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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1171805
審判番号 不服2005-13781  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-20 
確定日 2008-01-21 
事件の表示 特願2003-281564「3元ブロック共重合体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月30日出願公開、特開2004-131707〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1].手続の経緯
本願は、平成15年7月29日(優先日 平成14年10月10日 韓国)にした特許出願であって、平成16年8月26日付けで拒絶理由が通知され、平成17年2月28日に意見書が提出されたが、同年4月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月20日に審判請求がなされ、同年8月18日に手続補正書及び審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年11月17日付けで前置報告がなされ、当審において平成19年3月26日付けで審尋がなされ、同年7月27日に回答書が提出されたものである。

[2].補正の却下の決定
[結 論]
平成17年8月18日付けの手続補正を却下する。
[理 由]
(1)補正の内容
平成17年8月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求の日から30日以内にされた補正であり、明細書の特許請求の範囲の、
「【請求項1】5重ブロック共重合体であって、下記式(1)で表れ、下記式中分子量は50,000?400,000でありpBは1,4構造が70%以上であり、pSの含量は5?50%であり、pBとpIの含量は重量比でpB/pI≧1であることを特徴とする3元ブロック共重合体。
pS-pI-pB-pI-pS (1)
但し、式でpSはビニル芳香族重合体、pBはブタジエン重合体であり、pIはイソプレン重合体である。
【請求項2】上記のビニル芳香族重合体はスチレン、α-メチルスチレンとo-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレンからなる群から選ばれた1種以上単量体の重合体であることを特徴とする請求項1記載の3元ブロック共重合体。
【請求項3】上記のビニル芳香族重合体はスチレンの重合体であることを特徴とする請求項1記載の3元ブロック共重合体。
【請求項4】上記のビニル芳香族重合体の含量は5?35重量%であることを特徴とする請求項1記載の3元ブロック共重合体。
【請求項5】上記のビニル芳香族重合体の分子量は8,000?20,000の範囲であることを特徴とする請求項1ないし4記載の3元ブロック共重合体。
【請求項6】非活性炭化水素系溶媒で有機リチウム開始剤を使用して、ビニル芳香族単量体を添加して消尽されるまで重合して、リビング重合体を合成する段階;
上記のリビング重合体にイソプレン単量体を添加して消尽されるまで重合して、ジブロックリビング重合体を合成する段階;
上記のジブロックリビング重合体にブタジエン単量体を追加的に添加して消尽されるまで重合して、トリブロックリビング重合体を合成する段階;及び
上記のトリブロックリビング重合体に結合剤を添加してカップリング反応を実施する段階から構成されることを特徴とする3元ブロック共重合体を製造する方法。
【請求項7】上記の非活性炭化水素系溶媒としては、シクロヘキサン、シクロヘキサンとn-ヘキサンの混合物、シクロヘキサンとn-ヘプタンの混合物を使用することを特徴とする請求項6記載の3元ブロック共重合体の製造方法。
【請求項8】上記の有機リチウム開始剤としては、n-ブチルリチウムまたはsec-ブチルリチウムを使用することを特徴とする請求項6記載の3元ブロック共重合体の製造方法。
【請求項9】上記の結合剤は2つ以上の結合作用基を有した結合剤であることを特徴とする請求項6記載の3元ブロック共重合体の製造方法。
【請求項10】上記の結合剤はジクロロジメチルシラン、ジクロロジフェニルシラン、テトラクロロシランからなる群から選ばれた1つ以上の結合剤であることを特徴とする請求項6記載の3元ブロック共重合体の製造方法。
【請求項11】上記のカップリング反応のカップリング率は50?100%の範囲であることを特徴とする請求項6記載の3元ブロック共重合体の製造方法。」との記載を、
「【請求項1】5重ブロック共重合体であって、下記式(1)で表れ、下記式中分子量は50,000?400,000でありpBは1,4構造が70%以上であり、pSの含量は5?35重量%(30重量%を除く。)であり、pBとpIの含量は重量比でpB/pI≧1であることを特徴とする3元ブロック共重合体。
pS-pI-pB-pI-pS (1)
但し、式でpSはビニル芳香族重合体、pBはブタジエン重合体であり、pIはイソプレン重合体である。
【請求項2】上記のビニル芳香族重合体はスチレン、α-メチルスチレンとo-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレンからなる群から選ばれた1種以上単量体の重合体であることを特徴とする請求項1記載の3元ブロック共重合体。
【請求項3】上記のビニル芳香族重合体はスチレンの重合体であることを特徴とする請求項1記載の3元ブロック共重合体。
【請求項4】上記のビニル芳香族重合体の分子量は8,000?20,000の範囲であることを特徴とする請求項1または3記載の3元ブロック共重合体。」とする補正を含むものである。

