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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20053934 審決 特許
平成17行ケ10312審決取消請求事件 判例 特許
平成16ワ14321特許権譲渡代金請求事件 判例 特許
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不服20058936 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1169917
審判番号 不服2004-22967  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-08 
確定日 2007-12-26 
事件の表示 平成 7年特許願第527083号「セルトーリ細胞および同種移植片または異種移植片を用いる疾患処置方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年10月26日国際公開、WO95/28167、平成 9年12月 2日国内公表、特表平 9-512015〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成7年4月13日(パリ条約による優先権主張1994年4月13日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年8月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年11月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月7日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年12月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年12月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の概要
本件補正は、特許請求の範囲に請求項26として以下の請求項を追加する補正を包含する。

「【請求項26】
哺乳動物における疾患の処置用医薬組成物であって、哺乳動物において免疫学的に特別免除された部位を創設するに有効な量の異種のセルトーリ細胞からなる医薬組成物。」

(2)判断
補正前の請求項1-14に係る発明はセルトーリ細胞及び生物学的因子を産生する細胞を含む組成物、同請求項15-25に係る発明はセルトーリ細胞及びランゲルハンス膵島細胞を含む医薬組成物、同請求項26-27に係る発明はセルトーリ細胞を含むのに適した第1の容器、疾患中に欠失または不足している生物学的因子を産生する細胞を含むのに適した第2の容器を収容するのに適した区画化されたキット、同請求項28に係る発明は包装材料と上記包装材料内に含まれたセルトーリ細胞を含む製品部材であるから、これらのいずれの発明を限定したものにも当たらないセルトーリ細胞からなる医薬組成物の発明を、補正前の請求項25と請求項26の間に、新たに請求項26として追加する上記補正は、補正前の請求項の減縮を目的とするものとは認められない。
また、上記の請求項26を追加する補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものとも認められない。

(3)むすび
よって、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成16年12月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?28に係る発明のうち、請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、平成16年2月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)

「1.哺乳動物における生物学的因子の欠損に起因する疾患の処置のための医薬組成物であって、免疫学的に特別免除された部位を創設するに有効な量のセルトーリ細胞および上記生物学的因子を産生する細胞の治療的有効量を含み投与されることを特徴とする医薬組成物。」

(1)引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「Selawry H P et al.,Sertoli cell-enriched fractions in successful islet cell transplantation,CELL TRANSPLANTATION,1993年,vol.2, no.2,pp.123-129」(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。
ア.「膵島細胞移植成功におけるセルトーリ細胞に富んだ分画
要約-
糖尿病のラットの腹部精巣中に膵島を移植した後に、膵島の同種および異種移植片のより長い生存が得られる。われわれは、以前、セルトーリ細胞により分泌される因子が精巣内への膵島の同種および異種移植片を拒絶反応から保護する要因に思われることを示した。この研究の目的は、雌の受容者(recipients)にも同様に移植を可能とするために、免疫学的に特別免除された(privileged)部位を、精巣以外の生体内の器官部位、例えば腎嚢下腔部位に確立出来るかどうかを試験するものであった。全部で36匹のオスおよび21匹のメスの糖尿病のPVGラットを6つの、異なった処理をする群にグループ分けした。1)6匹のオスのラットにスプレーグ-ドーリー(S-D)供与動物ラットからの膵島のみを移植した。2)10匹のオスのラットに、移植後短期間シクロスポリン(CsA)を与えた。3)10匹のオスのラットに(S-D)ドナーラットからの膵島とPVGドナーラットからのセルトーリ細胞に富んだ分画(SEF)を移植した。ただし、CsAは使用しなかった。4)10匹のオスのラットに(S-D)由来の膵島および(PVG)由来のSEFの組み合わせを移植し、CsAを与えた。5)10匹のメスのラットに5)[審決注:4)の誤記]グループにおけると同じ組み合わせの細胞とCsAを与えた。6)10匹のメスのラットにいずれもS-Dドナーラットからの膵島およびSEFと、CsA を与えた。この結果、70%-100%のグループ1,2及び3の移植されたラットは高血糖症のままであったことが示された。グループ4,5および6のみで、すなわち膵島とSEFの組み合わせと短期間のCsAを与えられたラットで、75%以上のラットにおいて、100日を超える正常血糖状態が惹起された。移植された組織の電子顕微鏡を用いた検査で、β細胞がそのまま存在していること、及びセルトーリ細胞の特徴を有する細胞が存在していることが示された。我々の結果によれば、以下のことが示された(suggested)。1)免疫学的に特別免除されていない部位における膵島の同種移植片の保護は、オス及びメスのラットともにセルトーリ細胞を同時に移植することにより達成される。2)セルトーリ細胞は明らかに精巣以外の器官部位で免疫阻害因子(immune inhibitor)を分泌する能力を維持している。
われわれは、オス及びメスの糖尿病に罹っている受容ラットに単離された膵島を移植するための免疫学的に特別免除された部位を持続した免疫抑制をすることなく創り出すことが可能であると結論した。」(冒頭の要約部分)

