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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1169211
審判番号 不服2005-16605  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-31 
確定日 2007-12-12 
事件の表示 平成 8年特許願第 74366号「電子写真感光体及びそれを用いた画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月 7日出願公開、特開平 9-265194〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年3月28日の出願であって、平成17年7月28日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月31日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月29日付で手続補正がなされたものである。

2.平成17年9月29日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年9月29日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスで使用される、導電支持体上に中間層、電荷発生層、電荷輸送層の順に設けてなる感光体において、電荷輸送層にビフェニル系化合物または下記化合物(I)を含有し、電荷輸送層の酸素ガス透過係数が2.00×10^(-11)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHg以下であることを特徴とする電子写真感光体。
【化1】

(式中、R_(1)は低級アルキル基を表わし、R_(2)、R_(3)は同一又は異なる、置換又は無置換のメチレン基又はエチレン基を表わし、Ar_(1)、Ar_(2)は同一又は異なる、置換又は無置換のアリール基を表わす。lは0?4、mは0?2、nは0?2の整数を表わし、m+nは2以上、l+m+nは6以下の整数である。又、ベンゼン環の未置換部位は水素原子を表わす。)」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「電荷輸送層」について「ビフェニル系化合物または下記化合物(I)を含有し」(ここで、「化合物(I)」についての記載は省略する。)との限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
(2-1) 原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前日本国内で頒布された刊行物である特開平6-161134号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 少くとも電子写真感光体と該感光体の外周に帯電、露光、現像、転写及びクリーニングの各手段を有する画像形成装置において、該装置内のオゾン濃度が0.5ppm以下であり、且つ前記感光体の最上層が電荷輸送層で構成され、該電荷輸送層の単位膜厚当りの酸素ガス透過係数が1.0×10^(-7)(cc/cm^(2)・S・cmHg)以下であることを特徴とする画像形成装置。」(特許請求の範囲 請求項1)
(1b)「【発明の目的】本発明の目的は、電子写真特性に優れていて、特に高感度特性を有する感光体が組込まれた画像形成装置であって、該装置を用いて長期に亘り繰返し像形成を行なったとき、疲労劣化が少なく終始安定して高画質が得られる画像形成装置を提供することにある。」(【0015】)
(1c)「本発明の感光体は図1に示すように導電性支持体1上に必要により中間層2を設け、該中間層2上にCGL3,CTL4をこの順に設けた構成とされる。」(【0018】)として、第22頁の【図1】には、感光体の層構成を示す断面図が記載されている。
(1d)「次に本発明に係る導電性支持体上にCGL及びCTLをこの順に積層して成る感光体の前記CTLの単位膜厚当りの酸素ガス透過係数の具体的測定法について以下に説明する。
・・・勾配ΔPb/Δtを求め、これを下記式に代入することにより測定試料10の単位膜厚当りの酸素ガス透過係数P/lを求めることができる。

