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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効200680189 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 一部無効 1項3号刊行物記載 H02P 審判 一部無効 2項進歩性 H02P |
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管理番号 | 1171889 |
審判番号 | 無効2005-80353 |
総通号数 | 99 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-03-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-12-07 |
確定日 | 2008-02-12 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第1751443号発明「電圧形インバ?タの制御装置及びその方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯・本件発明 本件特許第1751443号の請求項1及び請求項2に係る発明(昭和60年12月6日出願、平成5年4月8日設定登録。以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものと認める。 (本件発明1) 「交流電圧指令に基づいて直流電圧をパルス幅変調制御して交流電圧に変換し、該交流電圧を負荷に供給する電圧形インバータの制御装置において、 交流電流指令値を発生する電流指令手段と、予め記憶した電流に対する前記インバータの電圧降下の特性から、前記交流電流指令値に応じた前記インバータの電圧降下の値を出力する手段と、該電圧降下の値を前記交流電圧指令に補正する手段とを備えたことを特徴とする電圧形インバータの制御装置。」 (本件発明2) 「交流電圧指令に基づいて直流電圧をパルス幅変調制御して交流電圧に変換し、該交流電圧を負荷に供給する電圧形インバータの制御方法において、 予め記憶した電流と前記インバータの電圧降下の関係と、前記インバータの交流出力電流指令により、瞬時瞬時において前記交流出力電流指令に対する前記インバータの電圧降下を求め、該電圧降下に基づいて前記インバータの交流出力電圧を修正するようにしたことを特徴とする電圧形インバータの制御方法。」 2.請求人の主張 これに対して、請求人は、本件発明1及び本件発明2に係る特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、甲第1号証ないし甲第4号証を提出すると共に、大略、以下のように主張している。 本件発明1及び本件発明2は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、または、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。よって、これらの特許は同法第123条第1項第2号に該当し無効とされるべきである。 (証拠方法) 甲第1号証:特開昭60-118083号公報 甲第2号証:特開昭59-165982号公報 甲第3号証:特開昭60-84992号公報 甲第4号証:特開昭60-200793号公報 3.甲第1号証 そして、甲第1号証には、「誘導電動機のベクトル制御装置」に関し、図面と共に次の事項が記載されている。 ・「近年、誘導電動機の速応性を向上する制御方式として、電動機の一次電流を励磁電流と二次電流とに分けて制御し、二次磁束と二次電流ベクトルを常に直交させることで直流機と同等の応答性を得ようとするベクトル制御方式が提案されている。 このようなベクトル制御方式として、電動機に交流電力を供給する電力変換装置にPWM方式インバータを使った電圧形ベクトル制御方式とし、二次磁束分と二次電流分との間に互いの干渉分をキャンセルできる非干渉制御法式を・・・既に提案している」(1頁右下欄10行?2頁左上欄5行) ・「しかし、この方式は一次電圧をオープンループで制御するため、トランジスタインバータ2のトランジスタ間のデッドタイムによる電圧減少分が制御誤差となって現われることがある。」(2頁左下欄10?13行) ・「本発明は、トランジスタインバータのデッドタイムによって生じる制御誤差を補償して制御性能を向上したベクトル制御装置を提供することを目的とする。」