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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2008800079 | 審決 | 特許 |
無効2009800179 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部無効 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1169392 |
審判番号 | 無効2006-80195 |
総通号数 | 98 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-02-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2006-10-02 |
確定日 | 2007-12-05 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3621703号発明「立体物製造方法及びレーザー焼結物品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3621703号の請求項1?17に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第3621703号に係る発明についての出願は、平成7年8月29日(優先権主張 1994年8月30日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年11月26日にその発明について特許権の設定登録がなされた後、その請求項1?17に係る発明の特許について審判請求人:株式会社アスペクト及び出光テクノファイン株式会社より平成18年10月2日に本件無効審判が請求され、これに対して平成19年1月19日付けで被請求人に対し請求書副本を送達し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、指定期間内に被請求人からは何らの応答もなかったものである。 第2.本件発明 本件特許第3621703号の請求項1?17に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明17」ともいう。)は、本件特許明細書(以下、「本件明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?17に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 立体物製造方法において、 アイオノマー、枝分れポリエチレン、枝分かれポリプロピレン及びナイロン、アセタール、エチレン及びプロピレンのコポリマーから成る群から選択された半晶質有機ポリマーから成り、毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する粉体の層をターゲット面に付ける工程と、 前記層内で形成されるべき物体の断面と対応する、前記層の選択された位置にエネルギーを差し向け、そこに前記粉体を焼結する工程と、 前記ターゲット面に付ける工程と、エネルギーを差し向けて焼結する工程を繰り返して、層状に重ねていき前記物体を形成する工程と、 未焼結の粉体を前記物体から取り除く工程とを備えることを特徴とする、方法。 【請求項2】 前記粉体の融点は、200℃以下であることを特徴とする、請求項1記載の方法。 【請求項3】 前記粉体が、毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重ならない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 立体物製造方法において、 毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する半晶質有機ポリマーから成る粉体の層をターゲット面に付ける工程と、 前記層内で形成されるべき物体の断面と対応する、前記層の選択された位置にエネルギーを差し向け、そこに前記粉体を焼結する工程と、 前記ターゲット面に付ける工程と、エネルギーを差し向けて焼結する工程を繰り返して、層状に重ねていき前記物体を形成する工程と、 未焼結の粉体を前記物体から取り除く工程とを備えることを特徴とする、方法。 【請求項5】 毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有するアイオノマー、枝分れポリエチレン、枝分かれポリプロピレン及びナイロン、アセタール、エチレン及びプロプレンのコポリマーから成る群から選択された半晶質有機ポリマーの粉体をレーザー焼結して形成したレーザー焼結物品。 【請求項6】 前記物品は、前記粉体の圧縮成形された部分の密度の少なくとも80%の密度を有することを特徴とする請求項5に記載のレーザー焼結物品。 【請求項7】 前記物品の密度が、前記粉体の圧縮成形された部分の密度の80%?95%の範囲であることを特徴とする請求項5に記載のレーザー焼結物品。 【請求項8】 前記粉体の融点は200℃以下であることを特徴とする請求項5に記載のレーザー焼結物品。 【請求項9】 前記粉体は、毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有することを特徴とする請求項6、7及び8のいずれか一項に記載のレーザー焼結物品。 【請求項10】 前記粉体の融点は200℃以下であることを特徴とする請求項9に記載のレーザー焼結物品。 【請求項11】 毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する半晶質有機ポリマーの粉体をレーザー焼結して形成したレーザー焼結物品。 