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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服200824242 | 審決 | 特許 |
不服200520858 | 審決 | 特許 |
不服200720710 | 審決 | 特許 |
不服20056102 | 審決 | 特許 |
不服200520859 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1169647 |
審判番号 | 不服2004-837 |
総通号数 | 98 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-02-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-01-13 |
確定日 | 2007-12-19 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第 5513号「経鼻、経舌下、経直腸及び経皮投与のためのNADH及びNADPH治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 9月10日出願公開、特開平 8-231404〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯、本願発明 本願は、平成8年1月17日(パリ条約による優先権主張1995年1月17日、米国)の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成15年7月7日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定された次のとおりのものである。 「ヒトの皮膚細胞のエネルギー生産を刺激するための局所投与用医薬製剤であって、皮膚細胞におけるATPの生産を刺激するのに有効な量の、NADH、NADPH及び/又はその生理学的に許容される塩を含んで成り、当該NADH、NADPH及び/又はその生理学的に許容される塩が、NADH、NADPHのそれぞれNAD^(+)又はNADP^(+)への酸化を阻害する安定剤により安定化されることを特徴とする医薬製剤。」(以下、「本願発明」という。) 2.引用例の記載の概要 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開昭63-152309号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(1)?(7)に示す事項が記載されている。 (1)「5’-デオキシアデノシルコバラミン……β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、その還元型化合物若しくはこれらの塩、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート、その還元型化合物若しくはこれらの塩……からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。」(請求項1) (2)「本発明は、皮膚細胞の賦活化、新陳代謝の促進、創傷治癒効果等を有し、使用により皮膚の老化を防止し、しわのない、滑らかでしっとりした若々しい肌を与える化粧用クリーム、軟膏などの皮膚化粧料や創傷治療剤などの皮膚外用剤に関するものである。」(第1ページ右欄第3?8行) (3)「β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADと略称する。)及びβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(以下、NADPと略称する。)は、生体の酸化還元反応において、種々の脱水素酵素の補酵素として働く重要な物質として知られている。……本発明では、NAD及びNADPの還元型化合物(それぞれNADH,NADPHと略称する。)やこれらの塩を用いることもできる。」(第2ページ右下欄第1?12行) (4)「本発明で用いる上記補酵素類は、製品形態、使用頻度にもよるが、通常、各種皮膚外用剤中に0.001?5重量%(以下、%と略称する。)、……含有させるのがよい。 本発明の皮膚外用剤には、上記必須成分の他に、……酸化防止剤……等通常化粧料等皮膚外用剤に用いられる原料を配合可能である。……上記必須成分と任意成分を適当に配合することにより、例えば、必須成分0.001?5%、……を含有する皮膚外用剤を提供することができる。具体的には、化粧水、クリーム、パック剤、ローション、スキンミルク、乳液、軟膏等種々の製品形態として用いることが可能である。」(第3ページ右上欄第10行?第4ページ左上欄第7行) (5)「本発明によれば、皮膚細胞の賦活化、皮膚の老化防止作用により、しわの発生を予防し、滑らかでしっとりした若々しい肌を与えることができ、従来品よりも格段にすぐれた効果を有し、かつ安全性も極めて高い皮膚外用剤が提供される。」(第4ページ右下欄第20行-第5ページ左上欄第4行) (6)「試験例2 本発明で用いる補酵素類の創傷部真皮再生促進作用及びコラーゲン生成促進作用を下記のようにして評価した。 