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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23H
管理番号 1169579
審判番号 不服2005-6646  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-14 
確定日 2007-12-20 
事件の表示 平成 6年特許願第260157号「ワイヤ放電加工装置の連続加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 5月14日出願公開、特開平 8-118154〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成6年10月25日の特許出願であって、同15年8月29日付け、及び同16年6月17日付けで拒絶の理由が通知され、同17年3月9日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同17年4月14日に本件審判の請求がなされ、同年5月13日に明細書について手続補正がなされたが、当審において同19年7月24日付けで拒絶理由が通知され、同年10月1日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成19年10月1日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「ワイヤの自動供給によりワイヤ張架し、ワイヤが断線したとき、ワイヤ張架してワイヤ断線位置に復帰して加工を継続し、ワイヤ張架に失敗したとき、ワイヤ張架を繰り返し行うワイヤ放電加工装置において、
複数穴単位をひとまとまりとする最初の加工と、ワイヤ断線及びワイヤ張架の失敗により生ずる穴単位の未加工部を改めて加工する再加工とを連続して加工する連続加工方法であって、
最初の加工時に加工が行われなかった穴単位の未加工部のデータを記憶する工程と、
前記最初の加工のプログラムエンドが検出されると、未加工部のデータの有無を判断し、未加工部分のデータが存在する場合は、最初の加工から前記未加工部分を改めて加工する再加工を行う工程と、
再加工の工程を実施することにより、ワイヤ断線及びワイヤ張架の失敗により生ずる穴単位の未加工部を記憶する領域から、再加工によって完了した穴単位での未加工部のデータを削除し、新たに未加工部が発生した穴単位での未加工部のデータを記憶するように記憶を更新する工程と、
を備え、前記領域に記憶されたデータに基づき連続して行う全ての加工により、穴単位での未加工部がなくなるまで加工することを特徴とするワイヤ放電加工装置の連続加工方法。」

3.刊行物記載の発明
これに対し、本願出願前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由に引用された特開平1-193127号公報(以下、拒絶理由に整合させ「刊行物2」という。)には、次のように記載されている。

ア.第1ページ右下欄第4?9行
「この発明は、ワーク加工中にワイヤ断線がおこり、その結果ワークに切残し部分が残つたまま、加工が終了してしまつた加工に対して、その切残し地点までワイヤを移動させ、再度自動的に加工することが可能なワイヤカツト放電加工装置に関するものである。」

イ.第2ページ左下欄第1行?右下欄第8行
「その加工の過程において、断線点(1b)が発生すると加工は一時中断され直ちに結線点(1a)へ移動する。移動後、ワイヤ自動供給装置(16)はワイヤ電極(1)を上部ガイド(4)より結線点(1a)上の穴、下部給電ガイド(10)と通しワイヤ電極巻取りローラ(11)へと供給し、結線を終了する。結線されたワイヤ電極は、加工軌跡を断線点(1b)まで移動し断線点まで到達すると再び加工を開始する。
この動作は、同一断線点上において5回連続して断線が発生すると、その地点以降の加工プログラムを中断して結線点(1a)へ移動し、加工プログラムを終了してしまう。
・・・
このことは、つまり、加工が正常に終了していないことを意味し、加工形状中に切残しの部分が発生したことになる。操作者は、切残しができたことを目視で確認すると、断線した原因を取除く。取除いたことを確認すると操作者は結線点(1a)上で断線しているワイヤ電極(1)を結線し、断線点(1b)まで移動させ、切残しとなつている部分の加工プログラムを再度スタートさせ、加工を続行する。」

ウ.第3ページ右上欄第5?16行
「この発明は上記のような欠点を解消する為になされたもので、切残しデータ記憶装置上に登録されている諸データ、ワイヤ断線の結果途中で終了してしまつた加工プログラムのL、N、BNO.と、結線点のNO.、断線点でのワイヤ電極位置等より、加工に該当するプログラムを加工プログラム記憶装置上よりサーチし、該当する結線点のNO.よりその結線点上で結線し、サーチしたプログラムに沿って断線点までトレースし、断線点上より加工をスタートすることを全て、自動で行なうことが可能なワイヤカツト放電加工装置を得ることを目的とする。」