【請求項12】 前記粉体の融点は200℃以下であることを特徴とする請求項11に記載のレーザー焼結物品。 【請求項13】 立体物製造方法において、 半晶質有機ポリマーから成る粉体の層をターゲット面に付ける工程であって、前記粉体が、少なくとも0.5の真球度を有する重量の大きな部分を有し、 前記粉体が、53μmよりも小さい粒子の数平均比が80%以上で、180μm以上の粒径を持つ粒子が実質的になく、残りの大径粒子の粒径が53μm乃至180μmの範囲であり、 前記粉体のケーキング温度Tcと粉体の軟化点Tsとの差によって規定される焼結性のウィンドーを有する、前記ターゲット面に付ける工程と、 前記層内で形成されるべき物体の断面と対応する、前記層の選択された位置にエネルギーを差し向け、そこに前記粉体を焼結する工程と、 前記ターゲット面に付ける工程と、エネルギーを差し向けて焼結する工程を繰り返して、層状に重ねていき前記物体を形成する工程とを備えることを特徴とする、方法。 【請求項14】 前記焼結性のウインドーは、2℃乃至25℃の範囲であることを特徴とする請求項13に記載の方法。 【請求項15】 更に未焼結の粉体を前記物体から取り除く工程とを備えることを特徴とする請求項14に記載の方法。 【請求項16】 前記半晶質有機ポリマーは、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート及びポリアセタールから成る群より選ばれることを特徴とする請求項14に記載の方法。 【請求項17】 前記半晶質有機ポリマーは、ナイロンポリマーであり、該ナイロンポリマーは、ナイロン6及びナイロン12から成る群より選ばれることを特徴とする請求項14に記載の方法。」 第3.請求人の主張 請求人は、「特許第3621703号の請求項1?17に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、その証拠方法として下記の甲第1号証?甲第3号証を提出しているところ、その理由の概略は以下のとおりである。 1.無効理由1 本件特許の請求項1?17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 2.無効理由2 本件特許の請求項1?17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 3.無効理由3 本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願についてされたものである。 4.無効理由4 本件特許は、特許法第36条第第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願についてされたものである。 記 1.甲第1号証:国際公開第94/12340号パンフレット(国際公開日1994.6.9) 2.甲第2号証:「JIS工業用語大辞典第4版」財団法人日本規格協会、1995年11月20日第4版第1刷発行、第19頁「アイオノマー」の項、第160頁「枝分かれ重合体」の項、第419頁「共重合体」の項 3.甲第3号証:塩川二朗 監修「MARUZEN カーク・オスマー化学大辞典」、丸善株式会社、平成2年11月30日第3刷発行、1304頁 第4.当審の判断 1.証拠の記載事項 (1)甲第1号証 ア. 「1. 選択的レーザー焼結機の部品ベッドに含まれた、熱的に劣化する材料のレーザー焼結可能な粉体から焼結部品を造形し、前記焼結機においてリサイクル可能な粉体を再使用できるように回収するプロセスであって、 (a)前記部品ベッドにおいて前記レーザー焼結可能な粉体を静止状態のベッドに保持し、 (b)前記部品ベッド表面やその近くの粒子が乱されない、あるいはチャネリングが生じない程度の流量、3乃至12kPaの範囲内で圧力降下する105kPa乃至120kPaの範囲の超過大気圧、及び、前記粉体の温度を軟化温度Ts以下の温度において、下方に向かって冷却ガス流を前記粉体表面に流し、 (c)前記粉体のケーキング温度Tcより高くない温度で、前記粉体ベッドの下部から冷却ガスを引き抜き、 (d)供給ベッドから前記部品ベッド上に粉体を拡布して、Ts近傍の温度で50μm乃至80μmの範囲の深さの第1層を形成し、 (e)カールが発生しないように第1焼結スライスを形成するに十分なエネルギーをもったレーザービームを3次元モデルの2次元断面から得られるパタンに従って照射し、 (f)前記供給ベッドから前記粉体の第2層を前記第1スライス上に拡布して、第1スライスに焼結される第2スライスを形成し、 (g)さらに、前記部品ベッドの焼結領域にレーザービームを連続的2次元断面から得られるパタンに従って照射し、 (h)前記供給ベッドから前記粉体の第3の層を運んで、前記第2スライス上にカールが発生しないように第3の層を拡布し、 (i)すべての層が前記部品の3次元モデルの連続的断面に対応するスライスとして連続的に焼結するように、前記工程を順次繰り返し、 (j)前記焼結部品の表面に粉体の膨らみが形成されないように、前記部品ベッドに置かれた3次元焼結部品を形成し、 (k)前記部品ベッドで最高の温度領域を通じて前記部品ベッドの上面から水平面の粉体の最高温度(ケーキング温度Tcより低い)までの正の温度勾配を維持し、最高温度から前記部品ベッドの底面までの負の温度勾配を維持し、 (l)歪みのない焼結部品と、自由に流動できる未焼結粉体を回収すること を特徴とする。 ・・・ 4. 前記粉体の大部分が、0.5乃至0.9の範囲の真球度と、180μm以下の平均直径を持つ一次粒子からなる2段粒径分布とを有し、180μmを超える粒径を持つ粒子が実質的になく、 53μmよりも小さい粒子の数平均比が80%以上であり、残る粒子の粒径範囲が53μm乃至180μmであり、250μm以下の深さの粉体層が、これに照射された10.6μmの波長のビームの赤外線エネルギーを本質的に全て吸収し、厚さが180μm以下の層でエネルギーの50%以上を吸収することを特徴とする、請求項3の方法。 ・・・ 9. 前記酸素の濃度が0.1%以下に保たれ、前記粉体が、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート、及びポリアセタールからなる群より選ばれるものであることを特徴とする、請求項7の方法。」(請求項1、4、9) イ. 「調製粉体を焼結することによって形成される焼結製品(あるいは”部品”)は、多孔質であるが、±125μmの誤差範囲で正確な寸法をもった所定の形状を有する。”多孔質(porous)”という用語は、完全に緻密であると考えられる等方圧縮成形品の60%乃至95%の範囲の密度をもち(空隙率が0.4乃至0.05)、代表的には、60%乃至80%(空隙率が0.4乃至0.2)の密度をもつ。特別の限定された条件下では、上述の調製されたSLS粉体から、”ほぼ完全に緻密”な部品を造ることができる。 ”ほぼ完全に緻密”という用語は、完全に緻密であると考えられる圧縮成形物品の80%乃至95%(空隙率が02乃至0.05)、代表的には、85%乃至90%(空隙率が0.15乃至0.1)の密度を持つわずかに多孔質である物品に関する。」(第3頁22?37行) ウ. 「部品の製造は、焼結性粉体の第1部分を部品ベッドのターゲット上に堆積し、照準を合わせたレーザーをターゲット面にわたって走査し、ターゲット面上の粉体の第1部分からなる第1層を焼結し、第1スライスを形成することによって行われる。粉体の焼結は、粉体を焼結させるのに十分高いエネルギーを、第1スライスを画定する境界内で作動することによって行われる。第1スライスは、部品の第1断面領域と対応する。 粉体の第2部分を第1焼結スライスの表面上に堆積し、照準を合わせたレーザービームで第1焼結スライス上の粉体を走査する。第2スライスを画定する境界内でレーザービームを作動することによって、粉体の第2部分からなる第2層を焼結する。また、第2焼結スライスの形成によって、第1焼結スライスと第2スライスが結着し、一体的な集合物(凝集マス)となる。前に焼結したスライス上に粉体層を堆積し、各層を焼結してスライスを形成する。 上述の工程を繰り返すことによって、ターゲット面を継続的に提供する粉体の”部品ベッド”内にレーザー焼結品が形成される。」(第5頁8?28行) エ. 「さらに、リサイクル粉末は、Tsに近い温度ではバージン粉末と同じ流動性をもち、また同じ”粘性(sticky)”温度、あるいは”ケーキング(caking)”温度をもっている。このケーキング温度TcはTsよりもおよそ2℃乃至25℃程度低い。TcとTsとの差は、”焼結ウィンドウ”又は”Tウィンドウ”とも言われるが、ここでは以下、”SLSウィンドウ”という。」(第8頁28?35行) オ. 「即ち、粉体の温度が、”焼結ウィンドウ”に入ることが好ましい。このウィンドウは、同じ粉体試料についての2つのDSC(示差走査熱分析)曲線により計測できる。これらの2回の分析は、分析間の遅延を最小にして続けて行われる。一方の分析では、融点を越えて試料を加熱し、他方の分析では、試料をその融点以上の温度からその再結晶温度まで冷却する。加熱曲線における溶融開始温度Tmと、冷却曲線における過冷却開始温度Tscとの間の差が、焼結ウィンドウの幅の計測値である(第6図参照)。 SLSウィンドウの上限は、粉体が流動しない程度に軟化するTcによって決定される。SLSウィンドウの下限は、冷却曲線にみられるような粉体の性質が明確に変化する点である。このような理由により、回収・再利用される粉体の本質的な性質は、レーザー焼結が可能なように広いウィンドウを有すること、すなわち、Tcより約2℃乃至25℃低い温度、代表的にはTcより5℃乃至15℃低い温度で自由に流動できることである。」(第10頁32行?第11頁14行) カ. 「調製された粉体は、”SLS ウィンドウ”内で自由に流動できるという本質的性質を有する。このウィンドウの幅は粉体の材料によって異なるが、この幅の範囲は、約2℃乃至25℃、更に代表的には約5℃乃至15℃である。このような粉体をSLS装置で焼結することにより、ほぼ完全に緻密な物品を形成できる。」(第12頁27?33行) キ. 「回収性と再利用性に最も適した粉体は、ナイロンやポリブチレンテレフタレート(PBT)の半晶質粉体である。」(第13頁27?30行) ク. 「調製粉体は、以下の物理的性質を有する。 ・・・・ (c)SLSウィンドウの幅がTsより2℃乃至25℃低く」(第16頁14?32行) ケ. 「(c)粉体が、粉体のTc以下の70℃乃至220℃範囲にあるTs近くの温度で行われた流れ試験(ASTM D1895-61T)で、100gについて20秒以下の”流動時間”を持つように、2℃乃至25℃の温度範囲の”SLSウィンドウ”が粉体の軟化温度Tsとその”ケーキング温度”Tcとの間に形成され、」(第21頁8?13行) コ. 「第6図は、レーザー焼結性PBT粉体の加熱曲線及び冷却曲線についてのDSC走査を示す図である。」(第23頁6?7行) サ. 「以上の詳細は、図6に示すSLSウィンドウの物性図として等価的に表すことができる。図6では、曲線A(熱流に従って正方形でプロットした)は、PBT調製粉体からなる試料についての冷却曲線を示す。ピークは193℃で起こるが、矢印C(Ts)で示す点である202℃近くの温度で過冷却が始まる。曲線B(円でプロットした)は、同じ試料についての加熱曲線を示す。ピークは224℃で起こるが、矢印M(Tc)で示す点である212℃近くの温度で溶融が始まる。かくして、M及びCの温度差によりウィンドウWが形成され、これは、PBTのこの試料については10℃である。」(第31頁20?31行) シ. 