本件補正の内、特許請求の範囲についての上記補正には、請求項1の「pSの含量は5?50%であり」を「pSの含量は5?35重量%(30重量%を除く。)であり」とする補正(以下、「補正事項a」という。)が含まれている。

(2)補正の適否についての判断
(2-1)補正の範囲
補正事項(a)は、請求項1の「pSの含量は5?50%であり」を「pSの含量は5?35重量%であり」とする補正(以下、「補正事項(a1)」という。)及び「(30重量%を除く。)」との記載を付加する補正(以下、「補正事項(a2)」という。)に分けられる。
この内、補正事項(a1)については、補正前の請求項4の「上記のビニル芳香族重合体の含量は5?35重量%であることを特徴とする請求項1記載の3元ブロック共重合体」との記載に基づいてpSの含量を「5?50%」(註:実質的に「5?50重量%」を意味するものと認められる。)から「5?35重量%」に減縮するものと認められる。
しかしながら、補正事項(a2)についてみると、補正前の明細書、即ち願書に最初に添付した明細書には、pS(ビニル芳香族重合体)の含有量について「30重量%を除く」との記載は見出せず、「5?50%」とされていた含有量範囲から「30重量%」を殊更除くべき理由が示されていたものともいえない。また、当業界の技術常識からこの点が自明であるとすることもできない。

この点について、請求人は、「・・・30重量%を除外したのは、原査定の備考に示すように、引用文献2の実施例7の記載に『ポリスチレン含量15%』があり、これはカップリング後は『ポリスチレン含量30%』であることを意味するものであり・・・その値を除外するためであります」(審判請求書第4頁第21?24行)と主張しているので、補正事項(a2)が、いわゆる「除くクレーム」の補正に当たるか否かについて以下に検討する。
「除くクレーム」の補正とは、請求項に係る発明が先行技術と重なるために新規性等を失うおそれがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで当該重なりのみを除く補正を意味する(特許庁編 「特許 実用新案 審査基準」第III部第I節4.2(4)参照。)ものである。
そこで、原審において「特許法第29条第1項第3号に該当する」との拒絶査定の理由に引用された特開平6-107745号公報(以下、「引用文献2」という。)の記載についてみると、その特許請求の範囲の請求項1には、
「(a)下記一般式〔1〕、〔2〕、または〔3〕で示されるブロック共重合体であって、
(S-B-I-S) 〔1〕
(S-B-I)n-X 〔2〕
(S-I-B)n-X 〔3〕
(式中、Sは、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックである。Bは、ブタジエン重合体ブロックである。Iは、イソプレン重合体ブロックである。nは、2?4の整数である。Xは、カップリング剤の残基である。)
(b)重量平均分子量が10,000?500,000、(c)結合芳香族ビニル化合物の割合が10?50重量%、(d)結合ブタジエンの割合が10?60重量%、(e)結合イソプレンの割合が10?60重量%、(f)ブタジエン部分の1,2-ビニル結合の割合が15%以下、(g)イソプレン部分の3,4-ビニル結合の割合が10%以下、(h)粘弾性測定における貯蔵弾性率(G’)が、0℃?50℃の範囲において、10^(6)?3×10^(8)Pa、(i) ブタジエン重合体ブロック及びイソプイレン重合体ブロックに起因する損失正接(tanδ)のピークが、-80℃?-50℃の範囲において、1つだけ存在する、ことを特徴とするブロック共重合体。」
と記載されており、表1の実施例7の行には、「ブロック共重合体分子構造;(S-I-B)_(2)-X(*1)、重合体ブロック組成(重量%)ST:15,BD:20,IP:15」と記載されている。
この実施例7の「(S-I-B)_(2)-X」という分子構造を有する共重合体は特許請求の範囲に記載された一般式〔3〕においてn=2とした共重合体であり、カップリング剤残基であるX及びこれと直接結合している2つのB、即ち-B-X-B-は全体としてブタジエンブロックと称し得るものであるから、これを-B-に置き換えるとこの分子構造は「S-I-B-I-S」と表すことができ、本件補正前の請求項1に係る発明における「pS-pI-pB-pI-pS (1) 但し、式でpSはビニル芳香族重合体、pBはブタジエン重合体であり、pIはイソプレン重合体」で表される共重合体の構造と同一である。
そして、実施例7に記載された共重合体における芳香族ビニル化合物重合体含量は請求人が主張するとおり30%(註:15/(15+20+15)=0.3)であり、請求人は実施例7に記載された共重合体におけるこの芳香族ビニル化合物重合体含量の点を、本件補正前の請求項1に係る発明との重なりの部分であるとして、請求項1に「(30重量%を除く。)」を付加する補正をしたものと解されるが、引用文献2の特許請求の範囲には、一般式〔3〕等で示される共重合体について「(c)結合芳香族ビニル化合物の割合が10?50重量%」であることが記載されているのであるから、引用文献2には、本件補正前の請求項1に係る発明におけるpS-pI-pB-pI-pS構造の共重合体の「5?50%」というpS含量と重なる芳香族ビニル化合物重合体含量として、実施例7の「30%」のみではなくより広い「10?50%」という範囲が記載されているものというべきである。
そうすると、請求項1に「(30重量%を除く。)」との記載を付加する補正事項(a2)は、先行技術との重なりのみを除く補正ということはできず、いわゆる「除くクレーム」の補正とすることはできない。

