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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1172060
審判番号 不服2004-16639  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-09 
確定日 2008-01-30 
事件の表示 特願2002-297905「液晶ポリマーを含むメイクアップ組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月 3日出願公開、特開2003-160439〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成14年10月10日(優先権主張平成2001年10月10日、フランス)の出願であって、平成15年9月30日付けで拒絶理由が通知され、平成16年4月7日に意見書が提出され、そして、同年4月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月8日付で手続補正がなされたものである。

2.平成16年9月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年9月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「化粧品として許容される媒体中に、
- ビニルエステルとスチレンモノマーから選ばれる少なくとも一のモノマーのホモ重合又は共重合から得られる皮膜形成ポリマー、
- ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルアミド、短鎖ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、エポキシエステル樹脂、ホルムアルデヒドとアリールスルホンアミドとの縮合により得られる樹脂、及び、アリールスルホンアミド-エポキシ樹脂からなる群から選択される重縮合物、
- シェラック樹脂、サンダラックゴム、ダマール、エレミス、コパール、ニトロセルロース、セルロースアセタート、セルロースアセタート/ブチラート、セルロースアセタート/プロピオナート、及び、エチルセルロースからなる群から選択される天然由来ポリマー、及び、
- これらの混合物
から選択される少なくとも1つの皮膜形成ポリマー、並びに、
-a)少なくとも一の第1のモノマーAと
-b)少なくとも一のキラルな第2のモノマーB
とを含むモノマー混合物の重合により得ることが可能な、450nmを超える螺旋ピッチを示す液晶ポリマー粒子を含む、化粧品組成物であって、
上記第1のモノマーAは、式(I):
Y^(1)-A^(1)-M^(1)-A^(2)-Y^(2)[式中、
-i)Y^(1)及びY^(2)は、同一又は異なって、アクリラート又はメタクリラート基、エポキシ基、又はイソシアナート、ヒドロキシル、ビニルエーテル(-O-CH=CH_(2))、又はビニルエステル(-CO-O-CH=CH_(2))基から選ばれる重合可能な基を表し、
-ii)A^(1)及びA^(2)は、同一又は異なって、式-C_(n)H_(2n)-の基(式中、nは0乃至20の範囲の整数)を表すが、ここで、式-C_(n)H_(2n)-基の一以上のメチレン基は、一以上の酸素原子により置換され得るものであり、
-iii)M^(1)は、一般式(I'):
-R^(1)-X^(1)-R^(2)-X^(2)-R^(3)-X^(3)-R^(4)-
{(式中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、同一又は異なって、-O-、-COO-、-CONH-、-CO-、-S-、-C≡C-、-CH=CH-、-N=N-、又は-N=N(O)-から選ばれる二価の基を示すが、-R^(2)-X^(2)-R^(3)-、又は-R^(2)-X^(2)-、又は-R^(2)-X^(2)-R^(3)-X^(3)-は、単一の共有結合でもあり得、
