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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680093 審決 特許
無効200680042 審決 特許
無効200680059 審決 特許
無効2007800032 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A63F
審判 一部無効 2項進歩性  A63F
審判 一部無効 出願日、優先日、請求日  A63F
管理番号 1170376
審判番号 無効2006-80104  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-06-01 
確定日 2008-01-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第2090232号発明「遊技機用確率設定装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2090232号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特願昭59-141218号(以下「第1出願」という。)出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・昭和59年7月6日 第1出願
・平成3年7月6日 第1出願の分割出願として特願平3-166027号(以下「第2出願」という。)出願
・同年8月5日 第2出願の分割出願として特願平3-195552号(以下「第3出願」という。)出願
・同年9月4日 第3出願の分割出願として本件出願
・平成7年11月15日 特公平7-106257号として出願公告
・平成8年9月2日 特許第2090232号として設定登録(発明の数3)
・平成18年6月1日 請求人大森幸子より請求項3の特許に対して本件無効審判請求
・同年8月17日 被請求人より答弁書提出
・同年12月11日 請求人より弁駁書提出
・平成19年10月1日付け 当審において無効理由を通知
・同年11月2日 被請求人より意見書提出

第2 当事者の主張及び当審において通知した無効理由の概要
1.請求人の主張
(無効理由1)
請求項3に係る発明(以下「本件発明」という。)は、後記甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3の特許は特許法29条2項の規定に反してされた特許であり、同法123条1項2号の規定に該当し、無効とされるべきである。
(無効理由2)
本件発明は、後記甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3の特許は特許法29条2項の規定に反してされた特許であり、同法123条1項2号の規定に該当し、無効とされるべきである。
(甲号各証)
請求人の提出した甲号各証は次のとおりである。
甲第1号証:特開昭57-72675号公報
甲第2号証:特開昭57-57573号公報
甲第3号証:特開昭57-173076号公報
甲第4号証:特開昭55-129079号公報
甲第5号証:実願昭57-176525号(実開昭58-108892号)のマイクロフィルム
甲第6号証:実公昭55-37175号公報
甲第7号証:特公平5-13675号公報

2.当審において通知した無効理由
当審では、本件出願日を第3出願の現実出願日である平成3年8月5日以降であると認定した上で、本件発明は特開昭61-20573号公報(第1出願の公開公報であり、以下「引用例」という。)そのものである(特許法29条1項3号該当)から、請求項3の特許は特許法29条1項の規定に違反してされた特許であり、同法123条1項2号の規定に該当し、無効とされるべきである、と通知した。以下、当審において通知した無効理由を「無効理由3」という。

3.被請求人の主張
(無効理由1及び無効理由2に対して)
請求人は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明の認定を誤っており、本件発明は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(無効理由3に対して)
第3出願の出願日は昭和59年7月6日であり、本件出願日も同日となるから、本件発明は特許法29条1項3号に該当しない。なお、被請求人は無効理由3に対する反論のため、以下の乙第1号証?乙第12号証を提出している。
乙第1号証:特開昭52-112092号公報
乙第2号証:特開昭52-135134号公報
乙第3号証:特開昭49-29470号公報
乙第4号証:特開昭57-43119号公報
乙第5号証:特開昭49-29685号公報
乙第6号証:特開昭53-74761号公報
乙第7号証:審査便覧抜粋
乙第8号証:昭和42年審判第6800号審決
乙第9号証:昭和44年審判第586号審決
乙第10号証:特許・実用新案 審査基準抜粋
乙第11号証:注解特許法抜粋
乙第12号証:パリ条約講話抜粋

