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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1171497
審判番号 不服2005-11199  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-15 
確定日 2008-01-17 
事件の表示 平成7年特許願第78032号「アクチュエータ及びガイドワイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成8年10月22日出願公開、特開平8-276022号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成7年4月4日の出願であって、平成17年5月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月14日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成17年7月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年7月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲(平成17年1月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲)の記載、
「【請求項1】含水状態のイオン交換樹脂層と、該イオン交換樹脂層を介して対向する位置に配置された少なくとも一組の電極体とからなるアクチュエータ素子であって、該イオン交換樹脂層内に、負荷によって変形しても除荷すると原形にもどる復元性を有する補強体を埋設固定したことを特徴とする、該電極体間に電位差をかけることにより変形するアクチュエータ。
【請求項2】前記補強体が超弾性金属体又はコイル形状体であることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】含水状態のイオン交換樹脂層と、該イオン交換樹脂層を介して対向する位置に配置された少なくとも一組の電極体とからなるアクチュエータ素子であって、該イオン交換樹脂層内に、負荷によって変形しても除荷すると原形にもどる復元性を有する補強体を埋設固定した該電極体間に電位差をかけることにより変形するアクチュエータを、先端に具備したことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項4】前記補強体が超弾性金属体又はコイル形状体であることを特徴とする請求項3に記載のガイドワイヤ。」を、
「【請求項1】含水状態のイオン交換樹脂層と、該イオン交換樹脂層を介して対向する位置に配置された少なくとも一組の電極体とからなるアクチュエータ素子であって、該イオン交換樹脂層内に、負荷によって変形しても除荷すると原形にもどる復元性を有し、断面積が長さ方向に連続的に変化している中空または中実ワイヤからなる補強体を埋設固定した該電極体間に電位差をかけることにより変形するアクチュエータを、先端に具備したことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】前記補強体が超弾性金属体であることを特徴とする請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項3】前記補強体がコイル形状体であることを特徴とする請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項4】前記アクチュエータ素子の外側が、水不透過性かつ電気絶縁性の材料で被覆されていることを特徴とする請求項1?3に記載のガイドワイヤ。」と補正することを含むものである。(下線は補正箇所を示す。)
2.補正の目的
特許法第17条の2第3項第2号(平成5年法)にいう「特許請求の範囲の減縮」とは、補正前の請求項と補正後の請求項が一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない(平成15年(行ケ)第230号審決取消請求事件参照)。
本件補正は、アクチュエータに関する発明である補正前の請求項1及び2を削除し、ガイドワイヤに関する発明である補正前の請求項3を減縮して請求項1とし、択一的記載の要素を含む補正前の請求項4をその要素ごとに請求項2と請求項3に分割したものと解される。そうすると、補正後の請求項4に対応する補正前の請求項が存在せず、補正前の請求項と補正後の請求項が一対一の対応関係にないから、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められない。
また、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。
よって、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第3項の規定に適合しないので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
3.新規事項の有無
補正後の請求項3は、補正後の請求項1を引用しているため、「断面積が長さ方向に連続的に変化している中空または中実ワイヤからなる」「コイル形状体」である補強体をその構成要素としている。
そこで、出願当初の明細書の記載をみてみると、出願当初の明細書には、「中空または中実ワイヤ」、及び「コイル形状体」に関して以下のような記載がされている。即ち、
・「前記補強体がコイル形状体であることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。」(特許請求の範囲の請求項3)、
・「前記補強体がコイル形状体であることを特徴とする請求項5に記載のガイドワイヤ。」(特許請求の範囲の請求項7)、
・「また、本発明の好適な形態は、前記補強体がコイル形状体であるアクチュエータである。」(段落【0011】)、
・「また、本発明の好適な形態は、前記補強体がコイル形状体であるガイドワイヤである。」(段落【0015】)、
・「コイル形状体である補強体は、負荷(応力)によって変形しても、除荷すると原形にもどる良好な復元性を有するコイルばねであることが好ましく、単層円筒コイル、くもの巣コイル(平板状)、ハニカム(蜂の巣)巻コイル、又は多層コイル等が挙げられる。」(段落【0020】)、
・「補強体としては、超弾性金属体、コイル形状体等が好適である。なお、構成数は1本以上であればよい。」(段落【0021】)、
・「(実施例2)図3、図4に示すように、素線直径0.01mmのステンレス鋼線からなるコイル平均直径0.1mmの単層円筒コイルである補強体11に、スルホン基を有するフッ素樹脂系陽イオン交換樹脂を溶解したNafion(登録商標、Aldrich社製)溶液をディップコーティングして、幅2mm、長さ20mmのイオン交換樹脂を形成した。作製したイオン交換樹脂層12の両面に、3mg/cm^(2)の白金である電極体13a、13bを化学めっき(無電解めっき)法により接合した。」(段落【0035】)
・「形状としては、長さ方向に断面積が均一の中空または中実ワイヤ形状、断面積が長さ方向に連続的に変化している中空または中実ワイヤ形状等のいずれも使用することが可能である。」(段落【0019】)、
・「(実施例1)図1、図2に示すように、長さ方向に直径が0.05?0.1mmまで連続的に変化する、つまり長さ方向に断面積が連続的に変化する中実ワイヤ形状のNi-Ti合金(51原子%Ni、残部Ti)の超弾性金属体よりなる補強体11の外表面に、スルホン酸基を有するフッ素樹脂系イオン交換樹脂を溶解したNafion(登録商標、Aldrich社製)溶液をディップコーティングして、幅2mm、長さ20mmのイオン交換樹脂層12を形成し、この両面に、3mg/cm^(2)の白金である電極体13a、13bを化学めっき(無電解めっき)法により接合した。」(段落【0034】)、
・「(実施例6)図7、図9に示すように、長さ方向に直径が連続的に0.1mmから0.3mmまで変化している全体長150cmの中実ワイヤ形状のNi-Ti合金(51原子%Ni、残部Ti)の超弾性金属体よりなる内芯20とポリウレタン製被覆部21より構成されているガイドワイヤの先端部位に、実施例5の図6に相当するアクチュエータ3を取り付けて、ガイドワイヤ4を作製した。」(段落【0039】)、
・「(実施例7)図8、図9に示すように、先端から20mmの部分(補強体11)が長さ方向に直径が0.05?0.1mmまで連続的に変化する、つまり長さ方向に断面積が連続的に変化しており、先端から20mm以降(内芯20)が長さ方向に直径が連続的に0.3mmまで変化した、全体長150cmの中実ワイヤ形状のNi-Ti合金(51原子%Ni、残部Ti)の超弾性金属体を作製した。」(段落【0042】)
また、図1、図2及び図8には、「断面積が長さ方向に連続的に変化している中空または中実ワイヤ」からなる補強体が図示され、図3、図4、図6及び図7には、円筒状の「コイル形状体」である補強体が図示されている。
しかしながら、「断面積が長さ方向に連続的に変化している中空または中実ワイヤからなる」「コイル形状体」である補強体については、出願当初の明細書及び図面のどこにも記載されておらず、また、それらの記載から自明な事項とも認められない。
してみると、補正後の請求項3に係る補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。
また、補正後の請求項3を引用している補正後の請求項4に係る補正も、同様の理由により、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、平成6年改正前特許法第17条第2項の規定に適合しないので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年1月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「含水状態のイオン交換樹脂層と、該イオン交換樹脂層を介して対向する位置に配置された少なくとも一組の電極体とからなるアクチュエータ素子であって、該イオン交換樹脂層内に、負荷によって変形しても除荷すると原形にもどる復元性を有する補強体を埋設固定したことを特徴とする、該電極体間に電位差をかけることにより変形するアクチュエータ。」

