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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L |
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管理番号 | 1170508 |
審判番号 | 不服2004-24904 |
総通号数 | 98 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-02-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-12-06 |
確定日 | 2008-01-10 |
事件の表示 | 平成10年特許願第345190号「発色安定性に優れたポリプロピレン着色組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月20日出願公開、特開2000-169664〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成10年12月4日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。 ・平成16年8月6日付けで拒絶理由を通知 ・平成16年10月12日に意見書及び手続補正書を提出 ・平成16年11月2日付けで拒絶査定 ・平成16年12月6日に拒絶査定に対する審判請求 ・平成16年12月28日に手続補正書を提出 ・平成19年1月31日付けで補正の却下の決定 (平成16年12月28日付けの手続補正を却下) ・平成19年1月31日付けで拒絶理由を通知 ・平成19年4月9日に意見書及び手続補正書を提出 第2 この出願の発明について 1 この出願の発明 平成16年12月28日付けの手続補正は、平成19年1月31付けで却下されたので、この出願の発明は、平成16年10月12日付け及び平成19年4月9日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される下記のものである。 「【請求項1】 無機体質材を5?40重量%含有するエチレン・プロピレン-ブロック共重合体型ポリプロピレン樹脂を黒色顔料によって着色するに際して、前記黒色顔料としてpH3.0?4で、かつ、平均粒径30?100nmのファーネスタイプカーボンブラックを前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、0.1?7重量部並びに該ファーネスタイプカーボンブラック100重量部に対して酸化第2鉄系黒色顔料0.5?700重量部を配合した組成物であることを特徴とする発色安定性に優れたポリプロピレン着色組成物。 【請求項2】 無機体質材を5?40重量%含有するエチレン・プロピレン-ブロック共重合体型ポリプロピレン樹脂を黒色顔料によって着色するに際して、前記黒色顔料としてpH3.0?4で、かつ、平均粒径30?100nmのファーネスタイプカーボンブラックを前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、0.1?7重量部配合し、該ファーネスタイプカーボンブラック100重量部に対して調色剤0.5?700重量部を併用した組成物であることを特徴とする発色安定性に優れたポリプロピレン着色組成物。」 第3 当審における拒絶理由の概要 当審において、平成19年1月31日付けで、以下の内容を含む拒絶理由が通知された。 この出願の請求項1?2に係る発明は、特許出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物A 特開平1-284545号公報 第4 当審の判断 1 特許法第29条第2項の検討 平成18年6月22日付けの拒絶理由通知において引用した、刊行物Aについて検討する。 (1) 刊行物Aの記載事項 ア 「無機体質材を0?40重量%含有するエチレン・プロピレン-ブロック共重合体を黒色顔料によって着色するに際して、前記黒色顔料としてPH1.5?4のファーネスタイプカーボンブラックを単独若しくは他の黒色顔料と併用して用いることを特徴とするポリプロピレン着色組成物。」(1ページ特許請求の範囲) イ 「本発明者等は前記の鉄黒より着色濃度があり、しかも無機質充填剤が入った場合に於いても色むらが生ずることのない黒色顔料について種々研究を重ねた結果、非常に幅広いPH範囲を有するファーネスタイプカーボンブラックの中でPH1.5?4の特定のものを使用すれば、前記色むらは発生しないことを見出し、この知見に基づき本発明を完成した。」(2ページ右上欄2?9行) ウ 「本発明に用いる黒色顔料は、ファーネスタイプカーボンブラックの中のPH1.5?4の特定の範囲のものであり、通常、粒度は5?80mμ、好ましくは、10?50mμのものを使用することができる。