ウイスター(Wistar)系6週齢雄性ラット6匹を1群とし、ラットの背部を除毛後、皮膚を円形(直径約15mm)に切除し、上記化合物50mMを含む10%エタノール溶液またはこれらを含まない10%エタノール溶液(コントロール)各0.1mlを毎日2回、連続6日間塗布した。7日目に屠殺後、術部を切り出し、新たに形成された真皮である肉芽の重量及びコラーゲン特有の構成アミノ酸であるヒドロキシプロリン量を再生されたコラーゲン量の指標として測定した。結果を表-2に示した。ここではコントロールの肉芽重量及びヒドロキシプロリン量をそれぞれ100として、相対値で示した。 表-2 被検物質 肉芽重量 ヒドロキシプロリン量 無添加(コントロール) 100 100 ---------- --- ---- NAD 126 124 NADH・2Na 124 121 NADP 125 122 NADPH・4Na 122 120 ---------- --- ---- 表-2の結果から、本発明の有効成分にはいずれも再生肉芽重量及びヒドロキシプロリン量の明らかな増加が認められ、真皮中のコラーゲン量が増加したことを示している。…… 以上の結果は、本発明の有効成分が外用により、優れた創傷治癒促進作用を有することを示している。即ち、皮膚真皮中に存在する線維芽細胞の増殖が促進された結果として肉芽重量が増大し、それとともにコラーゲンの生産が促進され、弾力性の低下、小じわの発生等の皮膚の老化を防止改善することが可能となることを示している。」(第5ページ左下欄第12行-第6ページ左上欄第12行) また、同じく本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である国際公開第94/25007号パンフレット(以下、「引用例2」という。)には、以下に示す事項(7)?(9)が記載されている。 (7)「安定性、摂取可能及び腸吸収性の治療組成物であって、酸安定性保護コーティングによりカバーされた外部表面をもつピル形態において、NADH又はNADPH、又は生理学的に許容されるその塩、及び安定剤であってNaHCO3、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、トコフェロール、酢酸トコフェロール及びポリビニルピロリドンから成る群から選ばれているもの、を含んで成る治療組成物。」(Claim 1) (8)「NADHの最も重要な機能は、細胞呼吸のためのその駆動力である。酸素を使用するとき、NADHは、……3ATP分子を作り出す。従って、1NADH分子により、約21キロカロリーのエネルギーをもつ3ATP分子が得られる。この過程は、酸化的リン酸化といわれる。NADH及び/又はNADPHの供給は、生物にとってこの仕事をひじょうに容易にする。なぜなら、それは、結果としてより大きなエネルギー保存をもつからである」(第1ページ第28-37行) (9)「本発明の目的は、先に記載したような、不活性なNAD^(+)及びNADP^(+)への酸化に抵抗するのに十分安定であり、そして患者が、便利にそれらの治療効果のためにこれらの物質を摂取することを許容するであろうNADH及びNADPHの保存安定性経口形態を提供することである。」(第3ページ第7-12行) 3.当審の判断 (1)対比 引用例1には、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの還元型化合物若しくはこれらの塩、又は、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートの還元型化合物若しくはこれらの塩を含有する皮膚外用剤が、記載されている(摘記事項(1))。該皮膚外用剤は、皮膚細胞の賦活化、新陳代謝の促進、創傷治癒効果等を有するものであり、皮膚の老化の防止、しわ防止、滑らかでしっとりした若々しい肌を与えるといった作用を有するものであり、化粧用クリーム、軟膏などの皮膚化粧料や創傷治療剤として用いられるものである(摘記事項(2)、(5))。そして、試験例においてNADH・2Na又はNADPH・4Naを50mMを含む10%エタノール溶液をラットの皮膚に塗布した後、肉芽の重量及びヒドロキシプロリン量を測定した結果が記載されている。ここで、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド及びβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートの還元型化合物の略称は、それぞれNADH、NADPHである(摘記事項(3))。そして、引用例1記載の皮膚外用剤が、外用により、優れた創傷治癒促進作用を有することを示すこと、即ち、皮膚真皮中に存在する線維芽細胞の増殖が促進された結果として肉芽重量が増大し、それとともにコラーゲンの生産が促進され、弾力性の低下、小じわの発生等の皮膚の老化を防止改善することが可能となることが記載されている(摘記事項(6))。 してみると、引用例1には「NADH・2Na又はNADPH・4Naを含有し、創傷治癒促進作用を有し、皮膚真皮中に存在する線維芽細胞の増殖が促進された結果として肉芽重量を増大し、それとともにコラーゲンの生産を促進するための皮膚外用剤」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 そこで、本願発明と引用発明を比較する。 