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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06M
管理番号 1169973
審判番号 不服2005-4025  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-08 
確定日 2007-12-27 
事件の表示 平成10年特許願第293948号「消臭、抗菌および防汚機能を有する繊維布帛およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年4月25日出願公開、特開2000-119957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
この出願は、平成10年10月15日の出願であって、平成17年2月1日付けで拒絶査定がされ、同年3月8日付けで拒絶査定に対する審判が請求されるとともに手続補正がされたものであって、その発明は、上記手続補正により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「有機質繊維上にアパタイト被覆酸化チタン光触媒がメラミン樹脂により有機質繊維に対して0.01?10g/m^(2)の量で固定された有機質繊維を含む繊維布帛。」
(以下、「本願発明」という。)

2 原査定の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明はその出願前頒布された下記刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



刊行物1 特開平 8- 74171号公報
刊行物2 特開平10-244166号公報
刊行物3 特開平10- 5598号公報

3 刊行物の記載事項
(1) 刊行物1には以下の事項が記載されている。
1a 「繊維布帛に酸化チタン光触媒が樹脂バインダーで固定されてなる繊維布帛。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
1b 「【産業上の利用分野】本発明は、消臭、抗菌および防汚機能を有する繊維布帛に関する。さらに詳しく述べるならば、本発明は、衣料、カーテンなどのインテリア用品、衛生材料、衣料などに広く応用できる、消臭、抗菌および防汚機能を有する繊維布帛に関する。」(【0001】)
1c 「本発明に有用な繊維布帛としては、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維やレーヨンなどの再生繊維、木綿、羊毛、絹などの天然繊維からなる編織物などがあり、通常の染色加工やプリントが施されたものを使用することもできる。」(【0006】)
1d 「本発明者らは、酸化チタン光触媒を使用し、これを繊維布帛に樹脂接着剤を使用して固定することにより、従来消臭が困難であったタバコ臭、汗臭、腋臭などを簡単に消臭することができ、また布帛に付着したタバコのヤニなどの着色物質を分解させて、防汚効果を得ることができることを見出したのである。」(【0007】)
1e 「さらに、酸化チタン光触媒は、その酸化力により、大腸菌などを殺すことが知られている。本発明で得られる繊維布帛は、公知の抗菌防臭繊維布帛と同様に、黄色ブドウ球菌などの殺菌力があり、菌が人体代謝物などを分解する時に発生する悪臭を抑制する効果もある。」(【0009】)
1f 「酸化チタン光触媒を繊維布帛に固定する方法としては、酸化チタン光触媒の水分散液に、水分散性の樹脂バインダーもしくは水溶解性の樹脂バインダーと併用して、繊維布帛を浸漬し、マングルロールで絞り、乾燥する方法を用いることができる。また、酸化チタン光触媒と水系の樹脂バインダーを含む水性組成物を増粘し、ナイフコーターなどの公知の装置でコーティングすることも可能である。また、微粉末状の酸化チタン光触媒を使用する場合、溶剤可溶性の樹脂バインダーの溶液に分散させ、さらに適当な粘度に溶剤で希釈した組成物に布帛を浸漬し、マングルロールで絞り、次いで乾燥する方法を使用することもできる。また、繊維布帛の片面にナイフコーターなどの公知の装置を使用し、コーティングしたり、グラビヤロールを用いて付着させることも可能である。」(【0010】)