本発明に用いるファーネスタイプカーボンブラックは、PH1.5?4のものを好適に使用することができ、PH4を超えると複雑な形状の成形品において色むらが発生しやすくなる。このように特定のファーネスタイプカーボンブラックを用いることにより、成形加工における溶融樹脂の流れの異方性があっても色むらが発生しない。」(3ページ左上欄1?13行) エ 「本発明に用いるファーネスタイプカーボンブラックはエチレン・プロピレン-ブロック共重合体樹脂100重量部あたり、0.1?7重量部の配合割合で使用することができる。」(3ページ左上欄14?17行) オ 「本発明においては、所望により他の黒色顔料、例えば、酸化第二銅-酸化マンガン-酸化第二鉄系顔料、酸化第二銅-酸化クロム-酸化第二鉄系顔料又は他のカーボンブラックなどを添加することができる。」(3ページ左上欄18行?右上欄2行) (2) 刊行物Aに記載された発明について 刊行物Aでは水素イオン濃度を表す記号として「PH」が使用されているが、正しくは「pH」であるので、以下、記載をそのまま摘記する場合もそれに統一して使用し、長さの単位の「mμ」は「nm」と同じものを表すので、以下「nm」に統一して表記する。 刊行物Aには、「無機体質材を0?40重量%含有するエチレン・プロピレン-ブロック共重合体を黒色顔料によって着色するに際して、前記黒色顔料としてpH1.5?4のファーネスタイプカーボンブラックを単独若しくは他の黒色顔料と併用して用いることを特徴とするポリプロピレン着色組成物。」(摘記ア)が記載されている。そして、ファーネスタイプカーボンブラックの粒度として、好ましくは10?50nmのものを使用することができる旨(摘記ウ)、「ファーネスタイプカーボンブラックはエチレン・プロピレン-ブロック共重合体100重量部あたり、0.1?7重量部の配合割合で使用」することができる旨(摘記エ)、所望により添加される他の黒色顔料として、酸化第二銅-酸化マンガン-酸化第二鉄系顔料、酸化第二銅-酸化クロム-酸化第二鉄系顔料を使用することができる旨(摘記オ)が記載されている。 そうすると、刊行物Aには、以下の発明が記載されているということができる。 「無機体質材を0?40重量%含有するエチレン・プロピレン-ブロック共重合体を黒色顔料によって着色するに際して、前記黒色顔料としてpH1.5?4で、かつ、粒度5?80nmのファーネスタイプカーボンブラックをエチレン・プロピレン-ブロック共重合体100重量部に対して、0.1?7重量部と他の黒色顔料と併用して用いることを特徴とするポリプロピレン着色組成物。」(以下、「引用発明」という。) (3) 対比 この出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用発明とを対比する。 引用発明における「エチレン・プロピレン-ブロック共重合体」は、刊行物Aの記載、技術常識及び本願明細書の記載からみて、本願発明1における「エチレン・プロピレン-ブロック共重合体型ポリプロピレン樹脂」に相当する。 引用発明における「他の黒色顔料」としては、「酸化第二銅-酸化マンガン-酸化第二鉄系顔料、酸化第二銅-酸化クロム-酸化第二鉄系顔料」が具体的に記載されており(摘記オ)、そして、このような黒色顔料は「酸化第2鉄系黒色顔料」であることが明らかであるから、引用発明における「他の黒色顔料」は、本願発明1における「酸化第2鉄系黒色顔料」に相当する。 そうすると、本願発明1と引用発明とは、 「無機体質材を含有するエチレン・プロピレン-ブロック共重合体型ポリプロピレン樹脂を黒色顔料によって着色するに際して、前記黒色顔料としてファーネスタイプカーボンブラックを前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、0.1?7重量部並びに酸化第2鉄系黒色顔料を配合した組成物であることを特徴とするポリプロピレン着色組成物。」 である点で一致し、以下のア?オの点で相違する。 ア 無機体質材を含有するエチレン・プロピレン-ブロック共重合体型ポリプロピレン樹脂における無機体質剤の含有量の範囲について、本願発明1では、5?40重量%とされているのに対し、引用発明では、0?40重量%とされている点(以下、「相違点1」という。)。 イ ファーネスタイプカーボンブラックのpHの範囲について、本願発明1では、3.0?4とされているのに対し、引用発明では、1.5?4とされている点(以下、「相違点2」という。)。 ウ ファーネスタイプカーボンブラックについて、本願発明1では、平均粒径30?100nmとされているのに対し、引用発明では、粒度5?80nmとされている点(以下、「相違点3」という。)。 