P :気体透過係数 (cc/cm^(2)・S・cmHg)(s:秒)
V :低圧側容積 (cc)
A :透過面積 cm^(2)
l :測定試料の膜厚 cm
Po :標準圧力 〔1atm=76cmHg〕
Pa :高圧側の圧力 〔cmHg〕
Pb :低圧側の圧力 〔cmHg〕
To :標準温度 〔273°K〕
T :測定温度 〔K〕
ΔPb/Δt:定常状態における低圧側圧力の増加速度即ち透過曲線の直線部分の勾配 〔cmHg/s〕」(【0053】?【0059】)
(1e)「上記した「酸素の気体透過係数」は、バインダ、物質の種類、化学式、重合度によって変ることは勿論だが、それだけではなく、CTLの塗膜を形成する際の塗布溶媒、塗布方法、乾燥の度合、塗布液中のCTM及びバインダ物質濃度等の因子によっても変動するものである。従って、塗膜形成前は同一の樹脂であっても、上記の諸因子によってはCTLの状態が異ってくると共に酸素ガスの透過係数も変ってくる。」(【0059】)
(1f)「本発明に係る感光体では、感光層の表面層としてのCTLの酸素ガス透過係数を前記のように特定範囲に限定した点に特徴があり、それによって酸素ガス、特にオゾンガス等のCTLへの侵入が抑止され、CTM等の劣化が低く抑えられる。」(【0060】)
(1g)「【実施例】
〈感光体及び特性測定試料の作成〉
(感光体の作成)80mmφのアルミニウム製円筒状ドラム(シリンダ)上に、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体「エスレックMF-10」(積水化学工業社製)より成る厚さ約0.1μmの中間層を設けた。次に、下記「化17」に示す構造式を有するビスアゾ顔料4gをボールミルで24時間粉砕し、これにビスフェノールA型ポリカーボネート「パンライトL-1250」(帝人化成社製)(以下BPAと称する)2gを1,2-ジクロルエタン130mlに溶解した溶液を加えて、更に24時間分散し、得られた分散液を前記中間層上に浸漬塗布し、十分乾燥して厚さ約0.5μmのCGLを形成した。
次にCTMとして、例示化合物(1)-1;10gとバインダ樹脂として例示化合物(3)-6を構成単位とする粘度平均分子量20000のポリカーボネート(ジメチルBPZと仮称する)10gとを1,2-ジクロルエタン100mlに溶解して得た溶液を上記CGL上に浸漬塗布し、温度80℃にて1時間乾燥して厚さ20μmのCTLを形成しても感光体1を得た。」(【0073】、【0074】、なお、「化17」に示す構造式、例示化合物(1)-1、例示化合物(3)-6の記載は省略する。)
(1h)「(酸素ガス透過係数測定試料(T)の作成)感光体1?5のCTLの各塗布液を、径80mmのアルミ製円筒上にPETベースを巻き付けた上に前記図5の浸漬塗布装置を用いてそれぞれ塗布加工も、これを90℃で24時間乾燥し、冷却後、PETベースからCTLを剥離して感光体1?5に対応するCTLから成る20μm厚の酸素ガス透過係数測定試料T-1?T-5を得た。
(酸素ガス透過係数の測定)前記各測定試料(T_(1)?T_(5))を順次図2のガス透過係数測定装置のセル11に設定し、恒温槽18の温度を35℃とし、酸素ガスを用いて測定を行った。
測定方法は前記したように、各測定試料に一定の酸素ガス厚Pa(高圧側)を加えると、時間tの経過と共に高圧側の酸素ガスが前記試料を透過して低圧側(ガス圧Pb)に移行し、低圧側のガス圧Pbが変化する。
前記経過時間tに対する低圧側の酸素ガス圧Pbの変化をプロットして図2(b)の如き透過曲線を作成し、その曲線の直線部分の勾配ΔPb/Δtを求め、これを前記気体透過係数の式に代入して単位膜厚当りの酸素ガス透過係数を算出し、その結果を表2に示した。」(【0088】?【0091】)として、【0092】段落の【表2】には試料T-1(感光体1のCTL)の単位膜厚当りの酸素ガス透過係数(cc/cm^(2)・S・cmHg)が、0.0757×10^(-7)であることが記載されている。

