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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1169293
審判番号 不服2004-19229  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-16 
確定日 2007-12-06 
事件の表示 平成11年特許願第246977号「樹脂部材のレーザー溶着方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月21日出願公開、特開2001- 71384〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年9月1日の特許出願であって、平成16年2月25日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月16日に審判請求がなされ、同年10月18日に手続補正書が提出され、同年12月24日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成17年6月7日付けで前置報告がなされ、当審において平成19年4月24日付けで審尋がなされ、同年7月2日に回答書が提出されたものである。

2.補正の却下の決定
[結 論]
平成16年10月18日付けの手続補正を却下する。
[理 由]
(1)補正事項
平成16年10月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成16年4月23日付けで補正された明細書を補正するものであって、補正前の特許請求の範囲の、
「【請求項1】 レーザー光に対して非吸収性の第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性の第二樹脂部材とを重ね合わせ、重ね合わせ部に該第一樹脂部材側からレーザー光を照射して溶着させる樹脂部材のレーザー溶着方法において、
該第一樹脂部材はポリアミド、ポリプロピレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体より選ばれる第一樹脂と該第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性の着色料とからなり、該第二樹脂部材は第二樹脂と該第二樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の着色料とからなることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法。
【請求項2】 レーザー光に対して非吸収性の第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性の第二樹脂部材とを重ね合わせ、重ね合わせ部に該第一樹脂部材側からレーザー光を照射して溶着させる樹脂部材のレーザー溶着方法において、
該第一樹脂部材は第一樹脂と該第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性のアンスラキノン系染料、ペリレン系、ペリノン系、複素環系、ジスアゾ系、モノアゾ系の有機系染料の一種以上よりなる着色料とからなり、該第二樹脂部材は第二樹脂と該第二樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の着色料とからなることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法。
【請求項3】 レーザー光に対して非吸収性の第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性の第二樹脂部材とを重ね合わせ、重ね合わせ部に該第一樹脂部材側からレーザー光を照射して溶着させる樹脂部材のレーザー溶着方法において、
該第一樹脂部材はポリアミド、ポリプロピレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体より選ばれる第一樹脂と該第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性のアンスラキノン系染料、ペリレン系、ペリノン系、複素環系、ジスアゾ系、モノアゾ系の有機系染料の一種以上よりなる着色料とからなり、該第二樹脂部材は第二樹脂と該第二樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の着色料とからなることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法。
【請求項4】 YAG:ネオジム^(3+)レーザーが発するレーザー光に対して非吸収性の第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性の第二樹脂部材とを重ね合わせ、重ね合わせ部に該第一樹脂部材側からレーザー光を照射して溶着させる樹脂部材のレーザー溶着方法において、
該第一樹脂部材はポリアミドよりなる第一樹脂と該第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性のアンスラキノン系染料よりなる着色料とからなり、該第二樹脂部材は第二樹脂と該第二樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の着色料とからなることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法。」
との記載を、
「【請求項1】 レーザー光に対して非吸収性の第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性の第二樹脂部材とを重ね合わせ、重ね合わせ部に該第一樹脂部材側からレーザー光を照射して溶着させる樹脂部材のレーザー溶着方法において、
該第一樹脂部材はポリアミド、ポリプロピレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体より選ばれる第一樹脂と該第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性の着色料とからなり、該非吸収性の着色料が緑色染料と赤色染料とからなる黒色有機系染料であり、該第二樹脂部材は第二樹脂と該第二樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の黒色着色料とからなることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法。」
とする補正を含むものである。
この特許請求の範囲の補正には、補正前の請求項1における「・・・該第一樹脂部材は・・・第一樹脂と該第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性の着色料とからなり、該第二樹脂部材は第二樹脂と該第二樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の着色料とからなる」を「・・・該第一樹脂部材は・・・第一樹脂と該第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性の着色料とからなり、該非吸収性の着色料が緑色染料と赤色染料とからなる黒色有機系染料であり、該第二樹脂部材は第二樹脂と該第二樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の黒色着色料とからなる」とする補正(以下、「補正事項a」という。)が含まれている。

