ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
不服200520859 | 審決 | 特許 |
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J |
---|---|
管理番号 | 1172235 |
審判番号 | 不服2004-25530 |
総通号数 | 99 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-12-15 |
確定日 | 2008-02-08 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第 44926号「臭気吸収材」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 9日出願公開、特開平 9-234364〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年3月1日の出願であって、平成16年11月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、期間内の平成17年1月14日に手続補正がなされたものであり、その後、当審からの拒絶理由通知に対して、平成19年11月2日付けで意見書が提出された。 2.本願発明 本願請求項1?3に係る発明は、平成17年1月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 【請求項1】活性炭と共にゼオライトが分散せしめられた樹脂発泡体より成り、活性炭とゼオライトが樹脂発泡体に対して併せて約5.0?25.0重量%分散せしめられたことを特徴とする臭気吸収材。 3.引用例に記載された事項 (1)引用例1:特開昭50-46585号公報(当審の拒絶理由で引用した刊行物1) (ア)「(1)微細分割した活性炭を中に分散させたシート状の開放気泡の発泡体からなることを特徴とする臭気吸収材。」(特許請求の範囲第1項) (イ)「(6)発泡体が、ラテックスフォーム、ポリウレタンフォーム、ビニールクロライドプラスティゾルフォームからなる群から選ばれる、特許請求の範囲第1項の製品。」(特許請求の範囲第6項) (ウ)「最近たとえば・・・繊維織物あるいはマット中に活性炭を組入れ、その織物あるいはマットが綿のような天然のものからあるいはナイロンのような合成繊維からなる布のような裏張りで支持されておりそして織物が靴の内部に合うようにまた靴面を覆うように形づくられていることが提案された。また強度と弾性力を増す目的でそのような織物にポリウレタンフォームのような発泡体物質の層あるいは上塗りをとりつけることも提案された。」(第1頁右下欄7?16行) (エ)「本発明は独特な靴中敷きあるいは中底を意図されており、・・・臭気、そして・・・発汗の結果としておこる臭気を有効にそして経済的に最少にする。」(第1頁右下欄17?末行) (オ)「例1」(第2頁右上欄10?19行)において「内容成分:GR-Sラテックス 乾燥重量:100.0ポンド」及び「内容成分:活性炭 乾燥重量:25.0-32.0ポンド」と記載されている。 (カ)「グッドイヤー社(・・)製造の合成冷型スチレンブトジエンであるGR-Sラテックスは水性スラリ(・・)の形成に使用する。・・・活性炭はまた水性スラリ(・・)の形成に使用する。 使用した方法は次のとおりである。ラテックススラリを適当な混合容器に測り、・・・界面活性剤・・・を加える。それから促進剤・・・を加える。 充テン剤シリカ粉末(・・)をそれから加え、次いで活性炭スラリ(・・)を加える。 ・・・・・ それから上記成分を混合して均質なものとし・・・それからホモゲナイザーに・・・・に移す。・・・・ それから、その物質を2番目のミキサー(ホモゲナイザーでもある)に注入し、アワを整えて発泡の構造の大きさをコントロールする。 混合物を2番目のミキサーから取り出した後最終の中敷の背張りとなる織物の層でおおわれた平らな面(・・・)の上で流して厚さをドクターブレドでコントロールすると最終フォームゲージ・・を得る。」