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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M |
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管理番号 | 1170540 |
審判番号 | 不服2005-18838 |
総通号数 | 98 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-02-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-09-29 |
確定日 | 2008-01-10 |
事件の表示 | 特願2002-329344「燃料電池およびその燃料電池を搭載した携帯型電気機器」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月10日出願公開、特開2004-165002〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.本願発明 本願は、平成14年11月13日の出願であって、その発明は、平成17年7月19日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「燃料極および酸化剤極と、前記燃料極および前記酸化剤極の間に配設された固体電解質膜と、を含む燃料電池セルと、 前記酸化剤極で発生した水を前記燃料電池セルの外部に排出する排水部材と、 前記排水部材に、周辺部分において接合され、前記水を吸収して保持する保持部材と、 を含むことを特徴とする燃料電池。」 (以下、この発明を、「本願発明」という。) II.原審の拒絶理由の概要 原審における拒絶査定の理由の概要は、この出願の発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 III.引用刊行物の記載事項 原審において引用した刊行物である特開平5-283094号公報(以下、「引用刊行物」という。)の記載事項を、以下に摘示する。 [ア]「燃料極と、酸化剤極と、燃料極及び酸化剤極により挟持された固体高分子電解質とからなり、燃料極と酸化剤極のどちらか一方が水分を発生する電極(水分発生極)である燃料電池において、燃料極と酸化剤極とが水分通路で連結され、少なくとも通路の水分発生極に接する部分が水分浸透性を有する物質よりなることを特徴とする燃料電池。」(特許請求の範囲の請求項1) [イ]「例えば、電解質中を水素陽イオン(プロトン)が移動するタイプの燃料電池では燃料極(陰極、アノード)の乾燥が起こりやすく、特に有機燃料による直接発電の場合には水の消費も起こるのに対し、酸化剤極(陽極、カソード)側では水が生成するため、燃料極への水の補給や酸化剤極表面の水の除去が必要となる。・・・ 【発明が解決しようとする課題】以上のように燃料電池では両電極の水分バランスの制御が運転を正常に行わせる上で重要であり、・・・ 本発明は、このような複雑な水分制御なしに運転の行える燃料電池を提供するものである。」(【0006】?【0013】) [ウ]「本願において、水分発生極とは、燃料電池の運転時における燃料極または酸化剤極上での電極反応により水を生成する電極のことを示す。 つまり、プロトン導電性の電解質を用いた場合、・・・酸素極が電極反応により水を生成するため、酸化剤極が水分発生極となる。」(【0015】、【0016】) [エ]「本発明の燃料電池の構成は、積層された酸化剤極側と燃料極側が、電池セルの外部で、水分通路によって連結され、その通路を電極から発生した水分が水の毛管現象をはじめとする表面張力等の浸透作用で移動するところにその特徴がある。」(【0018】) [オ]「本発明の燃料電池の特徴である、酸化剤極と燃料極を結ぶ電池セルの外部の水分の通路は、水分が動力を用いずに移動できるものであればどの様なものであってもよいが、通常は、水分が表面張力等の浸透作用で移動できるような、多孔質体、毛細管、細い溝、親水表面、繊維、織物、吸水性ポリマー、これらの混合物等で構成される。」(【0022】) [カ]「これらの材料で構成される通路は、酸化剤極から燃料極まで同一材料で構成されてもよいが、部分的に異なった材料で構成されてもよい。 また通路は、これらの材料で酸化剤極から燃料極まで連続的に連結されてもよいが、不連続的、部分的にこれらの材料が用いられてもよい。・・・」(【0024】、【0025】) [キ]「図3は本発明の固体高分子電解質型の燃料電池の一実施様態を示す部分断面図・・・である。・・・ 図3において、積層した固体高分子電解質膜11の両側に、水素(燃料)極12、酸素(酸化剤)極13が形成されている。両極に沿ってそれぞれ水素(燃料)の通路14、酸素(空気)の通路15があり、これらは隔離板16によって分離されている。水素(燃料)および酸素(空気)は、それぞれ矢印A、Bの向きに各通路を流れる。また、各セルは、電気的に導通されている。 