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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1171798
審判番号 不服2004-26486  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-27 
確定日 2008-01-21 
事件の表示 特願2000-134617「スロットマシン」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月28日出願公開、特開2000-325554〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯。特許請求の範囲の記載
本願は、平成5年10月15日に出願された特願平5-258133号の一部を特許法44条1項の規定により新たな特許出願とした特願平7-329339号の一部をさらに同法44条1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成16年11月18日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年12月27日付けで本件審判請求がされるとともに、平成17年1月26日付けで明細書についての手続補正がされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成19年8月24日付けで新たな拒絶の理由を通知したところ、請求人は同年10月26日付けで意見書及び手続補正書を提出した。
平成19年10月26日付けで補正された特許請求の範囲は単一の請求項1からなっており、その記載は次のとおりである。
「複数の回転リールと、これらの回転リールの回転を開始させるスタートスイッチと、
乱数を発生させる乱数発生手段と、
前記スタートスイッチからのスタート信号に基づいて、前記乱数発生手段から発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する確率抽選手段と、
前記確率抽選手段により抽選された乱数値により、ボーナスフラグが成立していないことを条件に、通常確率か、通常確率よりも特定の入賞の入賞確率が高い入賞確率の高確率かの判定を行い、当該判定結果が通常確率の場合には通常確率判定信号を出力し、高確率の場合には高確率判定信号を出力し、ボーナスフラグが成立していることを条件に、通常確率か、通常確率よりも特定の入賞の入賞確率が高い高確率かの判定を行わない確率判定手段と、
前記通常確率における通常入賞確率データ及び高確率における高入賞確率データを記憶する入賞確率データ記憶手段と、
前記確率判定手段からの通常確率判定信号の入力を条件に、前記入賞確率データ記憶手段に記憶された通常入賞確率データを選択するとともに、高確率判定信号の入力を条件に、前記入賞確率データ記憶手段に記憶された高入賞確率データを選択する確率選択手段と、
前記乱数発生手段から順次発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する入賞抽選手段と、
前記入賞抽選手段により抽選された乱数値と前記確率選択手段により選択された通常入賞確率データ又は高入賞確率データとに基づいて、ボーナスフラグが成立していないことを条件に、特定の入賞の入賞判定を行い、ボーナスフラグが成立していることを条件に、
特定の入賞の入賞判定を行わない入賞判定手段と、
前記確率判定手段からの高確率判定信号に基づいて、通常確率から高確率へ変更されたことを遊技者に報知する特定確率報知手段と、
を備えたことを特徴とするスロットマシン。」

第2 当審の判断
1.当審で通知した拒絶理由の骨子
(1)記載不備
請求項1の記載を自然に解釈すれば、技術的意義がなく、かつ発明の詳細な説明から把握できることと一致しないから、明細書の記載は平成6年改正前特許法36条5項に規定する要件を満たしていない。

(2)進歩性欠如
請求項1に係る発明は、「パチスロファン8月号増刊 パチスロ完全攻略事典PART5」196?201頁(株式会社日本文芸社、平成2年8月30日発行)(平成10年異議第70022号(特許第2627715号(本件出願の原原出願に当たる前記特願平5-258133号の特許)の異議事件)において、異議申立人が提出した甲第1号証であり、以下「引用例」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

