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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1171505
審判番号 不服2005-13515  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-14 
確定日 2008-01-17 
事件の表示 平成 8年特許願第 62413号「半導体装置,及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 9日出願公開、特開平 9-237940〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年3月19日に出願された特許出願(優先権主張 平成7年12月28日)であって、原審において、平成16年11月5日付で拒絶理由が通知され、平成17年1月7日に手続補正がなされたところ、同年6月9日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月14日に拒絶査定不服審判が請求されたものであって、その請求項に係る発明は、上記手続補正がなされた明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のものである。

「【請求項1】 その表面が(001)面であるp型InP基板と、
該p型InP基板表面上にエピタキシャル成長させた半導体成長層の,〔110〕方向に伸びるストライプ状の領域を残すようそれ以外の領域をドライエッチングして形成された、その側面が(1-10)面である,高さHmを有するメサと、
該メサの上記(1-10)面からなる側面,及び該メサの側方に残された上記半導体成長層の(001)面からなる上面上にエピタキシャル成長させた層厚がDpであるp型InP埋込層,及び該p型InP埋込層の側面,及び上面上にエピタキシャル成長させたn型InP埋込層を含む埋込成長層とを備えた半導体装置において、
(111)B面と(001)面とのなす角をθ_(111) 、(1-10)面,及び(001)面上での上記n型InP埋込層の成長レートをそれぞれRg(1-10),及びRg(001)とし、角度θを tanθ=Rg(1-10)/Rg(001) で決まる角度とし、Dnを
【数1】

と定義したとき、上記(001)面上に成長した上記n型InP埋込層の層厚Dが、
D≦Dn
を満たすことを特徴とする半導体装置。」
なお、面方位について、本願特許請求の範囲などには(1/10)のように表記されているが、本願発明の認定を含め、以下では、(1-10)などのように表記することとする。

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-254750号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光通信装置や情報処理等に利用される半導体レーザに関し、特に活性層を含むメサストライプの側面を、電流狭窄用の半導体層で埋め込んだ構造の半導体レーザに関する。」

イ.「【0002】
【従来の技術】近年、情報処理や光通信の光源として、InP系の材料を用いた半導体レーザ素子が開発されており、その高性能化が望まれている。特に、低閾値特性、温度に対して出力変動の小さい高温度安定性、高信頼性に対する要求は強く、その研究開発が盛んに行われている。低閾値で発振する半導体レーザ素子を実現するには、活性層の幅を狭くして、その両脇を電流狭窄構造により埋めた埋め込み型レーザ構造が用いられている。
【0003】図11はp型半導体基板上にMOCVD法を用いて形成した従来の半導体レーザを示す断面図である。
・・・・中略・・・・
【0004】まずp型InP基板1にp型InPバッファ層2、発光波長1.3μmのInGaAsP活性層3、n型InPクラッド層4、n型InGaAsエッチングダミー層(図示せず)を順次MOCVD法により成長する。ついで、<011>方向にSiO_(2)マスクをストライプ状に形成したのちに、化学エッチングにより高さ3μm程度のメサストライプを形成する。次いで、SiO_(2)マスクを残したままで、選択的にp型InP埋め込み層5、n型InP電流ブロック層6、p型InP電流ブロック層7を順次MOCVD法により選択成長する。次いで、SiO_(2)マスクとInGaAsエッチングダミー層とを除去した後に、全面にn型InPクラッド層8、n型InGaAsコンタクト層9をMOCVD法により成長する。最後に電極10、11の形成と基板研磨を行い、個々の半導体レーザチップに劈開して半導体レーザができあがる。
【0005】この半導体レーザでは、活性層の両脇のpnpnサイリスタ構造の電流ブロック構造により、効率良く電流が活性層に注入される。また、このレーザでは、リーク電流の少ない良好な素子特性を得るために、活性層の側面がn型InPに比べ電気抵抗の高いp型InPで覆われていること、及びn型InPクラッド層とn型InPブロック層が分離されていることが重要である。
【0006】活性層側面にこのような構造が実現できる様子を図12を参照しながら説明する。図12中の12は、メサエッチング及び埋め込み選択成長に用いるSiO_(2)マスクである。まず最初にp型InP埋め込み層5を1μm程度成長すると(図12(a))、メサ側面に成長速度の遅い(111)B面13と(221)B面14が形成される。次にn型InP電流ブロック層6を(221)B面14が埋まりきらない程度に成長し(図12(b))、最後にp型InP電流ブロック層7を成長する(図12(c))。このように成長すると、2層目のn型InP層6は1層目のp型InP層5に形成された(111)B面13の上には成長しないので、n型InP電流ブロック層6とn型InPクラッド層8とは連結せずに分離することができる。」