(2)補正の適否について
そこで、本件補正の適否について、以下に検討する。
(2-1)当初明細書の記載事項
補正事項aで特定された「着色料」の内、「第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性の着色料」について、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には、次のとおり記載されている。
ア.「第一樹脂部材に着色する着色料としては、レーザー光に対して十分な吸収性を示さない非吸収性を示すものであればよい。詳しくは、着色される樹脂および着色する色により異なるが、たとえば、アンスラキノン系染料、ペリレン系、ペリノン系、複素環系、ジスアゾ系、モノアゾ系等の有機系染料をあげることができる。また、これらの染料を混合させて用いるてもよい。」(段落【0018】)
イ.「第一樹脂部材1は、黒色有機系染料により着色されたポリプロピレン樹脂よりなり、YAGレーザーの透過率は98%であった。ここで、第一樹脂部材を着色する黒色有機系染料としては、アンスラキノン系緑色染料(C.I.Solvent Green 3)を56.9wt%、アンスラキノン系赤色染料(C.I.Solvent Red 22)を43.1wt%の割合で混合した染料が用いられた。」(段落【0035】)

(2-2)合議体の判断
そうすると、当初明細書には、上記摘示ア.及びイ.のとおり、「レーザー光に対して非吸収性の着色料」として、具体的には、「アンスラキノン系緑色染料(C.I.Solvent Green 3)」と「アンスラキノン系赤色染料(C.I.Solvent Red 22)」との特定の2種の染料の特定比率の組み合わせよりなる「黒色有機系染料」の使用について記載されているのみである。
そして、本件補正後の請求項1における「該非吸収性の着色料が緑色染料と赤色染料とからなる黒色有機系染料であり」との発明特定事項は、上記「アンスラキノン系緑色染料(C.I.Solvent Green 3)」と「アンスラキノン系赤色染料(C.I.Solvent Red 22)」との特定比率の組み合わせからなる「黒色有機系染料」のみならず、これら以外の緑色染料と赤色染料との任意の比率の組み合わせよりなる膨大な数の黒色有機系染料をも包含するものであり、そのような染料の組み合わせについては当初明細書に記載されているとはいえず、また、本願の願書に最初に添付した図面にもこの点は記載されていない。更に、この点が自明とすることもできない。
したがって、補正事項aは、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

なお、審判請求人は平成19年7月2日付け回答書において、請求項1を「・・・該非吸収性の着色料がアンスラキノン系緑色染料とアンスラキノン系赤色染料との混合物からなる黒色有機系染料であり・・・」と補正することを要望している。しかしながら、この「アンスラキノン系緑色染料」及び「アンスラキノン系赤色染料」としては、当初明細書に具体的に記載された上記「C.I.Solvent Green 3」及び「C.I.Solvent Red 22」以外に多くの染料が存在し、これらを任意の比率で組み合わせてなる黒色有機系染料群については、やはり当初明細書に開示がないのであるから、このような補正もまた、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、補正事項aを含む本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

3.本願発明
上記2.のとおり、平成16年10月18日付けの手続補正は却下された。
本願請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年4月23日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項2】 レーザー光に対して非吸収性の第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性の第二樹脂部材とを重ね合わせ、重ね合わせ部に該第一樹脂部材側からレーザー光を照射して溶着させる樹脂部材のレーザー溶着方法において、
該第一樹脂部材は第一樹脂と該第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性のアンスラキノン系染料、ペリレン系、ペリノン系、複素環系、ジスアゾ系、モノアゾ系の有機系染料の一種以上よりなる着色料とからなり、該第二樹脂部材は第二樹脂と該第二樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の着色料とからなることを特徴とする樹脂部材のレーザー溶着方法。」

4.拒絶査定の理由について
原審において拒絶査定の理由とされた、平成16年2月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は以下のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公告(特許掲載公報の発行)又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

請求項1/引用文献1
<引用文献等一覧>
1.特願2000-40437号(特開2000-309694号)