(第2頁右上欄末行?同頁右下欄18行) (キ)「上記のように織物の層でおおわれた平らな面上で混合物を適用するかわりにラテックス混合物を転写紙に適用することもできる。言いかえれば本シート状物質は織物の積層物とともにあるいはなしに製造できる。」(第2頁左下欄19行?第3頁左上欄3行) (ク)「本発明の木炭を加えたラテックスフォームを生成するのに使用する成分の正確な量および種類を変えることも可能である。かくて、使用される粉砕された活性炭は広く変化し、たとえばもちろんラテックス混合物への混入の困難さ、経済性、外見、およびそういったものに制限されてラテックスフォーム(乾燥)を生成する化学混合物の重量比で35%あるいはそれ以上を使用することができる。」(第3頁左上欄11?19行) (ケ)「本発明からなるシート状の開放性発泡体がラテックスを使用して製造されるということが現在望ましいが、またポリウレタンフォームおよびビニールクロライドプラスティゾールフォームのような特にもう少し堅い製品が望ましい。他の開放性発泡体を使用できることも企図されており、本発明の広い概念の中にある。」(第3頁右上欄6?12行) (2)引用例2:特開平3-188923号公報(当審の拒絶理由で引用した刊行物2) (ア)「固体酸性を有する無機物質と活性炭の混合物に粘結剤を加えたスラリーを連通気孔からなる合成樹脂の発泡体に含浸し、ローラで搾液したのち乾燥することを特徴とする脱臭フィルターの製造方法。」(特許請求の範囲) (イ)「活性炭粉末を担持したフィルターは、硫化水素、メルカプタンなどの硫黄系悪臭物質や、ベンゼン、アルデヒド類などの有機系物質の脱臭にはある程度の効果は期待できるがアンモニア、トリメチルアミンなどの窒素系悪臭物質に対しては、効果が極めて薄い。」(第2頁左上欄20行?同頁右上欄5行) (ウ)「本発明者らは、・・・、悪臭の根源の一つであるアンモニア、アミン類などに強い吸着力を持つ固体酸が極めて優れた脱臭効果を示すことに着目し、この固体酸性を有する無機物質と活性炭を粘結剤とともに連通気孔からなる合成樹脂の発泡体に含浸添着してなる担持体が、硫黄系、窒素系及び有機系の悪臭物質を除去する脱臭フィルターとして優れていることを見いだし本発明を完成するに至った。」(第2頁右上欄7?17行) (エ)「本発明に用いる固体酸性を有する無機物質としてはシリカ、アルミナのほか、ゼオライト、粘土鉱物などが挙げられる。」(公報第2頁左下欄5?7行) (オ)「第2表から活性炭のみではトリメチルアミンは殆んど吸着されないがこれにY型ゼオライトを加えると吸着効果が発現することが分かる。Y型ゼオライトの添加量を増せばそれだけトリメチルアミンの吸着能は向上するが、逆に活性炭のH_(2)S、メチルメルカプタン吸着能が低下することとなるため活性炭とY型ゼオライトの混合割合は70/30?30/70(重量比)が好ましい。」(第4頁右上欄下から5行?同頁左下欄3行) (3)引用例3:特開平2-77436号公報(当審の拒絶理由で引用した刊行物3) (ア)「本発明の発泡粒子中のゼオライトの含有率は5?50%、好ましくは10?50%である。該含有率が5%未満ではガス吸着材としての効果が充分でなく、50%をこえると発泡させることが困難になる。 前記のごとき本発明のポリオレフィン系樹脂発泡粒子はこのまま緩衝材などの用途に用いてもよいが、通常の予備発泡粒子の成形と同様の方法で成形体にすることができる。 このようにしてえられる成形体は通常の予備発泡粒子からの成形体と同様の機械的強度などの物性を有するうえに、優れた吸着能を有するため、通常の予備発泡粒子からの成形体と同様の用途に使用することができる。」(第3頁左上欄3?16行) (イ)「本発明の発泡粒子は、脱臭性、鮮度保持性に優れた緩衝材などとして、また、本発明の型内発泡成形体は、脱臭性、鮮度保持性にすぐれた緩衝包装材などとして使用しうる。」