第3 当審の判断
1.本件出願日の認定
(1)無効理由3から検討する。そのために、まず第3出願出願日の認定を行う。
第3出願の特許請求の範囲の記載(出願後補正されていない。)は次のとおりである。
「打玉が遊技領域に打込まれて遊技が行なわれる弾球遊技機であって、
設置状態の弾球遊技機に対し外力が加えられたことを検出して所定の検出出力を導出する外力検出手段を含むことを特徴とする、弾球遊技機。」
これに対し、第2出願当初明細書には「この実施例の弾球遊技機1は、以上説明したように1台でも稼動できるような装置であるので、単体で配置されることが多い。かかる場合に、水平に配置された弾球遊技機1が、図17(b)のように角度θ傾斜させられて、その状態で遊技されると、遊技状態が変化する。そして、それによって遊技者が不正な賞品等を獲得することが可能となる。この不正を防止するため、この実施例では、さらに、水平検出装置112が設けられている。この検出装置は、たとえば水銀が内蔵され、その水銀の表面に電極針が当接したような装置であって、水銀と電極針との間に電圧が印加されている。水平状態では、この電極針と水銀とが接触しており両者間は導通しているが、所定の角度以上に傾くと、電極針と水銀との間が開放して、両端電圧が0ボルトとなるようなセンサである。この傾き検出センサ112の出力をCPU61(図6)に与えることにより、弾球遊技機1を傾けて遊技するという不正な使用を防止することができる。」(段落【0085】)との記載があるものの、ここに記載の「水平検出装置112」と「設置状態の弾球遊技機に対し外力が加えられたことを検出して所定の検出出力を導出する外力検出手段」と同視することはできない。なぜなら、「水平検出装置112」は設置状態が斜めであれば外力がなくとも所定の検出出力を導出するし、鉛直方向の外力を検出することはできない。それ以外の方向の外力であっても、それが設置状態を変更するほどの強い外力である場合に限って検出可能なだけである。逆に、設置状態の弾球遊技機に加えられる外力を検出する手段は「水平検出装置112」に限られない。

(2)被請求人は、概略以下のことを理由に、第3出願特許請求の範囲の「外力検出手段」が第2出願当初明細書に記載されていると主張している。
(イ)第2出願当初明細書の開示内容では、「水平に配置された弾球遊技機1」を前提として不正行為防止を目的として「水平検出装置112」を設けており、不正な目的で角度θ傾斜させるためには外力を加えざるを得ない。「水平検出装置112」は水銀センサで構成されており、水銀センサが加速度や振動の検出に用いられることは、乙第1号証?乙第6号証(以下、「乙第1号証」を「乙1」などと略記する。甲号各証についても同様。)に見られるように、第1出願出願日以前から周知であり、検出対象物の質量と加速度の積は外力であるから、加速度の検出と外力の検出は同じ意味である。以上により、第2出願当初明細書には「当初水平に設置された弾球遊技機1に対し、遊技者が不正な目的で外力を加えた場合に検出出力を導出するセンサを設け、遊技者の不正を防止すること」という技術的思想が開示されている。
(ロ)鉛直方向の外力が検出できないとしても、鉛直方向以外の外力が検出できれば、十分「外力検出手段」ということができる。
(ハ)無効理由3では「設置状態を変更するほどの強い外力である場合に限って検出可能なだけである。」というが、水銀センサの一般的な機能を看過した誤った認定である。
(ニ)無効理由3では「設置状態の弾球遊技機に加えられる外力を検出する手段は「水平検出装置112」に限られない。」というが、例えば押ボタンスイッチを例にとると、操作を検出するものとしては、押ボタンスイッチだけでなく、タッチセンサや投受光方式のセンサがあり、押ボタンスイッチを「検出手段」と表現することは許容されている。

