%よりなる総スチレン系樹脂100重量部と、PPC0.01?3.0重量部と、無機フィラー等の添加剤を含むスチレン系樹脂組成物からなる長尺の異形押出成形品」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本願発明1と刊行物1発明との対比
本願発明1(以下、「前者」という。)と刊行物1発明(以下、「後者」という。)とを対比すると、
前者における「ABS系樹脂組成物」は、「ABS系樹脂組成物とは、ブタジエンを主成分とするゴムに芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物を含む単量体をグラフト重合して得られたABS樹脂、或いは、該ABS樹脂に別途製造したAS樹脂を混合してなる組成物を差す。ここで、AS樹脂とは、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物からなる共重合体、或いはこれら単量体及びこれら単量体と共重合可能な単量体成分からなる共重合体である。」(段落0012)とされるものであることから、後者における「ABS樹脂15?100重量%及びAS樹脂85?0重量%よりなる総スチレン系樹脂」は、前者における「ABS系樹脂組成物」に相当すると認められ、
後者における「長尺の異形押出成形品」は、前者における「長尺異形押出成形体」に相当すると認められるから、
両者は、
「ABS系樹脂組成物と無機フィラーを含む長尺異形押出成形体」において一致し、
相違点1: 「ABS系樹脂組成物」が、前者においては、「JIS K7210(温度220℃、荷重10kg)によるメルトフローレートが2g/10分?20g/10分である」のに対して、後者においては、メルトフローレートが特定されていない点、
相違点2: ABS系樹脂組成物と無機フィラーの割合が、前者では「ABS系樹脂組成物50重量%?95重量%と、無機フィラー5重量%?50重量%」であるのに対して、後者では、特定されていない点、
相違点3: 前者においては、PPCを含むことが必須とされていないのに対して、後者が、ABS系樹脂組成物100重量部に対して、PPC0.01?3.0重量部を含むものである点、
で相違する。

5.相違点についての検討
(1)相違点1についての検討
「長尺異形押出成形体」を得るに当たっては、異形押出成形を行うことが必須不可欠のことであるところ、押出成形とは、押出装置内で、当初固形物の樹脂材料を加熱溶融させて液体に相変化させて順次流動させ、しかる後に、加圧して装置外に流動させて押し出し、次いで、冷却固化させて所期の形状の製品を得るという工程を経る成形方法であるから、該押出成形に供する原料である樹脂組成物について、溶融流動性を含む熱的性質を厳格に制御することは当業者が当然に行うことである。
そして、後者は、メルトフローレートの範囲を数値として特定している発明ではないにもかかわらず、刊行物1の摘示シの「ターシャリドデシルメルカプタン量によりメルトフローインデックスを調整することによりグラフトコポリマー(スチレン67%、アクリロニトリル22%、ポリブタジエンゴム11%の組成を有しメルトフローインデックス0.9、平均ゴム粒径1.1μm、以下G-1とする)を約24kg/hrの速度で製した。尚、メルトフローインデックスはASTM D-1238 コンディションGによって測定した(単位g/10min)。」や、摘示スの「ターシャリドデシルメルカプタン量を調整することにより、メルトフローインデックスが1.0 のスチレン-アクリロニトリルコポリマー(スチレン73%、アクリロニトリル27%、以下S-1とする)を約12kg/hrの速度で製した。」との記載にあるように、溶融流動性の指標であるメルトフローインデックスが、重合体製造時に制御すべき項目とされていることからも、メルトフローレートなどの溶融流動性を最適化することは、当業者が通常考慮する事項と認められる。
なお、刊行物1に記載される「ASTM D-1238コンディションGによって測定した(単位g/10min)。」ものである「メルトフローインデックス」と、本願発明1における「メルトフローレート」とについては、測定条件が同一であるかどうかはともかくとして、いずれも樹脂材料の溶融流動性を示す指標であることは、当業者に明らかな技術的事項であると認められる。
したがって、後者において、好適なメルトフローレートの範囲を数値で特定することは、当業者が通常考慮する事項を、単に数値で表現するにすぎないから、当業者であれば、格別の創意を要することなくなし得た程度のことである。

