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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04H
管理番号 1172260
審判番号 不服2006-3649  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-01 
確定日 2008-02-08 
事件の表示 平成 9年特許願第311841号「家屋の免震基礎装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月25日出願公開、特開平11-141183〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年11月13日の出願であって、平成18年1月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月30日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年3月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年3月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含むものである。
「【請求項1】 基礎の平面積より相似形に大きい面積で大地に割ぐり石を搗き固めて割ぐり地業とし、その上にコンクリートやモルタルを打設してならし層とし、前記ならし層が固まったらその上に滑り層を設け、前記滑り層の上に、前記滑り層によってならし層と絶縁した基礎をコンクリートで構築することにより、割ぐり地業及びならし層を基礎よりも大きくしてなることを特徴とする家屋の免震基礎装置。」

上記補正は、補正前の請求項1に係る発明を、「地震の強い横ゆれに対して慣性で」の限定を省略するものの、これは当然予想される作用効果的記載に過ぎないものと認められ、実質的には、「基礎の平面積より相似形に大きい面積で大地に割ぐり石を搗き固めて割ぐり地業とし」、「割ぐり地業及びならし層を基礎よりも大きくしてなる」との限定を付加するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号及び4号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-242383号公報(以下、「引用例」という。)には、次の(イ)ないし(チ)の事項が記載されている。
(イ)「建築現場の掘削地面に敷設した栗石、切込み砕石上に打設されて周縁の犬走り土間コンクリート部を介して地面に緊結された捨てコンクリート部と、該捨てコンクリート部上に区画形成され前記犬走り土間コンクリート部にて枠組状に嵌合支持される鉄筋コンクリート構造のべタ基礎との間において、該捨てコンクリート部上で前記ベタ基礎の水平方向のスライド微動を許容するための防湿ポリフィルムと滑り部材とを交互に積層させた少なくとも1層以上のスライド中間積層部と、その最上部を覆い被すように敷設配置した1つまたは複数の外壁材層部を介設配装させたことを特徴とする木造建築物の免震構造。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(ロ)「【発明の属する技術分野】本発明は、一般の木造住宅やテラスハウス等その他の木造建築物の免震構造に関するものである。」(段落【0001】)
(ハ)「そこで、本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、大地震での木造住宅の倒壊防止と、施工が容易で低コストによる木造建築物の免震構造を提供することを目的としたものである。」(段落【0004】)
(ニ)「【課題を解決するための手段】上述した目的を達成するため、本発明にあっては、建築現場の掘削地面に敷設した栗石、切込み砕石上に打設されて周縁の犬走り土間コンクリート部を介して地面に緊結された捨てコンクリート部と、該捨てコンクリート部上に区画形成され前記犬走り土間コンクリート部にて枠組状に嵌合支持される鉄筋コンクリート構造のベタ基礎との間において、該捨てコンクリート部上で前記ベタ基礎の水平方向のスライド微動を許容するための防湿ポリフィルムと滑り部材とを交互に積層させた少なくとも1層以上のスライド中間積層部と、その最上部を覆い被すように敷設配置した1つまたは複数の外壁材層部を介設配装させたことを特徴とする。」(段落【0005】)
(ホ)「本発明に係る木造建築物の免震構造にあっては、防湿ポリフィルムと滑り部材とを交互に積層させた少なくとも1層以上のスライド中間積層部と、その最上部に敷設配置した1つまたは複数の外壁材層部が、捨てコンクリート部上で前記べタ基礎の水平方向のスライド微動を許容するため、上下方向には硬く、水平方向には軟らかい支持機構となり、如何なる性格の地震が来てもこの地震動を受け入れて吸収緩和させ、建築物の全倒壊を免がれることを可能とさせる。」(段落【0007】)
