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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K |
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管理番号 | 1172238 |
審判番号 | 不服2005-1476 |
総通号数 | 99 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-01-26 |
確定日 | 2008-02-08 |
事件の表示 | 平成7年特許願第150130号「金属ベース多層配線板」拒絶査定不服審判事件〔平成9年1月10日出願公開、特開平9-8422〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は、平成7年6月16日の出願であって、平成16年9月28日付け拒絶理由通知に対して、同年12月3日付けで意見書が提出されたが、同年12月21日付けで拒絶査定され、これに対し、平成17年1月26日の拒絶査定不服の審判が請求されると共に、同年2月24日に手続補正がされたものである。 第2 平成17年2月24日付けの手続補正書についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年2月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。 [理由] 1.本件補正後の本願発明 本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、特許請求の範囲については、本件補正前の請求項1の「金属板」について「金属板がアルミニウム板であり、」と限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かを、請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という)について検討する。 本願補正発明は、次のとおりのものである。 「金属板と回路加工した配線板とを、絶縁接着材料シートを介して、積層一体化した金属ベース多層配線板であって、金属板がアルミニウム板であり、前記絶縁接着材料シートの弾性率が、20?150℃の範囲において、10MPa以上10^(3)MPa以下の範囲にあり、かつ線膨張係数が30?80×10^(-6)/℃の範囲にあることを特徴とする金属ベース多層配線板」 2.引用例に記載された技術事項 これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平6-85414号公報(以下「引用例」という)には、以下の技術事項が記載されている。 (1)「本発明は、・・・大型の半導体素子を実装できるプリント配線板を見い出したものであって、その要旨とするところは、両面に銅を被覆してなる鉄ーニッケル合金板からなり、・・・金属板の少なくとも片面に、線膨張率が3×10^(-5)?8×10^(-5)mm/mm℃で、ヤング率(ASTMD-882)が200?800Kg/mm^(2)の範囲の耐熱性熱可塑性樹脂からなる絶縁層及び金属箔を積層してなり、・・・である半導体素子実装用プリント配線板に存する。」(【0004】段落) (2)「この絶縁層が冷熱温度サイクル時に部品と基板間の線膨張率の差によるせん断応力等を吸収する役割をするものと考えられる。」(【0007】段落) (3)「・・・得られた積層体を用いて「冷熱サイクル」試験を行なったところ4200サイクル以上問題がなかった。ここで冷熱サイクル試験は・・、-65℃?125℃の冷熱サイクルを繰り返し、・・・クラックが発生するまでのサイクル数を測定したものである。」(【0012】、【0013】段落) (4)「つぎに上記構成からなる各素材を用いて熱プレス等により積層し一体化する。・・・。得られた積層板は、後続のプリント配線板製造工程に送られ、金属箔へのパターン印刷、エッチング、水洗、スルーホール形成等の通常の処理を行い、最終的なプリント配線板が得られる。」(【0009】段落) 3.当審の判断 (1)引用例に記載された発明 上記2.(1)より、半導体素子実装用プリント配線基板は、金属板の少なくとも片面に耐熱性熱可塑性樹脂からなる絶縁層及び金属箔を積層してなるもので、(4)により当該金属箔はパターン印刷されるのだから回路加工された金属板に該当するので、結局、金属板、耐熱性熱可塑性樹脂絶縁層及び回路加工した金属板からなる3層構造体である。そして、当該絶縁層は、線膨張率が3×10^(-5)?8×10^(-5)mm/mm℃でヤング率が200?800Kg/mm^(2)であるものが記載されている(1)。 一方、上記(2)、(3)によれば、当該絶縁層がこのような熱膨張及び弾性特性を有するので、部品と基板との間の冷熱サイクルに起因するせん断応力等を吸収し、-65?125℃の範囲でクラック等の発生を防止することができるとされる。 上記引用例の記載事項を総合勘案すると、引用例には、次の発明が記載されている(以下「引用例発明」という。 「金属板と回路加工した金属板とを絶縁層を介して積層一体化した積層体であって、当該絶縁層が、冷熱サイクルに起因するせん断応力を吸収するために線膨張率が3×10^(-5)?8×10^(-5)mm/mm℃、ヤング率が200?800Kg/mm^(2)であり、これにより-65?125℃の範囲でクラックの発生が防止された半導体素子実装用プリント配線板。」 (2)対比 そこで、本願補正発明と引用例発明とを比較する。 まず、引用例発明における「絶縁層」は、本願補正発明の「絶縁接着シート」に対応する。 また、引用例発明で使用する絶縁層は、線膨張率が3×10^(-5)?8×10^(-5)mm/mm℃で本願補正発明で特定する30?80×10^(-6)/℃と一致し、-65?125℃の冷熱サイクルを繰り返してもクラックが発生しなかったのであるから、本願補正発明で設定する20?150℃程度の温度範囲においても本願補正発明の絶縁接着剤シートと同等の線膨張率を有するものと認められる。 したがって、本願補正発明と引用例発明の一致点と相違点は、次のとおりである。 <一致点> 金属板と回路加工した配線板とを絶縁接着材料シートを介して積層一体化した金属ベース多層配線板であって、前記絶縁接着材料シートの線膨張係数が20?150℃の範囲において30?80×10^(-6)/℃の範囲にある金属ベース多層配線板。 <相違点> (i)金属板として、本願補正発明はアルミニウム板に限定するのに対し、引用例発明では限定をしない点。 (ii)絶縁接着材料シートとして、本願補正発明では弾性率が、20?150℃の範囲において10MPa以上10^(3)MPa以下の範囲のものを使用するが、引用例発明では特に温度範囲の限定なくヤング率(弾性率と同義)が200?800Kg/mm^(2 )(2.0×10^(3) ?7.8×10^(3)MPa)の絶縁膜を使用する点。 (3)相違点の判断 相違点(i)について プリント配線基板用の金属としてアルミニウムを使用することは、当業者には周知の技術事項である(必要なら周知例a、b、cを参照)。したがって、本願補正発明において、基板金属を特にアルミニウムに限定することに格別の技術的意義があるとできない以上、当業者が適宜なしうるところである。 周知例a:特開平7-74474号公報(特に【0007】段落参照) 周知例b:特開平6-326464号公報(特に【0007】段落参照) 周知例c:特開平6-244172号公報(特に【0007】段落参照) 相違点(ii)について まず、引用例発明において、使用する絶縁接着材料シートの弾性率を特定範囲に限定する趣旨は、冷熱サイクルの熱で発生する金属板-配線板間のせん断応力を開放することにある(2.(2))。 一方、次に示すように、多層プリント配線板の技術分野においては、積層する多層間を接着する絶縁膜に熱等により発生するせん断応力緩和の機能を持たせること、及び、そのために本願補正発明で採用すると同程度に低い弾性率を有する絶縁膜を使用することは、いずれも周知の技術事項である(必要なら周知例d?周知例fを参照されたい)。 したがって、引用例発明において、使用する金属板やそれに積層するプリント配線板の熱特性、形成する絶縁膜の特性や膜厚等の各種条件を考慮して、適切な線膨張係数と弾性率を有する絶縁膜を選択することは、当業者が容易になしうるところである。 このため、これら各種条件を考慮して、弾性率に関し引用例発明で採用する200?800Kg/mm^(2) (2.0×10^(3) ?7.8×10^(3)MPa)の絶縁膜に代えて、より低い弾性率(例えば10MPa?10^(3)MPa程度のもの)を有する絶縁膜の有効性を試してみようとすることは、当業者が格別の困難なくなしうるところであると認める。また、プリント配線基板の使用が予定される環境等の事情を考慮して、例えば20?150℃程度の温度範囲で適切な弾性特性を維持しうるものを選択することは、当業者が当然に配慮することである。 (i)周知例d:特開昭59-117197号公報 (a)周知例dの記載 「〔発明の目的〕本発明の目的は、高配線密度化が達成できる高分子樹脂を絶縁膜として用い、かつ、多数の層を有する多層配線基板に関するものである。 〔発明の概要〕上記目的に対して、可撓性(引張力に対する変形のし易さ)が大きく、弾性率の小さい高分子樹脂を絶縁膜として用いることで達成する。具体的には、可撓性(のび率)20%以上、弾性率250kg/mm^(2)以下の高分子樹脂を絶縁膜として用いる。」(第2頁左上欄14行?右上欄4行) (b)周知例dに記載された事項 したがって、周知例dには、「多層配線基板の熱応力緩和を目的として、弾性率250kg/mm^(2) (2.4×10^(3) MPa)以下の高分子樹脂を絶縁膜として用いること」が記載されている。 (ii)周知例e:特開平5-3387号公報 (a)周知例eの記載 「上記ブチラール変性フェノール樹脂の層は、100℃における弾性率が0.4kgf/mm2であり、・・・前記熱膨張差に基づく応力を吸収し、半田接続部に応力がかかるのを回避することができる。」(第2頁右欄13?20行)。 また、表1には当該ブチラール変性フェノール樹脂層の30℃における弾性率が2.5kgf/mm^(2)であることが示されている。 (b)周知例eの記載事項 したがって、周知例eには、多層プリント配線板で発生する熱応力の緩和を目的として、弾性率が0.4?2.5kgf/mm^(2) (4.0?24.5MPa)である樹脂を使用することが記載されている。 (iii)周知例f:特開平7-106728号公報 (a)周知例fの記載 「また絶縁性有機樹脂組成物は、リジットフレックスプリント配線板を折り曲げた際のフレキ部の伸びあるいは圧縮に追随できるように、その硬化物の曲げ弾性率が100kgf/mm^(2)以下であることか望ましい。」(第6頁左欄15?19行) (b)周知例fの記載事項 周知例fでは、折り曲げにより発生した応力の緩和を目的とし熱応力の緩和とは相違するが、応力緩和を目的として使用する絶縁膜の曲げ弾性率が100kg/mm^(2) (980MPa)以下であることが望ましいとしている。 したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 4.本件補正についての結び 以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法126条5項に規定する要件を満たさないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成17年2月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下「本願発明」という)。 「金属板と回路加工した配線板とを、絶縁接着材料シートを介して、積層一体化した金属ベース多層配線板であって、前記絶縁接着材料シートの弾性率が、20?150℃の範囲において、10MPa以上10^(3)MPa以下の範囲にあり、かつ線膨張係数が30?80×10^(-6)/℃の範囲にあることを特徴とする金属ベース多層配線板」 2.引用例 本願発明は、上記第2の[理由]で検討した本願補正発明から、金属ベース多層配線板の「金属板がアルミニウム板であり、」であったところを、当該金属板の材質に関する限定を解除したものに相当する。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3.」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-11-27 |
結審通知日 | 2007-12-04 |
審決日 | 2007-12-20 |
出願番号 | 特願平7-150130 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長屋 陽二郎 |
特許庁審判長 |
真々田 忠博 |
特許庁審判官 |
小川 武 正山 旭 |
発明の名称 | 金属ベース多層配線板 |
代理人 | 穂高 哲夫 |