1g 「また、繊維布帛に対する酸化チタン光触媒の付着量は、0.1?20%の範囲であるのが好ましく、0.5?10%の範囲であるのがさらに好ましい。また本発明に用いる樹脂バインダーに関しては、酸化チタンの強烈な酸化力により、本来太陽光の短時間照射では着色しないはずの樹脂が分解着色を起こす場合が見られる。例えば、繊維布帛の撥水加工剤であるパーフルオロアクリレート共重合体は、それ自体短時間の太陽光の照射で着色することはないが、酸化チタン光触媒を共存させると、分単位で黄色く着色する。さらに、合成皮革用のウレタン樹脂で無黄変型と称される樹脂であっても、酸化チタン光触媒とともにコーティングすると、太陽光の照射で着色し、臭気が発生する場合がある。一方、アクリル樹脂を酸化チタン光触媒と共存させ、太陽光を照射した場合に特有のアクリルモノマー臭を生じることがある。しかして、このような着色は商品価値を低下させることがあるので、本発明においては着色や臭気の問題が無い樹脂バインダーを選択することが望ましい。」(【0013】)
1h 「さらに、樹脂バインダーそのものが臭気を発生すると消臭繊維としての意味を失ってしまう。このような着色や臭気の発生の程度は、酸化チタン光触媒の触媒活性度によっても異なる。触媒活性度が低い場合には、アクリル樹脂やウレタン樹脂を使用することが可能な場合もある。これらの樹脂バインダーを使用する場合には、洗濯やドライクリーニングでの酸化チタン光触媒粒子の繊維布帛からの脱落を抑えるため、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤などの架橋剤を併用するのが好ましい。」(【0014】)
1i 「以上のことから、太陽光に照射しても着色や臭気を生じない樹脂バインダーとして、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などを用いるのが特に好ましい。これらの樹脂は、水溶性のものやまたは溶剤に溶解した形態のものとして容易に入手することができ、それぞれ所定の硬化触媒を併用し、加熱条件下や常温下に硬化させることができる。」(【0015】)
1j 「本発明は、優れた消臭、抗菌および防汚機能を有する繊維布帛を提供することができる。本発明のこの繊維布帛は、衣料、カーテンなどのインテリア用品、衛生材料などとして有利に用いることができる。」(【0051】【発明の効果】)
(2) 刊行物2には以下の事項が記載されている。
2a 「酸化チタンからなる表面を持つ基材の該表面に、多孔質リン酸カルシウム膜をコートしたことを特徴とする環境浄化材料。」(【請求項1】)
2b 「多孔質リン酸カルシウムが、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、フッ化アパタイトの内から選ばれた少なくとも一種のリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の環境浄化材料。」(【請求項4】)
2c 「酸化チタン光触媒を取扱いの容易な繊維やプラスチックスなどの媒体に練り込んで使用することが試みられたが、その強力な光触媒作用によって有害有機物や環境汚染物質だけでなく繊維やプラスチックス自身も分解され極めて劣化しやすいため、繊維やプラスチックスに練り込んだ形での使用は不可能であった。」(【0006】)
2d 「本発明による環境浄化材料は、基材の表面を覆うリン酸カルシウム膜が多孔質であって、細孔を通じて基材表面の酸化チタンに光が照射されるため、リン酸カルシウム膜で覆われていないものとほとんど変わらない光触媒作用を得ることができる。しかも、上記リン酸カルシウム膜が雑菌等の汚染物質を吸着する性質を持っているため、吸着した汚染物質を上記光触媒作用によって確実かつ効果的に分解、除去することができる。(【0087】)
2e 「また、上記リン酸カルシウム膜が光触媒として不活性であるため、浄化材料を有機繊維やプラスチックスなどの媒体に練り込みなどによって添加して使用する場合でも、媒体を劣化させなることがなく、長期間その浄化効果を持続させることができる。したがって、本発明による環境浄化材料を有機繊維やプラスチックスなどの媒体に添加することにより、自動車の車内や居間、台所、トイレなどの脱臭・・・、菌やカビの繁殖防止、・・・など、非常に幅広い用途に適用でき、しかも、化学薬品やオゾンのような有毒な物質を使用せず、電灯の光や自然光などの光を照射するだけで、低コストで省エネルギー的かつ安全に、メンテナンスフリーで長期間使用することができる。」(【0089】)
(3) 刊行物3には以下の事項が記載されている。
3a 「光触媒粒子を有機バインダを用いて固着したり、衣服や紙などに混ぜ込む場合には、光触媒粒子の強力な光触媒機能により、有機バインダや原料繊維を分解してしまい、固着強度の低下や商品の変質を招き、実用に耐えうる性能を維持できないこと。また、色物の衣服や紙などに混ぜ込むと、染料そのものの分解が起こり色あせの原因となること」(【0003】)
3b 「光触媒粒子の外側に形成した光不活性物質からなる多孔質壁を介して支持体上に固着することができるため、紙、繊維等の酸化力に対して弱い支持体にも光触媒粒子を強固に、且つ、長期間にわたって固着できる。」(【0047】)

