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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 H02M 審判 一部無効 1項3号刊行物記載 H02M |
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管理番号 | 1171273 |
審判番号 | 無効2007-800059 |
総通号数 | 99 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-03-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2007-03-26 |
確定日 | 2007-11-26 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3666680号発明「電力変換装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)本件特許第3666680号(以下、「本件特許」という。)に係る発明についての出願は、平成7年2月14日に特許出願されたものであって、平成17年4月15日に本件特許の設定登録がなされたものである。 (2)これに対して、請求人は、本件特許の請求項8ないし11に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して、又は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して、それぞれ特許されたものである旨主張している。 (証拠方法) 甲第1号証:特開平3-261877号公報 (3)一方、被請求人は、平成19年6月15日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。当該訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、即ち、以下の訂正事項aないしfのとおりに訂正しようとするものである。 ・訂正事項a 請求項8記載の「前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段」を「前記電力変換装置が運転中と判断された場合の前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段」に訂正する。 ・訂正事項b 請求項8記載の「期待寿命が記憶された保守管理情報記憶手段」を「期待寿命および使用期限情報が記憶された保守管理情報記憶手段」に訂正する。 ・訂正事項c 請求項8記載の「総実質劣化量が期待寿命を上回ると、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段」を「総実質劣化量が期待寿命を上回る場合および使用期限が経過する場合、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段」に訂正する。 ・訂正事項d 請求項10記載の「前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段」を「前記電力変換装置が運転中と判断された場合の前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段」に訂正する。 ・訂正事項e 請求項10記載の「期待寿命が記憶された保守管理情報記憶手段」を「期待寿命および使用期限情報が記憶された保守管理情報記憶手段」に訂正する。 ・訂正事項f 請求項10記載の「総実質劣化量が期待寿命を上回ると、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段」を「総実質劣化量が期待寿命を上回る場合および使用期限が経過する場合、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段」に訂正する。 2.訂正の適否に対する判断 (1)これらの訂正事項について検討する。 上記訂正事項a及びdの訂正は、特許請求の範囲の請求項8及び10の「算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段」に「電力変換装置が運転中と判断された場合の」という限定事項を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、この訂正は、特許明細書の段落【0033】の「ステップS6では、前記劣化加減速要因検出手段1によって検出された印加電圧値あるいは負荷電流値等に基づいて、当該電力変換装置が運転中であるか否かが判定される。ここで、運転中と判定されると、ステップS7では、当該デバイスに関する温度データTinが実質劣化量算定手段2の実質運転時間算定手段21に取り込まれる。」なる記載及び図2に示されたステップの内容に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされる訂正である。 つぎに、上記訂正事項b及びeの訂正は、特許請求の範囲の請求項8及び10の「期待寿命が記憶された保守管理情報記憶手段」を「期待寿命および使用期限情報が記憶された保守管理情報記憶手段」と限定するためのものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、この訂正は、特許明細書の段落【0028】の「「期待寿命(T0 にて)」は、当該デバイスを基準温度T0 (例えば、30℃)で使用した際の寿命(時間)である。「期待寿命(ΔT0 にて)」は、当該デバイスを基準温度差ΔT0 (例えば、30℃)で使用した際の寿命(温度の変動回数)である。」なる記載、段落【0029】の「「使用期限」は、製造後からの使用期限である。」なる記載及び図4に示された保守管理情報に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされる訂正である。 さらに、上記訂正事項c及びfの訂正は、特許請求の範囲の請求項8及び10の「総実質劣化量が期待寿命を上回ると、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段」を「総実質劣化量が期待寿命を上回る場合および使用期限が経過する場合、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段」と訂正するものである。 かかる訂正は、訂正後の請求項8及び10に係る発明において、「劣化を加減速させる要因の物理量を検出する手段」、「実質劣化量を算定する手段」、「総実質劣化量を算定する手段」、「総実質劣化量を期待寿命と比較する手段」及び「寿命を使用者に通知する手段」を必須の構成として具備し、さらに、上記訂正事項b及びeの訂正による「期待寿命および使用期限情報が記憶された保守管理情報記憶手段」をも必須の構成として具備するものであることを踏まえれば、「総実質劣化量が期待寿命を上回る場合」はもとより、「使用期限が経過する場合」であっても、寿命を使用者に通知し得るように対処したものと解されるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、この訂正は、特許明細書の段落【0035】の「ステップS10では、前記総実質運転時間ΣLTと期待寿命(本実施例では、10万時間)とが比較手段4において比較され、総実質運転時間ΣLTが期待寿命を上回っていると、ステップS30では、当該デバイスの交換を促す旨のメッセージが表示手段5の表示画面上に表示される。」