ウ.「【0007】このように、MOCVD法による埋め込み層成長の過程で現れる成長速度の非常に小さい高次の結晶面を利用することで、n型InP電流ブロック層とn型InPクラッド層とが連結しない埋め込み型の半導体レーザを作製でき、リーク電流の少ない良好な特性の素子を得ることができる。しかし反面、(111)B面は、この上での結晶の成長速度が非常に小さく、このため、メサの両側で平坦な埋め込みが進まなくなるという問題もある。
・・・・中略・・・・
【0008】また、図12(b)のn型InP電流ブロック層6を成長するに際に、長さ約0.5μmの(221)B面14が完全に埋まり切ってしまうと、(111)B面13の上にも結晶が成長するためn型InP電流ブロック層6とn型InPクラッド層8とを分離できず、素子特性は著しく悪くなってしまう。このため、図11のような構造では、n型InP電流ブロック層6の厚さを比較的小さめにすることが必要となる。ところが、通常pnpn電流ブロック構造の埋め込み型半導体レーザでは、電流ブロック層の厚さが小さいと、高電流注入時や高温時に埋め込み層へのリーク電流が大きくなってしまう。従って、図11の構造の素子では、高出力動作や高温動作が困難である。」

エ.「【0046】図7は、本発明の更に別の実施例に係るp基板を用いた埋め込み型半導体レーザの概略構成を示す断面図である。
・・・・中略・・・・
【0047】p型InP基板61上には、p型InPバッファ層62、InGaAsP活性層63、n型InPクラッド層64、p型InP埋め込み層65、n型InP電流ブロック層66、p型InP電流ブロック層67、n型InPクラッド層68、n型InGaAsコンタクト層69が形成される。コンタクト層69及び基板61上にはそれぞれn側電極70、p側電極71が配設される。」

オ.「【0048】次に、図8を参照しながら、上記構成の半導体レーザの製造工程と各部の詳細を説明する。
【0049】まず図8(a)に示すように、p型InP基板61の上に、MOCVD法でp型InPバッファ層62(p=1×10^(18)cm^(-3)、厚さ1μm)、InGaAsP活性層63、n型InPクラッド層64(n=1×10^(18)cm^(-3)、厚さ0.2μm)、n型InGaAsPエッチングダミー層73を結晶成長する。
【0050】次に、図8(b)に示すように、<011>方向に幅4.2μmのSiO_(2)ストライプ状マスク72を形成した後、化学エッチングを施し、図8(c)に示すような高さ3μmのメサストライプを形成する。このとき、図11図示の従来例と異なるのはメサストライプ側面の形状を、SiO_(2)マスクから約1.5μmの範囲では基板に対してほぼ垂直で、そこから下側の領域ではメサストライプ幅が徐々に広がる滑らかな形状としたことである。なめらかな曲線部分の局率半径は約1.5μm程度である。またこのとき、化学エッチャントとしては臭素と臭化水素酸と水とを混合したエッチャントを用い、エッチングはエッチャント中でウエハを静止した状態で行った。また、図8(c)のようなメサ形状を得るためには、InGaAsPエッチングダミー層73のバンドギャップ波長を1.1?1.2μm程度にするのが望ましい。
【0051】次に、図8(d)に示すように、SiO_(2) マスク72を残したままで、MOCVD法によりp型InP埋め込み層65(p=1×10^(18)cm^(-3)、厚さ0.5μm)、n型InP電流ブロック層66(n=7×10^(17)cm^(-3)、厚さ1.5μm)、p型InP電流ブロック層67(p=1×10^(18)cm^(-3)、厚さ1.0μm)を結晶成長する。このとき1層のp型InP埋め込み層を成長したときのメサストライプ側面には図12(a)と同様に(111)B面と(221)B面が現れるが、(221)B面の断面の長さは、約1μm程度と従来構造よりも約2倍長い。従って、n型InP電流ブロック層66の厚さを1.5μmと十分厚くしても、メサストライプ側面の(221)B面が消失することはない。」