そこで検討するに、第3出願特許請求の範囲には「当初水平に設置された弾球遊技機」を前提とすることも、弾球遊技機1が角度θ傾斜したことを検出することも記載されていない。第2出願段落【0085】に「この検出装置は、たとえば水銀が内蔵され、その水銀の表面に電極針が当接したような装置であって」とあるように、水銀センサはあくまでも「水平検出装置112」の例示にすぎないから、水銀センサに限定する必要はないけれども、弾球遊技機の傾斜を検出できる手段に限定されている。また、水銀センサは何らかの機器に設置されるものであるところ、乙1?乙6は、機器全体の加速度又は振動と水銀センサの加速度又は振動を等価的に取り扱える例ばかりである。これに対し、弾球遊技機においては、地震による振動は別として、弾球遊技機に外力を加える(例えば、腹立ちまぎれに遊技機をたたく等)としても、その外力により水銀センサが所定の検出出力を導出するとは必ずしもいえない。すなわち、弾球遊技機の質量は水銀センサのそれよりも格段に大きいばかりか、床等に固定設置されている場合には、外力を加えても、弾球遊技機は簡単には傾斜しないと見るべきであるから、弾球遊技機に外力を加えることが直ちに水銀センサの加速度又は振動に結びつくわけではない。
そればかりか、第3出願特許請求の範囲においては、検出可能な外力の方向も特定されていないから、「外力検出手段」は鉛直方向の外力のみを検出できる手段であってよいが、第2出願当初明細書記載の「水平検出装置112」は明らかにそのような手段を排除している。
以上のとおりであるから、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(3)被請求人はさらに、第3出願は平成7年3月13日付けで出願が取り下げられており、第3出願の特許請求の範囲を削除する補正と同様の効果が生じているから、第3出願は適法な分割出願であるとも主張している。
乙8,乙9は、出願取下が特許請求の範囲を削除する補正と同様の効果が生じることを立証するために被請求人が提出した審決であり、なるほど乙8に「本願の発明と同一の発明を包含する原出願が取り下げられたのであるから、それによって原出願から本願発明が削除されたのと同一の効果を生じたものと認められる。」と、乙9に「原特許出願自体もすでに取り下げられているので、本願発明と重複する部分があるため実質的に同一とされた発明はすでに存在していないから、審査実務上の本願の出願日の取り扱いは、「分割された特許出願の発明がもとの特許出願の発明と同一である場合の、分割された新たな特許出願の出願日の取り扱い」(審査便覧14.06A)に於けるその後の補正により出願日のそ及が認められる場合に該当するものとするのが妥当である。」と、それぞれ説示されていることは認める。しかし、審決の説示が常に正しいとは限らないことは、多くの審決が審決取消訴訟により取り消されていることからも明らかであり、本件審決が上記各審決の説示に拘束される筋合いはない。そして、出願が取り下げられたからといって、その出願の特許請求の範囲が削除されたと解すべき法律的根拠はない。請求人が主張する「特許請求の範囲を削除する補正と同様の効果」が、特許権として存在し得ないという意味であるならば、拒絶確定、無効確定などもそれに該当することになるが、原出願が拒絶確定又は無効確定しても、その特許請求の範囲が削除されたことにならないことは、例えば東京高判平成15年(行ケ)第66号(平成15年9月3日言い渡し)に判示されているとおりである。同判決中の「子出願」の特許は無効確定しており、子出願の分割違法性及び子出願の出願日がその後の分割出願(玄孫出願)に影響するかどうかが判示されている。
また、乙8,乙9は、出願取下されたものの分割出願の出願日を問題としているのに対し、本件で問題としているのは、出願取下されたもの自体の出願日であるから、事案を異にする。
さらに、出願取下は査定又は審決が確定するまではいつでも可能なのに対し、補正には時期的制限があり、補正不可能期間に出願取下がされることもある。被請求人が主張するように、出願取下が特許請求の範囲を削除する補正と同様の効果が生じるだとすると、補正不可能期間に補正と同様の効果を生ずることが可能となるから、出願取下により補正と同様の法律的効果を生ずるとは、この点からみても首肯できない。第3出願について具体的に見ると、平成7年1月10日に拒絶理由が通知(指定期間60日)されており、補正可能期間の満了日は同年3月11日であるが、同日は土曜日であるため、同月13日が満了日となる。そして、特許庁が出願取下書を受け付けたのは、記録によれば、同月15日、すなわち補正不可能期間中である。もっとも、出願取下書には提出日が平成7年3月13日であると記載されているが、その日に出願取下書が提出されたかどうかは不明である。
加えて、特許法44条1項は「特許出願人は、願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定しているところ、「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願」としたかどうかは、特許請求の範囲があって初めて定まることがらであり、特許請求の範囲がなければ、特許法44条1項による出願であると認定することができない(出願日を特定できない)ことは当然であるから、被請求人主張のように、出願取下が特許請求の範囲を削除する補正と同様の効果が生じると仮にしても、それによって第3出願の出願日が第2出願の出願日にそ及するわけではない。
そればかりか、平成7年1月10日発送の拒絶理由では、第3出願が違法分割であることが指摘されているのだから、第3出願について補正する(特許請求の削除などいう補正は認められない。)ことにより、第3出願の出願日を第1出願出願日までそ及させることが可能であったにもかかわらず、被請求人はそれを怠ったのであるから、そのことによる不利益は被請求人が甘受しなければならない。

(4)被請求人はさらに、出願取下になったものは、出願日を実際の出願日まで繰下げる必要性自体が存在しないとも主張する。出願取下になった出願の分割出願が存在しなければ被請求人が主張するとおりであるが、同分割出願の出願日が、出願取下になった出願日を超えてそ及することはないから、出願取下になっても出願日の確定は必要である。そのことは、前掲東京高判平成15年(行ケ)第66号が「親出願,子出願,孫出願及びそれ以降の分割出願は,それぞれ別個の出願手続であり,特許要件の具備の有無は別個独立に審査されるものであっても,孫出願の出願日の遡及の利益の享受は,飽くまで子出願の出願日の利益の享受であって,子出願が分割要件を満たして分割が適法に行われることを前提とするものであり,孫出願の出願日が子出願と無関係に本来の分割可能な時期から離れて無限定に親出願の出願日まで遡及するものではない。」及び「「もとの特許出願」の出願日に遡及するというものであり,孫出願を「新たな特許出願」とすると,「もとの特許出願」とは子出願であるから,孫出願は,適法に分割された場合であっても,子出願の出願日に遡及するにすぎない。」と判示するとおりである。