エ.第4ページ左下欄第11?15行
「上述したような過程で再加工され、加工が正常に終了したことを切残しデータ再加工装置(25)が検出すると、切残しデータ再加工装置(25)は切残しデータ記憶装置(19)上の今回再加工の為に使用した諸データを消去し、再加工を終了する。」

上記イ.において、刊行物2のものは、断線点(1b)が発生すると、加工は中断され、結線点(1a)へ移動し、結線後、ワイヤ電極は、加工軌跡を断線点(1b)まで移動し断線点まで到達すると、最初の加工を含み5回まで再び加工を開始することから、これら加工時に、次の加工のため、断線点位置に関するデータを記憶していることは、明らかである。

上記記載を、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ワイヤの自動供給によりワイヤ張架し、ワイヤが断線したとき、ワイヤ張架してワイヤ断線位置に復帰して加工を継続するワイヤ放電加工装置において、
最初の加工と、ワイヤ断線により生ずる残っている部分を、最初の加工を含み5回の加工まで連続して加工する連続加工方法であって、
最初の加工時に加工が行われなかった断線点位置に関するデータを記憶する工程と、
5回まで連続加工を実施する工程と、
それでも切残しが存在した場合に、切残しデータ記憶装置に断線点でのワイヤ電極位置等の切残しデータを記憶し、その後、切残し部の再加工を続行する工程と、
再加工が正常に終了した場合に、切残しデータ記憶装置の再加工のために使用したデータを削除する工程と、
を備えるワイヤ放電加工装置の連続加工方法。」

同じく当審で通知した拒絶理由に引用された特開平1-121126号公報(以下、同様に「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.第1ページ左下欄第20行?右上欄第2行
「この発明は、ワイヤ放電加工装置を用いて多数個の形状を加工する場合に切残された形状を容易に加工する加工方法に関するものである。」

イ.第2ページ右上欄第3?12行
「ワイヤ電極自動供給装置(70)を用いて一つの被加工物(12)上に複数個の形状を加工する場合は、例えば第3図のようにそれぞれのイニシャルホールH1?H10において、ワイヤ電極を自動的に結線して加工することにより、連続無人加工を行うことができる。また、1つの形状加工中にワイヤ電極(24)が断線した場合は、自動的にイニシャルホールへ戻り、ワイヤ電極(24)を結線した後にプログラムの軌跡を辿り、ワイヤ電極(24)が断線した位置から加工を再開することができる。」

ウ.第2ページ左下欄第3?12行
「1つの形状加工内にこのワイヤ電極の断線が頻繁に起こるなどして、その形状加工続行が不可能と数値制御装置(22)が判断した場合は、例えば第5図のようなデータを数値制御装置内に残し、ワイヤ電極自動供給装置(70)によりワイヤ電極(24)を切断して、次のイニシャルホールへ移動し次の形状加残工を行う。なお、第5図は形状切残しデータ表示で、第3図の連続加工終了時にイニシャルホール2.4.7.8で加工を中断しスキップしたことを示している。」

エ.第3ページ左上欄第6行?右上欄第8行
「次に動作について説明する。第3図のような形状加工を第4図のようなNCプログラムを用いて加工終了後、第5図に示すような形状スキップが発生した場合、NC数値制御装置内の“再加工”を選択することにより第1図のようにテーブルを送り再加工を実施する。第1図において、加工終了地点(P_(E))よりNC数値制御装置内に記憶されたイニシャルホール番号(P_(2))へ第1の移動軌跡(100)を経由してテーブルを移動しストップとする。この時、第4図に示すNCプログラムはプログラムを先頭から実行し、イニシャルホール番号(H2)へ進んだ場合と同様の位置へ自動的に進められる。ユーザがワイヤ電極の結線を確認してスタート起動をかけると、自動的につづきの形状、すなわち切残された2番目の形状の加工を開始する。加工が終了した時点で(P_(4))の地点までそれぞれ第2、第3及び第4の移動軌跡(101)、(102)、(103)を経由して自動的にテーブルが移動しストップする。この時も、同様に第4図のNCプログラムは進められイニシャルホール番号4の時点で停止する。以降同様にして(P_(7))、(P_(8))と移動して、第5図で示された切残し形状についての後加工を実行する。」

