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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1169860
審判番号 不服2005-20034  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-17 
確定日 2007-12-17 
事件の表示 特願2000-561829「カデュサホスのマイクロカプセル化製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月10日国際公開、WO00/05962、平成14年 7月16日国内公表、特表2002-521405〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1999年7月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年7月30日、(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成14年8月28日付け手続補正書が提出され、平成16年12月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成17年7月1日付けで意見書が提出され、平成17年7月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年10月17日に審判請求がなされ、平成17年10月17日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年10月17日付け手続補正についての却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年10月17日付け手続補正を却下する。

[理由]

(1)本件補正の内容
平成17年10月17日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項13は、補正前の平成14年8月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項13に対応するものであるから、平成17年10月17日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、
本件補正前の特許請求の範囲の請求項13の「【請求項13】 製剤1リットル当たり約150?約360gのカデュサホスを含有し且つマイクロカプセル、約0.7?約2.5重量%のポリビニルアルコール及び約0.3?約0.9重量%の泡止め剤からなる殺虫製剤であって、該製剤がマイクロカプセルの水性懸濁液からなり、該マイクロカプセルがカデュサホスからなる芯のまわりにポリ尿素のさやをもつものであり、該ポリ尿素のさやがPMPPIと1以上の多官能性アミンとの界面重合で製造されたものであり、そしてカデュサホスの重量%が界面重合用の水混和性相の約53?約92%であり、PMPPIの重量%が水混和性相の約4?約25重量%であり、多官能性アミンがTETA,DETA,HDA及びそれらの組合せからなる群から選ばれる殺虫製剤。」
を、
本件補正の特許請求の範囲の請求項13の「【請求項13】 製剤1リットル当たり150?360gのカデュサホス、0.7?2.5重量%のポリビニルアルコール及び0.3?0.9重量%の泡止め剤からなる殺虫製剤であって、該製剤がマイクロカプセルの水性懸濁液からなり、該マイクロカプセルが、水混和性相の合計重量当り、53?92重量%のカデュサホスと4?25重量%のイソシアネートを含有する水性混和相に1以上の多官能性アミンを加えて界面重合させて製造されたものであり、多官能性アミンがTETA,DETA,HDA及びそれらの組合せからなる群から選ばれる殺虫製剤。」
とする補正を含むものである。

(2)本件補正の適否
本件補正は、特許法第17条の2第1項第3号に該当する補正であり、本件補正前の請求項13の「該マイクロカプセルがカデュサホスからなる芯のまわりにポリ尿素のさやをもつものであり、該ポリ尿素のさやがPMPPIと1以上の多官能性アミンとの界面重合で製造されたものであり、そしてカデュサホスの重量%が界面重合用の水混和性相の約53?約92%であり、PMPPIの重量%が水混和性相の約4?約25重量%であり」という要件を「該マイクロカプセルが、水混和性相の合計重量当り、53?92重量%のカデュサホスと4?25重量%のイソシアネートを含有する水性混和相に1以上の多官能性アミンを加えて界面重合させて製造されたものであり」とするものであるが、多官能性アミンと界面重合反応してマイクロカプセルを形成するイソシアネートについて、特定のイソシアネートである「PMPPI」(ポリプロピレンポリフェニレンイソシアネート)と特定されていたものをそのような特定がされていない「イソシアネート」とするものであるから、PMPPI以外のイソシアネートを含むものに拡張されたものである。
よって、本件補正は特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではなく、同1号に掲げる「請求項の削除」、同3号に掲げる「誤記の訂正」、同4号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものではない。

(3)むすび

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第4項第の規定に違反してなされたものであるから、その余のことを検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成17年10月17日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?14に係る発明は、平成14年8月28日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 (a)1以上の乳化剤と泡止め剤を含有する水性相を調製し、(b)98重量%以下のカデュサホスと2-35重量%の第1の多官能性化合物からなる水混和性相を調製し、(c)該水混和性相を該水性相中で乳化して水性相中に水混和性液滴が分散した分散液を調製し、(d)該分散液に1以上の第2の多官能性化合物の水溶液を該第1の多官能性化合物と界面重合を行うに足る量で加えてカデュサホスのマイクロカプセルを形成することを特徴とするマイクロカプセル化したカデュサホス製剤の製造方法。」(以下、「本願発明1」という。)