(5)被請求人は、第3出願が取り下げられたことから、第3出願が初めからなかったものとみなされ、第2出願から直接本件出願が分割されたものとみなすことができるとも主張している。
しかし、第3出願が初めからなかったものとみなされるならば、第3出願に基づいて本件出願を分割することはできない。そればかりか、第2出願については、平成3年8月5日に審査請求され、その後平成6年6月7日に拒絶理由が通知されているから、本件出願が現実にされた平成3年9月4日は、第2出願について補正をすることができない期間に該当し、平成3年9月4日に第2出願から本件出願を分割することはできない。

(6)以上によれば、第3出願は第2出願を「もとの特許出願」として、特許法44条1項の規定により出願したものと認めることができないから、第3出願の出願日は現実に出願された平成3年8月5日である。本件出願は、第3出願の分割出願として出願されたものであるから、特許法44条1項の規定の適用を受けるとしても、平成3年8月5日までそ及するにすぎない。すなわち、本件出願日は平成3年8月5日以降である。

2.無効理由3についての判断
(1)本件発明の認定
本件発明は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲第3項(請求項3)に記載されたとおりのものであるが、「条件とて」とあるのは「条件として」の自明な誤記と認められる(ちなみに、本件審判の対象外である請求項1,2には「条件として」と記載されている。)から、誤記を訂正した上で次のとおり認定する。
「予め定められた特定遊技状態が発生したことにより所定の遊技価値が付与可能な状態となる遊技機における前記特定遊技状態の発生確率を設定するための遊技機用確率設定装置であって、
手動操作により前記特定遊技状態の発生確率を可変設定するための確率可変設定手段を含み、
該確率可変設定手段は、特定の者が所持する鍵により操作されたことを条件として前記確率の可変設定が可能となることを特徴とする、遊技機用確率設定装置。」

(2)引用例の記載事項
引用例には、以下のア?オの記載又は図示がある。
ア.「遊技機本体2には、前面枠14が開閉自在に装着されている。前面枠14には、遊技盤15が着脱自在に装着されている。・・・パチンコ球の入賞によってスロットドラム16a、ディジタル表示部16bを含む可変表示装置16を可変表示できる条件の定められた入賞領域である始動入賞孔102a,102b,102c、ヤクモノ(通称チューリップ)で構成された入賞領域103a,103b、可変表示装置16の表示内容に応じて入賞状態が変化する可変人賞球装置104というように、種々の異なる入賞領域となっている。」(3頁右下欄7行?4頁左上欄4行)
イ.「第3A図および第3B図は、このデータ入力装置50を表わす図であり、第3A図はその斜視図、第3B図はその正面図である。
図において、キースイッチ51は、特別キー52が差込まれた状態で切換えることができるスイッチである。」(5頁左上欄1?6行)
ウ.「ディジタル確率可変スイッチ54は、ディジタル表示部16b(第1図)の表示において、「7」の表示がされる確率を変更指示するためのスイッチである。ディジタル確率可変スイッチ54を任意の位置に回動停止することにより、「7」の出る確率を10分の1?10分の10のいずれかに変更指示することができる。
このように、ディジタル表示部16bが「7」を表示する確率を変えることは、次のような意義を有する。前述のように可変表示装置16の表示が所定の組合せ、たとえばディジタル表示部16bおよびスロットドラム16aの表示がすべて「7」になったとき、可変入賞球装置104が開いて、パチンコ球が入賞する確率が高くなり、遊技者にとって有利な状態となる。言い換えれば、弾球遊技機1を、営業上どの程度の出玉率の台に設定するかは、可変表示装置16の表示が、所定の組合せになる確率を変えることで調整することができるのである。」(5頁右上欄3行?左下欄1行)
エ.「第15図に示すデータ入力装置200は、前述した第3A図および第3B図のデータ入力装置50と第13図に示す入力装置80とを一体的にしたものである。データ入力装置200の特徴は、入力すべきデータをテンキー201を使って入力できることである。それゆえ、第3B図や第13図に示す切換スイッチのように、予め定められた数値を入力できるだけでなく、任意の数値データを入力することができ、多用途に適応したものとすることができる。
データ入力装置200を操作するにあたっては、キースイッチ51を特別キー(図示せず)で切換えることにより操作することができる。また、このほかの方法として、設定キー202を押し、続いてテンキー201によって所定の暗証番号を入力することにより、入力可能状態とするようにしてもよい。あるいはまた、磁気カード挿入口203から磁気カードを挿入することによって、データ入力装置200が操作可能となるようにしてもよい。このように、データ入力装置200の操作にあたっては、何らかの信号等を与えるようにしておけば、不正な使用を防止することができる。」(12頁左下欄5行?右下欄6行)
オ.第3B図及び第15図には、共通して「デジタル確率」との入力項目が示されており、第3B図ではキースイッチ51が「ノーマル」の状態にあることが図示されている。

