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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1169378
審判番号 不服2006-4698  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-13 
確定日 2007-12-03 
事件の表示 平成10年特許願第257116号「動圧型焼結含油軸受ユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月28日出願公開、特開2000- 87953〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要・本願発明
本願は、平成10年9月10日の出願であって、その請求項1ないし請求項3に係る発明は、平成17年10月18日付け及び平成18年4月12日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ラジアル軸受面における動圧溝を成形する成形型を焼結金属製の軸受本体素材の内周面に挿入し、軸受本体素材の外周面をダイに圧入すると共に、軸受本体素材の両端面を一対のパンチ面で保持した状態で軸受本体素材に圧迫力を加えることにより、成形型で軸受本体素材の内周面に軸方向に対して傾斜した動圧溝を有するラジアル軸受面を成形すると共に、少なくとも一方のパンチ面で軸受本体素材の一方の端面に軸との間でスラスト軸受部を構成するスラスト軸受面を成形するに際し、
上記少なくとも一方のパンチ面と、成形型の外周面との直角度を2μm以内に設定することを特徴とする動圧型焼結含油軸受の製造方法。」

なお、上記平成18年4月12日付けでなされた手続補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的としたものと認める。

2.引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-310717号公報(以下、「刊行物1」という。)には、焼結含油軸受およびその製造方法に関して、下記の事項ア?エが図面とともに記載されている。
ア;「次に、本発明の焼結含油軸受の製造方法は、圧粉体を焼結した軸受素材の穴部に、外周に複数の凹部および凸部を設けたマンドレルを挿入し、軸受素材を圧縮して塑性変形させることにより、軸受素材の内周面の一部をマンドレルの凹部へ陥没させて穴部の凸部を形成し、次いでマンドレルを穴部から抜き出すことを特徴としている。」(第2頁2欄27行?33行;段落【0006】参照)

イ;「上記のような成形には通常のサイジング用金型を用いることができ、サイジングと別工程あるいはサイジングと同時に行うことができる。また、軸受素材を軸受ハウジングへ圧入するときに、軸受素材を内周側へ塑性変形させて穴部に凸部を形成することもできる。」(第2頁2欄47行?第3頁3欄1行;段落【0007】参照)

ウ;「B.製造方法の説明
次に、上記のような軸受1を製造する方法について図3を参照して説明する。図3は、図1に示した軸受1の製造方法の一例を実施するための金型の縦断面図である。この図に示す金型は、通常のサイジング用金型とほぼ同等の構成であるが、サイジング用金型におけるコアに代えて凸条(凸部)4aおよび溝(凹部)4bを備えたマンドレル4を用いている点が異なっている。この金型を用いて軸受1を製造するには、まず、図3(a)に示すように、ダイ5、下パンチ6、マンドレル4によって形成されるキャビティに軸受(軸受素材)1を挿入し、同図(b)に示すように、上パンチ7を下降させて圧縮する。すると、軸受1の穴部1aの外周部分と内周部分が半径方向へ膨出しようとし、そのうちの内周部分がマンドレル4の凸条4aおよび溝4bに密着するように塑性変形する。これにより、穴部1aの内周面に凸条2,…と溝3,…が形成される。また、軸受1の外周部分がダイ5の内周面に密着することにより、軸受1の外径が矯正される。
次に、同図(c)に示すように、マンドレル4を残したまま下パンチ6を上昇させると、穴部1aの凸条2,…がマンドレル4の凸条4aによって若干押し潰されながら軸受1がダイ5から押し出される。この場合、軸受1には、多数の気孔の存在によりスプリングバックが生じるため、押し出された軸受1の穴部1aの内周面には凸条2,…と溝3,…が残される。そして、押し潰された軸受1の凸条2,…の稜線部近傍は、他の部分に比べて気孔率が小さくなる。なお、マンドレル4の寸法は、スプリングバック後の穴部1aの内径(凸条2の内径)が製品の公差範囲となるように設定される。よって、以上の工程により軸受1の外径および内径並びに長さが所定の公差範囲に収められ、これによりサイジングが完了する。」(第3頁4欄26行?第4頁5欄8行;段落【0012】及び【0013】参照)

