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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23Q
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B23Q
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23Q
管理番号 1171533
審判番号 無効2004-80102  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-07-14 
確定日 2008-01-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3527738号「データム機能付きクランプ装置及びその装置を備えたクランプシステム」の特許無効審判事件についてされた平成17年4月8日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の決定(平成17年(行ケ)第10469号、平成17年7月25日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3527738号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
1.本件特許第3527738号の請求項1?3に係る発明についての出願は、平成11年8月3日に出願した特願2002-192816号の一部を平成15年4月14日に新たな特許出願としたものであって、平成16年2月27日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
2.これに対して、平成16年7月14日に請求人パスカルエンジニアリング株式会社より、特許第3527738号の特許を無効とする、との審決を求める無効審判請求がなされた。
3.請求人より、平成16年9月22日付けで上申書が、平成17年2月1日付けで口頭審理陳述要領書及び弁駁書が、平成17年2月15日付けで上申書が、それぞれ提出された。
4.一方、被請求人より、平成16年10月1日付けで答弁書が、平成17年2月15日付けで口頭審理陳述要領書、第2口頭審理陳述要領書及び上申書が、それぞれ提出された。
5.平成17年2月15日に第1回口頭審理が行われた。
6.さらに、請求人より、平成17年2月21日付け及び平成17年2月28日付けで上申書が提出され、一方、被請求人より、平成17年2月28日付けで第2上申書が提出された。
7.平成17年4月8日付けで、特許第3527738号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする、との審決(以下、「一次審決」という。)がなされ、平成17年5月12日に当該審決の取消しを求める訴(平成17年(行ケ)第469号)が知的財産高等裁判所に提起された。平成17年7月19日に、訂正審判(訂正2005-39129号、平成17年8月29日にその取下登録がされた。)が請求され、それを受けて、平成17年7月25日に、知的財産高等裁判所において上記一次審決を取り消すとの決定がなされた。
8.平成17年8月18日に訂正請求がなされ、平成17年9月2日付けで訂正拒絶理由が通知された。
9.被請求人より、平成17年10月6日付けで意見書が、平成17年10月19日付けで第3上申書が、また、請求人より、平成17年10月6日付けで弁駁書が提出された。

第2.請求人の主張の概要
請求人は、証拠方法として甲第1?18号証を提示し、以下の理由により本件の請求項1?3に係る特許は無効とすべきであると主張する。

1.請求項1、2に係る訂正は、いずれも新規事項の追加に該当する。(平成17年10月6日付け弁駁書第3頁4行?第5頁24行)

2.請求項1には、「被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させ、」と記載されている。しかし、段落[0016]、図2?図4には、「データムリング4bの外周部が下向きに突設され、その環状の突設部の下面によって被支持面Tが構成されている。」と記載されており、ソケット穴11が被支持面Tに開口しているとは言い難い。したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。(審判請求書第28頁19行?26行、以下、「無効理由1」という。)

3.本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、甲第1?6号証記載の発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(以下、「無効理由2」という。)
請求項1、2に係る訂正が新規事項の追加に該当しないとしても、凸部を凹部に挿入する際に、凸部を案内するために凹部の内表面にガイド面を設けることは、甲第13号証図1、2の、プルスタット3を挿入するコレット6上端部の内周面にガイド面として機能するテーパ面、甲第15号証図5の、パレット9に固定されたテーパブッシュ41の内周面下端部にテーパ部材46の一部を受け入れる際にガイド面として機能するテーパ面、甲第18号証図1の、当接面9を含む孔と押圧面28aとの間であって押圧面28aの下方に位置するコーナ部の面取り部に示されるように、工作機械の技術分野においては周知・慣用技術であるから、訂正後の請求項1?3に係る発明も、甲第1?6号証記載の発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。(平成17年10月6日付け弁駁書第6頁6行?第10頁5行)

[証拠方法]
甲第1号証:特開平7-314270号公報
甲第2号証:特開昭64-11743号公報
甲第3号証:特開昭61-293749号公報
甲第4号証:特許第2784150号公報
甲第5号証:米国特許第4747735号公報
甲第5-1号証:甲第5号証要部の訳文
甲第6号証:実願昭59-83303号(実開昭60-194437号)のマイクロフィルム
甲第7号証:平成15年11月7日受付の早期審査に関する事情説明書
甲第8号証:特許第2571325号公報
甲第9号証:特開平8-132306号公報
甲第10号証:特開昭62-162440号公報
甲第11号証:株式会社牧野フライス製作所のカタログ「横形マシニングセンタ A55 Version D」
甲第12号証:特開平2-284838号公報
甲第13号証:特開平8-155770号公報
甲第14号証:米国特許第5370378号公報
甲第15号証:特開平11-333649号公報(公開日:平成11年12月7日)
甲第16号証:DIN69063-1の要部抜粋
甲第17号証:DIN69893-1の要部抜粋
甲第18号証:欧州特許出願公開第922529号公報
甲第18-1号証:甲第18号証の抄訳

第3.被請求人の主張の概要
1.訂正請求の適否に対して
(1)訂正後の請求項2に係る発明のようにソケット穴に位置決め孔とテーパガイド孔と係止孔とを開口端から順に形成した場合、プラグ部分と位置決め孔との間に配置されるシャトル部材が、その位置決め孔より奥側に形成されたテーパガイド孔を覆う構造とはならない。第1実施形態に記載されたテーパガイド孔の案内作用は、第2実施形態に当該テーパガイド孔が適用された場合でも同様に発揮されることも明らかである。(意見書第2頁12行?15行、26行?28行)
(2)本件明細書及び図面には、テーパガイド孔が形成されている第1実施形態と、テーパガイド孔が形成されていない第2実施形態と、の2つのバリエーションが開示されているのである。本件明細書及び図面の全体を総合的に判断すれば、第2実施形態(図5)において位置決め孔と係止孔との間を少し離す等の技術常識の範囲内の変更を加えて、第1実施形態のテーパガイド孔の配設位置の特徴を適用して、訂正後の請求項2の構成とし得ることは、当業者にとって自明である。本件明細書の2つの実施形態を含む書類内容全体を総合的に考慮すれば、第1実施形態の「テーパガイド孔」を第2実施形態に適用して訂正後の請求項2の構成とし得ることは、「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲」に書いてあるに等しい。(意見書第3頁9行?11行、第4頁4行?9行、第5頁2行?5行)

2.無効理由1(特許法第36条第6項第1号違反)に対して
本件特許明細書の[請求項1]に関して請求人が指摘する「被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、」という記載については、それと全く同じ文言が、本件特許の明細書の[発明の詳細な説明]の欄の【0004】に記載されている。従って、本件発明1が特許法第36条第6項第1号の要件を満たすことは明らかである。