(3)引用例記載の発明の認定
引用例の記載エには「不正な使用を防止」とあることを考慮すると、記載イ又は記載エの「特別キー」は、ディジタル確率を設定するために必要とされるキーであり、同キーがなければディジタル確率を設定できないと解される。
記載ウには「ディジタル確率可変スイッチ」とあるけれども、第15図の例では明らかに数値入力が予定されているから、「スイッチ」に限らず「ディジタル確率可変装置」として認定できる。
したがって、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「ディジタル表示部を含む可変表示装置及び可変入賞球装置を備え、前記ディジタル表示部に「7」が揃って表示されると前記可変入賞球装置が開くように構成された遊技に設けられ、「7」を表示するディジタル確率を変えるディジタル確率可変装置であって、
ディジタル確率を設定するには特別キーが必要とされるディジタル確率可変装置。」(以下「引用発明」という。)

(4)本件発明と引用発明の対比
引用発明における「可変入賞球装置が開」いた状態は本件発明における「予め定められた特定遊技状態」に相当し、引用発明においても同状態が「所定の遊技価値が付与可能な状態」であることは明らかである。そして、引用発明においては、上記状態が「ディジタル表示部に「7」が揃って表示される」ことによって発生し、「ディジタル確率可変ディジタル確率可変装置」は「「7」を表示するディジタル確率を変える」ものであるから、本件発明の「特定遊技状態の発生確率を設定するための遊技機用確率設定装置」と異ならず、「手動操作により前記特定遊技状態の発生確率を可変設定するための確率可変設定手段」を含むことも明らかである(例えば、第15図の例では、数値入力部が確率可変設定手段に該当する。)。
引用発明の「特別キー」は誰もが所有するキーではないから、本件発明の「特定の者が所持する鍵」に相当し、「ディジタル確率を設定するには特別キーが必要とされる」ことと「鍵により操作されたことを条件として前記確率の可変設定が可能となる」ことに相違はない。
したがって、本件発明と引用発明は、
「予め定められた特定遊技状態が発生したことにより所定の遊技価値が付与可能な状態となる遊技機における前記特定遊技状態の発生確率を設定するための遊技機用確率設定装置であって、
手動操作により前記特定遊技状態の発生確率を可変設定するための確率可変設定手段を含み、
該確率可変設定手段は、特定の者が所持する鍵により操作されたことを条件として前記確率の可変設定が可能となることを特徴とする、遊技機用確率設定装置。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。すなわち、本件発明は引用発明そのものであるから、請求項3の特許は特許法29条1項3号の規定に反してされた特許である。
なお、本件発明と引用発明の同一性については、被請求人も争っていない。