(第4頁左下欄7?10行) (4)引用例4:特開昭62-169835号公報(当審の拒絶理由で引用した刊行物4) (ア)「発泡体の物性改良を目的としてポリエチレン系樹脂に種々の充填剤を加えて加熱発泡させる方法も公知であり、此の方法で製造されたポリエチレン系樹脂発泡体は均一な独立気泡を有しており耐候性に富み、低温特性に優れ、弾性、断熱性、衝撃強度等にも優れた特性を有し、多方面に亘って広く利用されている。」(第1頁左欄下から1行?同頁右欄6行) (イ)「本発明はポリエチレン系樹脂に充填剤としてゼオライト(モルデン沸石)を充填することによりゼオライトの吸着分離効果によりポリエチレン系樹脂の発泡体が臭いを吸着することを見いだしたものである。」(第1頁右下欄17行?第2頁左上欄1行) (ウ)「ゼオライトの充填量はゼオライトの吸着効果を利用するため30?60重量%が好ましく、ポリエチレン系樹脂の割合が30重%より少ないとポリエチレン系樹脂発泡体、本来の特性が損なわれる。」(第2頁左下欄8?12行) (エ)「(発明の効果)以上述べた如く、・・・臭いを吸着するポリエチレン系樹脂の架橋発泡体が製造可能となり・・・・また、従来使用されている吸着体(例えばヤシガラ活性炭)に比べて著しく低コストで吸着能力も約5?10倍と高性能であり、従って本発明品は、例えばコンテナの内張、病院用マット、ゴミ箱の内張等発泡体の特徴を生かして広範囲に利用出来る発明である。」(第2頁右下欄1?13行) (5)引用例5:実願昭49-86841号(実開昭51-15148号)のマイクロフィルム(当審の拒絶理由で引用した刊行物5) (ア)「活性炭、ゼオライト、酸化鉄の小粒又は粉末を適宜の割合で混合し、この混合物を耐酸性接着剤により、通気性シート又は網状体に通気性を存して接着、又は添着してなる脱臭シート。」(実用新案登録請求の範囲) (イ)「活性炭はアンモニヤ臭、流化水素臭の脱臭効果が顕著であり、従つてトイレットに於ける臭気の脱臭に適する。又ゼオライト(天然ゼオライト)は、イソ吉草酸臭を除去し乾燥剤の役割を果たす。従つて靴の内部臭の脱臭に適する。更に又酸化鉄は、メチルメルカプタン臭、トリメチルアミン臭の脱臭効果が顕著であり、従つて冷蔵庫内の臭気の脱臭に適する。」(第2頁3?10行) (ウ)「靴の中敷として使用し、靴内の脱臭用として用いる混合割合は 活性炭20% 天然ゼオライト60% 酸化鉄20%」(第2頁15行?第3頁3行) (6)引用例6:特開平4-103644号公報(原査定で引用した引用文献1) (ア)「第1の発明の吸収材は、ゼオライト、珪藻土、セピオライト、およびその他の吸着性を有する無機物質の1種または2種以上の物質を混合した合成樹脂を発泡させてなる合成樹脂発泡体であって、前記発泡体をシート状に形成し、さらに、この発泡体における気泡骨格を破壊したものである。」(第2頁右上欄3?9行) (イ)「上記した無機物質あるいは焼却スラッジは、100?200メッシュの大きさの粉末を使用するのが好適である。」(第3頁右上欄17?19行) (ウ)「第1の発明における吸収材を得るための各成分の割合としては、用いる合成樹脂100重量部に対して、無機物質50?200重量部であることが好ましい。無機物質の割合が合成樹脂100重量部に対して50重量部以下になれば、満足な吸着機能が得られず、また、200重量部以上を使用すれば、得られる発泡体は柔軟性に乏しくなる。」(第3頁左下欄8?15行) (エ)「このような柔軟性および吸湿性、吸臭性に優れた吸収材は、例えば、衣料一般、おむつ、・・・足ふきマット、靴の中敷き、洋服の脇パットなどの素材として広く使用することができる。」(第4頁右下欄8?12行) 4.対比・判断 4-1.本願発明1について 引用例1には、記載事項(ア)に「微細分割した活性炭を中に分散させたシート状の開放気泡の発泡体からなる臭気吸収材」が記載されている。この記載中の「発泡体」については、記載事項(イ)に「発泡体が、ラテックスフォーム、ポリウレタンフォーム、ビニールクロライドプラスティゾルフォームからなる群から選ばれる」と記載されている。 これらの記載から、引用例1には「微細分割した活性炭を中に分散させたシート状の、ラテックスフォーム、ポリウレタンフォーム、ビニールクロライドプラスティゾルフォームからなる群から選ばれる発泡体からなる臭気吸収材」の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。 