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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1169663
審判番号 不服2005-17885  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-16 
確定日 2007-12-19 
事件の表示 平成 7年特許願第 84390号「無電極放電ランプ」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 1月12日出願公開、特開平 8- 7845〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成7年4月11日(パリ条約による優先権主張1994年4月18日、米国)の出願であって、平成17年6月17日付け(発送日同年6月21日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年9月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成17年9月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年9月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された。
「【請求項1】RF信号が結合されたとき放電を生じるように作用する充填物が封入されているランプエンベロープ、上記ランプエンベロープが取り付けられている取付部材、線路電力を受けて、それから上記RF信号を発生するように作用する安定回路装置、および上記ランプエンベロープの一部分に配置されていて、上記RF信号が上記放電に結合されたときに生じる電磁干渉を抑圧するために遮へい素子に電気的に結合されている容量性フィルタ部材を含む無電極放電ランプであって、上記容量性フィルタ部材が、上記ランプエンベロープの内側表面の一部に配置された導電性材料の層によって形成される第1のプレート部分、上記第1のプレート部分に向かい合って上記ランプエンベロープの外側表面に配置された第2のプレート部分、および上記第1のプレート部分と上記第2のプレート部分との間に配置された上記ランプエンベロープの部分を含み、上記第2のプレート部分は、上記ランプエンベロープの表面積の2分の1を超えない部分の上に配置され、上記第2のプレート部分に生じる渦電流損失を減らすための複数のスロットが形成されており、上記複数のスロットの内の少なくとも1つのスロットが、渦電流に対する閉ループ伝導経路が上記第2のプレート部分に生じないようにするために、上記第2のプレート部分を横切って伸びていることを特徴とする無電極放電ランプ。」(なお、アンダーラインは補正箇所を示すために付したものである。)
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明の構成要件である「安定回路装置」を、安定回路装置の中の「遮へい素子」に具体的に限定するものであるから、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、上記補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「補正後第1発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2 独立特許要件について
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-214348号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が図面と共に記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
1.真空気密封止状にシールされ且つ金属蒸気稀ガスを充填されたランプ容器と、ランプ動作中このランプ容器内に電界を発生する高周波給電ユニットに接続された巻線で取囲まれた磁性材料の芯とを有し、前記のランプ容器の内側には透明導電層が設けられた無電極低圧放電ランプにおいて、ランプ容器の壁の外側の一部に、内側導電層とコンデンサを形成する外側導電層が設けられ、この外側導電層は、ランプの動作中電源の導入線の1つと接続されることを特徴とする無電極低圧放電ランプ。」(1頁左下欄3?15行)
イ 「本発明は、真空気密封止状にシールされ且つ金属蒸気と稀ガスを充填されたランプ容器と、ランプ動作中このランプ容器内に電界を発生する高周波給電ユニットに接続された巻線で取囲まれた磁性材料の芯とを有し、前記のランプ容器の内側には透明導電層が設けられた無電極低圧放電ランプに関するものである。
このようなランプは・・・より知られている。
この公知のランプでは、ランプ容器の内側の透明導電層はランプの動作中電源のリード線の1つと接続される。このようにして、ランプで発生する電界は略々ランプ容器内に閉じ込められ、ランプ外側のその強さは十分に小さいので、電源の高周波障害電流の発生は阻止される。前記の導電層は、障害電流に対する貫通部材によってランプ容器外側にある導電体と接続されている。・・・この別個の貫通部材の使用は好ましいものではない。」(1頁左下欄20行?2頁左上欄1行)
ウ 「本発明の目的は、ランプ容器の内壁上の導電層とランプ容器の外側に位置する導体(動作中電源に接続される)との間に電気結合が簡単に形成され、特別な電流貫通部材の使用を要しないランプを得ることにある。