3.無効理由1について
念のため、無効理由1についても判断する。なお、無効理由2の証拠は無効理由1の証拠を含んでいるから、無効理由1に理由があれば、当然無効理由2にも理由がある。
(1)甲第1号証の記載事項
甲1には、以下のア?コの記載が図示とともにある。
ア.「コインゲーム機1の表面に臨む遊技部には、3個の回転部5_(1),5_(2),5_(3)を設ける。図面の実施例によれば、各回転部5_(1),5_(2),5_(3)はモータなどの駆動部により高速回転する円盤状の回転体6_(1),6_(2),6_(3)と、各回転体6_(1),6_(2),6_(3)の外周に無端状に配列した複数の表示部7_(1)…,7_(2)…,7_(3)…とからなり、各回転体6_(1),6_(2),6_(3)の表面に、いずれかの表示部7_(1),7_(2),7_(3)を指す指示部6_(1)’,6_(2)’,6_(3)’を表示する。また遊技部には、複数種類(図面では4種)の帯域8_(1),8_(2),8_(3),8_(4)を設定し、各回転部の各表示部7_(1),7_(2),7_(3)をいずれかの帯域8_(1),8_(2),8_(3),8_(4)に位置させる。各表示部7_(1),7_(2),7_(3)の表面には数字、図形などからなる記号を表示し、また各回転部5_(1),5_(2),5_(3)の各表示部に1個の特定表示部7_(1)’,7_(2)’,7_(3)’を設定し、該特定表示部7_(1)’,7_(2)’,7_(3)’を第1帯域8_(1)内に位置させる。」(3頁左上欄2?17行)
イ.「遊技者が表面のスタートスイツチ9を操作すると、各回転部5_(1),5_(2),5_(3)に対応して設けたストツプスイツチ11_(1),11_(2),11_(3)のストツプ表示部12_(1),12_(2),12_(3)が点滅表示し、各ストツプスイツチの操作可能状態を示す。又、スタートスイツチ9が操作されると各回転体6_(1),6_(2),6_(3)が高速回転し、肉眼では各表示部6_(1)’,6_(2)’,6_(3)’の回転状態を確認できない。
この状態で遊技者が第1ストツプスイツチ11_(1)を操作すると、・・・第1の回転部5_(1)において高速回転している回転体6_(1)が停止し、指示部6_(1)’がいずれか1つの表示部7_(1)を指す。・・・第2のストツプスイツチ11_(2)、第3のストツプスイツチ11_(3)を遊技者が個々に操作して各回転体6_(2),6_(3)の高速回転を止めるとともに各指示部6_(2)’,6_(3)’がいずれかの表示部7_(2),7_(3)を指すと遊技結果が現われる。即ち、各回転体6_(1),6_(2),6_(3)の指示部が指す表示部7_(1),7_(2),7_(3)がいずれか1つの帯域8_(1),8_(2),8_(3),8_(4)内にすべて位置していれば「当り」となつて第1賞態様を構成し、2以上の帯域に分散して位置すると「外れ」となつて投入したコインが没収される。」(3頁左上欄末行?左下欄2行)
ウ.「例えばコインを1枚投入して1ゲームを行い、各指示部6_(1)’,6_(2)’,6_(3)’が指す表示部が全て第1帯域8_(1)内であれば10枚、第2帯域8_(2)内であれば1枚、第3帯域8_(3)内であれば5枚、第4帯域8_(4)内であれば2枚のコインが賞として遊技者に排出する。」(3頁左下欄3?8行)
エ.「コインを投入してゲームを行つたとき、各指示部6_(1)’,6_(2)’,6_(3)’が指す表示部が全て特定表示部7_(1)’,7_(2)’,7_(3)’となつたら第2賞態様となる。」(3頁右下欄4?7行)
オ.「第2賞態様の例としてはコインを投入しないでも各回転体6_(1),6_(2),6_(3)が高速変換し、遊技者が各ストツプスイツチ11_(1),11_(2),11_(3)を順次操作して各回転体6_(1),6_(2),6_(3)を止めると、指示部6_(1)’,6_(2)’,6_(3)’が指す表示部に記載されている記号に対応する総数のコインを遊技者に排出する。」(3頁右下欄8?14行)
カ.「コインゲーム機は電気的制御装置により各ゲームを制御したり入賞を発生させるので、上記した第2賞態様は遊技者の操作による自然発生、外部からの操作による強制発生、電気的制御装置にプログラムさせた通りに発生させる制御発生の3種類が有る。・・・遊技者のゲーム時に第2賞態様が発生するのは自然発生、制御発生であり、特に制御発生によつてコインゲーム機の賞態様の発生確率を調整できる。」(4頁左上欄14行?右上欄8行)
キ.「遊技店では毎日の開店時刻以前に各コインゲーム機ごとに割数を設定し、割数を関数とする第2賞態様の発生確率を電気的制御装置にプログラムする。」(4頁左下欄9?12行)
ク.「第2賞態様の発生確率、即ち第2賞態様の発生時点は、遊技者がゲーム用コインを投入することにより、設定した割数が異なつていれば勿論のこと、設定した割数が同一でも各コインゲーム機ごとに変化させる。」(4頁右下欄19行?5頁左上欄3行)
ケ.「例えば或るコインゲーム機において、開店時に割数「10」を設定して250個の遊技用コイン投入で第1回目の第2賞態様が発生、600個の遊技用コイン投入で第2回目の第2賞態様が発生、950個の遊技用コイン投入で第3回目の第2賞態様が発生、1300個の遊技用コイン投入で第4回目の第2賞態様が発生、同様にして以後30回までの第2賞態様を所望数の遊技用コインで発生する様にプログラムしたとする。そして、開店後遊技者が行つた1番目のゲームで各回転体6_(1),6_(2),6_(3)の停止指示部6_(1)’,6_(2)’,6_(3)’が指した表示部7_(1),7_(2),7_(3)に示されている数値が合計「20」であつたとすれば、第1回目の第2賞態様の発生時は250個目の遊技用コイン投入数に偶数として「20」を加算した値、即ち270個のゲーム用コイン投入により発生させる。また遊技者が行つた開店後第2番目のゲームで各回転体6_(1),6_(2),6_(3)の停止により指示部6_(1)’,6_(2)’,6_(3)’が指した表示部7_(1),7_(2),7_(3)の合計が「13」であれば、第2回目の第2賞態様の発生時600から奇数として「13」を減算した587個のゲーム用コイン投入により発生させ、同様にして第3番目のゲームで合計「17」であれば第3回目の第2賞態様の発生時は950から奇数である「17」を減算した933個のゲーム用コイン投入により発生させる。また第4番目のゲームで合計「14」であれば第4回目の第2賞態様の発生時は1300に偶数である「14」を加算した1314個のゲーム用コイン投入により発生させる。」(5頁左上欄19行?左下欄8行)
コ.「第2図は電気的制御装置15の一例を示すブロツク図で、遊技店の開店時以前に管理室に設けてある割数設定操作部16を店員が操作する。」(5頁右下欄2?5行)