(2-2) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前日本国内で頒布された刊行物である特開平2-77766号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、下記の事項が記載されている。
(2a)「(1)所定の電位に帯電した感光体を露光して潜像を形成し、該潜像を現像して所望の画像を形成する画像形成装置において、
前記帯電から所定時間経過後における感光体の暗減衰量を検出する検出手段を設け、該検出手段にて得られた信号に基づいて感光体の現像位置における表面電位の制御を行うことを特徴とする画像形成装置。」(特許請求の範囲 請求項1)
(2b)「以上の構成を有する本実施例にあっては、帯電、画像露光、現像、転写、クリーニング、除電露光という一連の画像形成プロセスを行う前に、第3図に示すような動作を行うこととしている。
すなわち、まず、CPU20からの信号によりモータ23を駆動して感光ドラムlを回転し(ステップ1)、これと同時に一次帯電器2及び除電ランプ7への通電を行う(ステップ2)。
次に、感光ドラム1表面の一次帯電部分が表面電位センサSの位置に到達したかどうか、即ち、一次帯電器2及び除電ランプ7の通電から0.8秒経過したかどうかをタイマ22からのクロックパルスに基づいて判断し(ステップ3)、0.8秒経過したと判断された場合には、感光ドラム1の駆動を停止する(ステップ4)。そして、この駆動停止直後より0.25秒経過したと判断された場合には(ステップ5)、表面電位センサSにより感光ドラム1の表面電位即ち暗減衰量を検出し(ステップ6)、さらにその電位を基準にしてドラム1表面の電位制御を行う(ステップ7)。すなわち、表面電位センサSと現像器3との距離、及びこの距離とプロセススピード(=125mm/5ec)との関係より、感光ドラム1上のある1点が電位センサSに対応する位置から現像器3に対応する位置まで移動する時間を算出し、感光ドラム1の駆動停止時よりその算出された時間(=0.25秒)だけ暗減衰したドラム1表面の電位に基づいて一次帯電器2の電流値を調整し、現像位置におけるドラム1表面の暗電位が常に一定(=-550V)になるようにする。・・・。
しかる後、感光ドラム1の駆動停止(ステップ4)から0.5秒経過したと判断された場合には(ステップ8)、再び感光ドラム1を駆動するとともに、除電ランプ7に通電をしてドラム1表面の除電を行い(ステップ9)、該ドラムlが1回転した後に、公知の電子写真法による画像形成を行う(ステップ10)。
・・・。また、耐久試験後、現像器位置におけるドラム1表面の電位を測定したところ、・・・現像器位置の予想電位と一致した。」(第3頁左下欄15行?第4頁左下欄8行)
(2c)「〔第3実施例〕
第4図は本発明の第3実施例の概略構成を示すもので、本実施例は、4色の現像器を有するフルカラーの画像形成装置である。すなわち、前記第1実施例と同一の部分には同一の符号を付して説明すると、本実施例にあっては、感光ドラム1の周囲に、マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックのトナーを収容した現像器8,9,10,11を、感光ドラム1の中心を基準として30°ずつの等間隔をおいて配設してある。また、表面電位センサSと現像器8との間隔も30°である。
本実施例におけるプロセススピードは94.2(mm/sec)である。また、感光ドラム1の外径は108mmで、赤外光・・・に感度を有するトリスアゾ系の感光体を使用し、画像露光Eとしては半導体レーザーを使用した。・・・。
本装置を用いて、前記第1実施例と同様の暗減衰測定プロセスを含む画像形成プロセスにより、3000枚の耐久試験を行った。ただし、本実施例における暗減衰の測定は、感光ドラム1の駆動停止時よりそれぞれ0.3秒、0.6秒、0.9秒、1.2秒後に行うこととしている。すなわち、これらの時間は、電位センサS位置にある感光ドラム1の表面部分が各現像器8,9,10,11に到達する時間に対応しており、各現像器位置における暗減衰を正確に検出するためである。
・・・。また、この耐久試験後、各現像器位置におけるドラム1の表面電位を測定したところ、・・・各現像器位置の予想電位と一致した。」(第5頁左上欄8行?同頁左下欄11行)