3.無効理由2(特許法第29条第2項違反)に対して
被請求人は、証拠方法として、乙第1?18号証を提示し、以下の点から、本件発明1?3は甲第1?6号証記載の発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと主張する。
(1)本件発明の認定
本件各発明は、ツールホルダーを含むものではない。(第1回口頭審理調書の被請求人2.の項)
(2)「データム機能」の意味
本件各発明の「データム機能」は「心合わせ機能」と同義である。(平成17年2月15日付け口頭審理陳述要領書第2頁8行?第3頁17行)
(3)相違点の認定
本件各発明と甲第1号証記載の発明との相違点は、以下のとおりである。
〈相違点1:本件発明1?3共通〉
本件発明1?3は、ソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成するものであるのに対して、甲第1号証記載の発明は、ソケット穴に係止孔と位置決め孔とを設けるものではあるが、係止孔よりも開口端側と奥側(頂壁側)との両方に位置決め孔が配置されている点。
〈相違点2:本件発明1?3共通〉
本件発明1?3は、プルロッドを基端方向へクランプ駆動することによって可動部材を基準部材へ向けて移動させるものであり、また、プルロッドを先端方向へアンクランプ駆動するものであって、そのアンクランプ駆動により、プルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止めるものであるのに対して、甲第1号証記載の発明は、プルロッドを先端方向へクランプ駆動することによって可動部材を基準部材へ向けて移動させるものであり、また、プルロッドを基端方向へアンクランプ駆動するものであって、そのアンクランプ駆動されたプルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げず、そのアンクランプ状態では、前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止めるものではない点。
〈相違点3:本件発明1、3共通〉
本件発明1、3は、プラグ部分と位置決め孔との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し、そのシャトル部材の内周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の外周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を前記プラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を、前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔にテーパ係合させ、上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して、甲第1号証記載の発明は、シャトル部材を備えてなく、そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点。
〈相違点4:本件発明2、3共通〉
本件発明2、3は、プラグ部分と位置決め孔との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し、そのシャトル部材の外周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の内周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を前記の位置決め孔に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を、前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分にテーパ係合させ、上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して、甲第1号証記載の発明は、シャトル部材を備えてなく、そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点。
(平成17年2月15日付け口頭審理陳述要領書第5頁1行?第8頁8行)
(4)相違点1について
甲第1号証のテーパーピンは、上側テーパー面が薄く弾性変形し易く、根本側テーパー面が肉厚でフランジ部と一体形成され弾性変形し難いこと、根本側テーパー面にはクランプ用ボールの応力により半径方向内方への膨出部が形成されることから、実質的な位置決め孔としての機能は上側テーパー面が発揮する。したがって、甲第1号証記載の発明で、根本側テーパー面を位置決め孔とすることには、阻害要因がある。(答弁書第9頁23行?第12頁13行、平成17年2月15日付け口頭審理陳述要領書第20頁4行?第22頁8行)
(5)相違点2、3と甲第4、5号証の記載内容
シャトル部材及び弾性部材に関する本件発明1の構成(上記相違点3に係る本件発明1の構成)は、それを単独の構成要素と見た場合、甲第4号証に示されており、クランプ駆動及びアンクランプ駆動の動作に関する本件発明1?3の構成(上記相違点2に係る本件発明1?3の構成)は、それを単独の構成要素と見た場合、甲第5号証に示されている。(第1回口頭審理調書の被請求人1.の項)
(6)甲各号証記載の発明の組み合わせ
(i)甲第1号証記載の発明は、可動部材にソケット穴を開口し、基準部材にプラグ部分を凸設するパレットクランプ装置であり、一方、甲第4、5号証記載の発明は、基準部材の主軸に凹穴を開口し、可動部材の工具ホルダーに凸部を設けるツールホルダーであり、基本構成、技術分野を異にするから、甲第1号証記載の発明と甲第4、5号証記載の発明とを組み合わせることは容易ではない。(答弁書第32頁5行?第34頁1行、平成17年2月15日付け口頭審理陳述要領書第17頁11行?第19頁20行、第2口頭審理陳述要領書第1頁6行?第4頁2行)
(ii)甲第1号証記載の発明では、ボールのテーパ状底面に対する押厚点はメス側テーパーブッシュ端面の近傍であり、スリーブの配置スペースを確保できない。したがって、甲第1号証記載の発明の、環状溝よりも下側のテーパ穴に、甲第4号証記載のスリーブを適合させることへの阻害要因がある。(平成17年2月15日付け口頭審理陳述要領書第22頁9行?第24頁3行)
(iii)甲第1号証記載の発明と甲第5号証記載の発明とは、アンクランプ駆動の方向がまったく逆であり、しかも、両者を組み合わせるとすると、甲第1号証記載の発明で設けられているごみ等の進入防止用のキャップを取り外す必要があるから、甲第1号証記載の発明と甲第5号証記載の発明とを組み合わせることへの阻害要因がある。(答弁書第33頁7行?10行、平成17年2月15日付け口頭審理陳述要領書第24頁15行?第25頁18行)
(iv)甲第1?6号証のうちの少なくとも3文献以上の構成を組み合わせなければ本件各発明に到達できないとすると、それら多数の文献を組み合わせることは当業者が容易になし得ることではない。(答弁書第35頁14行?19行、平成17年2月15日付け口頭審理陳述要領書第25頁19行?第26頁7行)
(7)作用効果
本件各発明は、プラグ部分の軸心の撓み防止、高精度かつ強力な位置決め、異物の侵入の防止、可動部材の着脱の容易化、装置のコンパクト化といった顕著な作用効果を奏する。(答弁書第34頁8行?第35頁2行、平成17年2月15日付け口頭審理陳述要領書第26頁13行?20行)

4.一次審決に対して
(1)一次審決の甲号証記載の発明の認定について
(i)甲第2号証記載の発明は、『装置テーブル1に工作テーブル2を心合わせして上記の装置テーブル1に上記工作テーブル2を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において、装置テーブル1に固定した円筒形ハウジング3の上部外周部に設けた切頭円錐面15と工作テーブル2に固定した環状肩材19に固定支持されるリング22内面の円錐面25とが協働して心合わせを行うこと。』との認定では、切頭円錐面15と円錐面25とがどのように協働して心合わせを行うのか不明であるから、『装置テーブル1に工作テーブル2を心合わせして上記の装置テーブル1に上記工作テーブル2を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において、装置テーブル1に固定した円筒形ハウジング3の上部外周部に設けた切頭円錐面15と工作テーブル2に固定した環状肩材19に半径方向のスプリング26により固定支持されて軸方向に弾発動作するリング22内面の円錐面25とが協働して心合わせを行うこと。』と認定すべきである。(第3上申書第4頁3行?25行)
(ii)甲第4号証記載の発明は、『主軸1に工具ホルダー本体8を心合わせして上記の主軸1に上記工具ホルダー本体8を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において、工具ホルダー本体8と主軸1のテーパ孔2との間に、直径方向に拡大及び縮小されるスリーブ3を配置し、そのスリーブ3の内周面をストレート面によって構成すると共に同上スリーブ3の外周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を工具ホルダー本体8のシャンク部4に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を図1で左へ向けてすぼまるように形成すると共に前記のテーパ孔2にテーパ係合させ、上記スリーブ3を弾性部材6によって上記テーパ係合を緊密に付勢すること。』との認定では不正確であるから、『主軸1に工具ホルダー本体8を心合わせして上記の主軸1に上記工具ホルダー本体8を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において、主軸1にセット孔を開口させ、そのセット孔にテーパ孔2を形成し、上記セット孔へ挿入されるシャンク部4を工具ホルダー本体8から突設させ、上記のシャンク部4と上記のテーパ孔2との間に、直径方向に拡大及び縮小されるスリーブ3を配置し、そのスリーブ3の内周面をストレート面によって構成すると共に同上スリーブ3の外周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を工具ホルダー本体8のシャンク部4に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を主軸1側へ向けてすぼまるように形成すると共に前記のテーパ孔2にテーパ係合させ、上記スリーブ3を弾性部材6によって上記テーパ係合を緊密に付勢すること。』と認定すべきである。(第3上申書第4頁最下行?第6頁23行)
(iii)甲第5号証記載の発明は、『ツール支持部材34にツールホルダ10のシャンク14を固定するようにしたクランプ装置において、ロックロッド38を基端方向へクランプ駆動することによってシャンク14をツール支持部材へ向けて移動させるものであり、また、ロックロッド38を先端方向へアンクランプ駆動するものであって、そのアンクランプ駆動により、ロックロッド38がシャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記のシャンク14を上記ロックロッド38を介してツール支持部材34に受け止めること。』との認定から、開示のない「そのアンクランプ駆動により、ロックロッド38がシャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記のシャンク14を上記ロックロッド38を介してツール支持部材34に受け止める」の部分を削除して認定すべきである。(第3上申書第6頁25行?第7頁16行)
(2)一次審決の相違点の認定について
(i)相違点1?3においては、「プラグ部分」は「基準部材から突設させたプラグ部分」と、「ソケット穴」は「可動部材の被支持面に開口させたソケット穴」に、「位置決め孔」は「可動部材に設けられた位置決め孔」に、「係止孔」は「可動部材に設けられた係止孔」として認定すべきである。(第3上申書第7頁19行?第8頁6行)
(ii)相違点3の「・・・そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない」との認定は、「・・・そのシャトル部材とプラグ部分とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない」の誤りである。(第3上申書第8頁7行?10行)
(3)一次審決の相違点の判断について
(i)相違点1の判断において、甲第5号証記載の「シャンク14の円筒部の内部空間」は、被支持面に相当する「後向き面16」に開口されていないから、被支持面に開口される「ソケット穴」に相当するものではなく、したがって、「シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68」は本件発明1?3の「ソケット穴の頂壁」というべきものではなく、よって、甲第5号証には、「プルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げ」の事項が示されていない。(第3上申書第10頁3行?12行)
(ii)甲第4号証記載の事項の認定には、「プラグ部分と位置決め孔との間にシャトル部材を配置」、「ストレート面を前記プラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持」、及び「テーパ面を、前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成する」との事実誤認がある。(第3上申書第10頁16行?第12頁11行)
(iii)米国特許商標庁及び欧州特許庁は、本件発明と甲第4号証との技術的な相違点を明確に判断し、回転可能なチャックに切削工具を固定することを指向する甲第4号証記載の発明と機械テーブルにワークパレットを固定することを指向する文献とは、類似の構造を備えていないから、両者を組み合わせることはできないと判断している。(第3上申書第12頁13行?第14頁6行)
(iv)甲第1号証と甲第4号証の構成は凹凸が互いに逆であり、両者を組み合わせることは、甲第4号証の凹凸を逆にする必要があり、容易ではない。(第3上申書第14頁19行?第15頁13行)
(v)甲第1号証の発明は、複数のクランプ装置の少なくとも一つとして用いられるクランプ装置であって、素材自体の弾性変形を利用して二面拘束させる構造である。甲第4号証の発明は、工作機械の主軸に一つだけ装着される工具ホルダをクランプする装置であって、甲第1号証の発明と比べると、クランプ装置の製作コストが増加する上、部品の累積加工誤差も大きくなるという問題がある。そうすると、甲第1号証の発明に、本質部分が全く別種であり、単独でしか用いられない甲第4号証のクランプを適用する動機付けがない。(第3上申書第15頁15行?第18頁14行)
(vi)シャトル部材のストレート面を基準部材のプラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持する、シャトル部材のテーパ面をワークパレットの係止孔へ向けてすぼまるように形成する、シャトル部材のテーパ面をワークパレットの位置決め孔にテーパ係合させるといった本件発明1のシャトル部材の配置構造、また、これと同様の本件発明2のシャトル部材の配置構造は、甲各号証に示されていない。(第3上申書第18頁16行?第19頁7行)
(vii)ワークパレットのクランプに関する刊行物1記載の発明と、スピンドルに固定されるツールホルダーに関する刊行物3、4記載の発明とは、根本的に異なるから、両者を組み合わせることには、その動機付けがなく、容易に想到するものではない。(第3準備書面第24頁5行?第26頁1行)