なる記載、段落【0041】の「総実質変動回数ΣMが期待寿命を下回っており、余寿命があると判定されると、ステップS31において、さらに実使用年月(=現在年月-製造年月)と使用期限とが比較され、実使用年月が使用期限を越えていると、前記と同様に当該処理はステップS30へ進み、当該部品の交換を促す旨のメッセージが表示される。」なる記載及び図2、図3に示されたステップの内容に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされる訂正である。 なお、請求人は、平成19年10月10日に実施された口頭審理において、上記訂正事項c及びfの訂正における「および」が「又は」の意味であれば、当該訂正は拡張・変更になる旨主張している。 しかしながら、当該訂正によれば、寿命を使用者に通知する条件として、単に「総実質劣化量が期待寿命を上回る場合」と「使用期限が経過する場合」のいずれか一方のみを含みその他方を含まないものが除外されていることは明らかであるから、請求人の上記主張は採用できない。 そして、上記いずれの訂正事項による訂正も、残存寿命が予め設定した値以下になった場合に、部品あるいはユニットの交換を促す機能を有する電力変換装置を提供するという課題に変更を及ぼすものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 (2)したがって、平成19年6月15日付けの訂正は、平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書の規定及び同条第5項において準用する同法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.無効理由に対する判断 (1)請求項8ないし11に係る発明 訂正後の請求項8ないし11に係る発明(以下、「本件発明8」ないし「本件発明11」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項8ないし11に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項8】 直流を交流、交流を直流、交流を交流に変換する電力変換装置において、 運転による装置自身およびその構成部品の劣化を加減速させる要因の物理量を検出する手段と、 前記検出された劣化加減速要因の物理量に基づいて、当該装置の実質劣化量を算定する手段と、 前記電力変換装置が運転中と判断された場合の前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段と、 少なくとも装置およびその構成部品ごとの期待寿命および使用期限情報が記憶された保守管理情報記憶手段と、 前記総実質劣化量を期待寿命と比較する手段と、 総実質劣化量が期待寿命を上回る場合および使用期限が経過する場合、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段とを具備し、 前記寿命を通知する手段は、寿命と判断された装置自身またはその構成部品名を表示することを特徴とする電力変換装置。」(本件発明8) 「【請求項9】 前記実質劣化量を算定する手段は、前記検出された劣化加減速要因の物理量の変動量に基づいて実質変動回数を算定し、前記総実質劣化量を算定する手段は、前記算定された実質変動回数を積算することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の電力変換装置。」(本件発明9) 「【請求項10】 直流を交流、交流を直流、交流を交流に変換する電力変換装置において、 運転による装置自身およびその構成部品の劣化を加減速させる要因の物理量を検出する手段と、 前記検出された劣化加減速要因の物理量に基づいて、当該装置の実質劣化量を算定する手段と、 前記電力変換装置が運転中と判断された場合の前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段と、 少なくとも装置およびその構成部品ごとの期待寿命および使用期限情報が記憶された保守管理情報記憶手段と、 前記総実質劣化量を期待寿命と比較する手段と、 総実質劣化量が期待寿命を上回る場合および使用期限が経過する場合、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段とを具備し、 前記実質劣化量を算定する手段は、前記検出された劣化加減速要因の物理量の変動量に基づいて実質変動回数を算定し、前記総実質劣化量を算定する手段は、前記算定された実質変動回数を積算することを特徴とする電力変換装置。」(本件発明10) 「【請求項11】 前記実質変動回数を算定する手段は、検出された変動量が大きいほど実質変動回数を多く算定することを特徴とする請求項9または10に記載の電力変換装置。」(本件発明11) (2)甲第1号証 一方、請求人の提出した甲第1号証(特開平3-261877号公報)には、図面と共に、下記の事項が記載されている。 ・「この発明は、電動機の速度制御に用いられるインバータ装置のメンテナンスに関するものである。」(2頁左上欄8?10行) ・「インバータ主回路の整流素子、平滑コンデンサ、半導体スイッチング素子等の部品の寿命は、周囲温度と使用条件により大きく左右される。・・・この発明はかかる従来の課題を解決するためになされたもので、インバータ主回路の整流素子、平滑コンデンサ、半導体スイッチング素子の寿命時期を推定し、寿命時期に達した部品を表示することができ、故障を未然に防ぐことのできるインバータ装置を提供することを目的とするものである。」(2頁右上欄3?19行) ・「第1図から第8図までの各図はいずれもこの発明の一実施例を示し、その第1図はインバータ装置の回路構成図である。同図において、1は整流素子、2は平滑コンデンサ、3は半導体スイッチング素子で、これらによりインバータ装置の主回路が構成されている。半導体スイッチング素子3は、例えばトランジスタ4と還流ダイオード5とをそれぞれ逆並列に接続してなる6本のアームから3相形に構成され、負荷の誘導電動機6を可変速運転させることができる。7は電流検出回路で、インバータ装置の直流電源ラインに例えばホール素子により構成した電流検出部材7aを設けてなり、主回路の電流を検出する。10は整流素子1及び半導体スイッチング素子3を冷却する放熱フィン11の温度を検出する温度検出素子I、12は平滑コンデンサ2の周囲温度を検出する温度検出素子IIで、それぞれ例えばサーミスタなどの感熱素子により構成されている。 8はマイクロコンピュータ(以下マイコンと略称する)を含む制御回路で、半導体スイッチング素子3を駆動するベースドライブ回路9へ信号を送り、半導体スイッチング素子3を制御し、誘導電動機6を可変速運転させるとともに、電流検出回路7により主回路に流れる電流値を入力し、また温度検出素子I10により放熱フィン11の温度を、温度検出素子II12により平滑コンデンサ2の周囲温度をそれぞれ入力する。13は表示手段で、例えばLEDにより構成され、インバータ装置の運転状態(例えば運転周波数など)を表示するとともに、寿命に達し交換を要する部品があればそれを表示する。14は停電時でも記憶されたデータが消失することのないように、例えばEEPROMで構成された不揮発性の記憶回路である。 