• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47C
管理番号 1171944
審判番号 不服2005-10147  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-30 
確定日 2008-01-30 
事件の表示 平成 7年特許願第515171号「可変温度座席雰囲気制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 6月 1日国際公開、WO95/14899、平成 9年 6月 3日国内公表、特表平 9-505497〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、1994年11月17日(優先権主張1993年11月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成16年2月13日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のものと認められる。

「座席占有者の熱的快適を増すため、座席を介して温度調節された空気を分配する手段を持った占有者座席、
座席に温度調節空気を供給するため、空気管路により座席に接続された少なくとも一つのヒート・ポンプで、温度調節空気のため少なくとも一つの熱電気モジュール、及び占有者に座席を介して温度調節された空気を通し、かつ熱電気モジュールから不用の熱エネルギーを取り除くための少なくとも一つのファンを具備しているヒート・ポンプ、
望ましい動作モードが選択された後、占有者の入力と独立して前記少なくとも一つのヒート・ポンプの熱電気モジュールとファンの動作を始動させ、そして調節する制御器であって、熱電気効率を高めるため、少なくとも一つのモジュールに調節された空気の望ましい温度を達成するために必要な電力量を提供することにより、熱電気モジュールの動作を調整する制御器、
システム応答を最適化し、座っている占有者に最大の熱的快適さを提供し、そして、占有者の不快さと悪い生理的反応を最小にするためシステムの冷却機能を制御するため、自動的に制御器を動作させる手段、及び、
占有者の存在を検知するため座席に取り付けられ、電気的に制御器に接続されている表示スイッチ、
を具備する、可変温度占有者座席において温度雰囲気を制御するためのシステム。」

なお、請求項1には同一対象物について「ヒート・ポンプ」および「ヒートポンプ」と異なる標記がされていることから、「ヒート・ポンプ」との標記に統一し、また「ヒート・ポン」との標記については「ヒート・ポンプ」の誤記と認め、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)を上記のように認定した。

2.引用例

(1)原査定の拒絶の理由に引用した特開平5-277020号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

・「【0007】【作用】
前記技術的手段は次のように作用する。シート内に配設されたペルチエ素子により、加熱あるいは冷却されたエアがフアンにより、エア吹出孔から吹き出される。
【0008】
この作用により、いかなるシートの位置においても対応することができるとともに、夏期には冷たいエアをエア吹出孔から吹き出せれるので発汗により高湿度感(ムレ感)を感じることがなく、冬季には暖かいエアをエア吹出孔から吹き出せるので、快適な車内空間を提供することができる。
【0009】【実施例】
以下、図1を参照して実施例を説明する 自動車用シート1は、背当て部2aおよび着座部2bからなるシート2と、シート2の下部に形成された空間7に配設されたペルチエ素子3と、空間7に配設されたフアン4とを備える。
【0010】
背当て部2aは、内部に空間7と連通する第1ダクト5aが形成されており、その第1ダクト5aと連通するエア吹出孔6が複数形成されている。また着座部2bは、内部に空間7と連通する第2ダクト5bが形成されており、その第2ダクト2bと連通するエア吹出孔6が複数形成されている。
【0011】
ペルチエ素子3は、第1フイン3aと第2フイン3bとからなるものであり、バツテリー8と電気的に接続されている。また、第1フイン3aおよび第2フイン3bは、電流の流れる方向により空間7内に存在するエアを加熱および冷却するものである。
【0012】
空間7は、自動車の外部と連通する排気ダクト9と連通している。また、排気ダクト9と、第1および第2ダクト5a,5bとの間は、仕切り板10により区画されている。この、仕切り板10により、第1フイン3aにより加熱もしくは冷却されたエアが排気側のエアと混合することがない。また、第1フイン3aによりエアを冷却する場合に、エアに含まれていた水蒸気の一部が水滴となるが、この水滴はドレン11から排出される。
【0013】
次に、本実施例の作動を説明する。冷却する時には、フアン4により送られてくるエアが第1フイン3aにより冷却されるとともに、第2フイン3bにより加熱される。第1フイン3aにより冷却されたエアは、第1ダクト5aおよび第2ダクト5bを介してエア吹出孔6から吹き出される。第2フイン3bにより加熱されたエアは、排気ダクト9を介して自動車の外部に排出される。
【0014】
加熱する時には、フアン4により送られてくるエアが第1フイン3aにより加熱されるとともに、第2フイン3bにより冷却される。第1フイン3aにより加熱されたエアは、第1ダクト5aおよび第2ダクト5bを介してエア吹出孔6から吹き出される。第2フイン3bにより冷却されたエアは、排気ダクト9を介して自動車の外部に排出される。
【0015】
また、本実施例の自動車用シート1は、シート2に温度センサもしくは湿度センサを配設して、使用者が設定した温度もしくは湿度によりElectronic Control Unit等の制御手段によりペルチエ素子3およびフアン4を自動制御することも可能である。」


