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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1171839
審判番号 不服2006-7560  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-21 
確定日 2008-01-25 
事件の表示 特願2003- 71199「三次元表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月 7日出願公開、特開2004-279743〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年3月17日の出願であって、原審において平成18年3月15日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年5月22日に手続補正がなされたものである。



II.平成18年5月22日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年5月22日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成18年5月22日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1を、以下のように補正することを含むものである。
「【請求項1】 右目用の視差像と、左目用の視差像を表示する表示装置と、
観察者の右目の眼前に設けられる第1の可変焦点レンズと、
前記観察者の左目の眼前に設けられる第2の可変焦点レンズと、
前記表示装置の前記観察者側に配置される偏光切替装置と、
前記観察者の右目の眼前に設けられ、偏光方向が第1の偏光方向の光を通過させ、偏光方向が第2の偏光方向の光を遮断する第1の手段と、
前記観察者の左目の眼前に設けられ、偏光方向が第2の偏光方向の光を通過させ、偏光方向が第1の偏光方向の光を遮断する第2の手段と、
前記右目用の視差像および前記左目用の視差像による三次元立体像の奥行き位置に応じて、前記第1の可変焦点レンズの焦点距離および第2の可変焦点レンズの焦点距離を変化させる同期装置とを備え、
前記表示装置は、前記右目用の視差像と、前記左目用の視差像とを交互に表示し、
前記同期装置は、前記表示装置が前記右目用の視差像を表示するときに、前記偏光切替器を制御し前記偏光切替装置から出力される視差像の偏光方向を第1の偏光方向に切り替えるとともに、前記第1の可変焦点レンズの焦点距離を、右目用の視差像および左目用の視差像による三次元立体像の奥行き範囲内を少なくともn(2≦n≦10)段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に右目用の視差像のピント面が一致するように時分割で少なくともn段階に変化させ、また、前記表示装置が前記左目用の視差像を表示するときに、前記偏光切替器を制御し前記偏光切替装置から出力される視差像の偏光方向を第2の偏光方向に切り替えるとともに、前記第2の可変焦点レンズの焦点距離を、右目用の視差像および左目用の視差像による三次元立体像の奥行き範囲内を少なくともn段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に左目用の視差像のピント面が一致するように時分割で少なくともn段階に変化させることを特徴とする三次元表示装置。」
なお、本件補正における【請求項1】の一番最初に記載された「前記観察者」は「観察者」の誤りと認められるから、上記のとおり認定した。


2.独立特許要件
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1の可変焦点レンズの焦点距離」の変化を、「右目用の視差像および左目用の視差像による三次元立体像の奥行き範囲内を(少なくともn(2≦n≦10)段階の)奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に右目用の視差像のピント面が一致するように」するとともに、同「第2の可変焦点レンズの焦点距離」の変化を、「右目用の視差像および左目用の視差像による三次元立体像の奥行き範囲内を(少なくともn段階の)奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に左目用の視差像のピント面が一致するように」する、との限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
しかしながら、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、以下のとおり、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるので、平成18年改正前特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