カ.「【0052】なおメサストライプ側面の全体形状が基板に対して、ある程度以上直角に近くなると(221)B面が形成されない。従って、メサストライプ側面の基板に対して垂直な部分より下側のなめらかな曲線領域の局率半径は少なくとも1μm以上にすることが重要である。最も好ましい形状は、メサストライプの高さの約半分が基板に対して垂直で、残りの約半分がなめらかな曲線になるような形状である。また活性層とn型InP電流ブロック層の間のp型InP領域は電流のリークパスになるが、このリークパスの幅をできるだけ狭くする必要がある。そこで活性層は、メサストライプのできるだけSiO_(2)マスクの近くにあることが重要なので、n型InPクラッド層64の厚さを0.2μmと小さくした。」

これらア?カの記載によれば、引用例1には、
「p型InP基板と、
上記p型InP基板表面上に順次MOCVD法により成長させたp型InPバッファ層、InGaAsP活性層、n型InPクラッド層、n型InGaAsPエッチングダミー層の、〔011〕方向に伸びるストライプ状の領域を残すようそれ以外の領域を化学エッチングして形成され、側面の形状を、基板に対してほぼ垂直で、そこから下側の領域ではメサストライプ幅が徐々に広がる滑らかな形状のメサストライプと、
上記メサストライプの側面、及び該メサストライプの側方に残された上記p型InP基板表面と平行な面からなる上面上にMOCVD法により結晶成長させたp型InP埋め込み層、n型InP電流ブロック層とを備えた半導体レーザにおいて、
上記p型InP埋め込み層を成長したときのメサストライプ側面には(111)B面が現れるが、上記p型InP埋め込み層の上に上記n型InP電流ブロック層を成長させる際には、上記n型InP電流ブロック層の層厚は、上記n型InPクラッド層と上記n型InP電流ブロック層とが分離されるように、上記(111)B面上に結晶が成長しないような厚さである半導体レーザ。」
との発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されていると認められる。
なお、方向についての表記は、引用例1では<>であるが、上記引用例1発明の認定を含め、以下では、本願発明、引用例2などと統一して〔〕を用いることとする。

同じく特開平6-275911号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
キ.「【0023】
【実施例】図1に、本発明の実施例による半導体レーザ装置の構成を概略的に示す。この半導体レーザ装置は、波長1.55μmのレーザ光を発射するためのものである。
【0024】(100)面を有するn型InP基板11aの上に、〔011〕方向に長いメサストライプ10aが形成されている。メサストライプ10aにおいては、基板11aの上にバンドギャップ波長約1.3μm、不純物濃度n=1×10^(17)cm^(-3)、厚さ約0.2μmのn型InGaAsPガイド層12aがエピタキシャルに形成され、その上にバンドギャップ波長1.55μm、厚さ約0.1μmのアンドープInGaAsP活性層13aがエピタキシャルに形成されている。
【0025】さらに、活性層13aの上に、不純物濃度p=5×10^(17)cm^(-3)、厚さ約1.5μmのp型InPクラッド層14a、その上にバンドギャップ波長約1.3μm、不純物濃度p=5×10^(17)cm^(-3)、厚さ約0.2μmのp型InGaAsPコンタクト層17aが形成されている。
【0026】このように構成されたメサストライプ10aの側面が、少なくとも3種類のFeドープ高抵抗InP埋込み層1、2、3によって埋込まれている。これら高抵抗InP埋込み層1、2、3は、成長時に異なる面方位を有し、成長面方位に依存したドーピングが行なわれている。なお、平坦部においては、第1埋込み層1の厚さが約1.2μm、第2埋込み層2の厚さが約0.5μm、第3埋込み層3の厚さが約0.3μmである。
【0027】コンタクト層17aおよび埋込み層3の上に、p側電極21が形成され、基板11aの下面にn側電極22が形成されている。ここで、メサストライプ側面の埋込みについて、図2を参照して考察する。図2において、メサストライプ10aは〔011〕方向に延在し、その側面に(011)面を有する。
【0028】メサストライプの側面埋込みにおいては、通常メサエッチングに用いたメサストライプ上面のSiO_(2)等のマスク18aを利用し、有機金属気相成長法(MOCVD)によりメサ側面を埋込むエピタキシャル成長を行なう。」