X^(1)、X^(2)、及びX^(3)は、1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン基、6乃至10の原子を含むアリール核を有するアリーレンまたはヘテロアリーレン基であって、任意にB^(1)及び/又はB^(2)及び/又はB^(3)により置換されるもの(ヘテロアリーレンはO、N及びS原子から選ばれる1乃至3のヘテロ原子を含む)、又は3乃至10の炭素原子を有するシクロアルキレン基であって任意に-B1及び/又は-B2及び/又は-B3により置換されるもの(-B^(1)、-B^(2),及び-B^(3)は、同一又は異なって、C_(1)-C_(20)アルキル、C_(1)-C_(20)アルコキシ、C_(1)-C_(20)アルキルチオ、(C_(1)-C_(20))アルキルカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルコキシカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルキルチオカルボニル、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-CN、-NO_(2)、ホルミル又はアセチル基、及び、アルキル、アルコキシ又はアルキルチオ基であって1以上の酸素原子又は1以上の硫黄原子又は1以上のエステル基が間に入った1乃至20の炭素原子を有するものから選ばれる)から選ばれる同一又は異なる基である]
の基で表され、
上記キラルな第2のモノマーBは、式(II):
V^(1)-A'^(1)-W^(1)-Z-W^(2)-A'^(2)-V^(2)[式中、
-i)V^(1)及びV^(2)は、同一又は異なって、アクリラート又はメタクリラート基、エポキシ基、ビニルエーテル又はビニルエステル基、イソシアナート基、C_(1)-C_(20)アルキル、C_(1)-C_(20)アルコキシ、C_(1)-C_(20)アルキルチオ、C_(1)-C_(20)アルコキシカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルキルチオカルボニル、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-CN、-NO2、ホルミル、アセチル、及びアルキル、アルコキシ又はアルキルチオ基であって1以上の酸素原子又は1以上の硫黄原子又は1以上のエステル基(-CO-O-)が間に入った1乃至20の炭素原子を有するものから選ばれる基を表し、
少なくともV^(1)又はV^(2)は、アクリラート又はメタクリラート基、エポキシ基、又はイソシアナート、ヒドロキシル、ビニルエーテル(-O-CH=CH_(2))、又はビニルエステル(-CO-O-CH=CH_(2))基から選ばれる重合可能な基を示し、
-ii)A'^(1)及びA'^(2)は、同一又は異なって、式-C_(n)H_(2n)-の基(式中、nは0乃至20の範囲の整数)を表すが、ここで、前記式-C_(n)H_(2n)-基の1以上のメチレン基は、一以上の酸素原子により置換され得るものであり、
-iii)W^(1)及びW^(2)は、一般式:
-R'^(1)-X'^(1)-R'^(2)-X'^(2)-R'^(3)-
(式中、
R'^(1)、R'^(2)、R'^(3)は、同一又は異なって、-O-、-COO-、-CONH-、-CO-、-S-、-C≡C-、-CH=CH-、-N=N-、又は-N=N(O)-から選択される二価の基を示すが、R'^(1)、R'^(2)、R'^(3)又はR'^(2)-X'^(2)は、1つの共有結合でもあり得るものであり、
X'^(1)、及びX'^(2)は、同一又は異なって、1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン基、6乃至10の原子を含むアリール核を有するアリーレンまたはヘテロアリーレン基であって、任意にB'^(1)及び/又はB'^(2)及び/又はB'^(3)により置換されるもの(ヘテロアリーレンはO、N及びS原子から選ばれる1乃至3のヘテロ原子を含む)、又は3乃至10の炭素原子を有するシクロアルキレン基であって任意に-B'^(1)及び/又は-B'^(2)及び/又は-B'^(3)により置換されるもの(-B'^(1)、-B'^(2),及び-B'^(3)は、同一又は異なって、C_(1)-C_(20)アルキル、C_(1)-C_(20)アルコキシ、C_(1)-C_(20)アルキルチオ、(C_(1)-C_(20))アルキルカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルコキシカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルキルチオカルボニル、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-CN、-NO_(2)、ホルミル又はアセチル基、及び、アルキル、アルコキシ又はアルキルチオ基であって1以上の酸素原子又は1以上の硫黄原子又は1以上のエステル基が間に入った1乃至20の炭素原子を有するものから選ばれる)から選ばれる同一又は異なる基であり、
Zは、二無水ヘキサイト、ヘキソース、ペントース、ビナフチル誘導体、ビフェニル誘導体、酒石酸誘導体又はグリコールの群から得られるキラルな二価の基を示す]
