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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04M
管理番号 1170564
審判番号 不服2007-5045  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-15 
確定日 2008-01-10 
事件の表示 特願2005- 80472「携帯電話装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日出願公開、特開2005-253097〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成6年3月11日に出願した特願平6-40729号の一部を平成17年3月18日に分割して新たな特許出願としたものであって(国内優先権主張 平成5年6月29日)、平成19年1月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年3月14日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[結論]
平成19年3月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を、

「送信部及び受信部を備える携帯電話装置において、
受話音量を手動調整する音量調整ボリュームと、
上記送信部に送話音声入力が無いときに送話用マイクロフォンに入力される音声レベルを雑音レベルとして検出する雑音レベル検出手段と、
使用者が上記音量ボリュームを手動調整する直前に検出した雑音レベルと該受話音量のレベルとの対応関係を記憶する記憶手段と、
上記雑音レベル検出手段で検出された雑音レベルに応じて受話音量を制御する制御手段とを有し、
上記制御手段は、検出した雑音レベルと、上記記憶手段に記憶された雑音レベルと受話音量のレベルとの上記対応関係とに基づいて音量制御し、
上記雑音レベル検出手段は、キー操作による送信通話用電源オン直後に上記送信部の上記送話用マイクロフォンに入力される音声レベルを検出することを特徴とする携帯電話装置。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである(下線は補正により変更された部分を示す。)。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「送信通話用電源オン」が「キー操作による」ものであることに限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

3.1 補正後の発明
上記「1.補正後の本願発明」の項で認定したとおりである。

3.2 引用発明
A.原審の拒絶の理由に引用された特開平4-82331号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

A1.
「【産業上の利用分野】
この発明は、受話音量の自動設定機能を備えた携帯電話機に関するものである。」(第1頁右下欄第6?8行)、

A2.
「【発明が解決しようとする課題】
従来の携帯電話機は以上のように構成されているので、移動によって使用環境が変化する度に、キーパッド8のボリュームアップスイッチやボリュームダウンスイッチを毎回操作して受話音量を調整しなければならず、取り扱いが煩雑になるという課題があった。
この発明は上記のような課題を解消するためになされたもので、それぞれの使用環境に最適な受話音量を自動的に設定することのできる携帯電話機を得ることを目的とする。」(第2頁左下欄第7?17行)、