本願発明1と引用1発明とを対比すると、引用1発明の「ラテックスフォーム、ポリウレタンフォーム、ビニールクロライドプラスティゾルフォームからなる群から選ばれる発泡体」が、本願発明1の「樹脂発泡体」に相当することは明らかであるから、両者は「活性炭が分散せしめられた樹脂発泡体より成る臭気吸収材」である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点(a):本願発明1が「活性炭と共にゼオライトが分散せしめられている」のに対し、引用1発明では、「活性炭」を分散させている点 相違点(b):本願発明1が「活性炭とゼオライトが樹脂発泡体に対して併せて約5.0?25.0重量%分散せしめられている」のに対し、引用1発明では、「活性炭」の分散割合について特定されていない点 そこで、これら相違点について検討すると、 (A)相違点(a)について 引用例2には、記載事項(ア)及び(ウ)によれば「固体酸性を有する無機物質と活性炭を粘結剤とともに連通気孔からなる合成樹脂の発泡体に含浸添着した脱臭フィルター」が記載されているといえる。この記載中の「固体酸性を有する無機物質」として、記載事項(エ)には「ゼオライト」が挙げられている。そうすると、引用例2には「脱臭フィルターにおいて、ゼオライトと活性炭を合成樹脂の発泡体に含浸添着させる」ことが記載されているといえる。また、引用例5には、記載事項(ア)?(ウ)によれば、「靴の中敷などの脱臭シートに活性炭とゼオライトを混合させる」ことが記載されているといえる。これらのことに照らせば、脱臭材に活性炭とゼオライトを併用し混合させることは普通に知られている技術的事項であるとみることができる。 そして、引用例2には、記載事項(イ)及び(ウ)によると「活性炭粉末は、硫化水素、メルカプタンなどの硫黄系悪臭物質や、ベンゼン、アルデヒド類などの有機系物質の脱臭にはある程度の効果は期待できるがアンモニア、トリメチルアミンなどの窒素系悪臭物質に対しては、効果が極めて薄いが、悪臭の根源の一つであるアンモニア、アミン類などに強い吸着力を持つ固体酸が極めて優れた脱臭効果を示す」と記載され、また、引用例5には、記載事項(イ)に「活性炭はアンモニヤ臭、流化水素臭の脱臭効果が顕著であり、従つてトイレットに於ける臭気の脱臭に適する。又ゼオライト(天然ゼオライト)は、イソ吉草酸臭を除去し乾燥剤の役割を果たす」と記載され、そして、引用例4には、記載事項(ア)及び(エ)によると「本発明のゼオライトは、従来使用されている吸着体(例えばヤシガラ活性炭)に比べて著しく低コストで吸着能力も約5?10倍と高性能である」ことが記載されているといえる。これらの記載によれば、「活性炭」と「ゼオライト」を併合することによって多種の悪臭に対し優れた脱臭効果が得られることや、「ゼオライト」が「活性炭」に比べ優れた脱臭性能を有することが理解できる。 以上のことからみると、引用1発明の「活性炭」に「ゼオライト」を加えて共に分散させようとすることに格別困難性は見出せなく、かかる構成を採ることは当業者であれば容易に行うことができるものといえる。 (B)相違点(b)について まず、本願発明1の相違点(b)に係る構成の「活性炭とゼオライトが樹脂発泡体に対して併せて約5.0?25.0重量%分散せしめ」ること(以下、「特定事項X」という。)の技術的意義についてみておくと、 本願明細書には、本願発明1の「臭気吸収材」について、段落【0009】に「樹脂発泡体に対する活性炭とゼオライトの分散量が併せて約5.0重量%以上であるとすると消臭効果がより優れるという利点があり、約25.0重量%以下であるとすると脆くなりにくいという利点がある」、及び段落【0014】に「スチレンブタジエンラバーに対する活性炭とゼオライトの分散量が併せて約5.0重量%以上とすると消臭効果がより優れたものとなり、約25.0重量%以下とすると脆くなりにくかった」と記載されている。してみると、この特定事項の数値限定の下限値の「約5.0重量%」は「消臭効果がより優れる」こと、上限値の「約25.0重量%」は「脆くなりにくい」という技術的意義を有するものとみれる。 