[証拠方法]
乙第1号証:JIS B 6340-1992(マシニングセンター主軸端の形状・寸法に関する日本工業規格)
乙第2号証:JIS B 6339-1998(マシニングセンターツールシャンク及びプルスタッドに関する日本工業規格)
乙第3号証:大阪地裁平成16年(ワ)第10187における被告準備書面(3)
乙第4号証:相生精機株式会社のカタログ「7MPa series PASCALPAL SYSTEM」
乙第5号証:平成17年(行ケ)第10075号判決
乙第6号証:欧州特許第1078713号公報
乙第7号証:米国特許第5716173号明細書
乙第8号証:欧州特許第1078713号に対する特許異議申立ての却下決定書
乙第9号証:乙第8号証の翻訳文
乙第10号証:米国特許第6527266号明細書
乙第11号証:米国特許第6527266号についての再審査請求に対する特許維持通知書
乙第12号証:乙第11号証の翻訳文
乙第13号証:特許第3466725号公報
乙第14号証:特許第3576207号公報
乙第15号証:株式会社森精機製作所のカタログ「NH6300 DCG」の抜粋
乙第16号証:特公昭47-5197号公報
乙第17号証:実開昭60-143628号公報
乙第18号証:実開昭61-141034号公報

第4.訂正請求の適否について
1.訂正の内容
被請求人の求める訂正には、以下の訂正事項が含まれている。
「本件出願の設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項2を、
『基準部材(R)に可動部材(M)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記の可動部材(M)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記の可動部材(M)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、
上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記の位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記の可動部材(M)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容すると共に、上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記の可動部材(M)を上記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるように構成した、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。』から、
『機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材にワークパレットを固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも1つとして用いられて、上記の基準部材(R)に上記ワークパレットを心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレットの被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記ワークパレットの上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)とテーパガイド孔と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、その係止孔より上記開口端の側だけに上記テーパガイド孔を形成し、上記の係止孔より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔を形成し、 上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記の基準部材の上記プラグ部分(21)と上記ワークパレットの上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し、上記シャトル部材の上記のストレート面(27)を上記ワークパレットの前記の位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記シャトル部材の上記のテーパ面(28)を、上記ワークパレットの前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に上記の基準部材の前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記ワークパレットを前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容すると共に、上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記ワークパレットを上記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるように構成し、 前記の基準部材に前記ワークパレットを装着するときには、前記アンクランプ状態において、先ず、上記プラグ部分が上記テーパガイド孔を介して前記ワークパレットを案内し、引き続いて、前記ワークパレットを上記プルロッドを介して上記の基準部材に受け止め、次に、前記駆動手段によって上記プルロッドを基端方向へクランプ駆動することにより、上記シャトル部材と前記の位置決め孔を介して前記ワークパレットを精密に心合わせするように構成した、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。』と訂正する。」(当該訂正事項を、以下、被請求人が訂正請求書で記載するとおり、「訂正事項2」という。)

2.当審の判断
(1)訂正事項2のうち、
(2a)第1段落の先頭に、「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材にワークパレットを固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも1つとして用いられて、上記の」を加えること、
(2b)第1段落の「基準部材(R)に」の後の「可動部材(M)]を「上記ワークパレット」とすること、
(2c)第1段落の「上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記」の後の「の可動部材(M)]を「ワークパレット」とすること、
(2d)第2段落の先頭の「上記」の後の「の可動部材(M)」を「ワークパレット」とすること、
(2g)第4段落の先頭に「上記の基準部材の」を加え、「上記プラグ部分(21)と」の後に「上記ワークパレットの」を加え、「・・・テーパ面(28)によって構成し、」の後に「上記シャトル部材の」を加え、「上記のストレート面(27)を」の後に「上記ワークパレットの」を加え、「・・・軸心方向へ移動自在に支持し、」の後に「上記シャトル部材の」を加え、「上記のテーパ面(28)を、」の後に「上記ワークパレットの」を加え、「・・・すぼまるように形成すると共に」の後に「上記の基準部材の」を加えること、
(2h)第6段落の「・・・係合させて、前記」の後の「の可動部材(M)」を「ワークパレット」とすること、及び、
(2i)第7段落の「・・・そのアンクランプ状態では、前記」の後の「の可動部材(M)」を「ワークパレット」とすることは、いずれも本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであると認められる。
なお、上記の(2a)等、下記の(2e)等の符号は、被請求人が訂正請求書中で使用する符号をそのまま使用した。

(2)そこで、訂正事項2のうちの残余の事項、すなわち、
(2e)第2段落の「・・・そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と」の後に「テーパガイド孔と」を加えること、
(2f)第2段落の「・・・開口端から順に形成し、」の後に「その係止孔より上記開口端の側だけに上記テーパガイド孔を形成し、上記の係止孔より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔を形成し、」を加えること、及び、
(2j)第7段落の「・・・受け止めるように構成し」の後に「、 前記の基準部材に前記ワークパレットを装着するときには、前記アンクランプ状態において、先ず、上記プラグ部分が上記テーパガイド孔を介して前記ワークパレットを案内し、引き続いて、前記ワークパレットを上記プルロッドを介して上記の基準部材に受け止め、次に、前記駆動手段によって上記プルロッドを基端方向へクランプ駆動することにより、上記シャトル部材と前記の位置決め孔を介して前記ワークパレットを精密に心合わせするように構成し」を加えることが、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであるか否かについて、以下検討する。

(3)被請求人は、(2e)、(2f)及び(2j)の訂正根拠として、本件特許明細書中の以下の記載をあげている。
(3-1)(2e)の訂正根拠
(イ)段落【0016】の「そのソケット穴11は、前記の第1データムリング4bに前記テーパ位置決め孔12とテーパ係止孔13とを下側から順に形成してなる。」との記載、
(ロ)段落【0022】の「前記ソケット穴11のテーパガイド孔11b」との記載、及び
(ハ)図2の記載
(3-2)(2f)の訂正根拠
(ハ)図2の記載
(3-3)(2j)の訂正根拠
(ニ)段落【0015】の「その図2は、前記のクランプパレット2に前記ワークパレット3を装着し始めた状態を示している。図3は、上記クランプパレット2に上記ワークパレット3を装着した状態を示している。」との記載、
(ホ)段落【0022】の「上記の第1クランプ装置4は、図2から図4に示すように、次のように作動する。」との記載、
(ヘ)段落【0022】の「そして、上記の図2に示すように、前記クランプパレット2に対して前記ワークパレット3が下降したときには、前記ソケット穴11のテーパガイド孔11bが前記プラグ部分21のテーパガイド面21bによって案内されるので、上記ソケット穴11の軸心が前記プラグ部分21の軸心とほぼ一致する。」との記載、
(ト)段落【0023】の「前記のワークパレット3がさらに下降すると、・・・図3に示すように、前記ソケット穴11の頂壁11aが前記プルロッド31の上面に接当して、そのプルロッド31によって上記ワークパレット3が受け止められる。」との記載、
(チ)段落【0025】の「上記の図3の状態で前記の油圧室18の圧油を前記の給排路48から排出すると、前記クランプバネ19がピストン17を介してプルロッド31を強力に下降させていく。」との記載、
(リ)段落【0026】の「・・・前記のテーパ位置決め孔12が前記シャトル部材23のテーパ面28に強力にテーパ係合して調心移動されて、そのテーパ位置決め孔12の軸心が前記プラグ部分21の軸心に精密に合致する」との記載、及び、
(ヌ)段落【0032】の「また、前記ワークパレット3に形成した前記ソケット穴11の位置決め孔12はストレートに形成されている。そのストレート位置決め孔12に、前記シャトル部材23の外周のストレート面27が上下移動自在に支持される。・・・上記シャトル部材23の内面に形成したテーパ面28が前記プラグ部分21の外周面にテーパ係合している。」との記載。