第2図は制御回路8のマイコンに内蔵されたプログラムの寿命推定手段の構成図で、同図における23は整流素子温度推定手段である。これは電流検出回路7より電流入力手段20によって入力した電流値Iと、温度検出素子I10より放熱フィン温度入力手段21によって入力した放熱フィン11の温度THsより整流素子1のジャンクション温度TDjを推定する。24は半導体スイッチング素子温度推定手段で、電流値Iと温度THsより半導体スイッチング素子3のジャンクション温度TDjを推定する。26は整流素子運転履歴演算手段、27は半導体スイッチング素子運転履歴演算手段、28は平滑コンデンサ運転履歴演算手段で、それぞれ整流素子1、半導体スイッチング素子3、平滑コンデンサ2の消耗の度合いを演算する。25は運転履歴記憶手段で、整流素子運転履歴演算手段26、半導体スイッチング素子運転履歴演算手段27、平滑コンデンサ運転履歴演算手段28で演算した結果を、例えば停電等の時でも消失することのないように記憶する。即ち、停電を検出したときには所定時間毎に演算した結果を記憶回路14に転送し、逆に通電時にはマイコンに記憶内容を復帰させる。29は整流素子lが寿命に達したか否かを判定する整流素子寿命判定手段、30は半導体スイッチング素子3が寿命に達したか否かを判定する半導体スイッチング素子寿命判定手段、31は平滑コンデンサ2が寿命に達したか否かを判定する平滑コンデンサ寿命判定手段で、それぞれ整流素子運転履歴演算手段26、半導体スイッチング素子運転履歴演算手段27、平滑コンデンサ運転履歴演算手段28で得られた結果と所定値との比較により、整流素子1、半導体スイッチング素子3、平滑コンデンサ2が寿命に達したかどうかを判定する。整流素子寿命判定手段29、半導体スイッチング素子寿命判定手段30、平滑コンデンサ寿命判定手段31の出力は、表示手段13に入力され、表示手段13は寿命に達した当該部品を表示する。」(3頁左下欄15行?4頁左下欄9行) ・「始めに整流素子1の寿命の判定について説明すると、整流素子1等の半導体素子は、素子に流れる電流による自己発熱による熱疲労により劣化し、素子の割れやダイボンドの割れ等が発生するため、所定の寿命があることが知られている。この寿命は、後述するように半導体材料やその構造が一定であれば自己発熱等による繰り返し回数とその温度差により推定できる。従って、この寿命を判定するためには整流素子1のジャンクション温度を知る必要がある。整流素子1のジャンクション温度TDjは、電流値I、放熱フィン11の温度THsにより整流素子温度推定手段23により次の計算式に基づいて推定する。」(4頁左下欄12行?同頁右下欄5行) ・「一方、整流素子1のジャンクション温度TDjは、インバータ装置の運転、停止により時間とともに変化する。その様子を横軸に時間tを、縦軸にジャンクション温度TDjをとった第5図に示した。図より、インバータ装置が運転しているときは、TDjが上昇し、停止しているときはTDjが下降する。つまり、インバータ装置が停止したときTDju_(1)に達し、運転を再開したときにTDjL_(1)に達し、以下TDju_(2)、TDjL_(2)・・・と繰り返す。」(4頁右下欄15行?5頁左上欄4行) ・「この実施例では、上式を用いて整流素子1が寿命に達したかどうかを判定するが、温度差△Tは使用方法、運転時間等により異なり常に一定値とは限らない。従って、過去の運転により整流素子1がどの程度熱疲労を受けたか、つまり過去の運転履歴を記憶する必要がある。これを整流素子運転履歴演算手段26で行っている。この整流素子運転履歴演算手段26のプログラムの内容を第3図のフローチャートにより示した。即ち、半サイクルの熱疲労を基準温度差△TDjsのときの熱疲労サイクル回数に換算し、それを積算するようにしている。つまり、△nD=(△TDj/△TDjs)^(2)・1/2により計算した△nDを積算する。・・・ステップ42では前述した計算式により、△nDを算出し、ステップ43で過去の△nDの積算値nDpに△nDを加えプログラムを終了する。・・・このようにして積算したnDpにより整流素子寿命判定手段29により、nDpが予め設定した所定値以上になり、寿命に達したかどうか判定し、寿命に達した場合は表示手段13により整流素子lが寿命であることを表示する。」(5頁左上欄17行?同頁左下欄9行) ・「次に半導体スイッチング素子3の寿命の判定について説明する。 半導体スイッチング素子3も整流素子lと同様に熱疲労により劣化し所定の寿命があり、整流素子1と同様な仕方でその寿命を判定することができるが、半導体スイッチング素子温度推定手段24は前述の整流素子温度推定手段23と異なっている。ここではこの半導体スイッチング素子温度推定手段24について説明し、半導体スイッチング素子運転履歴演算手段27、半導体スイッチング素子寿命判定手段30については整流素子1の場合と同様であるのでその説明を省略する。 半導体スイッチング素子3のジャンクション温度Ttjは、電流値I、放熱フィン11の温度THsにより半導体スイッチング素子温度推定手段24にて次の計算式により推定する。」(5頁左下欄10行?同頁右下欄6行) ・「次に、平滑コンデンサ2の寿命の判定について説明する。 インバータ装置の平滑コンデンサ2には、アルミニウム電解コンデンサが一般に使われている。このアルミニウム電解コンデンサ(以下電解コンデンサという)は電気化学的な作用を基に構成された部品であり、通常液体である電解液を用いていることから、電解液の消費や外部への飛散により特性が劣化し、寿命に至る。電解コンデンサの寿命に影響を与える主な要因は、温度とリップル電流であり、寿命とこれらの関係は次式となることが知られている。・・・ここで、tは温度Tのときの寿命時間、tsは温度Tsのときの寿命時間、Bはリップル電流による加速係数で、このBは電解コンデンサの種類により決定される係数で、リップル電流の関数である。第6図は上記Bとリップル電流の関係を示した一例で、横軸はリップル電流Irと定格リップル電流Irsの比の2乗(Ir/Irs)^(2)で示し、縦軸はBの値をLOG目盛りで表してある。 この実施例の平滑コンデンサ2も電解コンデンサであり、平滑コンデンサ2の寿命は、上記計算式により計算できる。この計算式の中でリップル電流Irは、インバータ装置の電流値Iと強い相関があり、 Ir=I・定数により得られる。 しかし、平滑コンデンサ2は、一定の周囲温度T、リップル電流Irで使用されることはないので、整流素子1等の場合のように過去どれ程劣化したかの運転履歴を記憶しておく必要がある。これを行っているのが平滑コンデンサ運転履歴演算手段28であり、そのプログラム内容を第4図にフローチャートで示した。このプログラムは所定時間△t毎にメインプログラムのタスクとして実行され、△tを前記電解コンデンサの寿命計算式を変形した次式により基準温度tsのときの運転時間△tpに換算し、それを積算するようにしている。・・・第4図のフローチャートにより説明すると、ステップ44によりBを計算する。BはIrをIより求めそのIにより第6図に示すような関係をプログラムにて得るように構成し求める。ステップ45で上式により△tpを計算する。ここでTは平滑コンデンサ周囲温度入力手段22により得られた値を用いる。ステップ46では過去の△tpの積算値tpに△tpを加えプログラムを終了する。このようにして、積算したtpにより、平滑コンデンサ寿命判定手段31により、tpが予め設定した所定値以上になって寿命に達したかどうかを判定し、寿命に達した場合には表示手段13により平滑コンデンサ2が寿命であることを表示する。」