5.先願明細書の記載事項
上記特願2000-40437号(特開2000-309694号;以下、「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)には、次のとおり、記載されている。
a.「黄色顔料とバイオレット顔料との配合顔料を含む、ポリエステルと着色顔料とから作られた成形材料。」(特許請求の範囲、請求項2)
b.「レーザー溶接法によりプラスチックを結合させる上部半透明層を製造するための、黄色顔料とバイオレット顔料とを含むことを特徴とする、請求項1?8のいずれか1項に記載の成形材料の使用。」(特許請求の範囲、請求項10)
c.「本発明の目的のためには、黄色顔料は、特にサンドプラスト・イエロー(Sandoplast Yellow)、キノフタロン群の染料から誘導される顔料である。サンドプラスト・イエロー-2Gは色価「S.V.114=Solvent Yellow 114」を示す。」(段落【0010】)
d.「本発明の目的のためには、バイオレット顔料は、特にサンドプラスト・バイオレット(Sandoplast Violet)、アントラキノン群の染料から誘導される顔料である。サンドプラスト・バイオレット-RSBは色価「S.V.13=Solvent Violet 13」を示す。」(段落【0011】)
e.「驚くべきことに配合顔料を有する本発明の成形材料は、裸眼では黒色に見えても完全にレーザー光に半透明であり、従ってレーザー溶接法のための上部半透明相を製造するのに非常に好適である。」(段落【0014】)
f.「【実施例】比較実施例1
プラスチック1kg当たり6.5gの量のカーボンブラックを添加したポリブチレンテレフタレート製の2つの黒色フィルムを、押し出しにより製造し、各フィルムとも厚さは40μmであった。2つのフィルムを、1のフィルムを他方のフィルムの上に載せて置き、NdYAGレーザー光線を3秒間照射してた。照射後、上部フィルムが融解していたが、2つのフィルムにはいかなる結合もなかった。」(段落【0016】)
g.「実施例1
用いる上部フィルムを、プラスチック1kg当たりサンドプラスト・イエロー0.9gとサンドプラスト・バイオレット5.1gとから作られた黒色の外観の配合顔料を有するポリブチレンテレフタレートとすること以外は比較実施例1を繰り返した。比較実施例1と同様の間、同様のレーザー光線を照射した後、2つのフィルムの間には強固な結合が形成された。」(段落【0017】)

6.対比、判断
先願明細書には、上記摘示a.?g.からみて、次のとおりの発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「カーボンブラックを添加したポリエステルからなる黒色のフィルムの上に、黄色顔料として、キノフタロン群の染料から誘導される「サンドプラスト・イエロー」と、バイオレット顔料として、アントラキノン群の染料から誘導される「サンドプラスト・バイオレット」とから得られた黒色の外観の配合顔料を添加したポリエステルからなり、完全にレーザー光に半透明である黒色のフィルムを、上部半透明層として重ねて、該上部半透明層側からレーザー光線を照射して、上記2つのフィルムの間には強固な結合を形成させる、レーザー溶接法」

そこで、本願発明と先願発明とを対比する。
摘示a.?g.からみて、先願発明における「完全にレーザー光に半透明である黒色のフィルム」及び「カーボンブラックを添加したポリエステルからなる黒色のフィルム」は、それぞれ、「レーザー光に対して非吸収性の樹脂材料」及び「レーザー光に対して吸収性の樹脂材料」ということができる。
そうすると本願発明と先願発明とは、ともに、「レーザー光に対して非吸収性の第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性の第二樹脂部材とを重ね合わせ、重ね合わせ部に該第一樹脂部材側からレーザー光を照射して溶着させる樹脂部材のレーザー溶着法」である点で軌を一にするものである。
そして、先願発明において、上部半透明層としての、完全にレーザー光に半透明である黒色のフィルムを形成するポリエステル(即ち、レーザー光に対して非吸収性の樹脂材料)に添加される配合顔料の内、キノフタロン群の染料から誘導される「サンドプラスト・イエロー」が複素環系の有機系染料であることは明らかであり、また、アントラキノン群の染料から誘導される「サンドプラスト・バイオレット」がアンスラキノン系染料であることは自明であって、これらはそれぞれ、本願発明において「第1樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性の着色料」として列記されたものの内、「複素環系」及び「アンスラキノン系」の有機系染料に該当するものであるから、先願発明における上部半透明層としての黒色のフィルムは、実質上、本願発明における「第一樹脂と該第一樹脂に分散したレーザー光に対して非吸収性のアンスラキノン系染料、ペリレン系、ペリノン系、複素環系、ジスアゾ系、モノアゾ系の有機系染料の一種以上よりなる着色料とからなるレーザー光に対して非吸収性の第一樹脂部材」に該当するものである。
また、先願発明における、カーボンブラックを添加したポリエステルからなる黒色のフィルムは、上記のとおりレーザー光に対して吸収性の樹脂材料であり、カーボンブラックがレーザー光に対して吸収性の着色料であることは摘示f.等から明らかであるから、当該フィルムは、本願発明において「該第二樹脂部材は第二樹脂と該第二樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の着色料とからなる」と規定された「第二樹脂部材」に相当するものである。
したがって、本願発明と先願発明との間に実質的に相違するところはなく、これらの発明は同一の発明である。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-20 
結審通知日 2007-09-25 
審決日 2007-10-22 
出願番号 特願平11-246977
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B29C)
P 1 8・ 161- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 雅博大島 祥吾  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 福井 美穂
宮坂 初男
発明の名称 樹脂部材のレーザー溶着方法  
代理人 近藤 利英子  
代理人 吉田 勝広  

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