• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01M
管理番号 1171836
審判番号 不服2006-4642  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-13 
確定日 2008-01-25 
事件の表示 特願2001-396179「薬液揮散装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 8日出願公開、特開2003-189777〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成13年12月27日の出願であって、平成18年2月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し平成18年3月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成17年11月11日付け手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。(以下、「本願発明」という。)

(本願発明)
「害虫駆除剤、殺菌剤、忌避剤を単独で又は2種以上組み合わせた薬液の揮散装置であって、薬液吸液性であって揮散装置として構成された加工体と、該加工体の配される空間の大きさと薬液供給量と有効日数との関連を示す表示装置と、該加工体に人為的に定量の薬液を供給しうる薬液供給装置との組み合わせからなる薬液揮散装置。」

2.刊行物に記載された発明

これに対して、原審における平成17年12月2日付け拒絶理由通知において拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、登録実用新案第3066699号公報(平成12年3月3日発行。以下、「引用文献」という。)には、「土産用造花セット」に関し、図1?図6とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 コルクの粉末を樹脂粘土で錬って板状の芯材料1を形成し、該芯材料1を香液4に浸してから前記芯材料1を端から千切って造花芯2を形成し、該造花芯2を針金で形成した棒材3の先端に固定し、前記造花芯2の周りに別途製作した花弁材料5を添着して任意の接着剤により固定して花部6を形成し、これを任意の鉢材7に取付けて壁掛けまたは置物を形成し、該壁掛けまたは置物は透明袋8に収納し、該透明袋8内には前記香液4の入った容器9およびスポイト10および説明書11を収納した土産用造花セット。」

(イ)「【0005】
【実施例】
本考案の実施例を図面により説明すると、1は芯材料であり、コルクの粉末を樹脂粘土で錬って固めた四角形状のものであり、指先で容易に千切れる程度の硬さに固めてある。該芯材料1は、通常、香液4に浸して香液4を含浸させてから用いる。該芯材料1は、図2のように千切って造花芯2とし、図3のように棒材3の先端に挿入して固定し、指先で先細を細く下端に至るに従い大径になるように整形する。前記棒材3は針金で形成され、外表面に緑色ペーパーを被覆しておく。
【0006】
前記造花芯2はポーラス状であり、香液4に浸すか香液4を振り掛けると瞬間的に吸水し、徐々に蒸発する。即ち、コルクの粉末を樹脂粘土で固めてあるから恰も植物の根のように瞬間的に吸水し、徐々に蒸発する。
【0007】
前記のように形成した造花芯2の周りに合成樹脂材料で別途製作した花弁材料5を添着し、任意の接着剤により固定して花部6を製作し、これを任意の鉢材7に取付けて壁掛けとか置物にする。
【0008】
しかして、出来上がった壁掛け置物等は、透明袋8に収納するが、このとき香料の入った補充容器9およびスポイト10を同時に封入し、その説明書11も収納しておく。」

(ウ)「【0009】
【作用】
次に作用を述べる。
本願は、購入した者は、造花芯2に予め香液4が含浸されているので、透明袋8から取り出すと、ほのかな香りを発散し、優雅に鑑賞することができる。しかして、時間が経過すると、当初含浸させた香液4は蒸発してしまうが、本願は、透明袋8内に補充用の容器9が収納され、容器9内には香液4が充填してあり、また、容器9にはスポイト10が取付けてあるので、スポイト10で香液4を吸入し、花部6の造花芯2を目掛けて一吹きすれば、香液4は瞬間的に造花芯2に吸収され補充できる。それゆえ、来客があるときは、香液4を吹きかけておけば、長時間に亘りよい香りをだだよわせ、造花としての目的を良好に達成できる。・・・」

(エ)「【0010】
【考案の効果】
本考案は、・・・取扱容易なポーラスな芯材料1を形成でき、該芯材料1を香液4に浸して香液4を含浸させるからポーラスな性状と相俟って瞬間的に含浸でき、前記芯材料1の端を千切って上部は細く下部に至る程大径になる造花芯2を形成するから容易に造花芯2を製造でき、該造花芯2を針金で形成した棒材3の先端に固定し、前記造花芯2の周りに別途製作した花弁材料5を添着し、任意の接着剤により固定して花部6を製作し、これを任意の鉢材7に取付けて壁掛けまたは置物とし、前記壁掛けまたは置物は透明袋8に収納し、該透明袋8内には香液4の入った容器9およびスポイト10および説明書11を収納した土産用造花セットとしたものであるから、透明袋8に収納されているので、造花の美しさは損なわれず、香液4の入った容器9が収納されているので、当初の香液4が切れてもスポイト10で容易に補充ができる。・・・」