(5頁右下欄19行?6頁左下欄下から3行) ・「以上説明した中で、表示手段13によりどの部品が故障したのかを識別できるように表示しなければならないが、これは各部品に番号をつけて番号表示するようにするとか、絵表示で表すとか、音声によるとか、インバータ装置にホストコンピュータを標準インターフェイス、例えばRS-232C等により接続しホストコンピュータの端末にて表示する等種々の方法がある。」(6頁左下欄下から2行?同頁右下欄7行) ・また、第1図には、直流を交流に変換するインバータ装置が示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「直流を交流に変換するインバータ装置において、 インバータ主回路の整流素子、平滑コンデンサ、半導体スイッチング素子等の部品の寿命を左右する周囲温度と使用条件を検出する温度検出素子及び電流検出回路と、 前記検出された周囲温度と使用条件に基づいて、当該部品の過去の運転により受けた疲労の程度を積算して演算する整流素子運転履歴演算手段、平滑コンデンサ運転履歴演算手段及び半導体スイッチング素子運転履歴演算手段と、 前記積算して演算された疲労の程度を所定値と比較し、寿命に達したかどうか判定する寿命判定手段と、 積算して演算された疲労の程度が所定値以上になり寿命に達したと判定された場合は、当該部品が寿命であることを表示する表示手段とを具備し、 前記寿命であることを表示する表示手段は、寿命と判定された部品を番号表示、絵表示等で表示するインバータ装置。」 (3)対比・判断 本件発明8ないし11に共通する構成と上記甲1発明の構成とを対比すると、少なくとも次の点が主たる相違点として抽出できる。 ・相違点1 算定された実質劣化量(甲1発明の「演算された疲労の程度」が相当)に関し、本件発明8ないし11は、「電力変換装置が運転中と判断された場合」のものとしているのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。 ・相違点2 本件発明8ないし11は、「期待寿命および使用期限情報が記憶された保守管理情報記憶手段」を具備すると共に、部品の寿命を使用者に通知する条件を、「総実質劣化量が期待寿命を上回る場合および使用期限が経過する場合」としているのに対し、甲1発明は、総実質劣化量(甲1発明の「積算して演算された疲労の程度」が相当)を期待寿命(甲1発明の「所定値」が相当)と比較しているところから、「期待寿命が記憶された保守管理情報記憶手段」を具備していると解することができるものの、「使用期限情報」を記憶するものとはされておらず、しかも、部品の寿命を使用者に通知する(甲1発明の「部品が寿命であることを表示する」が相当)条件が「総実質劣化量が期待寿命を上回る場合(甲1発明の「積算して演算された疲労の程度が所定値以上になり寿命に達したと判定された場合」が相当)」のみである点。 (4)判断 上記主たる相違点について、以下検討する。 ・相違点1について 本件発明8ないし11において、算定された実質劣化量を「電力変換装置が運転中と判断された場合」のものに特定した技術的な意義は、特許明細書に記載ないし開示されてはいないところ、被請求人は、上述した口頭審理において、上記の如く特定したことにより、非運転時における不安定な環境温度に起因した実際と異なる劣化量の算定を排除し、正確な寿命判定が可能となる旨主張している。 しかしながら、例えば、劣化加減速要因の物理量を温度として検出する場合であれば、電力変換装置の運転中のみならず、停止中であっても温度の影響を受け続けるわけであるから、劣化の度合いを正確に算定するためには、停止中の温度をも検出すべきであるとも考えられるところである。したがって、算定された実質劣化量を「電力変換装置が運転中と判断された場合」のものに特定したものと特定しないものとの間に、明確な効果上の差異があるとは認め難い。 一方、劣化加減速要因の物理量を電流として検出する場合であれば、停止中は電流が検出されないため、停止中には劣化が進行しないことになり、結果、「電力変換装置が運転中と判断された場合」のものに特定しようが特定しまいが、検出電流に基づく実質劣化量の算定には差異が生じないことになる。したがって、算定された実質劣化量を「電力変換装置が運転中と判断された場合」のものに特定したことによる格別の効果は認め難い。 これらの検討内容を踏まえれば、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明8ないし11の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る設計的事項にすぎないものというべきである。 ・相違点2について 甲第1号証には、保守管理情報記憶手段に「使用期限情報」を記憶することや、部品の寿命を使用者に通知する条件に「使用期限が経過する場合」を含むことを開示ないし示唆する記載はなく、また、請求人からは、他にこれらのことを開示ないし示唆する証拠は何等提示されていない。 そして、本件発明8ないし11においては、保守管理情報記憶手段に記憶された情報を「期待寿命および使用期限情報」とし、部品の寿命を使用者に通知する条件を「総実質劣化量が期待寿命を上回る場合および使用期限が経過する場合」としたことにより、「デバイスの使用期限が参照され、実使用による劣化が進んでいなくても、経時的に劣化していると推測される場合には、当該部品に関しても寿命と判定されるので、より確実な寿命判定が可能になる」という特許明細書に記載の効果を奏することができるものである。 そうすると、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明8ないし11の構成とすることが、当業者の容易想到の範囲内であるとは到底いえない。 また、このような判断は、本件発明8と実質的に同一の構成を有する請求項6及び7に係る発明の特許に対し、請求人が無効の対象としていないこととも符合するものである。 なお、請求人は、上述した口頭審理において、使用期限が経過したら部品を取り替えるようにすることは当然のことである旨主張している。 しかしながら、かかる当然のことが為されていないケース、即ち、使用期限が経過しても当該部品を使用し続けるケースは現実問題として生じているところであり、このようなケースを回避させるための工夫は技術的に意義のあるものというべきである。 そして、電力変換装置において、部品の使用期限が経過したことを如何にして検出し、如何にして使用者に知らしめるのか、その具体的な構成を請求人は何等開示していない以上、単に、使用期限が経過したら部品を取り替えるというような人的行為のみに基づいて、上記相違点2に係る本件発明8ないし11の構成の容易想到性を肯定することはできない。 したがって、上記主たる相違点以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明8ないし11が、上記甲第1号証に記載されているものとはいえず、また、上記甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明8ないし11の特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 電力変換装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 直流を交流、交流を直流、交流を交流に変換する電力変換装置において、 運転による装置自身およびその構成部品の劣化を加減速させる要因の物理量を検出する手段と、 前記検出された劣化加減速要因の物理量に基づいて、当該装置の実質劣化量を算定する手段と、 前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段と、 少なくとも装置およびその構成部品ごとの期待寿命が記憶された保守管理情報記憶手段と、 前記総実質劣化量を期待寿命と比較する手段と、 総実質劣化量が期待寿命を上回ると、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段とを具備し、 前記各構成部品の特徴を表す第1の保守管理情報、および当該各構成部品の取り付け箇所を表す第2の保守管理情報を読み取り、両者を相互に関連付けて前記保守管理情報記憶手段に記憶する保守管理情報入力手段をさらに具備し、 前記期待寿命は、第1の保守管理情報の一部として記憶されたことを特徴とする電力変換装置。 