• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1171469
審判番号 不服2004-14747  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-15 
確定日 2008-01-17 
事件の表示 特願2000-339244「弾球遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月18日出願公開、特開2001-346945〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年6月6日に出願した特願2000-168616号の一部を、平成12年11月7日に分割出願したものであって、平成16年6月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年7月15日に拒絶査定不服審判が請求されると共に、平成16年8月9日付けで手続補正がなされ、その後当審において、平成19年8月23日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対し、平成19年10月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年10月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年10月26日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「遊技制御プログラムが書き込まれたROMと上記遊技制御プログラムの作業領域となり停電時には記憶内容が保持されるRAMとを備え被制御対象の作動を制御する制御手段と、上記RAMをクリアする時にオン操作されるクリアスイッチとを備え、上記制御手段では電源投入後に上記制御手段へのリセット信号が解除されると上記ROMの内容が正規のものであるか否かをチェックするセキュリティチェック が行われる弾球遊技機において、
電源投入後のリセット信号解除時に上記クリアスイッチがオン操作されていると、上記制御手段におけるセキュリティチェックの終了までの時間よりも長い所定時間にわたって、上記RAMをクリアすることを上記制御手段に指示するRAMクリア信号が上記制御手段に出力され、
上記制御手段は、上記セキュリティチェックの終了時点で上記RAMクリア信号が出力状態のとき、または電源遮断前の記憶内容を上記RAMが保持していないときは、上記RAMのクリアを実行し、上記RAMクリア信号が出力状態になく、かつ、上記電源遮断前の記憶内容を上記RAMが保持しているときは、上記RAMのクリアを非実行とするように設定したことを特徴とする弾球遊技機。」

上記補正は、平成16年8月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である制御手段で行われるセキュリティチェック、及び、制御手段に出力されるRAMクリア信号について限定するものと認められるから、この補正事項は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例に記載の発明
当審において通知された拒絶の理由に引用された特許第2757988号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

