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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1169880 |
審判番号 | 不服2005-14422 |
総通号数 | 98 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-02-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-07-28 |
確定日 | 2007-12-21 |
事件の表示 | 平成11年特許願第262731号「サーマルプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月27日出願公開、特開2001- 80100〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成11年9月16日に出願したものであって、平成17年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 2.本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年2月2日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲(全請求項数1)の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「基板上に形成された半径R2の略円弧状の突起をなす部分グレーズ上に発熱抵抗体を配置したサーマルヘッドと、所定の押圧力で前記サーマルヘッドに押圧される半径R1のプラテンローラとを具備し、記録媒体を前記サーマルヘッドと前記プラテンローラの間に挟持させて搬送しながら印字するサーマルプリンタにおいて、前記部分グレーズの凸部頂点位置から、前記基板に平行に前記記録媒体の搬送方向に対して上流側に所定距離Yだけずらした位置に前記発熱抵抗体を形成し、かつ、前記発熱抵抗体は前記プラテンローラから、前記基板に平行に前記記録媒体の搬送方向に対して下流側に所定距離Xずらす設定としており、X:Y=R1:R2なる関係であることを特徴とするサーマルプリンタ。」 3.引用刊行物 (a)原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平10-193662号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 ア.【0024】 【発明の実施の形態】図5は、本発明を実施した発熱素子オフセット型のサーマルヘッドの発熱素子アレイの断面を示す斜視図である。アルミナ基板11の表面には、平坦なグレーズ層12と、このグレーズ層12の一部をシリンドリカル状突条(円柱の部分周面状突条)とさせた部分グレーズ13とが形成されている。グレーズ層12はアルミナ基板11にガラスペーストを塗布した後に加熱して溶融させ、これを冷却して形成される。また、部分グレーズ13は、冷却により固化した平坦なグレーズ層12に対して、エッチングを行った後に再度加熱溶融して、シリンドリカル状突条として形成される。グレーズ層12の厚みは35μmであり、部分グレーズ13の最大厚みは70μmであるが、これらは用いる記録媒体や記録方式によってその厚みが適宜選択される。平坦なグレーズ層12の厚みは20?2000μmであればよく、また、部分グレーズ13の最大厚みは50?2050μmであればよい。また、部分グレーズ13の円弧面の半径は1?8mmであればよい。 イ.【0025】部分グレーズ13の表面とその周囲の平坦グレーズ層12の表面とに、抵抗膜15と電極16,17とが形成される。更に、これら抵抗膜15と電極16,17とを覆うように、ガラス製の保護層18が形成されて、発熱素子アレイ20が構成されている。発熱素子アレイ20の表面には、電極段差22a,22bに起因する表面段差23a,23bが発生している。この表面段差23a,23bの高さは、電極16,17の厚みによって異なるが一般的なサーマルヘッドでは0.6?1μm程度である。 ウ.【0027】図6は発熱素子アレイ20を拡大して示す平面図である。電極16,17は櫛形状に形成されており、これら両電極16,17で挟まれた抵抗膜15の部分が発熱素子21となる。発熱素子21のサイズは、主走査方向における長さが78μm,副走査方向における長さが225μmである。また、発熱素子21の中心を通る中心線TCLが、部分グレーズ13(図1参照)の頂点を通る中心線GCLから、記録材料送り方向上流側にオフセット長さOSL2(OSL2=180μm)だけシフトするように、各電極16,17が配置されている。なお、発熱素子21のサイズは、用いる記録材料や用途に応じて適宜変更される。また、オフセット長さOSL2は180μmであるが、このオフセット長さOSL2も記録材料や用途等に合わせて適宜変更される。電極16,17としてはAl,Au等が用いられ、スパッタリング法や蒸着法、CVD法などにより形成される。