A3.
「【実施例】
以下、この発明の一実施例を図にそって説明する。第1図において、1は無線部、2はアンテナ、3はハンドセットのスピーカ、4はオーディオプロセッサ、5は制御部としてのCPU、6はROM、7はRAM、8はキーパッド、9は表示部、10はバッテリ、51は音量設定部であり、第5図に同一符号を付した従来のそれらと同一、あるいは相当部分であるため詳細な説明は省略する。
12は当該携帯電話機の周囲の背景雑音を検出する雑音センサであり、例えば背景雑音のみを集音するための専用マイクロフォンが用いられている。
52は前記キーパッド8からの信号によって背景雑音レベルの閾値が設定される閾値設定部であり、53はこの閾値設定部52に設定された閾値と雑音センサ12にて検出された背景雑音とを比較し、その比較結果を受話音量調節信号として前記音量設定部51に供給する比較部である。54はキーパッド8からの信号によって作動し、この比較部53からの受話音量調節信号とキーパッド8から入力された受話音量調節信号との切り換えを行う切換部である。これらは音量設定部51と同様に、例えば前記CPU5内にプログラムによって実現されている。
また、第2図はそのキーパッド8の外観を示す正面図である。図において、81は通信相手の電話番号が入力されるダイヤルスイッチ、82は閾値設定部52に設定された閾値をクリアする時に操作するクリアスイッチ、83は閾値設定部52に閾値を設定する時に操作するセットスイッチ、84は自動的に受話音量を調整したい時に操作する自動受話音量スイッチであり、85はこれらによって構成されるダイヤルスイッチ部である。
また、86および87は前記閾値の入力、あるいは受話音量調整を手動で行う場合に用いられるボリュームアップスイッチおよびボリュームダウンスイッチである。
次に動作について説明する。まず、閾値設定部52への閾値の設定について説明する。まずクリアスイッチ82を押下して閾値設定部52の内容をクリアする。次いで、セットスイッチ83を押下した後、ボリュームアップスイッチ86あるいはボリュームダウンスイッチ87を操作して第1の閾値を入力する。次にセットスイッチ83を再度押下すれば、入力された第1の閾値が閾値設定部52に設定される。次に、第2の閾値についても同様の方法で閾値設定部52に設定する。この場合、第2の閾値は第1の閾値より高レベルであるものとする。
・・・(中略)・・・
次に、このようにして閾値の設定された携帯電話機に着呼があった場合、あるいは当該携帯電話機から発呼する場合の受話音量の調整について説明する。ここで、第3図はその動作の手順を示すフローチャートである。
使用者は受話音量を自動的に調整したい場合、発呼時には自動受話音量スイッチ84を押下してからダイヤルスイッチ81によるダイヤルを開始し、着呼時には自動受話音量スイッチ84を押下してからフックアップする。CPU5はまずステップST1にてその自動受話音量スイッチ84のオン/オフをチェックする。その結果、自動受話音量スイッチ84がオンであるため処理をステップST2に渡す。
ステップST2では、雑音センサ12が検出した当該携帯電話機の使用環境の背景雑音を、閾値設定部52に設定されている第1の閾値と比較部53で比較する。その結果、検出された背景雑音のレベルが第1の閾値より小さければ、ステップST3にて小音量セットを指示する受話音量調整信号を発生する。また、検出された背景雑音のレベルが第1の閾値以上であれば、ステップST4にてそれを第2の閾値と比較する。その結果、それが第2の閾値より小さければステップST5で中音量セットを指示する受話音量調整信号を、第2の閾値以上であればステップST6で大音量セットを指示する受話音量調整信号を生成する。
このようにして生成された受話音量調整信号は、切換部54を経て音量設定部51に転送される。音量設定部51はこの受話音量調節信号に応動して作動し、無線部1を介してオーディオプロセッサ4内のコントローラに指示して受話音量の制御を実行させる。これによって、レシーバ3からはその使用環境の背景雑音に対応した受話音量で、通信相手の音声が出力される。この時、現在のボリュームレベルを使用者に知らせるため、大,中,
小のどの音量がセットされているかが表示部9に表示される。
なお、発呼時あるいは着呼時に自動受話音量スイッチ84を押下しなかった場合には、処理はステップST1から直接リターンされ、キーパッド8のボリュームアップスイッチ86およびボリュームダウンスイッチ87からの受話音量調節信号が切換部54を介して音量設定部51に送られ、従来と同様の手動による受話音量の調節を行うことが可能となる。また、自動受話音量スイッチ84を押下した後にボリュームアップスイッチ86あるいはボリュームダウンスイッチ87を操作した場合、その止めた位置が記憶されて閾値が更新される。」(第2頁右下欄第14行?第4頁左上欄第20行)、

A4.
「なお、上記実施例では、専用マイクロフォン等による雑音センサで背景雑音を検出するものを示したが、この雑音センサとしてハンドセットの通話用のマイクロフォンに接続されたスピーチコーデックを利用してもよく、このスピーチコーデックによって背景雑音を計算すれば、受話音量をアダプティブに設定することができる。
第4図はそのような実施例を示すブロック図であり、第1図と同一部分には同一符号を付して説明の重複をさけている。図において、11はハンドセットのマイクロフォンであり、13はこのマイクロフォン11に接続されたスピーチコーデックである。
このスピーチコーデック13はマイクロフォン11より入力された背景雑音を含んだ信号より背景雑音を解析し、それをCPU5の比較部53に転送する。以下、第1図に示す実施例の場合と同様にして、音量設定部51はその背景雑音レベルに対応した受話音量調節信号をもとに、無線部1を介してオーディオプロセッサ4内のコントローラに指示して受話音量の制御を実行させる。
さらに、上記実施例のスピーチコーデック13を割愛して、ハンドセットの通話用のマイクロフォン11からの信号より背景雑音を直接検出するようにしてもよく、上記実施例と同様の効果を奏する。」(第4頁右上欄第1行?左下欄6行)。

