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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1168728
審判番号 不服2005-6176  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-07 
確定日 2007-11-29 
事件の表示 平成 7年特許願第284184号「スパッタリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月13日出願公開、特開平 9-125246〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成7年10月31日に出願したものであって、平成17年3月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年4月7日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年4月27日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成17年4月27日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年4月27日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.平成17年4月27日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の請求項1に記載された
「【請求項1】電源に接続されカソード電極としての機能を有するバッキングプレートと、バッキングプレート上に接着される角形ターゲットと、バッキングプレート下に角形ターゲットと対向するように配置されるマグネットとを少なくとも備え、冷却キャンの周面を走行する非磁性支持体に対してスパッタリングを行うスパッタリング装置において、上記マグネットは、センターポールと、このセンターポールの周囲を取り囲む矩形環状のマグネットリングとから構成され、上記非磁性支持体の幅方向の両端部に位置する上記マグネットの両端部は上記角形ターゲットから遠ざけるように湾曲させてなり、中央部分は上記角形ターゲットと平行状態に形成されてなることを特徴とするスパッタリング装置。」
から、
「【請求項1】真空室内に配設された冷却キャンの周面に沿って走行するテープ状の非磁性支持体に対向してカソードターゲットを対向配置し、上記非磁性支持体の表面に少なくとも磁性層をスパッタリングにより形成するスパッタリング装置において、上記カソードターゲットは、電源に接続されてカソード電極として機能するバッキングプレートと、上記バッキングプレートの上記非磁性支持体と対向する上面側に配設された角形ターゲットと、上記バッキングプレートの下面側に上記角形ターゲットと対向するように配置されたマグネットと、上記バッキングプレート、上記角形ターゲット及び上記マグネットを収納したカソードケースとからなり、上記マグネットは、上記非磁性支持体の走行方向と直交する幅方向を長辺とした矩形環状のマグネットリングと、上記マグネットリングの長辺方向と平行に上記マグネットリング内に設けられたセンターポールとから構成され、上記非磁性支持体の幅方向の両端部側にそれぞれ対向する各端部側が、各端部に向かって上記角形ターゲットから徐々に離間するように湾曲されるとともに、上記両端部間に位置する中央部が上記角形ターゲットと平行状態になるように形成され、上記角形ターゲットの表面磁界を均一にするようにしたことを特徴とするスパッタリング装置。」に補正された。

2.本件補正に対する判断
(1)目的外補正
本件補正のうち、補正前の請求項1に記載された「バッキングプレート上に接着される角形ターゲット」との発明特定事項を、補正後の請求項1に記載された「上記バッキングプレートの上記非磁性支持体と対向する上面側に配設された角形ターゲット」とする補正は、「バッキンプレート」と「角形ターゲット」との関係を「接着」されることから「配設」されることに補正するものである。そして、この「配設」とは、「接着」のみならず、「ネジ止め」や「フック止め」等の概念を包含する用語である。
してみると、「接着」されることから「配設」されることとする補正は、発明特定事項を拡張するものであり、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当せず、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に該当しない。また、上記補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第4項第1号、第3号、及び第4号に該当しない。

