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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04G |
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管理番号 | 1169405 |
審判番号 | 不服2005-18600 |
総通号数 | 98 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-02-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-09-27 |
確定日 | 2007-12-07 |
事件の表示 | 平成7年特許願第231752号「繊維強化コンクリート構造物およびその施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年3月25日出願公開、特開平9-78850〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成7年9月8日の出願であって、平成17年8月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであって、その請求項1に係る発明は、平成16年11月11日付け手続補正による特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「コンクリート構造物の外周を繊維強化樹脂管状体で強化してなる繊維強化コンクリート構造物であって、この繊維強化樹脂管状体が、実質的に周方向に連続する強化繊維を含む繊維強化樹脂層とその内側にあって、複数の繊維強化樹脂長尺体をこれらの繊維強化樹脂長尺体同士の長手方向が一致する状態で繊維強化樹脂管状体の周方向に沿って配置した層とからなり、かつこの層間が接着されていないことを特徴とする繊維強化コンクリート構造物。」 (以下、「本願発明」という。) 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭64-83768号公報(以下、「引用例1」という。)には、「既存構造物の補強方法」に関して、次の(イ)ないし(リ)の事項が記載されている。 (イ)「コンクリート製既存構造物の軸方向にテープ状あるいはシート状に構成した偏平な第1の高強度長繊維を接着剤を介して並列方向へ貼着するとともに、該第1の高強度長繊維に重ねて第2の高強度長繊維を横方向へ捲回してなることを特徴とする既存構造物の補強方法。」(2.特許請求の範囲(1)) (ロ)「《産業上の利用分野》本発明はコンクリート製既存構造物の補強方法に関するものである。」(第1頁右欄第1行目?3行目) (ハ)「・・・高強度長繊維ストランドをコンクリート柱と強固に接着した場合には、柱の初期亀裂の発生を抑えることができるが、一旦亀裂が発生すると亀裂発生個所のストランドに応力が集中してストランドが比較的早い時期に破断してしまい、一方これに対し、上記ストランドをコンクリート柱と未接着状態で捲回した場合には、柱の初期亀裂の発生抑止効果は期待できないが、亀裂が発生した後において大きな拘束力を発揮することが知得された。」(第2頁右上欄第17行目?左下欄第6行目) (ニ)「煙突1の外周面かつ軸方向に沿って炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を偏平に、すなわちテープ状に形成した第1の高強度長繊維2を煙突の外周面円周方向に複数枚貼り付ける。」(第2頁右下欄第10行目?13行目) (ホ)「この第1の高強度長繊維2は炭素長繊維を複数本引き揃えてレジンに含浸し、これを圧延することによってテープ状に形成したものを使用してもよい。こうすることによって折り曲げが可能になり、運搬や施工上の取り扱いに便利になるからである。」(第2頁右下欄第14行目?19行目) (ヘ)「・・・これら織布やUDテープを使用すると、現場での施工性が向上するほか、特に前者の場合には外周面円周方向にすき間なく貼り付けることにより縦横の両方向にも糸があるため、縦横方向に補強できる。頂度、外周面に炭素繊維を捲回した場合に近い作用を得る。」(第3頁左上欄第2行目?8行目) (ト)「・・・第1の高強度長繊維2の表面に縁切り材の合成樹脂フイルム、例えばポリエステルフイルムを被覆し、このフイルムの上に更に別の第2の高強度長繊維ストランド3を捲回する。