上記摘記事項A3において、「無線部1」は、送信部及び受信部を有していることは明らかであり、
上記摘記事項A4には、雑音検出を行うマイクロフォンとして、「ハンドセットの通話用のマイクロフォン11」を用い、「ハンドセットの通話用のマイクロフォン11」に入力される信号から背景雑音を検出することが記載されており、
上記摘記事項A3及び第3図のフローによると、比較部53及び音量設定部51は、検出した背景雑音と、第1の閾値及び第2の閾値で区分される背景雑音と受話音量のレベル(大、中、小)との対応関係とに基づいて音量を制御するものである。
また、上記摘記事項A3中に、「また、自動受話音量スイッチ84を押下した後にボリュームアップスイッチ86あるいはボリュームダウンスイッチ87を操作した場合、その止めた位置が記憶されて閾値が更新される。」(第4頁左上欄第16?20行)と記載されているように、引用例1には、第1の閾値及び第2の閾値が記憶されている状態で、使用者がボリュームアップスイッチ86及びボリュームダウンスイッチ87を操作すると、新しい閾値が記憶され更新されることが記載されており、引用例1には、使用者がボリュームアップスイッチ86及びボリュームダウンスイッチ87を手動調整する直前の背景雑音と受話音量のレベルとの対応関係を規定する閾値を記憶している記憶手段を有していることが開示されている。

したがって、上記引用例1の記載及び添付図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「送信部及び受信部を備える携帯電話機において、
受話音量調節を手動で行うボリュームアップスイッチ86及びボリュームダウンスイッチ87と、
ハンドセットの通話用のマイクロフォン11に入力される信号から背景雑音を検出する背景雑音の検出手段と、
使用者が上記ボリュームアップスイッチ86及びボリュームダウンスイッチ87を手動調整する直前の背景雑音と受話音量のレベルとの対応関係を規定する閾値を記憶している記憶手段と、
上記背景雑音の検出手段で検出された背景雑音に応じて受話音量を制御する比較部53及び音量設定部51とを有し、
上記比較部53及び音量設定部51は、検出した背景雑音と、第1の閾値及び第2の閾値で区分される背景雑音と受話音量のレベルとの対応関係とに基づいて音量制御する携帯電話機。」

B.原審の拒絶の理由に引用された実願平3-50922号(実開平5-6954号)のCD-ROM(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

B1.
「 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は自動音量調整機能付き電話機に関し、特に環境の音量に基づいて自動的に、呼出し音量、スピーカ音量及び受話音量を最適な音量に調整する自動音量調整機能付き電話機に関するものである。」(第5頁、段落【0001】)、

B2.
「 【0009】
【考案が解決しようとする課題】
上記のような電話機においては、受話音量、スピーカ音量、呼出し音量等を周囲の環境に応じて、手動で設定しているので、周囲の環境が変化し、手動で設定した音量が妥当でなくなった場合は、再び手動で適切な音量を設定しなければならないという問題点があった。」(第6頁、段落【0009】)、