IV.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-76481号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「【産業上の利用分野】本発明は、メカノケミカル物質を用いて変形する駆動手段を構成したメカノケミカルアクチュエータ及びこれを利用した医療用チューブに関する。」(段落【0001】)
(b)「この実施例に係るメカノケミカルアクチュエータ1はメカノケミカル高分子を矩形薄膜状に形成してなる作動用部材2を有している。この片面にはこれを全面的に覆う一枚の薄いフイルム状のベース電極3を設け、反対側の面にはいわゆる升目状に配置した多数の小さなマトリックス電極4を設けている。」(段落【0009】)
(c)「前記ベース電極3とマトリックス電極4にはそれに対して選択的に通電を行う通電制御手段5が設けられている。この通電制御手段5は一枚の共通な電極として構成されるベース電極3に対するマトリックス電極4の各マトリックス電極電極部4aの印加電圧、及び各電極3,4に対する極性の異なる電圧を個別的に選択して印加することができるようになっている。」(段落【0011】)
(d)「しかして、一般的なメカノケミカル物質を選択した場合、印加するマトリックス電極4の電極部4aを選択して通電すると、それに応じたメカノケミカル物質の部分が水分を放出して収縮変形する。例えばX方向における両端側部分の電極部4aにのみ通電し、または両端側部分の電極部4aに印加する電圧を特に大きくすれば、その端部が収縮し、中央の部分は膨脹したままであるから、その結果、それに応じて全体的に変形する。この一般的なメカノケミカル物質の作用の原理は次の通りである。例えばメカノケミカル物質としてのPAA-PVA(ポリアクリル酸-ポリビニルアルコール)ゲルをNaOH(水酸化ナトリウム)、NaCO_(3)(炭酸ナトリウム)等の電解質溶液に浸漬し、その電解質溶液を介して前記ゲルに電圧を印加すると、その加えられた電場によってゲル内部のイオン分子が移動し、そのゲルの内外でのイオン濃度が変化し、浸透圧に差が生じる。これによりゲルは収縮を行う。なお、電圧を印加すると水分を吸収する高分子電解質ゲルを使用した場合にあって、マトリックス電極4における例えばX方向における両端側部分の電極部4aのみ通電し、または両端側部分の電極部4aに印加する電圧を特に大きくして通電すると、その両端側部分ほど水分の吸収が大きくなり、その結果、図1の(b)で示すように湾曲した形となる。」(段落【0013】?【0015】)