(ヘ)「【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明するに、図において示される符号1は、例えば一般の木造住宅やテラスハウス等その他の構築させるべき木造建築物の免震構造を有する基礎構造体であり、該基礎構造体1は、図1に示すように、建築現場の掘削地面に栗石、切込み砕石2を敷設し、その上に約70mm以上の捨てコンクリート部3を打設させ、該捨てコンクリート部3の周縁に接続された犬走り土間コンクリート部4を介して地面への根入れが深くなるように緊結させると共に、該捨てコンクリート部3上に鉄筋コンクリート構造等のベタ基礎5を区画形成し、これを前記犬走り土間コンクリート部4にて枠組状に嵌合支持させた構造としている。そして、捨てコンクリート部3とベタ基礎5との間には、適宜の深さの空間層を設け、該空間層には、前記捨てコンクリート部3上で前記ベタ基礎5の水平方向のスライド微動を許容するための約0.15mm厚程度の防湿ポリフィルム6と砂または砂に代る粉砕滑石等の滑り部材7とを交互に積層させ、1層(図2参照)または複数層(図3参照)に形成したスライド中間積層部8を設け、その最上部を覆い被すように1つまたは複数の外壁材層部9を介設配装させたものとしている。すなわち、そのベタ基礎5全体が若干スライドできるような自由度を付与すべく成すようその下部にできたスライド中間積層部8により、該ベタ基礎5の上に構築設置される木造建築物への地震動の揺れを捨てコンクリート部3の上で直ちに緩和吸収されるものとしている。」(段落【0010】)
(ト)「【発明の効果】本発明は以上のように構成されており、特に捨てコンクリート部とベタ基礎との間において、該捨てコンクリート部上で前記ベタ基礎の水平方向のスライド微動を許容するための防湿ポリフィルムと滑り部材とを交互に積層させた少なくとも1層以上のスライド中間積層部と、その最上部を覆い被すように敷設配置した1つまたは複数の外壁材層部を介設配装させたので、大地震での木造住宅の倒壊防止を十分に発揮させることができ、また、施工が容易で低コストによる木造建築物の免震構造を得ることができる。」(段落【0015】)
(チ)図1ないし図3には、「べタ基礎より栗石、切込み砕石が横方向に広がっている態様」の断面図が図示されている。
これらの記載から、引用例には、「掘削地面に、鉄筋コンクリート構造のべタ基礎より横方向に広がって、栗石、切込み砕石が敷設され、その上に周縁の犬走り土間コンクリート部を介して地面に緊結された捨てコンクリート部が打設され、捨てコンクリート部と、鉄筋コンクリート構造のべタ基礎との間において、該捨てコンクリート部上で前記ベタ基礎の水平方向のスライド微動を許容するための防湿ポリフィルムと滑り部材とを交互に積層させた少なくとも1層以上のスライド中間積層部を設け、その最上部を覆い被すように1つまたは複数の外壁材層部9を介設配装させた木造建築物の免震構造。」という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「鉄筋コンクリート構造のべタ基礎」、「捨てコンクリート部が打設され」、「スライド中間積層部を設け、その最上部を覆い被すように1つまたは複数の外壁材層部9を介設配装させた」、「木造建築物の免震構造」は、それぞれ本願補正発明の「基礎」、「コンクリートやモルタルを打設してならし層とし」、「滑り層を設け」、「家屋の免震基礎装置」に相当する。
なお、引用発明の「栗石、切込み砕石」は本願補正発明の「割ぐり石」に相当し、「地業」とは一般に地盤に対して行う工事のことであるのは当業者にとって明らかだから、引用発明の「栗石、切込み砕石が敷設され」は、本願補正発明の「大地に割ぐり石を搗き固めて割ぐり地業とし」に対応する。また、引用発明の「敷設され」と本願補正発明の「搗き固めて」とは、ともに「敷設して」で共通するといえる。
そして、引用発明の「捨てコンクリート部と、鉄筋コンクリート構造のべタ基礎との間において、該捨てコンクリート部上で前記ベタ基礎の水平方向のスライド微動を許容するための防湿ポリフィルムと滑り部材とを交互に積層させた少なくとも1層以上のスライド中間積層部を設け、その最上部を覆い被すように1つまたは複数の外壁材層部9を介設配装させた」ということは、本願補正発明の「前記ならし層の上に滑り層を設け、前記滑り層の上に、前記滑り層によってならし層と絶縁した基礎をコンクリートで構築する」ことに相当するといえる。
よって両者は、
「基礎の平面積より大きい面積で大地に割ぐり石を敷設して割ぐり地業とし、その上にコンクリートやモルタルを打設してならし層とし、前記ならし層の上に滑り層を設け、前記滑り層の上に、前記滑り層によってならし層と絶縁した基礎をコンクリートで構築することにより、割ぐり地業及びならし層を基礎よりも大きくしてなることを特徴とする家屋の免震基礎装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