したがって、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用例1発明」という。)。

「シートを介して加熱もしくは冷却されたエアを送る手段を持った使用者用シート、
シートに加熱もしくは冷却されたエアを供給するため、ダクトによりシートに接続された、加熱もしくは冷却されたエアのための一つのペルチェ素子、及びシートを介して加熱もしくは冷却されたエアを通し、かつペルチェ素子から廃棄側エアの熱を取り除くための一つのファンを具備し、
望ましい温度もしくは湿度が設定された後、前記一つのペルチェ素子とファンの動作を自動制御する制御手段であって、一つのペルチェ素子に調節されたエアの望ましい温度を達成するために電流を提供することにより、ペルチェ素子の動作を自動制御する制御手段、
を具備する、加熱及び冷却機能を有する使用者用シートにおいて車内空間の快適さを制御するためのシステム。」

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用した実願昭60-201589号(実開昭62-107762号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

・「乗員がシートへ着座していることを検出する着座センサと、シート表面付近の湿度を検出する湿度センサと、シート内からシート表面側へエア通路が設けられエアコンデイシヨナと連通された冷却装置と、エア通路の開閉を行うバルブと、前記着座を検出しかつ前記湿度が所定値以上であることを検出した場合には前記バルブを開いてシート側へ冷却風を送風するバルブ制御手段と、を有することを特徴とする車両用冷却シート。」(実用新案登録請求の範囲)

・「第1図に示す如く、シート10のシートクツシヨン12,シートバツク14にはそれらの表面から裏面側に向けて複数のエア通路16が設けられている。これらエア通路16には管18、管20が分岐されて接続されている。管18、20は一本の管22に接続されている。管22の通路には弁24が設けられており、モータ26により管22の通路を開閉可能となっている。モータ26には弁24の開閉を検出するマイクロスイツチ28、30が設けられており、その検出信号がマイクロコンピユータ32へ供給されるようになっている。また、シートクツシヨン12,シートバツク14の表面付近には複数個の圧力センサ34、湿度センサ36が埋設されている。これらの検出信号はマルチプレクサ38、A/D変換器40を介してマイクロコンピユータ32へ供給されるようになっている。マイクロコンピユータ32は、上記検出信号に基づいて、ドライバ42を介してモータ26を駆動して弁24を開閉制御するようになっている。」(明細書第4頁第1行-第20行)

・「[考案の効果]
本考案に係る車両用冷却シートでは、乗員がシートへ着座したことを検出し、かつシート表面付近の湿度が所定値以上であることを検出した場合には、バルブを開いてシート表面から冷却風を着座する乗員へ吹き当てるようになっているので、自動的に必要時のみに乗員へ冷却エアを吹き当てることができるという優れた効果を有する。」(明細書第7頁第4行-第12行)

したがって、引用例2には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用例2発明」という。)。

「乗員の着座を検知するためシートに埋設され、乗員への冷却エア吹き当てを制御しているマイクロコンピュータに検出信号を供給されるようになっている圧力センサ」

3.対比

本願発明と引用例1発明とを対比する。

引用例1発明の「使用者用シート」は本願発明の「占有者座席」に相当し、以下同様に、「加熱もしくは冷却されたエアを送る手段」は「温度調節された空気を分配する手段」に、「ダクト」は「空気管路」に、「ペルチェ素子」は「熱電気モジュール」に、「廃棄側エアの熱」は「不用の熱エネルギー」に、「望ましい温度もしくは湿度が設定され」は「望ましい動作モードが選択され」に、「電流」は「電力」に、また、「車内空間の快適さ」は「温度雰囲気」にそれぞれ相当する。
ここで、引用例1発明において加熱もしくは冷却されたエアを送るのは、使用者の熱的快適さを増すためであり、また、引用例1発明のペルチェ素子、ファンからなるエアを加熱および冷却する装置はヒート・ポンプに他ならない。