(4)ところで、本件特許の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0010】には、「【発明の実施の形態】 図1から図4は、本発明の第1実施形態を示している。・・・図2は、上記データム機能付きクランプ装置の立面視の断面図である。」と記載され、第1実施形態を説明する段落【0019】には、「・・・上記の環状のシャトル部材23は、その内周面をストレート面27によって構成すると共に外周面をテーパ面28によって構成してあり、・・・」と記載されている。
そして、段落【0031】には、「図5は、本発明の第2実施形態を示し、前記の図4に相当する図である。・・・」と記載され、第2実施形態を説明する段落【0032】には、「・・・前記シャトル部材23の外周のストレート面27が上下移動自在に支持される。・・・上記シャトル部材23の内面に形成したテーパ面28が前記プラグ部分21の外周面にテーパ係合している。・・・」と記載されている。
そうすると、被請求人が訂正根拠としてあげる、上記(3)の(イ)?(ヌ)の記載は、上記(2e)の「ソケット穴にテーパガイド孔」を形成し、(2f)の「その係止孔より上記開口端の側だけに上記テーパガイド孔を形成し」、及び、(2j)「前記の基準部材に前記ワークパレットを装着するときには、前記アンクランプ状態において、先ず、上記プラグ部分が上記テーパガイド孔を介して前記ワークパレットを案内し」との事項を、シャトル部材が、「その内周面をストレート面27によって構成すると共に外周面をテーパ面28によって構成」する第1実施形態、すなわち、訂正前の請求項1に係る発明が備えていることの根拠となるが、シャトル部材が、「その外周面をストレート面27によって構成すると共に内周面をテーパ面28によって構成」する第2実施形態、すなわち、訂正前の請求項2に係る発明が備えていることの根拠たり得ない。
そして、訂正前の請求項2に係る発明に相当する第2実施形態を示す段落【0031】、【0032】及び図5には、「テーパガイド孔」は記載されていない。
さらに、訂正前の請求項2に係る発明は、「シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し、・・・上記のテーパ面(28)を・・・前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ」ることから、シャトル部材が、プラグ部分ではなくワークパレットのソケット穴に設けられることは明らかであり、そうすると、第1実施形態を示す図2?4のように、テーパガイド孔が位置決め孔に連続してその上部に形成される構造を、そのまま第2実施形態を示す図5のソケット穴に適用したとすると、当該テーパガイド孔をシャトル部材が覆う構造となるから、プラグ部分がテーパガイド孔を介してワークパレットを案内することはあり得ない。
また、被請求人の主張するように、第2実施形態を示す図5のソケット穴の構造に所要の変更を加えれば、シャトル部材及び弾性部材が位置決め孔12を覆う形で存在しても、ワークパレットを案内するテーパガイド孔をソケット穴に形成することは可能ではあるものの、上記所要の変更は、シャトル部材の影響を受けずに、ワークパレットを案内する機能を発揮するテーパガイド孔とするように、図5における係止孔13、位置決め孔12を含むソケット穴の構造を大きく変化させる必要があることから、本件特許明細書の記載等から自明な事項であるとは言い難い。
したがって、訂正事項2中の(2e)、(2f)及び(2j)は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものではない。

3.むすび
したがって、上記(2e)、(2f)及び(2j)を含む訂正事項2は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合しないから、本件訂正は認められない。

第5.無効理由1(特許法第36条第6項第1号違反)についての判断
本件特許明細書の段落【0016】には、「第1データムリング4bの外周部が下向きに突設され、その環状の突設部の下面によって被支持面Tが構成されている。」と記載されており、そのような構造が図2?4に示されている。しかしながら、ワークパレット3と第1データムリング4bとはボルト9で一体化されており、また、両者を二部材で設け一体化するかわりに、そもそも一部材で構成してもよいことは自明であり、そうすると、ワークパレット3と第1データムリング4bとの一体化されたものが可動部材Mであって、第1データムリング4bは可動部材Mの一部というべきである。また、本件特許明細書の段落【0004】には、「上記の可動部材Mの上記の被支持面Tにソケット穴11を開口させて・・・」と記載されている。
そうすると、請求項1の「上記の可動部材Mの上記の被支持面Tにソケット穴11を開口させて」との事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されている事項である。
したがって、請求人の主張する無効理由1は理由がない。

第6.無効理由2(特許法第29条第2項違反)についての判断
1.本件発明
本件発明1?3は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?3にそれぞれ記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
〈本件発明1〉
「基準部材(R)に可動部材(M)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記の可動部材(M)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記の可動部材(M)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、
上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の外周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記プラグ部分(21)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔(12)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記の可動部材(M)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容すると共に、上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記の可動部材(M)を上記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるように構成した、
ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」
〈本件発明2〉
「基準部材(R)に可動部材(M)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記の可動部材(M)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記の可動部材(M)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、
上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し、
上記のストレート面(27)を前記の位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記の可動部材(M)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容すると共に、上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記の可動部材(M)を上記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるように構成した、
ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」
〈本件発明3〉
「請求項1又は2に記載したデータム機能付きクランプ装置を少なくとも一つ備える、ことを特徴とするクランプシステム。」

なお、被請求人は、本件各発明はツールホルダーを含むものではないと主張する(第3.2.(1)を参照)。しかし、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は明確であって、発明の詳細な説明を参酌して、ツールホルダーを含まないパレットクランプ装置に限定して解釈すべき理由もないから、上記被請求人の主張は採用しない。