(2)甲1記載の発明の認定
甲1記載コの「割数設定操作部16」は、甲1記載ア?ケの「コインゲーム機」の割数を設定する手段であり、「割数設定操作部16」を含む1つの装置(以下、これを「割数設定装置」という。)の一部と認識することができる。
そして、甲1の記載キ?ケによれば、「割数設定」とは、第2賞態様の発生時点の設定である。
したがって、甲1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「第2賞態様を発生するコインゲーム機における割数を設定するために、管理室に設けられた割数設定操作部を含む割数設定装置。」(以下「甲1発明」という。)

(3)本件発明と甲1発明の一致点及び相違点の認定
甲1発明における「第2賞態様」では「コインを投入しないでも各回転体6_(1),6_(2),6_(3)が高速変換し、遊技者が各ストツプスイツチ11_(1),11_(2),11_(3)を順次操作して各回転体6_(1),6_(2),6_(3)を止めると、指示部6_(1)’,6_(2)’,6_(3)’が指す表示部に記載されている記号に対応する総数のコインを遊技者に排出する。」(記載オ)のだから、「第2賞態様」を「所定の遊技価値が付与可能な状態となる」「予め定められた特定遊技状態」であるということができる。
甲1発明が対象とする「コインゲーム機」は「遊技機」の一種である。
甲1の記載キ?ケによれば、「割数設定」とは、第2賞態様の発生時点の設定であり、発生時点を設定することによって、第2賞態様の発生頻度も設定されることになる。他方、本件発明において、「特定遊技状態の発生確率を設定」すれば、当然特定遊技状態の発生頻度も設定される。すなわち、本件発明と甲1発明とは、「特定遊技状態の発生頻度を設定するための遊技機用設定装置」の限度で一致する。なお、甲1には、「第2賞態様の発生確率、即ち第2賞態様の発生時点」(記載ク)など「第2賞態様の発生確率」との表現が散見されるところ、発生時点の設定は発生頻度の設定に通ずるけれども、個々の遊技における「第2賞態様の発生確率」を設定するということは数学的には誤りであるから、確率設定かどうかは相違点である。
甲1発明では、管理者が割数設定操作部を操作するのだから、手動操作が予定されており、甲1発明の「割数設定操作部」と本件発明の「確率可変設定手段」は、「手動操作により特定遊技状態の発生頻度を可変設定するための可変設定手段」の限度で一致する。
したがって、本件発明と甲1発明は、
「予め定められた特定遊技状態が発生したことにより所定の遊技価値が付与可能な状態となる遊技機における前記特定遊技状態の発生頻度を設定するための遊技機用設定装置であって、
手動操作により前記特定遊技状態の発生頻度を可変設定するための可変設定手段を含む遊技機用設定装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉遊技機用設定装置により設定されるものが、本件発明では「特定遊技状態の発生確率」であるのに対し、甲1発明では「割数」、すなわち、特定遊技状態の発生時点である点。
〈相違点2〉本件発明が「特定の者が所持する鍵により操作されたことを条件として可変設定が可能」と限定しているのに対し、甲1発明にかかかる限定がない点。
なお、若干の表現の相違はあるものの、これら相違点は、答弁書において被請求人が主張する相違点と実質的に同一である。

