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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1170120
審判番号 不服2005-5108  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-24 
確定日 2008-01-04 
事件の表示 平成 8年特許願第144354号「信号記録方法及び装置並びに信号記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月16日出願公開、特開平 9-128900〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成8年6月6日(国内優先権 平成7年8月25日)の出願であって、平成16年10月25日付けの(最後の)拒絶理由通知に対する応答期間内の同年12月28日付けで手続補正がなされたが、平成17年2月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年3月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月21日に手続補正がなされたものである。

第2 平成17年4月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年4月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成17年4月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)による特許請求の範囲の補正は、補正前に、
「【請求項1】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータを選択し、
上記選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットを識別信号に応じて強制的に「1」又は「0」として、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号を挿入し、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を信号記録媒体に記録することを特徴とする信号記録方法。
【請求項2】 上記識別信号は複数種類の識別信号からなり、
上記複数種類の識別信号の各々は、上記第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで且つ異なる位相で選択された、上記第二の所定数Mのサンプルデータからなる複数のサンプルデータ列の各々に挿入されることを特徴とする請求項1記載の信号記録方法。
【請求項3】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで且つ異なる位相で選択された、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータからなる複数のサンプルデータ列を選択し、
複数種類の識別信号の各々を、上記第二の所定数Mのサンプルデータからなる、複数のサンプルデータ列の各々に挿入し、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を信号記録媒体に記録することを特徴とする信号記録方法。
【請求項4】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータを選択し、選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットを識別信号に応じて強制的に「1」又は「0」として、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号を挿入する識別信号挿入手段と、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を信号記録媒体に記録する記録手段と
を有することを特徴とする信号記録装置。
【請求項5】 上記識別信号は複数種類の識別信号からなり、
上記識別信号挿入手段は、上記複数種類の識別信号の各々を、上記第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで且つ異なる位相で選択された上記第二の所定数Mのサンプルデータからなる複数のサンプルデータ列の各々に挿入されることを特徴とする請求項4記載の信号記録装置。
【請求項6】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで且つ異なる位相で選択された、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータからなる複数のサンプルデータ列を選択し、複数種類の識別信号の各々を、上記第二の所定数Mのサンプルデータからなる、複数のサンプルデータ列の各々を、上記第二の所定数Mのサンプルデータからなる、複数のサンプルデータ列の各々に挿入する挿入手段と、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を信号記録媒体に記録する記録手段と
を有することを特徴とする信号記録装置。
【請求項7】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータが選択され、選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットを識別信号に応じて強制的に「1」又は「0」とされ、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号が挿入された信号が少なくとも記録されて成る信号記録媒体を再生し、
上記記録媒体より再生した信号から、上記挿入された識別信号を検出すること
を特徴とする信号再生方法。
【請求項8】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータが選択され、選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットが識別信号に応じて強制的に「1」又は「0」とされ、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号が挿入された信号が少なくとも記録されて成る信号記録媒体を再生する再生手段と、
上記記録媒体より再生した信号から、上記挿入された識別信号を検出する検出手段と
を有することを特徴とする信号再生装置。
【請求項9】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータが選択され、選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットが識別信号に応じて強制的に「1」又は「0」とされ、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号が挿入された信号が少なくとも記録されて成ること
を特徴とする信号記録媒体。
【請求項10】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータを選択し、
上記選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットを識別信号に応じて強制的に「1」又は「0」として、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号を挿入し、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を送信すること
を特徴とする信号送信方法。
【請求項11】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータを選択し、選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットを識別信号に応じて強制的に「1」又は「0」として、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号を挿入する識別信号挿入手段と、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を送信する送信手段と
を有することを特徴とする信号送信装置。
【請求項12】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータが選択され、選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットが識別信号に応じて強制的に「1」又は「0」とされ、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号が挿入された信号を受信し、
上記受信した信号から、上記挿入された識別信号を検出すること
を有することを特徴とする信号受信方法。
【請求項13】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータが選択され、選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットが識別信号に応じて強制的に「1」又は「0」とされ、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号が挿入された信号を受信する受信手段と、
上記受信した信号から、上記挿入された識別信号を検出すること
を有することを特徴とする信号受信装置。」
とあったところを、