本発明は、この目的のために、冒頭に記載した種類の無電極低圧放電ランプにおいて次のようにしたことを特徴とするものである、すなわち、ランプ容器の壁の外側の一部に、内側導電層とコンデンサを形成する外側導電層が設けられ、この外側導電層は、ランプの動作中電源の導入線の1つと接続される。
ここでいう電源との接続とは、電源への高周波寄生電流が短絡されるような比較的低オームのインピーダンスを有する接続を意味するものと解され度い。これは、前記の外側導電層と口金の間に取付けられた導体により・・・電源と接続されたランプの高周波給電ユニットの零電位との間の接続を経て実現することができる。・・・2つの導電層は実際上コンデンサの電極の役をし、その間のガラス壁は誘電体の役をする。・・・
ランプ容器の外側にある導電層はランプの口金と接続されるのが好ましい。実際の形では、ランプの口金とランプ容器の間には高周波給電ユニットが配設され、このユニットは、磁性材料の芯を取囲んで配設された巻線と接続される。前記の給電ユニットは、ランプ容器に固定された合成樹脂の壁で取囲まれた金属ハウジング内にあるのが好ましい。・・・給電ユニットが金属ハウジング内にあると、放電とこのハウジングの間に存する寄生容量(・・・)が著しく低減される。これは、電源の障害電流を著しく減少する。」(第2頁左上欄6行?右下欄11行)
エ 「以下本発明を図面の実施例で更に詳しく説明する。
ランプは、或る量の水銀と希ガス(・・・)を充填されたガラスのランプ容器1を有する。このランプ容器1は気密封止状にシールされ、磁性材料(・・・)の棒状芯4が中に入るように形成された管状突起3を有するガラスシーリング部材2を含む。前記の芯4はランプの縦軸に沿って延在する。巻線5が前記の芯の周りに配設されている。この巻線は若干のターンの銅線より成る。前記の巻線は(一部が見える導線6および7を経て)高周波給電ユニットに接続される。この高周波給電ユニットは、一方においてはランプ容器1とまた他方においては僅かに円錐状の端部で口金10と連結された合成樹脂製の円筒壁部分9内に位置する。
ランプ容器1の内側には弗素添加酸化錫(R/□約20Ω)より成る透明導電層11が設けられ、この層は、突起3の大部分を除いて容器の内面全体に亘って延在する。前記の層上にはけい光層(図示せず)が施され、このけい光層により、ランプ容器内に発生された紫外線が可視光に変換される。ガラスシーリング部材2のランプ口金に面する側には外側導電層12が設けられている。銀の懸濁液より設けられたこの層は、導体13を経て金属ハウジング8と口金10に接続される。前記の導体13は金属線で、外側導電層12にはんだ付けされる。この層12はガラスシーリング部材2の下側の大部分に亘って延在する。前記の層11と12はコンデンサの極板を形成し、ガラスシーリング部材2のガラス壁は誘電体を形成する。したがって、ランプ容器の内側の透明導電層とランプ容器10(当審注:「口金10」の誤記)に接続された導体13との間に電気的貫通部が得られる。このランプの動作中、内側の透明導電層11はしたがって電源のリード線の1つと電気的に結合される。この場合電源における高周波障害は通常の基準以下の値に低減される。外側導電層がなければランプ容器内の放電と金属ハウジング8間に存し且つ障害電波を生じることもある寄生容量もこの場合事実上短絡される。
ランプ容器1は、ガラスシーリング部材2を容器の主要部に溶着することによって得られるシールによってその端部でシールされる。このシールは符号14で示されている。」(2頁左下欄16行?3頁左上欄20行)

そうすると、
・上記摘記事項ウの記載「ランプ容器に固定された合成樹脂の壁」及び上記摘記事項エの記載「合成樹脂製の円筒壁部分9」から、合成樹脂製の円筒壁部分9はランプ容器1を取り付けていること、
・上記摘記事項ウの記載「給電ユニットは、ランプ容器に固定された合成樹脂の壁で取囲まれた金属ハウジング内にあるのが好ましい」から、金属ハウジング8は高周波給電ユニットを内蔵するものであること、
・上記摘記事項エから、外側導電層12は導体13により金属ハウジング8に電気的に結合されていること、高周波給電ユニットは高周波信号を発生するように作用すること、高周波給電ユニットは電源の導入線と接続されること、
が、読み取れる。
したがって、上記引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
「高周波信号が結合されたとき放電を生じるように作用する水銀と希ガスが充填されているランプ容器1、上記ランプ容器1が取り付けられている円筒壁部分9、電源の導入線と接続され、上記高周波信号を発生するように作用する高周波給電ユニット、および上記ランプ容器1の内面に配置された透明導電層11と、ランプ容器1のガラスシーリング部材2の外面に配置され、導体13により高周波給電ユニットを内蔵する金属ハウジング8に電気的に結合されている外側導電層12とが、ガラスシーリング部材2の壁を介して形成した、高周波障害を抑圧するためのコンデンサを含む無電極低圧放電ランプであって、上記コンデンサが、上記ランプ容器1の内面であってランプ容器1の環状突起3の大部分を除いた内面に配置された弗素添加酸化錫より成る透明導電層11、上記ランプ容器1のガラスシーリング部材2の外面に配置された外側導電層12、および上記透明導電層11と上記外側導電層12との間に配置されたランプ容器1のガラスシーリング部材2の壁を含み、上記外側導電層12は、上記ランプ容器1のガラスシーリング部材2の外面であってランプ口金に面する部分に配置されている無電極低圧放電ランプ。」

(2)対比