(2)新規事項の追加
本件補正のうち、請求項1の「上記バッキングプレートの上記非磁性支持体と対向する上面側に配設された角形ターゲット」とする補正の「配設された」との用語が、願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内であるか検討する。
当初明細書等には、「バッキングプレート上に接着される角形ターゲット」(特許請求の範囲)、「バッキングプレート106上に接着される角形ターゲット107」(段落【0010】)、「バッキングプレート上に接着される角形ターゲット」(段落【0023】)、「このカソードターゲット8の表面にターゲットとして金属磁性材料9が接着されている。」(段落【0032】)及び「バッキングプレート23上に接着される角形ターゲット21」(段落【0033】)と記載されているように、「バッキンプレート」と「角形ターゲット」とは「接着」させることのみが記載され、接着以外のネジ止めやフック止め等の概念を包含する「配設」されることについて記載も示唆もなされていない。また、接着以外のネジ止めやフック止め等の概念を包含する「配設」されることが、「接着される」ことや、当初明細書等の他の記載から自明な事項ともいえない。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものといえないから、特許法第17条の2第3項の規定を満たしていない。

(3)独立特許要件違反
本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(同法第17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3-1)引用文献及びその記載事項
(A)原査定に引用された本願出願前に頒布された刊行物である「特開平6-228748号公報」(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(a1)「【請求項1】ターゲットの下方位置にマグネットを配し、スパッタにより薄膜の形成を行う薄膜製造装置において、前記ターゲットの周囲に補助マグネットを配することを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項2】薄膜が、導電性金属膜,金属磁性薄膜,耐摩耗性薄膜より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の薄膜製造方法。」(特許請求の範囲)
(a2)「本発明の薄膜製造装置は、例えば、非磁性支持体上に金属磁性薄膜,耐摩耗性薄膜(保護膜)等を設けてなる金属薄膜型の磁気テープ(いわゆる蒸着テープ)を製造するために使用されて好適である。」(段落【0015】)
(a3)「この製造装置においては、・・・内部が真空状態となされた真空室2内に・・・送りロール3と・・・巻取りロール4とが設けられ、これら送りロール3から巻取りロール4にテープ状の可撓性支持体5が順次走行するようになされている。
これら送りロール3から巻取りロール4側に上記可撓性支持体5が走行する中途部には、・・・円筒キャン6が設けられている。・・・上記円筒キャン6には、内部に図示しない冷却装置が設けられ・・・ている。
従って、上記可撓性支持体5は、送りロール3から順次送り出され、さらに上記円筒キャン6の周面に沿って走行し、巻取りロール4に巻取られていくようになされている。・・・
また、上記真空室内には上記円筒キャン6の下方にカソードユニット9があり、この表面に薄膜材料であるターゲット材10が接着されている。上記カソードユニット9は、・・・電源(図示せず。)に接続され負の電極となっているバッキングプレート11、前記バッキングプレート11の下方に配置されるマグネット12及びマグネット13、前記マグネット12,13を収納するカソードケース14よりなるものである。
そして、上記バッキングプレート11上には、これよりも面積の小さいターゲット材10が・・・接着され、ターゲット材10以外をスパッタイオンが攻撃しないように、ターゲット材10が配置されていない部分を覆うカソードカバー15が設けられている。なお、矢印cは可撓性支持体5の走行方向を示し、矢印dは可撓性支持体5の幅方向を示している。」(段落【0025】?段落【0030】)
(a4)「マグネット12,13は、例えば図4に示すように、マグネット12の周囲をマグネット13が囲むように配置されている。」(段落【0032】)
(a5)「可撓性支持体5の幅方向に対応してカソードユニット9の両端面に補助マグネット17が1つずつ走行方向cに平行に配置されている。」(段落【0035】)
(a6)「以上の説明からも明らかなように、本発明の薄膜製造装置においては、補助マグネットがターゲット上の磁界分布を均一化している。これによって、ターゲットが均一にスパッタされるため、歩留りが向上するとともに、成膜される薄膜の膜厚も均一なものとなる。」(段落【0071】)