で表されるものである化粧品組成物。」と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である液晶ポリマー粒子を450nmを越える螺旋ピッチを示すものに限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例の記載の概要
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用した、本願の出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願2001-113147号(特開2002-249694号公報参照)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)には、次の事項が記載されている。

(A)「光学的反射層をもつ視角依存多色性粒子、バインダー樹脂、溶媒、着色剤及びせん断減粘性付与剤を含むインキが透明乃至半透明の容器に収容された……化粧料」(請求項29)

(B)「(バインダー樹脂)
本発明では、視角依存多色性粒子、特にフレーク状の視角依存多色性粒子を被塗物質(下地)に定着させる目的でバインダー樹脂を用いることができる。本発明で用いるバインダー樹脂は、溶媒に混和する樹脂の成分の中から適宜選択して使用できる。溶媒に水を使用する場合のバインダー樹脂には、水溶性糊剤が好適に用いられる。一例を挙げれば、アラビアガム、デキストリン誘導体、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸や、アクリル酸系共重合体、その他無水マレイン酸のような水溶性官能基を持つ単量体など、水溶性の天然、あるいは合成樹脂が好適に使用できる。また、上記樹脂のように、水に溶解するのではないが、分散状態で混和できるエマルジョン、ディスパージョン系の糊剤もフレーク状顔料を下地に定着させる目的で好適に使用できる。
溶剤に有機溶剤を使用する場合のバインダー樹脂としては,油溶性樹脂が好適に用いられる。一例を挙げれば、脂肪族、脂環族、芳香族の石油系炭化水素樹脂、スチレン系、アクリルエステル系、酢酸ビニル系、テルペン系などのビニル樹脂、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、フェノール系、キシレン系、アクリルエステル系、酢酸ビニル系、テルペン系などのホルマリン縮合樹脂やそのアルキル変性樹脂、その他、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、ロジンまたはその変性樹脂など、合成、半合成、天然の油溶性樹脂が、有機溶剤の種類により適宜選択して使用できる。」(【0032】、【0033】)

(C)表1には、実施例4?7、11?14のインキ組成物が記載され、それらは、視角依存多色性粒子II、IV、V、VIとして、独ワッカーケミー社製のコレステリック液晶ポリマー粒子であるヘリコーンHC Maple SLM90320、ヘリコーンHC Sapphire SLM90020、ヘリコーンHC Scarabeus SLM90120又はヘリコーンHC Jade SLM90220、及び、バインダー成分を含有する。(【0052】?【0056】)

(D)「(試験サンプルの作成2)
表1及び表2に示した実施例および比較例の各インキ組成物を、容器側に刷毛付き棒状体を配した無色透明なガラス製の美爪料(マニキュア:市販品)容器に充填した。」(【0067】)

(E)「【発明の効果】
……本発明のインキ組成物は、……実用性のある用途、……フェーシャル化粧料、メークアップ化粧料、ヘア化粧料などの化粧料に用いることができ、特にマニキュア、ペディキュア、ネイルポリッシュ、マスカラ、アイライナー、アイシャドー、口紅、頬紅、ファンデーション等にも好適に用いることができる。」(【0077】)

(F)「さらに、この視角依存多色性インキ組成物には、上記粒子とともに、溶媒と、せん断減粘性付与剤が含まれているため、透明または半透明の容器に収容することにより、容器自体の外観において強い視角依存多色性を与え、新規な意匠性や斬新なデザインを得ることを可能にした。例えば、透明乃至半透明のインキ収容部に、視角に依存して複数の異なる有色の干渉色に遷移して輝く視角依存多色性粒子が含まれたインキが充填されており、インキ収容部が、視角に依存して複数の異なる有色の干渉色に遷移して輝く……化粧具(特に、美爪具)を採用することができる。またさらに、透明乃至半透明のインキ収容部の樹脂成形体に、視角に依存して複数の異なる有色の干渉色に遷移して輝く視角依存多色性粒子が含まれている……化粧具(特に、美爪具)を採用することもできる。」(【0081】)