「実施例 下記の例では、粉体として、数平均分子量約80,000、Mw/Mn=1.6、G'c=2×10^(6)dynes/cm^(2)(175℃)のナイロン11を使用し、この粉体を幅0.6mm、レーザー出力8W、走査速度175cm/secのビームで焼結し、試験棒にした。 表1(34頁に示された)において、・・・”本願発明のレーザー焼結品”の欄は、180μm以下の未調製の粉体を使用した新規なSLSプロセスで得られた試験棒についての結果を示している。」(第31頁33行?第34頁9行) ス.「SLS装置での使用においてうまく調製された他の望ましい半晶質ポリマーは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアセタール(PA)である。」(第33頁6?9行) セ. (2)甲第2号証 ソ. 「アイオノマー ionomer イオン架橋結合をもった高分子化合物の総称。通常、オレフィン・カルボン酸共重合体と金属とのイオン結合による架橋ポリマーで、接着性及びヒートシール性が良い。」(第19頁右欄) タ. 「枝分かれ重合体 ”えだわかれじゅうごうたい” branched polymer 複数の枝分かれ接合点の間及びそれぞれの鎖の末端と枝分かれ接合点の間が直鎖状である枝分かれ構造を有する分子から構成される重合体。□注(原文では□の中に注の文字)枝分かれはマー(単量体単位)から構成される。」(第160頁右欄) チ. 「共重合体 ”きょうじゅうごうたい” copolymer 2種類又はそれ以上の異なる単量体から構成された重合体。」(第419頁右欄) (3)甲第3号証 ツ. 表3にナイロン-11の融点が194℃であることが記載されている。(第1304頁) 2.無効理由1及び2について (1)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、選択的レーザー焼結機(SLS装置)において、熱的に劣化する材料のレーザー焼結可能な粉体から焼結部品を造形し、その後、未焼結粉体を回収すること(摘示記載ア、請求項1)および当該粉体はナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリエチレンからなる群より選ばれる半晶質ポリマーであること(摘示記載ア、請求項9、摘示記載キ、シ、ス)が記載されている。 そして、その焼結の方法は次のようなものである。 「部品の製造は、焼結性粉体の第1部分を部品ベッドのターゲット上に堆積し、照準を合わせたレーザーをターゲット面にわたって走査し、ターゲット面上の粉体の第1部分からなる第1層を焼結し、第1スライスを形成することによって行われる。粉体の焼結は、粉体を焼結させるのに十分高いエネルギーを、第1スライスを画定する境界内で作動することによって行われる。第1スライスは、部品の第1断面領域と対応する。 粉体の第2部分を第1焼結スライスの表面上に堆積し、照準を合わせたレーザービームで第1焼結スライス上の粉体を走査する。第2スライスを画定する境界内でレーザービームを作動することによって、粉体の第2部分からなる第2層を焼結する。また、第2焼結スライスの形成によって、第1焼結スライスと第2スライスが結着し、一体的な集合物(凝集マス)となる。前に焼結したスライス上に粉体層を堆積し、各層を焼結してスライスを形成する。上述の工程を繰り返すことによって、ターゲット面を継続的に提供する粉体の”部品ベッド”内にレーザー焼結品が形成される。」(摘示記載ウ) そうであるから、甲第1号証には、 「焼結部品の製造方法において、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート及びポリアセタールからなる群より選ばれる半晶質ポリマーの焼結性粉体を用い、前記粉体を部品ベッドのターゲット上に堆積し、照準を合わせたレーザーをターゲット面にわたって走査し、ターゲット面上の粉体を焼結する工程を繰り返して、粉体層を重ねていき、ターゲット面を継続的に提供する粉体の”部品ベッド”内にレーザー焼結品を形成し、焼結部品から未焼結粉体を回収することを特徴とする方法。」の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)が記載されている。 また、甲1発明の方法によって製造される物は、「ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート及びポリアセタールからなる群より選ばれる半晶質ポリマーの焼結性粉体をレーザー焼結して形成した焼結物品」であるから、甲第1号証には、当該焼結物品の発明(以下、「甲1物品発明」ともいう。)が記載されている。 (2)本件発明1について (2)-1.対比 甲1発明の焼結部品の製造方法は、立体物製造方法といえるものであり、レーザーはエネルギーであることはいうまでもない。 そうであるから、本件発明1と甲1発明とは 「立体物製造方法において、 半晶質有機ポリマーから成る粉体の層をターゲット面に付ける工程と、前記層内で形成されるべき物体の断面と対応する、前記層の選択された位置にエネルギーを差し向け、そこに前記粉体を焼結する工程と、前記ターゲット面に付ける工程と、エネルギーを差し向けて焼結する工程を繰り返して、層状に重ねていき前記物体を形成する工程と、未焼結の粉体を前記物体から取り除く工程とを備えることを特徴とする、方法。」の点で一致し、次の相違点1、2で一応相違する。 【相違点1】 本件発明1では、半晶質有機ポリマーは「アイオノマー、枝分れポリエチレン、枝分かれポリプロピレン及びナイロン、アセタール、エチレン及びプロピレンのコポリマーから成る群から選択された」物であるのに対し、甲1発明では「ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート及びポリアセタールからなる群より選ばれる」物である点。 