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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1170367
審判番号 不服2004-22411  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-01 
確定日 2008-01-10 
事件の表示 平成10年特許願第543893号「様々な程度のドメイン知識を有する複数のプログラム・モジュールと共にインテリジェント・エージェントを使用してコンピュータ・タスクの実行を最適化する装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月22日国際公開、WO98/47059、平成12年12月19日国内公表、特表2000-517084〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1998年3月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年3月21日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年7月22日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成16年11月1日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年11月1日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成16年11月1日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1、16、30、31は、それぞれ

「【請求項1】
インテリジェント・エージェントを使用してコンピュータ・タスクを処理する方法であって、
(a)所与の状況に関して決定された客観的基準に基づいて、様々な程度のドメイン知識を有する複数のプログラム・モジュールから少なくとも1つのプログラム・モジュールを選択するステップであって、複数のプログラム・モジュールが共通のコンピュータ・タスクを処理するように構成され、前記ドメイン知識とは特定の分野又は機能に適用されるインテリジェント・エージェントのインテリジェンス又はスキルをいう、前記選択するステップと、
(b)少なくとも1つの選択されたプログラム・モジュールを実行するように前記インテリジェント・エージェントを構成して、前記コンピュータ・タスクを処理するステップと、
(c)前記構成したインテリジェント・エージェントの性能を分析するステップとを含む方法。」

「【請求項16】
コンピュータ・タスクを処理する装置であって、
様々な程度のドメイン知識を有する複数のプログラム・モジュールのうちの少なくとも1つを含むインテリジェント・エージェントを備え、前記ドメイン知識とは特定の分野又は機能に適用されるインテリジェント・エージェントのインテリジェンス又はスキルをいい、複数のプログラム・モジュールが共通のコンピュータ・タスクを処理するように構成され、所与の状況に関して決定された客観的基準に基づいて、複数のプログラム・モジュールのうちの少なくとも1つのプログラム・モジュールが、コンピュータ・タスクを処理するために選択され、前記コンピュータ・タスクを処理した後に前記インテリジェント・エージェントの性能を分析する装置。」

「【請求項30】
インテリジェント・エージェントを使用してコンピュータ・タスクを実行するプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
様々な程度のドメイン知識を有する複数のプログラム・モジュールのうちの少なくとも1つを含むインテリジェント・エージェントを備え、前記ドメイン知識とは特定の分野又は機能に適用されるインテリジェント・エージェントのインテリジェンス又はスキルをいい、複数のプログラム・モジュールが共通のコンピュータ・タスクを処理するように構成され、所与の状況に関して決定された客観的基準に基づいて、複数のプログラム・モジュールのうちの少なくとも1つのプログラム・モジュールが、コンピュータ・タスクを処理するために選択され、前記コンピュータ・タスクを処理した後に前記インテリジェント・エージェントの性能を分析するプログラムを記録した前記コンピュータ読み取り可能な記録媒体。」

「【請求項31】
インテリジェント・エージェントを使用してリモート・コンピュータ・システム上のコンピュータ・タスクを処理する方法であって、
(a)リモート・コンピュータ・システムに対するリスクを判定するステップと、
(b)リモート・コンピュータ・システムに対するリスクに基づいて、様々な程度のドメイン知識を有する複数のプログラム・モジュールから少なくとも1つのプログラム・モジュールを選択するステップであって、前記ドメイン知識とは特定の分野又は機能に適用されるインテリジェント・エージェントのインテリジェンス又はスキルをいい、複数のプログラム・モジュールが、リモート・コンピュータ・システム内の共通のコンピュータ・タスクを処理するように構成される、前記選択するステップと、
(c)コンピュータ・タスクを処理するために少なくとも1つの選択されたプログラム・モジュールを実行するように前記インテリジェント・エージェントを構成するステップと、
(d)前記選択されたプログラム・モジュールの性能を分析するステップと
を含む方法。」

と補正された。

(2)検討
本件補正における特許請求の範囲の補正は、請求項1の方法につき「(c)前記構成したインテリジェント・エージェントの性能を分析するステップ」を含む旨の発明特定事項を直列的に付加し、請求項16の装置につき「前記コンピュータ・タスクを処理した後に前記インテリジェント・エージェントの性能を分析する」旨の発明特定事項を直列的に付加し、請求項30のプログラムを記録した前記コンピュータ読み取り可能な記録媒体につき「前記コンピュータ・タスクを処理した後に前記インテリジェント・エージェントの性能を分析する」旨の発明特定事項を直列的に付加し、請求項31の方法につき「(d)前記選択されたプログラム・モジュールの性能を分析するステップと」を含む旨の発明特定事項を直列的に付加するものである。
そして、本件補正による補正後の請求項1乃至33は、それぞれ本件補正による補正前の請求項1乃至33に1対1に対応している。