この時も、第2の高強度長繊維ストランド3には樹脂を含浸させるが、樹脂は縁切り材とは接着しないことで、これにより第2のストランド3が第1の高強度長繊維2から縁切りされることになる。」(第3頁左上欄第17行目?右上欄第5行目) (チ)「・・・第1の高強度長繊維2 の接着剤が完全に固化した後に第2のストランド3を捲設し、かつ高強度長繊維2との接着強度が低い含浸樹脂を用いることによって、前記縁切り材を省略することができる。・・・」(第3頁右上欄第17行目?左下欄第1行目) (リ)「以上のように本発明に係る既存構造物の補強方法では、コンクリート製既存柱や煙突等に第1の高強度長繊維を接着剤を介して構造物の軸方向に貼着するとともに、この第1の高強度長繊維に重ねて第2の高強度長繊維ストランドを捲回しているため、第1の高強度長繊維がコンクリートの初期亀裂の発生を抑止し、かつ軸方向の曲げ応力に靱性を付与して既存構造物の強度を上昇させ、更に既存構造物に亀裂が発生し亀裂部分に応力が集中して第1の高強度長繊維が破断したとしても、この応力は第2の高強度長繊維には分散して伝播され、第2の高強度長繊維は破断されないため、この第2の高強度長繊維は既存構造物を強固に束縛することにより崩壊を防止し、これにより構造物の靱性を高める。」(第3頁左下欄第5行目?19行目) これらの記載から、引用例1には、「コンクリート製既存構造物の外周面かつ軸方向に、炭素長繊維を複数本引き揃えてレジンに含浸し、これを圧延することによってテープ状に構成した偏平な第1の高強度長繊維2を接着剤を介して並列方向へ貼着するとともに、該第1の高強度長繊維2の表面に縁切り材の合成樹脂フイルムを被覆し、このフイルムの上に重ねて更に樹脂を含浸させた別の第2の高強度長繊維ストランド3を横方向へ捲回してなり、樹脂は縁切り材とは接着しないことで、これにより第2のストランド3が第1の高強度長繊維2から縁切りされる繊維強化コンクリート製既存構造物」という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 同様に、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-133223号公報(以下、「引用例2」という。)には、「繊維強化コンクリート構造」に関して、次の(ヌ)ないし(レ)の事項が記載されている。 (ヌ)「コンクリート造の柱状体の外表面に、その柱状体の周方向に沿って配設した炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の高強度補強繊維を固化材により一体に固めて成形してなる補強層を設けたことを特徴とする繊維強化コンクリート構造。」(2.特許請求の範囲) (ル)「「産業上の利用分野」 この発明は、構造物の柱や杭の構造、特に外表面に補強層を有して圧縮耐力に優れた繊維強化コンクリート構造に関するものである。」(第1頁左欄第11行目?14行目) (ヲ)「この発明によれば、高強度補強繊維により成形された補強層は柱状体の軸方向の変形は自由であり、この補強層が常にコンファインド効果を発揮してその内部の柱状体を外側から締め付け、柱状体が膨らむような変形を押さえることにより圧縮耐力を増大させる。」(第2頁左上欄第12行目?17行目) (ワ)「・・・この柱Aは、断面円形のコンクリート造の柱状体1の外表面に補強層2が設けられた構成となっている。この補強層2は、高強度補強繊維(以下単に繊維という)3が、柱状体1の周方向に沿ってその外表面全体を覆うように三重に巻き付けられ、固化材4によって一体的に結束成形されたものである。・・・」(第2頁右上欄第3行目?9行目) (カ)「この柱Aを形成するには、・・・繊維3を予め固化材4で固めてパイプ状に成形し、これを型枠として内部にコンクリートを打設することとする。」(第2頁左下欄第5行目?8行目) (ヨ)「また、繊維3をパイプ状とすることなく、柱状体1を従来のコンクリート柱と同様にコンクリートを打設して形成した後に繊維3を巻き付け、その後固化材4を塗布して固めることにより柱Aを形成することもできる。もちろん、柱状体1をプレキャストとし、その表面に繊維3を巻き付けても良い。」(第2頁左下欄第14行目?20行目) (タ)「なお、この柱Aでは繊維3を三重に巻き付けるようにしたが、この巻き付け回数は繊維3の強度や柱Aの受ける圧縮耐力等を勘案して適宜決定すれば良い。」(第2頁右下欄第10行目?13行目) (レ)「次に、・・・第2実施例の柱Bについて説明する。この柱Bでは柱状体11の外表面に補強層12が設けられている。補強層12は、所定長さ(たとえば30cm程度)に切断された繊維13…を充分に密な状態で、かつ個々の繊維13…がほぼ柱状体11の周方向に沿って並ぶようにして、固化材14により一体に固めたものとされている。」