【相違点2】 本件発明1では、半晶質有機ポリマーの粉体は、「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」のに対し、甲1発明では、かかる特定はなされていない点。 (2)-2.相違点に対する判断 そこで、相違点1、2について次に検討する。 相違点1について まず、本件発明1の「アイオノマー、枝分れポリエチレン、枝分かれポリプロピレン及びナイロン、アセタール、エチレン及びプロピレンのコポリマーから成る群から選択された」との記載は、コポリマーとの記載がその前のいずれの箇所を受けるのかが不明確であり、当該コポリマーが何と何からなるコポリマーであるのかが不明確である。 これについては、本件明細書には格別定義はなされてはいない。 そこで、コポリマーの通常の意味について検討するに、コポリマー(共重合体)は2種類又はそれ以上の異なる単量体から構成された重合体(摘示記載チ)であるから、コポリマーを構成するのは、単量体である。 本件発明1の「アイオノマー、枝分れポリエチレン、枝分かれポリプロピレン及びナイロン」はポリマーを意味する(摘示記載ソ、タ)のに対し、「アセタール、エチレン及びプロピレン」はモノマーを意味する用語である。これについては本件請求項16、17において「ナイロン」と記載されており、ナイロンコポリマーとは記載されていないことからも伺える事項である。 そうであるから、本件発明1で、コポリマーを構成しえるのは、単量体として記載されている「アセタール、エチレン及びプロピレン」であるから、本件発明1の上記記載は、「『アイオノマー、枝分れポリエチレン、枝分かれポリプロピレン及びナイロン』並びに『アセタール、エチレン及びプロピレンのコポリマー』から成る群から選択された」と解するのが相当である。 これを前提にして以下、本件発明1と甲1発明とを対比する。 ポリエチレンは、通常、枝分れを有しているものであるから、甲1発明のポリエチレンは枝分れポリエチレンといえるものである。 一方、本件発明1の枝分れポリエチレンについては、本件明細書に格別定義もなされていないことから、通常の枝分れを有するポリエチレンとの差異は認められない。 したがって、甲1発明のポリエチレンは本件発明1の枝分れポリエチレンに相当するものであり、この点で両発明は相違しない。 また、引用発明のナイロン6、ナイロン11、ナイロン12は、本件発明1のナイロンの下位概念に当たるものであるから、この点でも両発明は重複一致する。 以上のことから、相違点1は実質的な相違点とはいえない。 相違点2について まず、本件発明1の「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」との特定の意味について検討する。 本件明細書には、「溶融ピーク」及び「再結晶ピーク」について特にその定義はなされていない。 そこで、本件明細書の記載について検討する。 本件明細書には、図6について「第6図では、曲線A(熱流に従って正方形でプロットした)は、PBT調製粉体からなる試料についての冷却曲線を示す。ピークは193℃で起こるが、矢印C(Ts)で示す点である202℃近くの温度で過冷却が始まる。曲線B(円でプロットした)は、同じ試料についての加熱曲線を示す。ピークは224℃で起こるが、矢印M(Tc)で示す点である212℃近くの温度で溶融が始まる。かくして、M及びCの温度差によりウィンドウが形成され、これは、PBTのこの試料については10℃である。」(特許公報第16頁33?38行)と記載され、また、「溶融後比較的ゆっくりと再結晶する材料は、寸法が十分に安定しており、選択的レーザー焼結プロセスでほぼ完全に緻密な歪のない部品を提供する。特定的には、選択的レーザー焼結プロセスでは、毎分10℃乃至20℃の代表的な速度でDSCで走査した場合に融点と再結晶ピークがほとんど又は全く重ならないポリマーが最も優れている。」(特許公報第13頁14?18行)、「第8A図及び第8B図は、ナイロン11について毎分10℃の速度で行った加熱曲線及び冷却曲線を夫々示す。第8A図は、ナイロン11粉体の試料についての加熱曲線を示す。第8B図は、同じナイロン11粉体の試料についての冷却曲線を示す。第8A図及び第8B図に示す融点及び再結晶ピークは全く重ならない。第8A図及び第8B図は、ナイロン11が、冷却時に、その融点よりもかなり低い温度で再結晶することを示す。かくして、融点以下の温度において、ナイロン11は、ワックスよりも比較的長く液体の状態を保つ。液体は応力を支持しないため、ナイロン11は、選択的レーザー焼結プロセスにおいて固有カールを形成しない。ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びイオノマーは、DSC走査及び選択的レーザー焼結プロセスにおける溶融挙動及び再結晶挙動が似ており、従って、これらの材料は本発明のこの特徴による好ましい材料である。この性質を示し、従って本発明のこの特徴による好ましい材料である他の材料は、ナイロン、アセタール、エチレン、及びプロピレンのコポリマー、並びにポリエチレン及びポリプロピレンの側鎖を持つ態様である。これは、ポリマーの分子構造に対するこれらの種類の変形は、結晶度並びに再結晶速度の制御に使用できるためである。 従って、毎分10℃乃至20℃の代表的な速度で走査した場合の融点と再結晶ピークがほとんど又は全く重ならないポリマーが最も優れている。例えば、ワックスはこの試験によって適当な材料でなく、これに対し、ナイロン11は適当な材料である。(第7A図及び第7B図を第8A図及び第8B図と比較されたい)。更に、最も適当な材料は、融点が200℃以下である。上述のように、本発明のこの特徴による適当な材料には、ナイロン11、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びイオノマー;ナイロン、アセタール、エチレン、及びプロピレンのコポリマー;ポリエチレン及びポリプロピレンの枝分かれ態様が含まれる。」