(2)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶理由に引用された引用例3の特開昭50-135232号公報(以下、「刊行物A」という。)、引用例2の上杉康彦外2名編、第3版最新農薬データブック、株式会社ソフトサイエンス社、平成9年1月25日、改訂、増補第3版、第57-58頁(以下、「刊行物B」という。)、引用例5の特開昭62-67003号公報(以下、「刊行物C」という。)には、以下の記載がなされている。

ア.刊行物A
a:「活性成分がホスホロチオエート殺虫剤である農業噴霧用水性組成物において、殺虫剤としてリン酸のチオまたはジチオエステルを用い;・・・殺虫剤が架橋したポリアミド、ポリ尿素またはその混合物からなる壁の中にカプセル充填(注:「土へんに眞で構成される字」を「填」として表記する。以下同様。)されており、・・・組成物全量の約0.1?0.5 重量%を占めるキサンタンガムが殺虫剤カプセルの均一かつ比較的安定な分散を助けていることを特徴とする組成物。」(特許請求の範囲)

b:「本発明は、分散剤としてキサンタンガムを使用しているポリマーカプセル入り殺虫剤の水性分散液に関する。
農業用の様々な殺虫剤が、混虫、ダニのほとんどの種に高度に毒性であることは知られている。しかし、これら物質の多く(例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート )は人間を含む高等動物に有毒であり、有毒殺虫剤が噴霧された場所で働く労働者が被害を受け、死亡したこともあることが多数報告されている。致死量が肌を通じて吸入され、あるいは吸収されることがある。
最近の開発により、有毒殺虫剤・殺菌剤の多くはポリマー、特にポリアミドによりカプセル入りとされている。例えば、メチルパラチオンはポリアミド-ポリ尿素混成重合皮膜にカプセル充填されており、このカプセルは水性分散液として市販されている・・・これら物質の取り扱いにおける安全性という観点から、カプセル充填は特に意義深い。」(1頁右上欄2行?2頁左上欄8行)

c:「用いることのできるホスホロチオエート殺虫剤は次の化合物により更に例示される・・・O,O-ジメチル-S-1,2-ジ(エトキシカルバミル)エチルホスホロジチオエート〔マラチオン(Malathion)〕;・・・O-エチル-S,S-ジプロピルホスホロジチオエート〔モキヤップ(Mocap)〕。」(4頁左上欄14行?5頁右上欄15行)

d:「ポリマーカプセル入り殺虫剤のカプセルの製造は良く知られている。例えば、界面重合その他の適当を方法を記述しているアメリカ特許3,577,515号発明・・・明細書。カプセル壁が架橋ポリアミド、ポリ尿素または混成ポリアミド-ポリ尿素であるカプセルを形成するのに使用する・・・一般に、殺虫剤のポリマーカプセル充填の界面法には、殺虫剤(例えばメチルパラペン)を不連続疎水相として水中油エマルジョンを形成する工程が含まれる。このエマルジョン形成に先立つて適当なモノマーを分離相に分散させ、これによりエマルジョン形成に際しこのモノマーを油相小滴の界面で連続水相と反応させ、殺虫剤小滴の周りに重合カプセル壁を形成させる。ついで、カプセルを水性残相から分離し、水性担体相に再分散させる前に更に乾燥などの加工に付すことができる。
ポリアミドをポリマー壁とする界面重合方法を更に例示すると、セバコイルクロリド,アジポイルクロリド,アゼロイルクロリドなどの酸グロリドを油相中に溶解し,エチレンジアミン,トルエンジアミン,ヘキサメチレンジアミンなどのジアミンを水相に分散させることができる。ポリ尿素壁を形成するためには、油相にホスゲンまたはジイソシアネートを含め、水相にジアミンまたはポリオールを含めることができる。ポリアミドーポリ尿素混成壁は、酸クロリドとジイソシアネートの両者を油相に分散させ、水相中にジアミンを用いることにより得ることができる。」(6頁右上欄8行?同頁右下欄8行)