そして、上記記載事項(ア)?(エ)並びに図面に記載された内容を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「コルクの粉末を樹脂粘土で錬って板状のポーラスな芯材料1を形成し、該芯材料1を香液4に浸してから前記芯材料1を端から千切って造花芯2を形成し、該造花芯2を針金で形成した棒材3の先端に固定し、前記造花芯2の周りに別途製作した花弁材料5を添着して任意の接着剤により固定して花部6を形成し、これを任意の鉢材7に取付けて壁掛けまたは置物を形成し、該壁掛けまたは置物は透明袋8に収納し、該透明袋8内には前記香液4の入った容器9およびスポイト10および説明書11を収納し、
ほのかな香りを発散し、スポイト10で花部6の造花芯2に香液4を補充できるようにした、土産用造花セット。」

3.本願発明と引用発明の対比

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「発散」は本願発明の「揮散」に相当し、引用発明の「ポーラスな芯材料1」は「香液4」を「吸液」していることが明らかであるから、引用発明の「ポーラスな芯材料1」によって形成され「香液4」に浸して香りを「発散」している「造花芯2」は、本願発明の「吸液性であって揮散装置として構成された加工体」に相当するものといえる。
また、引用発明の「スポイト10」は、「造花芯2」に香液4を補充するものであり、かつ人が使用するものであるから、本願発明の「人為的」に「液を供給しうる液供給装置」に相当する。
また、引用発明の「香液4」と本願発明の「害虫駆除剤、殺菌剤、忌避剤を単独で又は2種以上組み合わせた薬液」とは、揮散性を有する液である点で共通するものといえる。
また、引用発明の「造花芯2」及び「スポイト10」の両者を合わせたものは、本願発明の「液揮散装置」に相当する。
してみれば本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「液の揮散装置であって、液吸液性であって揮散装置として構成された加工体と、該加工体に人為的に液を供給しうる液供給装置との組み合わせからなる液揮散装置。」

(相違点1)
本願発明の「液」は「害虫駆除剤、殺菌剤、忌避剤を単独で又は2種以上組み合わせた薬液」であるのに対し、引用発明は「香液」である点。

(相違点2)
本願発明では「液揮散装置」は「加工体の配される空間の大きさと薬液供給量と有効日数との関連を示す表示装置」を有しているのに対し、引用発明はそのようなものを有しない点。

(相違点3)
本願発明では「液供給装置」は「定量」の液を供給しうるものであるのに対し、引用発明ではそのような供給をしうるか定かでない点。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。

(相違点1について)
液の揮散装置において、対象とする揮散液として、香料と、忌避剤または防虫剤の薬液のいずれでも使用することが、例えば、特開2001-198206号公報や、特開昭54-70165号公報にみられるように従来周知であり、さらに一般的な「防虫剤」が「忌避剤」であることは当業者にとって説明するまでもないことである。上記事項を考慮すれば、「香液」を揮散する引用発明の「造花芯2」及び「スポイト10」の両者(液揮散装置)に対して、「香料」に代えて「忌避剤薬液」を使用しようとすることは、当業者が容易に想到しうることである。

(相違点2について)
(1)引用発明において「液」として「忌避剤薬液」を使用することが、当業者が容易に想到しうることであることは、上記説示のとおりである。
ところで、揮散性の薬剤においては、その薬剤の供給量と薬効の有効範囲、いいかえれば空間の大きさの間に関連性があることは、例えば、タンスの中や引き出しの中に投入する防虫剤の数や量を、それらの大きさに合わせて調節したりすることからも明らかであるように、従来より広く一般的に知られていた事項であるということができる。
また、同じ薬剤であって、同じ揮散装置であれば、供給する薬剤の量が多いほど有効日数が長くなりうることは、当業者にとって説明するまでもないことである。
さらに、揮散性薬剤としての忌避剤等においては、忌避効果等を発揮するために、空気中の薬剤濃度を長期間一定に維持しようとすることが例を挙げるまでもなく周知の課題であるところ、薬効の有効範囲いいかえれば空間の大きさが小さければ、少ない揮散量で当該空間内を一定濃度にできるため、同じ薬剤供給量であれば有効日数が長くなりうることは、当業者にとって説明するまでもないことである。