2.記載不備についての判断
当審で通知した拒絶理由では、「前記確率抽選手段により抽選された乱数値により、・・・通常確率か、通常確率よりも特定の入賞の入賞確率が高い高確率かの判定を行い、当該判定結果が通常確率の場合には通常確率判定信号を出力するとともに、当該判定結果が高確率の場合には高確率判定信号を出力」との記載(平成17年1月26日付け手続補正後の記載)につき、自然に解釈すれば、乱数値により、ある確率(例えば1/10)で高確率判定信号を出力し、別の確率(例えば9/10)で通常確率判定信号を出力することになると指摘し、上記解釈は発明の詳細な説明から把握できることと一致しないことを指摘した。
上記記載は、平成19年10月26日付け手続補正により、「入賞確率が高い高確率」が「入賞確率が高い入賞確率の高確率」と、及び「当該判定結果が高確率の場合には」が「高確率の場合には」とそれぞれ補正された(前者の補正により、一層請求項1が不明確となっている。)が、これら補正は、上記解釈とは無関係であり、これら補正により解釈を変更する必要はない。
そして、拒絶理由で指摘したように、高確率判定信号を出力する確率をp、通常時の入賞確率をq及び高確率時の入賞確率をrとすれば、入賞確率は常に(1-p)*q+p*r(拒絶理由で例示したように、p=1/10,q=1/10及びr=1/100ならば、19/1000)であるから、確率変動などせずに、予め入賞確率を上記式のとおりに設定することと等価になるから、「確率判定手段」、「通常確率における通常入賞確率データ及び高確率における高入賞確率データを記憶する入賞確率データ記憶手段」及び「確率選択手段」を有することの技術的意義がないことになる。
他方、発明の詳細な説明には、「確率判定手段53には、現状が通常確率の場合には、高確率に移行するか若しくは現状維持のままかの何れかを選び、一方、現状が高確率の場合には、通常確率に移行するか若しくは現状維持のままかの何れかを選ぶ抽選確率データを備えている。」(段落【0017】)との記載があり、添付の【図3】にはステップ74で「設定・遊技枚数に対応した抽選確率データの切換抽選」(請求項1記載の「確率抽選」に相当するものと認める。)の後にステップ75で「当選」と判定された場合に、ステップ76で「通常→10倍 10倍→通常」の切換を行うことが図示されているから、「確率判定手段」において判定するのは、現状の確率から他の確率に移行するかどうかの判定であることが記載されている。判定内容がそうであれば、「確率判定手段」での当選確率を例えば1/10とすれば、9割の確率で現状確率が維持され、1割の確率で確率を変更することになり、判定結果が通常確率になるか高確率になるかは、現状確率にも依存し、十分意義のあることと認めることができるが、請求項1の記載は、上記のとおり、通常確率か高確率かの判定を行うのであって、現状確率から変更するかどうかの判定を行うとは記載されていない。ところで、現状確率から変更するかどうかの判定を行うということは、結局のところ、確率判定において通常確率と判定される確率及び高確率と判定される確率が、現状の状態(現状が通常確率であるのかそれとも高確率であるのか)に依存するということであるが、そのことも請求項1には記載されていない。
請求人は「拒絶理由における指摘点に応じ、図3及び図6に記載されているフローの記載に従って、「通常確率状態から高確率状態へ移行するかどうか、及び高確率状態から通常確率状態へ移行するかどうかを乱数値により決定する」点を明確にすることで、即した内容にすることで、明りょうでない記載の釈明をした」(平成19年10月26日付け意見書4頁23?26行)と主張するが、「通常確率状態から高確率状態へ移行するかどうか、及び高確率状態から通常確率状態へ移行するかどうかを乱数値により決定する」点は決して明確にされていない。
なお、平成19年10月26日付け手続補正により「前記確率判定手段からの高確率判定信号に基づいて、通常確率から高確率へ変更されたことを遊技者に報知する」ことが追加されたけれども、この追加記載があるからといって、「通常確率状態から高確率状態へ移行するかどうか、及び高確率状態から通常確率状態へ移行するかどうかを乱数値により決定する」点が明確にされたことにはならない。
以上のとおりであるから、明細書の記載は平成6年改正前特許法36条5項に規定する要件を満たしていない。