引用発明の「NADH・2Na又はNADPH・4Na」は、本願発明の「NADH、NADPH及び/又はその生理学的に許容される塩」に相当し、引用発明の皮膚外用剤は、本願発明の局所投与用医薬製剤の一形態であるから(本願明細書の【0019】参照。)、両発明は、「NADH、NADPH及び/又はその生理学的に許容される塩を含んで成る局所投与用医薬製剤。」である点で一致し、本願発明がヒトの皮膚細胞のエネルギー生産を刺激するためのものであるのに対し、引用発明は、創傷治癒促進作用を有し、皮膚真皮中に存在する線維芽細胞の増殖が促進される結果として肉芽重量を増大し、それとともにコラーゲンの生産を促進するためのものである点(相違点1)、本願発明が、皮膚細胞におけるATPの生産を刺激するのに有効な量の、NADH、NADPH及び/又はその生理学的に許容される塩を含んで成るのに対し、引用発明は、含まれるNADH、NADPH及び/又はその生理学的に許容される塩の量をATPの生産を刺激するのに有効な量と記載されていない点(相違点2)、本願発明が、NADH、NADPH及び/又はその生理学的に許容される塩が、NADH、NADPHのそれぞれNAD^(+)又はNADP^(+)への酸化を阻害する安定剤により安定化されることが特定されているのに対し、引用発明は、そのような安定剤より安定化されることが特定されていない点(相違点3)で、両発明は相違する。 (2)相違点についての判断 ・相違点1について 本願発明局所投与用医薬製剤は、ヒトの皮膚細胞のエネルギー生産を刺激するためのものであるが、本願明細書の記載によれば、このことにより、細胞寿命が長期化し、細胞の水摂取量が高められ、それ故に、しわの形成を少なくすることができるものである(本願明細書の【0014】及び【0028】)。一方、引用発明は、創傷治癒促進作用を有し、皮膚真皮中に存在する線維芽細胞の増殖が促進する結果として肉芽重量を増大し、それとともにコラーゲンの生産を促進するものであるが、引用例1の記載によれば、このことにより小じわの発生等の皮膚の老化を防止するというものである(摘記事項(5))。してみると、本願発明と引用発明は、その用途がともにしわの形成を防ぎ、皮膚の老化を防止するというものであり、本願発明は、引用発明と異なるNADH、NADPH及び/又はその生理学的に許容される塩の新たな用途を提供するものではない。相違点1は、皮膚の老化防止にあたって、本願発明では、皮膚細胞のエネルギー生産を刺激する作用に着目し、「皮膚細胞のエネルギー生産を刺激するための」と表記し、引用発明では、創傷治癒促進作用を有し、皮膚真皮中に存在する線維芽細胞の増殖が促進する結果として肉芽重量を増大し、それとともにコラーゲンの生産を促進する作用に着目し、「創傷治癒促進作用を有し、皮膚真皮中に存在する線維芽細胞の増殖が促進する結果として肉芽重量を増大し、それとともにコラーゲンの生産を促進するための」と表記したものであり、この点をもって、両発明に実質的な相違があるとすることはできない。 ・相違点2について 本願発明は、ヒトの皮膚細胞のエネルギー生産を刺激するための局所投与用医薬製剤であり、その有効成分であるNADH、NADPHを皮膚細胞のエネルギー生産を刺激するために有効な量を配合することは当業者にとって当然のことである。そして、NADH、NADPHはATPを生産し、このものがエネルギー源となって、細胞が活動するのであるから(摘記事項(8))、本願発明において、NADH、NADPHの量を、ATPの生産を刺激するのに有効な量とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 ・相違点3について 引用例1には、引用発明の皮膚外用剤には必須成分の他に酸化防止剤が配合可能であることが記載されている(摘記事項(4))。ところで、引用例2には、NADH又はNADPH、又は生理学的に許容されるその塩、及び安定剤を含んで成る治療組成物が記載され(摘記事項(7))、安定剤は、NADH、NADPHが、不活性なNAD^(+)及びNADP^(+)へ酸化することを防止するものであることが記載されている(摘記事項(9))。してみれば、引用発明において、引用例2記載の酸化防止剤を配合し、有効成分であるNADH及びNADPHの不活性なNAD^(+)又はNADP^(+)への酸化を阻害することは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本願明細書の記載から、本願発明の効果が、当業者が予測し得ないものとは認められない。 (4)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-07-23 |
結審通知日 | 2007-07-24 |
審決日 | 2007-08-09 |
出願番号 | 特願平8-5513 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 冨永 保 |
特許庁審判長 |
塚中 哲雄 |
特許庁審判官 |
穴吹 智子 瀬下 浩一 |
発明の名称 | 経鼻、経舌下、経直腸及び経皮投与のためのNADH及びNADPH治療剤 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 吉田 維夫 |