(特許公報第18頁22?43行)と記載されている。 この図6?図8Bは、示差走査熱分析による加熱曲線、冷却曲線を示すものであって、図6の加熱曲線のピークが、図7A、図8Aの融点ピーク、に相当し、図6の冷却曲線のピークが図7B、図8Bの再結晶ピークに相当するものと解される。また、図8A?8Bは本件発明の例を説明している図面であるから、その融点ピークは、本件発明1でいう溶融ピークを意味するものと解するのが自然である。 そして、図6において両ピークが重なりを示さないということは、Tc-Ts=W>0ということになるから、結局、「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」とは、Tc-Ts=W(焼結ウィンドウ)>0のことを意味していると解される。 また、本件明細書には、半晶質有機ポリマーである「アイオノマー、枝分れポリエチレン、枝分かれポリプロピレン及びナイロン、アセタール、エチレン及びプロピレンのコポリマーから成る群から選択された半晶質有機ポリマー」として、特別なものを選択する旨の記載はないから、これを用いることにより、所期の効果が奏せられる、すなわち、良好な焼結部品が得られるものと認められる。 そうであるから、結局、本件発明1の「アイオノマー、枝分れポリエチレン、枝分かれポリプロピレン及びナイロン、アセタール、エチレン及びプロピレンのコポリマーから成る群から選択された半晶質有機ポリマー」であれば、「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」と解さざるを得ない。 一方、甲第1号証の実施例1に用いられたナイロン11(摘示記載シ)と本件明細書の表1に示されたナイロン11とは、全く同じ数平均分子量、Mw/Mn、G'cを有するのものである(特許公報第16頁39?40行)から、甲1発明のナイロン11は「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」ものと解するのが相当である。 そして、甲第1号証にはナイロン11と同様に、SLS装置での使用においてうまく調製された他の望ましい半晶質ポリマーは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアセタール(PA)であること(摘示記載ス)が記載されているから、これらの半晶質ポリマーは、ナイロン11と同様、「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」ものと解するのが相当である。 そうすると、甲1発明においても、ナイロン11のみならず、半晶質有機ポリマーは、「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」といえる。 したがって、相違点2も実質的な相違点とはいえない。 また、仮に、甲第1号証において、甲1発明の半晶質ポリマーが、「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」ことが明らかとまではいえないとしても、甲第1号証には、第6図に、PBTの例として示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークとが重なりを示さないこと示され、当該PBTが焼結粉末として優れていることが記載されているから(摘示記載オ?キ、サ、セ)、PBT以外の半晶質ポリマーについても、周知の走査速度である毎分10℃?20℃の走査速度で示差走査熱分析を行い、その溶融ピーク及び再結晶ピークについて確認することは当業者が適宜行う事項に過ぎない。 (2)-3.まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1をさらに「前記粉体の融点は、200℃以下であることを特徴とする」と限定するものであるが、ナイロン11の融点が200℃以下であることは甲第3号証(摘示記載ツ)に記載されているように周知である。 また、本件明細書に「更に、最も適当な材料は、融点が200℃以下である。上述のように、本発明のこの特徴による適当な材料には、ナイロン11、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びイオノマー;ナイロン、アセタール、エチレン、及びプロピレンのコポリマー;ポリエチレン及びポリプロピレンの枝分かれ態様が含まれる。」(特許公報第18頁39?43行)と記載されていることから、ナイロン11のみならず、「ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアセタール」についても融点が200℃以下と解されるから、甲1発明の半晶質ポリマーには、融点が200℃以下の物が包含されていることは明らかである。 したがって、本件発明2は、上記した限定以外の部分については本件発明1と同じであるから、上記した理由及び「(2)本件発明1について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)本件発明3について 本件発明3は、「前記粉体が、毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重ならない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。」であり、実質的に本件発明1または2と差異はないものである。 よって、本件発明3は、上記の「(2)本件発明1について」及び「(3)本件発明2について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)本件発明4について 本件発明4と、甲1発明とを対比すると、両者は、 「立体物製造方法において、 半晶質有機ポリマーから成る粉体の層をターゲット面に付ける工程と、 前記層内で形成されるべき物体の断面と対応する、前記層の選択された位置にエネルギーを差し向け、そこに前記粉体を焼結する工程と、 前記ターゲット面に付ける工程と、エネルギーを差し向けて焼結する工程を繰り返して、層状に重ねていき前記物体を形成する工程と、 未焼結の粉体を前記物体から取り除く工程とを備えることを特徴とする、方法。」