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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200626455 審決 特許
無効2007800236 審決 特許
不服20052730 審決 特許
不服200519597 審決 特許
不服200520859 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1169508
審判番号 不服2001-10354  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-06-19 
確定日 2007-12-03 
事件の表示 平成 9年特許願第537385号「中間鎖分岐界面活性剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月23日国際公開、WO97/39091、平成12年 3月28日国内公表、特表2000-503700〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、1997年4月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1996年4月16日 (US)米国 1996年4月16日 (US)米国 1996年11月26日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に対し平成12年9月19日付けで意見書と共に手続補正書が提出されたが、平成13年3月12日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成13年6月19日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたが、当審において、平成17年7月4日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内に期間延長請求書が提出され、期間延長が許可された後、平成18年1月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明について

本願の請求項1?9に係る発明は、平成12年9月19日付け及び平成18年1月5日付け手続補正書により補正された明細書からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1は以下のとおりのものである。
なお、平成18年1月5日付け手続補正は、補正前の請求項4を削除し、補正前の請求項5?10の請求項の番号を各々請求項4?9に繰り上げると共に、各請求項に係る発明が引用する請求項をそれに対応して補正したものであり、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。

「【請求項1】下記式のアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物を少くとも5重量%で含んだ洗剤界面活性剤組成物:
A^(b)‐X‐B
〔上記式中:
(a)A^(b)は、全炭素としてC_(9)‐C_(22)の疎水性中間鎖分岐アルキル部分であり、(1)8?21炭素原子の範囲にある、‐X‐B部分に結合された最長炭素直鎖;(2)この最長炭素直鎖から分岐する1以上のC_(1)‐C_(3)アルキル部分を有して;(3)少くとも1つの分岐アルキル部分が、2位炭素(‐X‐B部分に結合された炭素#1から数える)からω‐2炭素(末端炭素-2炭素)までの範囲内の位置で、最長炭素直鎖の炭素に直接結合されている;および(4)界面活性剤組成物は、上記式中のA^(b)‐X部分に、14.5より大きくて17.5までの範囲内で炭素原子の平均総数を有する;
(b)Bはスルホネート、アミンオキシド、アルコキシル化サルフェート、ポリヒドロキシ部分、ホスフェートエステル、グリセロールスルホネート、ポリグルコネート、ポリホスフェートエステル、ホスホネート、スルホサクシネート、スルホサクカミネート、ポリアルコキシル化カルボキシレート、グルカミド、タウリネート、サルコシネート、グリシネート、イセチオネート、ジアルカノールアミド、モノアルカノールアミド、モノアルカノールアミドサルフェート、ジグリコールアミド、ジグリコールアミドサルフェート、グリセロールエステル、グリセロールエステルサルフェート、グリセロールエーテル、グリセロールエーテルサルフェート、ポリグリセロールエーテル、ポリグリセロールエーテルサルフェート、ソルビタンエステル、ポリアルコキシル化ソルビタンエステル、アンモニオアルカンスルホネート、アミドプロピルベタイン、アルキル化クアット、アルキル化/ポリヒドロキシアルキル化クアット、アルキル化クアット、アルキル化/ポリヒドロキシル化オキシプロピルクアット、イミダゾリン類、2‐イル‐サクシネート、スルホン化アルキルエステルおよびスルホン化脂肪酸から選択される親水性部分である;
(c)Xは‐CH_(2)‐および‐C(O)‐から選択される;および
(d)A^(b)は実質的にジェミナル置換炭素原子を含まない〕。」
「請求項2?9については省略」

(以下、請求項1?9に記載された発明を、それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」といい、それらをまとめて「本願発明」という。)

3.当審の拒絶理由の内容

当審が通知した拒絶理由の理由1の内容は、以下のとおりである。
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない。