e:「カプセル充填方法中の初めの水中油サスペンションの形成を促進し、安定性を高めるために、ゲルバトール(Gelvatol)20/90・・・などの分散剤を0.5%のレベルで水相中で使用した。発泡を低下させるために、アンチホーム(Antiform)B・・・などの消泡剤も用いた。」(7頁左上欄11行?同頁右上欄2行)

f:「実 施 例 1. 本実施例では、ポリ尿素反応のために多官能イソシアネートを用いて架橋されたポリアミド-ポリ尿素壁に有機液体殺虫剤、マラチオン(Malathion)をカプセル充填した。・・・水スラリー中にサスペンドした時に顕微鏡で視察したら、カプセルの直径は約5?40ミクロンであり、大部分は20?80ミクロンだつた。殺虫剤製剤として使用すれば、これら殺虫剤含有カプセルは、漸進的放散または浸出作用によりその内容物を放出できる。」(7頁右上欄3行?同頁右下欄9行)

g:「実 施 例 5.
本実施例では、架橋剤として主成分のトルエン2,4-ジイソシアネートとほんの小量の多官能イソシアネ ートとを使つて形成した架橋ポリ尿素壁中にマラチオン・・・をカプセル充填した。 フラスコに、400mlのゲルバトール・・・20/90 0.5 %水溶液;8滴のアンチフオーム・・・B;を入れた。
一番目の漏斗(注:「さんずいに戸で構成される字」を「漏」と表記する。以下同様。)に、100gのマラチオン・・・;30gのトルエン2,4-ジイソシアネート;3.5gのポリメチレンポリフェニルイソシアネート・・・;を入れた。
二番目の漏斗に、15.0gのエチレンジアミン;15.0gのジエチレントリアミン;15.7gの炭酸ナトリウム・一水和物;188gの蒸留水;を入れた。
フラスコ内容物の適度の攪拌を開始し、一番目の漏斗の内容物を急速添加した。攪拌速度を下げ、二番目の漏斗の内容物を加えた。攪拌速度を再度下げ、30分攪拌を続けた。1時間放置後にカプセルを充分に下に詰め、上澄み液をデカンテーションにより容易に除去した。カプセルを脱イオン水で2度洗い、遠心分離後に上澄み液をデカンテーションにより除き、カプセルを風乾した。」(9頁右上欄2行?同頁右下欄3行)

h:「実 施 例 7.」
以上の実施例で製造したカプセルを、表Iに示した様々の量のキサンタムガム・・・を使って水中に分散させた。」(11頁左上欄3?6行)

イ.刊行物B
i:「cadusafos(B)
1.・・・(FMC)
2.バナナ,じゃがいも,かんきつ,たばこ,さとうきび,とうもろこし :コメツキ,ジャガイモガ
3.S,S-di-sec-bytyl O-ethylphospho rodithioate
4.C_(10)H_(23)O_(2)PS_(2) ・・・
6.・・・LC:ニジマス0.13ppm、ブルーギル0.17ppm( 96h)」

ウ.刊行物C
j:「(従来の技術)カプセル壁を形成させるのに必要な反応成分の一方を分散相に溶解し、他方を連続相に溶解させた分散液中の界面反応によってマイクロカプセルを製造すること自体は知られている。そのような製法は、例えば米国特許3,577,515号明細書に開示されている。この方法は、最初にカプセル壁を形成させるのに必要な第一の反応成分の溶液を連続相に分散させ、次いで第二の反応成分の溶液を連続相を含む媒質中に加えることによって行なわれる。この方法では、連続水性相中に非混水性の有機相を分散させるために、ポリビニルアルコール、ゼラチン及びメチルセルロースのような非イオン性保護コロイドを用いることが推奨されている。」(3頁右上欄19行?同頁左下欄13行)

k:「マイクロカプセルを製造するための本発明の方法は、まず陰イオン性分散剤及び非イオン性保護コロイド及び/又は非イオン性界面活性剤を水に溶解し、次いで上記種類の1種又はそれ以上のポリイソシアネートの溶液を、1種又はそれ以上の上記農薬に或いは水非混和性有機溶媒に溶かした1種又はそれ以上の上記農薬の溶液中に加え、そして均質な分散液が得られるまで、その混合物を効果的に攪拌することによって都合よく行なわれる。攪拌を続けながら、1種又はそれ以上の上記種類のポリアミンを加え、そして該混合物をポリアミンが充分にイソシアネートと反応するまで更に攪拌する。ポリアミンは都合良くは水溶液として加えられる。」(12頁右上欄17行?同頁左下欄10行)