「【請求項1】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから、第二の所定数Mのサンプルデータを、周期Tで離散的に選択し、
上記選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットを識別信号のビットに応じて強制的に「1」又は「0」として、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号のビットを挿入し、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を信号記録媒体に記録することを特徴とする信号記録方法。
【請求項2】 上記識別信号は複数種類の識別信号からなり、
上記複数種類の識別信号の各々は、上記第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで且つ異なる位相で選択された、上記第二の所定数Mのサンプルデータからなる複数のサンプルデータ列の各々に挿入されることを特徴とする請求項1記載の信号記録方法。
【請求項3】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから、第二の所定数Mの所定サンプルのサンプルデータを、周期Tで離散的に選択すると共に、上記第二の所定数Mの所定サンプルを各々有する複数のサンプルデータ列を互いに異なるサンプル位相で選択し、
複数種類の識別信号のビットの各々を、上記第二の所定数Mのサンプルデータからなる複数のサンプルデータ列の各々のサンプルに挿入し、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を信号記録媒体に記録することを特徴とする信号記録方法。
【請求項4】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから、第二の所定数Mのサンプルデータを、周期Tで離散的に選択し、選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットを識別信号のビットに応じて強制的に「1」又は「0」として、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号のビットを挿入する識別信号挿入手段と、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を信号記録媒体に記録する記録手段と
を有することを特徴とする信号記録装置。
【請求項5】 上記識別信号は複数種類の識別信号からなり、
上記識別信号挿入手段は、上記複数種類の識別信号の各々を、上記第一の所定数Nのサンプルデータから所定サンプル周期Tで且つ異なる位相で選択された上記第二の所定数Mのサンプルデータからなる複数のサンプルデータ列の各々に挿入されることを特徴とする請求項4記載の信号記録装置。
【請求項6】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから、第二の所定数Mの所定サンプルのサンプルデータを、周期Tで離散的に選択すると共に、上記第二の所定数Mの所定サンプルを各々有する複数のサンプルデータ列を互いに異なるサンプル位相で選択し、複数種類の識別信号のビットの各々を、上記第二の所定数Mのサンプルデータからなる複数のサンプルデータ列の各々のサンプルに挿入する識別信号挿入手段と、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を信号記録媒体に記録する記録手段と
を有することを特徴とする信号記録装置。
【請求項7】 映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから、第二の所定数Mのサンプルデータが、周期Tで離散的に選択され、選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットが識別信号のビットに応じて強制的に「1」又は「0」とされ、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号のビットが挿入された信号が少なくとも記録されて成ること
を特徴とする信号記録媒体。」
とするものである。

上記本件補正の請求項1乃至6は、本件補正前の請求項1乃至6に、本件補正の請求項7は、本件補正前の請求項9に、それぞれ対応するものであり、また、本件補正前の請求項7,8,10?13を削除するものである。
本件補正の請求項1?7の具体的内容については、本件補正前の独立請求項である【請求項1】【請求項4】及び【請求項9】における発明特定事項の「選択」について「所定サンプル周期Tで、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータを」とあるのを「、第二の所定数Mのサンプルデータを、周期Tで離散的に」と、「識別信号」について「(識別信号)のビット」と補正するものである。また、本件補正前の独立請求項である【請求項3】及び【請求項6】において、発明特定事項の「選択」について「所定サンプル周期Tで且つ異なる位相で選択された、不連続の第二の所定数Mのサンプルデータからなる複数のサンプルデータ列を」とあるのを「、第二の所定数Mの所定サンプルのサンプルデータを、周期Tで離散的に選択すると共に、上記第二の所定数Mの所定サンプルを各々有する複数のサンプルデータ列を互いに異なるサンプル位相で」と、「識別信号」について「(識別信号)のビット」と、「(複数のサンプルデータ列の)各々」について「(各々)のサンプル」と、さらに【請求項6】において、「挿入手段」を「識別信号挿入手段」と補正するものである。これらはいずれも構成要件を限定するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか)否かについて、以下検討する。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-269377号公報(以下「引用例1」という。)には、デジタル信号複製禁止装置に関し、図面と共に、以下の記載がある。なお、下線は、当審で付与した。
(1)「産業上の利用分野
本発明はデジタル化された音響/映像信号の記録再生システムにおける不法な複製を禁止するためのデジタル信号複製禁止装置に関するものである。」(第1頁右欄6?10行)

(2)「以上のようにして構成された従来のデジタル信号複製禁止装置について、以下その動作を説明する。第6図は、従来のデジタル信号複製禁止装置において使用されるブロックフォーマットの一例を示した図であって、デジタル化された音響/映像信号である主信号を時間的に圧縮し、256ビットに対して32ビットの冗長データを付加している。この32ビットの中の8ビットは識別コードと呼ばれ各種の補助情報を保持するが、その一部がデジタル複製を許可/禁止する情報となっている。」(第2頁左下欄3?13行)