(2-3) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前日本国内で頒布された刊行物である特開平7-306540号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに、下記の事項が記載されている。
(3a)「【請求項1】 支持体上に下引層、感光層を順次積層した電子写真感光体において、該下引層が無機顔料を含有し、且つ、該感光層がビフェニル系誘導体を含有することを特徴とする電子写真感光体。」(特許請求の範囲 請求項1)
(3b)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐ガス性(耐NOx性、耐オゾン性)を向上させ、感度劣化及び帯電性低下が防止され、更に繰り返し使用時に画像ボケ等の発生も防止された電子写真感光体、及びそれを用いた電子写真装置を提供するものである。」(【0008】)
(3c)「感光層に含まれるビフェニル系誘導体(ビフェニルまたはその誘導体の具体例)としては、次のような化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されれものではない。ビフェニル、・・・、o-ターフェニル、m-ターフェニル、・・・。」(【0012】)
(3d)「感光層は単層型、電荷発生層及び電荷輸送層から成る積層型のどちらであってもよい。・・・。
電荷発生層及び電荷輸送層から成る積層型において、・・・。電荷輸送層は前記一般式(1)で表わされる電荷輸送物質、結着樹脂、ビフェニル系誘導体、必要ならば可塑剤、レベリング剤、酸化防止剤を適当な溶媒に溶解または分散して電荷発生層上に塗布することにより形成される。」(【0014】、【0015】)
(3e)【0034】?【0037】段落には、実施例1として、アルミニウムドラム上に、下引層塗工液、電荷発生層塗工液、ビフェニルを含有する電荷輸送層塗工液を順次、浸漬塗工、乾燥してそれぞれ約2μm厚の下引層、約0.2μm厚の電荷発生層、約25μm厚の電荷輸送層を形成し、本発明の電子写真感光体を作成したことが記載されており、【0109】段落に記載されたビフェニルを含有しない電荷輸送層塗工液を用いて製造された比較例1の電子写真感光体と比べ、耐ガス性が向上し、感度劣化・帯電性低下が防止されることが、【0118】段落の【表3-(2)】、【0121】段落の【表3-(5)】、【0123】段落の【表4-(2)】、【0126】段落の【表4-(5)】に記載されている。

(3)対比、判断
上記(2-1)で摘記した刊行物1の記載事項1c?1hに記載の「CGL」、「CTL」が、それぞれ「電荷発生層」、「電荷輸送層」を意味することは、当該技術分野において明らかであるから、刊行物1の記載事項1a?1hからみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると云える。
「装置内のオゾン濃度が0.5ppm以下である画像形成装置に使用される、導電性支持体上に中間層、電荷発生層、電荷輸送層をこの順に設けた感光体であって、最上層を構成する電荷輸送層の単位膜厚当りの酸素ガス透過係数が1.0×10^(-7)(cc/cm^(2)・S・cmHg)以下である電子写真感光体。」

そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較すると、後者における「導電性支持体」は、前者における「導電支持体」に相当し、後者で云う「電子写真感光体」は「電子写真用感光体」に他ならない。そして、刊行物1の記載事項1dの記載からみて、刊行物1発明における「酸素ガス透過係数(cc/cm^(2)・S・cmHg)」は、JIS K7126-1に規定された「ガス透過度」であり、この「酸素ガス透過係数(cc/cm^(2)・S・cmHg)」に記載事項1hに記載された測定試料の膜厚20μm、即ち2×10^(-3)cmを乗じたものが、本願補正発明における「酸素ガス透過係数」に相当し、その値を計算すると2.0×10^(-10)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHg以下となる。
してみると、両者は、
「導電支持体上に中間層、電荷発生層、電荷輸送層の順に設けてなる感光体において、電荷輸送層の酸素ガス透過係数が所定値以下である電子写真感光体。」
で一致し、下記の点で相違する。
(i)本願補正発明は、帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスで使用される感光体であるのに対し、刊行物1発明は、装置内のオゾン濃度が0.5ppm以下である画像形成装置に使用される感光体である点。
(ii)本願補正発明は、電荷輸送層にビフェニル系化合物または化合物(I)を含有するのに対し、刊行物1発明は、かかる特定がない点。
(iii)本願補正発明は、電荷輸送層の酸素ガス透過係数が2.00×10^(-11)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHg以下であるのに対し、刊行物1発明は、電荷輸送層の酸素ガス透過係数が2.00×10^(-10)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHg以下である点。
なお、化合物(I)についての記載は省略する。