補正後第1発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「高周波信号」、「水銀と希ガス」、「ランプ容器1」、「円筒壁部分9」、「電源の導入線と接続され」、「高周波給電ユニット」、「無電極低圧放電ランプ」は、それぞれ、補正後第1発明の「RF信号」、「充填物」、「ランプエンベロープ」、「取付部材」、「線路電力を受けて」、「安定回路装置」、「無電極放電ランプ」に相当する。
イ 引用発明の「コンデンサ」、「高周波障害」、「金属ハウジング8」は、それぞれ補正後第1発明の「容量性フィルタ部材」、「電磁干渉」、「遮へい素子」に相当する。また、引用発明においては、コンデンサを形成する透明導電層11及び外側導電層12がランプ容器1の一部分に配置されていることから、引用発明のコンデンサはランプ容器1の一部分に配置されていることとなり、補正後第1発明の容量性フィルタ部材がランプエンベロープの一部分に配置されていることと同じである。
ウ 引用発明の「弗素添加酸化錫」、「透明導電層11」、「外側導電層12」、「ランプ容器1のガラスシーリング部材2の壁」は、それぞれ補正後第1発明の「導電性材料」、「第1のプレート部分」、「第2のプレート部分」、「ランプエンベロープの部分」に相当する。
エ 引用発明の外側導電層12は、ランプ容器1のガラスシーリング部材2の外面であってランプ口金に面する部分に配置されているので、ランプ容器1の表面積の2分の1を越えない部分に配置されていることが明らかであり、補正後第1発明の第2のプレート部分は、上記ランプエンベロープの表面積の2分の1を超えない部分の上に配置されていることと異ならない。
以上ア?エの考察から、両者は、次の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
「RF信号が結合されたとき放電を生じるように作用する充填物が封入されているランプエンベロープ、上記ランプエンベロープが取り付けられている取付部材、線路電力を受けて、それから上記RF信号を発生するように作用する安定回路装置、および上記ランプエンベロープの一部分に配置されていて、上記RF信号が上記放電に結合されたときに生じる電磁干渉を抑圧するために遮へい素子に電気的に結合されている容量性フィルタ部材を含む無電極放電ランプであって、上記容量性フィルタ部材が、上記ランプエンベロープの内側表面の一部に配置された導電性材料の層によって形成される第1のプレート部分、上記第1のプレート部分に向かい合って上記ランプエンベロープの外側表面に配置された第2のプレート部分、および上記第1のプレート部分と上記第2のプレート部分との間に配置された上記ランプエンベロープの部分を含み、上記第2のプレート部分は、上記ランプエンベロープの表面積の2分の1を超えない部分の上に配置されている無電極放電ランプ。」
【相違点】
補正後第1発明では、「第2のプレート部分に生じる渦電流損失を減らすための複数のスロットが形成されており、上記複数のスロットの内の少なくとも1つのスロットが、渦電流に対する閉ループ伝導経路が上記第2のプレート部分に生じないようにするために、上記第2のプレート部分を横切って伸びている」のに対し、引用発明では、外側導電層12(補正後第1発明の「第2のプレート部分」に相当)にスロットを具備していない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
RF信号の影響によりプレート状部材に発生する渦電流損失を減らすための技術について、本願の優先日前の技術水準を示す文献として、例えば、次の文献1?3には、以下の記載がある。
ア 文献1:欧州特許出願公開第0585108号明細書(公開日1994年3月2日)
「・・・and the outer shield substantially reduces EMI generated by the winding. Figure 2a illustrates in planar view a preferred configuration for inner and outer shields according to the present invention. Figure 2b is a perspective view of the shield of Figure 2a. The shield comprises vertical metal bands 20(e.g.,copper)etched onto a dielectric sheet 22(・・・). The metal bands 20 are not continuous in the azimuthal direction in order to minimize eddy currents that would effectively short circuit the plasma. ・・・ Metal bands 20 are coupled together by a horizontal conductor 24 etched in the bottom portion of dielectric sheet 22. By locating the horizontal conductor at the bottom of the structure, it has minimal impact on the magnetic field established about winding 16.」(3欄9?28行、和訳「・・・外側シールドは巻線によって発生するEMIを実質的に低減する。図2aは本発明による内側および外側シールドの好ましい構造を示す平面図である。図2bは図2aのシールドの斜視図である。シールドは誘電体材料のシート22(・・・)上に配置されて、エッチングにより形成された垂直方向の金属バンド20(例えば、銅のバンド)を有する。金属バンド20はプラズマを実際上短絡する渦電流を最小にするために方位角方向において連続ではない。・・・金属バンド20はシート22の底部にエッチングにより形成された水平方向の導体24によって互いに連結されている。構造の底部に水平導体を設けることによって、巻線16の周りに確立される磁界に対する影響を最小にしている。」)