(3)当審の判断
(3-1)対比
先願明細書には、光学的反射層をもつ視角依存多色性粒子、バインダー樹脂、溶媒を含むインキが透明乃至半透明の容器に収容された化粧料が、記載されており(摘記事項(A))、光学的反射層をもつ視角依存多色性粒子は、独ワッカーケミー社製のコレステリック液晶ポリマー粒子であるヘリコーンHC Maple SLM90320、ヘリコーンHC Sapphire SLM90020、ヘリコーンHC Scarabeus SLM90120又はヘリコーンHC Jade SLM90220であるから(摘記事項(C))、先願明細書には「溶媒、バインダー樹脂及び独ワッカーケミー社製のコレステリック液晶ポリマー粒子であるヘリコーンHC Maple SLM90320、ヘリコーンHC Sapphire SLM90020、ヘリコーンHC Scarabeus SLM90120又はヘリコーンHC Jade SLM90220である液晶ポリマー粒子を含む化粧品組成物」(以下「先願発明」という。)が記載されている。
一方、本願補正発明は、少なくとも1つの皮膜形成ポリマー、並びに、
-a)少なくとも一の第1のモノマーAと
-b)少なくとも一のキラルな第2のモノマーB
とを含むモノマー混合物の重合により得ることが可能な、450nmを超える螺旋ピッチを示す液晶ポリマー粒子として、Wackerにより、”Helicone(登録商標) HC Sapphire”、”Helicone(登録商標) HC Scarabeus”、”Helicone(登録商標) HC Jade”、”Helicone(登録商標) HC Maple”、”Helicone(登録商標) HC XL Sapphire”、”Helicone(登録商標) HC XL Sacrabeus”、”Helicone(登録商標)HC XL Jade”、”Helicone(登録商標) HC XL Maple”の名で市販されているものを用いることができるものである(本願明細書【0040】、【0086】?【0102】)ので、本願補正発明は、「化粧品として許容される媒体中に、
- ビニルエステルとスチレンモノマーから選ばれる少なくとも一のモノマーのホモ重合又は共重合から得られる皮膜形成ポリマー、
- ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルアミド、短鎖ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、エポキシエステル樹脂、ホルムアルデヒドとアリールスルホンアミドとの縮合により得られる樹脂、及び、アリールスルホンアミド-エポキシ樹脂からなる群から選択される重縮合物、
- シェラック樹脂、サンダラックゴム、ダマール、エレミス、コパール、ニトロセルロース、セルロースアセタート、セルロースアセタート/ブチラート、セルロースアセタート/プロピオナート、及び、エチルセルロースからなる群から選択される天然由来ポリマー、及び、
- これらの混合物
から選択される少なくとも1つの皮膜形成ポリマー、並びに、Wackerにより、”Helicone(登録商標) HC Sapphire”、”Helicone(登録商標) HC Scarabeus”、”Helicone(登録商標) HC Jade”、”Helicone(登録商標) HC Maple”、”Helicone(登録商標) HC XL Sapphire”、”Helicone(登録商標) HC XL Sacrabeus”、”Helicone(登録商標)HC XL Jade”、”Helicone(登録商標) HC XL Maple”の名で市販されている液晶ポリマー粒子を含む化粧品組成物」(以下、「本願補正発明A」という。)をその具体的態様として含むものである。
そこで、先願発明と本願補正発明Aを対比する。
先願発明における「溶媒」は、本願補正発明Aにおける「化粧品として許容される媒体」に相当する。そして、先願発明におけるコレステリック液晶ポリマーと本願補正発明Aにおける液晶ポリマーは、ともに、同じワッカー社から市販されているものであり、その名称からみて、同じものであるし、先願発明には、液晶ポリマー粒子の螺旋ピッチの値は特定されていないが、本願補正発明Aにおいて使用される粒子と同じ粒子であるから、450nmを超える螺旋ピッチを示すものであることは明らかである。
したがって、両者は、「Wackerにより、”Helicone(登録商標) HC Sapphire”、”Helicone(登録商標) HC Scarabeus”、”Helicone(登録商標) HC Jade”、”Helicone(登録商標) HC Maple”、”Helicone(登録商標) HC XL Sapphire”、”Helicone(登録商標) HC XL Sacrabeus”、”Helicone(登録商標)HC XL Jade”、”Helicone(登録商標) HC XL Maple”の名で市販されている液晶ポリマー粒子を含む化粧品組成物」である点で一致し、本願補正発明Aが、