〈相違点1〉
大地に割ぐり石を敷設して割ぐり地業を行う際に、本願補正発明では、基礎の平面積より相似形に大きい面積であるのに対して、引用発明では、そのような構成か不明である点。
〈相違点2〉
割ぐり石を敷設して割ぐり地業とする際に、本願補正発明では、搗き固めて行うのに対して、引用発明では、敷設の際に、そのように搗き固めるのかどうか不明である点。
〈相違点3〉
ならし層の上に滑り層を設けるに際して、本願補正発明では、ならし層が固まったらその上に滑り層を設けるのに対して、引用発明では、ならし層が固まってから滑り層を設けているか定かではない点。

(4)判断
〈相違点1について〉
引用発明に関する上記(チ)によると、図1ないし図3には、「べタ基礎より栗石、切込み砕石が横方向に広がっている態様」の断面図が図示されている。
これからすると、大地に割ぐり石を敷設して割ぐり地業を行う際に、横方向のみならず、周囲全体に広がるようにして、鉄筋コンクリート構造のべタ基礎の平面積より相似形に大きい面積にすることは、建物の安定性を考慮すれば、当業者ならば、適宜になし得るものである。
〈相違点2について〉
割ぐり石を敷設して割ぐり地業をする際に、地盤を強固にすることは当然のことであるから、割ぐり石に対して、本願補正発明のように、搗き固めることは、当業者ならば、適宜になし得るものである。
〈相違点3について〉
ならし層の上に滑り層を設けるに際して、本願補正発明のように、ならし層が固まったらその上に滑り層を設けることは、ならし層を形成するコンクリートの性質を考慮するならば、技術的常識ともいえ、当業者ならば、適宜になし得るものである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下するべきものである。

3.本願発明について
平成18年3月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】 大地と、建物を支える基礎との間に、基礎を大地から絶縁し、地震の強い横ゆれに対して慣性で建物ごと基礎を滑らせる滑り層を介在させたことを特徴とする家屋の免震基礎装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明に関して、実質的には「地震の強い横ゆれに対して慣性で」の限定を元に戻し、「基礎の平面積より相似形に大きい面積で大地に割ぐり石を搗き固めて割ぐり地業とし」及び「割ぐり地業及びならし層を基礎よりも大きくしてなる」との限定を省略するものである。
そこで、上記2.(3)における部材・部位の相当関係を参照して、本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「鉄筋コンクリート構造のべタ基礎」、「スライド中間積層部を設け、その最上部を覆い被すように1つまたは複数の外壁材層部9を介設配装させた」、「木造建築物の免震構造」は、それぞれ本願発明の「建物を支える基礎」、「滑り層を介在させた」、「家屋の免震基礎装置」に相当する。
なお、引用発明も、本願発明と同様に、「大地と、建物を支える基礎との間に、基礎を大地から絶縁し、建物ごと基礎を滑らせる滑り層を介在させた」点で共通するものである。
そうすると、両者は、
「大地と、建物を支える基礎との間に、基礎を大地から絶縁し、建物ごと基礎を滑らせる滑り層を介在させたことを特徴とする家屋の免震基礎装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
〈相違点4〉
滑り層が、本願発明は、地震の強い横ゆれに対して慣性で建物ごと基礎を滑らせるものであるのに対し、引用発明では、そのような作用があるのかどうか不明である点。
〈相違点4について〉
滑り層を介在させた場合、建物ごと基礎を滑らせる際、地震の強い横ゆれに対して慣性が働くことは技術常識であり、相違点4に係る事項は、引用発明も有している作用を記載したにすぎない。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-09 
結審通知日 2007-11-20 
審決日 2007-12-06 
出願番号 特願平9-311841
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04H)
P 1 8・ 575- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新田 亮二  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 石井 哲
小山 清二
発明の名称 家屋の免震基礎装置  
代理人 福田 武通  
代理人 福田 伸一  
代理人 福田 賢三  

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