【請求項2】 前記第1の保守管理情報は、当該構成部品自身およびその梱包部材の少なくとも一方に付されたことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。 【請求項3】 前記第2の保守管理情報は、当該構成部品の取り付け位置近傍に付されたことを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。 【請求項4】 前記第1および第2の保守管理情報は、バーコード表示されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電力変換装置。 【請求項5】 前記保守管理情報記憶手段には、当該構成部品の製造時期および使用期限を表す情報が記憶され、使用期限が経過すると、その寿命が使用者に通知されるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電力変換装置。 【請求項6】 直流を交流、交流を直流、交流を交流に変換する電力変換装置において、 運転による装置自身およびその構成部品の劣化を加減速させる要因の物理量を検出する手段と、 前記検出された劣化加減速要因の物理量に基づいて、当該装置の実質劣化量を算定する手段と、 前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段と、 少なくとも装置およびその構成部品ごとの期待寿命が記憶された保守管理情報記憶手段と、 前記総実質劣化量を期待寿命と比較する手段と、 総実質劣化量が期待寿命を上回ると、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段とを具備し、 前記保守管理情報記憶手段には、当該構成部品の製造時期および使用期限を表す情報が記憶され、使用期限が経過すると、その寿命が使用者に通知されるようにしたことを特徴とする電力変換装置。 【請求項7】 前記寿命を通知する手段は、寿命と判断された装置自身またはその構成部品名を表示することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の電力変換装置。 【請求項8】 直流を交流、交流を直流、交流を交流に変換する電力変換装置において、 運転による装置自身およびその構成部品の劣化を加減速させる要因の物理量を検出する手段と、 前記検出された劣化加減速要因の物理量に基づいて、当該装置の実質劣化量を算定する手段と、 前記電力変換装置が運転中と判断された場合の前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段と、 少なくとも装置およびその構成部品ごとの期待寿命および使用期限情報が記憶された保守管理情報記憶手段と、 前記総実質劣化量を期待寿命と比較する手段と、 総実質劣化量が期待寿命を上回る場合および使用期限が経過する場合、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段とを具備し、 前記寿命を通知する手段は、寿命と判断された装置自身またはその構成部品名を表示することを特徴とする電力変換装置。 【請求項9】 前記実質劣化量を算定する手段は、前記検出された劣化加減速要因の物理量の変動量に基づいて実質変動回数を算定し、前記総実質劣化量を算定する手段は、前記算定された実質変動回数を積算することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の電力変換装置。 【請求項10】 直流を交流、交流を直流、交流を交流に変換する電力変換装置において、 運転による装置自身およびその構成部品の劣化を加減速させる要因の物理量を検出する手段と、 前記検出された劣化加減速要因の物理量に基づいて、当該装置の実質劣化量を算定する手段と、 前記電力変換装置が運転中と判断された場合の前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段と、 少なくとも装置およびその構成部品ごとの期待寿命および使用期限情報が記憶された保守管理情報記憶手段と、 前記総実質劣化量を期待寿命と比較する手段と、 総実質劣化量が期待寿命を上回る場合および使用期限が経過する場合、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段とを具備し、 前記実質劣化量を算定する手段は、前記検出された劣化加減速要因の物理量の変動量に基づいて実質変動回数を算定し、前記総実質劣化量を算定する手段は、前記算定された実質変動回数を積算することを特徴とする電力変換装置。 【請求項11】 前記実質変動回数を算定する手段は、検出された変動量が大きいほど実質変動回数を多く算定することを特徴とする請求項9または10に記載の電力変換装置。 【請求項12】 前記劣化加減速要因の物理量の変動量は、劣化加減速要因の物理量の極大値および極小値の少なくとも一方が検出されるごとに、両者の差に基づいて算出されることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の電力変換装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は電力変換装置に係り、特に、周囲温度や出力電流などの運転状態の変動を考慮して部品あるいはユニットの残存寿命を予測し、残存寿命が予定値以下になると使用者に交換を促す機能を備えた電力変換装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 パワ-トランジスタやGTOなどの自己消弧能力を有するスイッチング回路素子や、マイクロプロセッサを応用した高機能制御装置の発達により、大電力を高速に制御できる電力変換装置が普及している。このような電力変換装置は、例えば電力系統では発電・送配電用として、また電気鉄道および産業用では電動機駆動用として、さらに情報分野では電力系統の停電(瞬時停電をふくむ)時のバックアップ用として広く用いられている。 【0003】 このような用途に用いられる電力変換装置には、故障の少ない高信頼性が要求される。しかしながら、電力変換装置の容量が大きくなり、これに伴って機能が向上するにつれて、使用する部品点数も増大するので無保守では信頼性が低下する。このため、使用部品の劣化を事前に予測し、部品あるいはユニットを計画的に点検あるいは交換して信頼性を維持する、いわゆる予防保全の重要性が高まりつつある。 