ク.「【0030】メサエッチングは、ドライエッチング、ウェットエッチングのどちらを用いてもよい。ドライエッチングを用いた場合は、ドライエッチング後、表面の歪層を除去するため、燐酸系溶液等によるライトエッチングを行なうことが望ましい。
【0031】この時、メサ側面の埋込み成長は、図に示すように、メサ側面と底面において生じるが、成長面は徐々に(100)平坦面に近付く。すなわち、成長にしたがって、その主たる成長面は(011)面から(111)B面を通り、(100)面に向かう。」

ケ.図2及び【0031】からは、メサストライプ10aの垂直な側面と平坦部である底面とにおける高抵抗InP埋込み層の成長は、側面(01-1)と底面(100)から始まり、(01-1)面が消失した時点で、(111)B面に成長面が移動することが見て取れる。

これらキ?ケの記載によれば、引用例2には、
「半導体レーザ装置であって、(100)面を有するn型InP基板の上に、〔011〕方向に長いメサストライプを有し、該メサストライプはドライエッチングにより垂直な側面と平坦部である底面とが形成されるとともに、メサストライプの側面は、エピタキシャル成長による高抵抗InP埋込み層により埋込まれており、上記高抵抗InP埋込み層の成長は、上記メサストライプの側面(01-1)と底面(100)とから始まり、(01-1)面が消失した時点で、(111)B面に成長面が移動するものである半導体レーザ装置。」
との発明(以下、「引用例2発明」という。)が開示されていると認められる。
なお、上記キ、ク及び図2によればメサストライプ10a側面の面方位は(011)であるが、メサストライプ10aが〔011〕方向であること、当該〔011〕方向と直交する方向が図2では〔01-1〕方向であり、メサストライプ10aの側面はその〔01-1〕方向と直交する面であること、面方位と方向とは、同じ数字の組合せ同士であれば、それらは直交する関係にあること、などからみて、メサストライプ10a側面の面方位は(01-1)が正しい方位であって、上記キ、ク及び図2に記載された(011)は誤りであることが明らかである。よって、上記のとおり認定した(上記ケも同じ。)。

3.対比
そこで、本願発明と引用例1発明とを以下に対比する。
a.引用例1発明の「p型InP基板」は、本願発明の「p型InP基板」に相当し、同様に「p型InP基板表面上に順次MOCVD法により成長させたp型InPバッファ層、InGaAsP活性層、n型InPクラッド層、n型InGaAsPエッチングダミー層」は、「p型InP基板表面上にエピタキシャル成長させた半導体成長層」に、「メサストライプ」は、「メサ」に、「p型InP埋め込み層」は、「p型InP埋込層」に、「n型InP電流ブロック層」は、「n型InP埋込層」に、「半導体レーザ」は、「半導体装置」に相当する。

b.面方位等について対比するに、引用例1発明のメサは〔011〕方向に伸びており、上記引用例2発明のn型InP基板のメサストライプと同じ伸長方向であるから、p型InP基板表面、メサ側面も上記引用例2発明のn型InP基板におけるのと同様に、それぞれ(100)面、(01-1)面であることが理解できる。
そして、InP単結晶が閃亜鉛鉱型構造の立方晶であること、それゆえ、メサの〔011〕方向が、〔110〕方向と、当該結晶表面の(100)面が(001)面と、また、メサ側面の(01-1)面が(1-10)面とそれぞれ等価であること、が技術常識であるから、引用例1発明の「〔011〕方向に伸びるストライプ状の領域」、「p型InP基板表面」、「メサストライプの側面」は、それぞれ本願発明の「〔110〕方向に伸びるストライプ状の領域」、「その表面が(001)面であるp型InP基板」、「メサの上記(1-10)面からなる側面」に相当する。
さらに、引用例1発明の「(111)B面」が、本願発明の「(111)B面」に相当することは明らかである。