本願請求項1には、同項の式で表される化学構造を有するアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物を含む界面活性剤組成物が記載されている。
一方、本願明細書には、組成物用のパッケージ化の欄に、実施例において組成物に使用する各種の成分の略称が記載されており、略称「MBAExSz」として、中間鎖分岐一級アルキル(平均総炭素=z)エトキシレート(平均EO=x)サルフェート,ナトリウム塩が記載されている(明細書第131頁、第18?19行)。
そして、例13、例14(第150頁第1行?第152頁末行)、及び、例23?例25(第170頁第5行?第172頁末行)の各実施例にMBAExSzを配合した例が記載されている。また、例15(第153頁第1行?第154頁末行)及び例16(第155頁第1行?同頁下から3行)には、例15中の表(第153頁第10行?20行)に記載された合計炭素数16乃至18の分岐アルコールをエトキシ化し、次いで硫酸化したC16?C18の分岐エトキシレート(E2)硫酸のナトリウム塩を配合した例が記載されている。
しかしながら、これらの実施例に記載されたいずれの中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート,ナトリウム塩についても、主鎖のどの位置の炭素からC_(1)?C_(3)のいずれのアルキル基が枝分かれしているのか明確に示されてはいない。したがって、本願請求項1の式で表される特定の化学構造を有するアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物であって、親水性部分(請求項1に式で記載された界面活性剤化合物の置換基B)がアルコキシル化サルフェートである化合物に該当する化合物を用いた実施例が本願明細書に記載されているとすることはできない。
また、本願明細書の各実施例では、中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート,ナトリウム塩を含有する洗濯洗剤組成物等の配合例は記載されているが、その実施結果が示されていない。したがって、本願明細書に記載された、「これらのアルキル長鎖界面活性剤混合物は、改善された界面活性剤系を供する目的で、特に低い水温洗浄条件を使う洗濯プロセスに用いられる洗剤組成物向けで、他の界面活性剤との処方にも適している。」(明細書第1頁第10?12行)との効果、及び、審判請求人が審判請求書の請求の理由で主張している本願発明による特定のアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物を用いることによって奏するとされる生分解性が向上するとの効果を確認することができない。
さらに、本願請求項1の式で表される特定の化学構造を有するアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物であって、親水性部分(請求項1に式で記載された界面活性剤化合物の置換基B)がアルコキシル化サルフェート以外の置換基である化合物、即ち、同置換基がスルホネート、アミンオキシド等である化合物については、本願明細書には、例示化合物としても、また、実施例で使用されている化合物としても記載がない。
したがって、本願請求項1に係る発明に対応する発明が明細書中に記載もしくは示唆されているとすることはできない。
請求項1に記載された洗剤界面活性剤組成物に対応する事項が記載も示唆もされていないのであるから、請求項1を引用した請求項2乃至5、及び、その請求項を更に引用した請求項6乃至10についても、それらの請求項に係る発明に対応する発明が明細書中に記載もしくは示唆されているとすることはできない。
よって、請求項1乃至請求項10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」