記載事項1;「第4図に於て、ターミナル装置ユニット37は、本遊技機を集中管理装置(図示せず)と関連させるための諸リレーを有している。…更に、ターミナル装置ユニット37には、クリアスイッチ(記号C)42と、特別遊技態様の発生率設定手段としての割数スイッチ(記号W)43と、電源スイッチ4とが設けられている。」(第5欄第11-18行)
記載事項2;「制御装置
第7図(a)及び第7図(b)はマイクロコンピュータを使用した上記実施例の制御装置(CPUボード)35の構成を示す。
マイクロコンピュータは基本的にはCPU100、ROM101及ひRAM102で構成されている。RAM102はバックアップ電源106により不揮発性メモリとしている。ROM101にはCPU100を制御するプログラムが書込まれており、CPU100はこのプログラムに従ってI/Oポート103より必要とされる外部データを取込んだり、あるいは又RAM102との間でデータの授受を行なったりしながら減算処理し、必要に応じて処理したデータをI/Oポート103やアウトプットポート104へ出力したり、音声用IC(音声回路)105へ出力する。107は電源OFF検出回路、108は電源ON検出回路、109は正常な状態では監視期間より短い周期でプログラムにより繰返しリセットされるが、異常状態によりリセットされない時には警報を発するウォッチドッグタイマの部分を示す。」(第10欄第1-18行)
記載事項3;「第8図はROMに書き込まれているプログラムの概略を示し、第9図はその“割数チェックの”サブルーチンを示す。また、第10図?第14図は、電源投入時のメイン処理を示す。
制御の概要
第8図のゼネラルフローに於て、プログラムは、電源投入により、“全出力系OFF”、“ラムチェック”“ランプON”の処理をした後(0.01?0.03)、通常は、“球取込”“取込総数演算”“ドラムスタート”“割数チェック”“ドラム回転”“ドラム停止”“表示判定”の処理を行なう(0.07?0.13)。尚、“割数チェック”処理については、第9図に示すとうりであるが、これについては、説明の便宜上後述する。
表示判定の結果(0.13)、ハズレの場合には、ステップ0.07に戻って、ステップ0.07?0.13を繰返す。当りの場合には(0.13)、その内容が“通常当り”“大ボーナス”“小ボーナス”のいずれであるかに応じて、次のように処理する。
“通常当り”の場合には(0.14)、“賞球排出処理”を行なって、約束された賞球数を排出する(0.15)。そして、それ迄の排出総数を演算し(0.16)、取込総数から排出総数をマイナスして得られる数差(総差数)を求める。そしてステップ0.07に戻る。
また、“大ボーナス”の場合には(0.18)、大ボーナスゲームが終了するまでは(0.19)、“通常当り”の場合と同様に、賞球排出処理、排出総数演算、総差数の演算及び記憶を行なって(0.15?0.17)、ステップ0.07に戻る。そして、大ボーナスゲームが終了したら(0.19)、終了フラグを立ててから(0.20)、ステップ0.15に進む。
“小ボーナス”の場合(0.21)も同様であり、小ボーナスゲームが終了するまでは(0.22)、“通常当り”の場合と同様に、賞球排出処理、排出総数演算、総差数の演算及び記憶を行なって(0.15?0.17)、ステップ0.07に戻る。そして、小ボーナスゲームが終了したら(0.22)、終了フラグを立ててから(0.23)、ステップ0.15に進む。」(第10欄第19-第11欄5行)
記載事項4;「ディテイルフロー
次に、第10図?第14図のディテイルフローに基づいて説明する。
第10図?第14図は電源投入時のメイン処理を示したもので、第8図のステップ0.01?0.06に対応する。
第10図に於て、電源投入により、“全出力系OFF”、“ラムチェック”“ランプON”の処理をした後(1.01?1.03)、電源投入時のスイッチ入力状態(クリアスイッチ、割数スイッチ、ストップスイッチ)により、“オールクリア処理”“部品テスト処理”“割数設定処理”へえ移行する(1.04?1.07)。これらのスイッチ入力なしの場合は、通常処理を開始する。」(第11欄第6-17行)
記載事項5;「(ロ)オールクリア処理
電源投入時に、クリアスイッチ42が押えられていた場合には(1.04)、第12図の“オールクリア”処理に入り、RAM102の初期化を行う。
オールクリア処理の目的は、回路的にRAMのバックアップ機能を持っているので、電源投入時には、前回の電源断の所よりゲームを再開することとなるので、これをやめたい場合、又は、静電気等によりRAMのデータが部分的に破壊(論理的破壊)されると電源投入後誤動作してしまうので、これらの状態を解除することにある。また、工場出荷時に於て、始めて電源を投入するときには、RAMの状態が不定であるため、このオールクリア処理を使用する。更には、電源投入時に電源OFF時の状態を解除したい場合や、割数の設定値を変更したいとき等に使用する。オールクリア処理を要しない通常の場合には、電源投入後のRAMチェックOKが確認されれば、通常処理に入る。
第12図に示す“オールクリア”処理では、まずRAM102をクリアし(4.01)、「割数カウンタ」に“2”をセットする(4.02)。割数カウンタに“2”をセットするというのは、割数表示器45に於る割数表示では、それより+1多い値“3”をセットしたことになる。即ち、自動的に割数“3”がセットされる。次に、「テーブル作成フラグ」を“1”(ボーナテーブル作成要求)にし(4.03)、「割数フラグ」を“1”(割数設定可)にする(4.04)。割数フラグが“1”となって、割数の設定が可能となるのは、このオールクリア処理を経た場合に限られる。
オールクリア処理は、一番最初に電源を入れる場合は必ず行なうものであるが、クリアスイッチ42がON状態で(即ちクリアスイッチを押しながら)電源投入しなければ実行されないので、誤操作されてしまうことがない。」(第14欄第19-49行)
記載事項6;「尚、本発明の実施例はパチンコ球を用いたドラム式遊技機について説明したが、これに限定されるものでなく、可変表示部を有し、当該可変表示部の停止結果態様に基づいて特別遊技態様を発生可能な遊技機であれば、どの様なタイプの遊技機であっても良い。」(第17欄第36-40行)