【0004】 しかしながら、使用部品単体の加速寿命試験や、使用者からの返送品の特性試験のデ-タから、標準使用状態での部品あるいはユニットの期待寿命を算出し、期待寿命を超過する前に定期的に部品あるいはユニットを交換する従来の方法では、設計時に想定した標準使用状態よりも過酷な条件、例えば電力変換装置の周囲温度が高い場合や負荷電流が大きい場合には、期待寿命に達する前に部品が寿命を迎えてしまう場合もあった。 【0005】 さらに、電力変換装置が広範に使用されてくると、使用者側に専任の管理者がいないために予防保全が行き届かない場合もある。このような場合を想定して、製造者側では、サ-ビスマンによる巡回サ-ビスを強化したり、取扱説明書に部品の推奨交換周期を明示することにより使用者に注意を喚起してきたが、充分な効果が得られなかった。 【0006】 このような問題に対して、例えば特開平5-56629号公報では、周囲温度や出力電流などの運転状態を示す信号で期待寿命を補正する期待寿命設定回路、各部品の運転時間を時間積分する時間積算回路、補正後の期待寿命と運転時間の積分値を比較する回路、および部品交換毎に時間積算回路の積分値を零にリセットするリセット回路を設け、運転時間の積分値が、運転状態を示す信号で補正された期待寿命を越えた場合に、部品の交換を促す信号を電力変換装置の情報表示器に出力する部品劣化検出回路が提案されている。・ 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 上記した従来技術では、各部品あるいはユニット等の期待寿命が、定期的に検出される、当該時点での運転状態のみに基づいて即座に補正されてしまうため、以下のような問題があった。 【0008】 たとえば、基準周囲温度で使用すれば5年間の期待寿命が保証されており、基準周囲温度より10℃高い環境下の使用では期待寿命が半減(2.5年間)する部品の場合、上記した従来技術では、運転状態信号として定期的に検出される周囲温度に基づいて期待寿命が補正されるので、基準周囲温度で3年間使用されていれば、当該時点での残存寿命は2年となる。 【0009】 ところで、東京の月別平年気温は1月が5.2℃と一番低く、8月は27.1℃と一番高くなり、一年間の気温の変動は21.9℃である(国立天文台編理科年表による)。このため、電力変換装置の設置場所に空調装置が設置されていない場合には、特に夏場などに周囲温度が上昇し、例外的に基準周囲温度より10℃以上高い周囲温度が検出される場合もあり得る。 【0010】 このような場合、上記した従来技術では、それ以前の周囲温度が常に基準周囲温度以下であったとしても当該履歴は一切無視され、今回検出された周囲温度のみに基づいて、当該部品の期待寿命が直ちに補正されてしまう。すなわち、期待寿命が2.5年に半減されることになる。したがって、当該時点で使用期間(3年)が期待寿命(2.5年)を上回って残存寿命が-0.5年となり、直ちに寿命と判断されてしまう。 【0011】 しかしながら、当該判断は明らかに誤りであり、たまたま基準周囲温度より10℃高い周囲温度が検出されたとしても、それ以前には基準周囲温度で使用されていたのであれば、当該履歴も考慮して期待寿命を決定すべきである。 【0012】 また、電力変換装置の使用者が部品あるいはユニットを予備品として保管している場合、有機材料を使用したコンデンサなどでは、無通電状態での保管でも部品の劣化が進行することから、例えば電解液の封止ゴムでは、製造後10年以内に交換することを推奨している。しかしながら、上記した従来技術では、当該保管期間における期待寿命の減少が考慮されていなかった。 【0013】 本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決し、電力変換装置の部品について、周囲温度や負荷電流などの運転状態の変動を考慮して残存寿命を予測し、残存寿命が予め設定した値以下になった場合に、部品あるいはユニットの交換を促す機能を有する電力変換装置を提供することにある。 【0014】 【課題を解決するための手段】 上記した目的を達成するために、本発明では、直流を交流、交流を直流、交流を交流に変換する電力変換装置において、運転による装置自身およびその構成部品の劣化を加減速させる要因の物理量を検出する手段と、前記検出された劣化加減速要因の物理量に基づいて、当該装置の実質劣化量を算定する手段と、前記算定された実質劣化量を積算して総実質劣化量を算定する手段と、装置およびその構成部品ごとに期待寿命を設定する手段と、前記総実質劣化量を期待寿命と比較する手段と、総実質劣化量が期待寿命を上回ると、当該装置およびその構成部品の寿命を使用者に通知する手段とを具備した点に特徴がある。 【0015】 【作用】 上記した構成によれば、温度、湿度、振動といった、劣化を加減速させる要因の物理量を考慮して当該装置の単位時間あたりの実質的な劣化量が算定され、当該実質劣化量の積算値が期待寿命と比較される。したがって、劣化加減速要因の物理量が一時的に高く(あるいは低く)なっても、当該一時的に検出された劣化加減速要因の物理量のみに基づいて寿命判定がなされてしまうことがなく、正確な寿命判定が可能となる。 【0016】 【実施例】 以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例である電力変換装置に組み込まれた部品寿命判定装置の主要部の機能を示したブロック図である。 【0017】 当該電力変換装置を構成する主要部品やユニット、例えば、コンデンサ、蓄電池、継電器、電力用半導体、ヒューズ、あるいは電力用抵抗器等(以下、これらを総称してデバイスと表現する)の周囲あるいはその表面には、温度センサ、湿度センサ、振動センサ、塵埃センサ等の環境センサ、あるいは電流計、電圧計等の運転状態センサ(いずれも図示せず)が適宜に取り付けられている。例えば、電力用半導体であれば、冷却フィンにサーミスタが取り付けられている。各センサの出力信号は劣化加減速要因検出手段1に入力される。 【0018】 劣化加減速要因検出手段1は、各デバイスの劣化を加速あるいは減速させる要因となる温度、湿度、振動、塵埃、あるいは印加電圧、負荷電流などを、各センサから入力される検出信号に基づいて定量的に検出する。保守管理情報入力手段7からは、後に詳述するように、各デバイスごとに部品番号、製造年月日、期待寿命、あるいは基準温度等の保守管理情報が入力され、当該保守管理情報は他の管理情報と共に保守管理情報記憶手段8に記憶される。 【0019】 実質劣化量算定手段2は、前記検出された劣化加減速要因の物理量に基づいて当該装置の実質劣化量を算定するもので、後に詳述するように、実質劣化量として装置の実質的な「運転時間」を算定する実質運転時間算定手段21と、実質劣化量として劣化加減速要因の物理量の「変動回数」を算定する実質変動回数算定手段22とによって構成されている。 【0020】 実質運転時間算定手段21は、当該装置が運転中であると、前記検出された劣化加減速要因の物理量に基づいて、単位時間あたりの実質運転時間を算定する。すなわち、基準温度(例えば、30℃)で単位時間(例えば、1時間)だけ運転した場合の運転時間を“1h”とした場合、40℃の環境下では30℃の環境下よりも単位時間あたりの劣化が早く進むため、実際の運転時間は1hであっても、実質運転時間として例えば“2.0h”を算定する。また、20℃の環境下では30℃の環境下よりも単位時間あたりの劣化が遅く進むため、実際の運転時間は1hであっても、実質運転時間として例えば“0.5h”を算定する。 【0021】 また、実質変動回数算定手段22は、前記検出された各劣化加減速要因の物理量の変動量に基づいて、当該変動の実質変動回数を算定する。