B3.
「 【0022】
【実施例】
図1は本考案の自動音量調整機能付き電話機電話機の概略構成図である。図において、16及び18は図5と同様なものであり、20は外部の回線に接続されたモジュラージヤック、22は送受話回路であり、モジュラージャック20を介して回線と電気的に接続状態となり、オンフック時又は呼出し状態時には通話状態と判定し、通話状態信号を出力すると共に、後述する着信(呼出し)音量調整回路に着信(呼出し)信号線L1を介して出力し、また使用者がオンフックした場合は、相手側からの受話信号を後述する受話音量調整回路に出力し、さらにスピーカONボタンが押された場合は、相手側からの受話信号をスピーカ音量調整回路に出力するものである。
【0023】
また、通話状態でない場合は未通話状態信号を出力するものである。23は周囲からの音声を音声信号に変換して環境音信号として出力するマイクである。
【0024】
24は環境音平滑回路であり、送受話回路22から未通話状態信号が入力している場合は、マイク23からの音声信号を所定時間受付け、所定の区間後との音声信号のレベルを時間軸方向に平滑し、そのレベル値(以下環境音量データという)を後述する判定回路に出力すると共に保持し、また所定時間経過すると再び所定時間受付けて音声信号のレベル値を求めて出力すると共に、前回保持したレベル値を更新し、さらに通話状態信号が入力すると、マイクからの音声信号を無視し、環境音量データの更新を中止して、前回の環境音量データを保持するものである。
【0025】
25は音量記憶回路であり、予め環境音量データのレベル値から最適な音量を選択するために、環境音量データに対する下限音量値及び上限音量値が記憶され、並びにその音量値に対応させて、着信(呼出し)音量、スピーカ音量、受話音量の組合わせの大小がテーブルメモリに記憶され、後述する判定回路からの音量比較データ要求信号が入力する毎にテーブルメモリから下限音量値、上限音量値、着信(呼出し)音量、スピーカ音量、受話音量(以下総称して音量比較データという)の順に出力するものである。
【0026】
26は判定回路部であり、環境音平滑回路24からの環境音量データが入力すると、音量記憶回路25に対して音量比較データ要求信号を出力して、テーブルメモリに記憶されている音量比較データを出力させ、その下限音量値、上限音量値及び環境音量の関係を判定し、その判定結果に基づく、着信(呼出し)音量を着信(呼出し)音量調整回路に出力し、スピーカ音量をスピーカ音量調整回路に出力し、受話音量を受話音量調整回路に出力するものである。
【0027】
27は受話音量調整回路であり、判定回路25からの受話音量に基づいて、受話器16から発生する相手側の音声の音量を調整するものである。
【0028】
28はスピーカ音量調整回路であり、判定回路25からのスピーカ音量に基づいて、スピーカ18から発生する場合の相手側の音声の音量を調整するものである。
【0029】
29は着信(呼出し)音量調整回路であり、判定回路25からの着信(呼出し)音量に基づいて、スピーカ18から発生する着信(呼出し)音量を調整するものである。
【0030】
図2は音量記憶回路のテーブルメモリを説明する図である。図において、31は静かな環境時における環境音量データの下限音量値が記憶される下限音量記憶領域、32は静かな環境時における環境音量の上限音量値が記憶される上限音量記憶領、33は着信(呼出し)音量が記憶される着信(呼出し)音量記憶領域、34はスピーカ音量が記憶されるスピーカ音量記憶領域、35は受話音量が記憶される受話音量記憶領域である。また、この5つのデータが記憶される欄をフィールドという。
【0031】
この、第1のフィルードでは、例えば環境音量データが中程度の場合におけるスピーカ音量、受話音量及び着信(呼出し)音量を設定するとし、環境音量データの下限音量値を9.00dB、上限音量値を17.00dBとし、着信(呼出し)音量を“中”、スピーカ音量を“中”、受話音量を“中”としたものである。 第2のフィールドでは、例えば環境音量データが高い場合における前記音量を設定するとし、下限音量値を17.00dB、上限音量値を20.00dBとし、着信(呼出し)音量を“中”、スピーカ音量を“中”、受話音量を“中”としたものである。
【0032】
第k-1のフィールドでは、下限音量値を23.00dB、上限音量値を7.30dBとし、着信(呼出し)音量を“大”、スピーカ音量を“大”、受話音量を“大”とし、このフィールドでは特別の場合を示し、受話器16が故障して下限音量を高く求めたしまった場合の音量の設定を示すものである。
【0033】
第kのフィールドでは、環境音量データが低い場合における前記音量を設定するとし、下限音量値を7.30dB、上限音量値を9.00dBとし、着信(呼出し)音量を“小”、スピーカ音量を“小”、受話音量を“小”としたものである。」(第9?11頁、段落【0022】?段落【0033】)。

上記摘記事項B3中、段落【0023】には、「通話状態でない場合は未通話状態信号を出力するものである。」と記載され、段落【0024】には、「送受話回路22から未通話状態信号が入力している場合は、マイク23からの音声信号を所定時間受付け、・・・そのレベル値(以下環境音量データという)を後述する判定回路に出力するとともに保持し、・・・前回保持したレベル値を更新し」と記載されている。これらの記載において、送受話回路22から未通話状態信号が入力している「通話状態でない場合」は、送受話回路22に送話音声入力が無い状態であり、この状態において、マイク23に入力される音声信号のレベルが雑音レベル(環境音量データ)として検出されている。
したがって、上記引用例2の記載、及びこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例2には、「自動音量調整機能付き電話機において、送受話回路に送話音声入力が無いときにマイクロフォンに入力される音声レベルを雑音レベルとして検出する」こと(以下、「引用発明2」という。)が開示されている。