(2-2)独立特許要件
上記のとおり、請求項1に「(30重量%を除く。)」との記載を付加する補正事項(a2)は「除くクレーム」の補正とは認められないが、仮にそのように認められる場合には、請求項1の「pSの含量は5?50%であり」を「pSの含量は5?35重量%(30重量%を除く。)であり」とする補正事項(a)は、発明を特定するために必要な事項である「pSの含量」を限定するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものということができる。
そこで念のため、この場合に本件補正が、特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項に規定する要件(独立特許要件)を満たすか否かについて、以下に検討する。
(i)本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、本件補正後の明細書(以下、「本件補正明細書」という。)の請求項1に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「5重ブロック共重合体であって、下記式(1)で表れ、下記式中分子量は50,000?400,000でありpBは1,4構造が70%以上であり、pSの含量は5?35重量%(30重量%を除く。)であり、pBとpIの含量は重量比でpB/pI≧1であることを特徴とする3元ブロック共重合体。
pS-pI-pB-pI-pS (1)
但し、式でpSはビニル芳香族重合体、pBはブタジエン重合体であり、pIはイソプレン重合体である。」
(ii)引用文献2の記載事項
原審の拒絶査定の理由について引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「(a)下記一般式〔1〕、〔2〕、または〔3〕で示されるブロック共重合体であって、
(S-B-I-S) 〔1〕
(S-B-I)n-X 〔2〕
(S-I-B)n-X 〔3〕
(式中、Sは、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックである。Bは、ブタジエン重合体ブロックである。Iは、イソプレン重合体ブロックである。nは、2?4の整数である。Xは、カップリング剤の残基である。)
(b)重量平均分子量が10,000?500,000、(c)結合芳香族ビニル化合物の割合が10?50重量%、(d)結合ブタジエンの割合が10?60重量%、(e)結合イソプレンの割合が10?60重量%、(f)ブタジエン部分の1,2-ビニル結合の割合が15%以下、(g)イソプレン部分の3,4-ビニル結合の割合が10%以下、(h)粘弾性測定における貯蔵弾性率(G’)が、0℃?50℃の範囲において、10^(6)?3×10^(8)Pa、(i) ブタジエン重合体ブロック及びイソプイレン重合体ブロックに起因する損失正接(tanδ)のピークが、-80℃?-50℃の範囲において、1つだけ存在する、ことを特徴とするブロック共重合体。」(特許請求の範囲の請求項1)

(イ)「一般式〔3〕で示されるブロック共重合体は、(1)炭化水素溶媒中、有機リチウム化合物を重合開始剤として、先ず、芳香族ビニル化合物を重合させ、次いで、(2)イソプレンの重合、及び(3)ブタジエンの重合を逐次行い、しかる後、カップリング剤を加えて、活性末端を利用してカップリング反応を行うことに寄り得ることができる。カップリング反応において、前記nは、2または3であることが好ましい。」(段落【0027】)