4.当審の判断

本願明細書の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているか否かについて検討する。

ア)本願明細書には、本願発明について以下の記載がある。
記載事項1)発明の分野の欄には、「本発明は洗濯およびクリーニング組成物、特に顆粒および液体洗剤組成物に有用な中間鎖分岐界面活性剤の混合物に関する。これらのアルキル長鎖界面活性剤混合物は、改善された界面活性剤系を供する目的で、特に低い水温洗浄条件を使う洗濯プロセスに用いられる洗剤組成物向けで、他の界面活性剤との処方にも適している。」(明細書第1頁8?12行)との記載がある。
記載事項2)発明の背景の欄には、「界面活性剤の複合混合物の存在下における性能、低い洗浄温度の傾向、ビルダー、酵素およびブリーチを含めた処方の違い、消費者の癖および習慣の様々な違い、および生分解性の必要性を含めた様々な基準のうち1以上で全体的改善を行えるように奮闘しなければならない。」(明細書第9頁下から4行?末行)との記載がある。
記載事項3)発明の具体的な説明の欄には、中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート界面活性剤に関する記載が明細書の第33頁19行?第53頁末行にあり、その具体的製造例が例I?例IVとして記載されている(第44頁20行?第53頁末行)。
記載事項4)組成物のパッケージングの欄に、実施例において組成物に使用する各種の成分の略称が記載されており、本願請求項1の式で表されるアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物に該当する化合物としては、略称「MBAExSz」として、中間鎖分岐一級アルキル(平均総炭素=z)エトキシレート(平均EO=x)サルフェート,ナトリウム塩が記載されている(明細書第131頁、第18?19行)。
記載事項5)明細書には、例9?例14(第146頁第1行?第152頁末行)の各実施例にMBAExSzを配合した例が記載されており、例15(第153頁第1行?第154頁末行)及び例16(第155頁第1行?同頁下から3行)には、例15中の表(第153頁第10行?20行)に記載された合計炭素数16乃至18の分岐アルコールをエトキシル化し、次いで硫酸化したC16?C18の分岐エトキシレート(E2)硫酸のナトリウム塩を配合した例が記載されており、また、例23?例25(第170頁第5行?第172頁末行)の各実施例にMBAESを配合した例が記載されている。
これらの例の中で、例23には、下記の記載がある。
「 例23
下記表Iに示されたような組成を有するブリーチ含有非水性液体洗濯洗剤の非制限例を製造する。
表I
成 分 wt% 範囲(%wt)
液相
NaC_(12)直鎖アルキルベンゼンスルホネート(LAS)
25.3 18‐35
MBAES 2.0 1‐10
C_(12-14)EO5アルコールエトキシレート 13.6 10‐20
ヘキシレングリコール 27.3 20‐30
香料 0.4 0‐1.0
固形物
プロテアーゼ酵素 0.4 0‐1.0
Na_(3)シトレート,無水 4.3 3‐6
過ホウ酸ナトリウム 3.4 2‐7
ナトリウムノナノイルオキシベンゼンスルホネート(NOBS)
8.0 2‐12
炭酸ナトリウム 13.9 5‐20
ジエチルトリアミン五酢酸(DTPA) 0.9 0‐1.5
増白剤 0.4 0‐0.6
起泡抑制剤 0.1 0‐0.3
その他 残部 ‐
得られた組成物は、標準布帛洗濯操作で用いられたときに、優れたしみおよび汚れ除去性能を発揮する、安定な無水重質液体洗濯洗剤である。」

イ)特許法第36条第6項第1号は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならないことから設けられている規定である。
洗剤界面活性剤組成物に関する発明においては、一般的に配合成分の化学構造とその配合割合から洗剤界面活性剤組成物としての性能を正確に予測することは困難であるから、発明の詳細な説明には、当該組成物について、その洗剤界面活性剤としての性能を裏付けるデータ又はそれと同視すべき程度の記載をすることによって、その効果を十分に開示する必要があり、それがなされていない場合には、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとすることはできず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているとすることはできない。
本願請求項1に記載された洗剤界面活性剤組成物についてみると、本願明細書には、この洗剤界面活性剤組成物が、低い水温洗浄条件を使う洗濯プロセスに用いられること(記載事項1)、及び生分解性であること(記載事項2)が記載されているから、明細書にはこれらの点についてデータ又はそれと同視すべき程度の記載をすることによって、本願発明の組成物が洗剤界面活性剤としての性能を有していることを客観的に開示する必要がある。