2.甲各号証記載の発明(事項)
(1)甲第1号証
甲第1号証(発明の名称「パレットのクランプ装置」、平成7年12月5日公開)には、以下の事項が記載されている。
(イ)段落【0019】?【0020】
「【0019】 マシニングセンタ等では、1台のテーブル1に対して通常複数個(例えば12個)のパレット20が使用されており、テーブル1に対してパレット20をAPCにより順次交換して、パレット20上に載置されたワーク21を加工するようになっている。
したがって、各パレット20相互の互換性、即ち全てのパレット20が常にテーブル1に対して例えば水平,垂直両方向に関して高精度にクランプされることが要求されている。
パレット20は、パレットのクランプ装置22によりテーブル1に着脱可能にクランプされており、上述のようにテーブル1を割出すことによりワーク21は所定の位置及び方向に位置決めされる。
【0020】 図1及び図2に示すように、クランプ装置22は、少なくとも4組のクランプ機構30,31を備えている。クランプ機構30,31は、パレット20の裏面23側に設けられたパレット側装着部24のメス側テーパ穴25及び端面26に、テーブル1に設けられたオス側テーパ面27及び端面28をそれぞれ密着させて、パレット20をテーブル1に着脱可能に装着している。これにより、パレット側装着部24はテーブル1に対してテーパ面部と端面部との二面拘束によりクランプされる。」
(ロ)段落【0024】?【0026】
「【0024】 凹部32は、パレット裏面23に設けられた突出部36に形成されており、凹部32内に装着されたメス側テーパブッシュ34は、複数の締付けボルト37により突出部36に締結固定されている。
テーパブッシュ34のフランジ部38と突出部36との間には厚みの微調節が可能なスペーサ39が介装されており、これにより、テーパブッシュ34をパレット20に対して縦方向(例えば、上下垂直方向即ちY軸方向)に関して精密に位置決め固定している。
【0025】 オス側テーパ面27及び端面28を有するオス側テーパピン40が、複数の締付けボルト41によりテーブル1に位置決め固定されている。テーパピン40の下方には円筒状突出部42が一体的に形成されており、この突出部42が、テーブル1に形成された大径シリンダ43に嵌合することにより、テーパピン40は水平方向について精密に位置決めされている。
また、テーパピン40のフランジ部44とテーブル1の上面46との間に、厚みの微調節が可能なスペーサ45を介装することにより垂直方向についても精密に位置決めしている。
【0026】 テーパブッシュ34及びテーパピン40は、テーパ穴25にテーパ面27が密着し、且つ平面状のメス側端面26に平面状のオス側端面28が密着して二面拘束状態になるように高精度に形成されている。」
(ハ)段落【0029】?【0030】
「【0029】 テーブル1には、大径シリンダ43に連通し且つこれと同心の小径シリンダ50が形成されている。Y軸方向に往復動するピストン51が小径シリンダ50及びテーパピン40の内周面40aに摺動自在に嵌合している。ピストン51の下側のシリンダ室52及び上側のシリンダ室53には、それぞれ圧力油を供給してピストン51を押し上げるための流路54及びピストン51を押し下げるための流路55がそれぞれ連通している(図1参照)。
小径シリンダ50の下方には、これに連通し且つ同心で小径の有底凹部56が形成されている。有底凹部56とピストン51の凹部51aとの間にはばね(例えばコイルばね)57が介装されてピストン51を常にクランプ動作側すなわち上方に付勢している。
【0030】 テーパピン40に放射状に形成された複数(例えば3個)の貫通孔65内にはそれぞれボール58が遊嵌されている。各ボール58は、テーパピン40の半径方向に移動可能になっており、またテーパブッシュ34に形成された環状溝59内に移動できるようになっている。ピストン51の上部には、ボール58に接触してこれを半径方向に進退移動させるためのテーパ面61が形成されている。
テーパピン40の上端開口部は、ごみ等の侵入防止のためのキャップ47により密閉されており、キャップ47にはエアーブロー用の小孔48が穿設されている。」
(ニ)段落【0033】
「【0033】 また、本実施例ではクランプ動作中にボール58がテーパブッシュ34のテーパ状底面60を押圧する押圧点Sが、互いに密着する両端面26,28の近傍に位置するようになっている。また、各押圧点Sはクランプ機構30,31の中心位置から半径方向外方にかなり離れた位置にある。従って、テーパピン40に対してテーパブッシュ34が傾くことなく安定した姿勢で装着されることとなり、位置決め精度が向上する。」
(ホ)段落【0034】?【0038】
「【0034】 次に、クランプ装置22の動作について説明する。
上述のようにパレット中心Cを基準にして各クランプ機構30,31が予め正確に位置決めされたパレット20が図示しないAPCによりテーブル1に運ばれ、パレット側装着部24をテーブル1のテーパピン40に嵌合させる。
【0035】 次いで、油圧装置を動作させて流路54を介して圧油を下側シリンダ室52に供給すると、ピストン51は油圧とばね57のばね力により押し上げられる。すると、ピストン上部のテーパ面61に押圧されたボール58が、テーパピン40の半径方向外方に押されて、環状溝59側に移動する。ボール58は、テーパピン40の貫通孔65内に遊嵌されているので、貫通孔65の上部内周面66に当接した状態でテーパブッシュ34のテーパ状底面60を矢印Pに示すように略下方に押圧する。これにより、テーパブッシュ34はテーパピン40側に強く引っ張られる。
こうしてピストン51が十分に上昇すると、ボール58の押圧力を介してテーパブッシュ34とテーパピン40とはテーパ面部と端面部とが二面拘束状態で強い圧力で密着してクランプ状態となる。その後、ワーク21を加工する作業工程に移行する。
【0036】 次に、アンクランプ動作の際には、流路54を開放し流路55から圧油を上側シリンダ53に供給する。すると、ピストン51はばね57のばね力に抗して下方に押し下げられるので、ボール58は開放されてピストン51側に移動し、これによりクランプ装置22はアンクランプ状態になり、パレット20はAPCによりテーブル1から離脱する。
【0037】 従って、本実施例によれば、テーパ面部と端面部との二面拘束によりパレット20をテーブル1に装着しているので、横方向(水平方向)と縦方向(上下方向)双方の繰り返し位置決め精度が高精度になる。また、テーパ面部に加えて端面部も密着するので、パレット20をテーブル1に強いクランプ力でクランプすることができる。
【0038】 このように、クランプ装置22は、テーブル1に対して各パレット20を常に正確な位置に繰り返し位置決めする機能と、ワーク21の加工作業中にパレット20に加わる反力に対してパレット20を強固にクランプする機能とを具備することとなる。よって、ワーク21を常に高精度で加工することができる。」
これらの摘記事項及び図3の記載からみて、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
『テーブル1に、メス側テーパブッシュ34を一体化したパレット20を心合わせして上記のテーブル1の端面28に上記のパレット20の端面26を固定するようにしたクランプ装置22であって、
上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて、その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し、
上記凹部へ挿入される環状のオス側テーパピン40を上記のテーブル1から突設させ、
上記のオス側テーパピン40の筒孔21aにピストン51を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのピストン51の外周空間に、半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動されるボール58を配置し、
上記のテーブル1に設けた圧力油流路54、55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を先端方向へクランプ駆動することにより、そのピストン51のテーパ面61が上記のボール58を上記の係合位置へ切り換えて前記の環状溝59へ係合させて、前記のパレット20を前記のテーブル1へ向けて移動させ、
同上の圧力油流路54、55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を基端方向へアンクランプ駆動することにより、同上のボール58が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した、
クランプ装置22、及び、
当該クランプ装置22を複数備えるクランプシステム。』

(2)甲第2号証
甲第2号証(発明の名称「2つの物体を相互に取外し可能にかつ繰返し可能にクランプするための装置」、昭和64年1月17日公開)の第2頁右下欄14行?第3頁右上欄15行には、以下のとおり記載されている。
「[実施例」
・・・図面において、1は装置テーブルを示し、2は工作テーブルまたは固定台を示す。工作テーブル1(「装置テーブル1」の誤記と認められる。)には・・・円筒形ハウジング3が固定される。・・・
ハウジング3にはさらに上部外周部に切頭円錐面15・・・が設けられる。
工作テーブル(固定台)2は・・・その縁部には環状の肩材19が設けられる。・・・この環状肩材19のフランジ部19’にはリング22が固定される。この環状肩材19,19’は・・・工作テーブル2に固定される。リング22の内面にはハウジング3の円錐面15と協働するための円錐面25が形成される。リング22はその外周部に2つの半径方向のスプリング26を有し、これらのスプリングによりリング22が肩材19,19’内に固定支持される。これらのスプリング26の配置により、リング22従ってその円錐面25がZ方向すなわち前述の軸16と平行な方向に弾発動作可能となる。」
上記の摘記事項及び図1の記載からみて、甲第2号証には、次の事項(以下、「甲第2号証記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
『装置テーブル1に工作テーブル2を心合わせして上記の装置テーブル1に上記工作テーブル2を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において、
装置テーブル1に固定した円筒形ハウジング3の上部外周部に設けた切頭円錐面15と工作テーブル2に固定した環状肩材19に固定支持されるリング22内面の円錐面25とが協働して心合わせを行うこと。』

なお、被請求人は、上記認定の内の「環状肩材19に固定支持されるリング22内面の円錐面25とが協働して心合わせを行う」の部分は、「環状肩材19に半径方向のスプリング26により固定支持されて軸方向に弾発動作するリング22内面の円錐面25とが協働して心合わせを行う」と認定すべきと主張する(第3.4.(1)(i)参照)。しかしながら、当該甲第2号証記載の事項の認定は、本件発明及び主引例とする甲号証記載の発明との関連において行えばよいから、被請求人の上記主張は採用しない。