本件補正における特許請求の範囲の補正が特許法第17条の2第4項第1号乃至第4号を目的としたものであるか否かについて、以下に検討する。

まず、本件補正の前後の各請求項が1対1に対応しているので、本件補正は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的としたものではない。

次に、本件補正により請求項1、16、30、31の各請求項に付加された発明特定事項は、いずれも、本件補正による補正前の各請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。
さらに、これらの付加された発明特定事項は、いずれもコンピュータ・タスクを処理した後の性能の分析に関するものであり、本件補正による補正前の各請求項の課題とは異なる課題を解決するものなので、本件補正による補正前後において各請求項が解決しようとする課題が同一であるとは認められない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる、いわゆる請求項の限定的減縮を目的としたものではない。

また、発明特定事項を直列的に付加して各請求項を減縮するものなので、特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的としたものではない。

最後に、平成15年8月29日付で通知された拒絶理由において各請求項に係る発明が明りょうでない旨を指摘しているものの、この指摘を含む拒絶理由は平成16年7月22日付でなされた拒絶査定に際して解消していることが査定の記載から明確である上に、本件補正で各請求項に付加された発明特定事項は、この指摘における請求項の具体的な指摘箇所に対応しない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第4項第4号に掲げる、拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明を目的としたものではない。

してみると、上記各請求項の補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的としたものとも認められないので、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明の認定
平成16年11月1日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成16年3月9日付の手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「 インテリジェント・エージェントを使用してコンピュータ・タスクを処理する方法であって、
(a)所与の状況に関して決定された客観的基準に基づいて、様々な程度のドメイン知識を有する複数のプログラム・モジュールから少なくとも1つのプログラム・モジュールを選択するステップであって、複数のプログラム・モジュールが共通のコンピュータ・タスクを処理するように構成され、前記ドメイン知識とは特定の分野又は機能に適用されるインテリジェント・エージェントのインテリジェンス又はスキルをいう、前記選択するステップと、
(b)少なくとも1つの選択されたプログラム・モジュールを実行するように前記インテリジェント・エージェントを構成して、前記コンピュータ・タスクを処理するステップと
を含む方法。」

(2)引用例に記載された発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である、加瀬・外2名著、「エージェント記述言語ADIPS/Lのためのプログラミング支援環境の開発」第54回(平成9年前期)情報処理学会全国大会講演論文集(2)、1997年3月14日、p.2-337?2-338(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「1.はじめに
情報化社会の発展と共にその利用環境が複雑化し利用者要求もさらなる多様化の方向にある中で,それらの要求に全て応えられるシステムの開発が期待されている.本稿ではADIPSフレームワーク[1]というエージェント化の枠組みを利用して,要求する分散処理システムを開発するための支援環境の開発を目的としている.ADIPSフレームワークの枠組みを利用することにより分散処理システム(以下システム)開発の効率化・知識再利用の促進などの効果が期待できる.

2.ADIPSフレームワーク概要
ADIPSフレームワークは利用者要求駆動による自律的なシステムの構築を可能にするエージェント化のための枠組みであり,そのシステムは階層的関係を持つマルチエージェントシステムとして実現される.ADIPSフレームワークは動作環境・リポジトリ・開発環境という3種類のサブシステムから構成され,これらはネットワークやワークステーションからなるプラットフォーム上の分散システムとして実現される.マルチエージェントシステムの構成要素であるADIPS工-ジェントは組織エージェントとプリミティブエージェントの2つに分類される.ADIPSエージェント間の協調プロトコルは契約ネットプロトコルに組織再構成のプロトコルを加えた拡張契約ネットプロトコルを用いている.