(a7)表1(第5頁)には、実施例1のターゲット材のサイズが、幅180mm×長さ150mmであることが記載されている。
(a8)図4には、記載事項(a4)に関し、マグネット13が矩形環状であることが窺われる。

(B)原査定に引用された本願出願前に頒布された刊行物である「実願平3-78313号(実開平5-30156号)のCD-ROM」(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(b1)「真空容器内に基板支持体およびターゲットを相互に対向して配設すると共に,これらの間に電源を接続して電極を構成し,前記ターゲットの背面側に,永久磁石からなりその磁界をターゲットに向けて作用させる磁界発生装置を設け,ターゲットの基板支持体との対向面の近傍に前記電源による基板支持体とターゲット間の電界に対して直交する磁界を発生するように構成したマグネトロンスパッタ装置において,磁界発生装置を形成する永久磁石を長辺部と短辺部とからなる額縁状に形成すると共に,短辺部の高さを長辺部の高さより小に形成して,磁性材料により平板状に形成したヨーク上に配設し,この永久磁石に包囲された領域の中央部に前記長辺部と平行にセンターヨークを設けたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。」(実用新案登録請求の範囲、請求項1)
(b2)「図9は量産型のマグネトロンスパッタ装置の例を示す要部正面図であり,・・・図9において環状磁石7bは長辺部と短辺部とからなる額縁状に形成し,その中央部に棒状に形成した中心磁石7aを配設する。10はキャリアであり,基板6を保持して矢印方向に移動自在に形成する。上記の構成により,キャリア10を介して基板6を磁界発生装置7に臨ませて矢印方向に移動させれば,基板6の表面にターゲット(図示せず)を構成する物質からなる薄膜を生成することができるのである。・・・
上記図9に示す構成の装置によって,基板6の表面に順次薄膜を生成することができるのであるが,・・・キャリア10に支持された基板6の位置によって薄膜の厚さが異なり,上下端に位置する基板6の膜厚が中央に位置する基板6の膜厚より大であり,かつ膜厚のバラツキも大であるという傾向がある。」(段落【0006】?段落【0007】)
(b3)「磁界発生装置の上下端部と中央部とにおいて,空隙磁束密度の水平成分の分布を均一にすることができ,基板の支持位置と無関係に膜厚の均一化が図れるのである。」(段落【0017】)
(b4)図9には、上記記載事項(b2)に関し、キャリア10の移動方向を示す矢印は、磁気発生装置7の長辺部を横切る方向であること、及び、キャリアの幅方向の両端側に磁気発生装置の上下端部である短辺部があることが窺われる。

(3-2)対比
引用文献1には、記載事項(a3)によれば、「真空室内に、円筒キャンが設けられ、上記円筒キャンの内部に冷却装置が設けられ、テープ状の可撓性支持体は上記円筒キャンの周面に沿って走行し、また、上記真空室内の上記円筒キャンの下方にカソードユニットがあり、このカソードユニットは、電源に接続され負の電極となっているバッキングプレート、前記バッキングプレートの下方に配置されるマグネット12及びマグネット13、前記マグネット12、13を収納するカソードケースよりなり、そして、バッキングプレート上には、ターゲット材が接着されている製造装置」が記載されているといえる。そして、前記「可撓性支持体」は、記載事項(a2)によれば、非磁性支持体といえ、前記「製造装置」は、記載事項(a1)及び(a2)によれば、スパッタにより非磁性支持体上に金属磁性薄膜の形成を行う薄膜製造装置といえ、前記「ターゲット材」は、記載事項(a7)によれば、そのサイズが幅180mm×長さ150mmであることから、角形ターゲットといえる。また、前記「マグネット12、13」については、記載事項(a4)のとおり、「マグネット12の周囲をマグネット13が囲むように配置」され、記載事項(a8)によれば、マグネット13は矩形環状であるといえる。そして、記載事項(a5)によれば、「カソードユニットの可撓性支持体の幅方向に対応する両端面には、補助マグネットが1つずつ走行方向に平行に配置されている」といえる。