3.本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本来であれば平成19年10月26日付けで補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりに認定すべきであるが、この記載には上記のとおり不備があり、請求人も上記のとおり、通常確率状態から高確率状態へ移行するかどうか、及び高確率状態から通常確率状態へ移行するかどうかを乱数値により決定する点を明確にする旨主張していることを考慮し、「確率判定手段」の判定内容は、現状確率から他の確率へ移行するかどうかであると解釈し、本願発明を以下のとおり認定する。
「複数の回転リールと、これらの回転リールの回転を開始させるスタートスイッチと、
乱数を発生させる乱数発生手段と、
前記スタートスイッチからのスタート信号に基づいて、前記乱数発生手段から発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する確率抽選手段と、
前記確率抽選手段により抽選された乱数値により、ボーナスフラグが成立していないことを条件に、通常確率又は通常確率よりも特定の入賞の入賞確率が高い高確率から、それぞれ高確率又は通常確率に変更するかどうかの判定を行い、当該判定結果及び現状確率に基づいて決定される確率が通常確率の場合には通常確率判定信号を出力し、高確率の場合には高確率判定信号を出力し、ボーナスフラグが成立していることを条件に、通常確率又は高確率から、それぞれ高確率又は通常確率に変更するかどうかの判定を行わない確率判定手段と、
前記通常確率における通常入賞確率データ及び高確率における高入賞確率データを記憶する入賞確率データ記憶手段と、
前記確率判定手段からの通常確率判定信号の入力を条件に、前記入賞確率データ記憶手段に記憶された通常入賞確率データを選択するとともに、高確率判定信号の入力を条件に、前記入賞確率データ記憶手段に記憶された高入賞確率データを選択する確率選択手段と、
前記乱数発生手段から順次発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する入賞抽選手段と、
前記入賞抽選手段により抽選された乱数値と前記確率選択手段により選択された通常入賞確率データ又は高入賞確率データとに基づいて、ボーナスフラグが成立していないことを条件に、特定の入賞の入賞判定を行い、ボーナスフラグが成立していることを条件に、
特定の入賞の入賞判定を行わない入賞判定手段と、
前記確率判定手段からの高確率判定信号に基づいて、通常確率から高確率へ変更されたことを遊技者に報知する特定確率報知手段と、
を備えたことを特徴とするスロットマシン。」

4.引用例の記載事項
引用例には、以下のア?ケの記載又は図示若しくは写真掲載がある。なお摘記に当たり、丸数字の1を「○1」などと表記した。
ア.「アラジンでは、すべての役のフラグが立つか立たないかは、コインを投入してスタートレバーをたたいたタイミングで決まる。」(197頁下段「役判定に使われる乱数」と題する項目中の1?5行)
イ.「コンピュータ内部では、ほとんど常に数字の計算が行われ、レバーがたたかれた瞬間に、コンピュータが計算していた数字が選ばれる。
その数字が、ある役の当たりならその役のフラグが立ち、当たりでなければフラグは立たない。つまり、コンピュータからの数字1個1個には、おのおのの役の当たりはずれの役割があり、レバーをたたくたびに、当たりはずれの抽選をしているのと同じなのである。」(197頁下段「役判定に使われる乱数」と題する項目中の11行?198頁上段10行)
ウ.「アラジンのコンピュータが計算している数字は2通りある。
1つは、ビッグチャンス、レギュラーボーナス、シングルボーナス、および小役のフラグの判定用の数字で、範囲は1?65535となっている。これを乱数Aとする。
もう1つは、シングルボーナスの集中役のフラグの判定のための専用の数字で、範囲は0?65535。これを乱数Bとする。
アラジンのコンピュータでは、まず最初にシングルボーナスの集中役の判定を行い、次にほかの役の判定に進む。
乱数Bで見た、各役の確率は、上の表1の通りである。」(198頁上段18行?中段3行)
エ.「シングルボーナスの集中役の最中での、乱数Bの中での役のフラグの成立確率は以下のようになる。
○1ビッグチャンス……通常時と同じ約0.243%
○2レギュラーボーナス……通常時と同じ約0.284%
○3シングルボーナス……通常時の約10倍の約16.66%
○4小役……8枚小役は通常より低い約6.67%。5・7枚チェリーは通常と同じ約0.50%。単チェリーは通常の約100倍の約49.90%。」(198頁中段「設定と役の発生確率」と題する項目中の13行?下段3行)
オ.「シングルボーナスの集中役は、乱数Aで再度同じ役のフラグが立つか、乱数Bでビッグチャンスを当てた場合に終了する。レギュラーボーナスは終了しない。
シングルボーナスの集中役中に、再度同じ役のフラグが立つ(つまりパンクする)確率は、全設定共通に約0.13%となっている。」(198頁下段9?18行)
カ.「ボーナスフラグ(ビッグチャンス、レギュラーボーナス、シングルボーナスのフラグ)が立つと、約50%の確率で単チェリーのフラグが立つ。」(199頁下段「リーチ目は単チェリー」と題する項目中の4?9行)
キ.「小役のフラグは、立ってそのゲームで消えてしまう」(200頁上段左から5?4行)
ク.196頁には3つのリールを有するスロットマシンの写真が掲載されている(厳密には、同写真のみでは、リールであるのか液晶等の表示部であるのか定かではないが、「リール」との表現が散見される(例えば、199頁上段末行)ことから、このように認定する。)。
ケ.198頁の表1には、「乱数Bによる役の確率(全設定共通)」と題する表が示されている。