- ビニルエステルとスチレンモノマーから選ばれる少なくとも一のモノマーのホモ重合又は共重合から得られる皮膜形成ポリマー、
- ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルアミド、短鎖ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、エポキシエステル樹脂、ホルムアルデヒドとアリールスルホンアミドとの縮合により得られる樹脂、及び、アリールスルホンアミド-エポキシ樹脂からなる群から選択される重縮合物、
- シェラック樹脂、サンダラックゴム、ダマール、エレミス、コパール、ニトロセルロース、セルロースアセタート、セルロースアセタート/ブチラート、セルロースアセタート/プロピオナート、及び、エチルセルロースからなる群から選択される天然由来ポリマー、及び、
- これらの混合物
から選択される少なくとも1つの皮膜形成ポリマーを含むのに対して、先願発明がバインダー樹脂を含むものである点で、両発明は一応相違する。
そこで、この一応の相違点について検討する。

(3-2)一応の相違点についての判断
本願補正発明Aの皮膜形成ポリマーは、
- ビニルエステルとスチレンモノマーから選ばれる少なくとも一のモノマーのホモ重合又は共重合から得られる皮膜形成ポリマー、
- ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルアミド、短鎖ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、エポキシエステル樹脂、ホルムアルデヒドとアリールスルホンアミドとの縮合により得られる樹脂、及び、アリールスルホンアミド-エポキシ樹脂からなる群から選択される重縮合物、
- シェラック樹脂、サンダラックゴム、ダマール、エレミス、コパール、ニトロセルロース、セルロースアセタート、セルロースアセタート/ブチラート、セルロースアセタート/プロピオナート、及び、エチルセルロースからなる群から選択される天然由来ポリマー、及び、
- これらの混合物から選択されるものである。
一方、先願発明のバインダー樹脂は、油溶性樹脂が好適に用いられ、一例を挙げれば、脂肪族、脂環族、芳香族の石油系炭化水素樹脂、スチレン系、アクリルエステル系、酢酸ビニル系、テルペン系などのビニル樹脂、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、フェノール系、キシレン系、アクリルエステル系、酢酸ビニル系、テルペン系などのホルマリン縮合樹脂やそのアルキル変性樹脂、その他、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、ロジンまたはその変性樹脂など、合成、半合成、天然の油溶性樹脂が、有機溶剤の種類により適宜選択して使用できる(摘記事項(B))。
してみると、本願補正発明Aの皮膜形成ポリマーは、先願発明のバインダー樹脂とビニルエステル又はスチレンモノマーのホモ重合又は共重合から得られるポリマー、及び、ポリアミド樹脂において重複する。
また、本願補正発明Aの皮膜形成ポリマーは、支持体、特にケラチン物質に粘着する連続的な皮膜を形成することができるポリマーを意味するものである(【0055】)。
一方、先願発明のバインダー樹脂は視角依存多色性粒子を被塗物質(下地)に定着させる目的で用いるものであり(摘記事項(B))、先願発明は、マニキュアや美爪具である化粧品組成物であり(摘記事項(D)、(E)及び(F))、マニキュアや美爪具において、顔料を皮膜形成ポリマーで下地に定着することは周知であることを勘案すれば、先願発明のバインダー樹脂は、皮膜を形成し、視角依存多色性粒子を下地に固着するものである。すなわち、本願補正発明Aの皮膜形成ポリマーは、先願発明のバインダー樹脂と同じ目的で用いられるものである。
したがって、本願補正発明Aの皮膜形成ポリマーと先願発明のバインダー樹脂は、物もその使用の目的も同じであり、表現が相違するだけであり、実質的に同一のものである。

以上のとおり、本願補正発明Aは、先願発明と同一であり、本願補正発明Aは、本願補正発明に含まれるものであるから、本願補正発明は先願発明と同一である。しかも、本願補正発明の発明者が上記先願発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願補正発明は、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年9月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成16年4月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「化粧品として許容される媒体中に、
