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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K
管理番号 1172115
審判番号 不服2006-4894  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-16 
確定日 2008-02-07 
事件の表示 特願2001-358888「電磁弁」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月 6日出願公開、特開2003-161379〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、平成13年11月26日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年3月28日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「ソレノイドへの通電時には、その通電にて得られる吸引力で可動鉄心を固定鉄心に向けて吸引して、前記可動鉄心と係合する弁体を弾性体の弾性力に抗して原位置から作動位置に移動させることで、前記弁体にて流路間を連通または遮断し、前記ソレノイドへの非通電時には、前記弾性体の弾性力により前記弁体を前記可動鉄心とともに原位置に復帰移動させることで、前記弁体にて流路間を遮断または連通する電磁弁において、前記弁体および前記可動鉄心の移動量に対する前記弾性力の変化特性線と前記吸引力の変化特性線が前記弁体および前記可動鉄心の移動可能範囲内にて交差するように設定して、この交差する点では、前記弾性力と前記吸引力が平衡して前記弁体および前記可動鉄心が停止することにより、前記弁体が前記作動位置に保持されるとともに、前記可動鉄心と前記固定鉄心間に所定の隙間が形成されるように設定したことを特徴とする電磁弁。」

なお、上記手続補正書による特許請求の範囲についての補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから、適法なものと認める。

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-121635号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電磁弁、特に車輪のロックを防止するためのアンチスキッド制御装置の液圧制御に用いて最適な電磁弁に関する。」

・「【0012】
【作用】電磁コイルに通電すると、アマチュアが吸引され同時にロッドも移動、所定の距離まではばね常数の小さいばね力により迅速に移動し、弁座にロッド端部に固定された弁体が接近する。この距離を越えると、ばね常数の大きい第2のばねのばね力が主として働き、同じ電流値であればその移動速度が小となり、場合によってはバルブリフト内の小さい隙間をもって停止し、ホイールシリンダ側とマスタシリンダ側との間の絞りとして機能する。」

・「【0014】図1においては、インレットバルブの要部拡大断面として50で示されるが、図示しない他構成は従来例と全く同一である。バルブボディ52内に摺動自在でなるロッド51が配設されており、これは段付であるが、この小径部51aの先端部には鋼製でなる弁球54が図示するようにかしめ固定されている。バルブボディ52に形成された軸方向孔に嵌着固定されている弁座形成部材53にはマスタシリンダ側に連通する貫通孔53aが形成され、この上端部に円錐形状の弁座53bが形成されている。これは上述の弁球54とバルブリフトsをおいて対向している。
【0015】ロッド51の小径部51aの外方には同心的に筒状のストッパ部材55が配設されており、このフランジ部55aと弁座形成部材53との間にばね常数の小さいコイルばね56が配設され、圧縮状態でこのストッパ部材55を上方に付勢している。また、このフランジ部55aとロッド51の段部との間に一対の皿ばね57a、57bでなるばね常数の大きなばね部57が配設されており、皿ばね57a、57bはその内面を対向しfの間隔をおいて配設され、この間隔fは、ばね部57のもつストロークとなる。また、ストッパ部材55の周壁面には複数の丸孔55bが形成され、弁球54を配設させている弁室60及び通孔53aとホイールシリンダ側との連通を容易なものとするようにしている。図1はソレノイド部もしくは電磁コイルに通電しない状態を示しているが、ストッパ部材55の下端部55cと弁座形成部材53の上端面との距離はバルブリフトsより小さい距離eとされている。また上述の皿ばね57a、57b間の空隙fはこのsより小である。」

・「【0016】本実施例のインレットバルブ50は以上のように構成されるが、次にこの作用について説明する。図1では図示されないが上方に配設された電磁コイルに電流I_(0)を通電すると磁性材でなるアマチュア(図4の34)は下方に向う磁気吸引力を受けボディ52側に吸引され、これによりロッド51は下方へと移動する。」

・「【0018】本実施例によれば、更に電流は強弱2段階に切換えられる、すなわち、より弱い電流I_(1)に切換えられる。これによりロッド51は、ばね力で上方に移動し、この時の電流I_(1)における電磁力と、皿ばね57a、57bのばね力とは釣り合った位置、すなわち距離g(fより小である)でバランスをとり、ロッド51が停止するが、この時には弁球54と弁座53bとの隙間がgと小さく、これによりこのインレットバルブ50は、いわば絞りとして働き、これまでマスタシリンダ側から流れていた高速のブレーキ液が減速される。本実施例では更にこの切換えを繰り返し、弁球54と弁座53bとの間隙は,0、g、0、g・・・・・と変化させられる。よって、継続して遮断状態を取らないが、ほゞ遮断状態としながら大きな運動エネルギーを持ったブレーキ液のエネルギーを小として車体に加わる圧力変動を小として、騒音を殆ど小とするか無しとすることができる。」

・「【0024】また以上の実施例では、ソレノイドに流す電流の強さを2段階に切換えたが、電流I_(1)を変化させることで、電磁力と皿ばねの力の釣り合った位置gが自由に設定できるので、この電流は2段階切換えに限ることなく、3段階、4段階と切り換えるようにしてマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との遮断状態又は絞り状態を変更させるようにしてもよく、また、切換えることなく一定の電流を流して皿ばね57a、57bのばね力が作用した後、この間の距離fがゼロとなった時点で弁球54と弁座53bとの間に僅かな隙間を残して絞り状態とするようにしてもよい。」