本実施形態では、抵抗膜15にエッチング溝19を形成して、各発熱素子21毎に抵抗膜15を分断しているが、周知のように、抵抗膜15を分断することなく、単に電極16、17を形成することにより、発熱素子21を形成してもよい。 エ.【0030】図8に示すように、プラテンローラ26は、その回転中心RCが記録材料送り方向上流側に部分グレーズ13の頂点を通る鉛直な中心線GCLからオフセット長さOSL3( OSL3=400μm) だけオフセットして配置されており、発熱素子アレイ20にプラテンローラ26の周面が押圧されている。プラテンローラ26は周面にゴム製円筒体26aを配置したゴムローラから構成されている。なお、オフセット長さOSL3は、前記LCRLが十分に確保されるものであればよく、プラテンローラの直径や発熱素子アレイ20の形状によって適宜変更される。 オ.【図7】、【図8】から、OSL1、OSL2、OSL3はいずれもアルミナ基板11に平行な方向の長さであること、OSL3からOSL2を差し引いた長さがOSL1であり、OSL1は、プラテンローラ26の回転中心RCと発熱素子21の中心を通る中心線TCLとの距離、即ち、プラテンローラ26の回転中心RCから、アルミナ基板11に平行で記録材料の搬送方向に対して下流側に発熱素子21をずらした長さであることが看取できる。 刊行物1には、サーマルヘッドとプラテンローラ26が記載されているから、サーマルヘッドとプラテンローラ26を有するサーマルプリンタを認識でき、前記サーマルヘッドは、所定の押圧力で前記プラテンローラ26を押圧し、記録材料を前記プラテンローラ26との間に挟持させて搬送しながら印字することは自明であるから、上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。 「アルミナ基板11上に形成されたシリンドリカル状突条(円柱の部分周面状突条)の突起をなす部分グレーズ13上に発熱素子21を配置したサーマルヘッドと、所定の押圧力で前記サーマルヘッドに押圧されるプラテンローラ26とを具備し、記録材料を前記サーマルヘッドと前記プラテンローラ26の間に挟持させて搬送しながら印字するサーマルプリンタにおいて、前記部分グレーズ13の頂点を通る中心線GCLから、前記アルミナ基板11に平行で記録材料送り方向上流側にオフセット長さOSL2を180μmとしてシフトした位置に前記発熱素子21を形成し、かつ、プラテンローラ26は、その回転中心RCが前記アルミナ基板11に平行で記録材料送り方向上流側に部分グレーズ13の頂点を通る鉛直な中心線GCLからオフセット長さOSL3を400μmとしてオフセットして配置されたサーマルプリンタ。」 (b)原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平2-295758号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 カ.「第5図に示した実施例のように該部分グレーズ12の研磨面を該給紙方向に傾けて形成することにより、発熱部と該発熱紙14とは圧接力が最大となる点を中心として接することになり、熱伝達効率を一層向上させるという作用をもたらす。」(第3頁右上欄第16?末行) 4.対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、刊行物1記載の発明の「アルミナ基板11」、「発熱素子21」及び「記録材料」は、それぞれ本願発明の「基板」、「発熱抵抗体」及び「記録媒体」に相当する。 刊行物1記載の発明の「シリンドリカル状突条(円柱の部分周面状突条)の突起」は、断面形状が円弧状となることは明らかであり、本願明細書【0008】の「断面形状が円弧状の部分グレーズ層」なる記載から、本願発明の「略円弧状」には、断面形状が円弧状のものが含まれているから、刊行物1記載の発明の「シリンドリカル状突条(円柱の部分周面状突条)の突起」は、本願発明の「略円弧状の突起」に相当し、断面形状が円弧状であるから、その半径をR2と称することができる。 刊行物1記載の発明のプラテンローラ26が、円柱形状をしていることは自明であり、その半径をR1と称することができる。 刊行物1記載の発明の発熱素子21は、部分グレーズ13の頂点を通る中心線GCLから、アルミナ基板11に平行で記録材料送り方向上流側にオフセット長さOSL2を180μmとしてシフトした位置に形成されており、180μmを所定距離Yと称することができるから、刊行物1記載の発明は、部分グレーズの凸部頂点位置から、基板に平行に記録媒体の搬送方向に対して上流側に所定距離Yだけずらした位置に発熱抵抗体を形成したものといえる。 刊行物1の上記オ.から、OSL1は、400μmから180μmを差し引いた長さ220μmであり、プラテンローラ26の回転中心RCから、アルミナ基板11に平行で記録材料の搬送方向に対して下流側に発熱素子21をずらした長さであり、長さ220μmを所定距離Xと称すことができるから、刊行物1記載に発明は、発熱抵抗体はプラテンローラから、基板に平行に記録媒体の搬送方向に対して下流側に所定距離Xずらす設定としているものといえる。 