(3)「発明が解決しようとする問題点
しかしながら上記のような構成では、複製禁止情報が識別コードという主信号とは別系統の補助信号に付加されているので、回路構成が複雑になり、補助信号系のみを切断することが可能であるので、比較的容易に複製禁止を破ることができるうえに、補助信号の記録方式やフォーマットに依存するため、媒体が異なる場合、例えばデジタル・オーディオ・ディスクからデジタル・オーディオ・テープに複製する場合などには適用できないという問題点を有していた。
本発明は上記問題点に鑑み、識別データ等の補助信号を用いずにデジタル複製を禁止するデジタル信号複製禁止装置を提供するものである。
問題点を解決するための手段
上記問題点を解決するために、本発明のデジタル信号複製禁止装置は、主信号であるデジタル信号の最下位ビットを一定の標本データ数だけ0または1の状態に固定するゲート手段と、このゲート手段の動作をデジタル信号の振幅が大きい部分に限定し、ゲート手段によって発生する歪みを相対的に十分小さくするための大振幅期間検出手段とを備えた構成を有するものである。
作用
本発明は上記した構成をとることによって、その品質を損なうこと無く、特別な補助信号を使用しないで、デジタル信号自体に複製禁止情報を付加することができることとなる。
実施例
以下、本発明の一実施例のデジタル信号複製禁止装置について、図面を参照しながら説明する。
第1図は本発明の一実施例におけるデジタル信号複製禁止装置の構成を示すものである。第1図において、1は原本処理部信号入力端子、2は原本処理部信号入力端子1に接続された信号区間検出回路、3は信号区間検出回路2に並列に接続された振幅検出回路、4は信号区間検出回路2の出力と振幅検出回路3の出力に接続された制御回路、5は制御回路4の制御により信号の最下位ビットを0に固定する第1のゲート回路、6は原本処理部信号出力端子である。
また、7は複製禁止部信号入力端子、8は複製禁止部信号入力端子7に接続された信号区間検出回路、9は信号の最下位ビットに接続されたゼロ検出回路、10は信号区間検出回路8の出力とゼロ検出回路9の出力に接続された禁止状態検出回路、11は複製禁止部信号入力端子7に接続され、禁止状態検出回路10の出力によって制御される第2のゲート回路、12は複製禁止部信号出力端子である。
以上のように構成されたデジタル信号複製禁止装置について、以下その動作を説明する。なお、本実施例においては48KHzで標本化され、16ビットで量子化された音楽信号を記録するDATに適用した場合をとりあげることとする。
まず、原本作製において、原本に記録されるべき音楽信号はデジタル信号に変換された後、原本処理部信号入力端子1より入力される。信号区間検出回路2は入力されたデジタル信号の無音区間と音楽信号のある区間とを識別する働きを持ち、振幅検出回路3は入力されたデジタル信号の振幅の大きさを検出する働きを持つものである。これらの検出信号は、それぞれ制御回路4に入力され、この制御回路4の働きによって、入力されたデジタル信号の中で音楽信号があって、かつその振幅が大きい区間が検出される。さらに、制御回路4は、この区間において、200標本データ分の時間だけゲート回路5を遮断状態にして0を出力させるための制御信号を出力する。以上のようにして原本処理部信号出力端子6には、200標本時間だけその最下位ビットが0に固定された複製禁止処理済みの信号が出力され、原本媒体に記録されることになる。第2図は複製禁止処理部前の16ビットデータと、複製禁止処理後の16ビットデータの一例を示したものである。
(中略)
以上に述べたように、本実施例によれば、振幅検出回路3によって検出されたデジタル信号の振幅が大きい区間に限って、200標本時間、即ち約4ミリ秒だけ最下位ビットを0にリセットすることにより、なんら聴感上の品質を損なうことなく主信号上に複製禁止情報を付加することができる。
(中略)
また、本実施例においては最下位ビットを0に固定する場合を示したが、1に固定するようにしても全く問題はない。また処理区間の長さ200標本時間についても適宜変更してよい。さらに用途に関してもデジタル・オーディオ分野に限定されるものではない。」(第3頁左上欄5行?5頁左下欄4行)

上記摘示事項及び図面の記載を参酌すると、引用例1には、次の発明が記載されているものと認める。

「入力されたデジタル信号の無音区間と音楽信号のある区間とを識別する信号区間検出回路と、入力されたデジタル信号の振幅の大きさを検出する振幅検出回路と、入力されたデジタル信号の中で音楽信号があって、かつその振幅が大きい区間が検出される制御回路と、さらに、制御回路は、この区間において、200標本データ分の時間だけゲート回路を遮断状態にして0又は1を出力させるための制御信号を出力し、200標本時間だけその最下位ビットが0又は1に固定された複製禁止処理済みの信号が出力され、原本媒体(記録媒体)に記録される、主信号上に複製禁止情報を付加するデジタル信号複製禁止装置。」

同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-50359号公報(以下「引用例2」という。)には、PCM記録再生装置に関し、図面と共に次の事項が記載されている。