「・・・and Figures 5a and 5b show the position of an outer shield 40, configured as in Figure 2, about the winding.(In Figures 5a-5b, the primed numbers are used to distinguish the elements of inner shield 30 from those of outer shield 40.)」(4欄2?6行、和訳「・・・また図5a及び5bは図2のように構成された外側シールド40を巻線の周りに配置する様子を示している。(図5a及び5bにおいて、ダッシュ(’)を付けられた符号は内側シールド30の構成要素に対して外側シールド40の構成要素を区別するために使用されている。)」)
イ 文献2:特開昭63-314752号公報
「(実施例3) 第4図および第5図は本発明の第3の実施例を示すもので、前記実施例1と異なる構成は、静電シールド板25と管壁との間にコイル22を挟み込んだ形となっている点で、他の構成は前記実施例1と同様であるので、同等構成に同一符号を付すことにより説明を省略する。・・・静電シールド板25がコイル22と管壁との間に介在しないので、・・・コイル22と周辺の機器との間の静電シールドとして作用する。」(3頁左下欄6行?右下欄12行)
「(実施例1) 第1図および第2図は本発明の第1の実施例を示すもので、図中、21は直管型無電極放電管、22は磁界駆動用コイル、25は静電シールド板である。・・・静電シールド板25は、前記コイル22からの磁界による渦電流の発生をなくすため、無電極放電管21の管軸に沿って配設される細幅の複数本の導体板25aで構成されると共に、それぞれの導体板25aの一端は互いに接続されており、その接続端25eは電気的にアースと接続されている。」(2頁右下欄12行?3頁左上欄3行)
ウ 文献3:実公平3-56063号公報
「近時、超伝導コイルや超伝導素子を使用した機器で、交流電磁界、高周波電磁界またはパルス電磁界を利用した機器が出現して来た。これらの機器は、エネルギーの損失と不要な電磁界の乱れを特にきらうものであり・・・金属蒸着部分に発生する、うず電流を防止する工夫が必要となる。」(2欄12?19行)
「図4では、便宜のため積層断熱材中の無蒸着縞模様スリット部3を有する反射膜1を1枚だけ示したが、この面を変化磁束が貫通するとき、従来のように全面金属蒸着ならば点線の様にうず電流5が発生する筈であるが、本考案では無蒸着スリット部3の効果により・・・うず電流の発生が防止できる。図5は、円筒状容器を包んだ中空状の積層断熱材中の無蒸着縞模様スリット部を有する反射膜1枚だけを示したが、変化磁束がこの中空部分を貫通し、反射膜1の無蒸着スリット部3を磁束に平行に置くことにより、従来の全面蒸着ならば中空円筒の円周に沿って点線の様なうず電流5が発生する筈であるが、本考案のスリット部3の効用により・・・うず電流の発生を防いでいる。」(4欄8?22行)
文献1?3の上記記載によれば、文献1記載の金属バンド20’同士の間の間隙、文献2記載の細幅の導体板25a同士の間の間隙、及び、文献3記載のスリット部3は、RF信号の影響によりプレート状部材に発生する渦電流損失を減らすためのスロットであり、本願の優先日前に周知の技術である。そして、スロットの配置は、RF信号により発生する電磁界の向きに応じて、より効果的にうず電流が防止できるように当業者が適宜決定し得る設計的事項にすぎないというべきであるから、引用発明の外側導電層12に上記文献1?3記載の周知のスロットを適用する際に、複数のスロットの内の少なくとも1つのスロットが、渦電流に対する閉ループ伝導経路が外側導電層12に生じないようにするために、外側導電層12を横切って伸びるようにして、補正後第1発明のごとく構成することは、当業者が容易になし得たものである。
そして、補正後第1発明の奏する効果についても、引用例に記載された事項及び上記周知技術から当業者が予測できる範囲内のものにすぎない。

なお、審判請求人は、請求の理由において、『引用文献1(当審注:上記「引用例」)の外側導電層12は、図に示されておりますようにガラスシーリング部材2の表面に形成されており、ランプ容器1の外表面には形成されておりません。EMIの抑圧のためにはコンデンサの容量が小さくなることを避ける必要がありますが(本願明細書第0016段落)、引用文献1の技術では、外側導電層12の面積を大きくすることには、ランプを設計する上で大きな制約となります。引用文献1の技術では、外側導電層12に大きな電流が発生してしまうため、ガラスシーリング部材2の表面に外側導電層12を形成する必要があり、このことは、引用文献1の実施例の利点として、第2頁左下欄の第4行目乃至7行目に、「外側導電層が、ランプに安全に触ることができる場所にある」と記載されていることからも明らかな事項であります。 』と主張している。