の点で一致し、次の相違点3で一応相違する。 【相違点3】 本件発明4では、半晶質有機ポリマーの粉体は、「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」のに対し、甲1発明では、かかる特定はなされていない点。 相違点3は、上記の相違点2と同じであるから、「(2)本件発明1について」で述べたと同様の理由により、実質的な相違点とは認められない。 したがって、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (6)本件発明5について 本件発明5と、甲1物品発明とを対比すると、両者は、 「半晶質有機ポリマーの粉体をレーザー焼結して形成したレーザー焼結物品。」の点で一致し、次の相違点4、5で一応相違する。 【相違点4】 本件発明5では、半晶質有機ポリマーは「アイオノマー、枝分れポリエチレン、枝分かれポリプロピレン及びナイロン、アセタール、エチレン及びプロピレンのコポリマーから成る群から選択された」物であるのに対し、甲1物品発明では「ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート及びポリアセタールからなる群より選ばれる」物である点。 【相違点5】 本件発明5では、半晶質有機ポリマーの粉体は、「毎分10℃?20℃の走査速度で計測を行った場合に重なりを示さない、示差走査熱分析曲線に示す溶融ピーク及び再結晶ピークを有する」のに対し、甲1物品発明では、かかる特定はなされていない点。 相違点4は上記の相違点1と、相違点5は上記の相違点2とそれぞれ同じであるから、「(2)本件発明1について」で述べたと同様の理由により、実質的な相違点とは認められない。 したがって、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (7)本件発明6、7について 本件発明6、7は、本件発明5に、それぞれ「前記物品は、前記粉体の圧縮成形された部分の密度の少なくとも80%の密度を有する」、「前記物品の密度が、前記粉体の圧縮成形された部分の密度の80%?95%の範囲であること」との限定を付すものである。 しかしながら、甲第1号証には、「調製粉体を焼結することによって形成される焼結製品(あるいは”部品”)は、多孔質であるが、±125μmの誤差範囲で正確な寸法をもった所定の形状を有する。『多孔質(porous)』という用語は、完全に緻密であると考えられる等方圧縮成形品の60%乃至95%の範囲の密度をもち(空隙率が0.4乃至0.05)、代表的には、60%乃至80%(空隙率が0.4乃至0.2)の密度をもつ。特別の限定された条件下では、上述の調製されたSLS粉体から、『ほぼ完全に緻密』な部品を造ることができる。 『ほぼ完全に緻密』という用語は、完全に緻密であると考えられる圧縮成形物品の80%乃至95%(空隙率が02乃至0.05)、代表的には、85%乃至90%(空隙率が0.15乃至0.1)の密度を持つわずかに多孔質である物品に関する。」(摘示記載イ)と記載されている。 したがって、当該密度において差異はない。 本件発明6、7は、上記した限定以外の部分については本件発明5と同じであるから、上記した理由及び「(6)本件発明5について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (8)本件発明8について 本件発明8は、本件発明5をさらに「前記粉体の融点は200℃以下であること」と限定するものであるが、この点については、上記「(3)本件発明2について」に記載したとおり、甲第1号証に記載された事項である。 したがって、本件発明8は、上記した限定以外の部分については本件発明5と同じであるから、上記した理由及び「(6)本件発明5について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (9)本件発明9、10について 本件発明9、10は、本件発明6?8と実質的に差異はないものである。 したがって、本件発明9、10は、「(7)本件発明6、7について」及び「(8)本件発明8について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (10)本件発明11、12について 本件発明5は本件発明11の、本件発明8は本件発明12の発明を特定する事項をすべて含む発明である。 本件発明11、12の発明を特定する事項をすべて含む本件発明5、8が、「(6)本件発明5について」、「(8)本件発明8について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明11、12も同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (11)本件発明13について 本件発明13と甲1発明とを対比すると、両者は、 「立体物製造方法において、 半晶質有機ポリマーから成る粉体の層をターゲット面に付ける工程、 前記層内で形成されるべき物体の断面と対応する、前記層の選択された位置にエネルギーを差し向け、そこに前記粉体を焼結する工程と、 前記ターゲット面に付ける工程と、エネルギーを差し向けて焼結する工程を繰り返して、層状に重ねていき前記物体を形成する工程とを備えることを特徴とする、方法。」の点で一致し、次の相違点6で一応相違する。 