1〕刊行物記載の発明
本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-196280号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 表示された画像をビューワで観察可能な表示装置であり、
画像を表示する表示デバイスと、
上記画像の虚像または実像を生成し、この画像を観察するためのビューワと、
上記ビューワの焦点距離を変化させることにより、上記像の位置を変更可能な像位置変更機構と、
を有することを特徴とする表示装置。」
イ)「【請求項3】 上記表示デバイスは複数の画像を切換えて表示可能であり、
上記像位置変更機構は、上記画像の切り換えに同期して、各画像毎に所定の像位置に変更することを特徴とする請求項1または2記載の表示装置。」
ウ)「【請求項5】 上記表示デバイスに表示される画像は、元画像をその画像中の各被写体までの距離に応じて切り分けて作成した複数の距離毎画像であり、
上記各画像毎の所定の像位置は、上記各距離毎画像の被写体までの距離に基づく像位置であることを特徴とする請求項3または4記載の表示装置。」
エ)「【請求項9】 上記ビューワは、焦点可変レンズを含むことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の表示装置。
【請求項10】 上記表示装置は、頭部または顔面に装着可能であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載の表示装置。
【請求項11】 上記ビューワは観察者の左右の目に対応して一対あり、上記表示デバイスは、一つで左右の目に対応する距離毎画像を交互に表示することを特徴とする請求項1記載の表示装置。」
オ)「【0010】
【課題を解決するための手段】・・・(略)・・・第1の発明は、表示された画像をビューワで観察可能な表示装置であり、画像を表示する表示デバイスと、上記画像の虚像または実像を生成し、この画像を観察するためのビューワと、上記ビューワの焦点距離を変化させることにより、上記像の位置を変更可能な像位置変更機構とを有する。」
カ)「【0012】また、第3の発明は、第1または第2の発明に係る表示装置において、上記表示デバイスは複数の画像を切換えて表示可能であり、上記像位置変更機構は、上記画像の切り換えに同期して、各画像毎に所定の像位置に変更する。」
キ)「【0014】また、第5の発明は、第3または第4の発明に係る表示装置において、上記表示デバイスに表示される画像は、元画像をその画像中の各被写体までの距離に応じて切り分けて作成した複数の距離毎画像であり、上記各画像毎の所定の像位置は、上記各距離毎画像の被写体までの距離に基づく像位置である。」
ク)「【0018】また、第9の発明は、第1?第7または第8の発明に係る表示装置において、上記ビューワは、焦点可変レンズを含む。
【0019】また、第10の発明は、第1?第8または第9の発明に係る表示装置において、上記表示装置は、頭部または顔面に装着可能である。
【0020】また、第11の発明は、第1の発明に係る表示装置において、上記ビューワは観察者の左右の目に対応して一対あり、上記表示デバイスは、一つで左右の目に対応する距離毎画像を交互に表示する。」
ケ)「【0055】(第3実施形態)以下に図11及び図12を参照して本発明の第3の実施形態を説明する。図11において、スクリーン100に交互に左右の距離毎画像を投影し、それに同期して可変焦点光学系(例えば液晶レンズ)101-1、101-2およびシャッター102-1,102-2で構成される立体メガネのシャッター102-1,102-2を交互に開閉する。その時、スクリーン100に投影される距離毎画像の距離に応じて可変焦点光学系101-1、101-2の焦点を調節し、虚像位置を距離毎画像の距離に合わせる。」
コ)「【0059】図12のように、左右像を2台のプロジェクター201-1,201-2を使って交互に表示すると表示速度は半分の150Hzとすることもできる。ここで、プロジェクター201-1,201-2とスクリーン200を含めて表示デバイスとする。従って、プロジェクター2台(ここでは201-1,201-2)を用いて一つのスクリーン(ここでは200)に表示する場合は、一つの表示デバイスという。なお、スクリーン200の代わりに、LCD、PDP、CRTなどの表示デバイスでも良い。」

ここで、引用刊行物1の「表示装置」では、観察者の右目の眼前に可変焦点光学系101-1とシャッター102-1が設けられ、その左目の眼前に可変焦点光学系101-2とシャッター102-2が設けられることを、図11から見て取れる。
また、引用刊行物1の「表示装置」では、「スクリーン100に投影される距離毎画像の距離に応じて可変焦点光学系101-1、101-2の焦点を調整し、虚像位置を距離毎画像に合わせる」のであるから、該「表示装置」は、「右目に対応する距離毎画像および左目に対応する距離毎画像による三次元立体画像の奥行き位置に応じて、可変焦点光学系101-1の焦点距離および可変焦点光学系101-2の焦点距離を変化させる同期装置」を備えていることは明らかである。
またさらに、引用刊行物1の「スクリーン等の表示デバイス」に表示される画像は、元画像をその画像中の各被写体までの距離に応じて切り分けて作成した複数の距離毎画像であるから(摘記事項(ウ)、(キ)参照。下線は当審で引いた。)、上記「同期装置」は、「可変焦点光学系101-1の焦点距離を、右目に対応する距離毎画像および左目に対応する距離毎画像により三次元立体画像の奥行き範囲内を複数段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に右目に対応する距離毎画像のピント面が一致するように時分割で複数段階に変化させ、また、可変焦点光学系101-2の焦点距離を、右目に対応する距離毎画像および左目に対応する距離毎画像により三次元立体画像の奥行き範囲内を複数段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に左目に対応する距離毎画像のピント面が一致するように時分割で複数段階に変化させる」ものである、ということができる。