(3)甲第4号証
甲第4号証(発明の名称「工具ホルダー」、平成10年8月6日発行)には、以下の事項が記載されている。
(イ)段落【0017】?【0021】
「【0017】【実施例】 以下、本発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1において、本発明の工具ホルダーは、工作機械の主軸1 のテーパ孔2 に嵌合するスリーブ3 と、該スリーブ3 に軸方向相対移動を許容されて挿通されたシャンク部4 と、該シャンク部4 と一体的に設けられて前記主軸の端面に当接するフランジ部5 と、該フランジ部5 と前記スリーブ3 との間に設けられた弾性部材6 とを有する。
・・・
【0019】 前記スリーブ3 は、内外周面を有するリング状体で、その外周面がテーパ面に形成され、その内周面はストレート面に形成されている。このテーパ面のテーパ角度は、前記主軸1 のテーパ孔2 のテーパ角度と同じとされている。このテーパは、一般的な傾きとして採用される7/24(約16°)、好ましくは12°より緩傾斜で行われるようにしてある。本実施例では1/10の傾き(約6°)を採用した。
・・・
【0021】 前記フランジ部5 のシャンク部側の端面は、前記工作機械の主軸1 の端面に面接当する平坦面に形成されている。そして、このフランジ部5 の平坦面の内周部側に、弾性部材取付座11が形成されている。この取付座11は、前記平坦面に凹設された環状凹部からなる。
図2に示すように、前記弾性部材6 は、環状に形成され、前記取付座11の凹部に収納され、そして、前記スリーブ3 の端面に当接している。そして、環状弾性部材6 の内周面は、前記シャンク部外周面に密着状に接触し、その外周面は、取付座11の凹部内周面と所定の間隙を有している。」
(ロ)段落【0031】
「【0031】 このとき、スリーブ3 は弾性部材6 の圧縮による反発力により軸方向に押圧され、該押圧力により、スリーブ3 のテーパ面と主軸1 のテーパ孔2 とのテーパ接触結合が得られる。そして、このテーパ接触による締め付けによりスリーブ3 の内径は縮径し、シャンク部4 を強固に把持する。・・・」
これらの摘記事項及び図1の記載からみて、甲第4号証には、次の事項(以下、「甲第4号証記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
『主軸1に工具ホルダー本体8を心合わせして上記の主軸1に上記工具ホルダー本体8を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において、
工具ホルダー本体8と主軸1のテーパ孔2との間に、直径方向に拡大及び縮小されるスリーブ3を配置し、そのスリーブ3の内周面をストレート面によって構成すると共に同上スリーブ3の外周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を工具ホルダー本体8のシャンク部4に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面をその先端へ向けてすぼまるように形成すると共に前記のテーパ孔2にテーパ係合させ、上記スリーブ3を弾性部材6によって上記テーパ係合を緊密に付勢すること。』

(4)甲第5号証
甲第5号証(発明の名称「ツールホルダ及び解除可能な搭載方法」、1988年3月31日発行)の第3欄55行?第5欄20行には、以下の事項が記載されている。
「図2を参照すると、ツールホルダ10は、ツール支持部材34にロック部材36を介して弾性的に搭載(すなわちロックアップ)されている。・・・上記のロック部材36とロックロッド38と本体42との組み合わせによりロック機構が構成されている。
・・・ロックロッド38の前端には2つの円筒凹部状の当接傾斜路44が形成され、ロックロッド38が引っ張られて図2に示す後退位置に保持される時、上記の当接傾斜路44が、本体42の開口部24を通して球体36を外側へ移動させる。ツールホルダを取り外す為にロックロッド38が前側へ押動されたとき、球体36は凹部46に受容され、ツールホルダを取り外し可能になる。
ロック状態では、ロックボール(36)は傾斜路44により外側へ移動しているため、ロックボールは、開口部24における前向き凹状当接面26と、本体42の開口部48における後向き凹面50に当接する状態に駆動される。こうして、ツール支持部材34の穴51に挿入されているツールホルダ10のシャンク14に対して、後向き成分と径方向外向き成分のある力が作用する。
この力の後向き成分が、X-X軸回りの、第1回転面20を穴の前向き回転面52に嵌合させる。この前向き回転面52は、半径方向内側に面しており、後方側に向かって小径化するようにテーパになっており、図示のように好ましくは円錐状であり、シャンク14の第1回転面20と同じ角度でテーパ化している。シャンク14の第1回転面20と穴の前向き回転面52は、弾性的に密着し、ツールホルダ6の後向き面16がツール支持部材34の前向き面54に当接する。シャンク14に作用する前記の力の径方向外向き成分は、第2回転面22の少なくとも一部・・・を弾性的に拡大させて、X-X軸回りの後向き回転面56に密着させる。穴の内周面56は、シャンク14の円周面22に完全に密着させるために、好ましくは凹状円周面に形成される。
・・・図2に示すように、本体42はツール支持部材34の穴に係合され、それをツール支持部材34に連結する4つのボルト58により固定されている。ロックロッド38とロック部材36は、ロック状態では自己調心するように、本体の通路40と半径方向開口48に夫々緩く係合している。
ツールホルダのシャンクがない状態では、ロック部材はロックロッド38と穴51により、夫々の開口に緩く保持されている。開口48がある所の本体42の外径に関して、それと本体42の穴直径との間の間隔は、開口48から突き出したロック部材36が、シャンク48の端部が挿入された際に開口側へ押し戻されるように、十分小さくなるように設定されている。ロックロッド38は、ロックロッドに固定した長円形ラグ60を本体42に形成した長円形リセス62に収容してなるキーとキー溝との係合により回転しないように通路40に保持されている。
ロックロッド38の後端には、ロックロッド38を一般的な手段により往復運動させる為のネジ部材64が設けられ、ロックロッド38をツール支持部材34に対して後退位置に保持してシャンクをロックし、また、ロックロッドを前進位置に移動させてシャンクをアンロックしてから、ロックロッドの前端の当接面66を、シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68に当接させることにより、シャンクをツール支持部材34から前方へ離脱させる。
図2に示す一般的な往復運動手段は、ロックロッド38のネジ部材64に螺合されたトルクナット69であって、本体42の後端部分の内部に回転自在に収容されてスラストニードルローラベアリング71付きの上下のスラストワッシャ70間に支持されたトルクナット69からなるトルクナットユニットである。このトルクナットユニットの全体は、環状肩部72と係止リング74との間に軸方向には移動しないように保持されている。トルクナット69の後端部75は、回転駆動される一般的な回転部材(図示略)に連動連結されてトルクナット69を回転させ、これによりロックロット38を前進させたり後退させたりする。」
上記の摘記事項及び図2の記載からみて、甲第5号証には、次の事項(以下、「甲第5号証記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
『ツール支持部材34にツールホルダ10のシャンク14を固定するようにしたクランプ装置において、
ロックロッド38を基端方向へクランプ駆動することによってシャンク14をツール支持部材へ向けて移動させるものであり、また、ロックロッド38を先端方向へアンクランプ駆動するものであって、そのアンクランプ駆動により、ロックロッド38がシャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記のシャンク14を上記ロックロッド38を介してツール支持部材34に受け止めること。』

なお、被請求人は、上記の認定から、甲第5号証には開示のない「そのアンクランプ駆動により、ロックロッド38がシャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記のシャンク14を上記ロックロッド38を介してツール支持部材34に受け止める」の部分を削除すべきである旨主張する(第3.4.(1)(iii)を参照)。しかしながら、被請求人が削除すべきとする事項は、甲第5号証の摘記事項中の「ロックロッドを前進位置に移動させてシャンクをアンロックしてから、ロックロッドの前端の当接面66を、シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68に当接させることにより、シャンクをツール支持部材34から前方へ離脱させる。」との記載から認定できるから、被請求人の上記主張は採用できない。

3.対比
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、後者の「テーブル1」が前者の「基準部材R」に、後者の「メス側テーパブッシュ34を一体化したパレット20」が前者の「可動部材M」に、後者の「テーブル1の端面28」が前者の「基準部材Rの支持面S」に、後者の「パレット20の端面26」が前者の「可動部材Mの被支持面T」に、後者の「クランプ装置22」が前者の「データム機能付きクランプ装置」に、後者の「凹部」が前者の「ソケット穴11」に、後者の「環状溝59」が前者の「係止孔13」に、後者の「環状のオス側テーパピン40」が前者の「環状のプラグ部分21」に、後者の「ピストン51」が前者の「プルロッド31」に、後者の「ボール58」が前者の「係合具34」に、後者の「圧力油流路54、55の圧力油及びコイルばね57」が前者の「駆動手段D」に、後者の「ピストン51のテーパ面61」が前者の「プルロッド31の出力部36」に、後者の「環状溝59」が前者の「係止孔13」に、それぞれ相当することは、各部材の構造、機能から明らかである。
そして、後者の「メス側テーパ穴25の下部部分」は、「メス側テーパ穴25の上部部分」とともに、前者の「位置決め孔12」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点1〉
基準部材Rに可動部材を心合わせして上記の基準部材の支持面に上記の可動部材の被支持面を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記の可動部材Mの上記の被支持面にソケット穴を開口させて、そのソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成し、
上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を上記の基準部材から突設させ、
上記のプラグ部分の筒孔にプルロッドを軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッドの外周空間に、半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動される係合具を配置し、
上記の基準部材に設けた駆動手段によって上記プルロッドをクランプ駆動することにより、そのプルロッドの出力部が上記の係合具を上記の係合位置へ切り換えて前記の係止孔へ係合させて、前記の可動部材を前記の基準部材へ向けて移動させ、
同上の駆動手段によって上記プルロッドをアンクランプ駆動することにより、同上の係合具が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した、データム機能付きクランプ装置。
〈相違点1〉
前者は、プルロッドを基端方向へクランプ駆動することによって可動部材を基準部材へ向けて移動させるものであり、また、プルロッドを先端方向へアンクランプ駆動するものであって、そのアンクランプ駆動により、プルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止めるものであるのに対して、後者は、プルロッドを先端方向へクランプ駆動することによって可動部材を基準部材へ向けて移動させるものであり、また、プルロッドを基端方向へアンクランプ駆動するものであって、そのアンクランプ駆動されたプルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げず、そのアンクランプ状態では、前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止めるものではない点。
〈相違点2〉
前者は、プラグ部分と位置決め孔との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し、そのシャトル部材の内周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の外周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を前記プラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を、前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔にテーパ係合させ、上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して、後者は、シャトル部材を備えてなく、そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点。