4.引用例記載の発明の認定
記載ウの「乱数A」及び「乱数B」とそれ以外の記載における「乱数A」及び「乱数B」は、その意味するところが明らかに逆になっており、どちらかが誤記である。以下では、記載ウが誤記、すなわち、「ビッグチャンス、レギュラーボーナス、シングルボーナス、および小役のフラグの判定用の数字」を「乱数B」とし、「シングルボーナスの集中役のフラグの判定のための専用の数字」を「乱数A」とする。
記載エ及び表1によれば、「シングルボーナス」及び「単チェリー」の乱数Bによる入賞確率は、シングルボーナスの集中役において通常時よりも大きくなっている。
記載オによれば、乱数Aによるフラグ判定は、通常時だけでなく、シングルボーナスの集中役中にも行われており、通常時に乱数Aによるフラグが成立すればシングルボーナスの集中役に移行し、シングルボーナスの集中役中に同フラグが成立すればシングルボーナスの集中役が終了する。
したがって、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「3つのリールを有するスロットマシンであって、
乱数A及び乱数Bを抽出する手段を有し、
レバーをたたくと、通常時及びシングルボーナスの集中役中のいずれにおいても、乱数Aによりシングルボーナスの集中役のフラグ判定を行い、次に乱数Bによりビッグチャンス、レギュラーボーナス、シングルボーナス及び小役のフラグ判定を行うように構成されており、
シングルボーナス及び単チェリーについては、シングルボーナスの集中役中の乱数Bによる入賞確率が通常時のそれよりも大きく設定されており、
通常時に乱数Aによるフラグが成立すればシングルボーナスの集中役に移行し、シングルボーナスの集中役中に同フラグが成立すればシングルボーナスの集中役が終了するように構成されたスロットマシン。」(以下「引用発明」という。)