したがって、上記記載事項等を総合すると、引用刊行物1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている、と認められる。

「右目に対応する距離毎画像と、左目に対応する距離毎画像を表示するスクリーン等の表示デバイスと、
観察者の右目の眼前に設けられる可変焦点光学系101-1と、
前記観察者の左目の眼前に設けられる可変焦点光学系101-2と、
前記観察者の右目および左目の眼前に設けられ、スクリーン等の表示デバイスに交互に投影される左右の距離毎画像に同期して交互に開閉されるシャッター102-1およびシャッター102-2と、
前記右目に対応する距離毎画像および前記左目に対応する距離毎画像による三次元立体画像の奥行き位置に応じて、前記可変焦点光学系101-1の焦点距離および可変焦点光学系101-2の焦点距離を変化させる同期装置とを備え、
前記スクリーン等の表示デバイスは、前記右目に対応する距離毎画像と、前記左目に対応する距離毎画像とを交互に表示し、
前記同期装置は、可変焦点光学系101-1の焦点距離を、右目に対応する距離毎画像および左目に対応する距離毎画像により三次元立体画像の奥行き範囲内を複数段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に右目に対応する距離毎画像のピント面が一致するように時分割で複数段階に変化させ、また、可変焦点光学系101-2の焦点距離を、右目に対応する距離毎画像および左目に対応する距離毎画像により三次元立体画像の奥行き範囲内を複数段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に左目に対応する距離毎画像のピント面が一致するように時分割で複数段階に変化させる表示装置。」

