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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24B
管理番号 1170301
審判番号 不服2006-15217  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-13 
確定日 2008-01-04 
事件の表示 特願2000-194803「ワイヤソー」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月15日出願公開、特開2002- 11648〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
この出願は、平成12年6月28日の特許出願であって、その請求項1及び2に係る発明は、平成17年12月5日付けの手続補正書によって補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「ワイヤ溝が外周面に刻設されたライニング材をそれぞれ有する3本以上のワイヤソー用グルーブローラを備え、このワイヤソー用グルーブローラ間に架けわたされたワイヤを往復走行させて、インゴットを、このワイヤに相対的に押しつけることで切断するワイヤソーにおいて、
前記ワイヤのインゴット切断位置の両側に配置された一対のワイヤソー用グルーブローラのウレタンゴムからなるライニング材の硬度を、他のワイヤソー用グルーブローラのウレタンゴムからなるライニング材の硬度よりも高くしたワイヤソー。」

2 引用例記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、この出願前に頒布された刊行物である特開平10-52817号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されていると認める。
(1) 段落【0002】?【0004】
「【従来の技術】ワイヤーソーは、ワイヤーを張設した複数の多溝ローラーを備えており、該多溝ローラーを回転させて該ワイヤーを直線運動させることにより、シリコン、磁性体、水晶、セラミックス等の被加工物(ワーク)を切断、溝入等の加工をする装置である。従来からワイヤーソー用の多溝ローラーとして、表面の溝部をナイロン、ウレタン等の合成樹脂からなるローラーが広く用いられて来たが、溝部の摩耗が激しいことや熱膨張による寸法精度の保持が困難であることなどの問題があり、その解決のため溝部をセラミックス等の高硬度物体とした多溝ローラーを三角形状に配置したワイヤーソーが提案されている(特開昭63-237863)。
しかし、このワイヤーソーは三角形状に配置された3本のローラーはいずれも溝部がセラミックス等の高硬度物体で形成されており、次のような問題がある。
【発明が解決しようとする課題】
溝部をセラミックス等で形成した如きセラミックス製多溝ローラーの場合は、ワイヤー溝がセラミックスであるため、合成樹脂等と比較して非常に硬い。そのためワイヤー溝の摩耗は少ないが、溝部に荷重が加わったときにワイヤー溝の変形がほとんど無いため、多溝ローラーの揺れ等による偏荷重がかかった場合にはローラーの方で緩衝吸収することが出来ず、すべてワイヤーにかかることになり、ワイヤーの脱線、断線が発生しやすい。一旦ワイヤーの脱線、断線が発生すると加工中の被加工物を駄目にしてしまうことが多い。・・・」
(2) 段落【0012】?【0015】
「以下本発明を実施例の第1図に基づき説明する。第1図はワイヤーソーの多溝ローラー部分を示すものである。被加工物3に相対する2本のヘッド用多溝ローラー1a、1bと、これらのヘッド用ローラーの上方に1本のドライブ用多溝ローラー2が設けられている。これらの多溝ローラー間には加工用ワイヤー4が張設されている。ドライブ用多溝ローラー2には駆動用モーター(図示せず)が連結しており、該駆動用モーターによってドライブ用多溝ローラー2が回転をすると多溝ローラー間に張設されている加工用ワイヤー4が移動運動する。ヘッド用ローラー1a、1b間に張設された加工用ワイヤーに当接するように設置された被加工物3は、加工用ワイヤー4の移動運動によって切断・溝入等の加工がなされる。この際被加工物3は加工物台5、もしくは多溝ローラーが移動することにより、非加工物に砥液とワイヤーを押しつけながら加工は進行する。