そこで、相違点(i)ないし(iii)についてまとめて検討する。
刊行物2は、帯電から所定時間経過後における感光体の暗減衰量を検出する検出手段を設け、該検出手段にて得られた信号に基づいて感光体の現像位置における表面電位の制御を行う画像形成装置について記載されたものであり、その記載事項2cには、感光ドラム1の周囲に、マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックのトナーを収容した現像器8,9,10,11を、感光ドラム1の中心を基準として30°ずつの等間隔をおいて配設したカラープロセスの画像形成装置についての第3実施例が記載されている。
刊行物2の記載事項2bを参酌すると、この記載事項2cに記載された第3実施例は、上記の装置を用いて、実際の画像形成プロセスを行う前に、感光ドラム表面の一次帯電部分が表面電位センサSの位置に到達したかどうか判断し、到達したと判断された場合には、感光ドラム1の駆動を停止し、この駆動停止直後より、電位センサS位置にある感光ドラム1の表面部分が各現像器8,9,10,11に到達する時間に対応する時間である、0.3秒、0.6秒、0.9秒、1.2秒後に、表面電位センサSにより感光ドラム1の表面電位即ち暗減衰量を検出し、その電位を基準にして一次帯電器2の電流値を調整し、現像位置におけるドラム1表面の暗電位が常に一定になるようにし、しかる後、公知の電子写真法による画像形成を行うというものである。
即ち、刊行物2には、マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックのトナーを収容した現像器8,9,10,11を備えたカラープロセスの画像形成装置において、感光ドラム1の表面位置が電位センサSの配設位置から各現像器8,9,10,11に到達するまで0.3秒、0.6秒、0.9秒、1.2秒の時間がかかることが実質的に記載されていると云え、感光ドラム1の表面位置が一次帯電器2の配設位置から電位センサSの配設位置に到達する時間は明確でないものの、イエロー、シアン、ブラックの現像について着目すると、刊行物2から、帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスが読み取れる。
さらに、例えば、特開平4-174465号公報、特に、第7頁右下欄の表1には、第4頁右上欄11行?同頁左下欄19行及び第1図に記載された、感光ドラム1の周囲に帯電器2と2組の現像器4b、4cを備えたカラーレーザプリンタの各部分の相対位置関係が示されており、帯電から現像器4bによる現像までの移動時間が0.75秒であること及び帯電から現像器4cによる現像までの移動時間が1.25秒であることが示されている。
してみれば、帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスは、本願の出願前周知の技術であったと云える。
そして、刊行物1発明の感光体は、感光層の表面層としての電荷輸送層の酸素ガス透過係数を所定値以下としたことにより、オゾンガス等の電荷輸送層への侵入が抑止され感光体の劣化を抑制するものであるところ(1f)、このオゾン等の酸化性ガスによる感光体の疲労劣化の問題は当該技術分野において本願出願前周知の課題であり、上記の帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスに使用される感光体もかかる課題を有すると認められる。
よって、刊行物1発明の感光体を、かかる帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスに使用することは、当業者が適宜為し得たことと認められる。