すなわち、検出された温度の変動量(変動幅)が40℃であると、変動量が30℃の場合よりも劣化が早く進むため、実際の変動回数は1回であっても、実質変動回数として“2.0回”を算定する。同様に、変動量が20℃であれば、変動量が30℃の環境下よりも劣化が遅く進むため、実際の変動回数は1回であっても、実質変動回数として“0.5回”を算定する。 【0022】 総実質劣化量算定手段3は、前記実質運転時間算定手段21で算定された実質運転時間、あるいは前記実質変動回数算定手段22で算定された実質変動回数をそれぞれ時系列的に積算し、総実質運転時間または総実質変動回数を算出する。比較手段4は、保守管理情報として記憶されている期待寿命(運転時間または変動回数)と、算定された総実質劣化量(総実質運転時間または総実質変動回数)とをデバイスごとに比較する。表示手段5は、前記比較結果を表示出力して部品寿命を使用者に通知する。 【0023】 図2、3は、本実施例の動作を示したフローチャートであり、電力変換装置を構成する各デバイスを対象に順次繰り返し実行される処理である。ステップS1では、処理対象のデバイス(デバイス番号n)に関する保守管理情報の記憶されたメモリ領域が保守管理情報記憶手段8の中で選択される。 【0024】 図4は、各デバイスごとに記憶されている保守管理情報の一例を示した図であり、枠1で囲んだ領域は、例えば電解コンデンサのように、その寿命劣化が温度や湿度などの絶対値の高低によって影響を受けるデバイスの保守管理情報を示している。また、枠2で囲んだ領域は、例えば電力用半導体のように、その寿命劣化が温度や湿度などの所定値以上の変動回数によって影響を受けるデバイスの保守管理情報を示している。 【0025】 なお、本実施例では説明を解りやすくするために、寿命劣化を加減速させる要因として温度のみを例示するが、湿度、振動、塵埃あるいは印加電圧、負荷電流の場合も同様である。 【0026】 同図において、「デバイス番号」は、各デバイスを区別するためにデバイスごとに付される一連の番号である。「部品番号(製造番号)」は、各デバイスの製造ロット等を表す製造番号であり、同一デバイスであっても製造ロットが異なれば異なった番号が付される。「製造年月」は各デバイスが製造された年月である。「部品番号(製造番号)」および「製造年月」は、当該デバイスが交換されるたびに、使用者によって保守管理情報入力手段7から入力されて登録される。 【0027】 なお、当該製造番号等の入力は、例えば保守管理情報入力手段7としてバーコード読取装置を採用し、以下のようにして行うことができる。すなわち、部品番号がバーコード表示されたシール(シールA)を予め部品あるいはユニットに貼付しておく。なお、シールの貼付できない小形部品では、その保管用梱包材にシールを貼付しておく。また、電力変換装置の、当該部品あるいはユニットが組み込まれる位置には、デバイス番号がバーコード表示されたシール(シールB)を貼付しておく。そして、当該電力変換装置の製造時およびその部品交換時に、シールAおよびシールBのバーコードを読み取り、保守管理情報として記憶手段8に記憶させる。このようにすれば、所定のデバイス番号で管理された記憶手段8上のメモリ領域に、その部品の「部品番号(製造番号)」や「製造年月」が間違いなく短時間で入力できるようになる。 【0028】 「期待寿命(T0にて)」は、当該デバイスを基準温度T0(例えば、30℃)で使用した際の寿命(時間)である。「期待寿命(ΔT0にて)」は、当該デバイスを基準温度差ΔT0(例えば、30℃)で使用した際の寿命(温度の変動回数)である。 【0029】 「使用期限」は、製造後からの使用期限である。「部品組込年月」は、当該デバイスが装置に組み込まれた年月である。「現在温度Tin」は、当該部デバイス上あるいはその近傍に設けられた温度センサによって検出された周囲温度である。「温度極大値」は、温度変化が極大値を示した際の温度である。「温度極小値」は、温度変化が極小値を示した際の温度である。「総実質運転時間(ΣLT)」は、温度等による劣化の加減速を考慮した実質的な総運転時間である。「総変動回数(ΣM)」は、温度差等による劣化の加減速を考慮した実質的な変動回数である。 【0030】 「補正係数テーブル」には、検出された周囲温度による劣化の加減速を考慮して、実際の運転時間あるいは実際の変動回数を、それぞれ実質運転時間あるいは実質変動回数に補正する演算で用いる係数である。 【0031】 再び図2、3へ戻り、ステップS2では、当該デバイスが交換されたか否かが判断される。交換されていれば、ステップS3では、保守管理情報の「部品番号(製造番号)」および「製造年月」が使用者によって保守管理情報入力手段7から入力され、当該交換後のデバイスに応じて書き替えられる。ステップS4では、保守管理情報として登録されている「総実質運転時間ΣLT」または「総実質変動回数ΣM」がゼロにリセットされる。 【0032】 ステップS5では、当該デバイスの寿命が、「総実質運転時間ΣLT」あるいは「総実質変動回数ΣM」のいずれに基づいて判断すべきか判定される。ここで、当該デバイスがデバイス番号1の電解コンデンサであると、寿命を総実質運転時間に基づいて判定すべきと判断されてステップS6へ進む。 【0033】 ステップS6では、前記劣化加減速要因検出手段1によって検出された印加電圧値あるいは負荷電流値等に基づいて、当該電力変換装置が運転中であるか否かが判定される。ここで、運転中と判定されると、ステップS7では、当該デバイスに関する温度データTinが実質劣化量算定手段2の実質運転時間算定手段21に取り込まれる。 【0034】 ステップS8では、当該温度データTinに応答した補正値Lが、保守管理情報のデータテーブルから読み取られる。すなわち、温度データTinが30℃であれば補正値L=1.0が読み取られ、40℃であれば補正値L=2.0が読み取られる。ステップS9では、補正値Lと測定周期Δtとの積が演算され、実質運転時間(補正値L×測定周期Δt)が算出される。すなわち、各デバイスごとに当該処理の実行される周期が1時間であれば、周期Δtに“1”(h)が代入される。さらに、総実質劣化量算定手段3により、総実質運転時間ΣLTに前記実質運転時間(補正値L×測定周期Δt)が加算され、加算結果が再び総実質運転時間ΣLTとして、保守管理情報記憶手段8内の当該欄に記憶される。 【0035】 ステップS10では、前記総実質運転時間ΣLTと期待寿命(本実施例では、10万時間)とが比較手段4において比較され、総実質運転時間ΣLTが期待寿命を上回っていると、ステップS30では、当該デバイスの交換を促す旨のメッセージが表示手段5の表示画面上に表示される。また、総実質運転時間ΣLTが期待寿命を下回っており、余寿命があると判定されると、ステップS31では、さらに実使用年月(=現在年月-製造年月)と使用期限とが比較され、実使用年月が使用期限を越えていると、前記と同様に当該処理はステップS30へ進み、当該部品の交換を促す旨のメッセージが表示される。 【0036】 一方、当該デバイスがデバイス番号100の電力用半導体であり、前記ステップS5において、寿命を実質変動回数に基づいて判定すべきと判断されると、当該処理は図3のステップS11へ進む。ステップS11では、前記と同様に、当該電力変換装置が運転中であるか否かが判定される。運転中と判定されると、ステップS12では、当該デバイスに関する温度データTinが実質劣化量算定手段2の実質変動回数算定手段22に取り込まれる。 【0037】 図5は、実質変動回数算定手段22の構成の一例を示した図であり、極大値検出手段221と、極小値検出手段222と、偏差検出手段223とによって構成されている。 