前記摘示の記載事項1乃至6を含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「CPU100を制御するプログラムが書込まれたROM101とバックアップ電源106により不揮発性メモリとされたRAM102とを備え被制御対象の作動を制御する制御装置35と、上記RAM102をクリアする時にON状態とされるクリアスイッチ42とを備えた遊技機において、
上記制御装置35は、電源投入時に上記クリアスイッチ42がON状態とされていた場合には、オールクリア処理に入り、上記RAM102の初期化を実行し、上記クリアスイッチ42がON状態で電源投入されなければ、オールクリア処理は実行しない遊技機。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「ROM101」は本願補正発明の「ROM」に対応し、以下同様に、「RAM102」は「RAM」に、「制御装置35」は「制御手段」に、「ON状態とされる」は「オン操作される」に、「クリアスイッチ42」は「クリアスイッチ」に各々対応すると共に、以下(ア)乃至(エ)のことがいえる。

(ア)引用発明1の「CPU100を制御するプログラム」は、記載事項3に記載される具体的な制御内容から、本願補正発明の「遊技制御プログラム」ということができる。

(イ)引用発明1の「バックアップ電源106により不揮発性メモリとされたRAM102」は、遊技制御プログラムの作業領域となることが、技術常識に照らして明らかなことであり、バックアップ電源106が停電時に機能することも、同様に明らかなことであるから、本願補正発明の「遊技制御プログラムの作業領域となり停電時には記憶内容が保持されるRAM」ということができる。

(ウ)引用発明1の「遊技機」は、記載事項6を参酌すれば、「弾球遊技機」でもよいことが明らかである。

(エ)引用発明1の「上記制御装置35は、電源投入時に上記クリアスイッチ42がON状態とされていた場合には、オールクリア処理に入り、上記RAM102の初期化を実行し、上記クリアスイッチ42がON状態で電源投入されなければ、オールクリア処理は実行しない」構成(以下「構成(エ)」という。)について検討する。
まず、上記構成(エ)の一部である「電源投入時に上記クリアスイッチ42がON状態とされていた場合には、オールクリア処理に入り、上記RAM102の初期化を実行」する構成について検討すると、引用発明1の「電源投入時」と本願補正発明の「電源投入後のリセット信号解除時」は、「電源投入に関する第1の所定時」という点で共通し、RAM102の初期化は制御装置35で行われるので、クリアスイッチ42がON状態とされることにより、RAMをクリアするための信号、即ち、本願補正発明の「RAMクリア信号」に相当する信号が出力されることは、技術常識に照らして明らかなことである。よって、上記構成(エ)と、本願補正発明の「電源投入後のリセット信号解除時に上記クリアスイッチがオン操作されていると、上記制御手段におけるセキュリティチェックの終了までの時間よりも長い所定時間にわたって、上記RAMをクリアすることを上記制御手段に指示するRAMクリア信号が上記制御手段に出力され」る構成は、「電源投入に関する第1の所定時にクリアスイッチがオン操作されていると、RAMをクリアすることを制御手段に指示するRAMクリア信号が上記制御手段に出力される」点で共通するものといえる。
次に、上記の構成(エ)全体について検討すると、引用発明1の「電源投入時」と本願補正発明の「セキュリティチェックの終了時点」は、「電源投入に関する第2の所定時」という点で共通し、引用発明1の「クリアスイッチ42がON状態とされていた場合」は本願補正発明「RAMクリア信号が出力状態のとき」ということができ、引用発明1においても、オールクリア処理を実行する、または、実行しないための設定が成されていることは、技術常識に照らして明らかなことであるから、上記構成(エ)と、本願補正発明の「上記制御手段は、上記RAMクリア信号が出力状態のとき、または電源遮断前の記憶内容を上記RAMが保持していないときは、上記RAMのクリアを実行し、上記RAMクリア信号が出力状態になく、かつ、上記電源遮断前の記憶内容を上記RAMが保持しているときは、上記RAMのクリアを非実行とするように設定した」構成は、「上記制御手段は、電源投入に関する第2の所定時に上記RAMクリア信号が出力状態のとき、上記RAMのクリアを実行し、上記RAMクリア信号が出力状態にないときは、上記RAMのクリアを非実行とするように設定した」点で共通するものといえる。