この実施例において、被加工物3に相対する2本の多溝ローラーすなわちヘッド用多溝ローラー1a、1bにはワイヤー溝部がセラミックス(アルミナ)で形成されたセラミックス製多溝ローラーが採用され、ドライブ用多溝ローラー2にはワイヤー溝部が樹脂(ナイロン)で形成された樹脂製多溝ローラーが採用されている。
被加工物3に相対する2本のヘッド用多溝ローラー1a、1bは、ワイヤー溝の精度が被加工物の加工精度に大きく影響を及ぼす。よって、ヘッド用多溝ローラーは、少なくともワイヤー溝部がセラミックスで形成されたセラミックス製多溝ローラーを採用するのが望ましい。本発明で使用するセラミックス製多溝ローラーはすべての部位が、セラミックスで形成されていてもよいし、ワイヤー溝部をセラミックスで形成し、他は金属等の他部材で形成したもの(例えば特開昭63-237863記載の多溝ローラー)であってもよい。ここでのセラミックスは、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素などの硬質セラミックスが用いられる。
セラミックス製多溝ローラーを用いることにより、表1に示すとおり樹脂製多溝ローラーより熱膨脹係数が非常に小さいため、温度変化に対するワイヤー溝のピッチの変化が小さく、またワイヤー溝部が硬いためワイヤーの張力によるワイヤーソー溝の変形が極めて小さいので、ワイヤー溝のピッチがワイヤーの張力によって変わらないという効果が発揮される。」
(3) 段落【0017】?【0020】
「さらにセラミックスは耐摩耗性が高い為、溝形状を樹脂製多溝ローラーより長時間正確に維持できる。実験の結果、セラミックス製多溝ローラーは、図6に示すとおり、多溝ローラーの軸芯に対してラジアル方向のみに摩耗が進んでいくことが判り、ある程度ワイヤー溝の摩耗が進んでも溝ピッチ精度は、狂わず長時間安定した精度で、被加工物を加工することが可能である。
一方、樹脂製多溝ローラーは、図7に示すとおりワイヤー溝の摩耗が、多溝ローラーの軸芯に対してラジアル方向だけではなくアキシャル方向にも摩耗していく為、ワイヤー溝のピッチが狂ってしまい、被加工物の加工精度がすぐに悪くなってしまうという欠点がある反面、硬さが小さいためワイヤー溝部に偏荷重等がかかってもある程度ワイヤー溝部にて吸収が可能であり、またワイヤー溝部におけるワイヤーとの摩擦力はセラミックスに比べ樹脂の方が大きい利点がある。
本発明において、2本のヘッド用多溝ローラーを含むすべて多溝ローラーにセラミックス製多溝ローラーを採用した場合、表1に示すように弾性係数が1桁以上の差があり樹脂に比べワイヤー溝の変形が少ないため、多溝ローラーの揺れ、ワイヤーのビビリ、各ワイヤーの張力の急激な変化等をセラミックス製多溝ローラーによって吸収する事が出来ない。よって発生する偏荷重のすべてをワイヤーで受けなければならないためワイヤーの脱線、断線もしくは、被加工物の加工面のビビリ、バリ等の発生の原因となる。
そこで2本のヘッド用多溝ローラー以外の少なくとも1本を樹脂製多溝ローラーにする事により、該樹脂製多溝ローラーがクッション材となり、ワイヤー脱線断線又、被加工物の加工面のビビリ、バリなどの発生を抑えることができる。」
(4) 段落【0024】
「以上のことから、ワイヤーソーがワイヤーを往復反転運動をさせながら、被加工物を切断等の加工をする構造である場合においては、樹脂製多溝ローラーをドライブ用多溝ローラーに使用すると次のような効果を発揮する。反転時に大きな伝達力を必要とするドライブ用多溝ローラーに摩擦力の大きい樹脂製多溝ローラーを使用することにより、反転時のワイヤーと該ドライブ用多溝ローラーとのスリップの発生を抑えることができる。・・・」
(5) 図1
ワイヤー4の被加工物3の切断位置の両側に一対のヘッド用多溝ローラー1a,1bが配置されていることが見てとれる。
ここで、上記摘記事項(1)から、すべての多溝ローラーをウレタン等の合成樹脂からなるものとするワイヤーソーは周知の技術であったことが分かる。