4 当審の判断
(1) 引用発明の認定
刊行物1は、消臭、抗菌および防汚機能を有する繊維布帛(摘記1b、1j)である「繊維布帛に酸化チタン光触媒が樹脂バインダーで固定されてなる繊維布帛」(摘記1a)に関し記載するものであって、その繊維布帛は、「ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維やレーヨンなどの再生繊維、木綿、羊毛、絹などの天然繊維からなる編織物」(摘記1c)であること、樹脂バインダーは、「メラミン樹脂・・・を用いるのが特に好ましい」(摘記1i)ことが記載されている。また、「繊維布帛に対する酸化チタン光触媒の付着量は、0.1?20%の範囲であるのが好ましく、0.5?10%の範囲であるのがさらに好ましい」(摘記1g)とされている。
そうすると、刊行物1には、
「合成繊維、再生繊維、天然繊維からなる布帛に酸化チタン光触媒がメラミン樹脂により繊維布帛に対して好ましくは0.1?20%の範囲で固定されてなる繊維布帛。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(2) 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「合成繊維、再生繊維、天然繊維」は、本願発明の「有機質繊維」ということができ、引用発明の繊維布帛に固定された酸化チタン光触媒は、有機質繊維上に固定されたものということができるから、両者は、
「有機質繊維上に酸化チタン光触媒がメラミン樹脂により特定量固定された有機質繊維を含む繊維布帛」
の点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
ア 酸化チタン光触媒が、本願発明は「アパタイト被覆」されたものであって、その量が有機質繊維に対して0.01?10g/m^(2)の量であるのに対して、引用発明はそのような被覆がされてはいないものであって、その量が繊維布帛に対して好ましくは0.1?20%の範囲である点
(この相違点を「相違点ア」という。)
(3) 相違点アについて
ア 刊行物1に記載されているとおり、酸化チタン光触媒は強烈な酸化力を有するものであって(摘記1g)、それに触れるもの、例えば、樹脂バインダー(刊行物1摘記1g)、それが練り込まれた有機繊維やプラスチック(刊行物2摘記2c、2e)、酸化力に対して弱い紙、繊維等の支持体(刊行物3摘記3a、3b)などの分解・劣化を来すためこれを防止することは、刊行物1?3等に示されるとおり、その出願前よく知られている課題である。
また、消臭、抗菌及び防汚機能を有するものにおいて、それらの機能をより向上させることもその出願前に自明の課題である。
そして、刊行物2には、酸化チタン光触媒が触れる有機繊維などの分解・劣化防止のために、酸化チタン光触媒をアパタイトで被覆することが記載されている(摘記2a、2b、2d、2e)。さらに、そのアパタイトで被覆した酸化チタン光触媒は雑菌等の汚染物質を吸着する性質を持っているため、吸着した汚染物質を上記光触媒作用によって確実かつ効果的に分解、除去することができる(摘記2d,2e)ものであることも示されている。
引用発明において、有機繊維である布帛などが酸化チタン光触媒によって分解・劣化することは予測されることであって、その分解・劣化防止をするために、また、抗菌等の機能をより向上させるために、分解・劣化防止効果が知られ、さらに、雑菌等の汚染物質を確実かつ効果的に分解除去できることが知られたアパタイト被覆酸化チタン光触媒を、酸化チタン光触媒に代えて適用することは、当業者にとって、何ら困難なこととは認められない。
イ 引用発明における酸化チタン光触媒量は、繊維布帛に対して好ましくは0.1?20%(この「%」は通常この分野で用いられる「重量%」であると認められる。)の範囲であるところ、引用発明に係る布帛の目付は、その例をみると100g/m^(2)(実施例1、3、7、9)、200g/m^(2)(実施例4、6)、150g/m^(2)(実施例5)と概ね100?200g/m^(2)程度のものであると認められるから、布帛(有機繊維)に対して概ね0.1?40g/m^(2)程度の範囲であるということができる。
引用発明において酸化チタン光触媒に代えてアパタイト被覆酸化チタン光触媒を適用するに当たり、適用する布帛の種類や必要な効果の程度等も勘案して、上記酸化チタン光触媒の場合の好適量範囲を考慮して、その範囲内及びその付近において実験等により最適の量範囲、例えば有機質繊維に対して0.01?10g/m^(2)の範囲、とすることは当業者が適宜なしうる技術事項にすぎない。
ウ 以上検討のとおり、引用発明において相違点アに係る本願発明の発明特定事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願明細書を検討しても、本願発明が、引用発明にこれらの事項を適用したものから予測されるものに比し、有機質繊維やバインダー樹脂の分解臭気発生防止効果を含め、格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。
すなわち、酸化チタン光触媒が有機質繊維やバインダー樹脂を分解することは上記のとおりよく知られたことであり、樹脂が分解されるとき臭気が発生する場合があることも刊行物1に示されている(摘記 1g、1h)とおりである。そして、引用発明において、酸化チタン光触媒に代えアパタイト被覆酸化チタン光触媒を適用すると、アパタイト被覆酸化チタン光触媒は有機質繊維などの分解防止の効果を奏するのであるから、分解の結果発生する臭気を抑制することができるという効果を奏することも予期しうることであるといえる。
(4) 小括
したがって、本願発明は、その出願前頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-15 
結審通知日 2007-10-16 
審決日 2007-11-12 
出願番号 特願平10-293948
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D06M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 岩瀬 眞紀子
安藤 達也
発明の名称 消臭、抗菌および防汚機能を有する繊維布帛およびその製造方法  
代理人 西山 雅也  
代理人 樋口 外治  
代理人 吉田 維夫  
代理人 石田 敬  

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