(2頁左下欄15行?右下欄3行) ・「第1図におけるインバータ2が第2図に示すようにトランジスタT_(r1)?T_(r6)と帰還ダイオードD_(1)?D_(6)の並列回路をブリッジ接続にしたインバータ主回路2Aを持つものにおいて、例えばトランジスタT_(r1)とT_(r2)の上下アームの転流時に両トランジスタが同時に点弧状態になる期間が生じるとターンオフロスが大きくなるため、ターンオフするトランジスタに対してターンオンするトランジスタをわずかに遅らせる制御がなされる。」(2頁右下欄10行?3頁左上欄3行) ・「これら関係を第3図で説明する。位相制御角φの電流i_(a)が第2図矢印方向の正期間T_(p)に制御電圧信号e_(a)と三角波T_(r1)との比較によるPWM波形に従ってトランジスタT_(r1)とT_(r2)をオン・オフするのに、トランジスタT_(r1)とT_(r2)の接続点の電位が正極性に変化するのにトランジスタT_(r1)の点弧遅れ(デッドタイムT_(d))だけ遅れる。」(3頁右上欄2?8行) ・「本発明はデッドタイムT_(d)によって減少する電圧e_(DB)・・・を予め見込んで同期回転座標から制御電圧信号(e_(1α),e_(1β))を補償することで正確な出力電圧を得る。」(3頁右下欄14行?4頁左上欄2行) ・「第4図は、本発明の一実施例を示す要部回路図である。補償回路3では磁束と二次電流設定用一次電流設定信号i_(1α)^(*),i_(1β)^(*)から非干渉補償した一次電圧演算結果e_(1α),e_(1β)を得、相電圧演算回路7では電圧信号e_(1α),e_(1β)から各相電圧設定値e_(a)^(*),e_(b)^(*),e_(c)^(*)を得るにおいて、力率角演算器11は一次電流設定信号i_(1α)^(*),i_(1β)^(*)から力率角φを次の式から求め、 φ=tan^(-1)i_(1α)^(*)/i_(1β)^(*)………(9) この力率角φを持つ正弦波信号SINφと余弦波信号COSφを得る。従って演算器11は、第5図に示すように信号i_(1α)^(*),i_(1β)^(*)による電流ベクトルI_(1)と電圧e_(1α),e_(1β)による電圧ベクトルE_(1)との間の力率角φからデッドタイムによる電圧減少e_(DB)をα,β軸成分に分解するための正・余弦波成分を得る。 なお、デッドタイムによる電圧e_(DB)は前述の(3),(5)式から次の(10)式に変換される。 e_(DB)=E_(DB)SIN(ωt-φ) =E_(DB)(COSφ・SINωt-SINφ・COSωt)…(10) 次に、デッドタイム電圧演算器12はデッドタイム電圧E_(DB)の演算を行なう。このため、演算器12は角周波数ω,三角波パルス数P,設定されるデッドタイムT_(d)から次の(11)式により求める。 E_(DB)=π/2・E_(d)・T_(d)・(P-1)・f……(11) 次に、乗算器13は演算器11の出力SINφ,COSφと演算器12の出力E_(DB)から電圧e_(DB)のα軸成分E_(DB)・SINφとβ軸成分E_(DB)・COSφを求める。比較器14,15は電圧信号e_(1α),e_(1β)に乗算器13の出力を夫々加減算して相電圧演算回路7の新たな入力電圧信号e_(1α)^(*),e_(1β)^(*)とする。 これら信号は次の(12)式になる。 e_(1α)^(*)=e_(1α)+E_(DB)・SINφ e_(1β)^(*)=e_(1β)-E_(DB)・COSφ……(12)」(4頁左上欄4行?左下欄6行) ・「本発明によれば、PWM方式トランジスタインバータによるベクトル制御において、トランジスタのデッドタイムによる電圧降下を補償して制御性能を向上できる効果がある。」(4頁左下欄8?11行) ・また、第1図には、補正演算回路3から出力される交流電圧e_(1α),e_(1β)に基づいて直流電圧E_(d)をPWM方式で交流電圧に変換し、この交流電圧を電動機1に供給するPWM方式インバータ2が示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には次の各発明が記載されているものと認められる。 (1) 「制御電圧信号e_(1α),e_(1β)に基づいて直流電圧E_(d)をPWM方式で交流電圧に変換し、該交流電圧を電動機1に供給するPWM方式トランジスタインバータ2の電圧形ベクトル制御装置において、 一次電流設定信号i_(1α)^(*),i_(1β)^(*)を発生する手段と、 一次電流設定信号i_(1α)^(*),i_(1β)^(*)から力率角φを、φ=tan^(-1)i_(1α)^(*)/i_(1β)^(*)の式で求め、SINφ,COSφを出力する力率角演算器11と、 角周波数ω,三角波パルス数P,デッドタイムT_(d)からデッドタイム電圧E_(DB)を、E_(DB)=π/2・E_(d)・T_(d)・(P-1)・fの式で演算するデッドタイム電圧演算器12と、 力率角演算器11の出力とデッドタイム電圧演算器12の出力からデッドタイム電圧e_(DB)のα軸成分E_(DB)・SINφ及びβ軸成分E_(DB)・COSφを求める乗算器13と、 制御電圧信号e_(1α),e_(1β)に乗算器13の出力を夫々加減算して新たな入力電圧信号e_(1α)^(*),e_(1β)^(*)とする比較器14,15とを備えたPWM方式トランジスタインバータの電圧形ベクトル制御装置。」(以下、「甲1装置発明」という。) (2) 「制御電圧信号e_(1α),e_(1β)に基づいて直流電圧E_(d)をPWM方式で交流電圧に変換し、該交流電圧を電動機1に供給するPWM方式トランジスタインバータ2の電圧形ベクトル制御方法において、 一次電流設定信号i_(1α)^(*),i_(1β)^(*)から、φ=tan^(-1)i_(1α)^(*)/i_(1β)^(*)の式で力率角φを求め、SINφ,COSφを出力し、 角周波数ω,三角波パルス数P,デッドタイムT_(d)から、E_(DB)=π/2・E_(d)・T_(d)・(P-1)・fの式でデッドタイム電圧E_(DB)を演算し、 SINφ,COSφとデッドタイム電圧E_(DB)から電圧e_(DB)のα軸成分E_(DB)・SINφ及びβ軸成分E_(DB)・COSφを求め、 制御電圧信号e_(1α),e_(1β)に乗算器13の出力を夫々加減算して新たな入力電圧信号e_(1α)^(*),e_(1β)^(*)とするようにしたPWM方式トランジスタインバータの電圧形ベクトル制御方法。」(以下、「甲1方法発明」という。) 4.対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1と甲1装置発明、及び、本件発明2と甲1方法発明、とをそれぞれ比較すると、甲1装置発明には、少なくとも本件発明1における「予め記憶した電流に対するインバータの電圧降下の特性から、交流電流指令値に応じた前記インバータの電圧降下の値を出力する手段」(以下、「構成要件1」という。)、即ち、予め記憶した電流(インバータの出力電流)の大きさに対応するインバータの電圧降下の特性(第2図の曲線で表された特性参照。)を用いて交流電流指令値に応じたインバータの電圧降下の値を出力する手段が具備されておらず、また、甲1方法発明には、少なくとも本件発明2における「予め記憶した電流とインバータの電圧降下の関係と、前記インバータの交流出力電流指令により、瞬時瞬時において前記交流出力電流指令に対する前記インバータの電圧降下を求め」る構成(以下、「構成要件2」という。)、即ち、予め記憶した電流(インバータの出力電流)の大きさに対応するインバータの電圧降下の関係(第2図の曲線で表された関係参照。)を用いて交流出力電流指令に対するインバータの電圧降下を求める構成が具備されていない。 さらに、甲第1号証ないし甲第4号証には、上記構成要件1及び構成要件2を示唆する記載も見あたらない。 そして、本件発明1及び本件発明2は上記各構成要件により、「オンディレイによるインバータ内部電圧降下を補償するのでトルクリプル及び制御特性の劣化を防止できる」という明細書に記載の効果を奏すると共に、交流電流指令値に応じたインバータの電圧降下(又は、電圧降下の値)を「予め記憶した電流に対するインバータの電圧降下の特性」あるいは「予め記憶した電流とインバータの電圧降下の関係」を用いて直接的に求めることができるため、構成が簡略化されるという効果を奏することも明らかである。 確かに、甲第1号証の「本発明は、トランジスタインバータのデッドタイムによって生じる制御誤差を補償して制御性能を向上したベクトル制御装置を提供することを目的とする。」という記載によれば、甲1装置発明及び甲1方法発明は、本件発明1及び本件発明2と同様の課題を有するものといえる。 