(4)「〔発明の効果〕
本発明に係るPCM記録再生装置は、以上のように、PCM信号を記録媒体に記録し、及び/又は、記録媒体からこのPCM信号を再生するPCM記録再生装置において、PCM信号の記録回路又は再生回路中に配置され、入力されたPCM信号の各ビットパターンにおける少なくとも最下位桁のビットを一定の値に固定して出力するビット固定回路が設けられた構成をなしている。
これにより、デジタルダビングの際に、そのPCM信号の音質等を劣化させることができる。」(第4頁右下欄11行?5頁左上欄1行)

3.対比

そこで、本願補正発明と引用例1に記載された発明とを対比する。

(1)引用例1に記載された発明は、「デジタル信号複製禁止装置」に関するものであるが、デジタル信号の最下位ビットに0又は1を挿入して記録媒体に記録するデジタル化された音響/映像信号の記録再生システムであるから、本願補正発明の「信号記録方法」と共通するものである。
(2)引用例1に記載された発明における「標本データ」「複製禁止情報」及び「原本媒体(記録媒体)」は、それぞれ本願補正発明の「サンプルデータ」「識別信号」及び「信号記録媒体」に相当する。
(3)引用例1には、8ビットの識別コードの一部がデジタル複製を許可/禁止する情報(複製禁止情報)となっている(上記摘示事項(2)参照。)と記載されているから、引用例1に記載された発明の「複製禁止情報」が「ビット」であることは自明のことである。(4)引用例1に記載された発明は、「入力されたデジタル信号の中で音楽信号があって、かつその振幅が大きい区間」が検出され、さらに、この区間において、「200標本データ分」の時間だけゲート回路を遮断状態にするものであるから、本願補正発明の「映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから、」「第二の所定数Mのサンプルデータを選択し」に相当する構成を備えているといえる。
(5)引用例1に記載された発明は、「入力されたデジタル信号の中で音楽信号があって、かつその振幅が大きい区間」で『最下位ビットが「0」又は「1」に固定される』ものであるから、本願補正発明の、『上記選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットを識別信号のビットに応じて強制的に「0」又は「1」として、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号のビットを挿入し』に相当する構成を備えているといえる。
そうすると、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、次の点で一致する。

「映像信号及び/又は音響信号のサンプルデータの部分サンプル列を構成する第一の所定数Nのサンプルデータから、第二の所定数Mのサンプルデータを、選択し、
上記選択された第二の所定数Mのサンプルデータの最下位ビットを識別信号のビットに応じて強制的に「1」又は「0」として、上記選択された第二の所定数Mのサンプルに上記映像信号及び/又は音響信号に関連する上記識別信号のビットを挿入し、
上記識別信号が挿入された映像信号及び/又は音響信号を信号記録媒体に記録する信号記録方法。」の点。

そして、次の点で相違する。
「第一の所定数Nのサンプルデータから、第2の所定数Mのサンプルデータを選択する」について、本願補正発明は、「周期Tで離散的に」選択するのに対し、引用例1に記載された発明は、振幅が大きい区間の200標本データ分の時間である点。

4.判断

そこで、上記相違点について検討する。

デジタル信号区間において、所定の標本データ毎、即ち所定の周期で離散的に標本データを選択して最下位ビットを「0」にすることにより、品質を損なうことなく主信号に(複製禁止)情報を付加することは、本願補正発明及び引用例1に記載された発明と同一の技術分野に属する特開昭63-269378公報等で周知である。
そして、PCM信号の各ビットパターンにおける最下位桁のビット(連続した区間)を一定の値(0)に固定するとPCM信号の音質が劣化することは引用例2に記載されている(上記摘示事項(4)参照)とおり自明であり、引用例1に記載された発明においても、
デジタル信号の一部に識別信号を付加した構成をとる場合、デジタル信号の品質を出来るだけ損なわないようにすることは当然に考慮すべき事項であるから、200標本データ分の時間を選択する代わりに、相違点のように「周期Tで離散的に」選択すること(信号劣化が少なくなるようにする)は当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願補正発明が奏する効果は引用例1乃至2に記載された発明、及び周知技術から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成17年4月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至13に係る発明は平成16年12月28日付け手続補正書の請求項1乃至13に記載された事項により特定されるとおりのものである。そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1.」に本願補正前の請求項1として記載したとおりである。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、上記「第2[理由]2.」に示したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から実質的に「選択」について「周期Tで離散的に」、「識別信号」について「のビット」との構成を省略したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」に記載したとおり、引用例1,2に記載された発明 及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易にに発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-05 
結審通知日 2007-11-06 
審決日 2007-11-20 
出願番号 特願平8-144354
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴谷 裕二前田 祐希  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 漆原 孝治
小松 正
発明の名称 信号記録方法及び装置並びに信号記録媒体  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 田村 榮一  
代理人 小池 晃  

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