3.エージェント開発とエージェントプログラミング
ADIPSエージェント開発モデルはADIPS利用環境とADIPS開発環境からなる.ADIPS利用環境は利用者がシステムの運用を行う環境であり利用者と動作環境からなる.動作環境では,利用者の要求したサービスを提供するインスタンスエージェントの組織であるシステムと,秘書エージェントが動作する.ADIPS開発環境は開発者が部品エージェントを作成する環境であり,開発者・開発支援環境・開発支援エージェント動作環境・リポジトリからなる.開発支援環境ではブラウザやエディタなどの支援ツールが提供される[2].開発支援エージェント動作環境には開発支援エージェントが存在する.リポジトリには開発者の作成した部品エージェントがクラスエージェントとして格納されている. ADIPSエージェントをリポジトリに格納することをADIPSエージェントのプログラミングと呼び,エージェント化のために必要な機能仕様や運用法に関する知識を記述することをエージェントプログラミングと呼ぶ.プリミティブエージェントの開発は対象となる計算機プロセスについてその機能仕様や運用知識を記述することであり,組織エージェントの開発はADIPSエージェントに対する運用知識の記述である.本論文では組織エージェント開発の支援を対象とする.エージェントプログラミングにおけるシステム開発プロセスを示したものが図1である.このとき提供するサービスを組織エージェントとして開発する場合は組織エージェントプログラミングプロセス(図2)にしたがって開発を行う.ADIPSフレームワークにおけるシステム開発は計算機プロセスに関する知識の共有と再利用を可能にすることを特徴としている.このことにより効率的にシステム開発を行うことができる.」

「5.プログラミング支援環境の設計と実装
エージェント記述言語ADIPS/Lを用いたエージェントプログラミングを支援するためのプログラミング支援環境として、本支援環境で実現する機能およびインタフェースは,1)目的とする機能を提供するADIPSエージェントがリポジトリ内にあるか検索を行う機能,2)組織エージェントの領域知識DKを記述するためのエディタ,3)ADIPSエージェント一覧および機能仕様を表示するブラウザ,4)検索結果を開発者に提示するブラウザ,である.特に1)と4)を実現することにより開発者は,要求する機能を提供する再利用可能なADIPSエージェントが存在するかどうかを確認,もしくは複数存在する場合にはそれらの中から最も適切なADIPSエージェントを探すことができるようになる.1)および4)の機能についてもう少し述べる.1)の機能では再利用可能なADIPSエージエントの検索を実現するために,契約ネットプロトコルのタスク通知受け取り機能を利用する.4)では検索結果表示のために,タスク通知に対して各ADIPSエージェントからの入札メッセ-ジの内容が確認できる機能と,検索されたADIPSエージェントがどのような機能を有しているか確認するための機能を実現する.
本支援環境はUNIX上で開発を行い,それぞれ1)ADIPSエージェント検索ツール,2)スクリプト記述エディタ,3)ADIPSエージェント一覧表示ブラウザ,4)検索結果表示ブラウザとしてそれぞれ実装され,実装言語にはTcl/Tkを使用している.ADIPSエージェントの検索は,ADIPSエージェント一覧表示ブラウザから機能仕様の入力を行い,ADIPSエージェント検索ツールを介して開発支援エージェント動作環境へ渡され処理が行われる.その結果は検索結果表示ブラウザで確認する.」

図1には、ADIPSシステム開発プロセスについて、設計仕様Xの作成をし、そのサービスを実現する部品エージェントがすでにリポジトリにあるか判断し、あればエージェントの運用・保守がされ、リポジトリにない場合には、次に組織エージェントとして作成するか否かが判断され、組織エージェントとして作成する場合には、組織エージェントプログラミングプロセスがなされ、組織エージェントとして作成しない場合には、プリミティブエージェントプログラミングプロセスがなされ、その後にプログラミングされたエージェントの運用・保守がされる流れが示されている。

図2には、組織エージェントプログラミングプロセスについて、仕様Xを満たす組織エージェントの開発を行うにあたって、仕様Xを機能分割し仕様x1,x2・・・xnを作成し、組織エージェントの知識記述がなされ、仕様x1,x2・・・xnのそれぞれを満たす部品エージェントの開発がなされる流れが示されている。

「1.はじめに」及び「2.ADIPSフレームワーク概要」の各パラグラフの記載からして、分散処理システムである自律的なマルチエージェントシステムの実現を可能にするADIPSフレームワークが、ネットワークやワークステーションからなるプラットフォーム上の分散システムとして実現される、動作環境のサブシステム、リポジトリ、開発環境のサブシステムからなり、そのマルチエージェントシステムの構成要素として組織エージェントがある。

「3.エージェント開発とエージェントプログラミング」のパラグラフの記載から、その動作環境では,利用者の要求したサービスを提供するインスタンスエージェントの組織である分散処理システムと,秘書エージェントが動作している。そして、提供するサービスが組織エージェントとして開発される。
つまり、要約すると、引用例には、自律的な分散処理システムを構成する組織エージェントを開発しその組織エージェントがプラットフォーム上で動作して利用者の要求したサービスを提供する方法が示されている。