また、上記摘記事項B3(段落【0030】)及び図2によると、「音量記憶回路25」は、「環境音量データに対する下限音量値及び上限音量値と受話音量値との対応関係」を記憶した記憶手段であるから、上記引用例2の記載、及びこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例2には、「自動音量調整機能付き電話機において、雑音レベルと受話音量のレベルとの対応関係を記憶手段に記憶しておく」こと(以下、「引用発明3」という。)が開示されている。

3.3 対比
補正後の発明と引用発明1とを対比する。
a.引用発明1の「携帯電話機」は「携帯電話装置」である。
b.引用発明1の「受話音量調節を手動で行うボリュームアップスイッチ86及びボリュームダウンスイッチ87」は、受話音量の手動調節を行う音量調整用のボリュームであるから、補正後の発明の「受話音量を手動調整する音量調整ボリューム」に相当する。
c.引用発明1の「ハンドセットの通話用のマイクロフォン11」は「送話用マイクロフォン」に他ならず、引用発明1の「背景雑音」は送話用マイクロフォンに入力される音声レベルを雑音レベルとして検出したものであるから、引用発明1の「ハンドセットの通話用のマイクロフォン11に入力される信号から背景雑音を検出する背景雑音の検出手段」は、送話用マイクロフォンに入力される音声レベルを雑音レベルとして検出する雑音レベル検出手段ということができる。
d.引用発明1の「比較部53及び音量設定部51」と、補正後の発明の「制御手段」とは、「雑音レベル検出手段で検出された雑音レベルに応じて受話音量を制御する制御手段」である点で差異はなく、また、引用発明1の「上記比較部53及び音量設定部51は、検出した背景雑音と、第1の閾値及び第2の閾値で区分される背景雑音と受話音量のレベルとの対応関係とに基づいて音量制御する」という点と、補正後の発明の「上記制御手段は、検出した雑音レベルと、上記記憶手段に記憶された雑音レベルと受話音量のレベルとの上記対応関係とに基づいて音量制御」する点は、「上記制御手段は、検出した雑音レベルと、雑音レベルと受話音量のレベルとの対応関係とに基づいて音量制御する」点で一致する。

したがって、補正後の発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「送信部及び受信部を備える携帯電話装置において、
受話音量を手動調整する音量調整ボリュームと、
送話用マイクロフォンに入力される音声レベルを雑音レベルとして検出する雑音レベル検出手段と、
上記雑音レベル検出手段で検出された雑音レベルに応じて受話音量を制御する制御手段とを有し、
上記制御手段は、検出した雑音レベルと、雑音レベルと受話音量のレベルとの対応関係とに基づいて音量制御する携帯電話装置。」

(相違点1)
雑音レベル検出手段が送話用マイクロフォンに入力される音声レベルを(雑音レベルとして)検出するタイミングに関して、補正後の発明が、「上記送信部に送話音声入力が無いとき」であって、「キー操作による送信通話用電源オン直後に」検出するのに対し、引用発明1が、いかなるタイミングで検出しているのか不明な点。

(相違点2)
補正後の発明は、「使用者が上記音量ボリュームを手動調整する直前に検出した雑音レベルと該受話音量のレベルとの対応関係を記憶する記憶手段」を有しており、制御手段の音量制御が、「検出した雑音レベルと、上記記憶手段に記憶された雑音レベルと受話音量のレベルとの上記対応関係とに基づいて」行われるのに対し、引用発明1は、「上記記憶手段」を有しておらず、制御手段の音量制御が、「検出した雑音レベルと、雑音レベルと受話音量のレベルとの対応関係とに基づいて」行われるものの、「上記記憶手段に記憶された雑音レベルと受話音量のレベルとの上記対応関係」に基づいて行われていない点。