これらの記載事項を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「含水状態のメカノケミカル物質を薄膜状に形成した作動用部材2と、該作動用部材2の片側の面に設けたベース電極3及び反対側の面に設けたマトリックス電極4とからなるメカノケミカルアクチュエータであって、該ベース電極3とマトリックス電極4との間に印加することにより変形するメカノケミカルアクチュエータ。」

V.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ベース電極3」及び「マトリックス電極4」が、その機能又は作用からみて、本願発明における「少なくとも一組の電極体」に相当し、同様に、「ベース電極3とマトリックス電極4との間」が「電極体間」に、「印加する」ことが「電位差をかける」ことに、「メカノケミカルアクチュエータ」が「アクチュエータ素子」又は「アクチュエータ」に相当する。
また、引用発明における「メカノケミカル物質を薄膜状に形成した作動用部材2」と本願発明における「イオン交換樹脂層」とは、どちらも「作動用部材」である点で共通し、引用発明における「作動用部材2の片側の面に設けたベース電極3及び反対側の面に設けたマトリックス電極4」と本願発明における「イオン交換樹脂層を介して対向する位置に配置された少なくとも一組の電極体」とは、どちらも「作動用部材を介して対向する位置に配置された少なくとも一組の電極体」の点で共通する。

してみると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致し、
<一致点>
「含水状態の作動用部材と、該作動用部材を介して対向する位置に配置された少なくとも一組の電極体とからなるアクチュエータ素子であって、該電極体間に電位差をかけることにより変形するアクチュエータ。」

そして、両者は次の点で相違する(対応する引用例記載の用語をかっこ内に示す。)。
<相違点>
相違点1:本願発明では、作動用部材がイオン交換樹脂層であるのに対して、引用発明では、作動用部材がメカノケミカル物質を薄膜状に形成したものである点。
相違点2:本願発明では、イオン交換樹脂層内に、負荷によって変形しても除荷すると原形にもどる復元性を有する補強体を埋設固定したのに対して、引用発明では、そのような補強体を備えていない点。

VI.判断
次に、上記各相違点について検討する。
(a)相違点1について
メカノケミカル物質を用いたアクチュエータにおいて、メカノケミカル物質としてイオン交換樹脂を用いることは、例えば特開平6-133923号公報、特開平6-235376号公報、特開平6-108963号公報などに見られるように従来周知であるから、引用発明において、メカノケミカル物質を薄膜状に形成した作動用部材2に代えてイオン交換樹脂層を採用することは、当業者であれば容易に想到できたことであるといえる。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到できたものである。
(b)相違点2について
アクチュエータにおいて、樹脂層内に、負荷によって変形しても除荷すると原形にもどる復元性を有する補強体を設けることは、例えば特開昭62-290471号公報(第12図参照)、特開昭62-258675号公報(第7図参照)などに見られるように従来周知であるから、引用発明に上記周知技術を適用し、相違点2に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことであるということができる。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VII.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-16 
結審通知日 2007-11-20 
審決日 2007-12-04 
出願番号 特願平7-78032
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 561- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門前 浩一  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 北村 英隆
蓮井 雅之
発明の名称 アクチュエータ及びガイドワイヤ  

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