さらに、図2の記載から、組織エージェントを構成する部品エージェントが開発され、3.のパラグラフの記載を併せみれば、そうして開発された部品エージェントはクラスエージェントとしてリポジトリに格納される。そして、「5.プログラミング支援環境の設計と実装」のパラグラフの記載から、要求された機能を提供するエージェントがリポジトリ内にあるか否かが検索され、その際、要求された機能を提供するエージェントが複数存在する場合にはそれらの中から最も適切なエージェントを探すことができるものである。
ここで、最も適切なエージェントを探索する以上は、探索に先立って決められた何らかの基準に照らして最も適切であるか否かが判断される。つまり、基準の具体的な内容は記載されていないものの、所与の状況に関して決定された基準に照らして最も適切なエージェントが検索されている。
つまり、これらの記載から、引用例に示された方法では、所与の状況に関して決定された基準に基づいて、プラットフォーム上の動作環境で動作することで要求する機能を提供するように作成される組織エージェントを構成する複数の部品エージェントから少なくとも1つの部品エージェントを検索するものである。

3.のパラグラフ及び図2の記載から、開発環境で、サービスを提供する組織エージェントを構成する部品エージェントがクラスエージェントとしてリポジトリに格納され、他方、2.のパラグラフの記載から、プラットフォーム上の動作環境で動作する、インスタンスエージェントの組織であるシステムは、サービスを提供するインスタンスエージェントからなる。ここで、「クラス」と「インスタンス」という接頭語により、クラスエージェントとされたエージェントが動作時にインスタンスエージェントとされることが示されている。
つまり、これらの記載から、引用例に示された方法では、検索された部品エージェントからなる組織エージェントがプラットフォーム上で動作してサービスを提供しているものである。

してみると、引用例には、

自律的なシステムを構成する組織エージェントにより利用者の要求したサービスを提供する方法であって、
(a’)所与の状況に関して決定された基準に基づいて、エージェント化に必要な機能仕様や運用知識を記述された複数の部品エージェントから少なくとも1つの部品エージェントを検索するステップであって、複数の部品エージェントがプラットフォーム上で動作してそのサービスを提供するように組織エージェントとして作成され、その組織エージェントには提供するサービスを組織エージェントとして開発するための運用知識が記述されている、前記検索するステップと、
(b’)少なくとも1つの検索された部品エージェントからなる前記組織エージェントがプラットフォーム上で動作してそのサービスを提供するステップとを含む方法 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「自律的なシステムを構成する組織エージェント」は、本願発明の「インテリジェント・エージェント」に相当する。

引用発明の「部品エージェント」は、本願発明の「プログラム・モジュール」に相当する。
そして、引用発明の「プログラム・モジュール」がインテリジェント・エージェント「として作成」され、かつインテリジェント・エージェントが部品エージェント「からなる」ものであることは、本願発明のプログラム・モジュールがインテリジェント・エージェントを「構成」することに相当する。

引用発明の「機能仕様」及び「運用知識」は、特定の分野又は機能に適用されるインテリジェンス又はスキルであり、本願発明の「ドメイン知識」に相当する。
そして、引用発明のインテリジェンス又はスキルであるドメイン知識が「提供するサービスを組織エージェントとして開発するため」のものであることは、本願発明のインテリジェンス又はスキルであるドメイン知識が「インテリジェント・エージェントの」ものであることに相当する。
引用発明のプログラム・モジュールは「エージェント化に必要な機能仕様や運用知識を記述され」ているので、本願発明のプログラム・モジュールと同様に、様々な程度のドメイン知識を有するものである。

引用発明は、プラットフォームの計算機でエージェントが動作して利用者の要求したサービスを提供しているので、コンピュータを用いてそのサービスを提供するタスクを処理するものである。
すなわち、引用発明の「プラットフォーム上で動作して利用者の要求したサービスを提供する」及び「プラットフォーム上で動作してそのサービスを提供する」は、いずれも、本願発明の「コンピュータ・タスクを処理する」に相当する。
引用発明の複数のプログラム・モジュールは、「そのサービスを提供するように」作成され、同じサービスを提供するコンピュータ・タスクを処理するので、本願発明と同様に、「共通の」コンピュータ・タスクを処理するものである。