5.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「3つのリール」及び「レバー」は、本願発明の「複数の回転リール」及び「これらの回転リールの回転を開始させるスタートスイッチ」にそれぞれ相当する。
引用発明が「乱数を発生させる乱数発生手段」を備えることはいうまでもなく、「乱数Aを抽出する手段」及び「乱数Bを抽出する手段」は、本願発明の「前記スタートスイッチからのスタート信号に基づいて、前記乱数発生手段から発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する確率抽選手段」及び「前記乱数発生手段から順次発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する入賞抽選手段」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明の「シングルボーナス」及び「単チェリー」は、シングルボーナスの集中役中において入賞確率が通常時よりも高確率となっているから、これら賞が本願発明の「特定の入賞」に相当し、「シングルボーナスの集中役」が本願発明の「高確率の場合」に相当する。当然、シングルボーナスの集中役中でない通常時における上記各賞の入賞確率が本願発明の「通所確率」に相当する。
引用発明において「シングルボーナスの集中役のフラグ判定」が成立すると、通常時からシングルボーナスの集中役への移行、及びシングルボーナスの集中役から通常時への移行するのだから、乱数Aにより「通常確率又は通常確率よりも特定の入賞の入賞確率が高い高確率から、それぞれ高確率又は通常確率に変更するかどうかの判定を行」っているということができ、「当該判定結果及び現状確率に基づいて決定される確率が通常確率の場合には通常確率判定信号を出力し、高確率の場合には高確率判定信号を出力」することは自明である。そうである以上「確率判定手段」と称し得る手段は引用発明にも備わっている。
引用例には、「入賞確率データ記憶手段」についての明記はないものの、乱数に基づいて入賞を決定するスロットマシンにおいては、「入賞確率データ記憶手段」が必須と解すべきであり、通常とシングルボーナスの集中役では、入賞確率が異なるのだから、「前記通常確率における通常入賞確率データ及び高確率における高入賞確率データを記憶する入賞確率データ記憶手段」は引用発明にも備わっていると解すべきである。
また、確率判定手段の判定結果が通常確率であれば当然通常入賞確率データを選択し、判定結果が高確率(シングルボーナスの集中役)であれば当然高入賞確率データを選択しなければならないから、本願発明の「前記確率判定手段からの通常確率判定信号の入力を条件に、前記入賞確率データ記憶手段に記憶された通常入賞確率データを選択するとともに、高確率判定信号の入力を条件に、前記入賞確率データ記憶手段に記憶された高入賞確率データを選択する確率選択手段」が引用発明に備わっていることも明らかである。
最後に、引用発明が「入賞抽選手段により抽選された乱数値と前記確率選択手段により選択された通常入賞確率データ又は高入賞確率データとに基づいて、特定の入賞の入賞判定を行う入賞判定手段」を備えることも明らかである。
したがって、本願発明と引用発明は、
「複数の回転リールと、これらの回転リールの回転を開始させるスタートスイッチと、
乱数を発生させる乱数発生手段と、
前記スタートスイッチからのスタート信号に基づいて、前記乱数発生手段から発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する確率抽選手段と、
前記確率抽選手段により抽選された乱数値により、通常確率又は通常確率よりも特定の入賞の入賞確率が高い高確率から、それぞれ高確率又は通常確率に変更するかどうかの判定を行い、当該判定結果及び現状確率に基づいて決定される確率が通常確率の場合には通常確率判定信号を出力する確率判定手段と、
前記通常確率における通常入賞確率データ及び高確率における高入賞確率データを記憶する入賞確率データ記憶手段と、
前記確率判定手段からの通常確率判定信号の入力を条件に、前記入賞確率データ記憶手段に記憶された通常入賞確率データを選択するとともに、高確率判定信号の入力を条件に、前記入賞確率データ記憶手段に記憶された高入賞確率データを選択する確率選択手段と、
前記乱数発生手段から順次発生される乱数値から一つの乱数値を抽選する入賞抽選手段と、
前記入賞抽選手段により抽選された乱数値と前記確率選択手段により選択された通常入賞確率データ又は高入賞確率データとに基づいて、特定の入賞の入賞判定を行う入賞判定手段と、
を備えたスロットマシン。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉「確率判定手段」につき、本願発明では「ボーナスフラグが成立していないことを条件に」判定を行い、「ボーナスフラグが成立していることを条件に」判定を行わないとしているのに対し、引用発明ではボーナスフラグが成立していない場合に判定を行うことは明らかといえるものの、ボーナスフラグが成立している場合に判定を行うかどうかは明らかでない点。
〈相違点2〉「入賞判定手段」につき、本願発明では「ボーナスフラグが成立していないことを条件に」判定を行い、「ボーナスフラグが成立していることを条件に」判定を行わないとしているのに対し、引用発明ではボーナスフラグが成立していない場合に判定を行うことは明らかといえるものの、ボーナスフラグが成立している場合に判定を行うかどうかは明らかでない点。
〈相違点3〉本願発明が「前記確率判定手段からの高確率判定信号に基づいて、通常確率から高確率へ変更されたことを遊技者に報知する特定確率報知手段」を備えるのに対し、引用発明がかかる手段を備えるかどうか明らかでない点。