エ ファーネスタイプカーボンブラックと併用される酸化第2鉄系黒色顔料他の黒色顔料について、本願発明1では、ファーネスタイプカーボンブラック100重量部に対して酸化第2鉄系黒色顔料0.5?700重量部を配合しているのに対し、引用発明では、酸化第2鉄系黒色顔料の配合量について特定されていない点(以下、「相違点4」という。) オ ポリプロピレン着色組成物について、本願発明1では「発色安定性に優れた」とされているのに対し、引用発明ではそのような性質について特定されていない点(以下、「相違点5」という。)。 (4) 相違点の検討 相違点1?相違点5について検討する。 相違点1について、両発明は、無機体質材の含有量の範囲全体については一致していないが、含有量の範囲のうち5?40重量%の部分においては重複しており、その重複している部分について、引用発明には実施例も存在していることからみて、相違点1は、実質的な相違点ではない。 相違点2について、両発明は、ファーネスタイプカーボンブラックのpH範囲全体については一致していないが、pHの範囲のうち3.0?4の部分においては重複しており、その重複している部分について、引用発明には実施例も存在していることからみて、相違点2は、実質的な相違点ではない。 相違点3について、「粒度」が「平均粒径」に相当することは、技術常識ということができ、そして、両発明は、ファーネスタイプカーボンブラックの平均粒径範囲について一致していないが、引用発明では、通常、5?80nm、好ましくは10?50nmのものを使用することができると記載されている(摘記ウ)のであるから、両者の平均粒径範囲のうち30?50nmの部分においては重複しているということができ、その重複している部分において、相違点3は、実質的な相違点であるといえない。 相違点4について、カーボンブラックと酸化第2鉄系黒色顔料とを配合する際に、これらの量比を好適化することは、当業者が実施に際して適宜なし得ることにすぎない。さらに、本願発明1における「ファーネスタイプカーボンブラック100重量部に対して酸化第2鉄系黒色顔料0.5?700重量部」という範囲は、ファーネスタイプカーボンブラックの配合量の0.005倍?7倍という極めて広範囲な量比範囲で酸化第2鉄系黒色顔料を配合することを規定しているだけのもので格別の技術的意義は見いだせず、そして、このような広範囲な量比範囲には、通常とり得る配合量比が含まれるものといえるものである。したがって、相違点4は、当業者が容易になし得たものというべきである。 相違点5について、この出願の明細書には、「ファーネスタイプカーボンブラックの中でpH2?4の範囲にあり、かつ、粒径30?100nmの特定の物を使用すれば、前記色分れ及び加工時の発色ブレは発生しないことを見出し」(段落【0005】)、「粒度が30nm未満の場合は、発色安定性の点で不都合となり」(段落【0008】)と記載されており、さらに、実施例・比較例の記載を参酌すると、ファーネスタイプカーボンブラックのpH範囲及び平均粒径範囲が規定の範囲のものであれば発色ブレのない、すなわち、発色安定性が優れたものとなるものと解されるから、本願発明1において、「発色安定性に優れた」という特定事項は、ファーネスタイプカーボンブラックのpH範囲及び平均粒径範囲が規定の範囲のものであれば達成できる性質であり、ファーネスタイプカーボンブラックのpH範囲及び平均粒径範囲が規定の範囲のものであることと独立した特定要件とはいえない。そして、ファーネスタイプカーボンブラックのpH範囲及び平均粒径範囲について、引用発明のものと本願発明のものとが重複していることは相違点2及び相違点3について検討したとおりであり、「発色安定性に優れた」という性質は引用発明のポリプロピレン着色組成物が有している性質であると認められるから、相違点5は、実質的な相違点であるといえない。 (5) 本願発明1の効果についての検討 この出願の明細書の記載、とりわけ、実施例の記載を検討しても、無機体質材を特定量含有するエチレン・プロピレン-ブロック共重合体型ポリプロピレン樹脂、特定のpH範囲及び平均粒径範囲をもつファーネスタイプカーボンブラックを特定量並びに酸化第2鉄系黒色顔料特定量を配合した組成物としたことで、格別顕著な効果が奏されているといえない。 したがって、本願発明1の効果は、格別顕著であるといえない。 2 特許法第29条第2項についてのまとめ 以上のとおり、本願発明1は、特許出願前に日本国内において頒布された刊行物Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-11-09 |
結審通知日 | 2007-11-12 |
審決日 | 2007-11-27 |
出願番号 | 特願平10-345190 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C08L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
井上 彌一 安藤 達也 |
発明の名称 | 発色安定性に優れたポリプロピレン着色組成物 |
代理人 | 内山 充 |