両極12、13に沿ってそれぞれ水分の通路となるフェノール樹脂製の多孔質体17、18が形成されている。・・・ 多孔質体が覆っている部分から、両極と多孔質体の間に水の授受が行われる。・・・ 多孔質体17、18は多孔質体の連結部19によって一体構造になっており、多孔質体の中を水は毛管現象により移動することができる。 燃料電池の運転中は、水は固体高分子電解質膜11を通って、水素(燃料)極12から酸素(酸化剤)極13へ流れる。流れた水および酸素(酸化剤)極13で反応により生成した水は、多孔質体18で吸い取られ、表面張力により19を通り、17に供給される。17から水は再び水素(燃料)極12に吸収され、固体高分子電解質膜11を通って循環する。」(【0057】?【0062】) [ク]「図5は本発明の固体高分子電解質型燃料電池の一実施様態を示す部分断面図である。・・・ 図5において、積層した固体高分子電解質膜11の両側に、水素(燃料)極12、酸素(酸化剤)極13が形成されている。・・・ 水素(燃料)極12に沿って水分の通路となるフェノール樹脂製の多孔質体17が形成されている。・・・ 多孔質体17は水受け部20の底に接しており、水受け部20の水を吸い上げることができる。水受け部20は酸素(酸化剤)極13で生成した水および流れ込んだ水が流れ落ち、蓄えられるようになっている。 燃料電池の運転中は、水は固体高分子電解質膜11を通って、水素(燃料)極12から酸素(酸化剤)極13へ流れる。流れた水および酸素(酸化剤)極13で反応により生成した水は、酸素(酸化剤)極13に沿って流れ落ち、水受け部20に蓄えられる。蓄えられた水は毛管現象により多孔質体17を通って矢印Cの方向に供給される。多孔質体17から水は再び水素(燃料)極12に吸収され、固体高分子電解質膜11を通って循環する。」(【0063】?【0068】) (図5には、酸化剤極13で生成した水が、酸化剤極に沿った空気の通路15を通って流れ落ちていることが示されている。) IV.当審の判断 1.刊行物発明の認定 引用刊行物の摘示[ア]には、「燃料極と、酸化剤極と、燃料極及び酸化剤極により挟持された固体高分子電解質とからなり、燃料極と酸化剤極のどちらか一方が水分を発生する電極(水分発生極)である燃料電池において、燃料極と酸化剤極とが水分通路で連結され、少なくとも通路の水分発生極に接する部分が水分浸透性を有する物質よりなることを特徴とする燃料電池」が記載されている。 そして、上記燃料電池について、摘示[ウ]には、「水分発生極とは、燃料電池の運転時における燃料極または酸化剤極上での電極反応により水を生成する電極のことを示す。つまり、プロトン導電性の電解質を用いた場合、・・・酸化剤極が水分発生極となる」と記載され、摘示[エ]には、「本発明の燃料電池の構成は、積層された酸化剤極側と燃料極側が、電池セルの外部で、水分通路によって連結され、その通路を電極から発生した水分が水の毛管現象をはじめとする表面張力等の浸透作用で移動するところにその特徴がある」と記載されている。 また、摘示[キ]には、上記燃料電池の一実施態様について、「積層した固体高分子電解質膜11の両側に、水素(燃料)極12、酸素(酸化剤)極13が形成されている。両極に沿ってそれぞれ水素(燃料)の通路14、酸素(空気)の通路15があり、これらは隔離板16によって分離されている」、「両極12、13に沿ってそれぞれ水分の通路となるフェノール樹脂製の多孔質体17、18が形成されている」、「多孔質体が覆っている部分から、両極と多孔質体の間に水の授受が行われる」、「多孔質体17、18は多孔質体の連結部19によって一体構造になっており、多孔質体の中を水は毛管現象により移動することができる」、「燃料電池の運転中は、水は固体高分子電解質膜11を通って、水素(燃料)極12から酸素(酸化剤)極13へ流れる。流れた水および酸素(酸化剤)極13で反応により生成した水は、多孔質体18で吸い取られ、表面張力により19を通り、17に供給される」、「17から水は再び水素(燃料)極12に吸収され、固体高分子電解質膜11を通って循環する」と記載されており、この実施態様において、隔離板16によって分離された、固体高分子電解質11、燃料極12、酸化剤極13を含む構成は、燃料電池の単位セルであるといえるし、連結部19は酸化剤極13に沿った部分の多孔質体18とその周辺部分で連結しているといえる。 以上の記載によると、引用刊行物には、次の発明が記載されているといえる。 「燃料極および酸化剤極と、前記燃料極および前記酸化剤極の間に配設された固体高分子電解質膜と、を含む燃料電池セルと、 前記燃料極から前記酸化剤極へ流れた水及び前記酸化剤極で反応により生成した水を吸い取る前記酸化剤極に沿った部分と、 前記部分の周辺部分において連結し前記水を通過させる連結部と、 前記連結部に連結し前記通過した水を前記燃料極へ供給する前記燃料極に沿った部分と、 からなる一体構造の水分通路と、 を含むことを特徴とする燃料電池」 (以下、この発明を「刊行物発明」という。)。 2.