前者においては、第1に、メルトフローレートを、「JIS K7210(温度220℃、荷重10kg)」に則って測定する(以下、「JIS要件」という。)ものとし、かつ、第2に、その範囲を「2g/10分?20g/10分」と数値で限定している(以下、「数値限定要件」という。)ので、JIS要件及び数値限定要件が、当業者にとって、想到することが困難であったかどうかについて更に検討する。
第1に、当審が探知したところによれば、本願の特許出願の日である1996年4月4日に適用されていた「JIS K7210-1976」は、「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」を標題とする規格であるから、ABS系樹脂組成物の溶融流動性を測定するのに、通常採用される規格に外ならず、
更に、該「JIS K7210-1976」にあっては、「5.試験条件」において、
「5.試験条件
原則として、表1にあげた一般試験条件(6)の中から材料に適した条件を選ぶ。一般に用いられている樹脂ごとの試験条件を参考までに表2に示す。
注(6)表1に示す試験条件の適用が不適当な場合は、当事者間の協定により、他の条件を用いてもよい。」と定められて、「表2 一般に用いられている樹脂ごとの試験条件」では、「ABS樹脂」の「条件」として、「8,11,15」が具体的に示され、「表1 試験条件」には、条件「8」、「11」及び「15」の「試験温度(℃)」と「試験荷重(kgf){N}」として、「200」と「5.00{49.03}」、「220」と「10.00{98.07}」、並びに、「230」と「3.80{37.26}」と記載されている。
してみれば、前者におけるJIS要件は、ABS系樹脂組成物の溶融流動性を測定するのに、通常採用される規格「JIS K7210-1976」において、ABS樹脂の流れ試験で一般に用いられる、温度220℃と荷重10.00kg(98.07N)の条件を採用したものであるから、当業者であれば、極く自然に実施する程度のことである。
第2に、数値限定要件についても、例えば、社団法人高分子学会編「プラスチック加工技術ハンドブック」(1995年6月12日、日刊工業新聞社発行)第23ページに、「表2.23 市販ABS樹脂の代表グレードの物性」において、「押出し」グレードの「JIS K7210」による「メルトフローレート」として、「4.0」(単位「g/10min」)という値が具体的に示されているように、押出成形に供するABS樹脂のメルトフローとして、通常の範囲に属する数値により範囲を限定したと認められるものであるから、当業者が適宜決定することができた程度のことである。

そして、前者において、「JIS K7210(温度220℃、荷重10kg)によるメルトフローレートが2g/10分?20g/10分である」という相違点1に係る発明特定事項を備えることの技術的意義については、本願明細書の段落0028に、「当該メルトフローレートが1g/10分未満であると、押出成形における生産性が劣り、また、20g/10分を超えると、ドローダウンを生じて成形が困難になり、いずれの場合も好ましくない。望ましくは2g/10分?10g/10分である。」と記載されているが、これらは溶融流動性に関わる指標というメルトフローレートの特性に照らして、当業者が容易に予測し得る程度のことである。また、同じく本願明細書には、実施例1?3、比較例1、2として、ABS樹脂のメルトフローレートを変化させた具体例が示されているが、これら具体例においては、無機フィラー(重量部)の値も変化させており、相違点1に係る発明特定事項の臨界的意義が明らかになったとも認めることはできない。