(ウ)「[実施例6?7]シクロヘキサン溶媒中で、n-ブチルリチウムを重合開始剤として使用し、スチレン(ST)、ブタジエン(BD)、及びイソプレン(IP)を順次添加して重合を行い、しかる後、カップリング剤としてジブロムベンゼンを使用してカップリング反応を行い、表1に示す(S-B-I)n-X型ブロック共重合体を製造した。」(段落【0048】)

(エ)「

」(第7頁【表1】)

(iii)対比、判断
(iii-1)引用発明
引用文献2には、その特許請求の範囲の請求項1に、
「(a)下記一般式〔1〕、〔2〕、または〔3〕で示されるブロック共重合体であって、
(S-B-I-S) 〔1〕
(S-B-I)n-X 〔2〕
(S-I-B)n-X 〔3〕
(式中、Sは、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックである。Bは、ブタジエン重合体ブロックである。Iは、イソプレン重合体ブロックである。nは、2?4の整数である。Xは、カップリング剤の残基である。)
(b)重量平均分子量が10,000?500,000、(c)結合芳香族ビニル化合物の割合が10?50重量%、(d)結合ブタジエンの割合が10?60重量%、(e)結合イソプレンの割合が10?60重量%、(f)ブタジエン部分の1,2-ビニル結合の割合が15%以下、(g)イソプレン部分の3,4-ビニル結合の割合が10%以下、(h)粘弾性測定における貯蔵弾性率(G’)が、0℃?50℃の範囲において、10^(6)?3×10^(8)Pa、(i) ブタジエン重合体ブロック及びイソプイレン重合体ブロックに起因する損失正接(tanδ)のピークが、-80℃?-50℃の範囲において、1つだけ存在する、ことを特徴とするブロック共重合体」〔摘示記載(ア)〕
が記載されており、この内、一般式〔3〕で示されるブロック共重合体については、「(1)炭化水素溶媒中、有機リチウム化合物を重合開始剤として、先ず、芳香族ビニル化合物を重合させ、次いで、(2)イソプレンの重合、及び(3)ブタジエンの重合を逐次行い、しかる後、カップリング剤を加えて、活性末端を利用してカップリング反応を行うことに寄り得ることができる。カップリング反応において、前記nは、2または3であることが好ましい。」〔摘示記載(イ)〕と記載されている。
ここで「好ましい」とされるn=2の場合には、一般式〔3〕は(S-I-B)_(2)-Xとなり、上記(2-1)に示したとおり、これは「S-I-B-I-S」という分子構造の5重、3元のブロック共重合体を表すものということができる。
そうすると、引用文献2には、「5重ブロック共重合体であって、(a)下記式(1)で表され、(b)重量平均分子量が10,000?500,000、(c)結合芳香族ビニル化合物の割合が10?50重量%、(d)結合ブタジエンの割合が10?60重量%、(e)結合イソプレンの割合が10?60重量%、(f)ブタジエン部分の1,2-ビニル結合の割合が15%以下、である3元ブロック共重合体。
S-I-B-I-S
但し、Sは、芳香族ビニル化合物の重合体ブロック、Bは、ブタジエン重合体ブロック、Iは、イソプレン重合体ブロック」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものということができる。
(iii-2)一致点、相違点
本件補正発明と引用発明とを対比すると、芳香族ビニル化合物含量について、両者はともに「10?35重量%(30重量%を除く。)」の範囲を含むから、両者はともに「5重ブロック共重合体であって、下記式(1)で表表され、pSの含量は10?35重量%(30重量%を除く。)である3元ブロック共重合体。
pS-pI-pB-pI-pS (1)
但し、式でpSはビニル芳香族重合体、pBはブタジエン重合体であり、pIはイソプレン重合体である。」である点で一致しており、以下の点でこれらの発明の間には相違が認められる。
(あ)本件補正発明では「分子量は50,000?400,000」と規定しているが、引用発明では「重量平均分子量が10,000?500,000」としている点、
(い)本件補正発明では「pBは1,4構造が70%以上であり」と規定しているが、引用発明では「ブタジエン部分の1,2-ビニル結合の割合が15%以下」としている点、
(う)本件補正発明では「pBとpIの含量は重量比でpB/pI≧1である」と規定しているが、引用発明では「結合ブタジエンの割合が10?60重量%、結合イソプレンの割合が10?60重量%」としている点、