(4)相違点の判断及び本件発明の進歩性の判断
〈相違点1について〉
甲1発明における「コインゲーム機」は、記載イにあるように、3つの回転体の停止位置によって入賞が定まる遊技機である。そして、第2賞態様の発生時点を電気的制御装置により制御できるということは、各回転体の停止位置を制御できることにほかならない。
そして、特定遊技状態の発生頻度は、特定遊技状態の発生時点を定めても当然制御できるが、個々の遊技における発生確率を定めても、短期間ならいざ知らず、長期的(例えば1日単位)なら十分制御できることは自明である。
甲1の記載ケから、開店後のゲーム結果によって、第2賞態様の発生時点に偶然性を持たせていることが読み取れること、及び甲1に「発生確率」との用語(この用語が不正確に使用されていることは前示のとおりであるが)が散見されることからみて、長期的に特定遊技状態の発生頻度を制御できれば十分であり、発生時点の設定を発生確率に変更することを妨げる要因は見あたらない。
そうである以上、特定遊技状態の発生頻度を設定するに当たり、設定内容を「特定遊技状態の発生確率」とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

〈相違点2について〉
甲2には、「第6図はこの発明の特徴となる管理装置60の外観図である。図において、管理装置60は、筐体61の前面側に、操作パネル611と表示パネル612とを形成して成る。操作パネル611上には、キーシリンダスイツチ(以下キースイツチ)62が設けられる。キースイツチ62は、OFF位置の電源OFF状態を選択し、ON位置で管理装置60の電源投入状態を選択し、LOCK位置で後述のキーボードの操作を禁止する状態を選択する。」(5頁右下欄末行?6頁左上欄9行)との記載があり、第6図を併せ見れば、「キーシリンダスイツチ」の状態を選択するにはキーが必要であると解され、そのキーは本件発明でいう「特定の者が所持する鍵」にほかならない。甲2からは、管理者が操作する装置において、「特定の者が所持する鍵により操作されたこと」を操作条件とすることが読み取れる。
また、甲2によらずとも、管理者が操作する装置を管理者以外が操作できないように、操作を許容するための条件を付すことは当然なすべきことであって、その条件を「特定の者が所持する鍵により操作されたこと」とすることは設計事項というべきである。
もちろん、甲2記載の「管理装置60」は、特定遊技状態の発生頻度を設定する装置ではないけれども、管理者が操作する装置である点では、甲1発明の「割数設定装置」と共通し、甲1発明の「割数設定装置」においても、管理者以外がみだりに操作できないことが好ましいことは明らかである。
そうである以上、甲1発明を出発点として、相違点2に係る本件発明の構成を採用することは設計事項というべきである。

〈本件発明の進歩性の判断〉
相違点1,2に係る本件発明の構成を採用することは設計事項であるか、当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明は甲1発明(及び甲2記載の技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3の特許は特許法29条2項の規定に違反してされた特許である。

第4 むすび
以上によれば、請求項3の特許は特許法29条1項3号の規定に反してされた特許であり、仮に本件出願日が第1出願日までそ及するとしても、請求項3の特許は特許法29条2項の規定に違反してされた特許であるから、同法123条1項2号の規定に該当し、無効とされるべきである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-09 
結審通知日 2007-11-14 
審決日 2007-11-27 
出願番号 特願平3-224061
審決分類 P 1 123・ 03- Z (A63F)
P 1 123・ 113- Z (A63F)
P 1 123・ 121- Z (A63F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植野 孝郎神崎 潔中村 和夫松川 直樹柴田 和雄  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 ▲吉▼川 康史
野村 伸雄
登録日 1996-09-02 
登録番号 特許第2090232号(P2090232)
発明の名称 遊技機用確率設定装置  
代理人 森田 俊雄  
代理人 中田 雅彦  
代理人 根本 恵司  
代理人 塚本 豊  
代理人 青木 俊明  
代理人 杉山 猛  
代理人 深見 久郎  

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