6.相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点2について
便宜上、相違点2から検討する。
引用例の記載カ,キによれば、小役のフラグは立ってそのゲームで消えてしまうが、ボーナスフラグはそのゲームで入賞確定しない場合に、次のゲームに持ち越される。すなわち、引用発明において、ボーナスフラグ成立時は、乱数Bにより1つの入賞フラグが成立しており、「ボーナス」との語感から明らかなように、遊技者にとって相当程度有利な賞のフラグが成立している。そのような場合に、既に成立している有利な入賞フラグに対して、入賞確定することを遊技者が望むであろうことであることはたやすく理解できるから、新たに特定の入賞の入賞判定を行なうことの必要性は乏しいというべきである。実際、本願出願前に頒布された特開平5-208061号公報【図8】においては、ボーナスフラグセットの判定(S40)及びビッグボーナスフラグセットの判定(S41)の判定がいずれもNである場合に、「格納されているランダム値Rを用いて演算」(S46)及び「演算結果を各当選の判定値と比較」(S47)がされている。
以上のとおりであるから、ボーナスフラグ成立時には特定の入賞の入賞判定を行わず、ボーナスフラグ不成立時のみ特定の入賞の入賞判定を行うこと、すなわち、相違点2に係る本願発明の構成を採用することは設計事項というべきである。

(2)相違点1について
引用発明と本願発明に共通して、確率判定を行うことの意義は、判定結果により選択される入賞確率データが異なり、その結果入賞判定が異なることにある。
相違点2に係る本願発明の構成を採用した場合(それが設計事項であることは前示のとおり)、ボーナスフラグ成立時には入賞判定をしないのだから、確率判定を行うことの意義が乏しくなることは明らかである。
もっとも、ボーナスフラグはいずれ消滅することを考慮すると、ボーナスフラグ成立時にも確率判定をしておいて、来るべきボーナスフラグ消滅時に備えることが全く考えられないわけではない。しかし、ボーナスフラグ成立から消滅まで毎ゲーム確率判定をしても、いったん変更された確率が再度元の確率に戻ることも想定できるから、やはりボーナスフラグ消滅時に備えることの必要性も乏しい。
そればかりか、現状確率が通常確率(引用発明では「シングルボーナスの集中役」でない状態)の場合に確率判定を行うことは遊技者に有利であるものの、現状確率が高確率(引用発明では「シングルボーナスの集中役」の状態)の場合に確率判定を行うことは遊技者に不利であるから、ボーナスフラグ成立時に確率判定を行うことを遊技者が望むとも、必ずしもいえない。
そうであれば、必要性及び必然性に乏しいことが明らかな、ボーナスフラグ成立時の確率判定を行わないことには、当業者にとって何らかの困難性があるとは到底認めることができない。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(3)相違点3について
一般に、抽選を伴う遊技機において、当選確率が変更されたこと等、遊技者にとって有利な状態にあることを、遊技者に報知することは周知である。そのことは、例えば、「パチスロファン8月号増刊 パチスロ完全攻略事典PART5」142頁(株式会社日本文芸社、平成2年8月30日発行)(引用例が収録された雑誌であり、引用例同様平成10年異議第70022号において、異議申立人が提出した証拠の1つである。)に「シングルボーナスの集中役というのは、遊技中においてはなかなかわかりにくく、台の上方につけられた別個のランプを点灯させて知らせるようにする店が多い。」(中段「ガリバーの集中役は」と題する項目中の8?13行)と記載されているとおりである。
そして、相違点3に係る本願発明の構成とは、上記周知の技術にほかならず、同構成を採用することは設計事項というべきである。

(4)本願発明の進歩性の判断
相違点1?3に係る本願発明の構成を採用することは、設計事項であるか又は当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
以上のとおり、本願の明細書の記載は平成6年改正前特許法36条5項に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲を発明の詳細な説明を参酌して解釈した場合には、請求項1に係る発明が特許を受けることができないから、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-16 
結審通知日 2007-11-22 
審決日 2007-12-04 
出願番号 特願2000-134617(P2000-134617)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
P 1 8・ 534- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬津 太朗  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 太田 恒明
土屋 保光
発明の名称 スロットマシン  
代理人 米山 淑幸  
代理人 竹山 宏明  

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