・また、図2には、弁体の移動量に対するバネ力(「ばね力」に相当)の変化特性線と電磁力(「磁気吸引力」に相当)の変化特性線が弁体の移動可能範囲内にて交差するように設定されたものが示されている。

・さらに、図4には、従来例としての電磁弁であって、電磁コイル33(「ソレノイド」に相当)への通電時には、その通電にて得られる磁気吸引力でアマチュア34をボディ35(「バルブボディ」に相当)に向けて吸引する構成のものが示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ソレノイドへの通電時には、その通電にて得られる磁気吸引力でアマチュアをバルブボディに向けて吸引して、前記アマチュアと同時に移動するロッドに固定された弁体をばね力と釣り合った位置に移動させることで、前記弁体にてホイールシリンダ側とマスタシリンダ側間を絞り状態とし、前記ソレノイドへの非通電時には、前記ばね力により前記弁体を前記アマチュアとともに原位置に復帰移動させることで、前記弁体にてホイールシリンダ側とマスタシリンダ側間を連通する電磁弁において、前記弁体の移動量に対する前記ばね力の変化特性線と前記磁気吸引力の変化特性線が前記弁体の移動可能範囲内にて交差するように設定して、この交差する点では、前記ばね力と前記磁気吸引力が釣り合って前記弁体が前記釣り合った位置に停止するとともに、前記弁体と弁座間に小さい隙間が残されるように設定した電磁弁。」

3.対比
本願発明と引用発明を対比すると、その機能・作用からみて、後者における「磁気吸引力」が前者における「吸引力」に相当し、以下同様に、「アマチュア」が「可動鉄心」に、「バルブボディ」が「固定鉄心」に、「アマチュアと同時に移動するロッドに固定された弁体」が「可動鉄心と係合する弁体」に、「ばね力」が「弾性体の弾性力」に、「ばね力と釣り合った位置に移動」が「弾性体の弾性力に抗して原位置から作動位置に移動」に、「ホイールシリンダ側とマスタシリンダ側間」が「流路間」に、「連通」が「遮断または連通」に、「弁体の移動量」が「弁体および可動鉄心の移動量」に、「弁体の移動可能範囲内」が「弁体および可動鉄心の移動可能範囲内」に、「ばね力と磁気吸引力が釣り合って弁体が釣り合った位置に停止する」が「弾性力と吸引力が平衡して弁体および可動鉄心が停止することにより、前記弁体が作動位置に保持される」に、それぞれ相当している。
また、後者の「絞り状態」とした態様と前者の「連通または遮断」した態様とは、「所定の作動状態」との概念で共通し、後者の「弁体と弁座間に小さい隙間が残される」態様と前者の「可動鉄心と固定鉄心間に所定の隙間が形成される」態様とは、「可動部と固定部間に所定の隙間が形成される」との概念で共通している。

したがって、両者は、
「ソレノイドへの通電時には、その通電にて得られる吸引力で可動鉄心を固定鉄心に向けて吸引して、前記可動鉄心と係合する弁体を弾性体の弾性力に抗して原位置から作動位置に移動させることで、前記弁体にて流路間を所定の作動状態とし、前記ソレノイドへの非通電時には、前記弾性体の弾性力により前記弁体を前記可動鉄心とともに原位置に復帰移動させることで、前記弁体にて流路間を遮断または連通する電磁弁において、前記弁体および前記可動鉄心の移動量に対する前記弾性力の変化特性線と前記吸引力の変化特性線が前記弁体および前記可動鉄心の移動可能範囲内にて交差するように設定して、この交差する点では、前記弾性力と前記吸引力が平衡して前記弁体および前記可動鉄心が停止することにより、前記弁体が前記作動位置に保持されるとともに、可動部と固定部間に所定の隙間が形成されるように設定した電磁弁。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
通電時における「所定の作動状態」に関し、本願発明が「連通または遮断」した状態であるのに対し、引用発明は「絞り状態」である点。
[相違点2]
所定の隙間が形成される「可動部と固定部間」に関し、本願発明が「可動鉄心と固定鉄心間」であるのに対し、引用発明は「弁体と弁座間」であり、「可動鉄心と固定鉄心間」について明確にされていない点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。
(1)相違点1について
一般に、流路間における電磁弁の弁体の作動状態としては、絞り状態の他に連通状態または遮断状態があることは熟知されているところである。
また、電磁弁の弁体の作動状態は、使用目的等に応じて当業者が適宜設定し得るものであるといえる。
そうすると、引用発明において、非通電時の電磁弁の弁体は連通状態であるところから、該弁体の作動状態として遮断状態を設定することにより、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。

(2)相違点2について
引用発明において、ソレノイドへの通電時には、磁気吸引力で可動鉄心(アマチュア)を固定鉄心(バルブボディ)に向けて吸引するものであると共に、弁体は可動鉄心と同時に移動するロッドに固定されたものであるから、作動位置において弁体が停止する際に、弁体と弁座間に所定の隙間が形成されることに対応して、可動鉄心と固定鉄心間にも当該隙間が形成される構成となっていることは明らかというべきである。
そうすると、相違点2は、実質的な構成上の相違点であるとはいえない。

そして、本願発明の全体構成により奏される効果も、引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-29 
結審通知日 2007-12-04 
審決日 2007-12-17 
出願番号 特願2001-358888(P2001-358888)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔黒瀬 雅一  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 本庄 亮太郎
仁木 浩
発明の名称 電磁弁  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  

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