c.引用例1発明の「化学エッチング」は、「エッチング」である点で本願発明の「ドライエッチング」と一致する。

したがって、両者は、
「その表面が(001)面であるp型InP基板と、
該p型InP基板表面上にエピタキシャル成長させた半導体成長層の,〔110〕方向に伸びるストライプ状の領域を残すようそれ以外の領域をエッチングして形成された、その側面が(1-10)面であるメサと、
該メサの上記(1-10)面からなる側面,及び該メサの側方に残された上記半導体成長層の(001)面からなる上面上にエピタキシャル成長させたp型InP埋込層,及び該p型InP埋込層の側面,及び上面上にエピタキシャル成長させたn型InP埋込層を含む埋込成長層とを備えた半導体装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]本願発明のメサの形成は、「ドライエッチング」により行われるのに対して、引用例1発明では「化学エッチング」である点。

[相違点2]本願発明のn型InP埋込層の層厚Dは、
【数1】

(但し、Hm:メサの高さ、Dp:p型InP埋込層の層厚、θ_(111):(111)B面と(001)面とのなす角、θ:(1-10)面,及び(001)面上での上記n型InP埋込層の成長レートをそれぞれRg(1-10),及びRg(001)としたとき、tanθ=Rg(1-10)/Rg(001) で決まる角度)と定義したとき
D≦Dn
を満たすのに対して、引用例1発明のn型InP埋込層の層厚は、n型InPクラッド層と上記n型InP埋込層とが分離されるように、上記(111)B面上に結晶が成長しないような厚さであるものの、数式1で求められるDn以下であるか不明である点。

4.判断
[相違点1]について
InP基板上にドライエッチングあるいはウェットエッチングのいずれかでメサを形成することは従来周知である。
例えば、上記引用例2の段落【0030】には、「メサエッチングは、ドライエッチング、ウェットエッチングのどちらを用いてもよい。ドライエッチングを用いた場合は、ドライエッチング後、表面の歪層を除去するため、燐酸系溶液等によるライトエッチングを行なうことが望ましい。」が、また、特開平5-13882号公報には、「【0037】図1(a)の工程においては、はじめ、n-InP基板1の上に、n-InPクラッド層2、ノンドープGaInAsP活性層3、p-InPクラッド層4aを順次成長させ、つぎに、p-InPクラッド層4aの上に、SiO_(2)からなるエッチング用のマスク31をストライプ状に形成し、その後、ドライエッチング法、ウエットエッチング法のごとき適当なエッチング手段を介してn-InP基板1上の各層2、3、4aをメサストライプに加工する。」が、さらに、特開平4-320083号公報には、「【0006】【実施例】以下、図面に示した実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。実施例1.図1は本発明にかかる半導体レーザ素子の一実施例の断面図であり、図中の符号は従来技術の説明に用いた図4と同一である。本実施例の製作方法を図2(a)?(c)を用いて以下に説明する。即ち、
1)MOCVD法により、n-InP基板1上にn-InPクラッド層2、ノンドープInGaAsP活性層3、p-InPクラッド層4を順次積層する。
2)次いで、SiO_(2)をマスクにして、フォトリソグラフィおよびケミカルエッチングにより、活性層3までエッチングを行い、メサを形成する。
・・・・中略・・・・
また、エッチング工程はケミカルエッチングとは限らず、ドライエッチングを用いてもよい。」などが記載されている。

