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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1170142
審判番号 不服2005-13406  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-14 
確定日 2008-01-04 
事件の表示 特願2001-76290「真空用摺動材料」拒絶査定不服審判事件〔平成14年9月25日出願公開、特開2002-276663〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1、手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年3月16日に新規性喪失の例外規定の適用を申請してなされた特許出願であって、平成17年6月8日付で拒絶査定がされ、同年7月14日に拒絶査定不服審判の請求がされたものであり、平成19年6月28日付で当審拒絶理由が通知され、同年8月28日に意見書が提出されているから、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年12月3日付手続補正書により補正された明細書並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの次のものにあると認める。
「ステンレス鋼からなる摺動材料の表面最大粗さが70nmから200nmの範囲にあることを特徴とする真空用摺動材料。」

2、引用例
これに対し、当審が平成19年6月28日付で通知した拒絶理由に引用された特開平3-244899号公報(以下、「引用例1」という。)には少なくとも、以下(イ)?(ロ)なる事項が図面と共に記載されている。
(イ)、「(産業上の利用分野)
本発明は、宇宙空間や分析機器、蒸着(PVD)装置などの真空雰囲気下で用いられる真空用潤滑部材(部品、製品、素材)に関し、とくに軽量であることが要求される宇宙ステーションなどの潤滑部材として好適に利用される真空用軽量潤滑部材に関するものである。
(従来の技術)
従来、分析機器や蒸着装置などの真空雰囲気下で用いられる真空用潤滑部材としては、例えばマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C等)や高クロム軸受鋼(SUJ2)などを素材とするものがあった。」(第1頁右下欄第7行?19行目)
(ロ)、「実施例1
まず、基材の熱処理条件と表面の面粗度(Ra)の影響を調べるため、第1表に示す供試材のピン、ディスクを各々1セツト用意し、表面に約1μmの厚さで固体潤滑剤として二硫化モリブデン(MoS_(2))をスパッタリングにより設けたのち、真空用ピンオンディスク型摺動試験機によって第2表に示す条件で固体潤滑剤の寿命を評価した。
この評価試験において、固体潤滑剤の定常時の摩擦係数は0.05以下、基材表面の摩擦係数は0.4以上であることから、摩擦係数として0.3以上になるまでの摺動回数を固体潤滑剤の寿命と判断した。この結果を第1図に示す。
第1図に示す結果より明らかなように、チタン合金の場合は、焼戻し材で且つ表面の面粗度が小さいものほど固体潤滑剤の寿命は長くなり、このことから、チタンまたはチタン合金は生材や焼戻し材(アニール材)を用いるのが望ましく、また面粗度(Ra)は0.1以下であるようにしておくのが望ましいことが認められた。
次に、上記焼戻しされたTi-6%Al-4%V合金でかつ面粗度(Ra)を0.06にした供試材に対して、第3表に示す各下地処理溶液に浸漬し、熱風乾燥機により乾燥した後二硫化モリブテンをIμmの厚さにスパッタリングして設け、前記第2表に示した条件で摺動試験を行うことにより固体潤滑剤の寿命を評価した。この結果を第2図に示す。
第2図に示す結果より明らかなように、試料2、試料4のごとく弗酸を含む溶液を用いて下地処理を行うことによって、基材が軽金属である場合にも固体潤滑剤の寿命がより一層向上することが認められた。」(第3頁左下欄第4行?第4頁右下欄第5行)
同じく引用された特開平7-309662号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下(ハ)?(ニ)なる技術的事項が記載されている。
(ハ)、「【0015】本願発明の炭素と炭化ケイ素から成り、両者が連続相構造を有する複合材料からなる軸受け材の表面粗さは、摩擦係数を小さくするためにも、小さい程好ましいが、少なくとも0.1μmRz以下が好適である。」(第3頁段落【0015】)
(ニ)、「【0022】また、本願第2発明にかかる摺動部材に課せられる荷重は、高荷重でも低荷重でもよく、摺動速度は高速でも低速でもよく、雰囲気は真空、空気、腐食性ガス、水、海水、強酸又は強塩基性流体等でもよい。さらに温度は低温から400℃の間で用いることが可能である。」(第3頁段落【0022】)
同じく引用された特開2000-296938号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下(ホ)なる技術的事項が記載されている。
(ホ)、「最表面の粗さをRaで3μmから10μm・Ryで10μmから30μm・Rzで5μmから15μmにしたことを特徴とする紙送りローラ」(第1頁左下欄第10?12行)
同じく引用された特開平10-40761号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下(ヘ)なる技術的事項が記載されている。
(ヘ)、「真空遮断機用接点材料であり、接点材料の表面粗さがJIS B 0601で規定する最大高さ(Ry)で12μm以下または算術平均粗さ(Ra)で4μm以下であることを特徴とする」(第1頁左下欄第8?11行)