よって、両者は、 「基板上に形成された半径R2の略円弧状の突起をなす部分グレーズ上に発熱抵抗体を配置したサーマルヘッドと、所定の押圧力で前記サーマルヘッドに押圧される半径R1のプラテンローラとを具備し、記録媒体を前記サーマルヘッドと前記プラテンローラの間に挟持させて搬送しながら印字するサーマルプリンタにおいて、前記部分グレーズの凸部頂点位置から、前記基板に平行に前記記録媒体の搬送方向に対して上流側に所定距離Yだけずらした位置に前記発熱抵抗体を形成し、かつ、前記発熱抵抗体は前記プラテンローラから、前記基板に平行に前記記録媒体の搬送方向に対して下流側に所定距離Xずらす設定としているサーマルプリンタ。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点]X、Y、R1、R2の関係に関し、本願発明は、X:Y=R1:R2なる関係であるのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような特定がない点。 5.判断 上記相違点について検討する。 刊行物1記載の発明の部分グレーズ13とプラテンローラ26はいずれも円弧面を有し、各円弧面の中心軸が平行であることも技術常識であるから、以後、各円弧面の中心軸に直交し、円弧面を切断する1切断面(どこで切断しても同じ。)で検討を進める。 そもそも、サーマルプリンタは、発熱抵抗体を発熱させ、発生した熱を記録媒体に伝達し、記録するものであるから、発熱抵抗体で発熱させた熱を効率よく記録媒体に伝達することは自明の課題である。一方、刊行物2には、「発熱部と該発熱紙(当審注:「感熱紙」の誤記と認める。)14とは圧接力が最大となる点を中心として接することになり、熱伝達効率を一層向上させる」と記載され、圧接力が最大となる点に発熱部があると熱伝達効率が良いことが示唆されている。 刊行物1の上記ウ.の「オフセット長さOSL2は180μmであるが、このオフセット長さOSL2も記録材料や用途等に合わせて適宜変更される。」との記載、エ.の「オフセット長さOSL3は、前記LCRLが十分に確保されるものであればよく、プラテンローラの直径や発熱素子アレイ20の形状によって適宜変更される」との記載から、OSL2、OSL3は、変更可能な数値(したがって、OSL1も変更可能)であり、円弧同士が圧接した場合、圧接力が最大となるのは接点であり、接点は2つの円弧の中心を結ぶ線分上に有ることは自明であるから、自明の課題である熱を効率よく記録媒体に伝達することを主眼とすれば、刊行物1記載の発明の発熱素子21を部分グレーズ13の中心とプラテンローラ26の中心を結ぶ線分上である接点に設けることは当業者が容易になし得る程度のことである。 互いに接する2つの円弧の中心を結ぶ線分と、接点を通り前記線分以外の直線と、それぞれの円弧の中心から前記直線に降ろした垂線で形成される2つの直角三角形が相似であるから、円弧の半径と前記垂線の長さが2つの円弧の間で比例の関係にあることは、幾何学上自明である。該自明な事項を発熱素子21を部分グレーズ13の中心とプラテンローラ26の中心を結ぶ線分上である接点に設けた場合に当てはめ、前記「接点を通り前記線分以外の直線」を発熱素子21の中心を通る中心線TCLとすれば、プラテンローラ26から降ろした垂線長さであるOSL1(本願発明の「X」)、部分グレーズ13から降ろした垂線の長さであるOSL2(本願発明の「Y」)、プラテンローラ26の半径R1、部分グレーズ13の半径R2の関係がX:Y=R1:R2なる関係となることは明らかである。 つまり、X:Y=R1:R2なる関係とは、発熱素子21を部分グレーズ13の中心とプラテンローラ26の中心を結ぶ線分上である接点に設けたことを、部分グレーズ13とプラテンローラ26を幾何学上の円弧とみなして異なる表現で表したものにすぎず、発熱素子21を部分グレーズ13の中心とプラテンローラ26の中心を結ぶ線分上である接点に設けることは、前述のように当業者が容易になし得る程度のことであるから、上記相違点1のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 そして、本願発明の作用効果も、刊行物1、2記載の発明及び自明な事項から当業者が予測できる範囲のものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1、2記載の発明及び自明な事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-10-18 |
結審通知日 | 2007-10-24 |
審決日 | 2007-11-07 |
出願番号 | 特願平11-262731 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 門 良成 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
菅藤 政明 名取 乾治 |
発明の名称 | サーマルプリンタ |
代理人 | 内藤 照雄 |
代理人 | 宮越 典明 |