- ビニルエステルとスチレンモノマーから選ばれる少なくとも一のモノマーのホモ重合又は共重合から得られる皮膜形成ポリマー、
- ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルアミド、短鎖ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、エポキシエステル樹脂、ホルムアルデヒドとアリールスルホンアミドとの縮合により得られる樹脂、及び、アリールスルホンアミド-エポキシ樹脂からなる群から選択される重縮合物、
- シェラック樹脂、サンダラックゴム、ダマール、エレミス、コパール、ニトロセルロース、セルロースアセタート、セルロースアセタート/ブチラート、セルロースアセタート/プロピオナート、及び、エチルセルロースからなる群から選択される天然由来ポリマー、及び、
- これらの混合物
から選択される少なくとも1つの皮膜形成ポリマー、並びに、
-a)少なくとも一の第1のモノマーAと
-b)少なくとも一のキラルな第2のモノマーB
とを含むモノマー混合物の重合により得ることが可能な液晶ポリマー粒子を含む、化粧品組成物であって、
上記第1のモノマーAは、式(I):
Y^(1)-A^(1)-M^(1)-A^(2)-Y^(2)[式中、
-i)Y^(1)及びY^(2)は、同一又は異なって、アクリラート又はメタクリラート基、エポキシ基、又はイソシアナート、ヒドロキシル、ビニルエーテル(-O-CH=CH_(2))、又はビニルエステル(-CO-O-CH=CH_(2))基から選ばれる重合可能な基を表し、
-ii)A^(1)及びA^(2)は、同一又は異なって、式-C_(n)H_(2n)-の基(式中、nは0乃至20の範囲の整数)を表すが、ここで、式-C_(n)H_(2n)-基の一以上のメチレン基は、一以上の酸素原子により置換され得るものであり、
-iii)M^(1)は、一般式(I'):
-R^(1)-X^(1)-R^(2)-X^(2)-R^(3)-X^(3)-R^(4)-
{(式中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、同一又は異なって、-O-、-COO-、-CONH-、-CO-、-S-、-C≡C-、-CH=CH-、-N=N-、又は-N=N(O)-から選ばれる二価の基を示すが、-R^(2)-X^(2)-R^(3)-、又は-R^(2)-X^(2)-、又は-R^(2)-X^(2)-R^(3)-X^(3)-は、単一の共有結合でもあり得、
X^(1)、X^(2)、及びX^(3)は、1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン基、6乃至10の原子を含むアリール核を有するアリーレンまたはヘテロアリーレン基であって、任意にB^(1)及び/又はB^(2)及び/又はB^(3)により置換されるもの(ヘテロアリーレンはO、N及びS原子から選ばれる1乃至3のヘテロ原子を含む)、又は3乃至10の炭素原子を有するシクロアルキレン基であって任意に-B1及び/又は-B2及び/又は-B3により置換されるもの(-B^(1)、-B^(2),及び-B^(3)は、同一又は異なって、C_(1)-C_(20)アルキル、C_(1)-C_(20)アルコキシ、C_(1)-C_(20)アルキルチオ、(C_(1)-C_(20))アルキルカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルコキシカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルキルチオカルボニル、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-CN、-NO_(2)、ホルミル又はアセチル基、及び、アルキル、アルコキシ又はアルキルチオ基であって1以上の酸素原子又は1以上の硫黄原子又は1以上のエステル基が間に入った1乃至20の炭素原子を有するものから選ばれる)から選ばれる同一又は異なる基である]
の基で表され、
上記キラルな第2のモノマーBは、式(II):
V^(1)-A'^(1)-W^(1)-Z-W^(2)-A'^(2)-V^(2)[式中、