そうすると、忌避剤等の揮散性薬剤の揮散においては、揮散をする空間の大きさと薬剤の供給量と有効日数との間には関連性があることが、当業者にとって明らかであったということができる。

(2)一方、忌避剤を含む揮散性の薬剤については、液状薬剤を保持体に含浸させて揮散させる場合には正確な薬効残存状態及びその終点を認知及び表示することが困難であり、薬効が既に消失しているものを続けて使用したり、逆に薬効がまだ残存しているにも拘らず、廃棄してしまうなどの問題があることから、
対応策として、例えば薬剤の有効期間を予め確定した上で使用時期と終了時期を印刷したシールを貼付したり、印刷部分の一部を取り除くことにより、使用者に薬効終了時期を知らせる手法が、例えば、特開昭62-281802号公報の「従来の技術」の項にもみられるように、広く一般に知られており、このように、予め確定した薬剤有効期間を使用者に告知する場合、薬剤の揮散速度が夏場の暑い時期と冬場の寒い時期とではかなり違っているにも拘らず、一定期間経過すると交換するようになっているため、保持体中の薬剤が消失して効力がないにも拘らず使用を続けたり、逆に薬剤が十分に残存していて効力があるにも拘らず廃棄するなど、予め設定した有効期間と実際に使用した時に得られる効力のある期間とが一致しないという問題があることもまた、同文献にみられるように一般に知られている。

さらに、揮散する薬剤である忌避剤等については、使用方法や使用上の注意事項など使用に際して必要な情報を表示することが、例えば、特開2000-219604号公報にもみられるように、従来より周知である。

これらの事項をふまえると、揮散性の薬剤である忌避剤を吸液性材料に含浸させて揮散させる際には、シール等の表示装置を以て有効期間の「表示」をすることが当業者にとって従来より周知であり、当該表示される有効期間は、関連する条件によって実際の有効期間との間にズレが生じうることもまた、当業者にとって周知であったということができ、
さらに、揮散性の薬剤である忌避剤においては、使用方法や使用上の注意事項など使用に際して必要な情報を表示することもまた、従来より周知であったということができる。

(3)上記の周知の事項をふまえれば、引用発明の液揮散装置において、「液」として「忌避剤薬液」を使用する際に、有効期間として典型的な数値である「有効日数」の表示装置を設けることは、当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎないことであり、さらに、その「有効日数」と、「加工体の配される空間の大きさ」と「薬液供給量」が関連性を有することが上記説示のとおり明らかであるのだから、空間の大きさと薬液供給量と有効日数との関連についても「使用に際して必要な情報」として表示することもまた、当業者にとってみれば適宜なしうる設計的な事項であるといわざるをえない。

(相違点3について)
ところで、「スポイト」とは、一般に薬液などの液体を吸い上げて他の物へ移すときに使う、一端にゴム袋などのついたガラスなどの細管のことであり、「スポイト」の使用にあたっては、ゴム袋を押した1回あたりの吸い上げ量が約一定量であることを利用して、吸い上げ回数を以て液量を計ることや、細管に目盛りを付与し、当該目盛りを以て液量を計ることが知られていることからすると、スポイトを使用して液量を計ることは一般的に知られたスポイトの使用態様であるといえる。
一方、引用発明において「液」として「忌避剤薬液」を使用するにあたり、薬液の供給量と有効日数との間に関連性があることが当業者にとって明らかであることは、上記(相違点2について)(2)の説示のとおりであり、「定量」の薬液を供給しなければ、供給時点からの「有効日数」を変動させ、有効日数に影響を与えることが明らかであるから、引用発明の「スポイト」(液供給装置)で薬液を供給する際に、上記一般的に知られた「スポイト」(液供給装置)の計量手法を以て、「定量」を計量して供給しようとすることは、当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎないことといわざるをえない。

そして、本願発明が奏する作用・効果を検討してみても、引用発明及び周知の技術から、当業者が予測しうる範囲のものであって、格別なものとみることはできない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2007-11-22 
結審通知日 2007-11-28 
審決日 2007-12-11 
出願番号 特願2001-396179(P2001-396179)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 石井 哲
五十幡 直子
発明の名称 薬液揮散装置  
代理人 浜本 忠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