l:「(実施例)
以下の実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、登録商標及び自明でない他の呼称は次の製品を指す:
陰イオン性分散剤
分散剤A:実施例1により製造された、ナフタレンスルホン酸とフェノール スルホン酸及びホルムアルデヒドとの縮合物のナトリウム塩・・・
非イオン性分散剤(保護コロイド)
MOWIOL○R(注:「○R」は「Rが○で囲まれた字」を表す。以下同 様)18-88:ポリビニルアセテートのケン化(ケン化度=88%)に よって製造された、粘度18cp(20℃、4%水溶液で測定)のポリビ ニルアルコール、ヘキスト社(HoechstAG.)製」(13頁右上 欄12行?同頁左下欄11行)

m:「実施例8 イサゾフォス80gにジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート19.7gを溶かした溶液を、分散剤A8g及びMOWIOL○R18-88:0.8gを水44.2gに溶かした溶液に室温で撹拌羽根を用いて分散させる。それから、得られた分散液にヘキサメチレンジアミン(40%水溶液形態)8.6gを加えると、温度は約10℃上昇する。
該混合物を更に30分間室温で攪拌すると、用いた有効成分の量に対して35重量%のポリウレアを含んだ安定なマイクロカプセル懸濁液が生成する。」(15頁左下欄16行?同頁右下欄7行)

(3)対比・判断
本願明細書に「【発明の属する技術分野】本発明は有機リン酸塩殺虫製剤に関する。特に本発明は、一般的な製剤に比し、同等か又は毒性が低下した、殺虫剤/殺線虫剤、カデュサホスのマイクロカプセル化製剤に関する。
【従来の技術とその課題】有機リン酸塩化合物、S,S-ジ-2級-ブチル-O-エチルホスホロジチオエート(カデュサホスcadusafos)は有効な殺虫剤/殺線虫剤である。たとえば現在市販されている100g/リットルのカデュサホスの水性マイクロエマルジョン製剤はこの製剤を取り扱ったり散布する際には人体を完全に保護することが必要とされている。これら製剤のラベルにはまた哺乳動物、魚、節足動物及び鳥に対し毒性が強いことも示されている。
従って、殺虫剤/殺線虫剤としての効力を維持しながら哺乳動物、鳥、魚及びその他の有機体に対する毒性を低下したカデュサホス製剤の開発が望まれている。これらの製剤は人に対する安全性を改善しまたこの化合物の使用に伴う環境への悪影響を最小化することができる。」(段落【0001】?【0002】)と記載されているように、本願発明1は、有機リン酸塩化合物(S,S-ジ-2級-ブチル-O-エチルホスホロジチオエート)の殺虫剤である、カデュサホスの強い毒性をカプセル化することにより、低下させることを目的としたものである。