オ.第5図
スキップホール番号がホール単位で記憶されている。

上記記載を、技術常識を踏まえ整理すると、上記刊行物1には、次の事項(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「複数ホールを、ホールごとにワイヤ放電加工し、同一ホールにおいてワイヤ断線が頻繁に起こる場合、そのホールの加工を中断し、そのホール番号をスキップホール番号として記憶し、次のホールを加工し、加工プログラム終了後、再加工を選択することで、スキップされたホールを加工するもの。」

4.対比・判断
刊行物2発明の「残っている部分」は、本願発明の「未加工部」に相当する。
本願発明の「再加工」は、請求人が平成19年10月1日の意見書で主張する図3の「ステップ19」からみて、同種の加工を繰り返すことを排除していないから、刊行物2発明の「最初の加工を含み5回の加工」のうち「2回から5回までの加工」は、本願発明の「再加工」に含まれると認められる。
刊行物2発明の「断線点位置に関するデータ」、「ワイヤ電極位置等の切残しデータ」は、共に、その機能からみて、本願発明の「未加工部のデータ」に相当する。
刊行物2発明の「最初の加工を含み5回まで連続加工を実施する工程」と、本願発明の「最初の加工のプログラムエンドが検出されると、未加工部のデータの有無を判断し、未加工部分のデータが存在する場合は、最初の加工から前記未加工部分を改めて加工する再加工を行う工程」とは、「最初の加工後に再加工を行う工程」である限りにおいて一致している。
次に、刊行物2発明の「切残しが存在した場合に、切残しデータ記憶装置に断線点でのワイヤ電極位置等の切残しデータを記憶し、その後、切残し部の再加工を続行する工程と、再加工が正常に終了した場合に、切残しデータ記憶装置の再加工のために使用したデータを削除する工程」について検討する。
前記のとおり、刊行物2発明の「最初の加工を含み5回まで連続加工を実施する工程」が、本願発明の「最初の加工」及び「再加工」工程に対応することから、刊行物2発明の「再加工」は、本願発明に照らすと「再加工」ではなく、いわば「再々加工」に当たるものである。
よって、刊行物2発明の前記工程は、本願発明の「再加工の工程を実施することにより、ワイヤ断線及びワイヤ張架の失敗により生ずる穴単位の未加工部を記憶する領域から、再加工によって完了した穴単位での未加工部のデータを削除し、新たに未加工部が発生した穴単位での未加工部のデータを記憶するように記憶を更新する工程と、前記領域に記憶されたデータに基づき連続して行う全ての加工」と、「再加工後に再々加工を行う工程と、再々加工に伴うデータ処理を行う工程」である限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明と刊行物2発明とは、以下の点で一致する。
「ワイヤの自動供給によりワイヤ張架し、ワイヤが断線したとき、ワイヤ張架してワイヤ断線位置に復帰して加工を継続するワイヤ放電加工装置において、
最初の加工と、ワイヤ断線により生ずる未加工部を改めて加工する再加工とを連続して加工する連続加工方法であって、
最初の加工時に加工が行われなかった未加工部のデータを記憶する工程と、
最初の加工後に再加工を行う工程と、
再加工後に再々加工を行う工程と、再々加工に伴うデータ処理を行う工程と、
を備えるワイヤ放電加工装置の連続加工方法。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:本願発明は、ワイヤ断線への対応に加え「ワイヤ張架に失敗したとき、ワイヤ張架を繰り返し行う」ものであるが、刊行物2発明は、ワイヤ張架の失敗を考慮しているか不明である点。
相違点2:本願発明は、加工を「穴単位」で行い、再加工への移行を「最初の加工のプログラムエンドが検出され」た後に「未加工部のデータの有無を判断し、未加工部分のデータが存在する場合は、最初の加工から前記未加工部分を改めて加工する再加工を行う」工程とを有するが、刊行物2発明は、これらの点が不明である点。
相違点3:本願発明は、再加工後、「未加工部を記憶する領域から、再加工によって完了した未加工部のデータを削除し、新たに未加工部が発生した未加工部のデータを記憶するように記憶を更新する工程を備え、前記領域に記憶されたデータに基づき連続して行う全ての加工により、未加工部がなくなるまで加工する」ものであるが、刊行物2発明は、これらの点が不明である点。