これら記載を、本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、「真空室内に、周面に沿ってテープ状の非磁性支持体を走行するための円筒キャンが設けられ、前記円筒キャンの内部には冷却装置が設けられ、また、前記円筒キャンの下方にカソードユニットがあり、スパッタにより非磁性支持体上に金属磁性薄膜の形成を行う薄膜製造装置において、このカソードユニットは、電源に接続され負の電極となっているバッキングプレートと、前記バッキングプレート上に接着されている角形ターゲットと、前記バッキングプレートの下方に配置されるマグネット12及びマグネット13と、前記マグネット12、13を収納するカソードケースよりなり、前記マグネット12、13は、マグネット12の周囲を矩形環状のマグネット13が囲むように配置され、さらに、カソードユニットの可撓性支持体の幅方向に対応する両端面には、補助マグネットが1つずつ走行方向に平行に配置されている薄膜製造装置」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「円筒キャン」は、内部に冷却装置が設けられていることから、本願補正発明の「冷却キャン」に相当し、引用発明1の「カソードユニット」は、ターゲットを含むことから、本願補正発明の「カソードターゲット」に相当し、引用発明1の「薄膜製造装置」は、スパッタにより薄膜を形成していることから、本願補正発明の「スパッタリング装置」に相当する。また、引用発明1の「金属磁性薄膜」、「電源に接続され負の電極となっているバッキングプレート」は、本願補正発明の「磁性層」、「電源に接続されてカソード電極として機能するバッキングプレート」にそれぞれ相当する。
また、スパッタリングとは、ターゲット材をスパッタリングして支持体にターゲット材の薄膜を形成する技術であり、ターゲット材と支持体とは互いに向き合った位置にあることは明らかである。そして、引用発明1においては、円筒キャンの周面に沿ってテープ状の非磁性支持体が走行していることから、引用発明1の「円筒キャンの下方にカソードユニットがあ」ることは、本願補正発明の「冷却キャンの周面に沿って走行するテープ状の非磁性支持体に対向してカソードターゲットを対向配置」されることに相当する。同様に、引用発明1のように、角形ターゲットがバッキングプレート上に接着されていることは、バッキングプレートの非磁性支持体と対向する上面側に接着されていることを示し、さらに、「接着」は「配設」することの概念の1つであることから、引用発明1の「バッキングプレート上に接着されている角形ターゲット」は、本願補正発明の「バッキングプレートの非磁性支持体と対向する上面側に配設された角形ターゲット」に相当する。さらに、引用発明1の「バッキングプレートの下方に配置されるマグネット12及びマグネット13」は、バッキングプレート上にターゲットがあることから、本願補正発明の「バッキングプレートの下面側に角形ターゲットと対向するように配置されたマグネット」に相当する。
そして、引用発明1の「矩形環状のマグネット13」は、本願補正発明の「矩形環状のマグネットリング」に相当し、引用発明1の「マグネット12」は、その周囲を矩形環状のマグネット13が囲むように配置されていることから、本願補正発明の「マグネットリング内に設けられたセンターポール」に相当する。
また、引用発明1の「カソードユニットの可撓性支持体の幅方向に対応する両端面には、補助マグネットが1つずつ走行方向に平行に配置されている」ことは、記載事項(a6)によれば、ターゲット上の磁界分布を均一化するための手段であることから、本願補正発明の「上記非磁性支持体の幅方向の両端部側にそれぞれ対向する各端部側が、各端部に向かって上記角形ターゲットから徐々に離間するように湾曲されるとともに、上記両端部間に位置する中央部が上記角形ターゲットと平行状態になるように形成され、上記角形ターゲットの表面磁界を均一にするようにした」ことと、角形ターゲットの表面磁界を均一にするための手段である点で共通するものである。
したがって、本願補正発明と引用発明1とは、「真空室内に配設された冷却キャンの周面に沿って走行するテープ状の非磁性支持体に対向してカソードターゲットを対向配置し、上記非磁性支持体の表面に少なくとも磁性層をスパッタリングにより形成するスパッタリング装置において、上記カソードターゲットは、電源に接続されてカソード電極として機能するバッキングプレートと、上記バッキングプレートの上記非磁性支持体と対向する上面側に配設された角形ターゲットと、上記バッキングプレートの下面側に上記角形ターゲットと対向するように配置されたマグネットと、カソードケースとからなり、上記マグネットは、矩形環状のマグネットリングと、上記マグネットリング内に設けられたセンターポールとから構成され、角形ターゲットの表面磁界を均一にするための手段を有することを特徴とするスパッタリング装置」で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明の「カソードケース」が、「バッキングプレート、角形ターゲット及びマグネットを収納したカソードケース」であるのに対して、引用発明1では、「マグネットを収納したカソードケース」である点。
[相違点2]
本願補正発明の「矩形環状のマグネットリング」と「センターポール」が、「非磁性支持体の走行方向と直交する幅方向を長辺とした」矩形環状のマグネットリング、「マグネットリングの長辺方向と平行」に設けられたセンターポールであるのに対して、引用発明1では、この点について明示されていない点。