引用発明では、複数のプログラム・モジュールからプログラム・モジュールが検索されてコンピュータ・タスクを処理する際に実行されるプログラム・モジュールとして選ばれるので、引用発明の「検索する」は、コンピュータ・タスクを処理するステップとして行われないものの、実行されるプログラム・モジュールを選ぶ点において、本願発明の「選択する」と共通している。

してみると、両者は、

(一致点)
インテリジェント・エージェントを使用してコンピュータ・タスクを処理する方法であって、
(a)所与の状況に関して決定された基準に基づいて、様々な程度のドメイン知識を有する複数のプログラム・モジュールから少なくとも1つのプログラム・モジュールを選ぶステップであって、複数のプログラム・モジュールが共通のコンピュータ・タスクを処理するように構成され、前記ドメイン知識とは特定の分野又は機能に適用されるインテリジェント・エージェントのインテリジェンス又はスキルをいう、前記選ぶステップと、
(b)少なくとも1つの選択されたプログラム・モジュールで構成した前記インテリジェント・エージェントにより前記コンピュータ・タスクを処理するステップを含む方法

である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点)
(A)プログラム・モジュールを選ぶにあたって、本願発明では、コンピュータ・タスクを処理する際に客観的基準に基づいてプログラムモジュールを選択することにより選ぶのに対し、引用発明では、検索することによりプログラムモジュールを選び、かつ、検索の基準が客観的なものか否かは明らかでない点。

(B)インテリジェント・エージェントを構成するにあたって、本願発明では、コンピュータ・タスクを処理するステップにおいてプログラム・モジュールを実行するように行うのに対し、引用発明では、プラットフォーム上で動作してそのサービスを提供する(コンピュータ・タスクを処理する)ステップで部品エージェント(プログラム・モジュール)を実行するように行うか否か不明である点。

(4)判断
(あ)相違点(A)について

実行されるプログラム・モジュールを計算機で実行時に選択して、そうして選択されたプログラム・モジュールが実行されるように結合したりロードしたりする技術は、特開平8-241207号公報(段落【0009】乃至【0011】)、特開平7-271603号公報(段落【0024】乃至【0025】、【0031】)、及び特開平4-147341号公報(第1頁右下欄第7乃至12行、第3頁右上欄第3乃至13行、同頁右下欄第15行乃至次頁右下欄第10行)にあるごとく、周知技術であり、かつ、これらの周知技術では計算機で実行時に選択を行うので、選択の基準はいずれも客観的なものである。
そして、人が行う操作を計算機で自動化して人が介在する機会を減らすことは計算機分野では当然の課題であり、引用例の「5.プログラミング支援環境の設計と実装」のパラグラフで利用者要求に即して開発者が行うとされている引用発明の「検索」する(プログラム・モジュールを選ぶ)操作についても、この操作を自動化して利用者や開発者の介在機会を減らすことは、引用例に接した当業者が当然に考慮すべきことである。
してみると、引用発明において、引用発明が前提としている人による操作を自動化するにあたって上記周知技術を採用し、実行時に計算機によって客観的な基準に基づいてプログラムモジュールを選択する、すなわち、コンピュータ・タスクを処理する際に客観的基準に基づいてプログラムモジュールを選択することは、当業者が容易になし得ることである。

(い)相違点(B)について
上記周知技術においても、実行時に選択を行う以上は、そうして選択されたプログラム・モジュールが実行されるように結合したりロードしたりするのも、開発時ではなく実行時になされるものである。
してみると、(あ)に示すごとく引用発明において上記周知技術を採用し、実行時において選択されたプログラムを実行されるように結合したりロードしたりする、すなわち、コンピュータ・タスクを処理するステップにおいてプログラム・モジュールを実行するように構成することは、当業者が容易になし得ることである。

以上のとおり、相違点(A)(B)はいずれも格別のものではなく、また、これらの相違点を総合的に検討しても奏される効果は引用発明及び周知技術から当業者が当然に予測できる範囲内のものである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-17 
結審通知日 2007-08-20 
審決日 2007-08-31 
出願番号 特願平10-543893
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲はま▼中 信行殿川 雅也  
特許庁審判長 井関 守三
特許庁審判官 相崎 裕恒
小田 浩
発明の名称 様々な程度のドメイン知識を有する複数のプログラム・モジュールと共にインテリジェント・エージェントを使用してコンピュータ・タスクの実行を最適化する装置および方法  
代理人 市位 嘉宏  
復代理人 五十嵐 裕子  
復代理人 松井 光夫  
代理人 坂口 博  

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