3.4 判断

(相違点1)について
上記「3.2 引用発明」の「B.」の項で記載したように、上記引用例2には、「自動音量調整機能付き電話機において、送受話回路に送話音声入力が無いときにマイクロフォンに入力される音声レベルを雑音レベルとして検出する」こと(引用発明2)が開示されている。
上記引用発明1と引用発明2とは、自動で音量調整する電話機に関するという点で共通し、引用発明2を引用発明1に適用することに阻害要因も見あたらないから、引用発明1において引用発明2を採用し、雑音レベルを検出するタイミングを、「送信部に送話音声入力が無いとき」とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記「送信部に送話音声入力が無いとき」としては、いくつかのタイミングが考えられるが、より精度の高い雑音レベルの検出は、雑音のみが存在する時であって、電話を実際に使用するタイミングで行うのが良いことは明らかであるから、雑音のみが存在し、使用者が通話を開始するタイミングとして、当業者に周知な「キー操作による送信通話用電源オン直後に」雑音検出するように構成することは、当業者が適宜選択しうる事項である。

(相違点2)について
上記「3.2 引用発明」の「A.」の項で記載したように、引用発明1は、「使用者がボリュームアップスイッチ86及びボリュームダウンスイッチ87を手動調整する直前の背景雑音と受話音量のレベルとの対応関係を規定する閾値を記憶している記憶手段」を有しており、上記「3.2 引用発明」の「B.」の項で記載したように、引用例2には、「自動音量調整機能付き電話機において、雑音レベルと受話音量のレベルとの対応関係を記憶手段に記憶しておく」こと(引用発明3)が開示されている。
上記引用発明1と引用発明3とは、自動で音量調整する電話機に関するという点で共通し、引用発明3を引用発明1に適用することに阻害要因も見あたらないから、引用発明1において引用発明3を採用し、「使用者がボリュームアップスイッチ86及びボリュームダウンスイッチ87を手動調整する直前の背景雑音と受話音量のレベルとの対応関係を規定する閾値」を記憶するのに代えて、「使用者が上記音量ボリュームを手動調整する直前に検出した雑音レベルと該受話音量のレベルとの対応関係を記憶する記憶手段」を設けてみることは当業者が容易に想到し得ることである。
その際、制御手段の音量制御は、「検出した雑音レベルと、上記記憶手段に記憶された雑音レベルと受話音量のレベルとの上記対応関係とに基づいて」行われるものとなることは明らかである。

上記相違点1,2の判断に加え、補正後の発明が奏する作用効果は、上記引用例に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

以上のとおりであるから、補正後の発明は、上記引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は補正後の発明が独立特許要件を満たしていないので、平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定において準用する特許法第126条第5項の規定に適合しないから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願について
1.本願発明
平成19年3月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年12月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「送信部及び受信部を備える携帯電話装置において、
受話音量を手動調整する音量調整ボリュームと、
上記送信部に送話音声入力が無いときに送話用マイクロフォンに入力される音声レベルを雑音レベルとして検出する雑音レベル検出手段と、
使用者が上記音量ボリュームを手動調整する直前に検出した雑音レベルと該受話音量のレベルとの対応関係を記憶する記憶手段と、
上記雑音レベル検出手段で検出された雑音レベルに応じて受話音量を制御する制御手段とを有し、
上記制御手段は、検出した雑音レベルと、上記記憶手段に記憶された雑音レベルと受話音量のレベルとの上記対応関係とに基づいて音量制御し、
上記雑音レベル検出手段は、送信通話用電源オン直後に上記送信部の上記送話用マイクロフォンに入力される音声レベルを検出することを特徴とする携帯電話装置。」

2.引用発明と周知技術
引用例に記載された発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の「3.2 引用発明」及び「3.4 判断」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と補正後の発明とを対比すると、本願発明は、上記補正後の発明の「キー操作による送信通話用電源オン」から「キー操作による」という限定を削除し、「送信通話用電源オン」に上位概念化したものである。
そうすると、本願発明の構成をすべて含み、更に限定されたものに相当する補正後の発明が、上記「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、上記引用例に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明できたものである。

4.結語
以上のとおり、本願発明は、上記引用例に記載された発明ならびに上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-06 
結審通知日 2007-11-13 
審決日 2007-11-27 
出願番号 特願2005-80472(P2005-80472)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04M)
P 1 8・ 575- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石澤 義奈生戸次 一夫  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 梶尾 誠哉
北村 智彦
発明の名称 携帯電話装置  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 小池 晃  
代理人 田村 榮一  

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