そして、この数値限定の臨界的意義をみてみると、段落【0017】?【0020】の実施例によれば、樹脂発泡体としてスチレンブタジエンラバーを用い、様々な用途・悪臭源に対するとして「アンモニア、メチルメルカプタン、i-吉草酸」の減少率を活性炭やゼオライトの分散量、配分比率を変えて評価し、活性炭とゼオライトの併せた分散量が10重量%、22重量%の実施例1?3は各悪臭の減少率がよく、3重量%の実施例4ではやや劣り、比較例の活性炭のみでは低いことが窺える。しかしながら、これらのことからみても、上記特定事項Xの数値限定の「下限値」の臨界的意義の「消臭効果がより優れる」ことは必ずしも明確とはいえず、しかも、「上限値」の「脆くなりにくい」ことについては何ら記載もないことから、この特定事項Xの数値限定の臨界的意義は明らかとはいえない。 この臨界的意義に関し、請求人は、平成19年11月2日付けの意見書において、追試した試験結果(樹脂発泡体としてスチレンブタジエンラバーを使用)を提示して、「活性炭とゼオライトの合計が10重量%(なお、これは30重量%の誤記と認められる)となる(5.0?25.0重量%の範囲から外れる)比較参考例5は、200gfで引っ張ると破断した。『活性炭2重量%、ゼオライト2重量%からなり、合計4重量%の比較参考例4』と『活性炭2.5重量%、ゼオライト2.5重量%からなり、合計5重量%の参考例1』とを比較した。その結果、アンモニアの消臭量が12.3%増加、メチルメルカプタンの消臭量が3.4%増加、i-吉草酸の消臭量が2%増加、と急激に性能が向上した。」(第7頁(効果2))と主張しているので、この主張を検討すると、意見書の表1をみると、活性炭のみ20重量%の比較参考例3と、ゼオライトのみ20重量%の比較参考例2と、活性炭とゼオライトの合計が20重量%の参考例3を比較すると、比較参考例ではいずれも破断が150gfで生じるが、参考例3では200gfでも破断しないことが記載されているが、通常「破断強度」は混入される物質の粒径や形状、分散状態などの物理的な要因に依るものとみれるところ、活性炭とゼオライトを併せたものが、単独のものに比べて、同じ量で、かつ他の物理的条件も同じであれば向上する理由が不明であり、しかも、追試した試験は、詳細な条件(活性炭やゼオライトの粒径や種類など)が不明であって、しかも特定の条件(スチレンブタジエンラバーを使用し、活性炭:ゼオライトが1:1の配合割合)下で行われたものであるので、吸着材の粒径や種類、樹脂の種類によって脆さや脱臭効果は左右され、活性炭とゼオライトの配合割合の違いによっても脱臭効果も影響されるとみれることから、活性炭やゼオライトの粒径や種類、などに限らず、いかなる条件の場合においても、この追試の試験結果と同じ臨界的意義を有するとの根拠が不明といわざるを得ない。これらのことから、この請求人の主張を直ちに採用することができない。なお、本願発明1は、活性炭、ゼオライト及び樹脂発泡体に関して何ら特定するものでないことも付記しておく。 以上のことを踏まえて、本願発明1の特定事項Xを検討すると、この特定事項Xの数値限定は、活性炭とゼオライトの分散量を規定するものであるところ、活性炭やゼオライトなどの吸着材の分散量については、通常、脱臭材本来の目的である消臭効果や用途の適性あるいは経済性などの観点から、吸着材の種類や粒径、配合割合を勘案して適正な範囲の量が選択されるものである。このことは、引用例1の記載事項(エ)の「臭気を有効にそして経済的に最少にする」、記載事項(ク)の「ラテックス混合物への混入の困難さ、経済性、外見、およびそういったものに制限されて」との記載、引用例3の記載事項(ア)の「含有率が5%未満ではガス吸着材としての効果が充分でなく、50%をこえると発泡させることが困難になる」及び「このようにしてえられる成形体は通常の予備発泡粒子からの成形体と同様の機械的強度などの物性を有するうえに、優れた吸着能を有する」との記載、引用例4の記載事項(ウ)の「ゼオライトの充填量はゼオライトの吸着効果を利用するため30?60重量%が好ましく、ポリエチレン系樹脂の割合が30重%より少ないとポリエチレン系樹脂発泡体、本来の特性が損なわれる」との記載、引用例5の記載事項(ウ)の「靴の中敷として使用し、靴内の脱臭用として用いる混合割合は 