-i)V^(1)及びV^(2)は、同一又は異なって、アクリラート又はメタクリラート基、エポキシ基、ビニルエーテル又はビニルエステル基、イソシアナート基、C_(1)-C_(20)アルキル、C_(1)-C_(20)アルコキシ、C_(1)-C_(20)アルキルチオ、C_(1)-C_(20)アルコキシカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルキルチオカルボニル、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-CN、-NO2、ホルミル、アセチル、及びアルキル、アルコキシ又はアルキルチオ基であって1以上の酸素原子又は1以上の硫黄原子又は1以上のエステル基(-CO-O-)が間に入った1乃至20の炭素原子を有するものから選ばれる基を表し、
少なくともV^(1)又はV^(2)は、アクリラート又はメタクリラート基、エポキシ基、又はイソシアナート、ヒドロキシル、ビニルエーテル(-O-CH=CH_(2))、又はビニルエステル(-CO-O-CH=CH_(2))基から選ばれる重合可能な基を示し、
-ii)A'^(1)及びA'^(2)は、同一又は異なって、式-C_(n)H_(2n)-の基(式中、nは0乃至20の範囲の整数)を表すが、ここで、前記式-C_(n)H_(2n)-基の1以上のメチレン基は、一以上の酸素原子により置換され得るものであり、
-iii)W^(1)及びW^(2)は、一般式:
-R'^(1)-X'^(1)-R'^(2)-X'^(2)-R'^(3)-
(式中、
R'^(1)、R'^(2)、R'^(3)は、同一又は異なって、-O-、-COO-、-CONH-、-CO-、-S-、-C≡C-、-CH=CH-、-N=N-、又は-N=N(O)-から選択される二価の基を示すが、R'^(1)、R'^(2)、R'^(3)又はR'^(2)-X'^(2)は、1つの共有結合でもあり得るものであり、
X'^(1)、及びX'^(2)は、同一又は異なって、1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン基、6乃至10の原子を含むアリール核を有するアリーレンまたはヘテロアリーレン基であって、任意にB'^(1)及び/又はB'^(2)及び/又はB'^(3)により置換されるもの(ヘテロアリーレンはO、N及びS原子から選ばれる1乃至3のヘテロ原子を含む)、又は3乃至10の炭素原子を有するシクロアルキレン基であって任意に-B'^(1)及び/又は-B'^(2)及び/又は-B'^(3)により置換されるもの(-B'^(1)、-B'^(2),及び-B'^(3)は、同一又は異なって、C_(1)-C_(20)アルキル、C_(1)-C_(20)アルコキシ、C_(1)-C_(20)アルキルチオ、(C_(1)-C_(20))アルキルカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルコキシカルボニル、(C_(1)-C_(20))アルキルチオカルボニル、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-CN、-NO_(2)、ホルミル又はアセチル基、及び、アルキル、アルコキシ又はアルキルチオ基であって1以上の酸素原子又は1以上の硫黄原子又は1以上のエステル基が間に入った1乃至20の炭素原子を有するものから選ばれる)から選ばれる同一又は異なる基であり、
Zは、二無水ヘキサイト、ヘキソース、ペントース、ビナフチル誘導体、ビフェニル誘導体、酒石酸誘導体又はグリコールの群から得られるキラルな二価の基を示す]
で表されるものである化粧品組成物。」

(1)引用例の概要
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比。判断
本願発明は、「液晶ポリマー粒子が450nmを超える螺旋ピッチを示す」という特定を有さないものであり、前記2.で検討した本願補正発明の「化粧品組成物」を包含するものである。
そうすると、本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、先願明細書に記載された発明と同一である以上、本願発明も、同様に理由により、先願明細書に記載された発明と同一である。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-24 
結審通知日 2007-08-28 
審決日 2007-09-14 
出願番号 特願2002-297905(P2002-297905)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 弘實 謙二
瀬下 浩一
発明の名称 液晶ポリマーを含むメイクアップ組成物  
代理人 志賀 正武  

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