【0038】 ステップS13では、極大値検出手段221により、当該温度データTinが極大値を示しているか否かが判断される。極大値であると判定されると、ステップS14では、保守管理情報の「極大値」の欄に当該温度データTinが記憶される。ステップS15では、保守管理情報に登録されている「極大値」と「極小値」との偏差(温度差)ΔTが偏差検出手段223によって求められる。 【0039】 ステップS16では、当該偏差ΔTに応答した補正値Mがデータテーブルから読み取られる。すなわち、偏差ΔTが30℃であれば補正値1.0が読み取られ、40℃であれば補正値2.0が読み取られる。ステップS17では、総実質変動回数ΣMに補正値Mが加算され、加算結果が再び総実質変動回数ΣMとして保守管理情報の当該欄に記憶される。 【0040】 ステップS18では、極小値検出手段222により、当該温度データTinが極小値を示しているか否かが判断される。極小値であると判定されると、ステップS19では、保守管理情報の「極小値」の欄に当該温度データTinが記憶される。ステップS20では、前記と同様に極大値と極小値との偏差ΔTが求められる。ステップS21では、当該温度偏差ΔTに応答した補正値Mが前記と同様にデータテーブルから読み取られる。ステップS22では、総実質変動回数ΣMに補正値Mが加算され、加算結果が再び総実質変動回数ΣMとして保守管理情報の当該欄に記憶される。 【0041】 ステップS23では、前記総実質変動回数ΣMと期待寿命(本実施例では、12万回)とが比較手段4において比較され、総実質変動回数ΣMが期待寿命を上回っていると、ステップS30において、前記と同様に当該デバイスの交換を促す旨のメッセージが表示手段5の表示画面上に表示される。また、総実質変動回数ΣMが期待寿命を下回っており、余寿命があると判定されると、ステップS31において、さらに実使用年月(=現在年月-製造年月)と使用期限とが比較され、実使用年月が使用期限を越えていると、前記と同様に当該処理はステップS30へ進み、当該部品の交換を促す旨のメッセージが表示される。 【0042】 本実施例によれば、電力変換装置の各デバイスを劣化させる「装置の運転時間」あるいは「運転環境(温度、湿度、印加電圧など)の変動回数」等の劣化量を、それぞれ「運転中の運転環境」や「各変動の変動量」の大小によって加減速すると共に、これらを時系列的に積算して実質的な劣化量を算定し、当該実質劣化量に基づいて寿命が判定される。したがって、運転環境が一時的に大きく変動しても、当該変動によって寿命が大きく変動することがなく、正確な寿命判定が可能となる。 【0043】 さらに、本実施例によればデバイスの使用期限が参照され、実使用による劣化が進んでいなくても、経時的に劣化していると推測される場合には、当該部品に関しても寿命と判定されるので、より確実な寿命判定が可能になる。 【0044】 なお、上記した実施例では、補正係数L(またはM)をデータテーブルを参照して求めるものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されず、以下のような補正式(1),(2)を保守管理情報として予め登録しておき、当該補正式を用いて算出するようにしても良い。 【0045】 補正係数L=2(Tin-T0)/10…(1) 但し、T0:期待寿命の基準となる基準温度 補正係数M=2(ΔTin-ΔT0)/10…(2) 但し、ΔT0:期待寿命の基準となる基準温度偏差 また、上記した実施例では、総実質運転時間ΣLTを、補正値Lと測定周期Δtとの積に基づいて、演算により算出するものとして説明したが、電気回路で行うこともできる。 【0046】 この場合、例えば前記実質運転時間算定手段21には、運転中であれば10mVの直流電圧、停止中であれば0Vの直流電圧が、それぞれ入力されるようにする。実質運転時間算定手段21は、劣化加減速要因検出手段1によって検出された温度信号を受け取り、温度信号が大きい(温度が高い)場合には、温度が低い場合よりも、当該直流電圧をより増幅して出力する。すなわち、温度Tinが20℃であれば0.5倍に増幅して5mVを出力し、30℃(基準温度)であればそのまま出力し、40℃であれば2.0倍に増幅して20mVを出力する。積分手段4は、出力電圧を適宜の積分回路で時間積分して総実質運転時間を得る。 【0047】 【発明の効果】 上記したように本発明によれば、以下のような効果が達成される。 (1)電力変換装置のデバイスのうち、寿命を「装置の運転時間」に基づいて判断すべきデバイスに関しては、劣化量となる「運転時間」を「運転中の運転環境」の大小によって加減速すると共に、時系列的に積算して実質的な劣化量を算定し、当該実質劣化量に基づいて寿命が判定されるようにしたので、運転環境が一時的に大きく変動しても、当該変動によって寿命が大きく変動することがなく、正確な寿命判定が可能となる。 (2)電力変換装置のデバイスのうち、寿命を「運転環境(温度、湿度、印加電圧など)の変動回数」に基づいて判断すべきデバイスに関しては、劣化量となる「変動回数」を「各変動の変動量」の大小によって加減速すると共に、時系列的に積算して実質的な劣化量を算定し、当該実質劣化量に基づいて寿命が判定されるようにしたので、運転環境が一時的に大きく変動しても、当該変動によって寿命が大きく変動することがなく、正確な寿命判定が可能となる。 (3)デバイスの使用期限が参照され、実使用による劣化が進んでいなくても、経時的に劣化していると推測される場合には、当該部品に関しても寿命と判定されるので、より確実な寿命判定が可能になる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の一実施例である電力変換装置に組み込まれた部品寿命判定回路の主要部の機能を示したブロック図である。 【図2】図1の動作を示したフローチャート(その1)である。 【図3】図1の動作を示したフローチャート(その2)である。 【図4】保守管理情報の一例を示した図である。 【図5】実質変動回数算定手段の構成を示したブロック図である。 【符号の説明】 1…劣化加減速要因検出手段、2…実質劣化量算定手段、3…総実質劣化量算定手段、4…比較手段、5…表示手段、7…保守管理情報入力手段、8…保守管理情報記憶手段、21…実質運転時間算定手段、22…実質変動回数算定手段 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2007-10-15 |
出願番号 | 特願平7-49007 |
審決分類 |
P
1
123・
121-
YA
(H02M)
P 1 123・ 113- YA (H02M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 櫻田 正紀 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
谷口 耕之助 本庄 亮太郎 |
登録日 | 2005-04-15 |
登録番号 | 特許第3666680号(P3666680) |
発明の名称 | 電力変換装置 |
代理人 | 奥村 直樹 |
代理人 | 松尾 和子 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 中村 彰吾 |
代理人 | 特許業務法人武和国際特許事務所 |
代理人 | 近藤 直樹 |
代理人 | 高石 秀樹 |
代理人 | 特許業務法人武和国際特許事務所 |
代理人 | 那須 威夫 |
代理人 | 大塚 文昭 |