また、上記摘記事項(1)中の「従来からワイヤーソー用の多溝ローラーとして、表面の溝部をナイロン、ウレタン等の合成樹脂からなるローラーが広く用いられて来たが、溝部の摩耗が激しいこと・・・の問題があり、その解決のため溝部をセラミックス等の高硬度物体とした多溝ローラーを三角形状に配置したワイヤーソーが提案されている・・・ワイヤー溝がセラミックスであるため、合成樹脂等と比較して非常に硬い。そのためワイヤー溝の摩耗は少ない」、上記摘記事項(2)中の「被加工物3に相対する2本のヘッド用多溝ローラー1a、1bは、ワイヤー溝の精度が被加工物の加工精度に大きく影響を及ぼす。よって、ヘッド用多溝ローラーは、少なくともワイヤー溝部がセラミックスで形成されたセラミックス製多溝ローラーを採用するのが望ましい。」及び上記摘記事項(3)中の「さらにセラミックスは耐摩耗性が高い為、溝形状を樹脂製多溝ローラーより長時間正確に維持できる。」より、2本のヘッド用多溝ローラー1a、1bについては、溝部の摩耗を抑えることができるように硬度を高くすることが記載されている。
さらに、上記摘記事項(1)中の「ワイヤー溝がセラミックスであるため、合成樹脂等と比較して非常に硬い。そのためワイヤー溝の摩耗は少ないが、溝部に荷重が加わったときにワイヤー溝の変形がほとんど無いため、多溝ローラーの揺れ等による偏荷重がかかった場合にはローラーの方で緩衝吸収することが出来ず、すべてワイヤーにかかることになり、ワイヤーの脱線、断線が発生しやすい。」及び上記摘記事項(3)中の「一方、樹脂製多溝ローラーは、・・・硬さが小さいためワイヤー溝部に偏荷重等がかかってもある程度ワイヤー溝部にて吸収が可能であり、・・・そこで2本のヘッド用多溝ローラー以外の少なくとも1本を樹脂製多溝ローラーにする事により、該樹脂製多溝ローラーがクッション材となり、ワイヤー脱線断線又、被加工物の加工面のビビリ、バリなどの発生を抑えることができる。」より、2本のヘッド用多溝ローラー以外の多溝ローラーすなわちドライブ用多溝ローラー2については、溝部が変形してワイヤーの脱線、断線の発生を抑えることができるように硬度を低くすることが記載されていることは明らかである。
以上のとおりであるので、引用例には、従来の技術にもとづいた次の発明が記載されていると認める。
「ワイヤー溝が外周面に刻設されたライニング材をそれぞれ有する2本のヘッド用多溝ローラー及び1本のドライブ用多溝ローラーを備え、この多溝ローラー間に架けわたされたワイヤーを往復走行させて、シリコン、磁性体、水晶、セラミックス等の被加工物を、このワイヤーに相対的に押しつけることで切断するワイヤーソーにおいて、
前記ワイヤーの被加工物切断位置の両側に配置された一対のヘッド用多溝ローラーのライニング材、及びドライブ用多溝ローラーのライニング材をウレタンからなるものとしたワイヤーソー。」(以下、「引用例記載の発明1」という。)
また、引用例には、実施例の技術にもとづいた次の発明が記載されていると認める。
「ワイヤー溝が外周面に刻設された2本のヘッド用多溝ローラー1a,1b及び1本のドライブ用多溝ローラー2を備え、この多溝ローラー1a,1b,2間に架けわたされたワイヤー4を往復走行させて、シリコン、磁性体、水晶、セラミックス等の被加工物3を、このワイヤー4に相対的に押しつけることで切断するワイヤーソーにおいて、
前記ワイヤー4の被加工物切断位置の両側に配置された一対のヘッド用多溝ローラー1a,1bの硬度を、ドライブ用多溝ローラー2の硬度よりも高くしたワイヤーソー。」(以下、「引用例記載の発明2」という。)

3 対比
本願発明と引用例記載の発明1とを対比すると、引用例記載の発明1の「ワイヤー」は、本願発明の「ワイヤ」に相当しており、以下同様に、「2本のヘッド用多溝ローラー及び1本のドライブ用多溝ローラー」は「3本のワイヤソー用グルーブローラ」に、「被加工物」は「インゴット」に、「一対のヘッド用多溝ローラー」は「一対のワイヤソー用グルーブローラ」に、「ドライブ用多溝ローラー」は「他のワイヤソー用グルーブローラ」に、「ウレタン」は「ウレタンゴム」にそれぞれ相当していることが明らかであるので、次の「ワイヤソー」で両者は一致している。