活性炭20% 天然ゼオライト60%」との記載、引用例6の記載事項(イ)の「無機物質は、100?200メッシュの大きさの粉末を使用するのが好適である」、記載事項(ウ)の「無機物質の割合が合成樹脂100重量部に対して50重量部以下になれば、満足な吸着機能が得られず、また、200重量部以上を使用すれば、得られる発泡体は柔軟性に乏しくなる」との記載、からみても窺い知ることができる。 してみると、引用1発明が靴中敷きを意図し、靴中敷きでは「強度と弾性力」や「柔軟性」が求められる(引用例1の記載事項(ウ)、引用例6の記載事項(エ))ことを参酌すると、引用1発明において上記「(A)」で述べたとおり、引用1発明の「活性炭」に「ゼオライト」を加えて分散させることが容易に行い得るものであり、かかる構成において、分散せしめる活性炭とゼオライトの発泡樹脂に対する分散量を消臭効果や脆さの観点から、活性炭やゼオライトの種類や粒径、配合割合、あるいは樹脂の種類に応じて、適宜な量に決定することは、設計的な範疇に属することといえ、また、上記したとおり、特定事項Xの数値限定にも格別臨界的意義があるともいえないことからみて、本願発明1の相違点(b)に係る構成の「活性炭とゼオライトが樹脂発泡体に対して併せて約5.0?25.0重量%分散せしめ」ることは、当業者が適宜行い得るものといえる。 なお、上記相違点について、請求人(出願人)は、平成19年11月2日付けの意見書において、追試した実験結果を提示して、特に(i)活性炭と共にゼオライトが分散せしめられた樹脂発泡体とは破断強度を向上させる構成であり(第2頁13?14行)、消臭効果に優れると共に脆くなりにくいという技術思想は刊行物1?5に記載も示唆もない(第3頁20?21行)、(ii)刊行物1?5は大量に「活性炭とゼオライト」を含有させることを「良し」とするものであり(第3頁下から6?5行)、「活性炭とゼオライトが樹脂発泡体に対して併せて約5.0?25.0重量%分散せしめられた」という構成に至るには阻害要因がある(第4頁2?3行)、と主張しているので、これら主張をみておくと、 (i)の主張について、 この主張の「活性炭と共にゼオライトが分散せしめられた樹脂発泡体とは破断強度を向上させる構成」の意味するところは必ずしも明確ではないが、意見書(第7頁(効果1))の「『活性炭のみを10重量%分散させた比較参考例1』と『ゼオライトのみを10重量%分散させた比較例1』は、200gfで引っ張った場合には破断する。しかしながら、「活性炭を5%、ゼオライトを5%と併用した実施例1」は200gfで引っ張ったとしても破断しない。・・・」ことを根拠に「活性炭とゼオライトを分散させることによって破断強度が向上する」ことを主張しているようにみれるが、しかしながら、「活性炭とゼオライトを分散させることによって破断強度が向上する」ことについては、本願明細書には何ら記載は見当たらないものであり、また、この技術的な根拠も不明である。すなわち、本願明細書には段落【0007】に「活性炭と共にゼオライトが分散せしめられた樹脂発泡体より成るので、従来よりも消臭力に優れた臭気吸収材を提供することが出来る」と記載され、実施例において消臭効果を評価しているにすぎない。そして、「脆さ」については数値限定として段落【0009】に「約25重量%以下であるとすると脆くなりにくい」と記載していることからみて、「脆くなりにくい」分散量を約25重量%以下と定めたにすぎないものであって、活性炭とゼオライトを分散せしめたことによって破断強度が向上する効果ではないことは明らかである。しかも、上記したとおり破断強度が向上することの技術的根拠は不明である上に、追試は活性炭とゼオライトを1:1の配合割合で行うものであり、他の全ての配合割合で同じとなる根拠も見当たらない。