さらに、刊行物3には、支持体上に下引層、感光層を順次積層した電子写真感光体において、感光層にビフェニル系誘導体を含有させること(3a)により耐NOx性、耐オゾン性等の耐ガス性を向上させること(3b、3e)が記載されており、さらに、該感光層が電荷発生層及び電荷輸送層から成る積層型であって、電荷輸送層にビフェニル系誘導体を含有せしめることが記載されている(3d、3e)。
してみれば、刊行物1発明の感光体を、上述の帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスに使用するに際し、感光体の耐ガス性をさらに高めるために、電荷輸送層にビフェニル系化合物を含有せしめることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、感光体の電荷輸送層の酸素ガス透過係数の範囲について検討すると、確かに、刊行物1発明における電荷輸送層の酸素ガス透過係数は2.00×10^(-10)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHg以下であり、本願補正発明における電荷輸送層の酸素ガス透過係数より一桁高い値を上限としている。
しかし、刊行物1には、電荷輸送層の単位膜厚当りの酸素ガス透過係数(cc/cm^(2)・S・cmHg)が、0.0757×10^(-7)である実施例が記載されている(1h)。この「酸素ガス透過係数(cc/cm^(2)・S・cmHg)」の値に測定試料の膜厚20μm、即ち2×10^(-3)cmを乗じて本願補正発明における「酸素ガス透過係数」に換算すると、1.514×10^(-11)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHgとなるから、刊行物1には、実施例として電荷輸送層の酸素ガス透過係数が2.00×10^(-11)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHg以下の値の感光体が記載されている。
そして、感光体の電荷輸送層の酸素ガス透過係数の上限値は、感光体の使用環境におけるオゾン等の酸化性ガス濃度、画像形成装置のプロセススピード、電荷輸送層等の感光層の構成材料等を勘案して当業者が適宜定め得たものと認められるところ、刊行物1発明の感光体にさらに電荷輸送層にビフェニル系化合物を含有せしめたものを、帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスに使用するにあたり、電荷輸送層の酸素ガス透過係数の上限値について検討し、その上限を2.00×10^(-11)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHgと特定する程度のことは、当業者にとって格別の困難性があったとは認められない。

そして、本願明細書及び図面の記載を検討しても、帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスに使用される感光体において、電荷輸送層の酸素ガス透過係数を2.00×10^(-11)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHg以下と特定し、電荷輸送層にビフェニル系化合物を含有せしめたことにより、感光体の耐ガス性の向上について当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。
また、初期から文字かすれや濃度むらがない画像が得られるという効果について検討すると、本願明細書【0006】段落の記載によれば、文字かすれ等の問題は帯電から現像までの時間が0.5秒未満のプロセスを用いた複写装置において生じるものであり、本願明細書【0104】段落及び【0108】段落の【表2】には、比較例5、6として、本願補正発明の実施例1で用いた感光体を用いても、帯電から現像までの時間が0.2秒、0.4秒であれば、初期から文字かすれや濃度むらが発生することが記載されている。
してみれば、本願補正発明の感光体が、帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスに使用される感光体であることからみて、初期から文字かすれや濃度むらがない画像が得られるという効果は当然予測される効果にすぎない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び3に記載された発明、並びに刊行物2に記載された如き本願出願前当該技術分野において周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成17年9月29日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成17年2月16日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 帯電から各色の現像までの時間が0.5秒以上であるカラープロセスで使用される、導電支持体上に中間層、電荷発生層、電荷輸送層の順に設けてなる感光体において、電荷輸送層の酸素ガス透過係数が2.00×10^(-11)cm^(3)・cm/cm^(2)・s・cmHg以下であることを特徴とする電子写真感光体。」

(1)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明1は、前記2.で検討した本願補正発明から「電荷輸送層」について限定事項である「ビフェニル系化合物または下記化合物(I)を含有し」(ここで、「化合物(I)」についての記載は省略する。)との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、刊行物1及び3に記載された発明、並びに刊行物2に記載された如き本願出願前当該技術分野において周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1及び3に記載された発明、並びに刊行物2に記載された如き本願出願前当該技術分野において周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1及び3に記載された発明、並びに刊行物2に記載された如き本願出願前当該技術分野において周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2ないし4に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-18 
結審通知日 2007-10-19 
審決日 2007-10-31 
出願番号 特願平8-74366
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 磯貝 香苗高松 大  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 中澤 俊彦
阿久津 弘
発明の名称 電子写真感光体及びそれを用いた画像形成方法  
代理人 小松 秀岳  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  

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