[相違点3]
本願補正発明の「角形ターゲットの表面磁界を均一にするための手段」が、「非磁性支持体の幅方向の両端部側にそれぞれ対向する各端部側が、各端部に向かって角形ターゲットから徐々に離間するように湾曲されるとともに、上記両端部間に位置する中央部が上記角形ターゲットと平行状態になるように形成され、上記角形ターゲットの表面磁界を均一にするようにした」マグネットであるのに対して、引用発明1では、カソードユニットの可撓性支持体の幅方向に対応する両端面に1つずつ走行方向に平行に配置されている補助マグネットである点。

(3-3)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]
本願補正発明において、カソードケースが、バッキングプレート、角形ターゲット及びマグネットを収納することで、格別な作用効果を奏することは、本願明細書に何ら記載されていない。また、引用発明1において、バッキングプレート、角形ターゲット、マグネット及びマグネットを収容するカソードケースは、カソードユニットとして一体的に取り扱われるものである。したがって、引用発明1のマグネットを収納しているカソードケースにより、マグネットと共に、バッキングプレート及び角形ターゲットを一体的に収納するようにすることは、当業者であれば容易になし得るものである。
[相違点2]
特開平1-268869号公報には「マグネトロン型のスパッタリング装置」(第1頁右下欄第1行)に関して、「各ターゲット1A、1Bの裏面にはターゲット形状に適宜対応した永久磁石42A、42Bが配置され」(第2頁左上欄第5?7行)と記載されているように、マグネトロンスパッタリング装置において、ターゲット裏面にマグネットを固定配置する場合に、ターゲット形状に対応した形状のマグネットを用いることは、技術常識といえるから、引用発明1の矩形環状のマグネット13も角形ターゲットに対応した形状であるといえる。そして、角形ターゲットは、引用文献1の記載事項(a7)によれば、幅方向を長辺とした角形形状であるといえ、この幅方向は、記載事項(a3)によれば、支持体の幅方向を示しているといえるから、引用文献1の矩形環状のマグネット13は、支持体の幅方向を長辺とした矩形環状の形状であるといえる。
また、引用文献2には、記載事項(b1)によれば、マグネトロンスパッタ装置の磁界発生装置として、永久磁石を長辺部と短辺部とからなる額縁状に形成すると共に、この永久磁石に包囲された領域の中央部に前記長辺部と平行にセンターヨークを設けた磁界発生装置が記載され、このような磁気発生装置は普通に用いられているものである。したがって、引用発明1において、矩形環状のマグネット13内のセンターポールに相当するマグネット12を、マグネット13の長辺方向と平行に設けることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
[相違点3]
引用文献2には、記載事項(b1)によれば、ターゲットの背面側に、永久磁石からなりその磁界をターゲットに向けて作用させる磁界発生装置を設けたマグネトロンスパッタ装置において、磁界発生装置を形成する永久磁石を長辺部と短辺部とからなる額縁状に形成すると共に、短辺部の高さを長辺部の高さより小に形成して、磁性材料により平板状に形成したヨーク上に配設し、この永久磁石に包囲された領域の中央部に前記長辺部と平行にセンターヨークを設けたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置が記載されている。そして、磁界発生装置の永久磁石の短辺部は、記載事項(b2)及び(b4)によれば、基板のキャリアの幅方向に対応する両端側であるといえる。
ところで、特開平4-371号公報には、「スパッタリング装置」(第1頁右下欄第5行)に関して「磁界を形成する永久磁石41、42は例えばサマリゥム-コバルトからなり、これらがターゲット5面に対して平行なリング状に配置される」(第2頁右下欄第12?14行)と記載されているように、マグネトロンスパッタリング装置において、永久磁石をターゲット面に対して平行に配置することは、技術常識といえる。
したがって、引用文献2に記載されたマグネトロンスパッタ装置においても、永久磁石及びセンターヨークは、ターゲットと平行になっているといえるから、永久磁石の短辺部の高さを長辺部の高さより小とすることは、永久磁石の短辺部が長辺部よりターゲットから離間していることと同義であるといえる。
そして、記載事項(b3)によれば、当該マグネトロンスパッタ装置によって、磁界発生装置の上下端部と中央部とにおいて、空隙磁束密度の分布を均一にして、膜厚の均一化が図れることが示され、磁界発生装置の上下端部と中央部とは、記載事項(b4)によれば、キャリアの幅方向の端部と中央部であるといえるから、当該マグネトロンスパッタ装置によって、磁界発生装置のキャリア幅方向の磁束密度分布を均一にする効果を奏するといえる。