イ.上記6群にグループ分けしたラットの具体的移植結果が表1としてまとめられており、その被験例第3群はS-Dラットの膵島細胞とPVGラットのセルトーリ細胞とを同時にPVGラットに投与することが記載され、且つ同表には、膵島細胞のみを投与した被験例第1群は正常血糖値を一日も示さなかったのに対して、膵島細胞とセルトーリ細胞とを同時投与した被験例第3群は正常血糖値を14日間示したという有利な効果も示されている。(審決注:引用文献1の記載内容のうち、その「材料及び方法」から「結果」に至る部分(第124頁左欄14行乃至第126頁)の記載が、本願明細書の実施例3の記載と全く同一の内容のものである。)

ウ.「糖尿病のラットを滅菌食中のメトキシフルランUSPで麻酔して、左側腹部を切開して、腎臓を露出した。約500万個のセルトーリ細胞を含む、セルトーリに富む画分をまず最初に、腎嚢下腔に注入した。それらの細胞は該腎嚢腔下に乳白色の気泡として見ることができた。直後に、合計10膵島細胞/g(体重)を前述の乳白色の気泡に注入した。針をゆっくりと引き抜いて、移植した細胞の漏出を防いだ。」(124頁右欄24-31行)

(2)対比・判断
引用文献1には、オス及びメスの糖尿病に罹っているラットの血糖レベルを正常なレベルに一定期間維持するために、
A)免疫学的に特別免除された部位を創設するに有効な量の、同一又は他のラットから単離されたセルトーリ細胞
及び
B)糖尿病に係ったラットの血糖値を正常のレベルに低下させる量の、他のラットから単離された膵島細胞
を精巣以外の生体内の器官部位、たとえば腎嚢下腔部位の中に移植し、シクロスポリンを投与することが試験結果とともに記載されている。(上記摘記事項ア?ウ)
すなわち、「オス及びメスの糖尿病に罹っているラットの血糖レベルを正常なレベルに一定期間維持するための組成物であって、シクロスポリンの投与下に、精巣以外の生体内の器官部位に移植されるための
A)免疫学的に特別免除された部位を創設するに有効な量の、同一又は他のラットから単離されたセルトーリ細胞
及び
B)糖尿病に係ったラットの血糖値を正常のレベルに低下させる量の、他のラットから単離された膵島細胞
を含む組成物」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

引用発明における「ラット」は、本願発明における「哺乳動物」に含まれ、また、引用発明における「糖尿病」、「膵島細胞」は、それぞれ、本願発明における「生物学的因子の欠損に起因する疾患」、「生物学的因子を生産する細胞」に含まれる。そして、本願発明でも免疫抑制剤であるシクロスポリンが併用され、セルトーリ細胞および生物学的因子を産生する細胞は腎嚢下腔に移植されており(本願明細書第11頁13?14行、同頁24?25行、実施例3参照)、本願発明における「投与」とは、引用発明における「移植」のことである。
したがって、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、哺乳動物における生物学的因子の欠損に起因する疾患の処置のための組成物であって、免疫学的に特別免除された部位を創設するに有効な量のセルトーリ細胞および上記生物学的因子を産生する細胞を含み投与されることを特徴とする組成物である点で一致し、一方、以下の点で相違する。

相違点1:
前者においては、生物学的因子を産生する細胞の投与量を治療的有効量と規定しているのに対して、後者においては、糖尿病に罹ったラットの血糖値を正常のレベルに低下させる量用いている点。
相違点2:
前者は医薬組成物であるのに対して、後者は組成物である点。

そこでこれらの相違点について以下に検討する。
まず相違点1については、糖尿病に罹ったラットの血糖値を正常のレベルに低下させる量とは、治療的有効量のことであるから、この点に実質的な相違は認められない。なお、本願明細書の実施例3の記載は、引用文献1の試験方法及び結果に関する記載(上記摘記事項イ.)と同じであり、本願発明では、引用発明と実質的にも同じ量を使用している。