一方、引用例Aには、ホスホロチオエート,ホスホロジチオエート等の殺虫剤は人間を含む高等動物に有毒であること、有毒殺虫剤の多くは毒性を低下させるためにポリマー、特にポリアミドによりカプセル入りとされていることが記載され(摘記b参照)、活性成分であるホスホロチオエート殺虫剤(リン酸のチオまたはジチオエステル)が架橋したポリアミド、ポリ尿素又はその混合物からなる壁の中にカプセル充填され、分散剤としてキサンタンガムを使用しているポリマーカプセル入り殺虫剤の水性分散液が記載されている(摘記a、b、h参照)。
さらに、そのポリマーカプセル入り殺虫剤におけるカプセルの製造方法は良く知られており、例えば、カプセル壁が架橋ポリアミド、ポリ尿素または混成ポリアミドーポリ尿素であるカプセルを形成する方法、すなわち、殺虫剤のポリマーカプセル充填の界面法(界面重合法)として、殺虫剤を不連続疎水相として水中油エマルジョンを形成する工程、このエマルジョン形成に先立って適当なモノマーを分離相に分散させ、これにエマルジョン形成に際しこのモノマーを油相小滴の界面で連続水相と反応させ、殺虫剤小滴の周りに重合カプセル壁を形成させること及びポリ尿素壁を形成するためには、油相にジイソシアネート、水相にジアミンを含めることが記載されており(摘記d参照)、具体的には、実施例5に、フラスコ内容物(ゲルバトールの水溶液とアンチフオームB)の適度の攪拌を開始し、一番目の漏斗の内容物(100gのマラチオン、30gのトルエン2,4-ジイソシアネート、3.5gのポリメチレンポリフェニルイソシアネート)を急速添加し、攪拌速度を下げ、二番目の漏斗の内容物(15.0gのエチレンジアミン、15.0gのジエチレントリアミン、15.7gの炭酸ナトリウム・一水和物、188gの蒸留水)を加え、攪拌速度を再度下げ、30分攪拌を続けたことが記載されている(摘記g参照)。
そして、ゲルバトールがカプセル充填方法中の初めの水中油サスペンションの形成を促進し、安定性を高めるための分散剤であること、アンチフオームBが発泡を低下させるための消泡剤であり(摘記e参照、(アンチホームBはアンチフオームBと同一物である))また、マラチオンがホスホロチオエート殺虫剤である(摘記c参照)ことが記載されている。

してみると、刊行物Aには、分散剤と消泡剤を含有する水性相(フラスコ内容物)に、カプセル壁を形成するに必要な反応成分であるイソシアネート化合物と有機リン酸塩化合物であるホスホロチオエート殺虫剤(リン酸のチオまたはジチオエステル)とから形成された疎水相(油相、一番目の漏斗の内容物)を先ず添加して、水性相中に疎水相の液滴が分散した分散液(水中油エマルジョン)を形成し、次いで同反応成分であるポリアミン化合物水溶液(二番目の漏斗の内容物)を添加し、殺虫剤小滴の周りに界面重合によりカプセル壁を形成させることによるマイクロカプセル製剤の製造方法が記載されていると認められる。

そこで、本願発明1と刊行物Aに記載の発明とを対比すると、本願発明1の「第1の多官能性化合物」、「第2の多官能性化合物」は刊行物のAの「イソシアネート化合物」、「ポリアミン化合物」に相当するものであり、
本願発明1は、水性相中に水混和性液滴が分散するものであるから、本願発明1の「水混和性相」は刊行物Aの水性相中に液滴として分散する「疎水相」に相当する。
また、刊行物Aの疎水相(本願発明1でいうところの水混和性相)中の殺虫剤とイソシアネート化合物(第1の多官能性化合物)の配合割合をみると、実施例5の1番目の漏斗中には100gのマラチオンと30gのトルエン2,4-ジイソシアネート;3.5gポリメチレンポリフェニルイソシアネートが含まれるから、その殺虫剤の配合割合は75重量%[100÷(100+30+3.5)=75重量%]、イソシアネート化合物の配合割合は25重量%[(30+3.5)÷(100+30+3.5)=25重量%]であるから、本願発明1の水混和性相中のカデュサホスの配合割合98重量%以下、第1の多官能性化合物の配合割合2-35重量%の範囲に包含されるのでこの点に差異はない。
してみると、両者は、哺乳動物等に対する毒性を低くする目的で毒性殺虫剤をカプセル充填する点で軌を一にするものであって、その製造方法において、1以上の泡止め剤を含有する水性相を調製し、98重量%以下の殺虫剤と2-35重量%の第1の多官能性化合物からなる水混和性相を調製し、該水混和性相を該水性相中に添加し、水性相中に水混和性液滴が分散した分散液を調製し、該分散液に1以上の第2の多官能性化合物の水溶液を加え、該第1の多官能性化合物と界面重合を行って殺虫剤のマイクロカプセルを形成するマイクロカプセル化した殺虫製剤の製造方法である点で一致しており、以下の(1)?(3)の点で相違する。
相違点(1)泡止め剤を含む水性相において、本願発明1が1以上の乳化剤を含有し、水混和性相を水性相中で乳化して水性相中に水混和性液滴が分散した分散液を調製しするのに対し、刊行物Aに記載の発明が乳化剤を含有していること、そして疎水相(水混和性相)を水性相中で乳化することについての記載がない点、
相違点(2)第2の多官能性化合物の水溶液の添加量について、本願発明1が第1の多官能性化合物と界面重合を行うに足る量と特定しているのに対し、刊行物Aに記載の発明ではこの添加量について記載がない点
相違点(3)殺虫剤活性成分が、本願発明1はカデュサホスであるのに対し、引例発明はリン酸のチオ又はジチオエステルである点