以上のことから、引用文献2には、永久磁石を長辺部と短辺部とからなる額縁状に形成して、磁性材料により平板状に形成したヨーク上に配設し、この永久磁石に包囲された領域の中央部に前記長辺部と平行にセンターヨークを設けた磁気発生装置をターゲットの背面側に設けたマグネトロンスパッタ装置において、基板のキャリアの幅方向に対応する両端側にある永久磁石の短辺部を中央部にある長辺部よりターゲットから離間させて、キャリア幅方向の磁束密度分布を均一にする磁気発生装置が記載されているといえる。
そして、引用発明1のカソードユニットの端面に設けられた補助ターゲットも、引用文献2に記載された磁気発生装置も、ターゲット上の磁界分布を均一化するための手段であることで共通するから、引用発明1のカソードユニットの可撓性支持体の幅方向に対応する両端面に1つずつ走行方向に平行に配置されている補助マグネットに代えて、引用文献2に記載されているように、可撓性支持体幅方向に対応する矩形環状のマグネットリングの両端側にある短辺部を中央部にある長辺部よりターゲットから離間するように構成することは、当業者であれば容易になし得ることである。
そして、特開平7-166346号公報に「永久磁石のターゲットの背面の中心部寄りと対向する側を該背面に対して接近離反させて該永久磁石を傾斜させることにより、・・・ターゲット表面の内側と外側で有効磁界を変えてイオンの分布を変えることができ」(第3頁左欄第35?40行)ると記載され、また、特開平3-243762号公報に「第1図(a)はマグネット2a、2bを搭載したマグネット搭載板2とマグネット3a、3bを搭載したマグネット搭載板3が、ターゲットl主面に垂直な垂直線laに対して回転対称の位置にターゲット1主面とθの角度をもって配置された状態を示している。・・・一方、第1図(b)はマグネット搭載板3を第1図(a)とは逆の方向にθの角度だけ傾けた状態を示している。・・・第1図(a)と第1図(b)を比較してみると、エロージョン領域4は第1図(a)の状態ではターゲット1の中心部に寄り、第1図(b)の状態ではターゲット1の周辺部に寄っている。」(第2頁右下欄6行?第3頁左上欄第1行)と記載されているように、ターゲットに対してマグネットを傾斜させることによってターゲット表面の磁界分布が変化することは、周知の技術事項である。してみると、マグネットの高さを変化させることに代えて、マグネットの一部を傾斜させることにより、マグネットの両端側をターゲットから徐々に離間するように屈曲させるようにすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
また、上述したとおり、マグネトロンスパッタリング装置において、永久磁石をターゲット面に対して平行に配置することは、技術常識といえるから、ターゲットからの距離を変化させない中央部にあるマグネットリングの長辺部を角型ターゲットと平行とすることに格別の困難性を奏するとはいえない。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用文献1、引用文献2、周知技術及び技術常識から当業者が予測できる範囲のものである。
以上のように、本願補正発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明、周知技術並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項、第4項及び第5項の規定に違反するものであり、同法第159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
平成17年4月27日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年8月23日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】電源に接続されカソード電極としての機能を有するバッキングプレートと、バッキングプレート上に接着される角形ターゲットと、バッキングプレート下に角形ターゲットと対向するように配置されるマグネットとを少なくとも備え、冷却キャンの周面を走行する非磁性支持体に対してスパッタリングを行うスパッタリング装置において、上記マグネットは、センターポールと、このセンターポールの周囲を取り囲む矩形環状のマグネットリングとから構成され、上記非磁性支持体の幅方向の両端部に位置する上記マグネットの両端部は上記角形ターゲットから遠ざけるように湾曲させてなり、中央部分は上記角形ターゲットと平行状態に形成されてなることを特徴とするスパッタリング装置。」

IV.引用文献及びその記載事項
原査定に引用された引用文献、並びにそれら記載事項は、前記「II.」の前記「(3-1)引用文献及びその記載事項」に記載したとおりである。