上記周知技術に照らせば、引用例1発明において、化学(ウエット)エッチングに代えてドライエッチングを採用することは容易である。
この場合、ドライエッチングにより垂直に切られたメサ側面と底面とは非連続な面で接続されることになるが、かかる非連続な面において、埋込層のエピタキシャル成長がいかなる態様で可能であるのか引用例1発明には何ら教示がない。しかしながら、上記引用例2発明には、「メサストライプはドライエッチングにより垂直な側面と平坦部である底面とが形成されるとともに、メサストライプの側面は、エピタキシャル成長による高抵抗InP埋込み層により埋込まれており、上記高抵抗InP埋込み層の成長は、上記メサストライプの側面(01-1)と底面(100)とから始まり、(01-1)面が消失した時点で、(111)B面に成長面が移動するものである」ことが開示されており、上記非連続な面にあっても、引用例1発明におけるようなInP埋込層を形成可能であることが示唆されている、といえる。

したがって、上記相違点1は、引用例1発明、引用例2発明、及び上記周知技術に基づき容易に想到し得たものである。

[相違点2]について
本願発明において、上記相違点2の事項を採用する技術上の意義は、本願明細書の記載によれば以下のとおりである。
「【0017】(001)面上に成長したn型InP層7の層厚をDとし、このn型InP層7表面の(001)面と(111)B面とが連続した状態におけるDをDnとすると、DがDnより小さい場合と、Dnより大きい場合とでは、n型InP層7の成長形態が大きく異なる。キャリア濃度が一定という条件のもとで、このn型InP層7の成長形態がその層厚Dに依存して変化する様子を示したのが図3(a)-(c)であり、D<Dnの場合は、図(3a)に示すように、メサの側面には(111)B面と(1/10)面が現れており、メサ側方の結晶面上に現れている(001)面は(111)B面とは連続していないが、層厚Dが厚くなり、D=Dnとなると、図3(b)に示すように、(1/10)面が消滅し、(001)面は(111)B面と連続する面となる。さらに、D>Dnとなるまで成長を続けると、図3(c)に示すように、p型InP埋込層6表面の(111)B面上にもn型InP層7が成長する。半導体レーザを作製するためには、電流ブロック層として機能するn型InP層7上にp型の電流ブロック層を埋め込み成長させ、さらに上記SiO_(2)膜5を除去した後、全面に第2クラッド層及びコンタクト層を成長させるが、この際上記のようにp型InP埋込層6の(111)B面上にn型InP層7が成長していると、n型InP層7とn型InP第1クラッド層4との接触、いわゆるnつながりが発生し、これによりレーザ特性が著しく劣化する。
【0018】この発明は以上述べた知見に基づいてなされたものであり、図4に示すように、ドライエッチングによって形成された高さHmを有するメサ21を、厚さDpであるp型InP埋込層6,及びn型InP埋込層(電流ブロック層)7を順次成長させて埋め込む際に、p型InP埋込層6表面の(111)B面上にn型InP層7が成長しないように、このn型InP層7の(001)面上の厚さDを、D≦Dnとしたものである。」

上記によれば、n型InP層7の(001)面上の厚さDを、D≦Dnとした理由は、D>Dnとなるまで成長を続けると、p型InP埋込層6表面の(111)B面上にもn型InP層7が成長してしまい、その結果、n型InP層7とn型InP第1クラッド層4との接触が生じ、レーザ特性を劣化させることになるから、それを防止するためであることが理解できる。
そうすると、引用例1発明にも、本願発明におけるのと同様な理由でn型InP埋込層の層厚を規制する点、すなわち、
「上記p型InP埋め込み層を成長したときのメサストライプ側面には(111)B面が現れるが、上記p型InP埋め込み層の上に上記n型InP電流ブロック層を成長させる際には、上記n型InP電流ブロック層の層厚は、上記n型InPクラッド層と上記n型InP電流ブロック層とが分離されるように、上記(111)B面上に結晶が成長しないような厚さである」
との構成が備わっているのであるから、結局、引用例1発明におけるn型InP埋込層の層厚は、上記相違点2にかかる本願発明の構成を満足するものといえる。
したがって、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

また、本願発明の効果も引用例発明及び周知技術から予測される程度のことであって、格別とはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-15 
結審通知日 2007-11-20 
審決日 2007-12-05 
出願番号 特願平8-62413
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 知久  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 里村 利光
岩本 勉
発明の名称 半導体装置,及びその製造方法  
代理人 早瀬 憲一  

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