3、対比・判断
引用例1には、摘記事項(イ)、(ロ)からも明らかなように、「真空雰囲気下でステンレス鋼を摺動材料として用いる」なる技術的事項が開示されていると共に、「摺動材料の面粗度をRaで0.1以下、特に0.06とした例」が開示されている。Raが0.06ということはRaが0.06μmを意味しているから、この値はRaで60nmと変換することができる。そうしてみると刊行物1には、「ステンレス鋼からなる摺動材料の中心線平均粗さ(Ra)が60nmの真空用摺動材料」なる発明が開示されていると見ても差し支えがない。
同じく引用例2の摘記事項(ハ)、(ニ)を見ると、「真空雰囲気下で用いられる摺動材料であって、表面粗さは、摩擦係数を小さくするために、十点平均粗さ(Rz)が0.1μm、即ち100nm以下である軸受材」が開示されていると見て差し支えがない。
ここで本願発明と引用例1に記載される発明とを比較すると、相違点は本願発明が面粗度に関して「表面最大粗さ(Ry)が70nmから200nmの範囲にある」としているのに対し、引用例1に記載される発明は同じく「中心線平均粗さ(Ra)が60nm」としている点にある。
次に、本願発明の表面粗さと引用例2に開示される発明の表面粗さとを比較すると、前者は「表面最大粗さ(Ry)が70nmから200nmの範囲にある」としているのに対して、後者は「十点平均粗さ(Rz)が0.1μm、即ち100nm以下である」としている点で相違する。
そこで、それら相違点につき検討する。
確かに面粗度の形状を表すパラメータとして、中心線平均粗さ(Ra)、最大高さ(Ry)、十点平均高さ(Rz)等があり、これらのパラメータの一律的な相互換算は困難ではある。
しかし、引用例3には摘記事項(ホ)で示したように、ある種特定の平面形状に関してではあるが、異なる3つのパラメータでその表面粗さを規定したものが開示されている。それらの最小値同士或いは最大値同士に着目してみれば、3Ra=Ry=2Rzの関係にあることが分かる。また、引用例4には摘記事項(ヘ)に示したように真空遮断機用接点材料であり、ある種特定の表面形状に関してではあるが、その表面粗さを見ると3Ra=Ryの関係にあることが分かる。
そうしてみると、引用例3または4に開示されるような表面形状を備えたものに限ってみれば、「Raが60nm」であれば「Ryが180nm」であると見ることができるし、「Rzが100nm以下である」ということは「Ryが200nm以下である」と見ることができる。
そして、本願明細書を精査しても、本願発明の表面粗さが特定のものであるとする根拠も見当たらないから、引用例3又は4に開示される技術的内容を知り得た当業者にあっては、引用例1及び2の記載内容を見れば、通常の研磨法等を念頭に置くことにより、少なくとも「表面最大粗さ(Ry)が180nmから200nmの範囲にある」と設定することは容易になし得るものであって、「表面最大粗さ(Ry)が70nmから200nmの範囲にある」と設定することも通常範囲の実験を経る事により、当業者が容易になし得る範疇を出ない。
なお、審判請求人は平成19年6月28日付の当審拒絶理由通知に対する意見書で種々主張しているので、この主張内容に対する見解を以下に述べる。
まず、引用例3及び4で示した3Ra=Ry=2Rzなる式を本願発明の審理に当たり適用する合理的理由を欠くという主張であるが、本願出願前に頒布されたことが明らかな引用例3及び4には、ある部分の表面粗さを中心線平均粗さ(Ra)と最大高さ(Ry)と十点平均高さ(Rz)とで同時に示すものが開示されている。そもそも、表面粗さについて見れば、例えば種々の研磨条件下で種々の研磨法がある訳で、その表面の微視的構造も千差万別であるところ、一般的にRaとRyとRzの相互換算は難しいが、引用例3または4には特定部分の表面粗さを複数の表面粗さ測定法を用いて計測した値が示されているから、そのものから換算式を導き出すことに特段の非合理性がある訳では決してない。
引用例3及び4に記載される研磨条件で同じ研磨方法を用いれば換算式から推してRyが180nmから200nm程度のものが得られることは明らかであって、引用例1及び2に記載されるものが真空条件下で用いられる材料を少なくとも包含しているから、引用例3または4の記載内容を知り得た当業者にあっては引用例1または2に記載される発明の表面粗さをRyで180nm?200nm程度に設定することは容易になし得たものであって、更に通常の実験を重ねれば、70nmから200nmと設定することも容易になし得ることは既述のとおりである。
そして、公報番号を示しての引用例3または4における換算式の非合理性の主張も、そもそもRaとRyとRzとの一義的相互換算は難しいのであって、あくまで引用例3または4の内容を知り得た当業者にあっては引用例1または2のようなRaで示されていたりRzで示されているものに接した時、本願発明の如く敢えてRy表示と転換する手掛かりになし得ることの容易想到性を示したのであるから、かかる主張が判断に何らの影響を及ばすものではない。
また、意見書においてその根拠として示された公報番号もほとんどのものが本願出願後のものであるばかりでなく、意見書中で公報の抜粋として示された数値や式自体にも間違いが多々あり、信憑性の低い主張内容でもある。
さらに、引用例1及び2に関して、引用例1はステンレス鋼を真空用摺動材料として用いることを開示しており、引用例2は摺動材料表面の表面粗さを開示しており、引用例1はまた無潤滑でも低摩擦係数を示すものに固体潤滑剤を塗布すれば更に良好な性能が得られることを開示しているから、そして、本願明細書を見れば、例えば段落【0014】にあるように「摺動材料としての表面粗さ(Ry)が、前記のとおりの70nmから200nmの範囲にあるようにするための手段としては各種であってよく、たとえば表面の研磨でもよいし、基材に対して被覆した表面としてもよい。」としているから、引用例1については被覆が必ず必要であるとし、引用例2についてはステンレス鋼を基材としていないとして、それらの組合せの想到容易性につき触れられていない請求人の主張を採用することができないことは既述のとおりである。

4、むすび
したがって、本願発明、即ち請求項1に係る発明は、引用例1?4に記載される発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-01 
結審通知日 2007-11-06 
審決日 2007-11-19 
出願番号 特願2001-76290(P2001-76290)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 礒部 賢
町田 隆志
発明の名称 真空用摺動材料  

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