上記相違点(1)?(3)について検討する。
(ア)相違点(1)について
刊行物Aのゲルバトールからなる分散剤は、カプセル充填方法を実施するに当たり、初めの水中油サスペンションの形成を促進し、安定性を高めるための分散剤であると記載されている(摘記e参照)が、同明細書には「殺虫剤を不連続疎水相として水中油エマルジョンを形成する工程」、「油相小滴の界面で」、と記載されている(摘記d参照)ことからみれば、水中油サスペンションは水中油エマルジョンに対応するものと解されるから、分散剤は水中油エマルジョンの形成を促進し、安定性を高める作用を有するものを意味しているから、刊行物Aの水性相中に疎水相の液滴(水混和性液滴)が分散した分散液は、疎水相の液滴(水混和性相)を乳化して得られたものであり、本願発明1の水混和性相を水性相中で乳化して水性相中に水混和性液滴が分散した分散液と実質的な差異はない。
そして、本願発明1の乳化剤は水混和性相を水性相中で乳化し水性相中に水混和性液滴を分散させた分散液を得るものであるところ、刊行物Aのゲルバトール分散剤も本願発明1の乳化剤と作用は何ら変わるものではなく、また一般に、水中油エマルジョンの形成を促進し、安定性を高める作用を有するものとして乳化剤は広く知られているので、刊行物Aの分散剤に代えて乳化剤を用いる程度のことは当業者が容易に想到し得るものである。
さらに付言すると、本願発明1における乳化剤は、本願明細書の段落【0010】に「本発明で好ましく用いられる乳化剤はポリビニルアルコールである。」と記載され、具体例として実施例に示されている乳化剤はPVA(ポリビニルアルコール)のみである。
ここで、乳化剤としてポリビニルアルコールを用いる技術について考察してみると、刊行物Cには、「従来の技術」として、刊行物Aと同一の米国特許3,577,515号明細書を引用し、最初に、カプセル壁を形成させるのに必要な第一の反応成分の溶液を連続相に分散させ、次いで第二の反応成分の溶液を連続相を含む媒質中に加えることによって行なわれ、連続水性相中に非混水性の有機相を分散させるために、ポリビニルアルコール、ゼラチン及びメチルセルロースのような非イオン性保護コロイドを用いることが推奨さること(摘記j参照)が記載され、この発明において、陰イオン性分散剤及び非イオン性保護コロイド及び/又は非イオン性界面活性剤を水に溶解し、次いで1種以上のポリイソシアネートの溶液を、1種以上の農薬に或いは水非混和性有機溶媒に溶かした1種以上の農薬の溶液中に加え、均質な分散液が得られるまで攪拌し、1種以上の種類のポリアミンを加え、ポリアミンが充分にインシアネートと反応するまで更に攪拌することによるマイクロカプセルを製造する方法(摘記k参照)として、例えば、実施例8にイサゾフォス(活性成分)にジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネートを溶かした溶液を、分散剤A及びMOWIOL○R18-88(ポリビニルアルコール)を水に溶かした溶液に室温で撹拌羽根を用いて分散させ、得られた分散液にヘキサメチレンジアミンを加えて攪拌すると、安定なマイクロカプセル懸濁液が生成する(摘記l、m参照)と具体的に記載されており、このことからみれば、マイクロカプセル化の製造方法において、水性相中に農薬活性成分とポリイソシアネートを含む水非混和性の有機相を分散させるために、ポリビニルアルコールを用いることもよく知られている。
してみると、水性相中に殺虫剤とイソシアネート化合物を含む非混水性の有機相(水混和性相)を分散させ、水中油エマルジョンの形成を促進し、安定性を高める目的で、ポリビニルアルコール等の乳化剤を水性相中に配合することは刊行物Cに基づいても当業者が容易に想到し得るもので、しかも本願の明細書の記載からでは、この点に格別な技術的意義があるものとも認められない。