そうすると両者は、「遊技制御プログラムが書き込まれたROMと上記遊技制御プログラムの作業領域となり停電時には記憶内容が保持されるRAMとを備え被制御対象の作動を制御する制御手段と、上記RAMをクリアする時にオン操作されるクリアスイッチとを備える弾球遊技機において、
電源投入に関する第1の所定時にクリアスイッチがオン操作されていると、RAMをクリアすることを制御手段に指示するRAMクリア信号が上記制御手段に出力され、
上記制御手段は、電源投入に関する第2の所定時に上記RAMクリア信号が出力状態のとき、上記RAMのクリアを実行し、上記RAMクリア信号が出力状態にないときは、上記RAMのクリアを非実行とするように設定した弾球遊技機。」で一致し、以下の点で相違する。

相違点1;本願補正発明は、「制御手段では電源投入後に上記制御手段へのリセット信号が解除されるとROMの内容が正規のものであるか否かをチェックするセキュリティチェックが行われる」のに対して、引用発明1においては、セキュリティチェックについて明記されていない点。

相違点2;「電源投入に関する第1の所定時」に関して、本願補正発明は、「電源投入後のリセット信号解除時」であるのに対して、引用発明1は、「電源投入時」である点。
また、「RAMクリア信号の出力」に関して、本願補正発明は、「制御手段におけるセキュリティチェックの終了までの時間よりも長い所定時間にわた」るのに対して、引用発明1は、出力期間について明記されていない点。

相違点3;「電源投入に関する第2の所定時」に関して、本願補正発明は、「セキュリティチェックの終了時点」であるのに対して、引用発明1は、「電源投入時」である点。
また、「RAMクリアの実行」に関して、本願補正発明は、「電源遮断前の記憶内容を上記RAMが保持していないとき」にも実行されるのに対して、引用発明1は、そのような場合について明記されていない点。
さらに、「RAMクリアの非実行」に関して、本願補正発明は、「RAMクリア信号が出力状態になく、かつ、電源遮断前の記憶内容を上記RAMが保持しているとき」であるのに対して、引用発明1は、「クリアスイッチ42がON状態で電源投入されな」いときである点。

(4)判断
相違点1について
当審において通知された拒絶の理由に引用された特開平8-10414号公報(以下「引用例2」という。)には、「【0063】遊技制御基板199には、ワンチップ化された遊技制御用マイクロコンピュータ202が設けられている。この遊技制御用マイクロコンピュータ202には、CPU203,RAM205,I/Oポート206,セキュリティ回路204等が設けられている。…
【0064】セキュリティ回路204は、前記ROM207に記憶されているプログラムの不正改造を監視する機能を有するものである。セキュリティ回路204には、ROM207の記憶プログラムに対応するセキュリティデータが記憶されており、電源投入時において、ROM207に記憶されているプログラムを読出してそのプログラムと前記記憶されているセキュリティデータとを比較して両者が整合性を有するか否か判別し、整合性がとれている場合にのみCPU203を正常に動作可能な状態にする。…」と記載されており、前記摘示の記載事項を含む引用例2の全記載及び図示によれば、引用例2には、「電源投入時において、ROM207に記憶されているプログラムを読出してそのプログラムと記憶されているセキュリティデータとを比較して両者が整合性を有するか否か判別、即ち、セキュリティチェックを行う弾球遊技機。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
ところで、弾球遊技機に備えられるROMは、ノイズや不正等により、ROMの内容が変更されている可能性があり、その対策が必要なことは、上記引用例2にも記載されるとおり、当業者にとって周知の課題であるから、そのような周知の課題のもと、引用発明1に引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到できることである。
また、弾球遊技機において、電源投入前にはリセット信号が出力されており、電源投入後に該リセット信号が解除されるようにすること、さらに、上記リセット信号が解除されるとROMの内容が正規のものであるか否かをチェックするセキュリティチェックが行われることは、例えば、特開平8-71216号公報(特に、段落0012を参照のこと。)又は特開平11-104312号公報(特に、段落0058-0060を参照のこと。)等に記載される周知技術であるから、引用発明2を引用発明1に適用して、ROMの内容が正規のものであるか否かをチェックする際に、それら周知技術を参酌して、「電源投入後に制御手段へのリセット信号が解除されると」という時期についての特定をすることは、当業者が設計的に成し得る程度のことである。