エ;「【発明の効果】以上説明したように本発明の軸受においては、摺動面の流体潤滑を安定して得ることができ、よって、摩擦抵抗が小さく消費電力を低減することができるとともに、潤滑油の流出が少ないため軸受の寿命を伸ばすことができる。また、本発明の軸受の製造方法によれば、従来のサイジング等の工程と同様の工程で製造することができるので、工程が簡略化されしかも加工が容易であるという効果が得られる。」(第5頁7欄3行?10行;段落【0020】参照)

刊行物1に記載された上記記載事項ア?エ及び図面(特に、図2の(a)?(c)及び図3の(a)?(c))の記載からみて、本願発明の記載に倣えば、刊行物1には、下記の発明が記載されているものと認めることができるものである。
「軸受面における溝を成形するマンドレル4を焼結金属製の軸受素材1の内周面に挿入し、軸受素材1の外周面をダイ5に挿入すると共に、軸受素材1の両端面を上パンチ7と下パンチ6のパンチ面で保持した状態で軸受素材1を圧縮する(に圧迫力を加える)ことにより、成形型で軸受本体素材の内周面に溝を有する軸受面を成形する焼結含油軸受の製造方法。」

3.対比・判断
刊行物1に記載された発明の焼結含油軸受の製造法に採用される各部材の奏する機能に照らせば、刊行物1に記載された発明の「軸受素材1」は本願発明の「軸受本体素材」に機能的に相当し、以下同様に、「マンドレル4」は「成形型」に、「ダイ5」は「ダイ」に、「上パンチ7及び下パンチ6のパンチ面」は「一対のパンチ面」に機能的に相当するものと認めることができるものである。

そこで、本願発明の用語を使用して、本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「軸受面における溝を成形する成形型を焼結金属製の軸受本体素材の内周面に挿入し、軸受本体素材の外周面をダイに挿入すると共に、軸受本体素材の両端面を一対のパンチ面で保持した状態で軸受本体素材に圧迫力を加えることにより、成形型で軸受本体素材の内周面に溝を有する軸受面を成形する焼結含油軸受の製造方法。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点1;本願発明では、焼結含油軸受が、動圧型焼結含油軸受であって、内周面をラジアル軸受面として軸方向に対して傾斜した動圧溝を有し、少なくとも一方の端面をスラスト軸受面とするものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、焼結含油軸受が動圧型焼結含油軸受として構成されるものであるのか不明であり、また、軸受素材1の少なくとも一方の端面がスラスト軸受面とされるものであるのか不明である点。

相違点2;本願発明では、軸受本体素材の外周面をダイに圧入するものであって、少なくとも一方のパンチ面と、成形型の外周面との直角度を2μm以内に設定するものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、軸受素材1はダイ5に挿入されるものであって、下パンチ6のパンチ面とマンドレル4の外周面との直角度については、不明である点。

上記相違点1及び相違点2について検討した結果は、次のとおりである。
《相違点1について》
情報機器分野等で使用される軸受として動圧型焼結含油軸受を使用すること、及び、動圧型焼結含油軸受では、内周面に形成される軸受面には軸方向に対して傾斜したラジアル動圧溝が形成され、必要に応じて少なくとも一方の端面にはスラスト軸受面が形成されることは、本願出願前当業者に普通に知られた技術事項にすぎないものである。
そして、刊行物1に記載された発明も、本願発明と同様に情報機器の分野と類似した音響機器等の分野に使用されるものであって、焼結含油軸受を動圧型焼結含油軸受として使用することは、当業者であれば普通に採用することができる程度の技術事項にすぎないものである。
また、軸受素材1の内周面に形成される溝は刊行物1の図2(b)に記載されたような傾斜溝として形成することができるものであって、動圧型軸受として使用する際には、軸受内周面に本願発明のように軸方向に対して傾斜したラジアル動圧溝を形成するとともに、少なくとも一方の端面をスラスト軸受面に形成することも、当業者であれば普通に採用することができる程度の技術事項にすぎないものである。
してみると、刊行物1に記載された発明及び上記周知の動圧形焼結含油軸受の構成を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明の焼結含油軸受を本願出願前周知の情報機器等の動圧型焼結含油軸受として使用することができるように軸受素材1の内周面に軸方向に傾斜したラジアル動圧溝を形成するとともに、一方の端面をスラスト軸受面に形成することにより、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