したがって、相違点1に係る発明特定事項は、当業者が容易に採用することができたものである。

(2)相違点2についての検討
種々の樹脂組成物から押出成形品を得るに当たって、該組成物に含まれる様々な添加剤の配合量をそれぞれ最適な範囲に定めることは、当業者が当然に実施することであり、刊行物1にも摘示コとして、「酸化防止剤の添加量は総スチレン系樹脂に対して通常、合計0.03?1.6 重量%である。…滑剤の添加量は総スチレン系樹脂に対して、通常、合計0.03?5.0 重量%である。」と記載されている。
刊行物1には、炭酸カルシウム等の無機フィラーの添加量について具体的な範囲の記載がない。
しかしながら、無機フィラーについてもその添加量の最適な範囲を定めることは、当業者が当然に行うことであるのみならず、フィラー、すなわち「充填剤」という性格上、添加量の選択範囲は、他の種類の添加剤の添加量の選択範囲よりも、相対的に大きいと解されるものであって、刊行物2にも、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂を含む、押出成形法に適用される熱可塑性樹脂組成物(摘示ソ、チ)について、摘示セ、タとして「炭酸カルシウムを、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.5?50重量部添加してなる熱可塑性樹脂組成物」、すなわち、熱可塑性樹脂組成物において、略0.5?33.3重量%というかなり広い添加割合が示されているところである。
前者における「無機フィラーの5重量%?50重量%」という範囲もかなり広い範囲の特定であるから、格別、複雑又は高度の試行錯誤を行って始めて選択することができたと認めるべきものではなく、かつ、先の刊行物2における摘示セの、熱可塑性樹脂組成物に対する、略0.5?33.3重量%という添加割合と比較しても、0.5?33.3重量%という大半の範囲において重複し、更に、広い範囲を可とするものである。
してみれば、炭酸カルシウム等の無機フィラーの添加量についての「5重量%?50重量%」という範囲を特定することは、当業者にとって格別の困難を要することなく、なし得た程度のことである。
そして、前者において、「無機フィラーの5重量%?50重量%」という相違点2に係る発明特定事項を備えることの技術的意義については、本願明細書の段落0030に、「本発明においては、上記ABS系樹脂組成物50重量%?95重量%に無機フィラーを5重量%?50重量%混合して用いる。該無機フィラーの含有量が5重量%未満であると、線膨張係数に対する効果が得られにくく、また50重量%を超えると衝撃強度の低下が大きく、成形体が脆くなるため、いずれの場合も望ましくない。」と記載されているが、これらは、例えば、刊行物2の摘示ソにも示されるような、フィラーの添加目的に照らして、通常予測し得る程度のことである。また、同じく本願明細書には、実施例1?3、比較例1、2として、ABS樹脂に対して、無機フィラーとして炭酸カルシウムを添加する量を変化させた具体例が示されているが、これら具体例においては、メルトフローレート(g/10分)の値を変化させており、相違点2に係る発明特定事項の臨界的意義が明らかになったとも認めることはできない。

したがって、相違点2に係る発明特定事項は、当業者が容易に採用することができたものである。

(3)相違点3についての検討
本願発明1においては、明細書の段落0026に、「本発明に用いられるABS系樹脂組成物は、本発明の成形体が得られる範囲内で、上記ABS樹脂とAS樹脂の他に、必要に応じて他の熱可塑性樹脂を添加することも可能である。…また熱可塑性樹脂の他に、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、着色剤、発泡剤、或いは熱可塑性樹脂組成物において一般的に用いられるその他の配合剤、添加剤を添加することも可能である。これらのうち滑剤、酸化防止剤を添加することが特に望ましい。」と記載されるとおり、種々の配合剤や添加剤を配合することが記載されており、PPCを添加することに対して阻害となる具体的記載はない。また、ABS系樹脂組成物100重量部に対して、PPC0.01?3.0重量部を添加することによって、無機フィラーを「5重量%?50重量%」配合することができなくなったり、「長尺異形押出成形体」を得ることができなくなったりすると認めるべき理由も見当たらない。
してみると、本願発明1は、更に、ABS系樹脂組成物100重量部に対して、PPC0.01?3.0重量部を添加して成る組成の「長尺異形押出成形体」を包含するものである。
そして、本願発明1における、ABS系樹脂組成物100重量部に対して、PPC0.01?3.0重量部を添加して成る組成の「長尺異形押出成形体」である部分についてみれば、相違点3は、実質上の相違点ではない。

6.本願発明1についてのまとめ
以上のとおり、相違点1、2は、当業者の技術常識を踏まえれば、刊行物1、2の記載から当業者が容易に採用することができたことであり、相違点3は実質的なものではないから、本願発明1は、刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、これについては特許を受けることができない。

7.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1において、「無機フィラー」を「炭酸カルシウム」と限定したものである。
本願発明2と刊行物1発明を対比すると、刊行物1発明は、4.の(1)で述べたとおり、「ABS樹脂15?100 重量%及びAS樹脂85?0重量%よりなる総スチレン系樹脂100重量部と、PPC0.01?3.0重量部と、無機フィラー等の添加剤を含むスチレン系樹脂組成物からなる長尺の異形押出成形品」の発明であって、しかも、刊行物1の摘示サから、「炭酸カルシウム」は「無機フィラー」に包含されるものであるから、両者は、4.の(2)で述べた相違点1?3において相違するものと認められる。

そして、相違点1?3についての検討の結果は、5.の(1)?(3)で述べたとおりであるから、結局、本願発明2は、刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、これについては特許を受けることができない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本願は、拒絶を免れないものであるので、原査定は妥当である。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-25 
結審通知日 2007-10-02 
審決日 2007-10-15 
出願番号 特願平8-106461
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 561- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 能宏  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 野村 康秀
福井 美穂
発明の名称 長尺異形押出成形体  
代理人 渡辺 敬介  
代理人 山口 芳広  

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