なお、被請求人は、上記相違点1、2に加えて、「本件発明1は、ソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成するものであるのに対して、甲第1号証記載の発明は、ソケット穴に係止孔と位置決め孔とを設けるものではあるが、係止孔よりも開口端側と奥側(頂壁側)との両方に位置決め孔が配置されている点」も相違点であると主張する(第3.2.(3)の相違点1の項を参照)。しかしながら、請求項1の記載では、係止孔と該係止孔よりも開口端側の位置決め孔との配置関係が規定されているだけであるから、上記被請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであって、採用できない。
また、被請求人は、上記相違点1、2及び下記相違点3においては、「プラグ部分」は「基準部材から突設させたプラグ部分」と、「ソケット穴」は「可動部材の被支持面に開口させたソケット穴」に、「位置決め孔」は「可動部材に設けられた位置決め孔」に、「係止孔」は「可動部材に設けられた係止孔」として認定すべきであると主張する(第3.4.(2)(i)参照)。しかしながら、プラグ部分が「基準部材から突設させた」点、ソケット穴が「可動部材の被支持面に開口させた」点、位置決め孔及び係止孔が「可動部材に設けられた」点は、一致点であるから、一致点である上記事項を除いて、相違点を認定することに誤りはなく、したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

(2)本件発明2について
本件発明2と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記一致点1で相違し、上記相違点1及び下記の相違点3で相違する。
〈相違点3〉
前者は、プラグ部分と位置決め孔との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し、そのシャトル部材の外周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の内周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を前記の位置決め孔に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を、前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分にテーパ係合させ、上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して、後者は、シャトル部材を備えてなく、そのシャトル部材とプラグ部分とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点。

(3)本件発明3について
本件発明3と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記一致点1及び下記の一致点2で一致し、上記相違点1、及び、相違点2又は相違点3で相違する。
〈一致点2〉
データム機能付きクランプ装置を少なくとも一つ備えるクランプシステムである点。

4.当審の判断
上記相違点1?3について、以下検討する。
(1)相違点1について
甲第5号証記載の「ツール支持部材34」、「ツールホルダ10」及び「ロックロッド38」は、その構造及び機能からみて、それぞれ本件発明1?3の「基準部材」、「可動部材」及び「プルロッド」というべきものであり、また、甲第5号証記載の「シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68」は、本件発明1?3の「ソケット穴の頂壁」と、「可動部材に設けた穴の頂壁」の限りで共通するといえるものである。
そうすると、甲第5号証には、基準部材に可動部材を固定するクランプ装置において、「プルロッドを基端方向へクランプ駆動することによって可動部材を基準部材へ向けて移動させるものであり、また、プルロッドを先端方向へアンクランプ駆動するものであって、そのアンクランプ駆動により、プルロッドが可動部材に設けた穴の頂壁を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止めるものである」との事項が示されていると認められる。
そして、甲第1号証記載の発明と当該甲第5号証記載の事項とは、「基準部材に可動部材を固定するクランプ装置」という同一の技術分野に属するものであるから、甲第1号証記載の発明に甲第5号証記載の事項を組み合わせ、甲第1号証記載の発明の相違点1に係る構成を本件発明1?3のそれとすることは、当業者が容易になし得ることである。

なお、被請求人は、甲第1号証記載の発明と甲第5号証記載の事項とを組み合わせることについて、「甲第1号証記載の発明は、可動部材にソケット穴を開口し、基準部材にプラグ部分を凸設するパレットクランプ装置であり、一方、甲第4、5号証記載の発明は、基準部材の主軸に凹穴を開口し、可動部材の工具ホルダーに凸部を設けるツールホルダーであり、基本構成、技術分野を異にするから、甲第1号証記載の発明と甲第4、5号証記載の発明とを組み合わせることは容易ではない。」、「甲第1号証記載の発明と甲第5号証記載の発明とは、アンクランプ駆動の方向がまったく逆であり、しかも、両者を組み合わせるとすると、甲第1号証記載の発明で設けられているごみ等の進入防止用のキャップを取り外す必要があるから、甲第1号証記載の発明と甲第5号証記載の発明とを組み合わせることへの阻害要因がある。」と主張する(第3.2.(6)の(i)、(iii)を参照)。
しかしながら、甲第1号証記載の発明のようなパレットクランプ装置も甲第4、5号証記載の事項のようなツールホルダーも、ともに「基準部材に可動部材を固定するクランプ装置」という同一の技術分野に属するものである以上、両者を組み合わせることは、そのことを妨げる特段の事情がない以上、当業者が容易になし得ることと言わざるを得ない。また、甲第1号証記載の発明において、クランプ、アンクランプ駆動の向きを入れ替え得ること、ごみ等の進入防止用のキャップがなくともデータム機能付きクランプ装置として機能することを考慮すると、甲第1号証記載の発明と甲第5号証記載の発明とがアンクランプ駆動の方向を逆にすること、及び、甲第1号証記載の発明で設けられているごみ等の進入防止用のキャップを取り外す必要があることが、甲第1号証記載の発明と甲第5号証記載の発明とを組み合わせることへの阻害要因であるとまでは認め得ない。したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

(2)相違点2について
甲第4号証記載の「主軸1」、「工具ホルダー8」、「スリーブ3」及び「テーパ孔2」は、その構造及び機能からみて、それぞれ本件発明1の「基準部材」、「可動部材」、「シャトル部材」及び「位置決め孔」に相当するものであり、そうすると、甲第4号証には、基準部材に可動部材を固定するクランプ装置において、「プラグ部分と位置決め孔との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し、そのシャトル部材の内周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の外周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を前記プラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を、その先端へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔にテーパ係合させ、上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものである」との事項が示されていると認められる。
そして、甲第1号証記載の発明と当該甲第4号証記載の事項とは、「基準部材に可動部材を固定するクランプ装置」という同一の技術分野に属するものであるから、甲第1号証記載の発明に甲第4号証記載の事項を組み合わせ、甲第1号証記載の発明の相違点2に係る構成を本件発明1のそれとすることは、当業者が容易になし得ることである。