また、同じく本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-223719号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
サ)「〔産業上の利用分野〕
本発明は電気的に表示された画像を立体感を伴って観察するための装置システムに関する。」(第1頁左下欄第20行?同頁右下欄第2行)
シ)「〔従来の技術〕
立体テレビジョン技術において、CRTなどの表示装置用の画面に右眼用画像と左眼用画像とを交互に表示せしめ、一方観察者の左右の眼の前に光シヤツターとして動作する一対の液晶装置を設け、例えばCRTに右眼用画像が表示されている間は右眼前の光シヤツターが透過、左眼前の光シヤツターが不透過となるよう液晶装置を電気信号で制御し、(左眼画像に対してはこの逆)肉眼の残像現象を利用して各眼が見た画像を立体視する方式の従来技術があった。」(第1頁右下欄第3?13行)
ス)「〔発明が解決しようとする問題点〕
上記従来技術においては光シヤツターを眼鏡に組込んでいるが、液晶装置の透過・不透過を切換える信号はテレビジョン装置から画像切換に同期して得なければならない。このため技術の実現上次のような種々の難点を生ずる。
(1)液晶装置を乗せるので、眼鏡が大きく、厚く、重く、高価になる。
(2)表示側の装置と各眼鏡とを信号線でつなぐ場合、観察者の位置や行動の自由を阻害し、人数を制約する。
(3)眼鏡の光シヤツターの切換信号を無線で得る場合、眼鏡に受信装置・駆動回路・電池等を搭載せねばならず、眼鏡を一層大きく、重く、高価にし、電池の保守や管理も面倒である。
本発明はこれらの欠点を一掃すべくなされたものであり、観察画像の切換に関する電気的手段はすべて画像表示装置側に持たせ、観察者は単なる偏光板のみを装着した眼鏡を持てばよいようにし、観察者側の負担を極限にまで減じた立体視装置を提供することを目的とするものである。」(第1頁右下欄第16行?第2頁左上欄第16行)
セ)「〔問題点を解決するための手段〕
右眼用・左眼用画像が交互に切換えられて表示される画像表示装置の光出力を偏光させる偏光手段と、更にその直前(観察者側)に配した旋光手段と、旋光手段の旋光角を略90°(その奇数倍を含む)に切換える制御信号を画像の切換えと同期して送出する画像信号出力装置と、観察者側で所持すべき、右眼側と左眼側の偏光軸を略90゜異らせた偏光眼鏡とより構成される。」(第2頁左上欄第17行?同頁右上欄第5行)
ソ)「〔実施例〕
第1図は本発明の装置の一実施例のシステムの概念図である。・・・(中略)・・・。1は画像信号出力装置、2は画像信号出力線、3はCRT等の画像表示装置、4は画像表示面の全面を覆うように配した偏光板より成る偏光手段、5は液晶セルより成る旋光装置で、90°捩れネマチック液晶51を透明基板52及53の間に封入してあり、全面透明電極(やはり画像表示面を覆う大きさと配置を有し、表面には互に直交する配向処理が施されている)54、55間に十分な電圧が出力線61、62によって印加されると電圧無印加時における液晶1層の90°旋光性が失われるように構成してある。71は観察者の右眼、72は左眼、8は偏光眼鏡で、81は右眼用の偏光板R、82は左眼用の偏光板Lである。画像信号出力装置1は放送局からの画像電波信号、ビデオテープから再生される画像信号、コンピュータの画像RAM内データ等の立体画像信号源から、右眼用の画像信号と左眼用の画像信号とを画像信号出力線2に交互に出力する。・・・(中略)・・・。画像表示装置3はその画像信号を到来順序通り受動的にCRT画面に表示する。その発光は偏光手段4により一方向の偏光のみに揃えられる。本例では偏光軸41は図示の如く紙面に平行であるとする。画像信号出力装置1は画像を切換えている内部の同じタイミング回路により切換わる旋光制御信号を線61、62に出力する。旋光装置5にかかる電圧がゼロのときは液晶51のツイストによる旋光性によって画像光の偏光軸は90°の回転を与えられるので、紙面に垂直な偏光軸83を持つ偏光板Rを通過し右眼のみで観察され、電圧が所定値のときは液晶51が垂直に配向させられて旋光性を失い、偏光手段4と同方向の偏光軸84を持つ偏光板Lを通して左眼のみで画像が観察される。」(第2頁右上欄第15行?同頁右下欄第16行)

したがって、上記記載事項を総合すると、引用刊行物2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている、と認められる。

「表示装置の画面に右目用画像と左目用画像とを交互に表示せしめるとともに、観察者の左右の眼の前に交互に透過、不透過となる光シャッターを設ける立体視の方式に換えて、右眼用・左眼用画像が交互に切換えられて表示される画像表示装置からの光出力を偏光させる偏光手段と、その直前(観察者側)に配した旋光手段と、該旋光手段の旋光角を略90°切換える制御信号を上記右眼用・左眼用画像の切換えと同期して送出する画像信号出力装置と、観察者側で所持すべき、右眼側と左眼側の偏光軸を略90゜異らせた偏光眼鏡とにより立体視を行う方式を採用したもの。」

