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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10197審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10312審決取消請求事件 判例 特許
平成16ワ14321特許権譲渡代金請求事件 判例 特許
平成14行ケ199特許取消決定取消請求事件 判例 特許
不服20058936 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1170072
審判番号 不服2004-12118  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-14 
確定日 2008-01-04 
事件の表示 平成 4年特許願第503711号「ヒトレトロウイルスレセプター及びそれをコードするDNA」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年 6月25日国際公開、WO92/10506、平成 6年 4月21日国内公表、特表平 6-503476〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1991年12月13日(パリ条約による優先権主張1990年12月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?35に係る発明は、平成16年7月14日付手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?35に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1及び10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明10」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】 SEQ ID NO:8に記載のアミノ酸配列を含むH13蛋白質をエンコードするヌクレオチド配列からなることを特徴とするDNA分子。」
「【請求項10】 レトロウイルス感染を防止または治療するのに有用な製剤において、請求項6に記載の蛋白質分子と、薬剤上許容し得るキャリアとを含むことを特徴とする製剤。」

請求項10において引用されている請求項6には、「【請求項6】 人間由来の不純物として元々会合する蛋白質及び糖蛋白質の少なくとも90重量%を含まないH13蛋白質分子であって、SEQ ID NO:8に記載のアミノ酸配列、またはそのアミノ酸残基210-250もしくは310-337を含むフラグメントを有することを特徴とするH13蛋白質分子。」と記載されている。

2.原査定の拒絶の理由
一方、原査定の拒絶の理由は、次の理由(1)及び(2)からなるものである。
(1)この出願の各請求項に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本願は、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

3.特許法第29条第2項について
(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された、Cell, Vol.57, 1989, p.659-666(以下、「引用例」という。)には、
「推定上のネズミ科の同種指向性レトロウイルス受容体遺伝子は複数回膜貫通蛋白質をコード化し、ウイルス感染への感受性を与える。 」(タイトル)、及び、
「ネズミ科のタイプCの同種指向性レトロウイルス感染は、ウィルスの外被がマウス細胞上で表現された細胞膜受容器に結合することによって開始される。我々は、複製を阻害するヒトEJ細胞の中へマウスNIH 3T3 DNA遺伝子を導入し、薬剤耐性遺伝子を含んでいるレトロウイルス・ベクターによる感染への感受性の獲得によるEJクローンの選択と、マウス反復性DNAシーケンスへの連鎖によって推定上の受容体cDNAクローンの同定を結合した戦略によって、この受容体をコード化するであろうcDNAクローンを同定した。 cDNAを表現するヒトEJ細胞は、MuLV感染力の100万倍の増加を獲得する。推定上の受容体蛋白の予測された622のアミノ酸配列は非常に疎水性で、14の潜在的な膜貫通領域が同定された。シーケンス・データバンクのコンピュータ・ベースの検索は蛋白質を推定上の受容体と重要な類似性をもって同定しなかった。我々は、ウィルス外被で結合および(または)融合により、新規な膜蛋白が同種指向性のMuLV感染への感受性を決定すると結論した。 」(要約の項)と記載され、
cDNAの核酸と演繹されたアミノ酸配列が第5図に記載されている。

(2)対比
上記記載によると、引用例には、ネズミ科の同種指向性レトロウイルス受容体と推定される蛋白質(以下、「ERR」という。)の遺伝子(cDNA)の発明が記載されている。

これに対し、本願発明1は、本願明細書の記載からみて、引用例の発明のERRの遺伝子をラベルしたものをプローブとして用いて、ヒトのcDNA及びコスミドライブラリーを用いてスクリーニングして得たSEQ ID NO:7に記載される配列のDNA分子(これは、SEQ ID NO:8に記載のアミノ酸配列をコードしているものである。)を含むものである。