しかしながら、引用例には、「ランプ容器の壁の外側の一部に、内側導電層とコンデンサを形成する外側導電層が設けられ」(上記摘記事項ア参照)及び「ランプ容器1は気密封止状にシールされ、磁性材料(・・・)の棒状芯4が中に入るように形成された管状突起3を有するガラスシーリング部材2を含む」(上記摘記事項エ参照)と記載されており、これらの記載によれば、ガラスシーリング部材2は、ランプ容器1の一部であってランプ容器1に含まれることが明らかであるから、ガラスシーリング部材2の外面であってランプ口金に面する部分に配置されている外側導電層12は、ランプ容器1の外表面に配置されていることとなる。一方、本願明細書には、「充填物が封入されるランプエンベロープ」(請求項1)及び「ランプエンベロープ12の内向き空洞15」(段落【0010】)と記載されており、図面の図1には内向き空洞の空間部分から符号15の引き出し線が描かれていることからすれば、補正後第1発明にいう「ランプエンベロープ」とは内向き空洞15を囲む部分も含んでいることが明らかである。そうすると、補正後第1発明にいう「ランプエンベロープの外表面に配置された」と、引用発明にいう「ランプ容器1のガラスシーリング部材2の外面に配置された」とは、何ら異ならないというべきである。また、『引用文献1の技術では、外側導電層12の面積を大きくすることには、ランプを設計する上で大きな制約となります』という点については、補正後第1発明では単に「ランプエンベロープの表面積の2分の1を超えない部分の上に配置されている」と規定するのみであって、ランプエンベロープの表面積の2分の1を超えないもの全てが含まれるから、明らかにランプ容器1の表面積の2分の1を越えていない引用発明のものも含まれることとなり、この点の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、補正後第1発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成17年9月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成16年12月14日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願第1発明」という。)次のとおりである。
「【請求項1】RF信号が結合されたとき放電を生じるように作用する充填物が封入されているランプエンベロープ、上記ランプエンベロープが取り付けられている取付部材、線路電力を受けて、それから上記RF信号を発生するように作用する安定回路装置、および上記ランプエンベロープの一部分に配置されていて、上記RF信号が上記放電に結合されたときに生じる電磁干渉を抑圧するために上記安定回路装置に電気的に結合されている容量性フィルタ部材を含む無電極放電ランプであって、上記容量性フィルタ部材が、上記ランプエンベロープの内側表面の一部に配置された導電性材料の層によって形成される第1のプレート部分、上記第1のプレート部分に向かい合って上記ランプエンベロープの外側表面に配置された第2のプレート部分、および上記第1のプレート部分と上記第2のプレート部分との間に配置された上記ランプエンベロープの部分を含み、上記第2のプレート部分は、上記ランプエンベロープの表面積の2分の1を超えない部分の上に配置され、上記第2のプレート部分に生じる渦電流損失を減らすための複数のスロットが形成されており、上記複数のスロットの内の少なくとも1つのスロットが、渦電流に対する閉ループ伝導経路が上記第2のプレート部分に生じないようにするために、上記第2のプレート部分を横切って伸びていることを特徴とする無電極放電ランプ。」

第4 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は上記「第2」の「2(1)引用例」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願第1発明は、上記「第2」の「2 独立特許要件について」で検討した補正後第1発明の構成要件において、「遮へい素子」を「安定回路装置」に上位概念化したものである。
そうすると、本願第1発明の構成要件の一部を下位概念化した補正後第1発明が、上記「第2」の「2 独立特許要件について」で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願第1発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願第1発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願第1発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2?6に係る発明について判断するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-20 
結審通知日 2007-07-24 
審決日 2007-08-06 
出願番号 特願平7-84390
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 亮  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 山川 雅也
上原 徹
発明の名称 無電極放電ランプ  
代理人 伊藤 信和  
代理人 松本 研一  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  

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