また、同じく本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-165221号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
タ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,画像表示制御装置に関し、特に左右の眼に片方ずつの画像を視覚でき,立体感のある画像を視覚できる両眼視差方式の画像表示の制御装置に関する。」
チ)「【0002】
【従来の技術】従来,立体的な画像表示の技術に,シャッターレンズを備えた眼鏡を利用する技術がある。この構成を図4を元に説明する。図中S1は左目用の第1の画像、S2は右目用の第2の画像である。単位時間あたりでフレームに区切り,各フレーム毎に各々の画像を表示画面上に交互に表示する。S3は,左右のレンズ部にシャッターを備えた眼鏡であり、フレームに同期して左右のシャッターが交互に開閉する。この時第1画像表示のフレームの時に左のシャッターが開き,第2画像のフレームの時は右のシャッターが開く。これにより、この眼鏡を通して画面を見ると,片方の眼では第1画像のみ視覚し,他方の眼では第2画像のみを視覚することになる。」
ツ)「【0008】
【発明が解決しようとしている課題】上記従来例では,次のような課題を持つ。
レンズ部のシャッターにより全ての光を一時的に遮断するため,被験者の視野が一時的に遮られる。シャッターは高速に動作するため,被験者には視野の遮断は直接実感しないが,フリッカーが増大し精神的な疲労が大きくなる。
液晶シャッターを駆動するためのケーブルなどを必要とするため装着時の違和感があり,また液晶をレンズ部に持つため眼鏡装置の大きさや取扱いに対しても使用上の不便がある。
複数の被験者で同時に利用する場合,人数分の眼鏡及び眼鏡を駆動する装置が必要である。」
テ)「【0009】
【課題を解決するための手段】上述課題を解決するべく、本発明では,左右眼それぞれ用に互いに直交する偏波面を有する偏光フィルターを備えた眼鏡手段を装着した視者に対して、両眼視差を計算した2種類の画像を時分割で交互に切り替え表示し、かつ該切り替え表示に同期して各画像の画像光を、前記偏光フィルターにそれぞれ対応して互いに直交する偏波面角度を持つ直線偏光になるように表示画像を制御することを特徴とする。」
ト)「【0010】
【実施例】「表示システム」図1は,本発明の特徴を最もよく表す図である。画像表示装置として液晶パネルを用いた例である。同図において,1は偏光フィルター(偏光子),2は画像表示用の液晶パネル,3は偏光フィルター(検光子)であり,1,2,3により液晶ディスプレイを構成する。4は液晶ディスプレイで表示される直線偏光画像の偏波面を制御する液晶パネルである。5,6は表示する2種類の画像データである。7は2種類の画像を表示するための制御装置であり,2種類の画像を交互に表示制御する画像表示制御部,画像光の偏波面を制御する液晶パネル制御部,両制御部の同期をとる表示同期制御部からなる。
【0011】・・・(中略)・・・。
【0012】液晶ディスプレイの背面より照明され,偏光子1を透過して得られる直線偏光1-1は表示液晶パネル2を透過することにより画像の暗部からの光2-1と明部からの光2-2が互いに偏光方向の異なる光となり、画像光が形成される。この画像光は,検光子を透過するときに検光子の向きに沿った偏波面角度の偏光のみが透過するため,明部からの光のみが透過する。この結果,液晶ディスプレイにより直線偏光3-2の画像が表示される(図2-a)。
【0013】液晶パネル制御部では,フレーム1信号を受けると液晶パネルに電圧を加えず,フレーム2信号を受けると,液晶パネルに電圧を加える。この制御により,画像1を表示するとき,その画像光の偏波面角度は直角に曲げられ(図2-b),画像2を表示するとき,画像光の偏波面角度はそのままの直線偏光(図2-c)となる。
【0014】これらの画像光を左眼レンズに片方の偏光を遮断する偏光フィルター,右眼レンズに他方の偏光を遮断する偏光フィルターを備えた眼鏡8でみると,左眼で画像1(図2-b)を右眼で画像2(図2-c)を視覚する。画像に視差を計算した画像を利用すると,立体的な画像を視覚できる。」

したがって、上記記載事項等を総合すると、引用刊行物3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている、と認められる。

「各フレーム毎に左目用の第1の画像と右目用の第2の画像を表示画面上に交互に表示し、左右のレンズ部にシャッターを備えた眼鏡の該左右のシャッターをフレームに同期して交互に開閉する立体的な画像表示の技術に換えて、左右眼それぞれ用に互いに直交する偏波面を有する偏光フィルターを備えた眼鏡手段を装着した視者に対して、液晶ディスプレイにより両眼視差を計算した2種類の画像を時分割で交互に切り替え表示し、該液晶ディスプレイの視者側に直線偏光画像の偏波面を制御する液晶パネルを配置することにより、上記2種類の画像の切り替え表示に同期して、各画像の画像光を前記偏光フィルターにそれぞれ対応して互いに直交する偏波面角度を持つ直線偏光になるように制御する両眼視差方式を採用したもの。」