仮に、追試の結果から特定の条件によっては「活性炭と共にゼオライトが分散せしめられた樹脂発泡体は破断強度を向上させる」ことがあるとしても、「活性炭とゼオライトと共に分散」させることについては、上記「(i)(A)」で述べたとおり当業者であれば格別困難なく行うことができるものであり、そうした構成の下で「脆くならない」範囲を選択することは設計的範疇で行えることと云わざるを得ない。 また、この主張の「消臭効果に優れると共に脆くなりにくいという技術思想は刊行物1?5に記載も示唆もない」という点については、上述したとおり、消臭材として消臭効果は本来の目的からこれを最大限にしようとすること普通のことであり、また、用途の適性の観点から靴中敷きなどの用途において「脆くなりにくい」ことを考慮することも格別のことといえない。 以上のことから、この主張を意味あるものとして採用することはできない。 (ii)の主張について この主張の中で、特に引用例1の「本発明の木炭を加えたラテックスフォームを生成するのに使用する成分の正確な量および種類を変えることも可能である。・・・たとえばもちろんラテックス混合物への混入の困難さ、経済性、外見、およびそういったものに制限されてラテックスフォーム(乾燥)を生成する化学混合物の重量比で35%あるいはそれ以上を使用することができる」との記載を根拠に「大量に活性炭を含有させることを良しとするもの」と述べている。これは、制約がなければ出来るだけ大量の活性炭がある方が脱臭効果が向上し望ましいというものであって、消臭材であれば、その本来の目的から大量の活性炭を良しとすることは普通のことである。むしろ、上記記載からみれば「ラテックス混合物への混入の困難さ、経済性、外見、およびそういったものに制限」がないことが前提にあることは明らかである。そしてまた、引用例1には、活性炭の分散割合について、記載事項(オ)には、実施例の「例1」として「GR-Sラテックス:100.0ポンド(乾燥重量)、活性炭:25.0-32.0ポンド(乾燥重量)」と記載されている。この活性炭の分散割合は、GR-Sラテックスに対し、25?32重量%であり、本願発明1の特定事項Xの25重量%で重なるものであるが、これは活性炭のみであって活性炭とゼオライトの併せたものでない他、例1のシート状発泡体は、記載事項(カ)及び(キ)からみれば「背張りとなる織物とラテックス混合物の積層物」といえることから、直ちに本願発明1と対比はできない。しかしながら、引用例1の記載事項(キ)に「本シート状物質は織物なしに製造できる」ことが記載され、上記したとおり、記載事項(ウ)の「靴の内部に合うようにまた靴底を覆うように形づくられ・・強度と弾性力を増す目的で・・」との従来技術に関する記載によれば、靴中敷では「強度と弾性力」が要求されることが理解できることから、背張りとなる織物がないラテックス状発泡体においては、「強度と弾性力」のために活性炭の分散割合を低減させ、25?32重量%以下の対応を図ることに格別の阻害要因があるとはいえない。以上のことから、この主張も採用することはできない。 そして、本願発明1の相違点(a)、(b)にかかる構成を採用することによる「様々な用途・悪臭源に対し従来よりも消臭力に優れた」等の明細書記載の効果も、引用例1?6の記載から予測し得る範囲内のことである。 してみると、本願発明1は、引用例1?6に記載の発明から当業者が容易に発明することができたものといえる。 5.むすび 以上のことから、本願発明1は、引用例1?6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 しかるに、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-12-13 |
結審通知日 | 2007-12-14 |
審決日 | 2007-12-26 |
出願番号 | 特願平8-44926 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B01J)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山田 充、中村 泰三 |
特許庁審判長 |
大黒 浩之 |
特許庁審判官 |
斉藤 信人 中村 敬子 |
発明の名称 | 臭気吸収材 |
代理人 | 辻本 一義 |