V.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、前記「II.」の前記「(3-2)対比」で検討したと同様に、引用発明1の「電源に接続され負の電極となっているバッキングプレート」、「円筒キャン」、「バッキングプレートの下方に配置されるマグネット12及びマグネット13」、「薄膜製造装置」、「マグネット12」、「矩形環状のマグネット13」は、本願発明の「電源に接続されてカソード電極として機能するバッキングプレート」、「冷却キャン」、「バッキングプレート下に角形ターゲットと対向するように配置されたマグネット」、「スパッタリング装置」、「センターポール」、「矩形環状のマグネットリング」にそれぞれ相当する。そして、引用発明1の「カソードユニットの可撓性支持体の幅方向に対応する両端面には、補助マグネットが1つずつ走行方向に平行に配置されている」ことは、ターゲット上の磁界分布を均一化するための手段であることから、本願発明の「上記非磁性支持体の幅方向の両端部側に位置する上記マグネットの両端部は上記角形ターゲットから遠ざけるように湾曲されてなり、中央部分は上記角形ターゲットと平行状態になるように形成されてなる」ことと、角形ターゲットの表面磁界を均一にするための手段である点で共通するものである。
したがって、本願発明と引用発明1とは、「電源に接続されカソード電極としての機能を有するバッキングプレートと、バッキングプレート上に接着される角形ターゲットと、バッキングプレート下に角形ターゲットと対向するように配置されるマグネットとを少なくとも備え、冷却キャンの周面を走行する非磁性支持体に対してスパッタリングを行うスパッタリング装置において、上記マグネットは、センターポールと、このセンターポールの周囲を取り囲む矩形環状のマグネットリングとから構成され、角形ターゲットの表面磁界を均一にするための手段を有することを特徴とするスパッタリング装置」で一致し、以下の点で相違している。
[相違点A]
本願発明の「角形ターゲットの表面磁界を均一にするための手段」が、「非磁性支持体の幅方向の両端部に位置するマグネットの両端部は上記角形ターゲットから遠ざけるように湾曲させてなり、中央部分は上記角形ターゲットと平行状態に形成されてなる」マグネットであるのに対して、引用発明1では、カソードユニットの可撓性支持体の幅方向に対応する両端面に1つずつ走行方向に平行に配置されている補助マグネットである点。

VI.判断
上記相違点Aについて検討すると、上記相違点Aの本願発明の発明特定事項は、上記相違点3の本願補正発明と発明特定事項と比較して、本願補正発明の「両端部側にそれぞれ対向する各端部側」、「各端部に向かって角形ターゲットから徐々に離間するように」、「両端部間に位置する中央部」との表現を、本願発明の「両端部に位置する両端部」、「上記角形ターゲットから遠ざけるように」、「中央部分」との表現にそれぞれ上位概念化し、さらに、本願補正発明の「上記角形ターゲットの表面磁界を均一にするようにした」との発明特定事項を除いたものである。したがって、前記「II.」の前記「(3-3)判断」の相違点3に対して検討したと同様に、引用発明1のカソードユニットの可撓性支持体の幅方向に対応する両端面に1つずつ走行方向に平行に配置されている補助マグネットに代えて、「非磁性支持体の幅方向の両端部に位置するマグネットの両端部は上記角形ターゲットから遠ざけるように湾曲させてなり、中央部分は上記角形ターゲットと平行状態に形成されてなる」マグネットとすることは、引用文献2に記載された発明、周知技術及び技術常識を考慮して当業者が容易になし得たものである、

VII.むすび
したがって、本願発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明、周知技術並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-27 
結審通知日 2007-10-02 
審決日 2007-10-16 
出願番号 特願平7-284184
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C23C)
P 1 8・ 572- Z (C23C)
P 1 8・ 561- Z (C23C)
P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 直裕田中 則充  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 斎藤 克也
宮澤 尚之
発明の名称 スパッタリング装置  
代理人 小池 晃  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 田村 榮一  

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