2〕対比
本願補正発明と引用発明1を対比する。
引用発明1の「右目に対応する距離毎画像」、「左目に対応する距離毎画像」、「スクリーン等の表示デバイス」、「可変焦点光学系101-1」、「可変焦点光学系101-2」、「三次元立体画像」、「同期装置」及び「表示装置」は、それぞれ本願補正発明の「右目用の視差像」、「左目用の視差像」、「表示装置」、「第1の可変焦点レンズ」、「第2の可変焦点レンズ」、「三次元立体像」、「同期装置」及び「三次元表示装置」に相当する。
また、引用発明1では、「可変焦点光学系101-1(可変焦点光学系101-2)の焦点距離を、右目に対応する距離毎画像および左目に対応する距離毎画像により三次元立体画像の奥行き範囲内を複数段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に右目(左目)に対応する距離毎画像のピント面が一致するように時分割で複数段階に変化させ」ているのであるから、この点は、本願補正発明の、「第1の可変焦点レンズ(第2の可変焦点レンズ)の焦点距離を、右目用の視差像および左目用の視差像による三次元立体像の奥行き範囲内を少なくともn(2≦n≦10)段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に右目用(左目用)の視差像のピント面が一致するように時分割で少なくともn段階に変化させ」、に相当する。

したがって、両者は、
「右目用の視差像と、左目用の視差像を表示する表示装置と、
観察者の右目の眼前に設けられる第1の可変焦点レンズと、
前記観察者の左目の眼前に設けられる第2の可変焦点レンズと、
前記観察者の右目の眼前に設けられ、光を通過、遮断する第1の手段と、
前記観察者の左目の眼前に設けられ、光を通過、遮断する第2の手段と、
前記右目用の視差像および前記左目用の視差像による三次元立体像の奥行き位置に応じて、前記第1の可変焦点レンズの焦点距離および第2の可変焦点レンズの焦点距離を変化させる同期装置とを備え、
前記表示装置は、前記右目用の視差像と、前記左目用の視差像とを交互に表示し、
前記同期装置は、前記第1の可変焦点レンズの焦点距離を、右目用の視差像および左目用の視差像による三次元立体像の奥行き範囲内を少なくともn(2≦n≦10)段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に右目用の視差像のピント面が一致するように時分割で少なくともn段階に変化させ、また、前記表示装置が前記左目用の視差像を表示するときに、前記第2の可変焦点レンズの焦点距離を、右目用の視差像および左目用の視差像による三次元立体像の奥行き範囲内を少なくともn段階の奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に左目用の視差像のピント面が一致するように時分割で少なくともn段階に変化させる三次元表示装置。」
である点で一致し、以下の相違点において相違する。

相違点:本願補正発明は、表示装置の観察者側に偏光切替装置を配置し、前記観察者の右目の眼前に偏光方向が第1の偏光方向の光を通過させ、偏光方向が第2の偏光方向の光を遮断する第1の手段を設けるとともに、前記観察者の左目の眼前に偏光方向が第2の偏光方向の光を通過させ、偏光方向が第1の偏光方向の光を遮断する第2の手段を設け、同期装置が、表示装置が右目用の視差像を表示するときには前記偏光切替器を制御して前記偏光切替装置から出力される視差像の偏光方向を第1の偏光方向に切り替えるとともに、前記表示装置が左目用の視差像を表示するときには前記偏光切替器を制御して前記偏光切替装置から出力される視差像の偏光方向を第2の偏光方向に切り替えるのに対し、引用発明1は、観察者の左右目の眼前に設けられたシャッターを、スクリーン等の表示デバイスに投影される左右の距離毎画像に同期して開閉させる点。