相違点2について
上記相違点1についての検討を踏まえると、引用発明1において、電源投入後に制御手段へのリセット信号が解除されるとROMの内容が正規のものであるか否かをチェックするセキュリティチェックを行うものとすることは容易であり、そうした場合に、「電源投入時」に代えて「電源投入後のリセット信号解除時」にクリアスイッチのオン操作を判断することは、必然的なことといえる。
一方、ROMの内容が正常なものであるか否かをチェックするというセキュリティチェックの目的を考慮すれば、仮に、ROMの内容が正常なものでないとすると、その後の制御が適正に行われないことになるから、他の判断に先駆けてセキュリティチェックを行うことは、当業者にとって自然なことであり(セキュリティチェック後に初期化処理を行うことも、例えば、特開平6-269554号公報(特に、段落0067-0068を参照のこと。)等に記載される周知技術である。)、引用発明1において、セキュリティチェックを行うに際して、セキュリティチェックを優先させて、電源投入時にクリアスイッチ42がON状態とされているか否かという判断を、セキュリティチェックが終了するまで遅延させることは、当業者が容易に想到できることである。
さらに、制御における単位処理の終了を判断する手法として、実際に終了したことを検知するか、CPUの処理時間等を考慮した時間として設定しておくかは、当業者によって適宜選択されている周知技術であるから、引用発明1のRAMクリア信号の出力を、「制御手段におけるセキュリティチェックの終了までの時間よりも長い所定時間にわたる」ようにすることも、当業者が設計的に成し得る程度のことである。

相違点3について
相違点1及び2についての検討を踏まえると、引用発明1において、「電源投入に関する第2の所定時」を、「セキュリティチェックの終了時点」とすることは、当然のことといえる。
また、RAMの記憶内容をチェックして該記憶内容が正常でない場合にRAMクリアを実行することは、例えば、特開平8-10405号公報(特に、段落0143を参照のこと。)等に記載される周知技術であるから、引用発明1においても、そのような周知技術を参酌して、RAMクリアの実行のために、そのような判断を付加することは、当業者が設計的に成し得る程度のことである。
さらに、引用発明1においても、RAMクリア信号が出力状態にないときには、RAMクリアを非実行とするものであり、「電源遮断前の記憶内容をRAMが保持しているとき」という判断は、上記したようなRAMの記憶内容をチェックする技術を付加するに際して、当業者ならば当然の如く成し得る程度のことである。

作用効果について
本願補正発明の作用効果も、引用発明1、引用発明2及び周知技術から当業者が予測できる域を超えるものではない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
平成19年10月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年8月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「遊技制御プログラムが書込まれたROMと上記遊技制御プログラムの作業領域となり停電時には記憶内容が保持されるRAMとを備え被制御対象の作動を制御する制御手段と、上記RAMをクリアする時にオン操作されるクリアスイッチとを備え、上記制御手段では電源が投入されると上記ROMの内容が正規のものであるか否かをチェックするセキュリティチェックが行われる弾球遊技機において、
電源投入時に上記クリアスイッチがオン操作されると、上記RAMをクリアすることを上記制御手段に指示するRAMクリア信号が上記制御手段に出力され、上記制御手段は、上記セキュリティチェックの終了時点で上記RAMクリア信号が出力状態のとき、または電源遮断前の記憶内容を上記RAMが保持していないときは、上記RAMのクリアを実行し、上記RAMクリア信号が出力状態になく、かつ、上記電源遮断前の記憶内容を上記RAMが保持しているときは、上記RAMのクリアを非実行とするように設定したことを特徴とする弾球遊技機。」

(1)引用例に記載の発明
当審において通知された拒絶の理由に引用された引用例1は、前記2.(2)において記載した引用例1と同一文献であって、この引用例1の記載事項及び該記載事項に基づいて認定される発明(以下、「引用発明1」という。)は、前記したとおりのものである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の制御手段で行われるセキュリティチェック、及び、制御手段に出力されるRAMクリア信号について限定を削除するもので、概念的に上位にしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに概念的に下位にしたものに相当する本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-19 
結審通知日 2007-11-20 
審決日 2007-12-03 
出願番号 特願2000-339244(P2000-339244)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
P 1 8・ 575- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 恒明赤坂 祐樹  
特許庁審判長 小原 博生
特許庁審判官 土屋 保光
中槙 利明
発明の名称 弾球遊技機  
代理人 伊藤 求馬  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