相違点1について、検討する。
ワイヤ放電加工装置において、ワイヤ張架に失敗したとき、ワイヤ張架を繰り返し行うものは、当審で通知した拒絶理由に引用された特開平5-200628号公報の要約にみられるごとく周知である。
ワイヤ張架の失敗も、加工の失敗の一つであるから、自動化の観点から、ワイヤ張架の失敗も考慮するものとすることに困難性は認められない。

相違点2について、検討する。
刊行物1発明は、ワイヤ放電加工を「ホールごと」に行い、「加工プログラム終了後」、記憶されている、加工が中断した「スキップホール番号」のホールに対し、再加工を行うものである。
すなわち、本願発明に照らすと、「加工を穴単位で行い、再加工への移行を最初の加工のプログラムエンドが検出された後に、未加工部のデータの有無を判断し、未加工部分のデータが存在する場合は、最初の加工から前記未加工部分を改めて加工する再加工を行う工程とを有するもの」と言える。
放電加工の順序をいかにするかは、適宜選択されうるものであるから、刊行物2発明に、刊行物1発明を適用し、相違点2に係るものとすることは、設計的事項にすぎない。

相違点3について、検討する。
刊行物2発明は、再々加工後、未加工部が発生した場合の対応が不明であるが、再々加工後においても、未加工部が発生することはありうると認められる。
したがって、その後も未加工部に対する加工を繰り返し、未加工部がなくなるまで加工することが望ましいことは当然である。
刊行物2発明は、「再々加工が正常に終了した場合に、切残しデータ記憶装置の再々加工のために使用したデータを削除する工程」を有するところ、再々加工が正常に終了せず、未加工部がなくなるまで加工する場合を検討する。
この場合には、再々加工までに加工が終了した部分を加工することは無駄であることは明らかであり、また、データの記憶・更新は、最初の加工から再加工まで、再加工から再々加工まで、共に生じることから、設計の合理化のためデータ処理を統一することが望ましい。
よって、刊行物2発明において、「未加工部を記憶する領域」を連続加工において、共通のものとし、「未加工部を記憶する領域から、これまでの加工によって完了した未加工部のデータを削除し、新たに未加工部が発生した未加工部のデータを記憶するように記憶を更新する工程」を設けることは、必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。

なお、請求人は、平成19年10月1日付け意見書において、刊行物1、2記載のものは、いずれも作業者が介在し、自動ではない旨、主張する。しかし、請求項2には「連続加工」と記載されているにとどまり、作業者の介在を排除する特別な事項が記載されているとは認められないこと、無人化は当然の課題であることから、請求人の主張は採用できない。

5.むすび
本願発明は、刊行物2発明、刊行物1発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-17 
結審通知日 2007-10-23 
審決日 2007-11-05 
出願番号 特願平6-260157
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野田 達志加藤 昌人  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 加藤 昌人
福島 和幸
発明の名称 ワイヤ放電加工装置の連続加工方法  
代理人 村上 加奈子  
代理人 高橋 省吾  
代理人 中鶴 一隆  
代理人 稲葉 忠彦  

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