さらに、引用例1発明のペルチェ素子の動作を自動制御する制御手段は、その目的からして当然に、システム応答を最適化し、座っている使用者に最大の熱的快適さを提供し、そして、使用者の不快さと悪い生理的反応を最小にするために冷却機能を制御するように動作させるようにするものである。そして、このような制御手段は、必然的にそのためにペルチェ素子に送る電力を制御することになるから、この制御に関与するところのものが本願発明の制御器に相当する。

したがって両者は、

「座席占有者の熱的快適を増すため、座席を介して温度調節された空気を分配する手段を持った占有者座席、
座席に温度調節空気を供給するため、空気管路により座席に接続された一つのヒート・ポンプで、温度調節空気のため一つの熱電気モジュール、及び占有者に座席を介して温度調節された空気を通し、かつ熱電気モジュールから不用の熱エネルギーを取り除くための一つのファンを具備しているヒート・ポンプ、
望ましい動作モードが選択された後、前記一つのヒート・ポンプの熱電気モジュールとファンの動作を始動させ、そして調節する制御器であって、一つのモジュールに調節された空気の望ましい温度を達成するために電力を提供することにより、熱電気モジュールの動作を調整する制御器、
システム応答を最適化し、座っている占有者に最大の熱的快適さを提供し、そして、占有者の不快さと悪い生理的反応を最小にするためシステムの冷却機能を制御するため、自動的に制御器を動作させる手段、
を具備する、可変温度占有者座席において温度雰囲気を制御するためのシステム。」

の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明では、制御器が占有者の入力と独立して熱電気モジュールとファンの動作を始動させ、そして調節するのに対して、引用例1発明では、制御器が熱電気モジュールとファンの始動をどのように行うか記載されていない点。

[相違点2]
本願発明では、制御器が熱電気効率を高めるため、少なくとも一つのモジュールに調節された空気の望ましい温度を達成するために必要な電力量を提供することにより、熱電気モジュールの動作を調整するのに対して、引用例1発明では、電力の供給手法について示されていない点。

[相違点3]
本願発明では、「占有者の存在を検知するため座席に取り付けられ、電気的に制御器に接続されている表示スイッチ」を具備するのに対して、引用例1発明では、そのようなスイッチは設けられていない点。

4.判断

上記相違点について検討する。

相違点1について、

一般に、対象装置を自動制御する制御器において、操作者の入力事項以外の何らかの要因を考慮して、入力と独立して制御器を動作させることは本願の優先日前から周知技術(例えば、特開平3-143442号公報、特開平3-143522号公報、特開平3-247940号公報等参照)である。
したがって、相違点1に係る構成は、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。

相違点2について、

電力を供給して機器の作動を行う装置において、無駄を省くために必要な電力量を供給するように制御を行うことは本願の優先日前から周知技術(例えば、特開平4-72746号公報、特開平5-241668号公報、特開平3-143522号公報等参照)である。
したがって、相違点2に係る構成は、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。

相違点3について、

引用例2発明において、「乗員の着座を検知」は本願発明の「占有者の存在を検知」に相当し、以下同様に「シートに埋設され」は「座席に取り付けられ」に、「検出信号を供給」は「電気的に接続」に、また「圧力センサ」は「表示スイッチ」に相当する。さらに、「マイクロコンピユータ」は、乗員への冷却状況に関与しているからこの意味において「制御器」に相当する。
してみると、引用例2発明は相違点3に係る、
「占有者の存在を検知するため座席に取り付けられ、電気的に制御器に接続されている表示スイッチ」
の構成を備えている。

ここで、本願発明、引用例1発明、引用例2発明は何れも、座席を介して占有者に温度調節された空気を供給する技術に関する点で共通するから、引用例1発明に引用例2発明の構成を付加して相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用例1、引用例2の記載及び周知技術から当業者が予測できた範囲内のものである。

5.むすび

本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-23 
結審通知日 2007-08-28 
審決日 2007-09-13 
出願番号 特願平7-515171
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 富夫  
特許庁審判長 小菅 一弘
特許庁審判官 会田 博行
佐野 遵
発明の名称 可変温度座席雰囲気制御システム  
代理人 下道 晶久  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