つぎに、相違点2について検討すると、上記の組成物、すなわち、一定量のセルトーリ細胞と一定量の膵島細胞が、糖尿病に罹ったラットの血糖値を正常なレベルに低下させるという知見に基づいて、該組成物が糖尿病の治療に有効であることに、すなわち糖尿病に対する医薬として有効であることに想到することは、当業者にとって格別困難なものとは認められない。
そして、本願発明の奏する効果についても、格別顕著なものとは認められない。なお、上記したとおり、本願明細書の実施例3の記載は、引用文献1の試験方法及び結果に関する記載(上記摘記事項イ.)と同じであり、本願発明では、引用発明と同じ効果を奏している。

(3)むすび
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、却下された補正は、移植片を異種移植片に限定する補正を包含するものであるが、以下のとおり、本願発明における移植片を異種移植片に限定したとしても、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求人は、平成17年1月18日付けで提出した補正書により補充した審判請求の理由において、「引用文献1では、ラットのSEF(審決注:セルトーリ細胞に富んだ分画のこと)が、糖尿病ラットに移植されたラットの膵島細胞を拒絶反応から保護することだけを開示して」いること、一般に異種間では拒絶反応から移植片を保護するのが困難であることを理由として、移植片を異種移植片に限定した補正後の発明は進歩性を有する旨主張している。
しかしながら、精巣におけるセルトーリ細胞の保護効果が、種を超えて有効に働くことは、引用文献1において、その背景技術として言及している(上記摘記事項ア.の冒頭部分参照)上に、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「Selawry H P et al.,Production of a factor, or factors, suppressing IL-2 production and T cell proliferation by Sertoli cell-enriched preparations. A potential role for islet transplantation in an immunologically privileged site,TRANSPLANTATION,1991年,vol.52, no.5,pp.846-50」(引用文献2)にも以下の記載がある。
「精巣は、1930年代にグリーンがヒトの乳ガンの断片をウサギの精巣に移植し、これらの細胞が化学療法に対する反応を試験するのに十分長く生存することを示したとき以来、免疫学的に特別免除された部位であると考えられてきた。引き続く研究により、皮膚、副甲状腺、および膵島など他のタイプの細胞もまた、腎臓の被膜下の空間あるいは肝臓といった器官部位における生存と比較して、より長く生存することが示された。過去5年間に我々の実験室でなされた研究により、はじめて、精巣がそのもともとの陰嚢の位置において免疫学的に特別免除された部位であるばかりでなく、とくに、腹部の位置の精巣もまた、膵島の移植片の生存を長くするための特別に安全な環境を提供するものであることが示された。長期間の生存は、単離された膵島の由来(origin)に関係なく生起した。かくして、主要組織適合性(major histocompatibility)の障壁を超えて移植された膵島、膵島の異種移植片、および自己免疫による自発的な真性糖尿病を有するラットに移植されたMHC-適合性の供与体(donor)の膵島が無期限に糖尿病の受容動物において機能し続けた。」(第846頁左欄第2パラグラフ冒頭)
すなわち、精巣に移植した場合に、単離された膵島細胞が長期間生存しうることが知られており、これはその膵島細胞の由来に関係なく、異種のドナーからの膵島の異種移植片であっても移植可能であることが記載されているのであるから、請求人の主張するように、同種の移植片と比較して、異種の移植片が拒絶反応を受けやすいことは一般的にはいえたとしても、こと精巣のセルトーリ細胞による「免疫学的に特別免除された部位」に関しては、あてはまらないことが知られていたことが引用文献1及び2の上記記載から明らかであって、請求人の上記主張は、妥当でない。
同種、異種の区別無く移植片が生存させることができることが知られているセルトーリ細胞について、そのセルトーリ細胞と同種異種片としての膵島細胞を腎嚢下腔の空間に移植することが知られており、シクロスポリンを併用すれば極めてすぐれた生存効果が得られることが引用文献1により知られているときに、その移植片として異種の膵島細胞を選択することに格別の困難は認められないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-25 
結審通知日 2007-07-31 
審決日 2007-08-13 
出願番号 特願平7-527083
審決分類 P 1 8・ 573- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 574- Z (A61K)
P 1 8・ 572- Z (A61K)
P 1 8・ 571- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 貴子  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 弘實 謙二
谷口 博
発明の名称 セルトーリ細胞および同種移植片または異種移植片を用いる疾患処置方法  
代理人 田村 恭生  
代理人 青山 葆  

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