ウ)本願発明1において、アルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物の置換基Bがアルコキシル化サルフェートである洗剤界面活性剤組成物について
本願明細書には、中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート界面活性剤に関する記載が明細書の第33頁19行?第53頁末行にあり、その具体的製造例が例I?例IVとして記載されている(記載事項3)。
次に、同明細書には、組成物のパッケージングの欄に実施例において組成物に使用する各種の成分の略称が記載されており、本願請求項1の式で表されるアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物に該当する化合物としては、略称「MBAExSz」として、中間鎖分岐一級アルキル(平均総炭素=z)エトキシレート(平均EO=x)サルフェート,ナトリウム塩が記載されている(記載事項4)。
そして、例9?例14の各実施例にMBAExSzを配合した例が記載されており、例15及び例16には、例15中の表に記載された合計炭素数16乃至18の分岐アルコールをエトキシル化し、次いで硫酸化したC16?C18の分岐エトキシレート(E2)硫酸のナトリウム塩を配合した例が記載されており、また、例23?例25の各実施例にMBAESを配合した例が記載されている(記載事項5)。
これらの例の中では、例23を除いては、配合例が記載されているだけであって、その試験結果は記載されておらず、それらが洗剤界面活性剤として、低水温洗浄性及び生分解性についてどの程度の性能を有しているか不明である。
例23には、MBAESを含有するブリーチ含有非水性液体洗濯洗剤について、「得られた組成物は、標準布帛洗濯操作で用いられたときに、優れたしみおよび汚れ除去性能を発揮する、安定な無水重質液体洗濯洗剤である。」(記載事項5)との記載がある。この記載からみて、例23の洗濯洗剤がしみ及び汚れ除去性能を有することは認められる。しかしながら、同例には非水性液体洗剤の組成が記載されているが、中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート,ナトリウム塩については、「MBAES」と記載されているだけである(記載事項5)。したがって、中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート,ナトリウム塩に関し、置換基A^(b)の全炭素数、C1?C3アルキル基の分岐位置、分岐したアルキル基の炭素数及びエトキシ基の数、いずれも記載がないから、この化合物がどのような化学構造を有するものであるのか不明であって、本願請求項1記載の式で示されたアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物に該当するものであるか否かも不明である。また、同例には、この化合物を含有する界面活性剤組成物に関し、低水温洗浄性及び生分解性に関する試験結果及び比較の試験結果も記載されておらず、同例に記載された洗剤界面活性剤が、低水温洗浄性及び生分解性についてどの程度の性能を有しているか確認できない。
また、本願明細書の実施例以外の部分についても、中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート化合物が低水温洗浄性及び生分解性についてどの程度の性能を有しているかについての具体的な記載はない。
したがって、本願請求項1の式で表されるアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物であって、置換基Bがアルコキシル化サルフェートである化合物を含有する洗剤界面活性剤について、本願明細書には、その洗剤界面活性剤としての性能を裏付けるデータ又はそれと同視すべき程度の記載があるとすることはできない。

エ)本願発明1において、アルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物の置換基Bがアルコキシル化サルフェート以外の置換基である洗剤界面活性剤組成物について
本願発明1の式で表される特定の化学構造を有するアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物であって、置換基Bがアルコキシル化サルフェート以外の置換基である化合物、即ち、同置換基がスルホネート、アミンオキシド等である化合物については、本願明細書には、その具体的製造方法についての記載はなく、また、実施例等においてそれらの化合物が低水温洗浄性及び生分解性についてどの程度の性能を有しているかについての記載もない。
本願発明1には、アルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物の置換基Bについて、アルコキシル化サルフェートの他に、スルホネート、アミンオキシド等、多種の置換基が記載されている。これらの置換基は、陰イオン性、陽イオン性、両性イオン性及び非イオン性であって、極性の異なるものであり、また、それらの置換基を有する化合物の嵩高さも様々に異なるものである。一般に化合物は、それぞれの化合物の極性、嵩高さ等によって、物性が異なるものであり、本願発明1についてみれば、疎水性中間鎖分岐アルキル部分が特定のアルキル基であっても置換基Bの極性、嵩高さが異なれば、それを含む洗剤界面活性剤組成物について低水温洗浄性及び生分解性の性能は異なるものと認められるから、本願発明1については、式で示される化合物を含有する洗剤界面活性剤組成物の全てに渡って、所定の性能を発揮することが認められる程度に各化合物を含有する洗剤界面活性剤組成物に関して低水温洗浄性及び生分解性についてのデータ等を開示する必要があるが、本願明細書には、上記の如く、これを裏付けるデータ等は、何も開示されていない。
したがって、本願請求項1の式で表されるアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物であって、置換基Bがアルコキシル化サルフェート基以外の置換基である化合物を含有する洗剤界面活性剤についても、本願明細書には、その洗剤界面活性剤としての性能を裏付けるデータ又はそれと同視すべき程度の記載があるとすることはできない。