「ワイヤ溝が外周面に刻設されたライニング材をそれぞれ有する3本のワイヤソー用グルーブローラを備え、このワイヤソー用グルーブローラ間に架けわたされたワイヤを往復走行させて、インゴットを、このワイヤに相対的に押しつけることで切断するワイヤソーにおいて、
前記ワイヤのインゴット切断位置の両側に配置された一対のワイヤソー用グルーブローラのライニング材をウレタンゴムからなるものとし、他のワイヤソー用グルーブローラのライニング材をウレタンゴムからなるものとしたワイヤソー。」
そして、次の点で両者は相違している。
本願発明では、ワイヤのインゴット切断位置の両側に配置された一対のワイヤソー用グルーブローラのウレタンゴムからなるライニング材の硬度を、他のワイヤソー用グルーブローラのウレタンゴムからなるライニング材の硬度よりも高くしているのに対し、引用例記載の発明1では、そのようなものではない点。

4 相違点についての検討
そこで、上記相違している点について検討すると、ウレタンゴムにも様々な硬度のものがあることは例を挙げるまでもなくよく知られた事項であるところ、引用例記載の発明2は、ワイヤソーにおいて、被加工物切断位置の両側に配置された一対のヘッド用多溝ローラーの硬度を、ドライブ用多溝ローラーの硬度よりも高くしたものである。そして、引用例記載の発明1も、引用例記載の発明2も、ともにワイヤーソーに関するものであることからすれば、引用例記載の発明2の、「被加工物切断位置の両側に配置された一対のヘッド用多溝ローラーの硬度を、ドライブ用多溝ローラーの硬度よりも高くする」構造を引用例記載の発明1におけるウレタンからなる多溝ローラーに適用し、ウレタンの硬度を変更することのみによって多溝ローラーの硬度を違うものとすることは、当業者が容易に想到することができたことである。
また、本願発明の奏する作用効果は、引用例記載の発明1及び引用例記載の発明2より当業者が予測できる程度のものであって、格別のものではない。
なお、審判請求人は、平成18年9月22日受付の手続補正書の「(4)本願発明と引用文献との対比」の項において、本願発明は、すべてのライニング材の摩耗速度を略一致させる調整が可能になり、その結果、すべてのグルーブローラにおいて、ライニング材の張り替え時期を同じにすることができるという格別な作用効果を奏するものである旨主張している。
しかし、ライニング材の摩耗速度は、インゴットの材質、切断速度、砥粒の材質等によっても変動するものと解され、ライニング材をウレタンゴムとし、その硬度に差をつけるのみで、すべてのライニング材の摩耗速度を略一致させることができると解することはできない。
したがって、請求項1において、「ワイヤのインゴット切断位置の両側に配置された一対のワイヤソー用グルーブローラのウレタンゴムからなるライニング材の硬度を、他のワイヤソー用グルーブローラのウレタンゴムからなるライニング材の硬度よりも高くした」と、ライニング材についてのみ特定して、本願発明は格別な作用効果を奏するものであるという上記審判請求人の主張は、採用することができない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明1、引用例記載の発明2、及び上記よく知られた事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。
したがって、この出願の請求項2に係る発明について判断するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-31 
結審通知日 2007-11-06 
審決日 2007-11-19 
出願番号 特願2000-194803(P2000-194803)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B24B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今関 雅子  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 福島 和幸
鈴木 孝幸
発明の名称 ワイヤソー  
代理人 安倍 逸郎  

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