(iii-3)相違点の判断
そこで、これらの相違点について検討する。
(あ)の点について
ブロック共重合体の分子量について、本件補正発明においては「重量平均分子量」であるとの規定はなされていないものの、両発明の分子量についての数値範囲は大部分重複しているから、本件補正発明における分子量が重量平均分子量を意味する場合はもとより、仮に数平均分子量を意味するとしても、双方の広範な分子量範囲からみて相互に十分重複する範囲を有するものというべきであるから、ブロック共重合体の分子量について両発明間に実質的な差異はない。
(い)の点について
本件補正明細書にも「ブタジエン重合体は化学構造において大きく、1,4-polybutadieneとi,2-polybutadieneに分けられる。」(段落【0016】)と記載されているように、ブタジエン重合体が主として1,4構造と1,2構造からなることは当業界で広く知られている。そうすると、引用発明において「ブタジエン部分の1,2-ビニル結合の割合が15%以下」とされている以上、ブタジエン部分の1,4構造の割合は大略85%以上ということになり、本件補正発明における「70%以上」と一致するので、この点で両発明間に実質的差異はない。
(う)の点について
引用発明の実施例に相当〔摘示記載(ウ)〕する引用文献2の実施例7には、「ブロック共重合体分子構造;(S-I-B)_(2)-X(*1)、重合体ブロック組成(重量%)ST:15,BD:20,IP:15」〔摘示記載(エ)〕と記載されており、BD(ブタジエン重合体)/IP(イソプレン重合体)、即ち本件補正発明におけるpB/pIが20/15=1.33で1以上となることが示されている。この実施例7の共重合体は上記(2-1)のとおりST(芳香族ビニル化合物重合体)含量が30%であり、本件補正発明からは除かれているが、ST含量が30%のごく近傍の数値であって他の単位が実施例7に準ずる含量の共重合体を想定すると、そのような共重合体は本件補正発明にも引用発明にも含まれるものであり、そのpB/pIが1以上になることは自明である。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、この点でも実質的に相違するものではない。

したがって、本願補正発明は引用発明と実質的に同一であるから、本件補正発明は、引用文献2に記載された発明である。

(iv)小括
よって、本件補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反し、また特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[3].本願発明
上記のとおり、平成17年8月18日付けの手続補正は却下された。
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、願書に最初に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1記載された以下の事項により特定される次のとおりのものである。
「5重ブロック共重合体であって、下記式(1)で表れ、下記式中分子量は50,000?400,000でありpBは1,4構造が70%以上であり、pSの含量は5?50%であり、pBとpIの含量は重量比でpB/pI≧1であることを特徴とする3元ブロック共重合体。
pS-pI-pB-pI-pS (1)
但し、式でpSはビニル芳香族重合体、pBはブタジエン重合体であり、pIはイソプレン重合体である。」

[4].原査定の理由の概要
原査定の理由とされた、平成16年8月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由1の概要は以下のとおりである。
理由1:この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

請求項1?11、引用文献1,2
<引 用 文 献 等 一 覧>
1.特開平07-238131号公報
2.特開平06-107745号公報

[5].引用文献2の記載事項
引用文献2には、上記[2].(2)(2-2)(ii)に摘記した事項が記載されている。

[6].対比、判断
本願発明は本件補正発明において「5?35重量%(30重量%を除く。)」とされているpSの含量を「5?50%」としたものであって、他に相違するところはない。
即ち、本願発明はpSの含量において本件補正発明を拡張させた発明であり、本件補正発明を包含するものである。
そして、上記[2].(2)(2-2)(iii)で判断したとおり、本件補正発明は引用文献2に記載された発明であるから、同様の理由により、本願発明もまた、引用文献2に記載された発明である。

[7].むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-29 
結審通知日 2007-08-30 
審決日 2007-09-11 
出願番号 特願2003-281564(P2003-281564)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08F)
P 1 8・ 575- Z (C08F)
P 1 8・ 561- Z (C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 一色 由美子
福井 美穂
発明の名称 3元ブロック共重合体  
代理人 尾崎 隆弘  

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