《相違点2について》
刊行物1に記載された発明では、軸受素材1をダイ5に挿入するものであって、本願発明のようにダイに圧入するものではないが、刊行物1に「また、軸受素材を軸受ハウジングへ圧入するときに、軸受素材を内周側へ塑性変形させて穴部に凸部を形成することもできる。」(上記記載事項イ参照)と記載されていることからも理解できるように、軸受素材をダイに圧入することにより軸受素材の外周面を成形するとともに軸受素材を内周側へ変形させるように構成することも本願出願前周知の技術事項(もし、必要があれば、特開平7-332363号公報等参照)にすぎないものである。
また、刊行物1には「なお、マンドレル4の寸法は、スプリングバック後の穴部1aの内径(凸条2の内径)が製品の公差範囲となるように設定される。よって、以上の工程により軸受1の外径および内径並びに長さが所定の公差範囲に収められ、これによりサイジングが完了する。」(上記記載事項ウ参照)と記載されていることからも理解できるように、焼結含油軸受は公差範囲内の製品とする必要があるものであることからして、本願発明のように下パンチ6のパンチ面とマンドレル4(成形型)の外周面との直角度を可能な限り精緻なものとすることは当業者であれば当然に考慮すべき技術事項と認めることができるものである。
そして、直角度は0μm(理想の値)にできるだけ近づけることができれば十分なものであって、本願発明のように直角度を2μm以内と限定することには、格別な臨界的意義を認めることができないものである。
してみると、刊行物1に記載された発明及び上記周知の技術事項を知り得た当業者であれば、軸受素材1をダイ5に圧入する構成を採用するとともに、下パンチ6のパンチ面とマンドレル4の外周面との直角度をできるだけ精緻なもの(例えば、本願発明のような2μm以下)として、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

また、本願発明の作用効果について検討しても、刊行物1に記載された事項及び本願出願前周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

ところで、請求人は、本願発明の特徴について「(1)コアロッド21の外周面と上パンチ22の直角度を2μm以内に設定していますので、軸受内周面11hに対するスラスト軸受面11f1の直角度が3μm以内の焼結含油軸受11が提供可能となります。この軸受11と、フランジ部13aと外周面の直角度を所定範囲に設定した回転軸13とを組み合わせることにより、スラスト軸受部14での片当りを防止し、確実に面当りを実現することができます。(段落0058参照)。(2)本発明では、軸受本体素材の外周面をダイに圧入しています。このように圧入すれば、素材には内径側への一方向の変形が生じますので、素材内周面を強く成形型に押し付けることができます。しかも成形型への押し付け力が軸方向で均一化されます。以上から、ラジアル軸受面の全面にわたって、動圧溝を精度良く成形することが可能となります。押し付け力が軸方向で均一であれば、軸受機能上重要な素材内周面の密度も軸方向で均一化することもできます。」(平成18年4月12日付け手続補正書の【本願発明が特許されるべき理由】の2.本願発明の特徴の項参照)旨主張している。

しかしながら、請求人が主張する本願発明の特徴については、上記《相違点2について》の項で判断したとおり、何ら格別な特徴といえるものではなく、上記刊行物1に記載された記載事項イ、ウ及び本願出願前周知の事項から、当業者であれば格別創意を要することなく想到することができる技術事項にすぎないものであることは、上記のとおりである。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

4.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-10 
結審通知日 2007-10-11 
審決日 2007-10-23 
出願番号 特願平10-257116
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨岡 和人  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 礒部 賢
山岸 利治
発明の名称 動圧型焼結含油軸受ユニット  
代理人 江原 省吾  
代理人 城村 邦彦  
代理人 田中 秀佳  
代理人 白石 吉之  
代理人 熊野 剛  

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