対比 本願発明(前者)と刊行物発明(後者)とを対比すると、後者の「水分通路」のうち、「酸化剤極に沿った部分」は、酸化剤極で発生した水を吸い取り、燃料電池セルの外部の連結部に排出する部分(以下、「排水部分」という。)といえるから、前者の「酸化剤極で発生した水を前記燃料電池セルの外部に排出する排水部材」に対応し、後者の「連結部」は、排水部分の周辺部分において連結される部分(以下、「連結部分」という。)である点で、前者の「保持部材」に対応する。 以上によると、両者は、 「燃料極および酸化剤極と、前記燃料極および前記酸化剤極の間に配設された固体電解質膜と、を含む燃料電池セルと、 前記酸化剤極で発生した水を前記燃料電池セルの外部に排出する排水部分と、 前記排水部分の周辺部分において連結される連結部分と、 を含むことを特徴とする燃料電池」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点:前者は、排水部分と連結部分とが、それぞれ「部材」であって「接合され」ており、連結部分が「(排水部分から排出された)水を吸収して保持する保持部材」であるのに対して、後者は、排水部分と連結部分とが一体構造であり、連結部分が排水部分から排水された水を通過させる部分である点 3.判断 引用刊行物の摘示[オ]には、水分通路について、「酸化剤極と燃料極を結ぶ電池セルの外部の水分の通路は、水分が動力を用いずに移動できるものであればどの様なものであってもよいが、通常は、水分が表面張力等の浸透作用で移動できるような、多孔質体、毛細管、細い溝、親水表面、繊維、織物、吸水性ポリマー、これらの混合物等で構成される」と、摘示[カ]には、「これらの材料で構成される通路は、酸化剤極から燃料極まで同一材料で構成されてもよいが、部分的に異なった材料で構成されてもよい」と記載されているところ、摘示[ク]には、摘示[キ]に記載の水分通路とは別の態様として、「酸化剤極に沿った部分」すなわち「排水部分」が空気の通路15であり、「連結部分」が水受け部20及び水受け部の水を吸い上げる多孔質体であり、「燃料極に沿った部分」が連結部分の多孔質体に連続する多孔質体17であるものが記載されている。 そうすると、摘示[カ]に記載の「部分的に異なった材料で構成されてもよい」とされる水分通路の部分が、例えば「排水部分」と「連結部分」とであることは、上記摘示[ク]に示唆されているといえるし、刊行物発明の水分通路における「排水部分」及び「連結部分」を異なった材料で構成することは、何ら阻害されていないから、刊行物発明における「排水部分」及び「連結部分」を異なる材料の別部材にて構成し、各部材を接合した水分通路とすることは、当業者が容易になし得る事項といえる。 そして、摘示[ク]には、「連結部分」を、水受け部及び多孔質体で構成することにより、酸化剤極で生成した水を蓄える機能を付加することも記載されているから、刊行物発明において、「連結部分」を、水を蓄える機能を有する材料として周知であり、摘示[エ]にも例示される吸水性ポリマー等よりなる部材とすることにより、「水を吸収して保持する保持部材」とすることも、当業者が容易になし得る設計的事項といえる。 なお、刊行物発明における、「連結部」と「燃料極に沿った部分」とを併せた部分を、「酸化剤極に沿った部分(排水部分)」の周辺部において連結される「連結部分」とみなして、本願発明の「保持部材」と対比することも可能である。 そして、その場合でも、刊行物発明の「酸化剤極に沿った部分(排水部分)」と「連結部分」とを、異なる材料からなる別部材とし、接合により一体化したものとすることが想到容易であることは、前述のとおりである。 また、刊行物発明の目的は、摘示[イ]の記載によると、乾燥し易い燃料極と過剰に水生成される酸化剤極間の水分バランスを制御することであるから、両極の水分バランスを保つために、乾燥し易い「燃料極に沿った部分」に水分を保持する機能を付加することは、当業者が容易に推考し得る事項である。 そうすると、刊行物発明の「酸化剤極に沿った部分(排水部分)」と「連結部分」(「連結部」と「燃料極に沿った部分」とを併せた部分)とを異なる材料の別部材にて構成して接合するとともに、「燃力極に沿った部分」を含む「連結部分」を、水を蓄える材料として周知であり、摘示[エ]にも例示の吸水性ポリマー等の材料として、「水を吸収して保持する保持部材」とすることも、当業者が容易になし得る設計的事項といえる。 V.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-11-08 |
結審通知日 | 2007-11-13 |
審決日 | 2007-11-27 |
出願番号 | 特願2002-329344(P2002-329344) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小川 武 |
特許庁審判長 |
鈴木 由紀夫 |
特許庁審判官 |
坂本 薫昭 吉水 純子 |
発明の名称 | 燃料電池およびその燃料電池を搭載した携帯型電気機器 |
代理人 | 下坂 直樹 |
代理人 | 谷澤 靖久 |
代理人 | 机 昌彦 |