3〕判断
上記相違点につき検討する。
観察者の左右の眼の前に交互に透過、不透過となる光シャッターを設ける立体視の方式に換えて、右眼用・左眼用画像が交互に切換え表示される画像表示装置からの光出力の偏光方向を、該画像の切換えに同期して略90°切換える旋光手段を該画像表示装置の直前に配置し、該切換え表示される右眼用・左眼用画像を右眼側と左眼側の偏光軸を略90゜異らせた偏光眼鏡により観察する立体視の方式を採用する発明(引用発明2、引用発明3)は引用刊行物2および引用刊行物3等において周知であり、この周知技術を上記引用発明1に適用して上記相違点に係る本願補正発明の技術的事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用刊行物1?3に記載された発明から当業者が予測し得る程度のものである。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4〕むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



III.本願発明について
1.本願発明
平成18年5月22日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成17年12月26日付手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1および2に記載されたものであるところ、その請求項1は次の事項によって特定されるものである。
「【請求項1】 右目用の視差像と、左目用の視差像を表示する表示装置と、
観察者の右目の眼前に設けられる第1の可変焦点レンズと、
前記観察者の左目の眼前に設けられる第2の可変焦点レンズと、
前記表示装置の前記観察者側に配置される偏光切替装置と、
前記観察者の右目の眼前に設けられ、偏光方向が第1の偏光方向の光を通過させ、偏光方向が第2の偏光方向の光を遮断する第1の手段と、
前記観察者の左目の眼前に設けられ、偏光方向が第2の偏光方向の光を通過させ、偏光方向が第1の偏光方向の光を遮断する第2の手段と、
前記右目用の視差像および前記左目用の視差像による三次元立体像の奥行き位置に応じて、前記第1の可変焦点レンズの焦点距離および第2の可変焦点レンズの焦点距離を変化させる同期装置とを備え、
前記表示装置は、前記右目用の視差像と、前記左目用の視差像とを交互に表示し、
前記同期装置は、前記表示装置が前記右目用の視差像を表示するときに、前記偏光切替器を制御し前記偏光切替装置から出力される視差像の偏光方向を第1の偏光方向に切り替えるとともに、前記第1の可変焦点レンズの焦点距離の焦点距離を時分割で少なくともn(2≦n≦10)段階に変化させ、また、前記表示装置が前記左目用の視差像を表示するときに、前記偏光切替器を制御し前記偏光切替装置から出力される視差像の偏光方向を第2の偏光方向に切り替えるとともに、前記第2の可変焦点レンズの焦点距離の焦点距離を時分割で少なくともn段階に変化させることを特徴とする三次元表示装置。」(以下、「本願発明」という。)
なお、上記平成17年12月26日付手続補正における【請求項1】の一番最初に記載された「前記観察者」は「観察者」の誤りと認められるから、上記のとおり認定を行った。

2.刊行物記載の発明
本願の出願前に頒布された引用刊行物1:特開2002-196280号公報、引用刊行物2:特開昭62-223719号公報、および引用刊行物3:特開平6-165221号公報には、それぞれ上記II.2.1〕において摘記した事項が記載されている。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.で検討した本願補正発明から、「第1の可変焦点レンズの焦点距離」の変化を、「右目用の視差像および左目用の視差像による三次元立体像の奥行き範囲内を(少なくともn(2≦n≦10)段階の)奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に右目用の視差像のピント面が一致するように」するとともに、同「第2の可変焦点レンズの焦点距離」の変化を、「右目用の視差像および左目用の視差像による三次元立体像の奥行き範囲内を(少なくともn段階の)奥行き区間に分割し、それぞれの奥行き位置に左目用の視差像のピント面が一致するように」する、との限定を省いたものである。そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記II.2.に記載したとおり、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-21 
結審通知日 2007-11-27 
審決日 2007-12-10 
出願番号 特願2003-71199(P2003-71199)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三橋 健二早川 貴之  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 吉田 禎治
岩本 勉
発明の名称 三次元表示装置  
代理人 本山 泰  
代理人 根岸 裕一  

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