【相違点6】 本件発明13は、半晶質有機ポリマーから成る粉体の層をターゲット面に付ける工程において、「前記粉体が、少なくとも0.5の真球度を有する重量の大きな部分を有し、前記粉体が、53μmよりも小さい粒子の数平均比が80%以上で、180μm以上の粒径を持つ粒子が実質的になく、残りの大径粒子の粒径が53μm乃至180μmの範囲であり、 前記粉体のケーキング温度Tcと粉体の軟化点Tsとの差によって規定される焼結性のウィンドーを有する」との限定が付されているのに対し、甲1発明では、かかる限定が付されていない点。 そこで、相違点6について次に検討する。 本件発明13の上記限定において、「180μm以上の粒径を持つ粒子が実質的になく、残りの大径粒子の粒径が53μm乃至180μmの範囲であり」との記載は、180μmの粒子が許容されるか否かが不明確であり、次の2つの場合が考えられる。 a.「180μm以上の粒径を持つ粒子が実質的になく、残りの大径粒子の粒径が53μm乃至180μm未満の範囲であり」、 b.「180μmを超える粒径を持つ粒子が実質的になく、残りの大径粒子の粒径が53μm乃至180μmの範囲であり」 これに対し、甲第1号証には、粉体が「少なくとも0.5の真球度を有する重量の大きな部分を有し、前記粉体が、53μmよりも小さい粒子の数平均比が80%以上で、180μmを超える粒径を持つ粒子が実質的になく、残りの大径粒子の粒径が53μm乃至180μmの範囲である」ことが記載されていおり(摘示記載ア、請求項4)、本件発明13が上記bの場合であれば、この点において差異はない。 また、本件発明13が上記aの場合でも、甲第1号証の上記粒径の記載に基づいて、その粒径範囲を限定することに格別困難はない。 さらに、甲第1号証には、焼結が焼結ウィンドウ(SLSウィンドウ)で行われること(摘示記載エ?カ、ケ)が記載されており、その焼結ウィンドウは「粉体のケーキング温度Tcと粉体の軟化点Tsとの差によって規定される」ことも記載されている(摘示記載オ、カ、ケ、サ)から、「前記粉体のケーキング温度Tcと粉体の軟化点Tsとの差によって規定される焼結性のウィンドーを有する」点は、実質的な相違点とはいえない。 この点は、甲第1号証には、SLSウィンドウを説明する図面として図6が示されているが(摘示記載コ、サ、セ)、この図6は、本件明細書の図6と全く同じ図面であることからも裏付けられるものである。 よって、本件発明13は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (12)本件発明14について 本件発明14は、本件発明13をさらに「前記焼結性のウインドーは、2℃乃至25℃の範囲である」と限定するものである点で、甲1発明と差異がある。 しかしながら、この温度範囲は、摘示記載オ、カ、ク、ケ、サ、セに示されており、この点も実質的な相違点ではない。 したがって、本件発明14は、上記した限定以外の部分については本件発明13と同じであるから、上記した理由及び「(11)本件発明13について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (13)本件発明15について 本件発明15は、本件発明14をさらに「未焼結の粉体を前記物体から取り除く工程とを備えることを特徴とする」と限定するものである。 しかしながら、この点は、甲1発明においても構成要件であり、この点に差異はない。 したがって、本件発明15は、「(12)本件発明14について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (14)本件発明16、17について 本件発明16、17は、それぞれ、本件発明14を「前記半晶質有機ポリマーは、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート及びポリアセタールから成る群より選ばれること」、「前記半晶質有機ポリマーは、ナイロンポリマーであり、該ナイロンポリマーは、ナイロン6及びナイロン12から成る群より選ばれる」と限定するものである。 しかしながら、甲1発明は「ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート及びポリアセタールからなる群より選ばれる半晶質ポリマーの焼結性粉体」を用いるものであるから、この点においても差異はない。 したがって、本件発明16、17は、上記した理由及び「(12)本件発明14について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (15)まとめ 以上のとおり、本件発明1?17に係る特許は,特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明1?17に係る特許は、同条第2項の規定に違反してなされたものである。 第5.結び 以上のとおりであるから、他の無効理由について検討するまでもなく、本件の請求項1?17に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-07-10 |
結審通知日 | 2007-07-12 |
審決日 | 2007-07-26 |
出願番号 | 特願平8-508948 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Z
(C08J)
P 1 113・ 113- Z (C08J) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
一色 由美子 |
特許庁審判官 |
宮坂 初男 井出 隆一 |
登録日 | 2004-11-26 |
登録番号 | 特許第3621703号(P3621703) |
発明の名称 | 立体物製造方法及びレーザー焼結物品 |
代理人 | 岡本 啓三 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 岡本 啓三 |