(イ)相違点(2)について
第2の多官能性化合物の水溶液の添加量について、刊行物Aには特に記載がないが、第2の多官能性化合物は、第1の多官能性化合物と界面重合を行いカプセル壁を形成するために使用するものであるから、その添加量は当然、第1の多官能性化合物と界面重合するために化学量論的に妥当な量と解される。そうすると本願発明1の「第1の多官能性化合物と界面重合を行うに足る量」と実質的に同じともいえる量であるから、本願発明1のように特定することは当業者が容易に想到し得るものであり、この点に格別な技術的意義は認められない。

(ウ)相違点(3)について
引用例Bに記載されているように、カデュサホス(cadusafos)が公知の殺虫剤で、毒性があることも知られていた。
この点については、本願明細書の従来の技術とその課題の項にも、カデュサホスが現在市販されていて、哺乳動物、魚、節足動物、及び鳥類に対し毒性が強いと記載されている。
また、刊行物Aにも、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートが人間を含む高等動物に有毒であり、肌を通じて吸入され、あるいは吸収されること、そして被毒回避のため、有毒殺虫剤・殺菌剤の多くはポリマー特にポリアミドによりカプセル入りとされること(摘記b参照)が記載されている。
してみれば、カデュサホスが公知の殺虫剤で、哺乳動物、鳥、魚及びその他の動物に対する毒性が知られている以上、その毒性を低下させた製剤の開発は当然望まれているところであるから、その毒性の低下を目的として、刊行物Aにもみられる、一般によく知られているポリマーによりカプセル入りとする方法を、カデュサホスに適用してカプセル化して毒性を低下しようとする程度のことは当業者であれば容易に思いつくものといえる。
そして、その毒性低下を目的として、マイクロカプセル化技術を応用している刊行物Aの技術に基づいて、そのカプセル化の方法として、カデュサホスと有機リン酸塩化合物である点で類似するリン酸のチオ又はジチオエステルであるホスホロチオエート殺虫剤について、分散剤と消泡剤を含有する水性相に、有機リン酸塩殺虫剤(ホスホロジチオエート)とイソシアネート化合物等の第1の多官能性化合物からなる水混和性相を添加して、水性相中に水混和性相液滴が分散した分散液(水中油エマルジョン)を形成し、ポリアミン等の第2の反応性成分の水溶液を添加し、殺虫剤小滴の周りに界面重合によりカプセル壁を形成させるマイクロカプセル製剤の製造方法は本願出願前にすでに公知の技術である。しかも、本願発明1は、そのカプセル化方法を、カデュサホスに適用するに当たり、何らかの特別の工夫を施しているものではなく、単に刊行物Aに記載の方法をほとんどそのまま適用したにすぎないものである。
しかも、引用例Aには、燐酸のジチオエステルとしてO-エチル-S,S-ジプロピルホスホロジチオエート(モキャップ)が例示されており(摘記c参照)、上記O-エチル-S,S-ジプロピルホスホロジチオエートをカデュサホスと比較すると、これは、エステルがプロピルエステルであるところ、カデュサホスはブチルエステルとアルキル基の炭素数が1つ大きいものにすぎない。そうすると、低毒化の望まれていたカデュサホスのマイクロカプセル化の方法として刊行物Aの方法を採用して、カプセル化製剤を製造してみることは格別困難なことではない。