(第2頁右下欄第14行目?第3頁左上欄第1行目) これらの記載から、引用例2には、「コンクリート造の柱状体の外表面に、その柱状体の周方向に沿って充分に密な状態で配設した高強度補強繊維を固化材により一体に固めて成形してなる補強層を設けた繊維強化コンクリート構造。」という発明が記載されていると認められる。 (3)対比 そこで、本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「コンクリート製既存構造物の外周面」、「炭素長繊維を複数本引き揃えてレジンに含浸し、これを圧延することによってテープ状に構成した偏平な第1の高強度長繊維2」、「樹脂を含浸させた第2の高強度長繊維ストランド3を横方向へ捲回してなり」、「偏平な第1の高強度長繊維2を接着剤を介して並列方向へ貼着する」は、本願発明の「コンクリート構造物の外周」、「複数の繊維強化樹脂長尺体」、「実質的に周方向に連続する強化繊維を含む繊維強化樹脂」、「複数の繊維強化樹脂長尺体をこれらの繊維強化樹脂長尺体同士の長手方向が一致する状態で繊維強化樹脂体の周方向に沿って配置した層」に相当する。 また、引用発明も、コンクリート構造物の軸方向に、偏平な第1の高強度長繊維2を接着剤を介して並列方向へ貼着するとともに、該第1の高強度長繊維2の表面に重ねて更に樹脂を含浸させた別の第2の高強度長繊維ストランド3を横方向へ捲回してなるもので、「繊維強化樹脂管状体で強化してなる繊維強化コンクリート構造物」である。 また、引用発明の「樹脂を含浸させた第2の高強度長繊維ストランド3」と本願発明の「繊維強化樹脂層」とは、共に「繊維強化樹脂体」で共通するものである。 そして、引用発明の「第1の高強度長繊維2の表面に縁切り材の合成樹脂フイルムを被覆し、このフイルムの上に重ねて更に樹脂を含浸させた別の第2の高強度長繊維ストランド3を横方向へ捲回してなり、・・・樹脂は縁切り材とは接着しないことで、これにより第2のストランド3が第1の高強度長繊維2から縁切りされる」ことは、本願発明の「(繊維強化樹脂体とその内側の複数の繊維強化樹脂長尺体の)この間が接着されていない」ことを示しているものである。 よって両者は、 「コンクリート構造物の外周を繊維強化樹脂管状体で強化してなる繊維強化コンクリート構造物であって、この繊維強化樹脂管状体が、実質的に周方向に連続する強化繊維を含む繊維強化樹脂体とその内側にあって、複数の繊維強化樹脂長尺体をこれらの繊維強化樹脂長尺体同士の長手方向が一致する状態で繊維強化樹脂管状体の周方向に沿って配置した層とからなり、かつこの間が接着されていない繊維強化コンクリート構造物」である点で一致し、以下の点で相違している。 〈相違点〉 周方向に連続する繊維強化樹脂体が、本願発明では、層であるのに対して、引用発明では、樹脂を含浸させた第2の高強度長繊維ストランド3を横方向へ捲回してなるものの、層の構成になるかどうか不明である点。及び、その結果、本願発明では接着されていない部分が「層間」であるのに対し、引用発明では、「層間」であるか不明である点。 (4)判断 〈相違点について〉 引用例2には、「コンクリート造の柱状体(本願発明の「コンクリート構造物」に相当。以下同様)の外表面(外周)に、その柱状体の周方向に沿って充分に密な状態で配設した高強度補強繊維を固化材により一体に固めて成形してなる補強層(強化繊維を含む繊維強化樹脂層)を設けた繊維強化コンクリート構造」が記載されている。したがって、引用発明の「樹脂を含浸させた第2の高強度長繊維ストランド3」に代えて、本願発明の「繊維強化樹脂層」を採用し、そして「この層間」にすることは、引用例2記載の発明から、当業者ならば容易になし得ることである。 また、本願発明が奏する作用効果は、引用発明及び引用例2記載の発明から当業者が予測できる範囲のものである。 よって、本願発明は、引用発明及び引用例2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-08-23 |
結審通知日 | 2007-09-18 |
審決日 | 2007-10-01 |
出願番号 | 特願平7-231752 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E04G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石井 哲 |
特許庁審判長 |
伊波 猛 |
特許庁審判官 |
小山 清二 西田 秀彦 |
発明の名称 | 繊維強化コンクリート構造物およびその施工方法 |