しかしながら、制御誤差(又は、デッドタイム電圧)を求めるために、甲1装置発明では「角周波数ω,三角波パルス数P,デッドタイムT_(d)からデッドタイム電圧E_(DB)を、E_(DB)=π/2・E_(d)・T_(d)・(P-1)・fの式で演算するデッドタイム電圧演算器12」を備え、また、甲1方法発明では「角周波数ω,三角波パルス数P,デッドタイムT_(d)から、E_(DB)=π/2・E_(d)・T_(d)・(P-1)・fの式でデッドタイム電圧E_(DB)を演算」するものであって、いずれの発明も、単に、角周波数,三角波パルス数,デッドタイムという三種類の物理量から所定の演算のみにより制御誤差(又は、デッドタイム電圧)を得ているものである以上、かかる制御誤差がインバータの出力電流の大きさに対応するインバータの電圧降下(又は、電圧降下の値)になっているとは認められず、しかも、かかる制御誤差は予め記憶されるものともなっていない。 一方、甲第2号証ないし甲第4号証は、単に、回転座標系の電圧指令を固定座標系の電圧指令に座標変換する技術を開示しているにすぎない。 また、甲1装置発明及び甲1方法発明において、上記構成要件1及び構成要件2に想到することが当業者にとって容易であると判断するに足りる証拠は何等示されていない。 そうすると、本件発明1及び本件発明2が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 なお、請求人は、審判請求書の9頁26行?10頁1行において、甲第1号証に記載された(12)式中の補償値を実際に行う演算式、即ち、 e_(1α)に対する補償値=E_(DB)・SIN(tan^(-1)i_(1α)^(*)/i_(1β)^(*)) e_(1β)に対する補償値=E_(DB)・COS(tan^(-1)i_(1α)^(*)/i_(1β)^(*)) を演算するためには、当然予め決められている上記式を実行するための算出手段を装備しなければならず、「予め記憶した電流に対するインバータの電圧降下の特性」を用いていることは明らかである旨主張している。 しかしながら、上記の補償値は、角周波数,三角波パルス数,デッドタイムという三種類の物理量から所定の演算式を介して得られるデッドタイム電圧E_(DB)と、一次電流設定信号から得られる力率角φ(即ち、tan^(-1)i_(1α)^(*)/i_(1β)^(*))に基づいて演算のみにより得られるものであり、「予め記憶した電流に対するインバータの電圧降下の特性」を用いていると解する余地はないというべきであるから、請求人の上記主張は採用できない。 さらに、請求人は、平成18年5月18日に実施された口頭審理において、本件の第3図及び第4図の実施例は、交流電流指令値を用いておらず、本件発明1及び本件発明2に対応していない旨の主張をしている。 しかしながら、そもそも、特定の請求項に係る発明が、特許明細書及び図面に記載されたあらゆる実施例を全て包含するものでなければならないとする制約はないのであるから、仮に、上記第3図及び第4図の実施例が本件発明1及び本件発明2を具現化したものではないとしても、そのこと自体が、本件発明1及び本件発明2の新規性及び進歩性を否定する根拠とならないことは明らかである。 5.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明1及び本件発明2についての特許を無効にすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用する。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2006-05-22 |
出願番号 | 特願昭60-273259 |
審決分類 |
P
1
123・
113-
Y
(H02P)
P 1 123・ 121- Y (H02P) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田良島 潔 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
高橋 学 丸山 英行 |
登録日 | 1993-04-08 |
登録番号 | 特許第1751443号(P1751443) |
発明の名称 | 電圧形インバ?タの制御装置及びその方法 |
代理人 | 奥村 直樹 |
代理人 | 中村 彰吾 |
代理人 | 飯田 秀郷 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 近藤 直樹 |
代理人 | 松尾 和子 |
代理人 | 隈部 泰正 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 井坂 光明 |
代理人 | 特許業務法人第一国際特許事務所 |