(3)判断
ア)まず、引用例の発明はマウスの遺伝子に関するものであるが、当業者が、ヒトから類似する遺伝子を取得してみようとすること、すなわちそのような課題を抱くことが容易になし得ることか検討する。
ある蛋白質をコードするDNAを取得することは、本願優先日前において当業者に周知の課題である。そして、既知の蛋白質をコードするDNAの一部をプローブとして用いて、該蛋白質に関連する蛋白質(異なる生物種の同種蛋白質、同じ生物種の蛋白質ファミリー等)をコードするDNAをいわゆるハイブリダイゼーション法等を用いたクローニングにより取得することは、本願の優先日当時、当業者にとって周知技術であり、そのような手法により種々の遺伝子のクローニングが行われていたものである。したがって、当業者であれば、引用例の発明のERRの遺伝子に対応するヒトの遺伝子を取得してみようとすることは容易になし得ることである。
この点につき、請求人は、平成16年8月20日付の審判請求の理由を変更する手続補正書において、当業者であればE-MuLVに対する感受性のないヒトの細胞には当然にERRに近似したホモローグは発現しないという結論に達し、ヒトレトロウイルスレセプターとして作用する細胞膜蛋白質H13をエンコードする本願発明1に想到することを妨げる旨を主張している。ウイルスレセプターが、淘汰により失われてしまわないで、存在し続けているということは、ウイルスレセプターとしての機能のみならず、生命維持において必要な、何らかの機能を有していると考える方が普通である。E-MuLVがヒトに感染しないとしても、ヒトにおいて、ERRに対応する蛋白質をコードする遺伝子が存在し、働いている蓋然性は高いものであり、当業者が、ヒトから類似する遺伝子を取得しようとすることを阻害するものでは全くない。

イ)ヒトから類似する遺伝子を取得しようとしたときに、当業者が容易に取得できるか検討する。
引用例の発明のERRの遺伝子をラベルしたものをプローブとして用い、E-MuLVが感染するものとして知られたマウスの細胞に対応するヒトの細胞から得られるcDNAライブラリーをスクリーニングすることで、当業者であれば容易に対応する遺伝子が取得できるものであり、また、本願明細書の記載をみても、本願発明1において、H13をコードする遺伝子の取得が困難であったものとも認められない。

ウ)遺伝子を取得すれば、塩基配列を調べ、アミノ酸配列を知ることができ、H13蛋白質のアミノ酸配列により、本願発明1のごとくすることは当業者が容易になし得ることである。
したがって、本願発明1は、引用例に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ)本願発明1の効果について
本願明細書を検討しても、H13蛋白質について、これを作製しその生物化学的活性その他の機能・作用につき生物活性試験等に基いて具体的に明らかにしたといえる開示は見出せないので、本願発明1に係るDNA分子又はそれによってコードされるH13蛋白質には予期し難いような格別の効果が明らかでない。
この点につき、請求人は、平成19年5月28日付回答書において、本願出願後に発行された参考文献1?3を示し、これらの文献の記載によれば、H13蛋白質は、ERRと同じくカチオン性アミノ酸トランスポーターの機能を有しているようである。出願時に効果が全く把握することができなかったものを、特許出願後に発表された文献のみによって、明細書の記載内容を記載外で補足することは、発明の十分な公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきものであるから、提出された文献に示されるカチオン性アミノ酸トランスポーターの機能を、本願発明の効果と認めることはできない。
また、E-MuLVがヒトに感染しないことは知られているのであるから、H13蛋白質がERRとは異なり、E-MuLVが感染するときに利用するレセプターとしての機能がないことは当然のことであり、当業者が容易に予測できるものであるし、他のヒトに感染するレトロウイルスがH13蛋白質を感染に利用していることも本願明細書には何ら示されておらず、ヒトレトロウイルスレセプターとしての機能も、それにもとづく効果もあるものと認められない。

4.特許法第36条第4項について
本願発明10は、H13蛋白質分子を含むレトロウイルス感染を防止または治療するのに有用な製剤に係る発明である。
しかし、本願の発明の詳細な説明には、H13蛋白質分子について、レトロウイルスの感染に利用されていることを明らかにしたといえる開示は全く見出せず、また、「レトロウイルス感染を防止または治療するのに有用な」製剤について、薬理試験又はそれと同等の実験等により上記H13蛋白質分子を製剤として使用可能なことを裏付ける記載もない。
したがって、発明の詳細な説明の記載からでは、該H13蛋白質分子を「レトロウイルス感染を防止または治療するのに有用な製剤」として使用できることを確認することができない。
以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明10を容易に実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願は、本願発明10について、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、その余の本願請求項に係る発明について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-26 
結審通知日 2007-08-01 
審決日 2007-08-20 
出願番号 特願平4-503711
審決分類 P 1 8・ 531- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 胡田 尚則鵜飼 健  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 高堀 栄二
種村 慈樹
発明の名称 ヒトレトロウイルスレセプター及びそれをコードするDNA  
代理人 高石 橘馬  

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