オ)本願発明のアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物を含有する洗剤界面活性剤組成物の性能について請求人は、平成18年1月5日付けの意見書において、下記の主張をしているので、その点について検討する。
「本出願人は、本願発明の実施例にあたる物質と比較例とを比較した結果を記載した実験成績証明書を本意見書に添付いたします(なお、文中D1、D2は共に国際調査報告に記載の文献であり、D1は「Tenside-Textilhifsmittel-Waschrostoffe」K. Lindner, 2.ed(1964), vol.Ipp.658-662、であり、D2は、US-A-2633473であります)。この実験成績証明書によれば、当業者であれば本願発明の優れた効果を確認することができるものと思料します。」
そこで、同実験成績証明書の記載内容について検討する。
同実験成績証明書には、1)結晶性を乱すための、親水性基から遠い位置における分岐の不可欠性として、ナトリウムx-メチルオクタデシルサルフェートのメチル基の置換位置の違いによるクラフト温度を比較したデータ、及びC17中鎖メチル分岐アルコールサルフェートとそれ以外のサルフェート化合物に関しての硬度寛容度を比較したデータ、2)効果的な表面活性を維持するために分岐中に必要な炭素を制限することの不可欠性として、7-メチル-ペンタデシル-1-サルフェートと他のサルフェート化合物との臨界ミセル濃度(CMC)を比較したデータ、3)性能に対する分岐の種類および位置の不可欠性として、C16,C17中鎖メチル分岐アルコールサルフェート、C17中鎖メチル分岐アルコールサルフェート、C18中鎖メチル分岐アルコールサルフェート及びC18ゲルベアルコールサルフェートをそれぞれ含有する組成物について垂直軸洗濯機による染み除去試験を行い、それらの染み除去指数及び白さ測定値を比較したデータ、が記載されており、また、生物分解性に対する分岐構造の不可欠性として、テトライソブチレンから誘導された高度に分岐したアルコールサルフェートが生物分解性に問題を有しており、本発明の分岐したアルキルサルフェートが生物分解性の必要条件に適合している旨の記載がある。
しかしながら、同実験成績証明書に本願発明のアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物であるとして記載された化合物は、すべて置換基Bがサルフェートである化合物であって、本願発明1において式として記載されたアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物には該当しない化合物である。
上記エ)で述べたように、疎水性中間鎖分岐アルキル部分が特定のアルキル基であっても置換基Bの極性、嵩高さが異なれば、それを含む洗剤界面活性剤組成物について低水温洗浄性及び生分解性の性能は異なるものと認められる。したがって、本願発明1については、式で示される化合物を含有する洗剤界面活性剤組成物の全てに渡って、所定の性能を発揮することが認められる程度に各化合物を含有する洗剤界面活性剤組成物に関して低水温洗浄性及び生分解性についてのデータ等を開示する必要があるところ、アルコールサルフェート化合物は本願発明1の式で表されるアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物には該当しない化合物であるから、本願発明1の式で表される特定の化合物を含有する洗剤界面活性剤組成物について洗剤界面活性剤としての性能を裏付けるものではなく、この実験成績証明書の記載をもって、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとすることはできないから、請求人の主張を採用することはできない。

カ)したがって、本願請求項1に記載された発明に対応する発明が明細書中に記載もしくは示唆されているとすることはできない。
また、本願明細書には、請求項1に記載された洗剤界面活性剤組成物に対応する事項が記載も示唆もされていないのであるから、請求項1を引用した請求項2?4、及び、その請求項を更に引用した請求項5?9についても、それらの請求項に係る発明に対応する発明が明細書中に記載もしくは示唆されているとすることはできない。
よって、本願発明1?9については、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

5.むすび

以上のとおりであるから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-19 
結審通知日 2006-06-20 
審決日 2006-07-05 
出願番号 特願平9-537385
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 直子松本 直子  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 天野 宏樹
鈴木 紀子
発明の名称 中間鎖分岐界面活性剤  
代理人 紺野 昭男  
代理人 中村 行孝  
代理人 横田 修孝  
代理人 吉武 賢次  

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