なお、被請求人は、甲第1号証記載の発明と甲第4号証記載の事項とを組み合わせることについて、「甲第1号証のテーパーピンは、上側テーパー面が薄く弾性変形し易く、根本側テーパー面が肉厚でフランジ部と一体形成され弾性変形し難いこと、根本側テーパー面にはクランプ用ボールの応力により半径方向内方への膨出部が形成されることから、実質的な位置決め孔としての機能は上側テーパー面が発揮する。したがって、甲第1号証記載の発明で、根本側テーパー面を位置決め孔とすることは阻害要因がある。」、「甲第1号証記載の発明では、ボールのテーパ状底面に対する押厚点はメス側テーパーブッシュ端面の近傍であり、したがって、スリーブの配置スペースを確保できない甲第1号証記載の発明の環状溝よりも下側のテーパ穴に、甲第4号証記載のスリーブを適合させることへの阻害要因がある。」と主張する(第3.2.の(4)及び(6)(ii)を参照)。
ところで、マシニングセンタの主軸のテーパ穴へツールホルダのテーパ軸をテーパ係合させる目的の7/24テーパに関するJIS B6340,B6339の規定によると、テーパ穴はマイナス公差に、また、テーパ軸はプラス公差に定められていることから、テーパ穴にテーパ軸を嵌め合わせる場合、大径側のテーパ面同士を当接させることが重要であり、そうすると、甲第1号証記載の発明において、環状溝よりも下側のテーパ穴が位置決め孔としての機能の主要な部分を担っているとも解される。また、仮に被請求人の主張するように、甲第1号証記載のテーパ穴下側部分に膨出部が発生したとしても、ボール58が貫通する貫通孔65の底面をテーパ状底面60(膨出部)よりも僅かに低い位置に設定する等の設計変更を施せば、膨出部の影響を回避できると認められる。したがって、甲第1号証記載の発明に甲第4号証記載の事項を組み合わせるに際して阻害要因が存在するとの被請求人の主張は採用できない。
また、被請求人は、(イ)米国特許商標庁及び欧州特許庁は、本件発明と甲第4号証との技術的な相違点を明確に判断し、回転可能なチャックに切削工具を固定することを指向する甲第4号証記載の発明と機械テーブルにワークパレットを固定することを指向する文献とは、類似の構造を備えていないから、両者を組み合わせることはできないと判断している、(ロ)甲第1号証と甲第4号証の構成は凹凸が互いに逆であり、両者を組み合わせることは、甲第4号証の凹凸を逆にする必要がある、(ハ)甲第1号証の発明は、複数のクランプ装置の少なくとも一つとして用いられるクランプ装置であって、素材自体の弾性変形を利用して二面拘束させる構造であり、一方、甲第4号証の発明は、工作機械の主軸に一つだけ装着される工具ホルダをクランプする装置であって、甲第1号証の発明と比べると、クランプ装置の製作コストが増加する上、部品の累積加工誤差も大きくなるとという問題があるから、甲第1号証の発明に、本質部分が全く別種でり、単独でしか用いられない甲第4号証のクランプを適用する動機付けがない、ことから、甲第1号証記載の発明に甲第4号証記載の事項を組み合わせることは容易ではない旨主張する(第3.4.(3)(iii)?(v)参照)。しかしながら、(イ)米国特許商標庁の再審査及び欧州特許庁の異議は、対象となる特許、進歩性判断の基礎となる主引例が、本件無効審判請求とは相違するから、上記再審査及び異議の判断結果は、それが妥当であるか否かはさておいても、本件無効審判請求における判断に対して直ちには参考にすることができない、(ロ、ハ)甲第1号証には、クランプ装置において、テーパ面とテーパ穴とのテーパ係合のみでは課題の存在すること、当該課題を解決するために、テーパ係合に端面同士の密着を加えた二面拘束を行うことが示されており、甲第4号証記載のクランプ装置も二面拘束構造をとるクランプ装置である、ことから、甲第1号証記載の発明に甲第4号証記載の発明の二面拘束構造を組み合わせることは、そのことを妨げる程の事情を見出せないことを考慮すると、当業者が容易になし得ることである。したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

(3)相違点3について
甲第4号証記載の「スリーブ3」は、その内周面がストレート面で外周面がテーパ面で構成され、また、上記テーパ面をテーパ孔2の内周面にテーパ係合する点で、外周面がストレート面で内周面がテーパ面であり、上記テーパ面をテーパ孔でない側のプラグ部分の外周テーパ面とテーパ係合する点で本件発明2の「シャトル部材」とは相違する。しかしながら、テーパ孔でない側の外周テーパ面と内周テーパ面を有する部材の内周面とをテーパ係合させて心あわせを行うことは、甲第2号証に示されている。
そして、当該甲第2号証記載の事項は甲第1号証記載の発明及び甲第4号証記載の事項と同じく、「データム機能付きクランプ装置」という技術分野に属するものである。
そうすると、甲第1号証記載の発明に甲第4号証記載の事項を組み合わせるに際して、甲第2号証記載の事項を勘案して、甲第1号証記載の発明の相違点3に係る構成を本件発明2のそれとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4)作用効果について
そして、本件発明1?3の作用効果は、甲第1号証記載の発明、及び、甲第2、4、5号証記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。

したがって、本件発明1?3は、甲第1号証記載の発明、及び、甲第2、4、5号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

仮に、訂正が認められるとしても、訂正後の請求項1?3に係る発明(以下、「訂正発明1?3」という。)は、以下の理由により、甲第1号証記載の発明、甲第2、4、5号証記載の事項、及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(i)訂正発明1?3と甲第1号証記載の発明との間の新たな相違点
訂正発明1?3と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の間には、以下の相違点が新たに存在する。
〈相違点4〉
前者は、ソケット穴に位置決め孔(12)とテーパガイド孔と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、その係止孔より上記開口端の側だけに上記テーパガイド孔を形成し、上記の係止孔より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔を形成するのに対して、後者は、ソケット穴にテーパガイド孔を形成しておらず、また、係止孔より開口端の側に加えて、頂壁側にも位置決め孔を形成している点。
〈相違点5〉
前者は、基準部材に前記ワークパレットを装着するときには、前記アンクランプ状態において、先ず、上記プラグ部分が上記テーパガイド孔を介して前記ワークパレットを案内し、引き続いて、前記ワークパレットを上記プルロッドを介して上記の基準部材に受け止め、次に、前記駆動手段によって上記プルロッドを基端方向へクランプ駆動することにより、上記シャトル部材と前記の位置決め孔を介して前記ワークパレットを精密に心合わせするように構成したのに対して、後者は、そのように構成されていない点。
(ii)判断
〈相違点4について〉
凸部を凹部に挿入する際に、凸部を案内するために凹部の内表面にガイド面を設けることは、工作機械の技術分野において従来周知の事項である(甲第13号証図1、2の、プルスタット3を挿入するコレット6上端部の内周面にガイド面として機能するテーパ面、甲第15号証図5の、パレット9に固定されたテーパブッシュ41の内周面下端部にテーパ部材46の一部を受け入れる際にガイド面として機能するテーパ面、甲18号証図1の、当接面9を含む孔と押圧面28aとの間であって押圧面28aの下方に位置するコーナ部の面取り部を参照)。
また、甲第1号証記載の発明は、係止孔より開口端の側に加えて、係止孔より頂壁側にも位置決め孔を形成しているが、仮に、当該発明において、係止孔よりも頂壁側に位置決め孔が形成されていない、すなわち、甲第1号証記載のメス側テーパブッシュの内面が環状溝59の頂壁側ではテーパ面でないとしても、係止孔より開口端の側の位置決め孔が存在することから、基準部材にワークパレットを心合わせすることができるものと認められる。
そして、甲第2号証記載の心合わせ機能付きクランプ措置では、工作テーブル2側で心合わせに寄与する円錐面25が、工作テーブル2と装置テーブル1との係止に寄与する、工作テーブル2側の環状肩材19及び装置テーブル1側の締付け手段9の鼻部12よりも下方側にしか存在しないこと、また、マシニングセンタの主軸のテーパ穴へツールホルダのテーパ軸を係合させる目的の7/24テーパに関するJIS B6340、B6339の規定によると、テーパ穴はマイナス公差に、テーパ軸はプラス公差に定められていることから、テーパ穴にテーパ軸を嵌め合わせる場合、大径側のテーパ面同士を当接させることが重要であることを勘案すると、甲第1号証記載の発明において、位置決め孔を係止孔より開口端の側だけに形成するように変更することは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、甲第1号証記載の発明における相違点4に係る構成を、甲第2号証記載の事項及び従来周知の事項に基づいて、訂正発明1?3のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。
〈相違点5について〉
基準部材に可動部材を装着するときに、アンクランプ状態において、前記可動部材をプルロッドを介して上記の基準部材に受け止め、次に、前記駆動手段によって上記プルロッドを基端方向へクランプ駆動することにより、前記可動部材を精密に心合わせすることは、甲第5号証に示され、シャトル部材と位置決め孔を介して精密に心合わせすることは甲第4号証に示され、テーパガイド孔を介して案内することは従来周知の事項である。
したがって、甲第1号証記載の発明における相違点5に係る構成を、甲第4、5号証記載の事項及び従来周知の事項に基づいて、訂正発明1?3のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。
〈作用効果について〉
訂正発明1?3の作用効果は、甲第1号証記載の発明、甲第2、4、5号証記載の事項、及び従来周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-22 
結審通知日 2005-11-30 
審決日 2005-04-08 
出願番号 特願2003-108512(P2003-108512)
審決分類 P 1 113・ 841- ZB (B23Q)
P 1 113・ 537- ZB (B23Q)
P 1 113・ 121- ZB (B23Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡野 卓也  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
佐々木 正章
登録日 2004-02-27 
登録番号 特許第3527738号(P3527738)
発明の名称 データム機能付きクランプ装置及びその装置を備えたクランプシステム  
代理人 深見 久郎  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 森田 俊雄  
代理人 梶 良之  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 桂川 直己  
代理人 大畑 道広  
代理人 別城 信太郎  
代理人 野田 久登  
代理人 吉田 昌司  

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