(エ)本願発明1の効果について
本願明細書の実施例6?7(表5?10)には毒性と殺虫活性を示すデータが記載されているが、いずれも、マイクロカプセルの材質が第1の多官能性化合物にPMPPI(ポリメチレンポリフェニルイソシアネート)を第2の多官能性化合物にTETA(トリエチレンテトラミン)、DETA(ジエチレンテトラミン)、HDA(1,6-ヘキサンジアミン)の多官能性アミンを界面重合させたポリ尿素からなるもののみであって、本願発明1の製造方法のうちの、ごく一部の特定された実施態様のもののみである。
そして、一般にマイクロカプセルからの活性成分の放出性能は、活性成分の量やマイクロカプセルに用いる高分子の種類・組成・量により相違するものであると考えられるのに対し、本願発明1はマイクロカプセルに用いる高分子の種類・組成が特定されていないポリマーによるマイクロカプセルからなるもの、つまり、ポリマーの材質を問わず、カプセルしたことのみによる効果が上記実施例に示されたポリマーの材質が特定のポリ尿素であるものと同様な毒性の低下と殺虫活性効果を奏するものとは認めがたく、本願発明1により得られたすべてのカプセル製剤が、従来のカデュサホス製剤と同等の活性をもった上で哺乳動物等に対する毒性のみを低減できるものとはいいきれない。
さらに、本願発明1の特定の実施態様に関する上記実施例においても、例えば、表7(カデュサホスCS製剤(カプセル懸濁液)で処理した48時間後のトマト上での根結節線虫、M.incognita、によって起こる根異常の平均評価)のレート(Kg/Ha)が0.25であるときの製剤、BB、BB-1、CC、FFの結果、表8(土壌を線虫で感染する7日前にカデュサホスCS製剤で処理したトマト上での根結節線虫、M.incognita、によって起こる根異常の平均評価)のレート(Kg/Ha)が0.25であるときの製剤BB、BB-1、CC、FFの結果及び表9(クレー
ローム土壌中のサザン・コーン・ルートワーム幼虫に対するカデュサホスCS製剤の残留土壌活性の致死率)の製剤PB-C14U-ND及び製剤Eの84日目の致死率の結果からみると、公知のカデュサホス100ME製剤(100g/lのカデュサホス水性マイクロエマルジョン、段落【0032】14?15行参照)と比較して同等の効果を有していないもの、つまり、本願発明1には、本願発明1の製造方法により得られた製剤が有する効果とされる、従来のカデュサホス製剤と同等の活性をもった上で哺乳動物に対する毒性が顕著に低いという効果を有していない製剤についての製造方法が含まれている。
してみると、本願発明1は引用例Aのカプセル製剤の製造方法に比較し、活性効果を減少させることなく、哺乳動物等に対する毒性が顕著に低いという予測し得ない効果が奏されたものとすることはできず、本願発明1が、引用例A?Cから予測し得ない格別の優れた効果を奏するということはできない。

請求人は、審判請求書において「7.殺虫剤のマイクロカプセル化において、それぞれの殺虫剤のマイクロカプセル化の有効性を予測することは極めて困難であります。多くの場合、マイクロカプセル化によって、たとえば毒性は低下するが、殺虫剤としての効能も低下する(殺虫剤分子とカプセルとの相互作用や殺虫剤の徐放化その他により)というように、その効果は単一的であり、複合的効果を示すものは極めて例外的なものといえます。・・・本願発明では、カデュサホスを限定された工程の組合せからなるマイクロカプセル化方法と組合せることにより、前記した効果を得ることを見出したもの」(審判請求書5頁9?17行参照)と主張している。
しかし、明細書等には、活性成分の種類、さやの成分のポリマーの種類や組成、カプセル化方法が異なるものと比較したデータは何も示されておらず、また、本願発明1の特定事項と効果との関係を理論的に示す記載もないので、他の活性成分、さやの成分の他のポリマーの種類や組成、他のカプセル化方法を用いた製造方法に比し、カデュサホスを限定された工程の組合せからなるマイクロカプセル化方法と組み合わせることにより、極めて例外的な、従来のカデュサホス製剤と同等の活性をもった上で哺乳動物等に対する毒性が顕著に低いという効果が奏されたものとすることはできない。

したがって、本願発明1は本願出願前に頒布された刊行物A?Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は、請求項2?14に係る発明を検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-24 
結審通知日 2006-08-29 
審決日 2006-09-12 
出願番号 特願2000-561829(P2000-561829)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉住 和之冨永 保  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 井上 彌一
鈴木 紀子
発明の名称 カデュサホスのマイクロカプセル化製剤  
代理人 畑 泰之  
代理人 斉藤 武彦  

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